年末に閣議決定される予定の新「防衛計画の大綱」に向け、論議が活発化している。
見過ごせない動きが出ている。政府がこれまで堅持してきた武器輸出三原則の見直しを求める声が防衛省や産業界を中心に高まっていることだ。中でも、北沢俊美防衛相は、見直しに前向きな発言を繰り返している。
三原則は、兵器の輸出を原則として禁じる政府の基本政策の一つだ。日本が「平和国家」であることを国際社会に示す上で、大きな役割を果たしてきた。歴代の自民党政権も本格的な見直しは避けてきた経緯がある。
仮に見直すことになれば、戦後の防衛政策は大きく転換することになる。なし崩しで武器輸出国になり、結果的に国際紛争に加担する危険性も否定できない。
それほど重要なことなのに、国民を交えた十分な論議もなく、見直しが進むとしたら問題だ。政府には慎重な対応を求める。
見直し論が高まる背景には、兵器の国際的な共同開発・生産の流れに乗り遅れ、自衛隊の装備が更新しにくくなることへの懸念や国内の防衛産業への配慮、中国脅威論−などがある。
装備の近代化や経済的側面からの論議が必要なことは理解できるとしても、今の動きは、一番重要な論点が抜け落ちている。憲法との整合性である。武器輸出三原則は、平和憲法の精神を具体化している政策であることを忘れるわけにはいかない。
菅直人首相の諮問機関も武器輸出三原則の見直しを求めている。民主党の外交・安全保障調査会も同様の提言をするとみられ、さらに自衛隊の階級を旧日本軍の呼称に戻すなど、復古的な動きを模索している、とされる。
いずれも、専守防衛を趣旨とする憲法の精神に照らし、重大な問題をはらんでいる。
菅首相は三原則の理念は変えない、と明言している。民主党内の憲法改正に慎重なグループは調査会をけん制している。
沖縄の米軍普天間飛行場移設で迷走したことが象徴するように、民主党の防衛政策は十分な論議がなされた、とはいえないものが多い。菅政権内で共通認識をしっかり練り上げているのかどうか、も疑わしい。
武器輸出三原則を簡単に捨てるようなことになれば、国際社会、とりわけアジア諸国は日本の外交・防衛政策を不審に思うようになるだろう。その代償は大きい。拙速な議論は許されない。