<検証>
政府・与党は22日、10年度補正予算案の参院予算委員会での採決を25日以降に見送る方針を決めた。22日、国会軽視と受け取られる発言をした柳田稔前法相を更迭したが、その後も、野党が民主党の小沢一郎元代表の国会招致などに応じるよう政府・与党に求めるなど与野党対立が続き、当初目指していた24日の補正予算案成立を断念せざるを得なくなったためだ。野党は菅直人首相の任命責任も追及しており、菅政権にとっては厳しい局面が続いている。
柳田前法相が首相官邸で菅首相に辞意を伝えた直後の22日午前8時半ごろ、民主党の鉢呂吉雄国対委員長は公明党の漆原良夫国対委員長を訪ねた。仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相の問責決議案を提出しないよう頼んだが、断られた。するとこう打ち明けた。
「自民党とも話はついていません」
民主党は水面下でも動いた。先週末、幹部が自民党幹部に接触。「柳田法相を更迭するので仙谷氏らの問責決議案は出さないでほしい、と持ち掛けられた」とこの幹部は明かす。だが、応じなかった。
菅政権は前法相辞任をカードに10年度補正予算案の早期成立に道筋をつける筋書きを描いたが、内閣支持率急落で野党は足元を見透かした。22日の更迭劇は補正成立の確証を得られないままの「見切り発車」だった。
21日夜、首相公邸で約2時間にわたった菅首相、仙谷氏、岡田克也幹事長、輿石東参院議員会長らの鳩首(きゅうしゅ)会議では、自民党だけでなく公明党や社民党の出方も見極められず、首相が一時、「(柳田氏を)続投させるしかないか」と漏らす場面もあったという。しかし、最後に取った選択は「自発的辞任」の形を取った更迭だった。
柳田氏を擁護してきた首相が罷免に踏み切れば、自身の態度の一貫性を失う。首相は22日、記者団に「本人から辞任するという申し出で辞表を受け取った」と述べた。柳田氏の辞表提出の形をとったのは「最低限のライン」(政府関係者)を守ったはずだった。
しかし、柳田氏本人は辞任会見で、首相から早期の補正予算成立のためと説得されたことを明らかにしてしまい、この構図も崩れる。事実上の更迭に追い込まれた色彩が強まり、野党との交渉力は一段と低下した。党幹部は「クビを差し出すならできるだけ高く売らないと意味がない」といら立ちを見せた。
「民主党は仲間を守るという文化に乏しい。参院で数が少ないことにおびえすぎだ。問責決議案が出てもうろたえることはない」。輿石氏は辞任後の党役員会で野党に強硬姿勢で臨むよう主張した。しかし、24日の補正予算案成立はあきらめざるを得ず、政権の行方自体に暗雲が漂い始めている。【須藤孝】
菅首相は22日夜、官邸で記者団に「補正予算は国民生活に大変重要な案件。一日も早く採決して成立させていただきたい」と語った。しかし、野党は攻勢を強めており、首相の任命責任に焦点を合わせる。
22日の参院予算委員会では、自民党の丸川珠代氏が「資質に欠けた人を任命した責任は首相にある。なぜ罷免しなかったのか」と追及。首相は「本人が最終的に判断して辞表を提出されたので、受け止めた。総合的に見て、柳田さんには職責を担うに足る能力があると判断して任命した」と述べるにとどめた。
前法相更迭を受け、政府は22日、中国漁船衝突事件でインターネット上に流出した44分のビデオ映像を参院に提出し、採決への環境整備を進めた。これを踏まえ与党は同日夜の参院予算委理事会で24日の採決を提案した。
しかし、自民党は(1)中国漁船衝突事件のビデオ映像の公開(2)自衛隊関連施設の行事への部外者の参加を制限する防衛省事務次官通達の撤回(3)小沢氏の国会招致--について結論が出ていないとして拒否した。
さらに、前法相更迭後も自民党が仙谷氏や馬淵澄夫国土交通相への問責決議案提出の構えを示したため、補正の採決を25日以降に見送った。ただ、野党側も問責決議案の提出時期を巡っては足並みがそろっていない。【葛西大博、岡崎大輔】
毎日新聞 2010年11月23日 東京朝刊