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【佐藤優の眼光紙背】北朝鮮による韓国・延坪島砲撃

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提供:眼光紙背

佐藤優の眼光紙背:第86回

 11月23日、北朝鮮軍が、海岸砲と呼ばれる北朝鮮の沿岸地帯に設置した兵器によって韓国の延坪島を攻撃した。現時点では、情報が断片的であり、正確な分析を行うことはできないが、まず重要なのは北朝鮮の内在的論理をつかむことだ。

 韓国の聯合ニュースは、北朝鮮側の反応についてこう報じた。

北朝鮮の朝鮮人民軍最高司令部は23日午後7時に「報道」を発表し、「われわれ革命武力は南朝鮮(韓国)のかいらいが祖国の領海を0.001ミリでも侵犯すれば、ためらうことなく無慈悲な軍事的対応打撃を継続する」と述べた。朝鮮中央通信が平壌発で報じた。

 北朝鮮は同日、黄海上の北方限界線(NLL)に近い韓国の延坪島一帯に向け砲撃を加えたことについて、韓国側がまず軍事的挑発を行ったため、軍事的対応措置を取ったものだと主張した。韓国は北朝鮮側の度重なる警告にもかかわらず、23日午後1時から延坪島一帯の北朝鮮側領海に砲撃を加える軍事的挑発を強行したと非難。北朝鮮はそうした挑発に、強力な物理的打撃で対応する、断固とした軍事的措置を取ったと述べ、責任を韓国側に転嫁した。(11月23日聯合ニュース)


北朝鮮の論理は、韓国側の攻撃に対して、反撃を加えた防衛的措置というものだ。これは、1951年の朝鮮戦争に際して、北朝鮮がとったのと同じ理屈である。北朝鮮の論理では、米国が傀儡国家である韓国を用いて北朝鮮を攻撃し、それに応戦した北朝鮮が、ソウル、大田などを次々と「解放」して、米国に対して勝利したということになっている。

 北朝鮮において、軍事を含む国家政策において、イデオロギーは、日本や米国が想像する以上に大きな意味をもつ。北朝鮮では、2012年の金日成生誕百年に向け、金正日から金正恩への「世継ぎ」が行われつつある。その過程で、北朝鮮がアメリカ帝国主義の挑発をはね除け、勝利するという物語が必要とされているのではないだろうか。

 今回の北朝鮮の軍事行動に対し、ロシアが迅速に反応している。23日にロシア国営ラジオ「ロシアの声」日本語版HPに以下の記事が掲載された。

北朝鮮の韓国砲撃事件 懸念あらわす各国

 韓国からの情報によれば、23日、韓国西方沖の延坪島(ヨンピョンド)に、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)側から砲撃があり、韓国兵士1人が死亡、兵士や住民13人が負傷した。

 韓国軍は黄海上で軍事演習を行っており、韓国政府は今回の砲撃がこれに対する報復措置である可能性もあるとした。北朝鮮側からは声明は出されていない。韓国外務省は、問題を国連に提起するかまえであると明らかにしている。

 今回の事件に対しては、地域の各国が声明を表している。ロシア外務省は今回の事件が朝鮮半島の緊張を先鋭化させることがないよう期待を表した。またロシア国防省は情勢を見守る姿勢を明らかにし、東方軍管区の戦闘準備態勢を引き上げる意向はないとした。

 一方、中国も懸念を表明し、双方が地域の安全と安定のためにさらに尽力するよう呼びかけるとともに、地域の平和と安全は、すべての当事国に利益をもたらすものだと強調した。

 日本の菅直人首相は急きょ首相官邸入りし、危機管理センターに情報連絡室を設置した。防衛省・自衛隊も警戒態勢を強化した。

 韓国が海上の軍事境界線と定める北方限界線に近い水域ではこれまでにも南北間の銃撃戦が発生しているが、民間人の被害を伴う事件が発生したのは1953年の朝鮮戦争休戦以来、初めてとなっている。


 ここでは「客観報道」の体裁で、本件に関するロシアの認識を示している。<韓国軍は黄海上で軍事演習を行っており、韓国政府は今回の砲撃がこれに対する報復措置である可能性もあるとした>と韓国政府を情報源としつつも、韓国の軍事演習(挑発)に対する北朝鮮の反撃という見方を示していることが興味深い。要するに「どっちもどっち」という見方だ。
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