マスコミの世論調査に対し種々の批判があるが、その中に「電話調査は固定電話が対象で、携帯電話しか使わない若者の意見が反映されないから不正確だ」「若者はインターネットを利用しているからネット調査のほうが正確だ」といった声が少なくない。しかし、調査を詳細に分析すると、こうした批判は、客観的なデータに基づかない感覚的な議論であることが分かる。調査の正確さを常に検証するのは当然だが、冷静に数字を分析し、活用してほしい。
まず携帯電話しか持たない「携帯限定層」の問題を考えよう。確かに電話世論調査は家庭の固定電話が対象で、携帯電話にはかけない。とはいえ、ふだん携帯電話しか使わない人も、自宅に固定電話があれば対象になる。
毎日新聞の世論調査は、対象の固定電話番号をランダムに作成して電話する。最初に出た人にだけ回答を求めることはしない。まず有権者数を聞き、複数いる場合はその中から無作為に1人を選んで調査を依頼する。対象者が不在なら、帰宅を待ってかけ直す。携帯電話しか使わない若者でも、家族と同居していれば対象者に含まれることになる。
それでは、固定電話がない携帯限定層は、実際どれだけいるのか。これを知るため、昨年9月と今年9月の面接世論調査で、携帯電話と固定電話の保有状況を聞いた。2回とも結果はほぼ同じで、今年の調査結果は▽携帯と固定両方保有76%▽携帯のみ保有5%▽固定のみ保有17%--だった。年代別の携帯限定層の割合は▽20代17%▽30代14%▽40代2%▽50代3%▽60代2%▽70代以上1%。携帯しか持たない20~30代は他の年代よりかなり多いが、それでも6、7人に1人だ。
意識の違いはどうか。固定保有層(固定)と携帯限定層(携帯)に分けて調査結果を比較すると、多くの回答に極端な違いは見られなかった。
例えば憲法改正論議への関心の有無は、固定では「ある67%・ない33%」、携帯では「ある65%・ない35%」とほぼ同じだった。自衛隊をいつでも海外に派遣できる法律制定への賛否は、固定「賛成35%・反対57%」、携帯「賛成48%・反対48%」と、やや違いがある。この数字をどう読み解くか。
自衛隊派遣法について、20~30代で比べると、固定は「賛成41%・反対53%」、携帯は「賛成45%・反対51%」と、差がなくなる。固定保有層に占める20~30代の割合は約3割。一方、携帯限定層に占める20~30代は約7割。20~30代の意識は固定層・携帯層でほとんど違いがない。つまり、全体の「固定と携帯の意識の差」は、固定保有層と携帯限定層の年代構成の違いが大きく影響したと考えられる。
面接調査の全83項目を、携帯限定層を含めた場合と含めない場合で比べると、19項目で数字が1ポイント異なっただけで、残り64項目は同じだった。
携帯限定層が増えているのは事実だ。その人たちを調査対象に取り込んでいく仕組みは検討する必要があるが、現状の調査の正確さに問題はないことを理解してほしい。
次にネット調査だが、電話世論調査とネット調査の違いで最近クローズアップされたのは、9月の民主党代表選だろう。新聞社の世論調査で菅直人首相より支持が低かった小沢一郎元代表が、インターネット調査では上だったことで、小沢氏を応援する政治家らが「ネットは小沢圧勝と出ている。大手新聞社の世論調査では、国民がいろいろ知らされないまま答えていると思う」(達増拓也岩手県知事)などと、盛んに小沢氏の“ネットでの人気”を主張した。
だが、これらの数字を見る際に注意しなくてはならないのは、どのような人を対象に回答を求めているかだ。
ネット調査は、「調査会社の登録モニターが対象」と「調査のホームページを見た人なら誰でも回答できる」の2種類に大別できる。
登録モニターは通常、調査会社の募集に自ら「答えてもいい」と応募した人。この全員が対象でも、その中から無作為に選んだ人が対象でも、「有権者の縮図」にはならない。まして、誰でも回答できる調査は、無作為抽出の世論調査とは根本的に性格が異なるし、同じ人が何回も答えられる場合も多い。ネット調査は、回答者に限った意見の分布を示すだけで、有権者全体の意見の分布を示す「世論」と同一視できない。
都合のいい数字だけを取り上げ、利用するのは間違っている。この命題は、我々報道する側にもあてはまる。信頼できないデータに基づく主張は避けるべきだ。(世論調査室)
毎日新聞 2010年11月26日 0時13分
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