仙谷由人官房長官の「自衛隊は暴力装置」発言をめぐる騒動は一見、ほとんど言葉遊びだった。撤回を求められて仙谷氏が言い換えたのは「実力組織」。なんのこっちゃ、だ。
憲法9条が「戦力不保持」を定める以上、政府は他国の軍隊のように自衛隊を「戦力」(戦争する組織)とは説明できない。その代わりが「実力」。戦争はしない、攻められたら追い返すだけの力ですよ、というタテマエだ。でも武器も使うんだから、一般的に「暴力」には違いない。
だから学者などの第三者が、分析や評論のためにその言葉を使うなら分かる。しかし自衛隊の最高指揮官は首相で、それをナンバー2が「暴力」と言ってしまっては身もふたもなさ過ぎる。暴力団対策法なんて法律もあるのだから、区別する意味でも、「実力」という言葉遊びを政府だけは守らなければならない。あの発言は、自分たちが自衛隊の上司だという自覚がなく、人ごとだった。うそ寒い話だ。【松尾良】
毎日新聞 2010年11月27日 地方版