記者の目

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記者の目:政治の行き詰まり、打開の道=中川佳昭(政治部)

 ◇不毛な政争やめ大連立を

 菅直人内閣が12月8日で半年を迎える。9月の民主党代表選後には「有言実行内閣」と大みえを切ったものの、対中、対露外交で危機意識の乏しさをさらけ出し、閣内の締まりのなさが閣僚の相次ぐ放言、失言につながっている。ついには政権の大黒柱である仙谷由人官房長官への問責決議が参院で可決され、ほとんど実績を残せないまま、菅政権は立ち往生寸前の状態だ。私はこの際、菅首相に自民党との大連立を求めたい。

 今日の政局の混迷は、ひとえに民主党の統治能力不足、経験不足が原因だ。衆院では300以上の議席を与えられていながら、党内の意思統一、省庁間の調整を怠っているために、政策を前に動かすことができない。参院選後には衆参で多数派が異なる「ねじれ」も加わり、政権の右往左往ぶりに拍車がかかった。

 国会では与野党が建設的な政策論議を進めないで、不毛な政争に明け暮れている。臨時国会では補正予算以外にめぼしい成果は何もない。緊迫化する北東アジア情勢への対処、消費税増税をにらんだ財政健全化など課題は山積している。私が大連立を求めるのは、もはや民主党単独でこれらの難問を解決するのが無理だと考えるからだ。

 大連立構想は07年秋、福田康夫内閣でも浮上した。福田首相が当時の小沢一郎民主党代表の持論である「国連決議を前提とする自衛隊海外派遣のための恒久法制定」を受け入れ、両者は大連立で合意したが、民主党内の猛反発で頓挫した。

 ◇「数合わせ」だが民主成熟待てぬ

 大連立は「数合わせ」にすぎず、巨大与党すぎて「大政翼賛会」になるとの批判が根強くある。もし、民主、自民両党が連立を組めば、衆院で88%、参院で78%が与党になり、国会での法案審議は完全に形骸化する。政権交代可能な2大政党を育むことを目指した衆院小選挙区制の趣旨からも外れる。

 しかし、このまま民主党の成熟を待っているだけでは、与野党とも国政に対する責任を果たせない。90年代以降の政治改革の流れを踏まえれば、大連立は「邪道」かもしれないが、途方もない額に膨らんだ財政赤字の処理策や、急変する北東アジア情勢に合わせた外交・安全保障政策の立て直しは待ったなしの課題だ。

 そのためには民主、自民両党が共に政権を担って熟議し、果敢に政策実現に向けた努力をすべきだ。公明党が希望するなら入れてもいいではないか。自民党が大連立を拒否するというなら、ミニ政党を媒介として民主党と公明党で連立することも選択肢だ。中途半端な内閣改造や菅首相辞任による首相のたらい回しでは全く解決につながらない。

 連立に向けては、民主党内の意思統一が環境整備として不可欠だ。「影の首相」と言われてきた仙谷氏が官房長官を辞任し、強制起訴される小沢元代表が法廷闘争に専念することが条件だと思う。民主党代表選前後から今日までの「小沢VS仙谷」の構図を解消し、政権運営の不安要因を取り除かないといけない。

 菅首相が大連立を提唱すれば、小沢氏は面白くないだろう。小沢氏は福田氏に「今のままの民主党では政権を取ってもすぐ潰れる」と言って、大連立を推進した。その大連立に反対したのが他ならぬ菅氏らだったからだ。小沢氏は今の民主党の政権担当能力のお粗末さを予言していたわけだが、ここで小沢氏は「うらみつらみ」を表に出すべきではない。大人の度量を示して静かに見守るべきだと思う。

 ◇消費税、TPP 道筋つけ信問え

 現時点の状況では、来年1月召集の通常国会も臨時国会と同じになる。首相が状況を打開するには、(1)大連立による政局の安定(2)衆院解散・総選挙(3)内閣総辞職--の三つがあるが、衆院解散は当面見送るべきだ。民主党、自民党ともに選挙での圧勝は期待できず、衆参ねじれの解消にはなりそうにないからだ。国民も自民党中心政権に戻そうとは考えていないだろう。時限的な「大連立」によって、消費税率の引き上げと「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」への参加問題に道筋をつけたうえで、国民の信を問えばいいのではないか。

 民主党政権ができてわずか1年2カ月。「石にかじりついてでも政権を維持する」とまで菅首相は言うのなら、大連立に向けて、全力で取り組んでほしい。政治の安定、国際社会での日本の地位向上への自信がないのなら、万事休すだ。首相は恋々とせず即刻退陣すべきである。

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毎日新聞 2010年12月1日 東京朝刊

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