日本周辺で10日まで展開されている過去最大規模の日米共同統合演習で、米空軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)が8日公開した、戦闘機への空中給油作業を給油機に同乗して取材した。不穏な朝鮮半島情勢や、中国の海洋進出で注目される南西地域の安全保障の現場がそこにあった。一方、普天間問題で反基地感情が高まる沖縄の米軍基地周辺では、騒音被害の拡大などに対し、抗議の声が強まっている。【井本義親】
報道陣も乗り込んだ米空軍の空中給油機KC135が沖縄南方約190キロ、高度約7000メートルの上空を飛行していた8日午後3時半過ぎ、原子力空母「ジョージ・ワシントン」の艦載機FA18戦闘攻撃機ホーネットの部隊から「給油にいく」との通信が入った。
飛行中の戦闘機などに給油し航続距離や時間を延ばすのが空中給油だ。長さ約6メートルの給油管(ブーム)を操作するスペースは機体後方下部にあって、広さは3畳ほど。横1メートル弱、縦50センチ弱の窓を通して、接近してくる戦闘機を確認しながら、給油管の操作を担当するブーマーと呼ばれる兵士が腹ばいの姿勢で、計器台のレバーやボタンを操作する。
午後3時55分、ブーマーの女性曹長の動きが急にあわただしくなった。窓の外にグレーの戦闘機の機体が現れ、パイロットのヘルメットがはっきりと分かるほどに近づく。戦闘機側からも赤い管が伸びてきて、給油管とつながった。給油自体は1分間程度しかかからず、部隊機4機のうち2機が給油を受け、飛び去っていった。
今回の演習は、沖縄周辺などで活動を活発化させる中国をにらみ日米の連携をアピールする狙いもあるとみられている。また、6年ぶりになる防衛大綱の改定でも、軍事力の増強や海洋進出を進める中国の動向を念頭に、自衛隊の配置を南西地域にシフトする方針が盛り込まれそうだ。
こうした大規模な演習や政府の防衛政策の変化に、地元では反発と警戒感が高まる。
演習が始まった3日から7日までで、嘉手納町の騒音発生回数(一日平均)は135・4回と、昨年1年間の一日平均113回を上回る。特に4日は基地に近い同町屋良地区で208回に達し、最大で101.6デシベル(電車通過時の線路わきに相当)の騒音を記録した。
同町議会は13日に臨時議会を開き、日米両政府や米軍に対する抗議決議などを可決する見通しだ。基地対策特別委員長の田仲康栄町議は「中学校で授業が中断したり、爆音がひど過ぎる。住民無視の今回のような演習は今後も予想され、強く抗議したい」と話す。
また、今回の演習では嘉手納基地の地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット3」の部隊が普天間飛行場(宜野湾市)など県内4基地に展開。普天間からは8日深夜に撤退したが、同市は「市民に恐怖と不安を与える」と抗議声明を出している。平和団体や労組も抗議集会を開き、演習に対し「朝鮮半島の緊張をあおり、自衛隊増強を狙っているとしか言いようがない」などと批判を強めている。
菅直人首相は、普天間問題で沖縄県側と意見交換するため来週にも訪沖する方向。沖縄平和運動センターの崎山嗣幸議長は「今回の演習に県民は反発しており、沖縄の怒りは強まっている。県内移設を押しつけるのが目的の首相の沖縄入りは言語道断だ」と話している。【井本義親】
2010年12月9日