菅直人首相は10日、北朝鮮による拉致被害者家族との会合で、朝鮮半島有事の際に拉致被害者を含む邦人救出に自衛隊を出動させることを検討していると受け取れる発言をした。現行の自衛隊法84条の3には、自衛隊機や自衛艦による邦人輸送が規定されているが、海外での武力行使を禁じた憲法9条に抵触しないよう「輸送の安全が確保されている」時に限っており、戦闘地域での邦人輸送は想定していない。
首相は「北朝鮮が韓国領に砲撃する事件が勃発し、即発の状況も生まれてきた」と指摘したうえで「万一のときには北にいる拉致被害者をいかにして救出できるか、いろいろな事を考えておかねばならない」と語った。さらに「救出に直接、自衛隊が出て、向こうの国(韓国)の中を通って行動できるルールはきちんと決まっていない。今、議論を進めている」と述べ、韓国側とも調整しているとの認識も示した。
首相の発言は朝鮮半島で戦闘が行われている状況で、韓国を経由して北朝鮮に自衛隊を派遣することを検討しているとも受け取れ、従来の政府の憲法解釈を大きく逸脱しかねない。防衛省幹部は「自衛隊が北朝鮮に行くなんてあり得ない」と検討の可能性を否定した。【坂口裕彦、倉田陶子】
毎日新聞 2010年12月11日 東京朝刊