「動的防衛」を目指す日本、海自・空自を増強
新「防衛大綱」、今週中に閣議決定
最も目を引くのは、「基盤的防衛力」から「動的防衛力」への概念転換だ。基盤的防衛力は、1976年の防衛大綱制定時に主軸となった概念で、旧ソ連の日本本土攻撃を想定し、日本本土を均等に防衛するという概念だ。これは旧ソ連解体後、徐々に修正されてきたが、今回の新大綱で完全に転換されるに至った。基盤的防衛力に代わる「動的防衛力」は、脅威が存在する場所に戦力を集中配備するという概念だ。日本政府は今回、中国の海洋進出と北朝鮮の弾道ミサイルを主たる脅威として規定することとした。
これによる変化は、極めて大きいと予想されている。まず、陸上自衛隊の削減、海上自衛隊の増強がある。現在600両ある戦車は、390両まで減らされる。600門ある火砲も、400門程度まで大幅に削減され、兵力も1000人削減することとした。残りの兵力も、全国に均等に分散配置する状況から脱皮し、相当数を南西諸島一円に移すこととした。
一方、中国や北朝鮮向けの対応力は、集中的に強化された。九州南端の鹿児島から台湾に至る南西諸島の防衛と、太平洋戦略に戦力を集中している。まずは潜水艦を、現状の実戦用16隻、練習用2隻の18隻運用体制から、22隻運用体制へ変えることとした。毎年1隻を退役させ新たに1隻を進水させる形で16隻体制を維持してきたが、今後は退役の時期を一部遅らせる方法で22隻まで増やすこととした。南西諸島地域には、約2000人の兵力が新たに配備される。航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)導入の時期も前倒しされる。弾道ミサイルに対処するパトリオットミサイル(PAC3)の配備先も、現在の3基地から6基地へと拡大された。また、6隻あるイージス艦のうち4隻に配備されている海上配備型迎撃ミサイル(SM3)も、6隻すべてに配備を拡大することとした。
しかし、「機動軍」への概念転換は、周辺諸国との摩擦をむしろあおる可能性もある。中国政府は既に、これに対する懸念を公に表明している。「韓半島(朝鮮半島)有事」の際に自衛隊を韓半島に派遣し得るという発言も、中国を刺激している。菅直人首相は今月10日、韓半島有事の際、韓国に在留する日本人の救助を目的として自衛隊を韓国に派遣し得るという趣旨の発言を行ったが、これも同様の流れで受け止められている。
仙石由人官房長官は13日、「韓国との関係で自衛隊が何かできるか、検討したことすらない」と否定に乗り出したが、これによる影響は当分続くものとみられる。
東京=辛貞録(シン・ジョンロク)記者