「極刑で罪を償ってほしい」――。17日、鹿児島地裁で結審した強盗殺人事件の裁判員裁判。殺された蔵ノ下忠さん(当時91)、妻ハツエさん(当時87)の娘や息子は法廷で犯人への怒りをあらわにした。白浜政広被告(71)に対し、検察側が求めた刑は死刑。最高裁の死刑基準を示し「回避する事情がない」ことを説明した。白浜被告は最後まで「無実」を訴えた。
審理10日目となるこの日の公判は、検察側と弁護側の打ち合わせのため、遺族4人の意見陳述は約40分遅れ、午前10時40分ごろ始まった。
最初に証言台に立った被害者の長女は「父は耳が遠くなり、右耳が聞こえなかった。事件当日、ガラスが割れた音は聞こえなかっただろう。母は恐ろしさで逃げまどったのではないか」と話した。犯人に「極刑で罪を償ってほしい」と語気を強めると、裁判員らは身動きをせずにじっと見つめていた。
次男は「無残な遺体を見て、怒りがこみ上げてきた。凶悪な犯人を極刑で裁いてください」と訴えた。三男は「犯人の口からなぜこんな命の奪い方をしたのか聞かないと、父母に報告できない」と話した。
四男の意見は書面で提出され、裁判長が代読した。「両親の遺体と対面するとき、葬儀場の人に『見られる状態ではありませんが、どうします』と言われた。父の顔はどす黒く、恐怖だった。犯人は、かなうならスコップで殴打して処刑してほしい」
結審後、長女、三男、四男は代理人の弁護士を通じてコメントを出した。公判について「指紋、DNAなどの客観的事実やそれが証拠となることの丁寧な検察官の立証は、私たち遺族の気持ちに応えるもので、やれるだけのことをしてもらったと思っています」と評価。被告について「遺族としては、公判を通して被告人が犯人であることの確信を深めました」とした。
強盗殺人罪に科される法定刑は死刑または無期懲役。検察側は論告で裁判員たちに、有罪の場合は「このいずれかの刑を選択することになる」と説明した。刑を決める方法として、死刑選択の判断要素を示した「永山基準」=表=を法廷内の大型モニターに映し出した。
永山基準とは全国各地で4人を射殺した永山則夫元死刑囚の判決で、最高裁が1983年に示した基準。犯罪の性質などの9項目を総合的に考慮し、他の事件との刑のバランスなどの観点から「やむを得ない」ときに死刑選択が許されるとした。
一方、弁護側は最終弁論で「検察官は死刑を求刑した。白浜さんの命がかかっている。慎重に納得できるように一点の曇りのない結論を出してほしい。白浜さんは現場に行っていない」と反論した。
死刑求刑を傍聴者はどう受け止めたのか。
最後まで傍聴していた鹿児島市の不動産業の男性(60)は「こういう形になると思っていた」と納得した様子だった。検察側が状況証拠を中心とした立証だった点については「我々一般人はDNAや指紋など科学的なことを検察官から言われるだけで信じてしまう」と話した。
裁判員経験があるという霧島市の男性(50)は「被告が犯人という絶対の決め手がないと感じた。検察側、弁護側双方の主張にも考えさせられる点があり、真実が何であるのかますます分からなくなった」と困惑した様子だった。
この日は2日の初公判を上回る786人の傍聴希望者が朝から地裁前に並び、傍聴券の抽選に参加した。
鹿児島地裁は17日、補充裁判員1人を解任し、発表した。「引き続き職務を行わせる必要がないと認めたため」としている。