教育

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周囲気にする子どもたち:1人で昼食「難しい」/「遊び」減り、意思疎通下手に?

 他人の目を気にしすぎる子が増えているようだ。昼食を1人で食べている姿を周囲に見られたくない大学生がトイレで食事しているという話題が報じられたが、「気持ちが分かる」という中高生も多い。なぜなのか。子どもたちと教育・福祉に携わる大人の話から、背景を考えてみた。【中村美奈子】

 東京都渋谷区の児童総合施設「こどもの城」で今月、子どもたちが身近なテーマについて語り合うイベントがあった。首都圏の中高生約40人が集まり、喫茶店のように数人ごとにテーブルを囲む。

 「まわりの目が気になりますか?~ひとりごはんできる?」をテーマにしたテーブルをのぞくと、学校で昼食時間をどう過ごしているかが話題になっていた。学生食堂で好きな物を食べている私立中3年男子(15)は「食堂ではどこに座るかも自由だけれど、必ず友達と食べる」という。他の子に「1人で食べることはないの?」と聞かれると「やりにくい。だって誰もしてないから」。

 私立高3年の女子(17)も「1人だけで何かをするのは嫌。人にどう見られているかが気になってしまう」と自信なさげだ。その理由を尋ねても「なんとなく……」としか返ってこない。うまく言葉にできない、漠然とした不安があるようだ。

 いじめに遭い10月に自殺した群馬県の桐生市立小6年、上村明子さん(当時12歳)のクラスの話も出た。好きな人同士がグループを作って給食を食べる中、明子さんは独りぼっちで食べていたという。公立中2年の男子(14)は「1人で給食を食べさせるなんてやってはいけない。強制的でもいいから席をくっつけるべきだった」ときっぱり。高3女子は「でも話しづらいかも。そもそも仲良くないんだから」と疑問を投げかけた。

 話題はその後、「クラスで多数決を採る時、自分が少数派になりそうだったらどうするか」になった。私立中1年男子(12)は「自分がまじめな意見だと思ったら、人に合わせなくてもいいんじゃない」と言ったが、私立高3年女子は「9割方決まっている時、(多数派意見を)違うと思っても言い出せない」。中2男子が言葉をつないだ。「それは(少数意見の方が採用されて)失敗したら、責任を人になすりつける人がいるから」

 子どもたちの世界は、周囲を過剰に気にせざるを得ない窮屈さで満ちているようだ。

   *

 人の目を気にして周囲と同じ行動を取ろうとするのは、何歳ごろからなのだろう。

 東京都台東区にある寿児童館の水野かおり館長は「男の子は比較的1人で行動しても平気だが、女の子は小学3年生のころには4、5人の固定した仲間で一緒に動くようになる」と話す。

 ある遊びを始める時、ボス的な女の子が「嫌だ」と言い出したことがあった。その時は他の子も「そうだよね」と同調して遊ばなかったが、ボスがいない時に残りの子たちでその遊びをした。後になってボスにそのことがばれ、残りの子たちは必死にごまかした。

 「人の目を気にする子はこの10年間で増えた感じがする。周囲への合わせ方がうまくなってきた」と水野さん。小学生向けファッション雑誌を見て、同じグループで同じブランドの服を着ている女の子たちもいる。

 背景は何か。「かつて子どもは遊びを通して相手の気持ちを察し、コミュニケーションの土台を培った。そんな『遊びの場』が消え、意思疎通の能力が乏しくなったため、仲間内でない子と関わるのが面倒なのではないか」。確かに、街の公園には「球技禁止」など遊びを規制する立て札が立ち、子どもたちは習いごとや塾で遊ぶ時間もない。

 さらに「今の子は失敗や間違いをすごく怖がる」と指摘する。やったことのないゲームや遊びに手を出さない子も増えたという。

 教育雑誌の編集人を務める名古屋市立桃山小の岡崎勝教諭(58)は「遠足などで弁当を食べるとき、『仲間に入れて』と言いたいのに『断られたらどうしよう』と言い出せず、1人で食べる子が近ごろはクラスに1、2人はいる」と話す。

 岡崎さんは「子どもが携帯電話などの情報ツールを使いこなすようになって以来、クラス内で孤立する子が顕在化した」とみる。給食を1人で食べている子を自分のグループに招き入れた子が、後で他の子たちに「なんで連れてきたの」「ウザイ」とメールで責められた例もあるという。

 「子どもたちは自分も排除されはしないかとおびえ、周囲との関係を必死で保とうとしている。人を排除するのは卑しいことだと、教師がはっきり教えなければ。僕は高学年の子には『1人で結構、1人が一番』と言っている。周りの大人が自立や独立心の大切さを繰り返し伝えることが重要なのです」

毎日新聞 2010年12月14日 東京朝刊

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