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国立文化施設等に関する検討会(第2回) 議事要旨

1.出席者

(委員)
福原座長,竹内座長代理,織田委員,林委員,町田委員,水嶋委員,宮島委員,宮田委員,山下委員,吉本委員,平田内閣官房参与
(独立行政法人)
加茂川国立美術館東京国立近代美術館館長,遠藤国立文化財機構理事,崎谷日本芸術文化振興会理事,折原国立科学博物館理事
(事務局)
吉田文化庁次長,田中政策評価審議官,小松文化部長,関文化財部長, 伊藤大臣官房審議官,滝波文化庁政策課企画調整官,高比良文化庁政策課独立行政法人支援室長,岩佐社会教育課企画官

2.議事内容

  • (1)開会等
     開会後,本日の検討会の進め方及び配付資料について事務局より説明があった。
    福原座長より,本検討会における当面の主な論点について委員から寄せられた意見に沿って検討を進めること,論点が多岐にわたるため本日と次回に分けて検討することとし,本日は前半の論点について検討する旨の説明があり,織田委員,水嶋委員,吉本委員の3名から意見発表をするよう指示があった。
     続いて,平田内閣官房参与から,内閣官房参与の立場で出席していること,積極的な提言をお願いしたいこと等を含め挨拶があった。
  • (2)意見発表
     織田委員,水嶋委員,吉本委員から,それぞれ資料4の提出意見に沿って意見発表が行われた。意見発表の概要は以下のとおり。
    【織田委員】

     私は,昭和42年4月から特殊法人国立劇場に入社し,本年3月まで通算43年間,国立劇場に勤め,一貫して伝統芸能とかかわってきた。そういう立脚点から発言したい。
     法人の目的・役割・機能や事業の特性について。日本芸術文化振興会(以下「芸文振」)で行っている業務,伝統芸能・現代演劇・オペラ・バレエ・ダンスはすべて生々しく今生きている人間によってのみ行われ,同時進行で生の観客に見せ,聞かせるもの。公演事業であることが,他の各法人と大きく異なる点。舞台は,プロデューサーあるいは作者,演出家,美術家といった人間の手によって毎回制作される。生きた人間による営みによって成立している。
     多彩な芸術文化活動が裾野の広い人たちに与えられなければならず,高度な技術の者も膨大な人数の演技者,演奏者を持っていなければ成り立たない分野であり,これらに芸文振基金による助成事業が果たしている役割は非常に大きい。今後とも,そこに継続的な支援を行うことは国の責務。美術館,博物館,劇場あるいは基金は,それぞれ役割や機能は異なるが,それぞれ国の芸術文化振興の拠点として重要な使命を担い,担っていく機関である。
     独法化のメリット・デメリットについて。メリットは,運営費交付金による柔軟な使途と執行が可能になった点。中期計画によって全職員が明確な方向性を持ち得るようになった。
     デメリットは,評価に対する膨大な資料の作成が必要である点。評価疲れといった悲鳴も聞く。最終的な評価が出るのが遅過ぎ,前年度の評価が出たときには,次年度の公演・企画はほとんど半分終わっている。数量と数字による評価が主体で,企画の内容に切込んだ意見を頂けない。一律横並びの評価は必要があるのか疑念。一律の人件費削減により専門家の確保は限界。運営費交付金の一律削減と人件費削減の対象から除外されるべき。
     目的積立金の制度が有効に運用されていない。苦心して爪に火をともすようにして上げた利益をほとんど使えなくされ,いわば没収にも近い形をとられているのはいかがなものか。
     歌舞伎の演目を決めるときも,場面が減らせないか,場面を集約できないか,出演者数を削る,音楽の数を削る,時には刀の数まで減らしている。それで良質な仕事と言えるか,国民に自信を持って提示できるか,という疑念を感じる。劇場は席が決まっており,幾らでも観客を入れるわけにはいかない。また,他の劇団等との契約のため,1カ月に最大25回,25日が限界である。人気俳優,人気演目ばかりで国の機関として良いのか。勧進帳は「またかの関」と陰口をたたかれる。
     目標設定・評価について。中期計画5年間を設定することは大変良いが,設定された中期計画の途中変更が困難。時代は変わり,俳優も変わり,人気者も変わる。重要な俳優が亡くなることもある。そのときフレキシブルに対応できる中期計画であってほしい。
     各法人で専門家による評価会議があり,それとは別に文科省の評価委員会があるが,各法人の評価会議による評価でも良いのではないか。
     組織体制・ガバナンスについて。各法人も経営者の裁量権と責任で,組織のスリム化や意識改革が着実になされ,その成果は高く評価できる。しかし,民間の経営方法を一層積極的に取入れることに努力して欲しい。展示企画や舞台のPR,販売を実行する営業,宣伝分野も専門の仕事であり,人事面でも配慮されるべき。経理・総務・人事の担当理事と専門分野の理事,営業分野の理事など,業務形態に必要な数の役員が適切に置かれ,その上の組織の長を補佐し,国は組織の長の権限を財政的にバックアップすべき。国は法人へのアドバイザーの役割を積極的に務めて欲しい。併せて,安定的な財政援助と,職員と組織のモチベーション向上を図る方策をお願いしたい。

    【水嶋委員】

     前回の博物館法改正に当たり文科省が設置した「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」の副主査を務めた立場から意見表明したい。
     博物館法改正について。国際博物館会議ICOMの定義,博物館法の観点から見て,国立博物館の目的は博物館そのもの。平成20年の博物館法改正は教育基本法の改正を受けたもので,半世紀ぶりの条項新設という画期的なもの。しかし博物館法の最大の課題は登録制度であり,その見直しには至らなかった。
     博物館法登録制度は形骸化しており,登録博物館と相当施設のどちらにも属さない類似施設が,全体の約8割を占めている。登録制度に登録してもメリットがなく,公立博物館の施設整備補助金や私立博物館の税制優遇措置がない。また,国立の博物館は登録の対象になっていない。
     問題点は,有効期限,更新規定が設けられておらず,国への報告義務もない点。また,登録基準が外形的観点からの審査が中心で,社会に求められる博物館として実質的な活動の量・質を審査する仕組みになっていない。また,登録博物館としての水準を担保する制度になっていない。
     一方,文化財保護法には公開承認施設制度があるが,承認基準として,専任の学芸員等2名以上の配置,防犯・防火体制の確立,申請前5年間の国宝・重文の公開実績3回以上など,幾つかの条件がある。現在,博物館法の登録博物館制度と文化財保護法の承認公開基準はリンクしていない。
     「新しい時代の博物館制度の在り方について」の報告書(平成19年)では,登録の設置主体の限定撤廃,博物館相当施設の指定制度の登録制度への一本化を提言したが,国立博物館も含めて議論はあった。指定管理者制度との関係についても,議論の途中と理解している。
     独法制度のメリット・デメリットについて。国立博物館を博物館法の対象とできなかった歴史的経緯があるが,時代の変化の中で博物館界も激変し,見直す時期ではないか。入館料については,独法になって経営感覚が良くなったと言われる一方,行き過ぎた効率主義の問題も指摘されている。博物館法では原則入館料無料とされており,この矛盾をどう解消していくか。英国では,色々な人をどんどん博物館に入れる政策(Social Inclusion)がブレア政権で採用された。数年前,中国でも博物館無料化政策により,博物館に客がいっぱい来て,博物館の支持者が増えた。
     博物館は社会教育施設か。国立の科博,国立博物館,美術館それぞれの法的基盤が異なり,博物館法そのものも問題になるのではないか。
     国立科学博物館に関連し,日本科学未来館についても議論すべきと個人的に思っているが,一緒にしてしまえば良いというのは無謀な議論。きちんと議論を積み重ねていく必要がある。未来館はコレクションを持っていない。国立科学博物館の膨大で貴重な標本資料をどうやって守っていくかということと一緒に議論すべきでない。日本科学未来館を博物館と位置付けるのであれば,博物館としては機能不全の状況。このように検討対象についても議論した方が良い。
     博物館の総合評価については,簡単に自動的にウェブサイトでできるよう,日本博物館協会が3〜4年かけて開発した評価システムがある。こうしたシステムが,韓国・中国・台湾でも一緒に,日本との比較もインターネットを使ってできる。入館者数だけでない,色々な評価視点を入れた方が良い。
     組織体制については,劇場グループと博物館グループに分けるのが自然ではないか。国立博物館は静的なもの,芸文振は動的な演劇,音楽,舞台芸術で,組織文化としては二つに分けるべきで,二つが一緒になることでメリットが生まれるとは思わない。
     昨年度,国立科学博物館の尽力で,国際博物館会議のアジア太平洋委員会の国際会議が開催され,アジアにおける日本のリーダーシップを堅持した。アジア博物館学会の創設の議論も出ているが,来月,国際博物館会議上海大会で博物館研究国際センターの設置が提案される予定。激変する博物館界の動向を見ると,独法制度や博物館法を見直さないと世界から取り残される恐れがある。

    【福原座長】

     評価は法人側にとっても大変な作業だが,結果は一体何に使われるのか,プラスにもマイナスにもフィードバックされない。評価疲れまでして,膨大な複写枚数を使った作業は何だったのかという疑問がある。
     ある県で,評価が大変になり,75%ぐらいしか仕事ができず,他は評価に取られ,県民に対するサービスの量は10〜20%は減ってしまうが,これで本当に良いのかと聞いたが,これと似たことが今日行われている。評価する側も,実際の仕事が分からず,1日で膨大な資料を渡され,読み解いて評価しろと言われ,とても辛い。

    【吉本委員】

     各法人の目的・役割・機能や事業の特性について。個別法の目的は非常に曖昧で,中期目標も「国民に対して提供するサービスその他の質の向上に関する事項」と規定されている。独法化(2001年)から10年近く経過し,無駄を省きサービスを向上させるという独法の当初の目的は,ある程度達成されつつあり,いま一度国立文化施設の役割を大きく見直しても良いのではないか。将来の日本の文化資産をいかに構築,蓄積するかとい長期的なスパンに加え,国際社会の中で文化芸術を振興するという点で日本はどういった貢献ができるのかという視点も重要。その際,主要国の国立文化施設との比較,目的や事業,組織,予算等を含めて再確認した上で,再度検討してはどうか。
     芸文振基金の創設に併せて国立劇場法が改正されたが,基金と劇場はかなり性格が違うため,文化政策部会で検討が進んでいる「日本版アーツカウンシル」の状況を睨みながら,そちらを切り離して「独立行政法人国立劇場」とした方が,より法人としての性格が明確になる。
     独法化のメリットについては,サービスが向上され,改善された点が多い。同時に経営の効率化,経費削減などが進んで,運営費交付金等もかなり減ってきている。一方,経費削減にも限界があり,行き過ぎた効率化が国立文化施設等のミッションの達成を危うくしている。効率化,収益の拡大に比重がかかると,本来のミッションに基づいたものから,評価を得やすいものにばかり流れてしまう危険性がある点は特に注意が必要。
     運営努力により得られた収益は,専ら国の支出を減らす財源として活用されている。本来,法人の努力によって得られた財源は,各法人のミッション達成のために再投資できる仕組みにすべきで,目的積立金制度があるが,うまく活用されていないようだ。
     法人の努力で得られた財源を法人の事業や運営に活用できるという形が政府から独立した法人という本来の姿であり,各法人のインセンティブが明確になる。努力して得た利益により,実験的なものやパイロット的なもの,法人独自の事業拡大の取組に投資していくための伸びしろが今はないが,それを可能とした方が,結果として法人の足腰が強いものになる。
     目標設定や評価の在り方について。中期目標を各法人から提案できるような仕組みが検討できないか。その際,評価の方法についても,各法人から目標を提案し,それを達成したかどうかの評価方法も提案することによって,法人の独立性や専門性が生かせるのではないか。
     今の評価制度は,各法人の評価委員会が行った評価に基づいて評価報告書が作成されるが,事業の実施状況や結果に関する記述が中心で,目標が達成されたかどうかは必ずしも十分ではない。評価を適切に行うためには調査などが必要で,そのための体制や経費も検討すべき。
     現在は,各法人の評価委員会が行った評価報告書をさらに文科省の評価委員会の文化分科会の各部会が評価して,最終的にSからFの評定が行われているが,評定を行うこと自体が目的化している。二重三重の評価の仕組みで,膨大な労力とコストがかかっている割に,評価の結果が現場にどのように生かされているか疑問。
     シンプルで実効性のある仕組みとして,例えばこんな方法がある。最初に,各法人から中期及び各年度の目標(評価方法や評価指標を含む)を提案し,それに対して文科省が設置する第三者評価委員会で審議して,必要な場合は修正を行って,その目標を了承する。各法人から事業実施状況,目標達成状況など,自己評価報告書を提出し,第三者委員会が審議して,必要な改善策,意見交換などを行うというもの。
     評価のために膨大な資料か作られ,短時間で読んで,会議だけやって評価している点が一番問題。資料で提案した第三者専門評価委員会では,逐次実際の事業を見たり,運営をモニタリングしたりして,定期的に会合を開いて意見交換を行いながら評価をしていくという,最後の評定を目的にしない評価の仕組み。これを各年度,各中期計画ごとに繰り返すイメージ。
     検討会のメッセージについて。2001年の独法化後,事業や運営面で改善された点,積み残されている問題点や課題を一度総括し,その評価の在り方についても検証してはどうか。その上で,独法の在り方も仕組みも含めて,国立文化施設の在り方,国として担うべき役割を明確に打出すべき。その際,公立文化施設が,指定管理者制度という独立行政法人制度と似たような制度で効率化を求められ,疲弊しているので,そうした地域の劇場や美術館に対してもメッセージを出せるような提案ができれば良い。

  • (3)意見交換
     委員による意見交換が行われた。意見交換の概要は以下のとおり。
    【竹内座長代理】

     国立文化施設の在り方や将来像と、評価の在り方や仕方は分けて議論する必要。まず前者をはっきり出し、それから後者の周辺の技術的なことは分けて検討する。そのほか財政の問題などをうまく整理し、在り方を提言できたら良い。

    【林委員】

     「国の顔」にふさわしいコレクションの充実,収蔵庫不足の問題に関連して述べたい。まず,既に国外流出した自然史のコレクションについて。自然史標本コレクションは,大型のもの,多くは蝶,昆虫,貝など個人が集めやすいもので,世界に誇るべきものが結構ある。しかし,あるコレクションはスミソニアン博物館に寄附された。これは日本の博物館の現状に不信を抱いていたからという。日本人が世界や国内で集めた標本が国外に流出してしまうのは大変残念。
     次に今後海外流出が心配される自然史の標本について。自然史のコレクションだけでなく,例えば,東京都庁,オリンピックの代々木競技場等の丹下先生のコレクションは膨大にあるが,海外機関が関心を示しており,恐らくそちらに流れてしまうであろう。動物・植物といった自然史関係等のコレクションの海外流出には,やはり収蔵庫不足がある。
     国立科学博物館は,現在つくばに新収蔵庫を建設中で,収蔵機能が数割増加すると聞くが,本来10倍ぐらい必要で,収蔵庫が圧倒的に足りない。多くの場合個人として収蔵されているので,没後は家族が持切れずに手放されるが,その保管場所がない。東京大学は今約600〜800万点,国立科学博物館も同程度持っているが,これが日本の誇るべき標本群。米国,英国,仏国などは一つの博物館で数千万点,1億点を超えるものもあり,日本よりも1桁多い。日本は自然史博物館の標本数から見て先進国とは言えない。収蔵庫がなく抱え切れなくなったり高齢化した方々の標本が,次々と海外流出していく可能性もある。これらは最終的に「国の顔」としてのコレクションになっていくものであり,収容できる施設が必要。
     財団法人が持っている標本は膨大にあるが,運用益だけでは運営できず,ある自然史関係の財団法人は10年以内につぶれてしまうのではないか。4月から山階鳥類研究所長をしているが,こちらは7万点の鳥の標本を持っている。2番目以下の科博,北大,東大等を合わせても7万点に届かず,民間の標本の方が,国の標本より圧倒的に多い。収蔵庫の問題が一番大きいが,それを解決しながら,標本群を国としてどう考えていくのかもこの機会に述べていきたい。

    【福原座長】

     建築家のドローイングとかサブカルチャーが収集されていない,流出してしまうという話をたびたび聞く。銘仙のコレクションをハワイで見てびっくりした。日本の美術館・博物館では収蔵していても整理できない,展示できない,あるいは収蔵していないことがある。どこの博物館・美術館も,コレクションを段ボールに仕舞うのがやっとで,とても整理して展示するところまで及ばない。民間の,国より質・量とも多いコレクションをどうしていくか考えていかなければいけない。

    【町田委員】

     独法化して運営効率化,収支改善をした点はよかったが,圧倒的に日本の文化予算が少ないという現状認識を出発点にすべき。各国に比べてかなり少なく,収蔵庫や文化施設の問題,収集品の管理に要するコストも十分に賄えない。
     海外は,大きな文化的な支援を政府が行うと同時に,民間の寄附がたくさん集まるなど財政基盤が全く日本とは違う。日本では大型イベントは,マスコミ等の民間がリスクを負い,会場費として収入源を得る形で収支がとられてきたが,これを抜本的にどうするか考える必要がある。英国も政権が代わって,文化予算が削られて大変だが,欧米の場合は世界でニーズのあるコレクションを多く持っていて,それを世界中に貸し出すことで資金を得るなど工夫している。日本のコレクションについては,海外に巡回して資金を得られるほどのニーズはなく,難しい。入場料については今の仕組みでは,無料化した瞬間に大型の素晴しい文化イベントが出来なくなることがあり得ることも含めて考えた方が良い。

    【福原座長】

     明治から大正,昭和にかけて,日本では大財閥等が膨大な寄附を行い,社会基盤を支えていた。戦後の財閥解体は,社会構造を変える点では意味があったが,同時にその財源も全て失ってしまった。徳川時代以降は,幕府が文化を支えたわけではなく,各藩あるいは豪商が支えていた。江戸〜明治時代以降の構造の上に現代があると考えると,現代では民間の力が相対的に極めて減っているのに,政府・国として役割を果たしていない。

    【平田内閣官房参与】

     一芸術家として新国立劇場の問題点を述べたい。一つは,国民の税金を使って作品を作りながら,享受できるのは首都圏に限られ,地方公演はほとんど行われていないが,このような国立劇場は他にない。もう一つは,国民の税金で作品を作りながら,それを海外公演し投資回収する可能性がないが,このような国立劇場も他に知らない。
     財団は,予算が決まっていて,それ以上の予算を取ってくる気概も習慣もない。このシステムを変えない限り,アーチストは国立の文化施設で作品を作るインセンティブが出ない。新国立劇場は毎年素晴しい仕事をし,大きな演劇賞を取っているが,すぐに再演されず,地方へ回らず,まして海外公演はあり得ない。
     新国劇場は1つしかなく,競争が働かず,決まった予算で仕事だけしていれば良い。これを競争的資金とし,国立劇場と地方の公共ホールと民間の劇場が競う形にして,アーツカウンシルが評価する。将来的な人材育成等の投資部分は,アーツカウンシルがプロボーザルを受けて評価する。こうした枠組みでやっていくべき。
     北海道や福岡にも国立劇場があって然るべきと思う。箱物をこれ以上作れないならば,仏国のように,民間劇場,地方劇場を国立劇場(国定劇場)と定めるやり方もあるのではないか。
     建築等の中間領域,メディアアートをどうするか。金沢21世紀美術館の成功に見るように,強い観光アイテムにもなる。

    【福原座長】

     シンシナティー・シンフォニー・オーケストラで収支を検討したところ,日本に行くと収支が大変良く,欧州に行くとマイナスになる。では常に日本で演奏した方が良いと思うが,当事者としては欧州に行かないとレベルが上がらない。日本の観客は何をやっても拍手するが,欧州ではある程度以上のことをしないと観客の評価が得られない。欧州の有名な音楽ホールで演奏することが将来に影響がある。展覧会も同じで,日本から外国に持っていこうと思うと,こちらで出費をしなければならない。それでもなぜ外国での展覧会が必要かというと,評論家や観客の厳しい批判にさらされ,改めて日本を考え直すきっかけになる。
     アンドレ・マルロー文化相以来,仏国でアートの地方分権化を進め,今日に至っている。日本では,各藩主が何かに力を入れると,それがその土地の財産になり,国の財産にもなっている。

    【水嶋委員】

     標本の管理や保存については観客の認知度がない。英国の20〜30年前のレポートにコレクション保護は社会的コストだとあり,感銘を受けた。そこを国民に認めさせない限り,コレクション保護に対する国民の理解度は上がらない。例えば,YS−11は,日本が戦後初めて開発した国産機で,国産の技術の集大成。所沢にあるものは1年間に200万円ぐらいの塗装費をかけて守っているが,知覧の自衛隊の航空機は,何十機も塗装が剥げ,全部だめになっている。海外流出しそうなものは,レッドデータブックのように保護していかないと切捨てられてしまう。日本の博物館は,大半は展示室で収蔵庫が建築的に考えられていない。社会的コストがかかるというメッセージは出さなければいけない。
     仏国では,アンドレ・マルローが初代文化相になってから,国定目録を作るようになり,仏国にある全ての文化財,作品,最近では産業遺産,自然史標本も,全て国定目録として蓄積している。今では全てインターネット公開され,蓄積がいまだに続いており,インターネット社会での仏国の力,情報になっている。目録づくりとか資料の管理,記録づくりはお金がかかるが,収蔵庫の社会コストや情報化,目録づくりの継続性の大切さを主張したい。

    【吉本委員】

     10月末と11月中旬に事業仕分第3弾が行われ,蓮舫大臣は独立行政法人の見直しを行うと述べている。独立行政法人も仕分の対象になると思うが,ただ傍観していて良いのか。先般の事業仕分けでは,文化庁予算の削減という結果に対し,国民からパブコメを募って,11万件の意見が集まったから文化庁予算は守られたということがあったが,こうしたやり方自体,無駄な労力とコストがかかる。事業仕分が行われることが明確ならば,何らかの形でこの会議の対象の4法人の事業仕分に対して意見表明をすべき。昨日も,芸団協のキャンペーンの一環で,色々なアーチストが文化予算の増額をアピールする様子がテレビでニュースになっていた。

    【平田内閣官房参与】

     事業仕分に文化は載せられやすい。事業仕分に耐え得るような方向を出していかないと,良い仕事をしていても,短期的な実績を上げたかなど,突っ込まれやすい要素が国立文化施設にはたくさんある。
     官邸に「ソフトパワー戦略会議」のような,国の文化政策,ソフトパワー全体を成長戦略にどうつなげていくかという上位の検討委員会の構想があったが,できなかった。文化政策を観光政策に並ぶ大きな柱として取り組めば,事業仕分から逃れやすいと思う。今まで問題はあったとしても改革していくことを力強く打出すべきで,文化庁に止まらない政策を私も進めるのでご協力頂きたい。

    【福原座長】

     文化予算については,芸団協が署名運動をしており,かなり集まりつつあると聞く。本検討会の結論は12月までに出るが,それでは事業仕分第3弾に間に合わないので,その中間で何かメッセージを出す必要があるか。

    【平田内閣官房参与】

     事業仕分は別のスピードでどんどん進んでいく。本検討会はスピード感をもって途中でも改革案を打出せば良く,粛々とやるしかない。

    【福原座長】

     途中でメッセージを誰かがあるいはどこかが出す必要があるかどうか,事務局と検討したい。

    【林委員】

     社会的負担による標本の収集・整理もあるが,展示について大胆に新しい方向を模索して良いのではないか。1996年に東京大学総合研究博物館をつくって頂き,最初の館長になって3年間,その後また4年間,合わせて7年間館長を務めた。1996年に入館料を取るよう文部科学省から指導があったが,徹底的に抵抗し,結局,東京大学は入館料を取らないと,わがままを聞いて頂いた。
     博物館法では入館料は原則無料であるので,少なくとも東京大学はその原則を貫きたい。国立大学の博物館は,入館料を取っているところと取っていないところがある。同じ国でも,一律でなく,展示についてはかなり大胆な多様性を認めるようなことも将来的にあって良いのではないか。
     東京大学は,2012年,東京駅南口に外部資金によりアート・アンド・サイエンスの展示場を作ろうとしている。そこも無料にする予定であるが,だから外部資金を導入することがあって良いし,それができないところは,入館料を取るとか国が支えるべきところは確保しておかなければいけない。同じ国立あるいは独立行政法人といっても,多様な在り方があって良い。

    【山下委員】

     博物館関係の国際会議では,韓国や中国は,国でまとまっていく気迫を感じるが,日本には求心力があるのか,会議後はどうなるのか,次のステップが分からない。11月に上海でICOMがあるが,国全体としてアジアへアピールしていく,他の欧米とも一緒にやっていく姿が見えるが,日本はどっちを向いているか分からない。これを機会にもっと提言できるものを作っていきたい。

    【宮島委員】

     収蔵品をいかに収集・保護するか,人員をいかに増強するかという観点から,財源確保の手段として一つの組織にする方法もあるのではないか。併せて,国際性,地方性等の観点から,バラバラのままが良いのか。今後の組織作りをどうするかが重要。

    【平田内閣官房参与】

     未来科学館は事業仕分の対象になったが,博物館は,良いものがあれば観客が来るのでなく,見せ方が大事。金沢21世紀美術館や瀬戸内国際芸術祭は成功したが,あのような分かりにくいコンテンポラリーアートをどう市民,国民に親しんでもらえるかは,事業仕分を乗切る上で重要なポイント。
     もう一つは,選択と集中,競争淘汰の原理が働いているかが問われる。韓国では映画は釜山,美術は光州と,地域を分けて戦略的に重点施策をとっており,2〜3に国費を集中投下する方針。本検討会としてもメリハリある結論が必要。
     文化にとって地域性は重要で,例えば白河以北に国立の文化施設が基本的にない。沖縄には琉球文化の保護のため国立劇場を作ったが,アイヌ文化に関してはない。先進国ではどこの国でも,先住民の文化というのは観光アイテムになっている。観光政策のような新成長戦略の重点科目と文化を結びつけて機動力のある結論を出して欲しい。

    【福原座長】

     本検討会は,本質的な問題と現時点をどう乗り切るかの二つの目的を同時に達成しなければいけない。まとめ方は難しいが,これまでこの分野は,各界の意見が消極的あるいは大人しかったので,強い意見を持って臨まなければいけない。
     次回も引き続き,論点をすべて出し尽くしていきたい。

  • (4)今後の日程
     事務局より,今後の日程等について以下のとおり説明後,閉会した。
    • ・ 次回は10月21日(木曜日)13〜15時,文部科学省16F特別会議室にて開催予定。
    • ・ 本日に引き続き後半の論点について検討を行う。

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