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[21529] D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)
Name: MTQ◆4d267155 ID:b53147a9
Date: 2010/09/18 08:40
[D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)]


題材:~月姫______D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~





設定:
主人公:×桜内義之[弟] ○七夜志貴[兄]


七夜志貴:
幼い頃は初音島の外で暮らしていた。※さくらと出会う。
8歳のときにある事故で瀕死の重傷を負う。
目覚めると義之と共に初音島の桜の木の下にいた。
記憶に混乱が見られ事故以前のことが上手く思い出せない。
暫くは朝倉家で過ごしていたが、1年前から芳乃宅で義之とほぼ二人り暮らし。
言動や性格等から形式上の義之の兄。




性格はめんどくさがり屋だが世話焼き(女子に限る)。眼つきは鋭くたまに瞳が蒼くなる。
身長168センチ、体重52キロ、やや細身だが全体的に絞られていて無駄が無く、むしろ筋肉質。
授業中は基本的に寝ていることが多い。しかし、テストの成績は常に学年上位10名に入る。
帰宅部の典型。貧血持ちだが、運動能力自体は極めて高い。
趣味は日本刀やナイフの鑑賞及び蒐集。
我が校における女子生徒の好感度ランキング15~20位に位置する。
この数値は学園行事にあまり積極的では無いのが関係していると見える。

常に自身の姓が刻まれた飛び出しナイフ『七ツ夜』をポケットに忍ばせている。

[非公式新聞部:学園生徒プロファイル:No.0462XXXX 編集:杉並]







~はじめに~

杉並プロファイル(笑)

ご理解いただけたでしょうか?

いくらD.C.Ⅱ×月姫モノが少ないからとはいえ、やっちまった感が否めないOTL


因みに呼び名:

七夜
七夜君
七ちん
七夜さん
七君
志貴
志貴君
志貴っち
志貴さん
シッキ―
弟君
志貴兄さん



温かい目で見守ってください。



[21529] 第0話 Prologue「月下の桜」
Name: MTQ◆4d267155 ID:b53147a9
Date: 2010/08/28 21:04

[D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)]






~Prologue「月下の桜」~






満月の下

深々と桜が舞っていた。

驚くほどゆったりと。

音もなく。

見渡す限りに舞い散る桜の花びら。

それは一面を色づけるように、月の光に文字通り華を副えるように、ただゆったりと舞い踊っていた。

隣にいる見知らぬ子どもも、僕と同じようにその光景に見惚れている。

それはとてもきれいで、呆れるくらいにとても綺麗で、孤独で、ただ息をのむことしか出来なくて、とても不安で、どうしようもなく途方にくれていた僕でさえ見惚れてしまうくらい、きれいな景色だった。

だから、これはきっと夢なんだと思う。

紅の地獄絵図なんかじゃない、真っ白な悪夢。

悪夢のような夢。

いつか覚めてしまうことがわかっているのに、それでも夢見ることを夢見てしまう。

新しい予感に胸を膨らませるような、陽だまりの中でふと涙をこぼしてしまうような、冬の最中に春の訪れを待ち望むような。

歪なツギハギだらけの夢。

差し伸べられた手を優しく掴む。

温かな手。

凍える世界で、雪の中で、ぬくもりを確かめるように、おそるおそる、だけど確かな意志で優しく。




ああ――――気がつかなかったわけじゃないんだ。

とっくに知っていたさ。


今夜は――――こんなにも……


――――月がきれいだ。




そんな、始まりを告げる悪夢のはじまり―――。











~~~~~~~~~~~~



思いっきり冒頭部分をパクリました。



[21529] 第1話 「crescent by me」
Name: MTQ◆4d267155 ID:b53147a9
Date: 2010/08/29 00:02
[D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)]





~第1話「crescent by me」~






12/16(thu)







まぶたに染み込む朝日に視覚神経を刺激される。


「おはよー志貴君、あさだよー」


「志貴兄さん、朝ですよ。起きてください。」



眠い…もう少し寝かせてくれ


「ほらぁ、起きないと大変だよー」


昨日は夜遅くまで街を徘徊してたんだ。体が目覚めてくれない。


「もぅ、志貴君。お姉ちゃんが唇奪っちゃうぞ。」


は?


「あ、ずるい!私もやるー!」

まてまて、


「っと、これはどういった状況なんだ?」

動揺したまま眼を覚ましたので、まだ頭が付いてこない。


眠い目を何とか開けると、そこは見慣れた俺の部屋。

そして俺が寝ているベッドの上には見慣れない光景。

何で音姫姉さんと由夢が俺と一緒のベッドで寝ている?

「おい、寝床を間違えたのか?義之なら隣の部屋だ。」

俺は音姫姉さんと由夢に向かって、自分たちの間違いを指摘してやる。

そう、ありえないだろ?この二人が好意を寄せているのは義之の筈だ。決して俺じゃぁ無い。


「もう、そんな冷たいことを言って、いつも一緒に寝てるじゃない?そんな志貴兄さんには"お仕置き"が必要だね?姉さん。」

おいおい、冷たいことでもなんでもなく事実だろ?

「そうね、由夢ちゃん。ボケボケさんな志貴君には――――」

二人が顔を突き出して唇をつぼめてくる。



やっぱり、何かおかしいな…








なるほど。つまり











夢ってことか。しかし、悪趣味にも程がある。いったい誰の夢なのやら…





「そこの居眠り兄弟!!いい加減に起きなさいっ!!」


……現実から委員長の声が聞こえるということは、今は学園の教室内ってことか。


そして迷惑な夢は、隣の席で眠っている愚弟の夢か。


溜まっているのかね?にしても、無様にも程がある…


「七夜君!――――そんなに瞑りたいなら…永遠の眠りにつかせるわよ…」

気配から察すると、委員長は俺の机の眼の前で腕を組んでいるとみた。


…仕方がない、そろそろ返事くらいしてやるか。


「まてまて、俺はちゃんと起きているさ委員長。で?何の話をしているんだ?」

さも当たり前のように体を起こして問いかけると、委員長は

「クリパの出し物の話よ!」

なんだ、どうでもいい話じゃないか…なんて返すと彼女はヒステリーになるのでやめておこう。


「まずは周りの意見を聞いてみたい。俺なんかよりも余程建設的な意見が出るに違いない。」

そう答えると、何故か委員長は拳を握りプルプルと震えだす。



「志貴…黒板」

後ろの席の杏がそう言いながら俺の背中をつつく。


?黒板……ああ。なんだ、もうお化け屋敷と人形劇って案が出ているじゃないか。

まあ、どちらにしてもあまり興味が湧かないが、お化け屋敷の案は杉並が出したということが一目でわかる。


「で?もう意見が出ている中で、これ以上委員長は俺に何を求めているんだ?」


まさか俺にこれ以上の代案を出せということでもあるまいし。

「あ゛~もぅ!!私が言いたいのは、どっちに投票するのかってことよ!!」

見れば、それぞれの案には正の字で書かれた投票数が記載されている。しかも同数で…


つまり、俺の一票でどちらかが決まるということか……面倒だ。

「なんだ?それならそうと早く言ってくれればいいものを…因みに、確認のためだが、人形劇は誰の案だ?」

そう質問すると返事は後ろから返ってきた。

「私よ」

と杏が答える


「脚本から舞台まで手作りにする予定」

成程、杏にしてはやけに積極的だが中々期待できそうだ。

何よりこういったものは、主役陣と脇役陣の人数がある程度決まれば、残りはほとんど準備作業だけで済む。当日を怠惰に過ごすならこの案に1票だな。



「七夜ぁっ!まさか君は"人形劇に1票"なんて言い出すんじゃないだろうなぁ?」

突然、杉並が何かを見越してか俺に詰め寄ってくる。


「君の親愛なる愚弟こと義之も、我が偉大なる計画に賛同してくれているというのにっ!!」

「おい!その"愚弟"ってのはなんだよ杉並。七夜とオレは別に兄弟ってわけじゃないし、何で勝手に弟扱いになってるんだよ。」

愚弟こと義之が横から反論に入る。


「何を言う義之。成績・スポーツ・生活態度ッ!その全てにおいてお前を上回っている七夜は、昔からの関係を見れば兄弟と捉えても!何ら遜色ない。」

「まあ、杉並と義之がお化け屋敷に票を入れたのは分かった。で?今の話を聞くと投票はもう済んでいるようだが、委員長?」

いい加減無駄な会話を打ち切って委員長に質問をする。ここまで進んだ話に俺はどうしろと?


「七夜君?このクラスが何人いるか知っているかしら?」

「30人だな。…何だ?1票差にでも票が割れたのか?だったら俺に投票させるべきじゃないだろ。」

せっかくの1票差が、もしかしたら同数になってややこしくなってしまうかもしれない。

「委員長で司会をやっている私は票を入れないの。だから、悪いことに同数票になってるのよ。」

どうやら委員長は、こんなちっぽけな空間の中で己の投票権がないときた。

どうせなら同数票に持ち込んで委員長の独断を推し量りたいところだったが、そうもいかないらしい。



「まったく。これじゃあ俺が決定者みたいだな。」

まぁ、寝ていた付けが回っただけだが




さて、推測するに人形劇は麗しき乙女の票、お化け屋敷は男子の票ときたか。




どっちに入れるかな?


杉並の事だからお化け屋敷をする場合、余計な問題を起こすことは目に見えている。

それに義之が巻き込まれることも確定だろう。準備期間も引っ張られると少々生活面で厄介だ。

なにせサクラさんは年中仕事に明け暮れていて、まともに料理ができるのは義之だけだ。

おれも軽食くらいは作ることができるが、タカが知れている。


朝倉姉妹もお気に入りの義之が居ないとなれば、わざわざ家に来ることもないだろうし。


そうなると、やはり杏の人形劇か

杏とはそれなりに気の知れた仲だし茜も弄るのは義之だろう。

俺に被害がなければそれでいい。

「人形劇に1票。舞台の出来栄えに期待してるぞ、杏。」


「ふふっ、志貴ならきっと人形劇に入れてくれると思った。」

杏が小さな笑みを浮かべながらそう応える。

「あ~あ、また賭けが外れちまったよ。おい七夜ぁ、ここは暗闇の中で男女が密着してオイシイッて状況を作り出すお化け屋敷にするところだろう?」

板橋がまた何かわけのわからないことを口走っているが、気にしないようにする。

「やっぱり志貴君は杏ちゃんのことになると、途端にご贔屓になっちゃうのよね?まったく隅に置けないはね~?」



茜が何を言っているのかいまいち理解できないが、あいつとしては同数票となって話がややこしくなった方が良かったのだろうか?

「はぁ、杏も苦労するわね。まるで小恋と義之みたい。」

俺と杏は断じてそんな間柄ではないだろう。むしろそんな考えを持たれては杏に失礼のような気がする。

そんな考えを巡らせていると、その表情に気がついたのか茜が

「………ほんと、鈍感よねぇ、あの兄弟」

などと不名誉な発言をしてくる。


そこに委員長が割って入る

「しずかに!とにかく出し物が決まったんだから、皆も納得しなさい、主に男子達。もう準備の時間はあまり残ってないんだから女子にイイトコ見せたいなら準備で見せつけなさい。」

「ふむ、委員長にしてはなかなか気の利いたセリフだな。」

杉並が問いかけると

「当然でしょ?もう時間がないから、急ぐ為ならお世辞だって言ってやあげるわよ。」



そんな込んなでHRは終了し人形劇の準備が始まった。












~~~~~~~~~~~~~



現在どのルートへ七夜を進めようか迷っています。

狙いとしては「杏」か「ななか」にしようと 思っていますが(あれ?ななかルートはお化け屋敷じゃ…)
「音姫」や「由夢」も捨てがたい!!

小恋や美夏は七夜の行動からしてルートに結びつかない方向で行こうと思います。

因みに筆者はD.C.II無印しかプレイしていないので他のヒロインのルートが分かりません。

10/8/29_誤字修正




[21529] 第2話「I give you my everyday life」
Name: MTQ◆4d267155 ID:0b998784
Date: 2010/09/05 13:04
[D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)]





~第2話「I give you my everyday life」~






ホームルームが終わると、俺はに学園長室まで来ていた。

別に何か問題を起こして呼び出されているわ気じゃない。

深夜の徘徊にしても、何も不良として興じているわけでもないし、許可も下りている。


コンコンッ


「……………不在か?」

確認のためにドアノブを軽く捻ると、如何やら鍵が掛っていなかったようで、すんなりと空いた。


「…不用心にも程があるね、まったく。」

いくら不特定多数の来訪があるとはいえ、学園長が不在にして常時開放なのは頂けない。


学園長室は他の学園には珍しく和室をベースとしたものになっていて、他人の批評はともかく俺としては設計者のセンスを褒めたいと思う。


「さて、それじゃ少し待つとするかな。」

上がり込んで廊下の冷え切った空気から、コタツの温もりを堪能させてもらうとしよう。

ふと、そこでハリマオ(犬)の気配を感じる。

視ると部屋の隅に小さくなってガタガタと震えている。

「よう、ハリマオ。元気にしてたかい?ご主人様は何処に行ったか知らないか。」

ビクゥッとハリマオは一層小さく身を丸め震えを強める。

動物はその気配で相手の強さ脅威を感じ取ることができるって言うが、ハリマオはその感覚が鋭いのか、それとも己を弱者と認識しているのか。

どちらにしても小動物を手にかける程、俺は残酷じゃないんだけどね。

「しかし悪かったな、生憎と今日は義之は連れて来てないんだ。和菓子は持ってないぞ。」

と言ってみたが、やっぱり震えたままだ。やれやれ、このままじゃ飼い主様にあらぬ誤解を与えてしまいそうだ。

そう思ったところで廊下から、その飼い主様の気配がする。


「ひゃーっ、やっぱりこの時期の廊下は冷凍庫だよ~。」

そんな愚痴をもらしながら学園長のご帰還だ。


「さくらさん、お邪魔してますよ。」

「あ、志貴く~ん」

そう言いながら、さくらさんもすぐにコタツへと向かう。



さくらさん

俺と義之の家族同然の大切な存在であり風見学園の学園長でもある。



そこに、飼い主の期間により緊張が解けたのかハリマオが元気を取り戻し、さくらさんの頭の上にかけのぼる。

「もうっ、志貴君!ハリマオをいじめちゃだめだって、いつも言ってるでしょー?」

さくらさんは腰に手を当てて怒ったようなポーズをとる。相変わらずとも言ってていいが、そういった態度が一段と子供らしく見え、実年齢の謎を更に際立たせる。

「済みません。どうもこの手の小動物には懐かれないもんで…あぁそれよりも、忘れ物っていうのはこの封筒で合ってますか?」

俺はそう言いながら、自宅のさくらさんの机の上に置いてあった、書類などがびっしりと詰まった封筒を手渡す。

すると、先ほどまでのちょっとした不機嫌さは消え去り

「そう!これだよ~!!やっぱり家に忘れてきちゃってたんだ。ふふっ、志貴君はいつでもボクの優秀なワトソン君だよ~!!」

そう言いながらさくらさんが背中に抱きついてくる。というか、俺がワトソンならホームズはいったい誰だ?ハリマオだろうか?

「俺が手駒なのは解りました。っそろそろ離れてください。」

そう言ってさくらさんを離す。

制服の皺を伸ばし、身なりを確認して振り返る。

「それでは、そろそろ失礼します。」

「えー、もうちょっとゆっくりして行けばいいのに。お茶くらい出すよー?志貴君が好きそうなお茶っ葉が手に入ったのに。」

「魅力的な誘いではありますが、さくらさんのような方との学園内での密会は何かと噂が立ちます。家に帰った時に御馳走になりますよ。」

「むぅ、志貴君はここのところ表現の仕方がHになってきたよ。魅力的とか密会とか、そんなセリフを所構わず使ってたら、女の子は勘違いしちゃうんだよ?」

「分別は弁えているつもりですよ。別に見境なく言うセリフでもありません。」

そういうと何故かさくらさんはニヤニヤしたかと思えばすぐに頬を膨らませ睨んでくる。

「それはボクが魅力的って――――そんな訳ないか。やっぱり志貴君はその話し方を直すために、ここでボクとお茶を飲みながらじっくり話し合うべきだよ。」


半ば強引な授業免除を丁重に断り、学園長室を後にしようとする。


「あっ、待って志貴君。悪いんだけど、"今夜もお仕事手伝ってくれる?"」

とたんにさくらさんの声が真剣になる。

『仕事』、俺の日課でもある深夜徘徊――――――――ということは今夜も朝倉姉妹には早々に帰宅を願うとしよう。芳野宅にわざわざ来てくれるのはいいが、義之はともかくあまり人数がいたら俺が密かに家を抜け出していることに気がつかれるかもしれない。


「解りました。それでは21時30分にいつもの場所で落ちあいましょう。」












教室に戻ると杉並や義之の姿は無かった。

「?あの二人はどうした?そろそろ授業が始まるぞ。」

そう板橋に問いかける。

「あぁ、何か知んないけど飯食うって言って校舎出ていったぞ。」

「杉並のことだ。また余計な厄介事に義之を巻き込んでいるのか。」

いつものことだからあまり気にしないでおこくとしよう。


ふとそこで視線を感じ振り返ると、杏が近寄ってくる。

「志貴、人形劇の配役について、ちょっと相談したいことがあるんだけど。」

何やら俺に劇の役者を指名するということだろうか?

でもまぁ、俺には色々と仕事があるので台本を覚える時間はあまりない。難しい役どころはパスさせてもらうとしよう。

「主人公なら義之が最適だろ…ヒロインは――――月島が最適って所じゃないか?」「!――――……」

杏は一瞬大きく眼を開くと同時に表情に影を落としてしまう。

…さて?何か不適切な事を言った覚えは無いんだが。

そこに茜が少し困ったような顔をしながらやってくる。

「もう、志貴君ったら解ってないな~ぁ。」

「?ん。俺はてっきりクリスマスの人形劇は純愛ものを作るのがセオリーで、杏も例にもれないと思ったんだが。」

「あぁ~……うん、間違っては無いんだけど、その主人公は志「茜。いいから。――――そう、純愛もので主人公は義之に頼みたいの。今教室にいないみたいだから後で伝えてくれる?」…」

「ああ、構わないよ。」

何だろうか、茜が何か言いかけたようだったが…あまり気にしなくてもいいか。










全校集会の時間になりクラスの大多数が移動を開始し始めたころ、昼食?から戻ってきた義之が机に突っ伏していた。

「おい、義之。全校集会の時間だ。そろそろ移動しないと、また委員長の説教が入るぞ。」

彼女の眉間のしわの除去に協力するつもりはないが、皆が速く移動してくれないと、ちょっと今の俺には都合が悪い。

「あー、オレはパス。」

「何だ?昼飯でも食べ損ねたか?」

「そう、腹が減って動きたくない。」

だらしなく机にもたれかかる姿が無様でならない。昼食を抜いた理由は恐らく杉並が絡んでいると考えていいだろう。

「いいから、さっさと教室を出ろ。」

「わぁったよ。」

漸く立ち上がった愚弟と一緒に教室を出ようとすると、まだ移動していなかった杏と目が合う。

「あ、何故かこんなところにお昼の残りのアンパンが。しかも、私はお腹いっぱい。さて、どうしたもんかな?」

殆ど三文役者な、抑揚のない声で近づいてくる。

「……」

何か、明らかにわざとらしいセリフが聞こえたが、これは義之と俺と、どちらに対してのものだろうか?

状況から考えて、腹減ったと公言していた愚弟に対して向いている厚意だろう。

「……義之、さっさとアンパン喰って移動しろよ。」

「――――っえ?」

そう言ってオレは教室をを後にする。     廊下に出る瞬間、杏はまた表情が曇っていた。










10分後

廊下を歩く姿は俺一人、ナイフを持って歩いている。

さっき一瞬見えたのは、桜が叶える願いのナニカ。

桜のフィルターをすり抜けてやってきた悪しき願い。

呼吸が整えられて、だんだんと気分が高まっていく。

そして入ったのは同じ学年だが違うクラス。

まあ、あまり興味がないので違うクラスに誰がいたかなんていちいち覚えては無い。


そこで一気に圧し掛かる退魔衝動。


                         誰も居ない教室
イシキを集中させる
                         蒼い瞳の浄眼で見るる世界
                  否
直死の魔眼で視るセカイ
                         見えざるモノが視える世界
ツギハギだらけのセカイ
                         そこで現れるのは一つの願いという形のないナニか
誰の願いか知らないが
                         狂った歪な悪しき願い
この手の届く場で牙を向くなら
                         それが確かに存在するなら
           
           


        何であろうと殺して見せる


        
        
願いの不確かな形に走る線を凝視する。

すると、その殺気に気がついたのか、こちらに向かって飛びかかってくる。伸ばす体は、まるで無数の腕や手のようだ。

絡め取るように掴みかかってくるが、そんなものは自殺行為にすぎない。

そう、"まるで自殺願望があるみたいだ"

しかし、そんな願いをかなえてやる義理なんて何処にもない。

「死にたいなら独りで死ね。他人を巻き込むなら今すぐ死ね。」

そう言ってナイフを振るい無数の腕に走る死の線を切断してゆく。

そして最後は大きく跳躍して天井に張り付き、足のバネを最大限まで利用し、黒く集まる死の点がある部分に向かって一直線に落下する。


『独りで死ぬのはいやなんだ!白河さんっ!彼女が一緒にいてくれるなら、僕は―――――「五月蠅い」――――ガァっ』


死の点を突かれたナニカは断末魔とともに消えて逝く。

簡単すぎた仕事が終わり魔眼の発動を治める。ナイフもポケットにしまい、両腕を上に大きく伸ばす。


「さて、いい天気だし屋上で昼寝でもするか。」

外は12月でだいぶ寒いが、雲ひとつない天気だ。1時間くらいなら大丈夫だろう。

どうせ今夜も眠れないんだ。全校集会をさぼるくらいは許されてしかるべきだろう。音姫姉さんから後で小言を受けそうだが、その時はその時だ。

ふと、気を緩めたせいか、空腹感が襲ってくる。

「アンパン…もらっておけばよかったな」

不意に杏の顔が思い出された。












昼寝も無事に終わり階段を降りていると全校集会が終わったのか、やけに廊下が騒がしかった。

と、そこでだらだらと廊下を歩いている義之達と合流する

いきなり姿を見せたためか、板橋が首を傾げながら訪ねてくる。

「あれ?七夜、お前今までどこに行ってたんだよ?」

「ああ、ちょっと眠くなってな。屋上で昼寝をしていた。」

「おい志貴!オレには全校集会に出ろって言っておきながら、お前は抜け出してたのかよ。」

義之がくらいついてくるが、当然無視する。

俺の仕事は周りの皆は勿論のこと義之や朝倉姉妹も知らない。

知っているのは、依頼主のさくらさんと朝倉のじいさんだけだろう。

「ってことは七夜は音姫先輩のスピーチは聞いてないんだな?――――っつってもあれか?どうせ学校で合えなくても家に帰れば間近で会話とか色んな事が出来るから必要ないとか言い出すんですかお前はーーー?!!」

板橋が暴走し叫び始める。

「五月蠅い、声を張り上げるな。」

それに音姫姉さんの好意は俺に向くことなど無いだろう。由夢に至っては敵意を持って避けられているくらいだ。

「あーーっ!弟くん、みっけぇ!」

噂をすれば何とやら、音姫姉さんがだらしのない笑顔で義之に近づいてくる。

「えへへ~」

本当に義之の前になると駄々尼になるところは全然成長していないようだ。

「あー、ほら、ちゃんとホックする。」

ホックを直そうとして二人が接近している描写をみると周りに塩をまきたくなる気分だ。

「それで?朝倉先輩は途中であろう仕事の方は大丈夫なのか?」

俺がそう尋ねると音姫姉さんは頬を膨らませて

「もう、大丈夫に決まってるじゃない。そ・れ・に!わたしは仕事を途中で投げ出したりしないんだよ。」

辺りの視線から察するに、無自覚の発言だろう。こわいね、ほんと。


(ねえねえ、あいつ誰?)

(音姫先輩とどういう関係だよ?)

(あいつ七夜だよ、桜内の兄貴で噂じゃ朝倉姉妹と姉弟らしいけど)

(七夜は別に害じゃないけど問題は桜内だ!)


などと変な小声が聞こえるが無視をする。

「あ、そうそう弟くん、この後なんだけど時間ある?」

視線が一層厳しくなり義之は折れる。

そこに高坂先輩がやってきて音姫姉さんを回収して去っていく。

「今日も晩ご飯作りに行くからねー。一緒に食べようねー。」

さて逃げるとしよう。

義之が俺の名前を叫んだ気がしたが、なに、気のせいだろう。










夕焼けに闇がさしかかった来た頃、俺は義之と一緒に校門を出ようとしていた。

「まったく、さっきはよくも見捨ててくれたな。」

「好意の全てはお前に向いてたんだ。相手はお前がしてしかるべきだろう?」

あんな好意いやだと義之は吐き捨てる。

そんな雑談をしながら校門まで差し掛かると、そこには義之を待っていたと思われる由夢が立っていた。

寒そうに体を抱きしめ白い息を吐いていることから、長い間ずっと待ち続けていたらしい。

「じゃあな、義之。おれはちょっとばかし寄り道して帰るから。」

「え?おい、志貴!」

走りながら一瞬だけ由夢の表情を確認する。

俺を視る眼は鋭く氷のように冷淡である。

それだけわければいい。

当然と言えるだろう。

由夢は未来を夢で見ることができる。

義之は他人の夢を視ることができる。

そして俺は他人の夢を見る者の視点に成り代わり見ることができる。

俺が由夢の見た夢を由夢の視点から見たとき流石の俺も絶句したくらいだ。

以来、由夢が俺を嫌う理由も納得できる。

あいつの視る"夢"(未来)は回避できない。

桜の木の下で俺が■■■■■■■■■■■なんて










「弟くん、みりんとって?」

そんな声が聞こえてくる台所を背に、俺は2階の自室でテレビのニュースを視ていた。

初音島の主な出来事を語るキャスター。

平和そうな1日だ。だけど――――――――――いや、それを片付けるのが俺の仕事か。

そう思い、1階の居間へと向かう。

さて、今日の晩御飯のメニューは何だろうか。

「あ、志貴君。もうすぐ出来上がるからお皿出して盛り付けるのてつだって。」

音姫姉さんがお玉を持ちながらエプロン姿で出迎えてくれる。これも芳野家に俺たちが引っ越してから目にする日常。

「了解。義之はご飯をよそってくれ、こっちは俺が盛り付ける。」

「わかった」

テキパキと準備が進む中で、由夢は今も横になりテレビを見ている。

由夢は食べるのが担当、俺は手伝い担当。ま、五十歩百歩ってとこだろう。何も言うまい。




「それで?弟くんたちのクラスは何をするの。」

食事が始まり、不意に音姫姉さんがクリパの出し物について尋ねてくる。

「ああ、人形劇だよ。因みに決定は志貴。」

「…発案は杏だ。」

「人形劇って、あの人形劇?」

他にどんな人形劇があるんだ?

「へ~、志貴君が人形劇に決定したんだ。ちょっと意外かも。」

「他の案が杉並のお化け屋敷だったんでね。」

「あ、……あはは、成程。いい選択だったね。うん、お姉ちゃんはよく出来た弟を持って幸せだよ。」

音姫姉さんも渇いた笑い声をあげる。杉並に苦しめられている生徒会としては悩みが緩和されたことだろう。

「でも意外だね、お兄ちゃんならメイドやバニー、チャイナ服の喫茶店とか言いそうなのに。」

義之が苦々しいい顔をする。ある程度の発案がそろうまで俺と同じく寝ていたんだ。仕方ないだろう。

「そうだ義之。杏からの伝言で主役はお前が演じるそうだ。」

「まて、聞いてないぞ!オレが主役?!む、無理だって。」

「えーっ!弟くんがしゅ、主役ー!?」

音姫姉さんが声を張り上げる。義之のこととなると本当に面白い。

「で?でで?どんなお話なの?弟くんはどんな感じの役?」

そう言って今度は俺に詰め寄ってくる。前言撤回、少し面倒だ。

「まだ台本を見たわけじゃないが、たぶん純愛もののストーリーになるんじゃないかな?」

そこに、珍しく由夢が俺に話しかけてくる。

「あ、相手はどなたです?」

今まで興味のないようにふるまっていたようだが、義之の話となると由夢も弱い。

「…………」

音姫姉さんも一段と顔を近づけてくる。

「恐らくだけど、月島さんあたりになるんじゃないかと…」

「えっと……小恋?」

義之が疑問形になっているのを横に由夢の眉間に皺が寄る。

「ふ~ん、小恋先輩とラブロマンスかぁ。」

「え、えっちなのはダメだからね!弟くん!」

「学園のイベントでエッチも何もないでしょうが」

義之が必死に突っ込みを入れる。確かに、学園イベントでそんなイベントが起こるなんて聞いたことがない。

「だって弟くんだもん!」

「そうだねー。兄さんだしね」

由夢も調子に乗ってからかいはじめる。

「何言ってるんだよ!それなら志貴の方がオレよりよっぽどエロいじゃないか。」

は、何を言い出すかと思えば、

「ほう、義之。別に今すぐお前の部屋のベッドの下にあるア「済みませんでした!オレの方がエロいです!」解ればいい。」

義之が土下座しているのを後目に俺は黙々と晩飯を頂くことにした。










21時30分
さくらさんと約束の、桜の木の下で落ちあっていた。

「やっほ~志貴君。」

「済みません、少し遅かったですか?」

「ううん、丁度時間通りだよ~。」

その表情はこれから始まる仕事を前にしても心が温まるものだった。

俺はこの笑顔を守り通さなければならない。

それが、この俺に与えられた直死の魔眼を使う意味。

「ああ、そうそう。帰りにレンタル屋さんで大岡裁きの全26話を借りようと思うんだけど、帰ったら一緒に観ない?」

「明日も授業があるのでご遠慮させて頂きます。」

「うわ、即答だよ。冷たいなー。いーじゃん、休んじゃえば。」

「勉強ならボクが手取り足とり教えてあげるよ。学校で習うのよりもずっとすごいの」

「さくらさん。その言い方は、学生である身にとっていささか刺激が強すぎますよ。」

「もう、七夜君はすぐエッチな方向に持っていくんだから。」


悪意の願いが、また一つ、また一つと見えないフィルターをかいくぐってやってくる。


いいだろう。


俺の行う仕事は、願いを叶える桜の木の管理を行うさくらさんの手伝い。

さくらさんが取りこぼした悪意のある願いを桜の木がかなえる前に、その願いが形となる瞬間をコロス。

今夜の悪意はどんなものやら。

と言っても、変わりは無い。衝動のままに今宵も舞うとしよう。



さあ、殺し合おう。









~~~~~~~~~~

あとがき

色々と酷くて済みません。

杏と七夜の関係は一見するとナナヤヒドイヤツですが、この先の発展に期待できるようにします。

由夢は未来視でとある結末を見てしまった為七夜を嫌っている設定にしました。

音姫にとって 義之:LOVE 七夜:出来た弟(兄)という感じです。仲は今のところ良好で、ある意味自慢の弟。

桜の木のバグが悪性の願いをかなえる瞬間、見えないながらも形を持つという独自設定を取り入れました。(まさに浄眼が大活躍)





[21529] 第3話「Why do you live?」
Name: MTQ◆4d267155 ID:00e8f240
Date: 2010/09/18 08:56

[D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)]





~第3話「Why do you live?」~



12/17(Fri)


朝の日差しと体の軋みによって俺は目を覚ます。

視界に映るのは居間のコタツと点けっぱなしのテレビ、そしてコタツに潜り込むようにして眠るさくらさん。

時刻は7時を廻ったところである。昨日は3時半までDVDを一緒に観ていたが、そこから先は二人とも眠ってしまったらしい。

俺も学校に行く準備を進めながら台所に立ちコーヒーを淹れトーストを焼く。

こんがりといい色になったところで、さくらさんを起こしにかかる。

「さくらさん、もう7時10分になります。そろそろ起きたください。」

肩を優しく揺すりながら声をかけると、時間に反応したのだろうか。さくらさんは勢いよく目覚め、顔を青ざめるさせる。

「ふ、ふにゃぁあっ!!ちち、遅刻だよ~~~~!!!!」

バタバタと着ていた寝巻を脱ぎ捨て普段のブラウスにネクタイ、ミニスカートの姿へと着替えていく。

「酷いよ志貴君!!何で起こしてくれなかったのさ~?!」

「確か職員のみなさんは7時45分までに出勤でしたね。ここからですと、大体走って10分程度じゃないですか?」

「それは志貴君だけたってば、私なんかじゃ30分はみないとダメなんだよぅ。」

そう言いながらもさくらさんは走りまわり、書類や荷物を鞄に詰め込んでいく。

「さくらさん、とりあえずトーストくらいは食べていってください。」

「むぅ。生憎だけどボクにはそんな愉快なフラグを建てる趣味は無いんだよ!?」

よく解らない発言は放っておくとしよう。

さて、朝倉姉妹がやってくるまで少し時間がある。

俺も既に制服姿へと着替えてある。

「……では、さくらさん。俺が送っていきますよ。残念ながらコーヒーは学園長室で淹れて下さい。」

「へ?」

そう言い終えるか否か、俺はさくらさんの口に半ば無理やりトーストを加えさせると俗に言うお姫様だっこをする。

「ひゃぅっ!?」

可愛らしい声が聞こえるが気にせず、玄関でさくらさんの靴も回収し家を飛び出す。

「これなら15分程度で着きますよ。」

「な、ななな…志貴君!!恥ずかしいよ。ボクは一応キミの保護者であって―――――っ」

「スピードを上げます。あと、口にものを加えながら話すのはマナー違反ですよ。」

そう言うと、さくらさんは顔を真っ赤にしながら俯いてブツブツと恨み事を吐くだけになってくれた。

既に太陽が昇っているとはいえ、流石に冬至が近い朝は冷え込みが強い。さくらさんの今の態勢では風をもろに受けてしまう。

その証拠に、寒いのだろう少し体が寒さで強張っているように見える。

「さくらさん少し止まりますよ。」

そう言って俺は一度立ち止まり、さくらさんを地面に下す。

「志貴君?どうしたの?」

尋ねてくるさくらさんに応えるように、俺は学ランを脱ぐと、さくらさんの肩にそれを掛ける。

「そうしていれば幾分かは寒さは凌げるかと思いまよ。」

そう言うと、さくらさんはまた顔を真っ赤にして

「そ、それじゃ志貴君が寒いんじゃないかな?それに…こんな姿で登校したら、その、恥ずかしくて死にそうな気がするよ。」

?最後の方が声が小さく聞き取れなかったけど、なんて言ったんだろうか?

そんなやり取りをしながら俺は、さくらさんを再び抱えて走り出した。






~Side-Yoshiyuki~



「あれ?志貴君は?」

音姉が疑問の声を挙げたのは家を出る寸前だった。

「ああ、何かこたつの上に書置きがあって」

『さくらさんが寝坊したんで学校まで送っていく。トーストとコーヒーを処理して来るように。』

そんな簡潔なことが書いてあった。おかげで朝食を作る手間は大分省けたけど、醒めたトーストとコーヒーはいまいちだった。

「ふ~ん。志貴君って足がすごく速いからね。」

確かにそれは俺も驚くところだ。普段は貧血気味だの何だの言って、碌に動こうともしない癖に、異常なまでに運動神経がいい。

おかげで勉強の面だけではなく運動の面でもあいつにはまったくと言っていい程はが立たない。

「兄さん、そんな話はお終いにしとかないと、また遅刻しますよ。」


由夢の奴はずっと前からそうだけど、志貴のことを嫌っている。理由を聞いてみてもまともな答えが返っためしがなく、原因は未だに分からない。

「わかってるよ」


音姉は昔から志貴のことを出来のいい弟と認識しているらしく、気にはかけているものの、あまり俺に対してのような構いたてはしない。むしろあいつの行動にはかなりの信頼を置いているといってもいい位だ。

それに、高坂先輩とかは志貴のことを来年は生徒会役員にしたいと息巻いている。確かに志貴なら、普段の態度こそ怠慢だけど生徒会の業務も卒なくこなしてしまいそうな気がする。


俺にとっての七夜志貴は、小さい頃から何処か達観している、仙人みたいなやつだった。

いつも月夜には屋根の上で寝転がり、学校では友人はいるものの深く関わろうとせず、いつも其処にはないナニかを見つめている。

時々蒼く輝く瞳について、尋ねて見たことがある。そうしたら

『人の領分を超えちまった業ってヤツだよ。』

こんな感じで、まともに返しちゃくれなかった。


一緒に暮らしているさくらさんは、志貴とはずいぶんと馬が合うらしく、何かとじゃれ合っていることが多い。

というよりも、最近では傍から見ると兄妹のような関係に見えてくる。兄妹ってところは誤字じゃなくて、ほんとに。

最近さくらさんは、以前に比べてかなり早く帰ってきてくれているけど、どうも志貴が仕事を手伝っているらしい。

どんな仕事を手伝っているのかは知らないけど、聞いたところで二人はまともな返事なんてしてくれない。まあ、日常会話でもそんな感じだけど……



ふと関係ない思考に脱線してしまったけど、とりあえず、―――――音姉の弁当が食べたいな。







―――――――とはいったものの、結果は間に合うべくもなく音姉や由夢に計画性がないと、冗談交じりに罵られてしまう。

「兄さんはテスト前に1夜漬けするような人だもんね。」

由夢の奴がまた不名誉気回りない妄言を洩らす。

「お前だってそうだろうが。」

「や、わたしは成績いいですから。」

「くそ、いつもはゴロゴロして勉強なんかしてない癖に」

「あはは~、何かそういうった意味では、由夢ちゃんて志貴君にそっくりだよね~」

ビシリ!

と、音姉の一言に由夢の表情が硬直する。

「お姉ちゃん?わたしがあいつと?ごめ~ん。なんかよく聞こえなかったんですけど?」

由夢の顔に青筋が浮かぶが音姉はまったく気が付いていない。

音姉は由夢が志貴のことを嫌っていることを知らない。というかまったく気が付いていない。

「え~?似てる所なら他にもあるよ?たまに達観した雰囲気になるところとか、そっけないふりしてちゃっかり面倒見が良かったり……」

うん、そう言われると志貴に似ている所がちらほらと。

そう言えば志貴は素でポエムみたいな言動を吐くことがあるけど、由夢は何だかメモ帳みたいなものに書き溜めているみたいだ。そういった意味では由夢の嫌う理由としては似た者同士の敬遠なのか。






~Side-out~








さくらさんを校門まで送ると、学ランを返してもらい教室で寝てくるといいつつも、朝食をとっていなかったことを思い出し、コンビニでアンパンとサラダ、缶コーヒー等を買い再び学園へと歩いていた。

ホットコーヒーなので冷めると買った意味が無くなってしまう。そう思い袋から取り出すと、プルタブを開け一口のどに流し込む。

「おはよ」

「ハオハオ~」

と、後ろから声を掛けられる。どうやら杏と茜のようだ。

「おはよう、二人とも。」

振り向きながらそう応えると、二人は不思議そうに俺が持っているコンビニの袋を見る。


「ああ、ちょっと早めの登校になっちまったんだけど、朝食を採ってなくてね。コンビニで買ってたんだよ。」

「なぁに?早朝ランニングでもしてたの?」

茜がニヤニヤしながら尋ねてくる。確かに普段ではそんな健康的な運動を俺はしないが、適当に答えておくとしよう。

「ま、そんなもんだ。」


「志貴、これ…」

杏が何か本のようなものを俺に手渡してくる。

「ん?これは人形劇の台本か?2冊あるってことは1冊は義之に渡すとして…」

「そう!もう1冊は志貴君に持ってて欲しいの。」

茜がそう言いながら、手を合わせてまるで悪気のないポーズをつくる。

「まだ作成途中だから配役を決めてない部分もある。だから一応持ってて」

杏が、そう言うなら仕方がない。暇な時にでも目を通しておくとするか。

「分かったよ。それじゃあ行くか。」


そんな形で俺は学園へと再び向かった。







~Side-Sakura~



(もう、本当に志貴君は格好付けたがり屋さんなんだよ。)

そう思いながら、ボクは朝の職員会議に参加する。

連絡事項の確認……うん、昨夜は志貴君も大活躍だったから、これと言って事件なんかもないだろう。

転校生?天枷美夏?――――天枷。なるほどね。

別にいいか。

ボクの幸せライフに干渉してこなければ何だっていいよ。

そう思いながら、少し緊張が解けたのだろう。教員デスクの上で、顔を左右にゴロゴロする。


漸く長ったらしい打ち合わせが終わり、ボクも朝の見周りと題して校門前に出ようとする。

(――う~、また外は寒いんだろうな……義之君なんか寒さで冬眠しちゃいそうだよ。)

学園長の息子が冬眠とは、またこっけいな話ではあるけど。


義之君はボクの大切な息子だ。それこそ目に入れても痛くないくらい。―――実際に入れたら失明は必至だけどね。

成績はお世辞にもあまり良いとは言えないけど。最近じゃ人間の個人差を疑いたいところがあるから、まったく気にしてない。

正体は偽りの桜に願ったIFの存在。

ボクと純一の息子。ありえなかった存在。

まぁ、そんな訳で未だにわたしは、処女にして血のつながった息子を持つ、マリア様もびっくりな生活をしている。


そして、七夜志貴君

彼は"偽りの桜が呼び出した存在"

私が桜に願いをかなえてもらうと同時に作り出された存在―――――いや、呼び出された存在。

初音島の外にいるときは基本的にアメリカや、そうでなくても何処かの研究所に篭りきりだった為、人外魔境にかんする闇の事情なんて全く知らなかった。

まったく、魔女失格ってとこだろうか?

七夜

日本の退魔組織の最強を誇っていた四家の一角。

暗殺を主とし、浄眼と言う特殊な眼を用いて、混血を見極め狩る殺人鬼集団。

そして、混血に滅ぼされた一族。

情報管制が掛っていてここまで調べるのは大分苦労した。。

そして七夜志貴は桜の木の下に現れた日、公式記録では死亡した日だ。

更に調べて、彼が身を置いていた遠野家において、当主の息子が遠野四季から遠野志貴に変っていたこと。

志貴

恐らく先祖がえりした"遠野"(混血)との間に何かあったのだろう。志貴君の胸には、猛獣に抉りとれたような大きな傷跡がある。


そして――――――――直死の魔眼を持っている。


浄眼が死を理解し視えない筈のものを映し出している。

それは、根源と繋がった対極の器では無く、純粋に死を見る悪夢。

なのに志貴君は、その死と向き合い笑っている。

視る相手が殆ど歪な桜の願いだからだろうか?

なんにせよ、たぶん彼は緊急装置なのだろう。

桜の木がどうしようもなくなってしまった時の為に、自らが打ち出した保険。

つまりそれは、桜の木を殺すことを意味する。

彼はいつも見ているんだろう、その瞳に万物の死を。


……そんなものが視えて普通でいられるわけ無い。

それはとても悲しいことだし、理解できても脳が追いつかなきゃすぐに焼けついて廃人になっちゃう。


なのに、いつもボクを助けてくれる。

最初のきっかけは志貴君が小学6年生の時。

何時ものように願いをフィルターに通していた時、歪な願いがするりと一つ漏れ出した。

『朝倉由夢!いつもいつもいつもいつも男子にいい顔振りまいて!!死ね、死んじゃえっ!!死んでしまえ!!!!』

あの時は本当に間に合わなくて、必死で泣きながら走った。

あと一歩で追いつくところで、由夢ちゃんに襲いかかろうとしている願いを。


「――――――極彩と散れ――」

志貴君がその右手にナイフを逆手で持ち青く光る魔眼を持って、願いを17の破片へと解体しつくし殺した。

訳が判らずにいる由夢ちゃんはその場で泣きだしてしまった。

当然だろう。ナイフを持った少年がいきなり前に飛び出し暴れだしたのだ。同じく小学生の女の子にしてみれば恐怖以外の何物でもない。

まあ、そんなこんなで。その晩、志貴君から頼みがあるということで話があり聞いてみると、そこで初めて志貴君の力を知り得た。


それからは週に1,2回退魔士として桜の歪な願いを排除してもらっている。最近では、どうやら学校にいる時も暇を見て殺しているようだけど。

だけど、正直なところを言えばボクは志貴君にこんなことはしてほしくない。

義之君とは兄弟みたいな関係だし、音姫ちゃんだって義之君以上に姉弟として認めている。由夢ちゃんとは…あの一件より前から志貴君を嫌っているけど何が原因なのかな?

そしてボクのことも本当の母親のように……と言うよりも一人の女性として扱ってくれるから何だか構ってあげたくなっちゃうんだよね。



願わくば、この幸せな時間がいつまでも続いてくれるといいんだけどな~。






~Side-out~











~~~~~~~~~~~




説明の回でした

次回からはもっとまともに書きたいとおもう。

色々設定を考えていかないと辻褄が合わなかったりして大変だ…



[21529] 第4話「The fate is everyday life」
Name: MTQ◆4d267155 ID:00e8f240
Date: 2010/09/21 23:58

[D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)]





~第4話「The fate is everyday life」~



「……というわけで、俺はたこ焼きはやっぱり大阪が一番だと思いました。終わり」

救われないな、本当に

『地球と温暖化について』というレポートの発表時間に板橋はたこ焼きのレポートを出してきた。

しかも文章は小学生レベルときた。まったくもって救いようがない。もともと救う気もながな。

さて、俺は一応やってきてはいるが、あまり目立つのも好ましくない。

このまま授業が終了してくれるのがありがたい所だ。

「七夜、君のレポートを発表しなさい。」

しかし、願いとはそう簡単に叶わないものだ。それは万人の思う所であり矛先が俺に向かってきた。

くそ、これなら眠っていればよかった。この先生は眠っていれば指すこともない人だからな。

まあ、ボヤいても後の祭りだ。せいぜい道化を気取るとしよう。




「―――――――――」



「よく出来ていますね。そして何より簡潔だ!評価はAです。」

まったく、いちいち評価を言わなくても成績表に書いてくれるだけで十分だってのに。

「感動したぞ七夜。まさかお前の温暖化に対する意識は核戦争にまで気を向けていたとはっ!!」

「杉並。俺は核戦争なんて単語は一言も使ってないぞ。」

「何を言うか!!あの"干ばつ"という言葉には暗にそう言った意味も含まれているのでは!?」

…ない、というか、あってたまるか。

そんなこんなで午前の授業が終わると、俺は真っ先に廊下へと出た。

先ほどから悪性の願いが構内をうろついているのが視えた。つまり――――

「今日も昼食は食べられそうにないな。ま、その分欲求は解消出来る。要は3度の飯よりもこれが好きってね。」

まったく、生物の3大欲求というものがあるが、最早これは第4の欲求と言ってもいい位だ。俺の"退魔"の欲求は。








「やれやれ。それにしても最近はあれか?そのシラカワサンって子が人気なのか?ま、当の本人はこんなギャラリー望んではいないだろうがね。」

昼休み、俺は屋上で複数の願いと対峙していた。

『白河さん!何で!なんでボクのことを見てくれないんだ!!』『白河さんに手を握ってもらえた瞬間!俺は君しかいないと確信したんだ。』『どうせお前もコ―ユウコトしたいと思って俺に近づいたんだろ?白河』

『――――――――!!』『―――――――――!!!』

「五月蠅い、願いごときが囀るな。」

願いとの距離は、四方を固めるように散らばっていたが、俺の声に反応したらしく一斉に飛びかかってくる。


白河だか何だか知らないが、お前らは絶対にその人の下へはたどり着かない。何が願いだ。そんな願いを桜の木に込めなきゃ告白の一つも出来ない分際で、誰かを振り向かせようなんて無理に決まってるんだよ。


俺はナイフを逆手に握り、幅跳びを行うように大きく跳躍し、前へ飛び出す。


――――閃鞘・迷獄沙門―――――

直死の魔眼は万物の死を視る。

願いも、屋上の床も扉も、給水塔も―――――空と雲にはまだ視えない。

当然だ、それを理解してしまっては、俺でも生きていけない。

あの見上げた空まで落ちてきそうになってしまったら、そこまで見えてしまっては、その時は七夜志貴は自分自身を保っていられない。

最近は地面も視えるようになってきてしまったんだ。死の点は薄らと、しかし確実に視えてきている。

その内魔眼は押さえられなくなる。だけどそれまでは―――――お前らのような脆弱な願いに屈したりはしない!!


「弔毘八仙、解脱と悟れ…!」


願いと交差する瞬間、無数に走る死の線を一つ残らず切断しその思いすら塵芥へと返す。

いつ見ても消えゆく瞬間の願いは気持ちが悪い。今日のような願いはまだいい。

時々ある憎悪のような願いは、正直言って厄介気極まりない。

願い自体が強力な意志を持ち、襲いかかってくることもある。

…だからこそ、俺の眼が重要になってくるわけだが―――――っ!!

今日は少し、死を視過ぎたみたいだ。頭痛と吐き気がする。


よろける足に鞭を打ち、屋上の扉を開け階段へと足を掛けたが。


グラリ


拙い、こんなときに貧血かよ―――――


使えない体だ、このポンコツめ。

そのまま俺は…無様にも階段を転げ落ちるように気絶した。







~Side-???~


「え~……?とりあえず、………い、生きてますか?」

……………返事がない。ただの屍―――――じゃなくてっ!!!

「え!?ほんとに意識がない?!ねぇ、しっかりしてよ!ええと…多分同じ学年だと思うそこのキミ!!」

こういうときは、なるべく体を揺すっちゃいけないって聞くから、倒れている男の子の頬を軽く叩く。

放課後になり、小恋や渉君が音楽室に来る前に、少し屋上の空気を吸いに行こうと向かったら……男の子が階段下で倒れていた。

サラサラとした黒髪が特徴的で胸ポケットから何か鉄の棒…文鎮みたいなものが飛び出している。

そこに書かれていた文字は「七夜」……七夜君?――――思い出した。確か義之君のお兄さんで、七夜志貴、志貴君だ

そこで、注意深く観察すると小さいながらも寝息を立てているのが判った。たぶん貧血か何かで倒れたんだろう。体が弱いって噂で聞いたことがある。

志貴君を仰向けにし、膝枕に頭を乗せる状態にする。

その顔は死んでいるように儚く、とても安らかな顔だった。不謹慎だと思うけど、そう思いたくなるくらい静かな顔だ。

「う、――――ぅん…?」

どうやら気が付いたみたいだ。

「大丈夫?七夜君」

そう言いながら彼の頬に軽く手を添えてみる。

『何だ――――?俺は屋上から出て……そうか、階段を踏み外してそのまま気絶したのか……なんて無様。』

彼はそんな事を考えていた。

でも変だな?いつもはただ漠然としか解らないのに、彼の声は驚くくらい澄んでるように感じ取れる。

「大丈夫かな~?起きたかな~?」

そう声を掛けると、彼はまだ意識が半覚せい状態のような声で

「ん?…誰だ?」

まだ視力が上手く働いていないらしく、目を細めながらそうつぶやく。

だけど、何故か―――――彼の瞳がとても蒼い。

その青さはとても怖くて、まるで私のナニカを視ているようで――――――――― 一瞬、私の視界に"黒い線"が視えて――――

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死


頭の中が死で――――視界が死で埋め尽くされる。

「――――っひ!!!」

思わず立ち上がり廊下の端まで下がる。


どっと出た冷や汗が止まらない。おかしいよ、今は12月だよ?体は冷えているし、汗なんか出るわけないのに、いやになるくらい流れてくる。血の気が引いて、鳥肌が立ち、震えも止まらない。

頭痛にめまいもするし、風邪でも引いたんだろうか。


――――っっゴッ!!!

「ぐあっつ!!?何だ?!新手の奇襲か!?」

ふと見ると、私が急に離れたせいで、私膝の上に頭が載っていた志貴君は、盛大に後頭部からタイルに向かって頭突きをかましてしまったらしい。

「あ……」

声に出そうと思っても、後の祭りだろう。気がつけば、黒い線はもう何処にも視えない――――――さっきのはいったい何だったんだろう?

「つぅ……おかげで眼は完全に覚めたが、何なんだいったい?」

よろけながらも立ち上がり、眉間に皺を寄せながら志貴君がこちらを視る。っていうか睨む。

その瞳は黒く、先ほどのように蒼くない。

「ええと、ごめんなさい志貴君。倒れてたから様子を見てたんだけど…」

言えない。膝枕をしてたけど、突然離れて頭をぶつけさせたなんて言えない。

「ん?ああ、如何やら情けない姿を見せてしまったようだね。ええと―――」

「ななか、白河ななかだよ、志貴君。」

「白河さん?―――――そうか、君が白河さんか…でも、どうして俺の名前を?」

どうやら私の名前だけは知っていたらしい。

「あ、それは――――はい、この鉄の棒に七夜って書いてあったから、義之君のお兄さんだなって思って。」

そう言って先ほど拾った鉄の棒を志貴君に渡す。

「その棒って文鎮?なんかすごく使い込まれた感じがするけど?」

なんとなく聞いてみる。文鎮なんて普通の学生が持ち歩くものでもないし、かといってお守りにしてはずっしりとし過ぎていてる。

「ああ、これはナイフだよ。護身用で、飛び出し式なんだ。」

そう言うと志貴君はどうやったのか、手の中の棒を軽く握ると何の変哲もなかった鉄の棒から刃を出す。

ナイフと言う言葉から私が想像してたのは両刃の洋式タイプだったけど、如何やら日本刀みたいな片刃で少し厚みがある。


でも、同時に怖かった。


何で護身用とはいえ、志貴君みたいな男の子が持ち歩いているんだろう?しかも自分の姓が彫られているなんて、よほどの特注品だろう。

しかも飛び出し式とはいえ、そんなのはバタフライナイフでもいいだろう。現に私のクラスの男子もそのくらいは持っているのを視たことがある。

だけど志貴君のナイフは私が一見したときに、それが何だとは判らなかった。

そう、まるで気付かれないように人を傷つける為のような作りだ。


第一護身用ならスタンガンとかでもいい筈なのに――――――――


――――まるで、ナニカ黒い線を斬る為のような――――――――


「どうした?顔色が良くないぞ?」

ハッと気がつく。志貴君が心配そうな顔で見つめている。

「ううん、大丈夫。ナイフって聞いてびっくりしちゃっただけだよ。」

「それは済まなかった。確かに女の子の前で見せびらかすような物じゃなかったな。配慮が足らなかったよ。」

志貴君は申し訳なさそうに言うと。ナイフの刃を治めてポケットへしまう。

「でも、ナイフに自分の名字がっ彫ってあるって、志貴君てそう言うのを集めるのが趣味なの?」

「―――これは、俺の家族の形見なんだ。」

「え?」

家族って?と聞くと志貴君は続けて話し出す。

「俺の家族は小さい頃に事故で亡くなってしまってね。形見がこれだけなんだ。まあ、今は義之みたいな愚弟も居るし、不自由はしてないけどね。」

「えっと、ごめんなさい。軽率に聞いちゃって……」

「べつにいいさ、軽率に答えたのは俺だしな。」

そう言って志貴君は笑いかけてくる

「ところで。いまさらなんだが、白河さんはこんな所でどうしたんだ?この先は屋上だけど?」

私がこれ以上暗い顔をしない為だろうか?志貴君は話を切り替えてくれた。

「うん、ちょっと部活に参加する前に、屋上の空気を吸いたいと思って。ほら、すっきりとした気分になるし。」

私も気分を切り替えようと思い、少し躊躇いながらも志貴君の手をとる。

『ん?どうしたんだ?つい喋りすぎて暗い気分にさせてしまったみたいだけど、やっぱり俺の軽率な行為で少し怒っているのかな?』

いやなイメージはもう感じず、志貴君の私を気遣う心をが聞こえてきた。

「志貴君も一緒に来て。――――それと、私の名前はななか。ななかって呼んで。」

そう言って私は志貴君を屋上へと連れて行く。

「わかったよ、ななか。」

やっぱり志貴君は優しい人だ。

こんなに心がはっきりと聞こえる不思議な彼に、元気づける歌を屋上で唄いたい。



~Side-Nanaka-out~







よく解らないが再び屋上まで来た俺だが、そこでまた嫌な感覚に襲われる。つまり退魔衝動だ。

(くそっ、さっき殺したので全部じゃなかったのか!……どうするか、ななかの眼の前で殺るのは――――)

そう思いながら直死の魔眼を発動させ、視界を死界に切り替えると

目の前に全長3メートル程の願いがアメーバのような形で蠢いていた。

『見つけたっ!!見つけた!!!!白河さんだ白河さんだ!!!!僕と僕と僕と僕と僕と僕と僕と僕と僕とぼくぼくぼくぼくボクボクボクボクボクボクボクボクボクボクボク――――――――!!!!!!』

(ちぃっ、かなりの暴走型だ。しかもターゲットが目の前のななかとは――――仕方がない……)

「ななか、少しの間でいい。目をつぶっててくれ。それと、絶対にその場を動くな。」

そう言いながらななかの方を見ると―――

――――手をつないだままのななかがその場に倒れてしまった。


何が起きた?何で倒れた?

まさか、"アイツ"が視えた?


そんな筈は無い、もともと浄眼が備わっている俺でなければ、余程の霊感体質か優秀な魔法使いである桜さんでない限りこんなものは視えない筈だ。

なら、どうやって?

『ボクボクボクボクボクボクボクボクボクボクボク――――――あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああ、しししししらしらしら白白白白河さんさんさんさんささささささんんんんにちかちちちち近づくやつは奴はははっははは―――コココココロコロコロコロコロス!!!!』

だめだ、考えている暇なんてない。

とにかく彼女の為にも、一刻も早く!


  お前をコロス


気を失っているななかの手を振りほどくと、一直線に願いへと駆け出す。

距離はおおよそ3.5メートル。その距離を1秒で詰める。

アメーバのような願いはその巨大さを生かして津波のように覆い被さろうとして来る。

それを宙返りをしながら飛び越えるような形で、交わし様に


閃鞘・八穿


その頭上へとナイフを伸ばし死の線を刈り取るように断つ。

まずは2分割

宙を舞った勢いを殺しながら体の態勢を無理矢理捻り相手の背後へと着地する。

しかし、願いにとって死角など無いのだろう。真っ二つに切り裂かれたのにもかかわらず、今度は分割し二つになった願いが鋭い棘を作り一斉に突きのばしてくる。

俺は限界まで体の態勢を低くすると、ジグザグに走りながら攻撃をかわしてゆく――――が、相手の手数が多すぎるっ……

腕や足に突き出された棘がかすり、制服が破けるとともに血が舞い踊る。

だけど気にしてなどいられない。衝動と、俺自身の意思が訴えかける。


もっと、もっと早くっ!!殺せ!!!


閃鞘・七夜

新たに突き出される棘に視える死の線を、そのまま一直線に突進するかのように走りながら横に一閃。

漸く相手がひるみ、動きが一瞬止まる。

その一瞬、永遠にも似た僅かな時間の中で 横に 真上から 斜め下から 斜め上から   ありとあらゆる方向にナイフを奔らせる。


閃鞘・八点衝


「斬刑に処す!!」


これ以上ない位にバラバラに願いを解体して行く


『あぎいぃぃぃいいいぃぃぃいぃぃーーーーーーーーー!!!!!嫌だいやだ!!!嫌だ!!!まだ、まだ白河さんに僕の僕の僕の願い、願いを、伝えなきゃ伝えなき――――』

「だから嫌いなんだよ、お前らみたいな断末魔が。」

そして、願いが消えていく。どうやら退魔衝動も収まったところをみると、もう新たに現れることは無いだろう……今のところはだけど。


「お前のような奴に持たせる六銭は無い、そのまま底知れぬ冥府へと堕ちてろ。」


そう言いながら俺は魔眼の発動を治める。今日だけでかなり集中して死を視てしまったせいか、頭痛が先ほどまでよりも酷く、視界がちかちかする。

だけど、そうも言ってられない。

何とか意識を繋ぎ止め、ななかの許へ駆け寄る。


顔色は以前悪いままだが、如何やら命に別条はなさそうだ。

「ななか、しっかりしろ。」

そう言いながら軽く肩を叩くと

「――――う、……んっ、……志貴…君?」

どうやら意識を取り戻したようだ。

「大丈夫か?屋上に着いた途端、いきなり倒れたみたいだけど」

「うん、…もう大丈夫、何だか変なモノを視ちゃった気がして」

変なモノ……つまり、あの願いが視えたってことだろうか?

「大丈夫だよ、"何もない"。ななかが怖がるような、脅かすような奴はいないさ。例えいたとしても、」


「俺がななかを守ってみせるよ。」

そういって未だに横たわっている彼女へと手を伸ばす。


おそるおそる、だけど確かな意志で優しく、ななかが俺の手を握り返す。

「志貴君て、やっぱり優しいね。まるで――――、ううん。何でもない」

「ん?」

何を言いかけたんだろうか?

そう思っていると、ななかは俺の手につかまりながら立ち上がる。

「保健室に行かなくて大丈夫か?」

本当は俺も保険して治療を受けたいところだが、目立つわけにもいかない。ななかには傷が見えないように、隠しながらふるまう。

「うん、大丈夫。志貴君に起こしてもらったから、元気倍増ってくらいだよ!」

よく解らないがとりあえずは大丈夫そうか。

そう思っていると、今度は屋上への出入り口であるドアが勢いよく開く。


そしてゾロゾロと数人の学生男女が現れ、あたりを見回すと俺たちの方に視線が来て。

「白河さんを見つけました!」

そんな事を叫び始める。

「あちゃ~」

ななかが焦ったように声を出すと、俺の腕へとしがみ付く。

「志貴君、あの人たちから逃げたいんだけど…」

入口はやってきた学生によって封じられてしまっている。

どうしてそんな事をするかは知らないが……まあ、守ると言ってしまった手前、人間相手でも放ってしまうのは気が引ける。

助けるとするか…

「ななか、俺に身を預けてくれないか?」

「え、?!え、え、えと……?」

何か動揺しているみたいだが、その間にも学生たちは近づいてくる。

仕方がないが、少々強引に行くとしよう。

俺はななかに対して、さくらさんの時も合わせると、本日都合2回目のお姫様だっこを行う。

「ぅわっ、し、志貴君!?」

「しっかりつかまってろ!」

そう言うと俺はフェンスの方へ駆け出し


屋上を飛び降りる


「きゃ、キャアァーーーーーーっ!!!」


ななかが必死で目を瞑りながらしがみ付く。

追いかけていた学生たちの方からも悲鳴と絶叫が上がるが。

皆の予想に反して俺の足は、既に地の感覚を踏みしめていた。

「…え?……あ、連絡通路……の上?」

そう。屋上がある塔と繋がる連絡通路の上を俺は飛び降りたんだ。

高さとしては2階分ってところだろう。

その位の高さなら、人一人抱えて飛び降りたところで問題は無い。

「突きあたりに非常用の梯子がある。校庭とは反対側だから、スカートの下を人に見られる心配もないぞ。」

とたんにななかの顔が真っ赤になったかと思うと、吹き出すように笑いはじめる。

「本当に志貴君が―――――――」


追いすがる風の中でななかが何て言ったかは上手く聞き取れなかった。


「まるで、私の王子様みたい」








~~~~~~~~~~


あとがき

ラブコメがやりたいのか、鬱&ダークがやりたいのか……

独自設定により、ななかが触れることで感じ取る人の心が、七夜に対してだとダイレクトに読むくとができ、直視の魔眼の感覚まで読み取ってしまうようにしてみました。

七夜を通して感じているのであって、死を理解していない為、死の線等を視ることが志貴以上に耐えきれないという感じです。

そこから発展していくかもしれないなんて…

ななかストーリー爆発しろ(嘘

原作にない雰囲気を出すのは、ななかが特に大変だ




[21529] 第5話「God does not love human beings」
Name: MTQ◆4d267155 ID:00e8f240
Date: 2010/10/10 21:59

[D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)]





~第5話「God does not love human beings」~



自宅に戻り、いつも通りの食卓を囲んでいると音姫姉さんが義之に問いかける。

どうやら転校してきた天枷と言う少女との関係について問いただそうとしているらしい。

義之も節操がないな。これほど朝倉姉妹に想われているというのに、未だ関係に進歩が見られない。

そんな状況を無視して俺は味噌汁を啜る。やっぱり俺の好みは白味噌だ。関東の人間は赤味噌を好むと聞くが、俺としては塩気が強すぎる気がするからな。

「志貴っ、優雅に味噌汁啜って我関せずかよ!ちょっとは助けてくれって。」

愚弟が何か喚いている気がするが、まあ気のせいだろう。

今日はかなり疲れているからどうも口も回し辛い。


「あぁ、そうだ!志貴君と言えば、今日の授業…サボってたでしょう?」

音姫姉さんが矛先を俺に変えてくる。

「まさか音姫姉さんの耳にまで届いているとは、島の中とはいえ世の中狭いもんだな。」

「茶化さないの。もうっ、優等生の志貴君はおさぼりなんてしないと思ってたから、お姉ちゃん少しがっかりなんだよ?」

どうやらいらぬ心配をさせてしまったらしい。さて、どう言い訳をしたものか……

素直に貧血で倒れたといっても、今日は保健室にも向かっていないし、どうやら義之が昼からいたらしいので、まず嘘は吐けない。

それに、皆にはなるべく貧血で倒れることは伝えないようにしている。でないと仕事がやりづらくなる可能性があるからな。

以前……小学6年くらいの時の話だが、体育の授業中に倒れた時に音姫姉さんがかなり動揺したらしく、それから暫くは事あるごとに俺の行動を監視されたことがあった。

そんな事を考えていると、玄関から扉を開ける音がしてさくらさんが帰宅してくる。

「ただいま~。なに?何か面白い話題でもあったの?」

「お帰りなさい、さくらさん。荷物は俺が部屋に運びますよ。」

丁度いいタイミングで帰ってきたさくらさんに感謝をする。

「ふふっ、志貴君はいつでも優しいなぁ。こんなできた子に優しくしてもらえるなんて、ボクはグータラだよう。」

それを言うなら―――――いや、つっこむと少々恥ずかしいな。あえて誘っているのだろう。

「義之、さくらさんの分のご飯をよそってくれ。」

そう言いながら俺はさくらさんのコートや荷物を部屋へと運ぶ。


戻ってくると、さくらさんはコタツの温もりを堪能しながら音姫姉さんと話をしている。

「ああ、そのことか~。今日は志貴君、私のお仕事を手伝ってくれてたんだよ~。」

助け舟とはまさにこのことだろう。俺がさくらさんの仕事を手伝っていることは表面上の建前だが嘘じゃない。

恐らくはさくらさんも貧血で倒れたことについては感づいているだろうが、律儀にも庇ってくれる。

「ごめんね、私のせいで心配かけちゃったのかな?今日はお昼から忙しくてね。どうしても人手が足りないところを志貴君に手伝ってもらってたんだよ。」

嘘は言ってない。そこがすごいところだろう。さりげなく謝罪の言葉を述べているときに俺の方を向いていたところをみると、どうやら悪性の願いについての捕りこぼしについて謝っているようだ。

「それにしても、さくらさんは何で"これ"を重宝してるんですか?」

由夢が質問をしてくる。

「うふふ~、志貴君はとっても有能なワトソン君なんだよ。いわば私の右腕?」

掃除担当ですがね。主にとりこぼしの。

由夢はまだ納得がいかないような表情で俺のことを睨みつけるが、渋々納得した態度をとる。

「そう言えば志貴って、どんな仕事をしてるんですか?」

義之が話題を掘り下げてくる。

「あ、それは私も前から知りたいと思ってました。ちょっと興味あります。」

音姫姉さんも日ごろ知りたがっている為、ここぞとばかりに質問してくる。

まあ、言えるわけがない。ナイフを片手に殺戮技巧などとは……

「志貴君にはいずれ私の地位を継いでもらう為の帝王学を学ばせているのさ。」

さくらさんが100%冗談を自信満々で答える。

「さくらさん、たまには真面目に答えて下さい。」

そらみろ、義之からのツッコミが入る。

「さくらさん、これでも私は心配しているんですよ?いっつもおバカをやっている弟くんと違って、志貴君はメリハリをつけられる優等生ですよ?さくらさんのお仕事とはいえ成績が下がるんじゃないかって不安なんです。」

「音姉……俺がおバカってのは心外だぞ。」

義之、そこは認めるところだろう。

「にゃはは、大丈夫だよ。そ・れ・にぃ~……私のせいで成績が下がらないように、志貴君には手取り足とり色々教えてるし。」

さくらさんがそう応えると、音姫姉さんの顔が一気に赤くなり

「さささ、さくらさん!!いい、色々とは何なんですか!?」

コタツの上をバンバンと叩きだす音姫姉さんの人災を最小限に食い止めるため、俺や義之、さくらさん、果ては由夢までもが協力し、料理が盛ってある皿や茶碗等を持ち上げることで死守する。

「音姫姉さん。科学のフレミングの法則や、生物学のDNA構造についてです。」

「なな、でぃ…DNA!?志貴君!!志貴君はまだ学生と言う身分であって――――」

さくらさんがそれでもなお余裕の態度で話し続ける

「うん。この前、足の爪から採取した志貴君のDNAでしょ?いや~流石研究所に持って行っただけのことはあって、きれいにデータが取れてたよね。」


「―――はい?」

「ええ、まさか俺のような学生の我がまま一つでDNAのデータ検査をさせていただけるとは思ってませんでした。」

漸く音姫姉さんも、自分が勝手にあらぬ妄想をしてしまっていたことに気がつくと、拳を震わせながらも、やがては収まり借りてきた猫のように黙り込んでしまった。


「さくらさん、誤解を招く発言は控えて下さい。」

由夢などにも悪影響ですよ。と、忠告だけはしてみる。

「ご心配なく、そんなので誤解するとか、馬鹿じゃないですか。」

あい変わらずの答えだが、その発言は――――

「ふっ、ふふ、………由ぅ~夢ェ~ちゃ~ん?……それは~、私がおバカさんて言ってるのかなぁ?」

「へ!?や、ちがいますよ?姉さん!?待って下さい!!ちょ、何でゆらゆらと立ち上がっているんですか!?す、済みません!謝りますから――――」

そんな姉妹の会話が玄関先まで続いて言って本日の朝倉姉妹の訪問は終了となった。

まったく、人を呪わば穴二つと言うが、あそこまで自分の掘った墓穴に足を突っ込むやつも珍しい。

ま、とりあえずは今日も今日で上手く話を煙に巻くことができたから、それで良しとしよう。



「それじゃ、俺は一足先に部屋で休ませてもらいます。」

そう言って俺は2階の自室へと上がると服を脱ぎ、今日負った怪我の治療を始める。

消毒液が傷口に触れるたびに痛覚が蘇えり、声が漏れそうになる。

制服は予備で何着か持っているので問題は無い。

染み込む痛みに耐えながら手当てを進めていくが、最後の包帯を巻く作業がどうしても上手くいかない。

コンコン

と、ドアをノックする音が聞こえ、とっさに包帯を隠して服を着る。

「ボクだよ、志貴君」

そう言ってさくらさんが部屋に入ってくる。

「どうしましたか?いつもは音楽番組を楽しんでいる時間だと思いますが。」

そう言ってはみたが、さくらさんは俺の顔をじっと見つめると座り込み

「消毒液の匂いまでは隠せないよ……手当てしてあげるから傷を見せて。」

やはり隠し通すことは出来なかったか。

俺は服を脱ぐと傷口を見せる。

「今日は少し油断してしまいまして……願いの対象だった生徒がすぐそばにいた為なりふり構ってはいられなかったんですよ。」

そう応えてみたが、さくらさんは無言で包帯を俺の腕に巻く。

「ごめんね……志貴君はこんなにも頑張ってくれてるのに、ボクはこんなにも無力で……」

これが嫌だったから、さくらさんには知られたくなかった。

この怪我は俺自身の未熟さが招いた結果だ。誰も悪くない。

なのに、さくらさんは全てを背負い込み、今にも涙を溢しそうな表情だ。





「最近ですが、ななかに対する悪性の願いが多い気がします。」

流石に空気が重くなってきたので、何とか話題を少し切りかえることにした。

「うにゅ?ななかって、白河さんのことかな?」

どうやら知っているらしい。今日追いかけていた生徒のことも考えると、有名なのだろうか?

「ええ、どうも恋愛がらみの願いが多くて…確かに人気がありそうな娘でしたけど、さくらさんも気を配って頂ければ幸いです。」

すると、さくらさんは何を察したのか急にニヤけ顔になり

「ふふふぅ~、成程。そう言う訳か~。志貴君は白河さんのことが気になっているという訳だね?これは雪村さんもたいへんだよ。」

「?確かに厄介な人気を持っているといえば気になりますね。」

しかし、何故ここで杏の名前が出てくるのだろうか?

そう言えば杏からもらった台本をまだ義之にわたして無かったな……

「それと、いくら志貴君はボクの仕事を手伝ってくれているとはいえ、まだ学生の身分なんだから授業はさぼっちゃだめだよ。難しそうならボクに連絡してくれれば大丈夫だから。」

「ありがとうございます。今度からは気をつけますよ。」

「分かればよろしい!ワトソン君」

そう言いながらさくらさんは治療を終えた俺の後ろへ回り込み、首に腕をまわして抱きついてきた。

「志貴君は大事な家族なんだから、もっと自分を大切にしてね……」





~Side-Yume~


今日も何事もない1日が終わろうとしている。

姉さんは相変わらずだし、兄さんも平凡な日常を送っている。

だけど、"アノ"夢はいったいいつやってくるのだろうか?

小さい頃に観た夢。

はっきりと思い出せる悪夢。

満月が照らす桜の木の下で、対峙する2人と1人

蒼い眼の男は学生服に身を包み、ナイフを片手に二人に向かって走り出す。

大きなリボンを付けたポニーテール髪の女性は座り込み泣き叫びながら2人の男を見やる。

同じ学生服の男は大きく手を広げ、まるで蒼い眼の男を許すかのように、最後の刻を待ち望む。

それは最悪の結末なのに。

誰一人幸せになどなれない手段なのに、蒼い眼の男は狂気を持って万物を終わらせる。

それが己が最後になるということを知っていながら笑う。


最初は信じなかった。別人だと、そんなことはる筈がないと。

いつも兄さんのことを思いやっているアイツは気に入らないことがいっぱいあったけど、優しい人だと、そう思っていた。

だけど、あの日に確信へと変わった。

アイツは殺人鬼だと。

私の眼の前へと飛び出し、蒼い目にナイフを持ち、"何かを殺した"

その瞬間、未来が分かり泣いてしまった。

「俺もお前も不確かな水月だ、お互い千夜一夢の幻ならば桜月の下に願いを込めるのは無粋ってもんだ。」

そこで知ってしまった。

兄さんはいずれ消えてしまう。

アイツはいずれ■■■しまう。

なのにアイツは■■■しまう。

ズルイ、元々死んでいる身だからって未練も義理も、何もない人が兄さんを消すだなんて。

それでいて、今度は何も知らずにのうのうと生きようだなんて、絶対に許せない。

だから、止めるんだ。

七夜志貴は初音島にいるべき人間じゃないって――――――




その夜、変な"夢"を視た。

一面の雪景色

楽しそうに過ごす私。楽しそうにスキーをする兄さんやその友達。

傍らでクツクツと笑うアイツ。

即座に理解する。これが夢だと

楽しい時間が過ぎ、場面が変わる――――


――――吹雪の中、凍える私

何処かで足をくじいたのか、立ち上がることすらできない様子でいる。

そしてやってきた兄さん。助けに来てくれたんだ―――――だから好き。いつでも私の心を引きつけて助けてくれる兄さんが好きで、でも終わりを視てしまって絶望している私。


兄さんの後ろにアイツがいる。蒼い眼でこっちを視ている。

右手に握るのはナイフ。押さえきれない殺気を放ち、兄さんと私に飛びかかる。

殺される―――――――――




「――――っつハッ!!!」

気がつけば現実に無理矢理引き戻されていた。

時刻は午前2時、草木も眠るなんとやら。

寝汗をかなりかいていて、肌に張り付く寝巻が鬱陶しい。

…あの夢は近い未来。変えることができない現実。

―――――?でもおかしい。以前見た夢は桜の木の下だった筈だ……

それに、どちらも顛末までは見届けていない。

ナイフを持ったアイツが斬りかかる寸前で夢が途切れてしまう。

いったいどちらが最悪の未来なのか―――――――


と、そこで何気なく窓のある方向に首を捻る。カーテンを閉め忘れたのか街灯と月の光が差し込んでいるのが視える。

着替える為に立ち上がるついでと思い、ふと窓の外を視ると――――――七夜志貴がいた。

握るナイフは逆手で、電柱や壁、住宅の屋根等を走り跳び、まるでナニかと闘っているようだった。

(ばっかじゃないの?アイツ、幻覚でも視てるのかしら?)

もし、変なクスリでも使っているなら今すぐ警察に通報して刑務所にでもぶち込んでやりたい気分だ。

だけど、さっきからウチの前でナイフを振るっているのはどういうことだろう?いつも敵意を向けている私への当てつけだろうか?

と、その時――――アイツの右腕から血がでて空へ舞う。

「え?」

はじめは振るっているナイフで切ったのかと思ったけど、ナイフを持っているのは右手……傷つけることなんてまず無理だろう。

そう思っていると、今度は弾き飛ばされたかのように後ろに大きく跳び、壁へと体を叩きつける――――いや、叩きつけられた?

本当に何かと闘っているかのようだ。


「蹴り砕く!!」

体を大きく捻り足を目にもとまらぬスピードで前に突き出す――――すると、いきなり対面の壁が大きく崩れる。

「なにが、『私のことを好きになれ』だ。由夢の気持ちも考えず一方的な願いが――――ん?その声は体育の講師か……いいぜ、お前の願い。殺しつくす!!」


密かに開けた窓からそんな声が聞こえてくる。

願い?体育の先生?そう言えば最近、あの先生はどこかヤラシイ眼つきで私を視ていた気がする。

下心があるような態度で女子の体を触ろうとして来ることもある。

その先生の願いが"好きになれ"?いったい何のことなんだろう?

でも、そんな事よりも驚くことが―――――



―――志貴兄さんは私を守るために戦っている?


小さい時も、いきなり前に飛び出して―――――ナニカから守ってくれていた?



じゃあ、あの夢は…………?




~Side-out~





『志貴君っ!願いが由夢ちゃんの方に!!』

そう言われたのは眠りも良い1時50分。

さくらさんがいきなり俺の部屋に駆け込み、起こしてきた。

俺は眠気を眠気を一気に覚醒させるため直死の魔眼を発動させる。

視界に浮かび上がる線と点により気分は最悪。頭痛により意識がクリアになる。

ズボンをはき替え、黒いコートを羽織ると一目散に玄関を飛び出す。


辺りは氷点下であろう、耳が凍りつくよな錯覚を覚えるほどだ。

そして視える歪な願いが朝倉家のすぐ目の前まで迫っている。

深夜とはいえ、完全に人気がないとは言い切れない住宅街での戦闘だが緊張感の中で、相手の行動パターンを読み、最速で戦闘を終わらせる。

『由夢ちゃん―――はぁっ!はぁっ!私のことをっ!好きになれぇっ!!!!』

――――死ネ―――――

何故だか無性にイライラし、ナイフを縦横無尽に振るい相手をけん制する。

しかし、触手のようなものが高速で伸び、右腕を掠める。

丁度そこは、つい数時間前までさくらさんに治療してもらったばかりの部位から再び鮮血が舞う。

そのことに気を取られた一瞬、願いが突進してきて俺の体が後ろへと吹き飛び壁に激突する。

「がぁ!!――――ぐぅ……」

それでも倒れるわけにはいかない。ここには俺の大切な妹分がいるんだ、オマエの好きにはさせない。

「蹴り砕く!!」

そして死の点めがけて全力で体を捻り、反動で突き出した足をぶつける。

―――閃走・六鹿


願いは対面の壁を崩し、消えて行く。


それを確認すると俺は近くで控えていたさくらさんの肩を借り、自宅へと戻った。

いい加減、魔眼の酷使と疲労と眠気の為に、俺は玄関を上がったところで意識を手放し、まどろみの中へ沈んでいった。






~~~~~~~~~

あとがき

由夢はデレていく、それがいい。




[21529] 第6話「Your eyes understand death」
Name: MTQ◆4d267155 ID:00e8f240
Date: 2010/11/03 02:12

[D.C.Ⅱ.M~初音島夜葬譚~(D.C.Ⅱ~ダ・カーポⅡ~×月姫)]





~第6話「Your eyes understand death」~

12/18(sat)


「―――っう、…」

目が覚めると、そこは自分の部屋だった。

腕に若干の痛みが走り、寝起きの思考が通常の速度へと加速して行く。

昨晩再び負った傷……そうか、玄関で意識を失ってさくらさんに運んでもらったのか……

あの小さな体で無理をさせてしまったようだ。

時刻は6時50分、義之はまだ寝ているだろうが、さくらさんは既に家を出たらしく、1階に下りても姿は見えなかった。

礼の言葉を述べたかったが、相手がいないんじゃ仕方がない。学校に行ってから改めて機会を作るとしよう。

そう思いながら、まずは朝刊でも読もうと思い玄関を出ると


「――あ……」

俺の顔を見て何とも間の抜けた声を挙げる由夢がいた。

「…おはよう由夢。昨日はよく眠れたか?」

昨日は朝倉家の前で仕事をしていた為、見られていないことの確認のために訊いてみる。

「へっ?…や、普通に眠ってましたよ?」

普段、俺から話しかけないせいだろうか?若干驚いたような仕草をしたが、すぐにそっぽを向くと俺を横切り我が物顔で玄関へと入っていく。

うん、どうやら大丈夫らしい。

昔、由夢の前でナイフを振るった時、泣きだされてしまったことがあるので、間違ってもあの場面は見られたくない。


新聞を読みながら玄関の扉を閉め、居間に入ると由夢は珍しく俺の方を向いて尋ねてくる。

「なんか消毒液の匂いがするけど……怪我でもしたの?」

存外に消毒液の匂いと言うのは匂いが残るものなのだろうか?

昨日さくらさんにばれたことも含めて、治療方法の見直しが必要らしい。

「ああ、ちょっと腕をドアの金具に引っ掛けてしまってね。でも、性能は問題ないよ。」

「そ、そうなんだ…ふ~ん……あ、トースト食べる?そのくらいだったら私も失敗すること無いし。」

……何があったのだろうか、今日の由夢はいつもより積極的に話しかけてくる。

「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうとするかな?お礼に紅茶でも淹れるとするよ。」

そう言って二人並んでキッチンに立つ。

考えて見ればこんなこと初めてじゃないか?


「ねえ、志貴兄さんは……ううん、何でもない。」

「うん?どうしたんだ?」

「えっと…、あ、トーストにバターって塗ってたっけ?」

「いいや、いつも素焼きで食べているぞ。」

気のせいだろうか、由夢の態度が挙動不審な気がするな……

そう思いながら俺は由夢の分の紅茶を入れる

「ほら、義之みたいには上手くいかないが我慢してくれよ」

そう言ってティーカップをコタツの上に置く。

由夢は少し少しばかりの間カップを見つめ、紅茶の匂いを楽しんでいるようだったが、不意に何か気がついたのか俺の方を眺めてくる。

「どうしたんだ?今日は特に寝癖も立っていないと思うんだが…俺の顔に何か付いているのか?」

「や、ついているっていうか……志貴兄さんて、たまに目が蒼くなったりするよね?それってなんでかな~って思って。」

どうやら俺の眼について気になることがあるらしい。

ま、人の領分を越えてしまった業と義之には説明しているが、それ以上はさくらさん以外に話したことがない。知らなくて当然のことだ。

「実は目の色素が足らない体質なんでね、どうやら小さい頃の怪我が原因らしいんだ」

「怪我?志貴兄さんて入院とかしてたっけ?」

「いいや、初音島に来る前のことさ。そのときは何で自分の体がそこまで傷ついたのかは分からなかったけど、胸に大きな傷跡があるんだ。」

すると、由夢が心配そうな顔で尋ねてくる。

「胸……?」

「ああ、車の事故らしい。」

さくらさんからはそう聞いていたから、事故なのだろうけど……たぶん違う。

この傷はもっと魔的な何かに抉られたモノだ。

そして俺は―――恐らく死んだんだろう

桜の木を視ていれば分かる。あの木は"俺に願いを掛けている"

「ふぅん。でも、いつもは黒いよね?」

「ああ、そうみたいだな。だから目が蒼くなった後は大概頭痛や貧血に悩まされるんだ」

これも嘘ではない、死の線を視てまともなヤツがいたら教えてほしい位だ。

「なるほどね、それが前に兄さんが言ってた"人の領分を越えちゃった業"ってことなんだ」

どうやら納得してくれたらしい。

正直、ここまで由夢と話すのは初めてじゃなか?―――いや、本当に幼い頃はこのくらい普通に話していた。変わってしまったのは、"あの夢"を視てからで……

それにしても焦げ臭いな―――――――

「……あ!トーストっ――――」

気がつくとト―スターの中で黒こげになったパンが無残にも煙を挙げていた。





7時30分になると義之が眠たそうな目で階段を下りてきた。

「おはよう志貴、――――ああ、そう言えば今日の9時から人形劇の練習があるそうだぞ。」

そう言えば昨晩義之との会話でそんな事を言っていたな

「じゃあ昨日渡せなかった台本を渡して置くぞ、主役がセリフを知らないのは問題だからな。」

そう言って俺は人形劇の台本を渡す。

「うっ…けっこう厚みがあるんだな、主役っていったら大変なんだろうな……」

確かに結構な厚みだ2センチはあるだろう。

「志貴はもう読んだのか?昨日は午後から教室にいなかったけど、脇役Aの役だぞ?」

義之がパラパラとページをめくりながらそんな事を聞いてくる。

脇役Aか…大して多くないセリフ量だ、これなら仕事の合間を縫ってでも1日で覚えられる範囲だ。

「あ、兄さん起きたの?じゃあ朝ごはん作って~」

そこに漸くトースターの黒こげを掃除し終わった由夢が台所からやってくる。

「由夢、いきなり起きてきた人間に対して朝食の準備しろって…ん?そう言えば少し焦げたような匂いがしないか――――まさか由夢が?」

「そのまさかだ、よりにもよってトースターで失敗をした。」

義之の反応に俺が由夢のことを話すと、由夢はあわてたように顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。

「や、―――えっと、あの――――そ、違うから!!これはトースト焼いてるのに志貴兄さんが話しかけてくるからでっ」

どうやら俺の所為らしい。まあ、可愛い妹の為だ。これ以上の反論は無粋ってことで治めるとするか。

「ま、そう言うことでまだ朝食は食べてないんだ。何か作ってくれ。」

「はぁっ、志貴もいい加減料理を覚えてくれよ。それに、軽食程度なら作れるだろう?」

「男で料理ができるってのは、ペンギンが空を飛ぶようなもんだろ。それに義之の料理は上手いし飽きないとくる。そら、お前が適任だろ?」

「そうそう。兄さんの作る料理ならお店開いてもいい位なんだから。」

「いや!ペンギンが空を飛ぶって何だよ!?オレは珍種生物かよ!後になって上手く乗せるようなこと言っても説得にかけるぞ。」

どうやら前置きがいらなかったらしい。


「―――そう言えば由夢。いつの間に志貴と仲直りしたんだ?今日はやけに志貴の隣で機嫌が良さそうじゃないか。」

「へ!?や、違うから、こ、こんなの傍にいても居なくても一緒かな~?って思って言うだけで、別に見方を変えたとか何か悪いことしてたとかそういう感情とかは一切なくてでも何となくもう、いい加減私も大人な態度で接してもいいんじゃないかって考えても見てですね」

何だ?やけに今日は口数が多いな、まぁ、好意の対象(義之)が傍にいて少し気分が高まっているのだろうか?

「ともかく、朝食を頼む。二日続けての朝食コンビニは避けたいところなんだ。」

「別に志貴はコンビニで買っても金銭的には問題ないだろ。普段から貯めてるし、さくらさんの仕事でバイト代も入っているんだろ?」

「コンビニよりお前の作る料理が美味いって評価をしているんだがな。」

確かに金に困ることはまずないな。もともと物欲も人並み以下だし、義之と違って部屋にモノを置くのはあまり好まない。それに無駄遣いするような機会もないしな。

「へ~。今の話を聞くと相当志貴兄さんはお金持ちみたいだね?」

「ああ、特に物品なんかは欲しいと思うものがないからな。宝の持ち腐れみたいなもんだ。」

何なら今度、何か買ってやっても構わないか。そのくらいの甲斐性は男として持ち合わせていないとな。


そんな話をしながら朝の時間は過ぎて行った。






~Side-Otome~

今日も朝から生徒会の業務は大忙し。

安心と信頼のまゆきは、杉並君の対策に追われている為に構内の方々を廻っている。

生徒会室で書類の山をせっせと処理して行くけど、一向に終わる気配がないのはちょっとやる気を落としかねない状況だ。

朝は桜さんと一緒に登校したのでそれなりに早くから業務を初めて、時計の針はもう9時に差し掛かろうとしている。そろそろ一息入れたほうが頭もエンジンが焦げ付かず、精神的にもいい筈だ。

「さって、今頃弟君は何してるのかな~?」

そう思いながら生徒会室を出て自販機へと向かう。


「ま、――――まってくれよ志貴ぃーーーーっ、ぜぇ、ぜぇ、」

…弟くんの声が聞こえる。

「運動不足だぞ、義之。それに、テレビに見入っているから走るはめになるんだ。」

そして軽やかに突き放す志貴くんの声

どうやら今日は登校するらしい。クリパの準備でもあるのかな?

ということは、今日の仕事を早く終わらせれば弟くんと午後から遊びに行ける。

「うん、元気出てきた。お姉ちゃんガンガン仕事するっ!」

「ほほう?音姫、何んともいいセリフを言った!よし、午後は私と杉並対策に付き合ってもらおうかしら?」

後ろに爛爛と眼を輝かせたまゆきが私に向かって死刑宣告を言い渡してきた。

本人に悪気がないところがなんとも断りづらい。

元気が通常の半分にまで下がっていく気分だ。

とにかく頑張ろう……


自販機で飲み物を買った私は会室に戻ろうと足を向けたところ、ふと廊下の曲がり角に一瞬志貴君の姿をとらえる。

しかし、志貴君は何を急いでいるのかものすごいスピードで駆けて行ってしまった。

(もう、志貴君たら廊下を走っちゃいけないってルールを知らないのかしら?)

そう思いながらも、志貴君がいるなら近くに弟くんも居るかもしれないと思い、何となく志貴君の走って行った方向へと足を向ける。

でもおかしいな?弟くんの教室は塔も違う筈だ。


そして、曲がり角に差し掛かったところで


天井を走る志貴君が視界に入る。

「え!?、え?」

のこ場合どう注意すればいいのだろう。『天井を走っちゃだめだよ!』――――何か違う気がする。


そして、私がいることに気がついたのか志貴君は驚いたような声を上げる。

「なっ?!音姫姉さ――――シッ!」

志貴君は体を強引にねじらせると足を下に向け、床に向かって急降下する。

次の瞬間、大きな炸裂にも似た音が響き、志貴君が走っていた天井とすぐ近くの蛍光灯がガラガラと砕ける。

見れば志貴君の右手にはナイフが握られている―――――あれを使って何をするのか?

志貴君の態勢が低くなり、まるで這うような姿勢でいきなり私に向かって駆け出してくる。その眼はいつのもの眼じゃなくて…とても蒼くて…まるで死神みたいで――――


「伏せろっ!!」


その叫びは志貴君のもの。

私は言われずとも、思わず悲鳴とともに身をかがめてしまう。

次の瞬間、私の頭上を志貴君が飛び越えてナイフを構え。

「寝てな!」

志貴君は大きくナイフを前へ突き出し、その姿勢のまま少しの間固まっていたけど、やがて腕を下ろし、ナイフの刃を治めてポケットへとしまう。


「ふう、大丈夫だったか?音姫姉さん。」

………これはなんて返事をしたらいいのだろうか?

ナイフで襲われそうになったのは、ほかでもないこの私で、加害者は間違いなく志貴君の筈だ。

なのになぜこうも他人事のような言葉を発するのだろうか?

とたんに先ほどの恐怖心を塗り潰すような怒りがこみ上げてくる。

「え~とねぇ、志貴君?もうこの際廊下や天井を走っちゃいけないとか、構内の器物破損とかそんなものはどうでもいいの。」

「それ以外だとどういうものがあるんですか?」

志貴君の返答に、私はこめかみを押さえている右手を思わず離し、思いっきり握りしめる。

「自分が何をしたか解ってないの!?お姉ちゃんにナイフを向けるなんてどういうつもりなの!!?」

耐えきれなくなり、大きな声で志貴君を怒鳴りつける。

だけど、志貴君は特に意に介した様子は無く、それどころか

「……やっぱり、音姫姉さんにはアレが視えないのか……」

悲しそうな目で、そう呟いた。

「え?」

アレ?アレって何?――――志貴君には何か視えていたのだろうか?

普段とは違うその蒼い瞳には何を映していたのだろうか?

「まぁ、魔術師としての訓練を何もしてないんじゃ、当然と言えば当然か。」

魔術師――――!!その言葉を私に向けるということは、私が魔法使いだということを知っているのだろうか?

「待って、志貴君!今言ったのって……もしかして志貴君も――――」

「俺は違うよ……さて、そろそろ教室に行かなきゃ義之が煩いからな。戻るとするよ。」

そう言って志貴君は私の目の前を通り過ぎて行く。

「ちょっと待って!!まだ話がっ――――」

「音姫ちゃん。」

今度はいきなり後ろから声をかけられ、振り向くとさくらさんがじっとこちらを見つめていた。




『今ここで起きたことは"ぜ~んぶ忘れて?この時間は生徒会の仕事をしていた"……OK?』




~Side-Otome-out~





ふぅ、何とかやり過ごせたみたいだ。相変わらずさくらさんの暗示は怖いね。

まあ俺は魔眼を持っているから、眼から掛ける術はほとんど通用しないけど、どうやら音姫姉さんには効果てき面だったようで。

今も廊下の端からさくらさんと様子を窺っているが、音姫姉さんは機械のような虚ろな目と、ゆっくりとした足取りで生徒会室に戻っていく。

「にゃはは、危なかった~。」

隣でさくらさんが思わず苦笑いする。

確かに今回は危なかった。もしも音姫姉さんがもっと魔術の勉強をしていて、暗示避けのすべを心得ていたら、俺やさくらさんの仕事がばれてしまう所だった。

正義感が強い姉さんのことだから、"正義の魔法使いとして"とか言いそうだからな。面倒なこと極まりない。

「やっぱり、構内での戦闘は極力さくらさんの補助が必要になってきそうですね。それと、暗示も同じ人に使用して行けば何処かで綻びが生じるって言ってましたよね?」

「うん、音姫ちゃんに術をかけちゃったのはちょっと申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけどね?」

そう言いながら頬をポリポリと掻く。

「そう言えば、家にはそこまで魔術に関する本は見受けられませんけど、さくらさんは何処で習ったんですか?」

そう問いかけながら辺りの気配を探る。

大丈夫だ、人の気配はしない。


「ず~っと昔にロンドンの時計塔にいてね、これでも僕は優秀な魔術師だったんだよ?ふふふ、ロードエルメロイⅡ世って先生の下にいたんだよ。」

「残念ながら俺にはその先生がどれ程すごいのかが分かりません。」

「彼に教えを受けた人は皆人生の成功者となっているんだよ?うふふ~、そして先生はボクのスレンダーぼでぃーにめろめろだったのさ~」

その人物がどれ程からかわれ、性犯罪者の冤罪をかけられたことか……心から同情する。

「むぅ、志貴君。今失礼なことを考えてなかった?」

「いえいえ、女性を前にオオカミなんて俺には早いですよ。」

更に言えば蜘蛛だけどね。

「それは置いておくとして、さくらさんは西洋の人外とは会ったことはあるんですか?」

「うん?ガイジンじゃなくて人外?……そうだね、ボクは日本にいた期間は割と人生の中では短い方だったから、そう言った黒い面は西洋の方が経験あるね。」

さくらさんがすごした西洋での経験は聞いていて面白い。

アメリカでの研究は西洋での魔術の研究結果をもとに始めたとも聞いている。

そしてその発端となった。昔本当に存在した、魔法の桜。

さくらさんが自身の手により枯らした木。

さくらさんが夢見た希望のような悪夢。


その夢が義之とさくらさんが望む希望なら、俺は喜んで悪夢を演じ続けよう。








少しして教室に戻ると、そこには無言で俺を睨みつける杏がいた。

「志貴。ずいぶん遅いトイレだったね?」

また女の子を口説いてるのかと思った。と、続けざまに毒を吐かれる。

「すまなかったな。ちょっと学園長に呼ばれてて遅くなった。」

そう言って素直に謝ることにする。何分杏を怒らせると後が怖いからな。

「七夜、お前いつも見る度にじょしと関わってるならな。あんまし顔広めるのも程々にしておけよ。」

そう言いながら板橋が、何処から持ってきたのか角材を運んでくる。

「俺も手伝うよ。劇の舞台用の骨組みにするんだろ?」

そう言いながら建設の為に集まっているメンバーに加わろうとしたところ、後ろから杏が袖を引っ張ってくる。

「ダメよ。志貴は役者なんだから、こっちで一緒に台本の読み合わせ。それと遅れた罰として、義之にもしものことがあった場合のスペアとして主役のセリフも覚えてもらうから。」

遅刻のペナルティーは相当大きなものらしい。

「遅刻して来るような意識が足りない奴に主役のスペアを任せるのは、いささか不安を覚えるんだが?」

「大丈夫。いざとなったら義之を亡きものにして強制的に出すから。」

「まてぇ!何でオレは命を狙われてるんだ!?」

安心しろ義之。骨くらいはそこいらの犬にくれてやる。

「あーぁ。杏ちゃんも素直じゃないんだから。素直に志貴君に主役やってって言えばいいのに。」

「そうだね。普段私と義之にちょっかい出したりしてるのに、自分のことに関しては私より奥手な気がするよ?」

「小恋。友達思いな発言に嬉しさのあまり、ヒロインのセリフを大量に追加しちゃいそうな気分。」

女子たちはいつでも会話が弾んで楽しそうだな。何の会話かは興味が湧かないが。

そして欲を言えば、もう少し目立たない学校生活を満喫したいところだが、めぐりあわせが悪いらしい。


「ま、せいぜい脇役Aでも演じるとするか。」

主役の生活なんて俺には合わないさ。








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