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【主張】JR不採用決着 「ゴネ得」としか映らない
国鉄の分割・民営化に反対した国労組合員らがJRに採用されなかった問題が政治決着した。
政府が1世帯当たり約2200万円を和解金として支払う代わり、国労側は旧国鉄(現・鉄道建設・運輸施設整備支援機構)を相手取った係争中の訴訟すべてを取り下げることが合意の柱だ。
原告団910世帯で総額200億円という和解金の算出根拠も疑問だ。国鉄再建のため、あえて広域転勤などにも応じた多数の国鉄マンにはゴネ得としか映らないだろう。その意味でも、JR採用を希望する場合は政府が雇用受け入れを各社に「要請する」とした合意はおかしい。
前原誠司国土交通相は「あくまでも判断するのはJR各社だ」としつつも、「最大限の努力を要請したい」とも語り、民間会社への権利侵害にはあたらないとの見解を示している。分割・民営化を主導した官庁のトップとして、信じがたい発言である。
今回の決着は、与党の民主・社民・国民新3党と公明党が3月中旬に政府に提出した「4党提案」がたたき台になっている。和解金も3000万円近かった当初案からすれば相当減額されている。
しかし、JRの雇用受け入れについては社民党はじめ4党・国労側が最後まで譲らず、最初は難色を示していた政府も「要請」なら責任は回避できるとみて最終的に受け入れを決めたようだ。
国労側が政府の後押しに終始こだわった背景には、ちょうど10年前にもあった4党合意の失敗が“教訓”としてある。
当時は自民・公明・保守の与党3党と野党の社民党による合意だったが、提案内容が金額や雇用義務で具体性を欠いた結果、2年後には白紙撤回された。
前原国交相発言に社民党の又市征治副党首が「政府の要請は重い。単に要請ベースみたいな話ではすまない」と、すかさず実現を迫ったのもこのためである。
原告団でJR採用希望者は北海道と九州を中心に200人程度いるという。すでに完全民営化で国の手を離れた本州の3社はともかく、国が依然、全株を保有する北海道など他のJR各社には無視できない圧力となろう。
JRの不採用については、平成15年12月の最高裁判決で「責任なし」の司法判断が確定している。政府には、その自覚とともに民間への介入自制を強く求めたい。