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クローズアップ2010:柳田法相を更迭 政権、求心力低下に拍車 野党へ譲歩重ね

 菅直人首相は22日、柳田稔前法相のクビと引き換えに10年度補正予算案の早期成立を狙ったが、勢いづく自民党にけられ、窮地に立たされた。中国漁船衝突事件に海上保安庁のビデオ流出もあって内閣支持率は急落、民主党の政権運営は「菅首相では衆院選を戦えない」(若手)との声も上がる危険水域に入った。補正審議を機に、与野党で社会保障制度改革や消費税率引き上げなどの重要政策課題に取り組むという首相の構想は暗礁に乗り上げ、同党内には遠心力さえ働き始めた。この先も与野党が対立に終始するなら、何も決められない政治への不信感も広がりそうだ。

 ◇TPPや交付金、党内統治も弱体化

 「野党と握れていないのに辞めさせた。全く戦略性がなく、外交と同じ『土下座国対』をやっている」

 民主党関係者は22日、野党と水面下で「補正予算の早期成立」を合意することなく、法相辞任カードを切った政府・党執行部の対応を批判した。補正の重要性を強調すればするほどそれが弱みとなり、野党はそこに付け込んで予算案採決を人質に要求のハードルを上げる。漁船衝突事件を巡る「土下座外交」批判になぞらえ、野党への譲歩を重ねる国会対策の手詰まりを皮肉った発言だ。

 こうした批判に対し、民主党の岡田克也幹事長は22日の記者会見で「今の国会は55年体制ではない。先々のことまで握って辞めさせるとか、そういう古い政治は我々はしない」と反論した。しかし、補正採決の引き延ばしを否定する公明党が早い段階から柳田氏の自発的辞任を促していたにもかかわらず、首相の決断は後手に回り、22日の参院予算委員会で「本人が自ら辞任を申し出た」と繰り返す首相の答弁が指導力不足を印象づけた。

 菅首相が「熟議の国会」を呼びかけた臨時国会も開会から2カ月近くが経過。与野党の政策協議は深まるどころか、補正予算案もそっちのけでビデオ流出や閣僚の失言などを巡る激しい応酬が続く。菅政権は自らの失態で支持率低下を招き、補正予算審議で協力姿勢をみせていた公明党などを「反対」へと追いやった。補正審議をきっかけに与野党協力の枠組みをつくり、来年の通常国会に提出する11年度予算案や社会保障改革などの協議につなげるシナリオは崩壊状態にある。

 政権運営の展望が開けない重苦しさが民主党内に広がり、小沢一郎元代表のグループを中心に「非協力」の動きも表面化している。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の協議開始を決めるに際しては、国内農業への打撃を理由に反対論が噴出。地域主権改革の目玉となる一括交付金化や国の出先機関廃止を巡っても省庁側と組んで抵抗したり、国会議員歳費の1割削減にも新人議員が反対論を展開するなど、党内統治の弱体化が著しい。

 それでも政府筋は「今、いろいろ仕込んでいる」とTPP協議や防衛計画の大綱見直しなど政策課題に取り組む姿勢を強調する。首相周辺も「実績を積み上げていけば、支持率も回復する」と語るが、麻生政権時代の自民党幹部も同じ言葉を繰り返していた。

 通常国会へ向けた打開策として「小沢氏が強制起訴されたら離党勧告すればいい」との声も非小沢系グループではささやかれる。6月の菅内閣発足時と9月の党代表選で支持率を回復させた「脱小沢」路線の「三番せんじ」は、党分裂につながりかねない劇薬でもある。

 このまま政権が国民からの信頼を失い、重要政策を進められない悪循環に陥れば、来年3月に11年度予算案が行き詰まり、小沢グループの指摘する「3月危機」が現実味を帯びてくる。【平田崇浩】

 ◇自民、高まる主戦論 慎重な公明と温度差

 問責決議案の提出前に柳田氏を辞任に追い込み、政府・与党との「チキンレース」を制した自民党はさらに強気に出ている。22日の参院予算委員会理事会では民主党の小沢元代表の国会招致などを改めて要求し、10年度補正予算案の24日の委員会採決を拒否した。ただ、次に狙う仙谷由人官房長官らの問責決議案は野党共闘が大前提だけに、提出や採決のタイミングを慎重にはかっている。

 「柳田氏の辞任と(補正成立を)取引するようなことは筋が違う」。自民党の谷垣禎一総裁は22日、党幹部と今後の国会対応を協議した後、記者団にこう語り、与党との対決姿勢を鮮明にした。菅内閣の求心力低下が止まらない中、衆院側の石原伸晃幹事長や逢沢一郎国対委員長を中心に、仙谷氏や馬淵澄夫国土交通相の問責決議案を補正予算案の採決前に提出する主戦論が勢いを増している。

 ただ、参院自民党には慎重論が根強い。「ねじれ国会」の主戦場で野党共闘を重視しており、審議拒否に慎重なほかの野党との距離が広がるおそれがあるためだ。公明党の山口那津男代表は22日、訪問先の韓国で記者団に「引き続き(補正の)議論が予定されており、一層深めたうえで(問責への)対応を考えたい」と語り、補正採決前の提出に難色を示した。22日夜の自公両党の幹事長、国対委員長らの会合でも、補正採決前の提出に理解を求める自民党に、公明党は「補正予算案と関連法案の成立が先決」と譲らなかった。

 同日の野党7党参院国対委員長会談でも公明に加え、共産、社民、新党改革の各党が慎重意見を表明。これに対し、みんなの党は単独提出も辞さない構えで、足並みはそろっていない。

 それでも、自民党が問責決議案を提出すれば、野党の賛成多数で可決される情勢は変わっていない。民主党が24日の参院予算委員会での補正採決を見送ったのも、強行すれば野党の結束を逆に強めかねないと警戒したためだ。民主党の岡田幹事長は22日の記者会見で「問責決議案には、多くの方が納得する理由がなければならない」と自民党をけん制するのが精いっぱいだった。【中田卓二、ソウル西脇真一】

毎日新聞 2010年11月23日 東京朝刊

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