柳田稔法相が辞任した。自ら責任をとった形だが、野党の攻勢に追い詰められた末の事実上の更迭である。
法相の資質が疑われても仕方のない発言だった。辞任はやむを得ない。
国会は補正予算案をはじめ政策論議に戻る必要がある。再び予算審議などに支障が出る事態となれば、暮らしの立て直しがさらに遅れる心配がある。
野党各党にも前向きな論議を進める姿勢を求めたい。
柳田氏は22日の朝、菅直人首相に官邸に呼ばれて会談し、辞表を提出した。柳田氏によると、首相から「速やかに補正予算案を通さないといけない」などと言われ、辞任を決めたという。
柳田氏は前日まで続投を表明していた。一転、辞めることになったのは、補正予算の早期成立を図るには辞任以外の選択肢はないと判断したためだろう。菅政権の苦しさがにじむ展開である。
菅政権には中国漁船衝突事件への対応が引き金となって、外交力に疑問符が付けられた。加えて漁船衝突の映像が海上保安官から流出し、統治能力の弱さを内外に印象づける結果を招いている。
一連の事件をめぐって、野党が政府の責任を追及していたさなかの法相発言である。
柳田氏がいくら弁解し、謝罪を重ねたとしても、難局に緊張感を欠いていたことは否定できない。自身の危機管理能力が問われたともいえる。
菅政権にとっても、痛手は大きい。失点が続いて内閣支持率が下がっているのは、政権そのもののあり方に根本的な問題があると考えるべきだ。
第一は、菅政権からは外交・内政の基本姿勢や将来への展望が伝わってこないことだ。閣僚や党幹部、重鎮らがばらばらなことを言い合っている印象が強い。政権としての指針がはっきりしなければ、政治主導どころではない。
第二は、菅首相に信念に裏付けられた振る舞いやリーダーシップが感じられない。これでは首脳同士の交渉でもマイナスになる。
課題を克服できなければ、政権の危機はさらに続くだろう。
自民党は仙谷由人官房長官らの問責決議案の提出も検討しているようだ。責任の追及はあっていいが、やり方を誤ると国民不在の泥仕合に陥る恐れがある。
いま国民が望んでいるのは、暮らしの再建に展望を開く政治の力である。信頼を回復できるかどうか、野党の側にも責任が求められる局面だ。