【社説】延坪島砲撃事件をめぐる裁判官の目と市民の目
北朝鮮による延坪島砲撃事件について、虚偽の事実を流したとされる40代の会社員に対し、裁判所が逮捕状の請求を却下したことを受け、検察市民委員会(日本の検察審査会に相当)は「却下は不当だ」として、逮捕状の再請求を求める意見を提示した。この会社員は、インターネット上に「外国通信社によると、韓国が先に北朝鮮の領海へ向けて砲撃し、北朝鮮軍が大砲で反撃した。その際、北朝鮮は実戦用の砲弾ではなく小火器弾薬を使用したため、被害を最小限に食い止められた。従って、韓国国民は北朝鮮に感謝すべきだ」という内容の書き込みを2回行った。しかし、ソウル中央地裁は、「証拠の隠滅や逃亡の恐れはなく、問題の書き込みによる実質的な被害が生じたとも考えられない」として、逮捕状の請求を却下した。
この会社員は今年9月、哨戒艦「天安」沈没事件について、「米軍の潜水艦と衝突し沈没した」という内容の書き込みを9回行ったとして、在宅起訴され公判中だ。検察は、逮捕状の請求が棄却された後、一般市民9人で構成される検察市民委員会に意見を聞いた。これに対し、同委員会は「国民を混乱させる言動だ。すでに同様の行為で裁判を受けていながら、反省もなく同じ行為を繰り返しているだけに、厳しく対処する必要がある」という意見を提示した。これを受け、検察は今月11日、逮捕状を再請求し、裁判所は14日に逮捕の可否を決定する方針だ。
「天安」沈没事故の軍民合同調査団は、現場で魚雷の推進体を回収し、この魚雷が北朝鮮製だということを証明する化学的な調査結果を公表した。にもかかわらず国民の30%は今も、「天安」の撃沈が北朝鮮の犯行だということを信じていない。事故発生当時、「座礁説」や「陰謀説」がネット上で飛び交ったためだ。左派のメディアや大学教授たちは、魚雷の推進体に書かれた「1番」という数字をめぐり、「韓国側が書いたものだ」という説を主張したが、延坪島に撃ち込まれた砲弾に同様の数字が書かれていた現実を目の当たりにすると、「いつ、そんなことを言ったか」ととぼけた。
それにもかかわらず、裁判所は問題の会社員がデマを流したことについて、「実質的な被害が生じたとは考えられない」という判断を示した。もし、放火によって家を失った人に対し、何者かが「お前が自分で家に火をつけたのではないのか」と言ったならば、どうなるだろうか。今回の裁判官のように、「実際に被害が生じたとは考えられない」などと言えば、当事者以外の人たちからもそっぽを向かれることだろう。われわれは今、一般市民の常識と裁判官の常識が、これほどまでにかけ離れた社会に生きているのだ。