【コラム】天安爆沈事件、影を潜めた陰謀論

 KBSテレビの『追跡60分』は11月17日の放送で、韓国海軍の哨戒艦「天安」が北朝鮮の魚雷によって沈没したという調査結果は信用しにくいと指摘した。天安爆沈事件から既に8カ月がたつ時点でのことだ。この国の公共放送は、大韓航空機爆破事件から20年以上たった後、それが北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の指示だったことに疑問を投げ掛ける番組も放送した。

 放送内容は、天安の船体と北朝鮮の魚雷推進体から発見された吸着物質は、爆発ではなく、100度以下で発生する物質だったとの内容だ。現場で発見された魚雷推進体は、以前から海中にあったか、何者かがでっち上げたものだと主張しているかのようだった。しかし、実験に臨んだ学識者ですら、魚雷の爆薬に使用されるアルミニウム成分が船体と魚雷推進体からなぜ同じ形で見つかったかについては、「今のところ分からない」と話した。「だったら何なのか」という疑問に対する答えは依然としてない。

 天安爆沈事件以降、座礁説、誤爆説、疲労破壊説などが根拠を失うと、それに代わる風説が現れた。それとともに、天安爆沈事件は陰謀だと主張する勢力はチャンス到来とばかりに再調査を要求した。それは北朝鮮軍が延坪島に砲弾を打ち込む1週間前のことだった。

 魚雷推進体から発見された「1番」という数字は、「魚雷爆発程度の高温でマジックペン(のインク)は焼けて焼失する」という「科学的」な説明とともにあざけりの対象となってきた。野党は一度も天安が北朝鮮の魚雷によって沈没したという事実を認めたことはなかった。韓国側が8カ月にわたり、内部でもめている間に、北朝鮮は別の挑発に向けた準備を行い、その結果が11月23日の延坪島砲撃だった。天安爆沈事件の陰謀論を提起したエセ科学者とそこに便乗していた政治家の頭上にも砲弾が降り注いだ。

 延坪島砲撃以降、野党はいつの間にか天安爆沈事件の陰謀論を引っ込めたようだ。永遠に陰謀論を放棄するのかは分からないが、北朝鮮が天安を沈没させたという前提で、延坪島の問題も扱っている。「天安の事件以降、政府はどんな準備を行ったのか」などと、安全保障上の能力不足を批判するのが好例だ。その上、延坪島に落ちた北朝鮮の放射砲の残骸からは、高温で焼けて消えたとされる魚雷の「1番」という数字に似た手書き数字(丸付き数字の1)が見つかった。すると、野党は「水中と陸上では爆発条件が異なる」「爆発半径が異なる」などと言い逃れたが、主張の勢いは大きくそがれた。

 延坪島砲撃から20日以上が経過した。天安爆沈事件の陰謀論を信じた政治家たちは、攻撃対象を政府の対北朝鮮政策へとこっそりすり替えた。北朝鮮の魚雷から見つかった「1番」という数字を材料にさまざまなパロディーを作り上げ、騒いでいた人々も黙り込んだ。天安爆沈事件が北朝鮮の仕業ではないと信じないことが偉いと言わんばかりだった社会の一部の風潮もひそかに姿を隠した。しかし、それらはまた現れてくるはずだ。彼らは今「戦争をするつもりか」というスローガンでしばらく変装しているにすぎない。

鄭佑相(チョン・ウサン)政治部外交チーム長

【ニュース特集】哨戒艦「天安」沈没

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
関連記事
記事リスト

このページのトップに戻る