【動画】競技かるた
クイーン戦の挑戦者決定戦で、かるたを取り合う鋤納麻衣子さん(右)と山下恵令さん=奈良市練習の合間も、かるたで遊ぶ「大津あきのた会」の子どもたち=大津市漫画「ちはやふる」で、競技かるたの聖地として登場する近江神宮=大津市三井寺
「昼は消えつつー ものをこそおもへえー」
ゆったりと流れる読手(どくしゅ)の声が耳に心地よい。
声の余韻が消え、次の上の句まで、1秒。鋤納(すきのう)麻衣子さん(28)は力をためるようにぐっと上半身を沈め、動きを止めた。張りつめた静寂が満ちる。
「をぐらやまー」
1音目で体が飛び出し、「ぐ」が聞こえた時には畳をこする音を残して札が宙を舞っていた。10枚差を逆転した瞬間だ。
晩秋の奈良公園で開かれていた競技かるたの大会。大阪のかるた会に所属する鋤納さんは、予選で5人を破り、来年1月に大津市であるクイーン戦の挑戦者決定戦に臨んでいた。
対戦相手の東日本代表・山下恵令さん(25)とは過去2回決定戦でまみえ、1勝1敗。この1勝で4年前、クイーンに挑んだが、相手のミスを攻めきれず敗れた。今もその時の光景が頭をよぎる。
今年もクイーン戦は目前だった。逆転後もリードを保ち、勝利まではあと2枚。だが、「よをこめてー」と読まれた瞬間、別の札に向かった手が止まらなかった。
家に帰ると悔しくて涙がこぼれた。「今回のお手つきも、きっと何度も思い出すことになると思います」
また、クイーンを目指す新たな1年が始まった。
■歌ごころ それは奇跡の贈り物
「集中力がとぎすまされると、次に出る音が分かる時がある」と、楠木早紀さん(21)は言う。中学3年で最年少クイーンとなり、6連覇中。「なぜかはわからない。読手が吸う息の音を聞いてるのかも」
だが、勝負の鍵は耳のよさだけではない。鋤納さんが挑戦者決定戦で逆転した「をぐらやま」をめぐる攻防――。畳に残った取り札のうち、上の句の冒頭が「O」の音で始まる他の札は読まれ、あと1枚になったと計算していた。対戦相手はその札を利き手の反対側に並べている。相手はこの札より別の札に賭けていると感じ、狙いすましていた。