高崎量子応用研究所が初めて海水ウランの捕集材の開発に成功したのは1981年のことだった。その捕集材を青森県むつ市沖合の海域に30日間浸漬したところ、捕集材1キログラム当たり1グラムのウランを回収することに成功した。
1999年から2001年にかけては、むつ市沖合に設置した総重量350キログラムの捕集材から約3年間で1キログラムのウランを捕集している。
放射線を使う製造方法がポイント
実は、アミドキシム基が捕集できるのはウランだけではない。現在、ウランを捕集できる割合は約1%程度。残りの99%の中には、鉄やアルミニウム、そしてレアメタルであるニッケルやコバルト、バナジウムなどが含まれる。これらの金属の捕集材として活用することもできる。
この技術のポイントは、放射線を使うところにある。ポリエチレンにアミドキシム基を付ける際、触媒を使うやり方もあるのだが、触媒には有害物質が含まれていた。そのため、どうしてもポリエチレンに有害物質が残ってしまい、海水にいれると有害物質が溶け出す恐れがあったのだ。放射線の場合、その心配が要らず、触媒を使う方法よりも多くのアミドキシム基を付与することができるというメリットもある。
ただし、さらなる課題があった。捕集のコストがかさむことだ。
この試験では、一辺が30センチメートルの正方形の布状の捕集材を120枚積層して、穴が空いたケースに入れ、そのケースを432個充填できる8メートル角の装置に取りつけた。そしてこれを水面下約30メートルのところに固定した。
ところが、台風などによる大波が来ても壊れないよう、係留装置を頑丈にしたため、捕集材が350キログラムしかないのに、装置全体の重量が約4トンになってしまった。そして、総コストの8割以上が係留のための装置にかかってしまったのである。
そこで、瀬古氏らは係留装置の経費を削減するため、新たに「浮き」を使った方式を考案した。モール状の捕集材で、下に重りがあり、反対側に浮きがついている。重りを海底に設置するとわかめのように立ち上がる。重量は従来の10分の1程度に抑えられたほか、設置に必要な面積も小さくなった。船舶の航行にも支障をきたさない。
今度はこれを使って沖縄県恩納村沖3キロメートルで実験をした。