「日本キラピカ大作戦」

日本キラピカ大作戦

2010年12月14日(火)

ホントに海水からウランが取れた

「わかめ型捕集材」でブレークスルー、レアメタルも対象に

2/4ページ

印刷ページ

 高崎量子応用研究所が初めて海水ウランの捕集材の開発に成功したのは1981年のことだった。その捕集材を青森県むつ市沖合の海域に30日間浸漬したところ、捕集材1キログラム当たり1グラムのウランを回収することに成功した。

 1999年から2001年にかけては、むつ市沖合に設置した総重量350キログラムの捕集材から約3年間で1キログラムのウランを捕集している。

放射線を使う製造方法がポイント

 実は、アミドキシム基が捕集できるのはウランだけではない。現在、ウランを捕集できる割合は約1%程度。残りの99%の中には、鉄やアルミニウム、そしてレアメタルであるニッケルやコバルト、バナジウムなどが含まれる。これらの金属の捕集材として活用することもできる。

 この技術のポイントは、放射線を使うところにある。ポリエチレンにアミドキシム基を付ける際、触媒を使うやり方もあるのだが、触媒には有害物質が含まれていた。そのため、どうしてもポリエチレンに有害物質が残ってしまい、海水にいれると有害物質が溶け出す恐れがあったのだ。放射線の場合、その心配が要らず、触媒を使う方法よりも多くのアミドキシム基を付与することができるというメリットもある。

 ただし、さらなる課題があった。捕集のコストがかさむことだ。

青森県むつ市沖合に係留した捕集材。約3年間で1キログラムのウランを捕集したがコストが大きな課題に
画像のクリックで拡大表示

 この試験では、一辺が30センチメートルの正方形の布状の捕集材を120枚積層して、穴が空いたケースに入れ、そのケースを432個充填できる8メートル角の装置に取りつけた。そしてこれを水面下約30メートルのところに固定した。

 ところが、台風などによる大波が来ても壊れないよう、係留装置を頑丈にしたため、捕集材が350キログラムしかないのに、装置全体の重量が約4トンになってしまった。そして、総コストの8割以上が係留のための装置にかかってしまったのである。

CAP:沖縄県恩納村沖3キロメートルの海底に設置したモール状の捕集材
画像のクリックで拡大表示

 そこで、瀬古氏らは係留装置の経費を削減するため、新たに「浮き」を使った方式を考案した。モール状の捕集材で、下に重りがあり、反対側に浮きがついている。重りを海底に設置するとわかめのように立ち上がる。重量は従来の10分の1程度に抑えられたほか、設置に必要な面積も小さくなった。船舶の航行にも支障をきたさない。

 今度はこれを使って沖縄県恩納村沖3キロメートルで実験をした。





Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)


Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント6 件(コメントを読む)
トラックバック

著者プロフィール

山田 久美(やまだ・くみ)

 フリーライター。都市銀行システム開発部を経てフリーに転身。月刊誌やウェブサイトでハードウエア、ソフトウエアのレビュー、IT関連の記事を多数執筆。2005年3月に技術経営(MOT)修士取得。現在はサイエンス&テクノロジー関連、技術経営関連の記事を中心に、執筆活動を行っている。研究者の研究内容を聞くのが最もワクワクする時間。希望ある未来社会を実現するためのサイエンス&テクノロジーの追求をライフワークにしている。Twitterアカウントはこちら


このコラムについて

日本キラピカ大作戦

 日本はCO2排出量の削減や高齢化、需要不足など、大きな課題に直面している。そのため、日本全体に閉塞感が漂い、希望ある未来社会が描きづらくなっている。しかし、これらの課題はいずれ世界のすべての国が直面するものでもあり、今の日本を「課題先進国」と位置づけることもできる。
 「これは日本にとって千載一遇のチャンスである」と言う東京大学総長室顧問で三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏のインタビューを皮切りに、日本が世界をリードできる技術の最先端や“産声”を追う。エコ、スマート、シルバー…。日本にはサステナブルな社会を実現するためのピカイチ技術がたくさんある。これを存分に生かして、キラキラと輝く未来を創り出そう。

⇒ 記事一覧

ページトップへ日経ビジネスオンライントップページへ

記事を探す

  • 全文検索
  • コラム名で探す
  • 記事タイトルで探す

記事ランキング

日経ビジネスからのご案内