社説
法人税減税 効果に疑問が拭えない(12月9日)
法人税率の引き下げが2011年度税制改正の焦点になっている。
菅直人首相は「5%引き下げ」に意欲的なようだが問題は効果と財源だ。
単なる帳尻合わせだけでは、元気な経済を実現する道筋は見えてこない。企業活動を通じて日本経済の活力を引き出し、雇用をどう生み出すか、その根本論議が大事だ。
国税と地方税を合わせた法人税の実効税率は約40%だ。
日本経団連などは、主要国の中で最高水準にあるとして▽企業の国際競争力をそぐ▽企業の海外移転が進み国内産業の空洞化を招く−と主張し「5%引き下げ」を求めている。
経済界の声を受け、政府は法人税減税を新成長戦略の柱に掲げた。
だが、財政難の中で税率を5%下げた場合、1兆5千億〜2兆円程度の税収減となる。
疑問なのは、例えば財務省が財源の穴埋め策として、雇用を増やした企業を優遇する「雇用促進税制」の縮小を検討していることだ。
菅政権が最も力を入れているのは「雇用」である。減税を実現するために、肝心の雇用支援が圧縮されるようでは本末転倒にならないか。
企業の研究開発を促進する税制上の優遇措置も見直しの俎上(そじょう)に上っている。化学や機械などの分野で技術開発の勢いを弱める懸念がある。
さらには、税率を引き下げたとしても経済の活力がどの程度高まるのか。肝心の効果が判然としない。
当の日本経団連の企業調査でも、減税で生じる余力の使い道は「内部留保に回す」が最も多く、次いで「借金返済」だった。これでは減税効果そのものに疑問符が付く。
経済産業省の企業アンケートでは、法人税の引き下げが海外流出の抑制につながると考える企業は大手輸出産業など一部に限られている。
そもそも社会保険料や減税措置を含めた企業負担全体の視点に立てば日本の法人税は国際的に高いとは言えないとの専門家の指摘もある。
こうした疑問に菅首相は丁寧に答えてもらいたい。あくまで引き下げを目指すというなら、雇用確保や経済成長にどう結びつくのか、説得力のある説明が聞きたい。
重要なのは設備投資や雇用拡大を促す誘導策である。投資をする企業への補助金や国内での工場立地に対する優遇措置の拡充も一案だろう。
法人税を納めている企業は全体の4分の1程度で、中小企業には税率引き下げの恩恵は及ばない。
地方への企業進出を含む産業政策も踏まえ、支援のあり方を考える必要がある。その一環として法人税見直しの是非を検討し、税制全体のビジョンの中で結論を出すべきだ。
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