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国連から世界共和国へ至る道 柄谷行人「世界史の構造」

2010年8月24日10時25分

写真:「資本(主義)が終わるのは、私の願望ではなくて、必然だから」と語る柄谷行人さん=東京都八王子市の自宅拡大「資本(主義)が終わるのは、私の願望ではなくて、必然だから」と語る柄谷行人さん=東京都八王子市の自宅

 思想家の柄谷行人さんの新著『世界史の構造』(岩波書店)が売れている。6月末発売で4刷り1万2千部と、大部の思想書としては異例のヒットだ。

 2001年10月に発行された『トランスクリティーク』の、いわば続編にあたる。柄谷さんはかつて「私は一度何か書くと、それを続けて発展させるよりも忘れてしまう習癖」があると書いた。なぜ続編を?

 「1999年シアトルの反グローバリゼーション運動など、資本と国家への対抗運動の盛り上がりに、私は楽観的な気分でいた」(柄谷さん)

 その空気が2001年の同時多発テロで一変する。テロによって米国は愛国的な気分で横溢(おういつ)し、続くイラク戦争で欧州を中心に米国批判が高まる。資本と国家へ対抗する市民の連帯は分断させられた。

 「一国だけで国家を揚棄するのでは意味がない。他国がただちに干渉するか、漁夫の利を得ようと動くから。複数の社会構成体の中で、資本=国家を同時に揚棄するのでなければならない」

 その方策を探るためにとったのが、狩猟採集の未開社会から、帝国の時代を経て、近代の国民国家に至る世界史を、根底から書き換えること。視座をずらして、世界史の構造を見直す壮大な作業だ。モノとモノ、モノと貨幣とをやりとりする「交換様式」に着目して世界史の流れを記述し直す、コペルニクス的な発想の転換だった。

 本の帯に「世界同時革命へ!」とうたう挑発的な書だが、しかしそれは、労働者の蜂起といった形では起きない。国連の発展形としての諸国家連邦→世界共和国の道を通ると著者は予見する。早のみこみの読者は、資本=国家の揚棄の解決策が国連、という結論に、やや拍子抜けするかもしれない。

 柄谷さんも「国連が嫌いな人が大勢いるのは承知している。私もそうだったから」と話す。「しかし、(『永遠平和のために』を書いた)カントが残酷に予言したように、国連は2度の世界大戦を経なければできなかった。国連を冷笑する者は、2度の大戦の死者を冷笑する者でもある。今ある国連の問題は、安全保障理事会とIMF(国際通貨基金)。言い換えれば国家と資本。この二つの機関さえ変えることができれば、国連は人類がつくった最高のものになる」

 前著『トランスクリティーク』は英訳され、日本発の世界で読まれる思想書になった。本書も、まずは韓国語訳が決まっている。(近藤康太郎)

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世界史
未開社会
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