きょうの社説 2010年12月14日

◎輪島で漆植栽計画 継続の仕組みづくりが肝要
 漆器の原料となる漆の安定確保へ向け、輪島市が漆の木の植栽に乗り出すことになった 。日本の漆器業界は漆の9割以上を中国に依存し、ベトナム産を含めると外国頼みの状況にある。輪島でもかつて地元で原料を賄っていたことを思えば、漆器づくりの土壌は確実にやせ細っている。

 植栽の背景には、9月の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をきっかけに、漆の輸入も制限 される「チャイナリスク」の懸念が地元で強まったこともあるらしいが、良質の原料を地元で調達できるに越したことはない。

 輪島市と漆器組合は1971年から87年にかけ、約10万本の漆の木を植栽し、民間 にも苗木約3万本を無料配布した。だが、木の管理が行き届かず、台風などの倒木被害もあり、まとまった量の漆を確保するには至らなかった。再び植栽を始めるからには、過去の教訓を生かし、官民一体で腰を据えて取り組む必要がある。

 激減した漆かき職人の育成や、地元での樹液の受け入れ体制など、漆の森づくりが長期 的に継続できる仕組みがいる。輪島漆器の特徴は工程ごとに確立された分業体制にあるが、これからは樹液生産も含めた産地の一貫システムを構築していきたい。

 輪島市は樹液確保へ向け、2001年から3年間、中国に資金援助し、現地で漆の植栽 を支援してきた。その一方で、近年は東北など全国各地で国産漆を増やす試みも増えている。世界に誇る日本の漆文化を継承するには国産が不可欠との認識が広がっており、輪島がそのネットワークに加わるのは自然な流れである。中国依存から脱却し、良質の漆が自前で確保できれば、漆器や漆を意味する「ジャパン」という呼称の価値も一層高まるだろう。

 日本芸術院会員や人間国宝をはじめ、優れた作家を擁するのが産地としての輪島の強み である。漆器をつくる側の視点で、どんな樹液が望ましいのか、量の確保だけでなく質も追求したい。原料の確保はものづくりの原点でもある。軌道に乗れば、漆器の付加価値を高め、産地のブランド力に磨きをかけることにもなろう。

◎BCリーグに地元勢 地域貢献でも新しい戦力に
 プロ野球独立リーグ・BCリーグのドラフト会議が行われ、石川ミリオンスターズが3 人、富山サンダーバーズが2人の地元選手を指名した。地域密着球団の新しい戦力として、「ふるさとの星」への第一歩を踏み出すことになる5人には、ひときわ大きなエールを送りたい。

 5人は、プレーはもとより地域貢献にも強い意欲を示しており、たとえば、ミリオンス ターズに指名された金市工高3年の中川貢輔選手は「小学生たちにあいさつの大切さを訴えたい」と話しているという。試合だけでなくグラウンドの内外での地域貢献活動も重視するというチームの姿勢が地域に徐々に浸透していることが、このコメントからもうかがえる。5人には、地域貢献でもそれぞれのチームを引っ張っていくという気持ちを持ち続けてほしい。

 ミリオンスターズ、サンダーバーズをはじめとするBCリーグの各チームは、これまで 工夫を凝らしてさまざまな地域貢献活動に取り組んできた。野球の指導はもちろん、環境保全活動や防犯の呼び掛け、地域のイベントへの参加など、その分野は多岐にわたっており、「地域貢献を怠った」ことが解雇の理由の一つになったケースもあるくらいである。リーグ全体でも地域の子どもたちを育むプロジェクトを展開しているほか、自動体外式除細動器(AED)の普及などにも力を注いできた経緯がある。

 BCリーグは来年、発足から5シーズン目を迎える。地域貢献の歴史はまだまだ決して 長くはないが、各チームが今後も地道な努力を積み重ねていけば、いずれはよき伝統となるだろう。その「担い手」として、とりわけ大きな期待がかかるのは、やはり各チームの地元選手である。

 5人がプレーでファンを魅了できるようになるまでには、もう少し練習や経験を積む必 要があるかもしれない。ただ、地元のことをよく知っているだけに、地域貢献では全員が「即戦力」として働くことも不可能ではなかろう。先輩たちに遠慮することなく、大いに活躍してもらいたい。