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スポーツ報知大阪版>コラム>菊地陽子 あしたのヨー

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興毅の偉業挑戦に思うこと

26日に初めてそろって3人で試合を行う亀田兄弟。興毅の3階級制覇はどんな形で達成されるのか

 ビールを片手にボクシング記者たちが憤った。「本当に3階級制覇しちゃうんじゃないか!」。某日某所で行われたボクシング記者と関係者の忘年会。26日にWBA世界バンタム級王座に挑戦する亀田興毅の世界戦について話が及ぶとヒートアップした。2階級下のWBCフライ級王座の防衛はゼロ。スーパーフライ級を飛ばしてバンタム級の試合経験もないまま、いきなり世界最上位(1位なし)の2位にランクインした。相手は当初発表されていたパーラ(ベネズエラ)から、ムニョス(ベネズエラ)に変更された。全盛期に日本人選手7人を倒してきたムニョスは今31歳。今年2月に一度は引退宣言している。最初に一報を聞いた時、本当にこんな世界戦が可能なのかと驚いた。

 危惧するのはボクシング界が「何でもありの世界」と思われることだ。マッチメーク力がものを言う世界ではある。交渉ごとには政治力や経済力が必要だ。それはそうとしても、正規王者モレノ(パナマ)が最近作られた「スーパー王者」に格上げ→興毅が2位で決定戦が実現→相手が変更、というウルトラCな流れに、裏にシナリオがあるのかと疑ってしまうのは当然だ。2月にWBO世界同級王者モンティエルとの対戦が控えるドネア(フィリピン)や元世界3団体スーパーフライ級王者のダルチニアン(豪州)といった世界的スターを下位に差し置いているのだから、その交渉力はある意味で称賛に値する。

 日本人が成し遂げていない3階級目がバンタム級であることも、ボクシング通をやるせない思いにさせるかもしれない。バンタム級といえば、「黄金のバンタム」の異名をとったジョフレから王座奪取したファイティング原田に始まり、10度の防衛を果たした長谷川穂積にいたるまで、多くの名王者を輩出してきた日本人にとって伝統的な階級だ。30代、40代にとっては辰吉丈一郎の存在が強烈だろう。漫画「あしたのジョー」の矢吹丈から名付けられ、漫画の世界と同様にバンタム級にこだわり続けた。94年の薬師寺保栄とのWBC統一戦は世間を熱狂させた。また、数々の挑戦者が厚い壁に屈してきた階級でもある。80年代には村田英次郎(現エディタウンゼントジム会長)がビントール(メキシコ)やチャンドラー(米国)という強豪と互角に戦って2度の引き分け。現WBC世界スーパーバンタム級王者の西岡利晃はV14を誇ったウィラポン(タイ)に4度挑戦して勝てなかった。

 同じく飛び級した長谷川も転向届提出後の9月にフェザー級で2位に入った。2階級アップならその階級でのノンタイトル戦をはさむのが手順だが、バンタム級でのV10の実績が評価されて特例で上位に入った形だ。正規王者ロハスがけがのため試合ができず、休養王者という形で空位になって王座決定戦が実現した。興毅と比べて明確な理由があるにしても、関係者の中には「長谷川も批判されてもおかしくない」という人もいた。それでも11月26日の世界戦では1位のブルゴスと打ち合いに挑み、わずかな雑音も消し去るくらいの印象的な試合を見せた。結局はリングの上で見せるパフォーマンスがすべてということだろう。

 重圧がかかることを興毅本人が分かっていることは救いか。バンタム級2位が発表された直後に取材を受け「冷静に見ても今のままで(3階級制覇は)無理」と実力に評価が追いついていないことを自覚していた様子だったという。内山高志が王座奪取して3連続KOを遂げ、西岡が華麗なボクシングで安定政権を築き、長谷川がKO陥落して2階級制覇で再起した2010年のボクシングシーン。話題が豊富だった1年の締めくくりにふさわしく、興毅には勝ち負けよりも見ていて感動するようなボクシングを心から期待したい。

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(2010年12月13日17時12分  スポーツ報知)

筆者略歴  菊地 陽子(きくち・ようこ)

02年入社。大阪府出身。文化社会部での宝塚歌劇、運動部でのオリックス担当などを経て、07年12月からボクシング担当。リングサイドでの初取材では、ボクサーの鮮血が顔にかかって卒倒しそうになったが、今ではすっかり拳闘の魅力にハマっている。

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