2010年12月14日1時6分
法人実効税率の5%引き下げを指示したことを発表する菅直人首相=13日午後10時11分、首相公邸、西畑志朗撮影
菅直人首相は13日夜、2011年度税制改正で焦点となっている法人税率の引き下げについて、国と地方をあわせた実効税率(40.69%)を5%幅引き下げるよう、野田佳彦財務相や玄葉光一郎国家戦略相に指示した。企業の税負担を減らすことで首相が掲げる「経済成長と雇用拡大」につなげる。一方、政府税制調査会は所得税や相続税の見直し案を決定。企業の負担は減らすが、富裕層を中心に個人向け増税は5500億円規模となる。
首相は公邸前で記者団に対し、「企業が海外に行って雇用が失われることは経済にも雇用にもプラスではない。思い切って(税率を)5%下げて、投資や雇用を拡大することで働く人の給料を増やして経済成長を促し、デフレを脱却する。そういう方向にしてもらいたい」と述べ、野田氏らに政府税調で5%引き下げの最終案をまとめるよう指示した。首相は、貿易自由化の推進と法人減税を「成長戦略」の柱に据えていた。
政府税調は、国の基本税率(30%)を4%程度引き下げるのと合わせ、地方分を1%程度下げることで「5%幅」の引き下げとする方針。菅政権は、16日に税制改正大綱を閣議決定する考えだ。
実効税率を5%幅引き下げると、税収は国と地方合わせて1兆5千億円程度減る。政府税調は、減収分を企業向けの減税措置の縮小などによる増税でできるだけ穴埋めしたい考えだが、赤字を翌期以降の黒字と相殺できる「繰り越し欠損金」や減価償却制度の見直しなど、企業増税で捻出できる財源は6500億円にとどまる。この結果、企業にとっては、差し引きで「実質減税」となる。
政府は、まだ足りない財源について、相続税・贈与税の増税分約2600億円を回すほか、株式の売却益などにかかる税金を優遇する「証券優遇税制」を廃止して積み増したい考えだが、証券税制の見直しには与党の国民新党が反対し、調整が難航している。
一方、政府税調はこの日の会合で、来年度の税制改正に盛り込む個人向け課税の見直し案も決定。会社員の税負担を軽くしてきた給与所得控除を縮小することなどで、子ども手当の給付増の財源を工面する。
民主党はマニフェスト(政権公約)で、「富裕層に多くの税負担を求めて低所得者の社会保障サービスに回す」という「格差是正」を掲げている。政府税調もこの考え方に沿って、所得税や相続税の見直しを進めてきた。
個人が納める所得税や住民税は、年収からさまざまな控除を差し引いて計算する。給与所得控除は、会社員の給料の一定額を、仕事上の「必要経費」とみなして課税対象から除外する仕組み。現行では控除額に上限がなく、年収が増えると控除も増え、高所得者に有利とされていた。今回の見直しでは、年収1500万円を超える一般会社員の場合、控除額を頭打ちし、一律245万円とする。
23〜69歳の親族を扶養する人を対象にした「成年扶養控除」は、年間所得が400万円(年収では約568万円)を超える納税者は対象外とする。障害者や要介護者、65歳以上の高齢者は引き続き控除の対象とする。これらの見直しによる所得税と住民税の増税額は計2900億円。この増税分を元手に、子ども手当を3歳未満に限って月額7千円増額するのに必要な約2500億円の財源にあてる。
相続税についても、配偶者や子どもが遺産を相続するときの税負担を軽くする基礎控除を現行から4割減らす。これまで「5千万円+1千万円×法定相続人数」で計算していたが、「3千万円+600万円×人数」に改め、最高税率も引き上げる。