……ここはどこだ?
「ようやく起動したか、――いや、ここは目覚めたと言った方がいいな。どうやら○○○○女史の調整は完璧らしい。お前の誕生を祝福しよう茨姫の騎士、そしてこの多重投影された世界の焦点となる存在」
意識がはっきりしない。自分が何で目の前の男が何なのか、何を言っているのかまるで理解が出来なかった。
「これからお前は様々な人物に会い、様々な出来事に遭遇し、数多の危機に晒されるだろう。だが安心しろ。抗う術は最初から用意されている」
男は、懐から黒い小さなケースの様な物を取りだす。
「かつて俺の代理人であるオーディンに勝利し、戦いの勝者となった男が使っていた物だ。それと……」
男はケースと共に、逆三角の形をした金のペンダントを渡してきた。
「女史からの餞別だ。超多機能型デバイス、バルディッシュⅡ(ツヴァイ)。使いこなせれば必ずお前の役に立つ」
デバイス、バルディッシュなどと、どこかで聞いた事のある単語が耳を通り抜けていったが、未だに意識は朦朧としており深く考える事ができずに終わる。
「では、始まりとしよう。簡単な事だ。戦って生き残ればいい。今回はバトルロワイヤルというわけでもないからな」
アンタは誰……なんだ?
「俺の名は神埼士朗。別に覚えないくていい、――ただの亡霊だ」
そこでまた、俺の意識は完全に途絶えた。
――――――――――――――――――――――――、、
「これで準備は完了したか。そちらの調子はどうだ」
神埼士朗と名乗った男は何も存在しない空間の中で確かにそう呟いた。
「私の方は万端よ。アレも貴方があの子と一緒に送りだしてくれたし。ソッチこそ、あなたの妹さんを守る手段は整っているの?」
何もなかったソコに一人の女性が突然現れる。だが神埼は当たり前のように会話を続けた。
「問題ない。優衣の護りは幾重にも張り巡らされている。それにもしも時の為に貴様にアレが託してあるからな」
「分かったわ。――それにしても私達が舞台裏に隠れている必要が本当にあるのかしら? 私としてはあの子と一緒に……」
「駄目だ。いつ嗅ぎつけられるか分からない。貴様の話に出てきた管理局というのものが無能という訳ではないだろう。万が一、この世界が管理局の様な外部の存在に発見されたとしてもカラクリさえ分からなければ問題はない。しかしこの世界の違和感と私達の存在が露呈してはバレる可能性が出てくる」
「……分かったわ。あの子の存在をアレとあなたの妹に任せるのは甚だ不本意だけれど。いざとなれば貴方がくれた奥の手があるから大丈夫でしょう」
「では改めて始めよう。この世界を……」
神埼士朗は宣言すると、まるで蜃気楼のようにその場から姿を消した。
鏡合わせの多重世界 第一話『Stat up,Alive A Life』
……3か月後
おっすオラ、ファング・テスタロッサ11歳(とかいうアリシア・テスタロッサの兄貴に憑依した一般ピーポー)。自分自身のエピソード記憶が一切思い出せないうえ、何故かバルデッシュ・ツヴァイとかいうデバイスと仮面ライダーナイトのデッキケースの本物が手元にあってオラ、ワクワクしてきたぞ、体も震えてるぞ。←明らかに恐怖からくる震えです。本当にありがとうございました。
3か月前、目が覚めるとファング・テスタロッサと言う名の存在になっていたあげく、妹がアリシア・テスタロッサで俺と彼女の保護者は神埼優衣。最初は誰?と思ったが、手元にあったナイトのカートデッキ(最初はおもちゃかと思ったが2カ月前にミラーモンスターと対峙し、本物だという事を充分に思い知った一品)と見比べた後、仮面ライダー龍騎に出てきた黒幕の妹だという事に気がついた。というかどうなってるのこの世界と調べてみると……カオス。俺達、兄妹の両親は他界しており、その折に遠縁だった神埼優衣さんに引き取られたという事になってる。ここで既に突っ込みどころ満載だが、事実なので良しとする。
だが、旅行代理店のパンフに冬木とか風都とかあるのはどうよ。ウインドスケールというブランドが大流行してるとかテレビの特集やってたし。バルディッシュ使って裏の情報まで収集してみれば犬神使い、カンピオ―ネ、ガイアメモリ、魔法使い、魔術師なんて単語が出てきて……。これなんて多重クロスというレベルである。
だいたい、何でアリシアが生きてるの? 何でアリシアの兄貴なんているの? なんで保護者が神埼優衣なの? それにカードデッキとデバイスから考えて、居るんだろ神埼士朗とプレシア・テスタロッサが。 なんで姿を現さない? とにかく疑問が尽きないが分かる事は一つだけある。現状の自分の状況では……。
「戦わなければ生き残れない……ってか。本当に冗談きついっての」
現在、ファングはミラーモンスターから逃走していた。ここ一カ月の経験から分かった事はミラーモンスターがファングを優先的に狙ってくるという有り難くない事実。ファングとしてもさっさと戦闘に移行したかったが人混みが酷く、このままでは変身できない。そこで人気のない所までミラーモンスターを誘導している最中という所であった。
『マスター、前方20メートルに存在する公園は現在無人です』
「よっしゃ、分かった」
ツヴァイのアナウンスに従い、公園に入るとファングはナイトのカードデッキを取りだし公園内の池の前ですぐさまかざす。すると湖面に映った自分の姿にVバックルが投影され、現実の自分にも反映された。ファングはVバックルにデッキを差し込むとお約束と言わんばかりに叫んだ。
「変身!!」
虚像の鎧に身を包み、ファングは吸い込まれるように池の中に消えた。
「よっと、鏡面世界に到着。いつ見ても左右逆ってのは不思議な感じだな。ツヴァイ、敵の位置は?」
確かに此方を追いかけてきたミラーモンスターが視界の内にいないのを確認した後、ファングはツヴァイに敵の位置を尋ねた。
『サーチ……、敵の位置は直上、約100メートルです』
「おおっと! 上か!!」
顔を上に向けると、遥か上空に蜂の様なミラーモンスターが確かに存在した。
ファングはバックルには填ったデッキケースからカードを一枚取り出すと、召喚機、翼召剣ダークバイザーの翼の形をしたバイザー部を展開し柄の部分にカードを挿入する。
『アドベント』
バルディッシュ・ツヴァイとはまた違う無機質な声がダークバイザーより発せられ、その声に呼ばれたかのようにどこからともなく巨大でコウモリの様な異形が姿を現わす。
「来い、ダークウィング。合体だ!! なーんつって」
闇の翼ダークウィングをアドベントカードで呼ぶと、ファングは合体を要請し、ナイトは飛行可能状態になった。
今のファングはどちらかといえば戦いを楽しんでいた。確かにミラーモンスターが毎日のように襲ってきているが苦戦する様なモンスターは現れず、他のライダーも出現しない為、最初はおっかなびっくりで戦っていたファングも次第にノリノリで戦うようになったのだ。
自分がファング・テスタロッサなんて人間じゃなかったという事や自分が今いる世界が自分の居た世界でない事が分かっても自分自身が何者であったかはごっそりと欠落していたが、それでもファングの中の人は仮面ライダーが好きな事をおぼろげながら覚えているようで本人的には超絶リアル(というか現実)な仮面ライダーごっこができて満足等と言う事を考えていた。ただし毎日、ミラーモンスターに付け狙われてストレスが溜まってきているのも事実ではあるが。
「来いよデカブツ、俺はここだぞ」
ファングは上空へと飛翔すると、ミラーモンスターは当然の如くファングに向かってきた。だがファングは臆することなくバイザーにカードをベントインする。
『トリックベント』
シャドーイリュージョンの発動により、ナイトは無数に分身した。ミラーモンスターはどれが本体か分からないらしく、手あたりしだにナイトの分身に攻撃していく。しかし闇雲な攻撃では本体に攻撃が当たる事はなく、ミラーモンスターはファングの目論見通り翻弄される。そして……
「本物は上だよ。――だけどもう遅い。残念ながら俺は仮面ライダー兼魔導師なんでな! バルディッシュ、パイルバインド発動!!」
『了解、パイルバインド発動』
ミラーモンスターの遥か上空に移動していたファングの片腕には本来仮面ライダーナイトが持ちえない物が存在していた。黒鉄のボディを輝かせ、所々に金のラインが通ったそれは超大型回転式拳銃、S&W、M500のハンター・マグナムリボルバーに酷似している。
バルディッシュモードハンター。多機能型デバイスであるツヴァイに用意された変形形態の一つで、遠距離中距離での高速戦闘に適した形態である。リボルバー部にはカートリッジシステムとしても機能する他、術式込めた弾丸を発射する事で詠唱なしで魔法を発動することもできるのだ
ファングは拳銃状態のツヴァイからパイルバインドを発動。矢のような形をした金のエネルギー弾は真下にいたミラーモンスターに貫通し、そのまま地面に縫い止め、拘束する。そして動けなくなったところでファングはトドメの一撃を決め
に入った。
『ファイナルベント』
ツヴァイを待機状態に戻し、ダークバイザーを腰にマウントすると虚空より出現したウィングランサーを両手で掴み、下向きに構える。ランサーを中心として背中のマントが螺旋状に形を変え、そのまま地面に縫いつけられたミラーモンスターに上空から突貫した。
「ダッシャぁぁぁあああ!!」
文字通りの必殺の一撃が蜂型のミラーモンスターを容易く貫き、爆散に至らしめた。散って行ったモンスターの欠片は吸い寄せらる様に契約モンスターに吸収されていく。
「これで50体目、それなりに使いこなせてきたか?」
『いいえ、現在のマスターはナイトの力の6割程度しか引き出していません。ですがチュートリアルはこの程度で良いと判断、第二段階への移行を決定……移行開始』
チュートリアル? 第二段階? 何の事だ?
そうこう混乱している内にツヴァイから俺に情報が流れ込んでくる。
《カードデッキシステムとデバイス、バルディッシュ・ツヴァイに関して。カードシステムはライダーバトル時のモノから改良がなされており。ミラーワールドでの活動可能時間の大幅延長、現実世界での活動も装着者の魔力で補う事により数十分間可能、ただし変身は特定空間、条件下を除き従来通り鏡面が存在する所でしか不可能。ミラーワールドとの出入りに関しては鏡がある場所ならば入口が出口が別でも可能。また現在の状態ではサバイブは不可能だが、仮面ライダーナイトに変身した状態でバルディシュの使用や魔法障壁の展開に魔道力によるダークウィングなしの飛翔も可能。さらにetc,etc》
(何だよこの情報は! つまりツヴァイは最初からライダーシステムと連動での使用が考えられているってことか!! つまり黒幕はやっぱり神埼士朗とプレシア・テスタロッサで二人がグルって可能性が大な訳だ。しかも頭に流れてきた情報が正しいなら今まで襲ってきたミラーモンスターは俺の訓練用に送られてきたものでそれ以外はミラーワールドにモンスターもライダーもいないってどうよ。しかもダークウイングの餌は契約者の魔力で代替可能とか一体どうなってんだ!?)
『これからのマスターへの指令は、ライダーシステムとは別にミラーワールドに似た鏡面世界で活動可能な冬木のカレイドライナー達のサーヴァントカード回収活動の監視、及びイレギャラーが発生した場合の排除です』
「何それ冬木にカレイドライナーって! それに指令って? 一体どこからよ?」
『現状では私に回答する権利は与えられません』
「……あぁ、そう。で、どうやって冬木まで移動するの? 今住んでるの関東あたりで新幹線でも2.3時間かかるんだが? 転移魔法? まさかライトシュータ―じゃないだろうな」
『いいえ、移動面に関しては問題ありません。自宅に帰れば分かります』
「何だよ、ソレ?」
――帰宅後
「えっ! アリシア、お兄ちゃんちょっと耳がおかしくなったみたい。もう一度言ってくれない。ワンモアプリーズ、ワンモア」
「だぁーかーらぁ、引越しするんだって。優衣おねーちゃんが言うには今住んでるマンションは三人暮らしするには狭いから、優衣おねーちゃんの死んだおにーさんが住んでた冬木の家に引っ越すんだって」
引越しする! 重要な事なので二回言われました。つーか小1なのに活絶よすぎなこの方は我が妹、アリシア・テスタロッサ。事故で両親を俺と同じく亡くしたが、事故に巻き込めれた時のショックで両親に関する記憶を失い、あまり実感がわかない少女……という設定になっている。
……何というか俺自身の事や保護者の優衣さんの事を合わせるといろいろ作為的すぎる。今ある記憶(中の人のでなく、ファング・テスタロッサの中にあったモノ)は十中八九、与えれた偽りの記憶なのだろう。そしてアリシアや優衣さんの記憶も。それにしても神埼士朗が住んでた冬木の家とか、誰がどう聞いてもご都合主義のトンデモ設定だろ……。
「……どうしたのそんな難しい顔して?」
首を傾げるアリシアに俺は誤魔化しを入れると聞いておくべき事を聞いた。
「いや、何でもないって。それより引っ越していつ?」
「1週間後だよ。だからお兄ちゃんも荷造り手伝って」
俺は肯くと、アリシアを手伝って衣装ケースの中に必要ない服を畳んでいった。ちなみ現在、保護者の優衣さんは仕事中で夜の七時ぐらいまでは兄と妹だけです。マンションだからそれほど危なくないけど一戸建てではどうするんだろう?
……さらに一週間後。
「この度、隣に引っ越してきた神埼優衣です。この子達はファング・テスタロッサ君にアリシア。テスタロッサちゃん。三か月ほど前に私の家族になった大切な子達です。これ、つまらないモノですがどうぞみんなで食べてください」
「――ありがとうございます。私はこの家で使用人をしているセラと申します。隣は同じく使用人のリーゼリット。現在この家の持ち主であるアイルスフィール様と切嗣様は所要で海外に出張している為、お会いにはなる事はできませんが連絡の着き次第、報告させて頂きます」
「あ、どうぞよろしくお願いします」
カオス……!!。声には出せないがファングは恐ろしく混乱していた。何で引越し先がアイツベルン家なのかという困惑とプリズマイリヤの主人公であるイリヤや並行世界だろうと天然多重フラグメーカーの衛宮士朗の住むドリームハウスが目の前にある事の興奮が洗濯機の中身のように頭の中でグルグル回転していた。
「どうしたのセラ、リズ。お客さん?」
混乱の最中、タッタッっと軽快なリズムでフローリングを歩み音が聞こえた。それ以前にその高く通った声は……。
「お、お、お……」
「アレ? セラ、家の隣に止まってるトラックって引越しの車。という事はこの人たちは引越してきた……って。あの~キミ、なんで私の事を指さしてるのかな? それに『おっ』て……」
「欧米かぁあああああああああああ~~~」
混乱の極致から暴発したファング・テスタロッサは自分でもこの時何といったのか分からなかった。
「~~でねそのファングって子、私をことを指差していきなり『欧米かぁぁぁあああ~~』とか叫んで倒れちゃったの。変でしょお兄ちゃん。私だってハーフだけど、ファングって子もバリバリパツキンの外国人っぽい子なのに」
アイツベルン家リビング、そこでは夕食で使った食器を洗う衛宮士朗と椅子に座ってテーブルに手を預けたイリヤは先程の新しい隣人について言葉を交わしていた。本来の夕食後の家事当番はセラであったが、隣の引越しを手伝う為、甚だ不本意であったが士朗に交替を頼んだのだ。二人は知らないがセラとリーゼリットが引越しの手伝いを申し出たのは決して親切心からではなく、新たな隣人が危険ではないかという事を調べる事を目的としていた。
「さっきセラとあの神埼優衣さんって人が話してるのを聞いたけど、そのファングって子とアリシアちゃんって妹は両親はどちらも外国人だけど本人達は日本生まれの日本育ちらしい。それにそんな素振り全然見せなかったけどあの兄妹、3か月前に両親を亡くして神埼さんに引き取られたらそうだから俺達の理解が及ばないモノを抱えてるかもしれない。次会うときは気を遣って接してあげるんだぞイリヤ」
「分かった、頑張ってみる」
本人の及ばぬ所で気を遣われるファングであった……。一方その頃。
「――ふぅ、あれ程有意義な労働は久しぶりでした。家ではメイドして家事の一切を任されたこの私をさしおいてシロウが勝手やってしまいますからね。それにしてもあの家族……、訳ありのようでしたがそれでも調べてみた所、特に問題がないようです」
セラとりーゼリットはお隣の引越しを終え、帰還する最中ではあり、セラは久しぶりにメイドとして充分な仕事をこなすことができ満足しており、リーゼリットは珍しく難しい顔をしている。
「どうしたのですか、リズ? そんな顔をして」
「勘違いかもしれないけど……、あのファングって子、――私達と同じに臭いがした。というよりアイリやイリヤの方に近かったかも」
「っ!! どういう事ですか」
セラは驚きで顔を歪める。
「それだけじゃない。分かんないだけどあのアリシアって子やユイって人にも違和感を感じた」
「魔術的な面から調査しましたが何も引っ掛からなかったんですよ!」
「うん、だから勘違いかもしれないって言った。でも注意した方がいいかも」
「……分かりました念の為、警戒を怠らないようにしましょう」
そう言うと二人はアインツベルン家の中へと戻っていった。
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Side神埼士朗
「ようやく第二段階か、それにしてもこんなものが歪みとして現れるとは因果だな」
神埼の眼に映る鏡面世界には蜃気楼の用に揺らめく黒い人型達があった。神埼の予想通りならこれらが力を取り戻し満足に活動を始めるのはちょうどカレイドライナー達の交代時のタイミングと重なる事になるだろう。
「今のアイツでは少し荷が重いか。しかし鏡の中のライダーバトル、奇しくもその再現が起きるとは全く本当に因果なモノだ」
神埼の瞳に映る者。それは仮面ライダーと呼ばれ、自らの欲望の為に命がけのバトルファイトを行ったモノの残滓であった。