現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 文化
  4. トピックス
  5. 記事

人間の本性見据え 92歳 版画家・彫刻家 浜田知明展(1/2ページ)

2010年7月28日15時55分

写真:「アレレ…」というタイトルで1974年に作られた版画と89年制作の彫刻(右端の二つ)が並ぶ=神奈川県葉山町、石野明子撮影拡大「アレレ…」というタイトルで1974年に作られた版画と89年制作の彫刻(右端の二つ)が並ぶ=神奈川県葉山町、石野明子撮影

写真:「忘れえぬ顔B」(2008年)=藤本健八氏撮影拡大「忘れえぬ顔B」(2008年)=藤本健八氏撮影

写真:「幽界を覗く人」(2010年)=上野則宏氏撮影拡大「幽界を覗く人」(2010年)=上野則宏氏撮影

写真:浜田知明さん浜田知明さん

 人間の不条理とかなしみを独特のユーモアにくるんで表現してきた版画家・彫刻家の浜田知明さん(92)の歩みをたどる展覧会が、神奈川県立近代美術館・葉山(同県葉山町)で開かれている。新作も10点。「原点回帰」を感じさせる作品もある。今も創作への意欲は尽きず、ますます透徹したまなざしで人間と社会を見つめる。

■戦争体験 哀愁 ユーモア

 戦争体験を下敷きにした版画「初年兵哀歌」シリーズ(1950〜54年)で知られる浜田さん。その後も人間のずるさや弱さ、不安に満ちた社会を風刺する作品を次々に発表し、海外での評価も高い。

 今展は代表的な版画作品はもちろん、学生時代の油彩画から近年力を注ぐブロンズ彫刻の新作まで、300点以上で構成した。版画の下絵や銅製の原板など、創造の過程をたどるうえで貴重な資料も示し、作家の全体像を見せる。

 2005年以降に制作した彫刻6点とデッサン4点が初公開となる。目を引くのが、少女が恐怖にひきつらせた顔を小窓からのぞかせる2点のデッサン「忘れえぬ顔」だ。

 4年近く従軍した中国の黄土地帯で見た光景を、日本兵の行軍とコラージュ風に表した。「日本軍に見つかれば、特に女性はひどいことをされる。我々を見つけた時の少女の顔がどうしても忘れられなかった」と話す。

 やはり新作のデッサン「夜行軍、雨」には、軍隊生活でたった一度、泣いた夜のみじめさと悔しさを込めた。

 「雨の夜、ひと1人がやっと通れる山道を部隊で移動した。どこへ行くかも知らされず、ぬれて冷えた体で馬を引きながら、一体何のためにこんなバカなことをしなければならないのか、誰がこんな戦争を始めたのか、涙が出てきてしようがなかった」

 70年近い年月を経てなお、繰り返し心によみがえる風景。「それらは作者の精神世界の一部をなし、表現は永遠性を獲得している」と、担当学芸員の橋秀文さんは話す。

前ページ

  1. 1
  2. 2

次ページ

PR情報
検索フォーム

おすすめリンク

2年連続賞金王も射程に収めた石川遼。父勝美氏が明かした「子育て実践論」の内容は?

女子学生は困っていた。男子が手も握ってこない。そんな男子学生を取材してみると。

「このままでは自然死だ」出版に未来はあるのか? 業界の現状を探る。


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介

朝日いつかは名人会ガイド

第5回公演の模様を収録したオーディオブック(音声のみ、有料)をダウンロード販売中です!
落語はもちろん、会場の爆笑を呼んだトークのコーナーを含む全編収録版と、柳家喬太郎「一日署長」だけの真打ち版、あわせて2種類です。詳しくはこちらのページをご覧ください。
オーディオブックの発売にあわせて、ダイジェスト版の動画も、インターネット上に流しています。オーディオブックと同様、こちらのページをご覧ください。