不正アクセス禁止法(正式名称は「不正アクセス行為の禁止などに関する法律」)とは、IDやパスワードでロックされているコンピュータに対して、第三者がアクセスすることを禁止する法律だ。実際に起こった事件を基に紹介していこう。
ゲーム内アイテムで不正アクセス禁止法違反
Aさん(男性、28歳)とBさん(女性、26歳)はオンラインゲームで知り合い、他のメンバーとともにオフ会(インターネット経由のオンラインに対して、現実に会うことをオフライン、つまりオフ会という)に参加した。AさんとBさんは年が近いこともあり、意気投合し数カ月後に交際することになった。
AさんはBさんの家で一緒にオンラインゲームをすることもあり、ログインするためのIDとパスワードをパソコンに保存していた。そのあと、二人の間で行き違いがあり、別れることになった。しばらく失恋の影響でオンラインゲームにログインしていなかったAさんだが、久しぶりにログインしてみると、自分のキャラクターが持っていたアイテムがなくなっている。不審に思ったAさんはゲーム会社へ問い合わせをしたところ、アイテムは他のキャラクターに渡されていたことがわかった。
そこでAさんは、Bさんが勝手に自分のIDとパスワードを用いてログインしたと考え、警察に被害届を提出した。警察の調査で、Bさんの家からAさんのIDとパスワードを用いてログインしたことが判明したため、Bさんは逮捕された。
図1 AさんのIDとパスワードを盗んでログインするBさん |
この事例を読んで、どう感じただろうか?「ゲームのアイテムを盗んだだけで逮捕されるなんて!」と思った方もいるかもしれない。しかし、これは不正アクセス禁止法に該当するれっきとした犯罪だ。ゲームだからと甘く見ていると、犯罪者になり得る危険性を持つわかりやすい例といえるだろう。
ネットによる犯罪予告
犯罪予告とは何らかの犯罪を予告することだが、そのこと自体が犯罪として問われる。たとえば、「日時や場所を指定して爆破予告を行なう」、「個人を指定して殺人予告を行なう」といったことが該当し、一般的には脅迫罪に分類される。脅迫罪とは、相手を畏怖させることにより成立する犯罪のことだ。
また、脅迫罪のほかにも、嘘の情報を用いて業務を妨害した場合には偽計業務妨害罪、暴力的な表現を用いて業務を妨害した場合には威力業務妨害罪、悪戯目的で行なった場合でも軽犯罪法違反(業務妨害)に抵触する可能性がある。
Cさん(男性、35歳)はある時インターネット上の掲示板にスレッドを立てた(特定の話題に関する投稿の集まり、初めに投稿をすることを、スレッドを立てるという)。ところが、Dさんなる方から馬鹿にされた書き込みをされた。それを見たCさんは、「今から殺しにいってやる」という書き込みをしてしまったのだ。
その書き込みを見たDさんはこの掲示板のURLを警察に送り、「脅迫されている」ということを伝えた。警察は、Cさんの書き込みを基にIPアドレスを探し出し、プロバイダに確認した。そのあと、Cさんは脅迫罪を犯したとして逮捕された。
図2 掲示板での犯行予告 |
このようにIPアドレスから本人を割り出すことは、基本的には警察など公の機関でなければ行なえない。そのため、掲示板に書き込みから個人が特定されることは、まずあり得ない。しかし、今回の例のように事件性があると判断されれば、その公の機関によって、どこから書き込みを行なったかは突き止められる。
Cさんのように、インターネットという性質上、安易な書き込みをしてしまいがちだ。しかし、書き込みが証拠となって逮捕に結びつくというケースは非常に多い。犯罪になる書き込みには、常に注意する必要があるといえる。
身近な例としては、今回紹介した以外にも「個人情報の安易なWeb投稿」「無線LANの無断使用」「掲示板への中傷書き込み」なども存在する。ブログやSNSなどで安易に自分の住所や写真をアップロードしたところ、ストーカーの被害にあってしまうなど、加害者ではなく被害者になってしまう可能性もある。
インターネットは、多くのメリットを与えてくれる。しかし、何がよいか、何が悪いのかをきちんと考え、安易な行動をとらないことが、加害者にも被害者にもならないためには必要といえるだろう。
筆者紹介:内田 大介(うちだ だいすけ)
トレンドマイクロ株式会社 マーケティング本部 コーポレートマーケティング部
コアテク・スレットマーケティング課 マーケティングスペシャリスト
商社系SIerにてシステムの営業/コンサルティングを経験し、2006年トレンドマイクロ入社。広報担当として報道対応を行うとともに、会社のブランドマーケティングに従事。2010年からセキュリティ啓発の専任担当となり、講演・執筆活動を行っている。
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