自転車と歩行者との事故急増に対し、全国の警察が自転車利用者の違反に厳しい姿勢で臨んでいる。警察側は「自転車だからと気軽に考えている」と指摘するが、検挙された自転車利用者には「この程度で」との戸惑いも広がる。自転車の「原則車道走行」などの交通ルールが浸透していないことが背景にあり、有識者は交通教育の必要性を訴えている。【関谷俊介、馬場直子】
福岡県警は先月22日、自転車の取り締まりを強化した。歩行者との事故が多い天神や中洲といった繁華街を抱える福岡市中心部を対象に、朝の通勤時間帯に実施している。
ある日の天神地区。歩道上の歩行者は、自身の進路に飛び込んできた自転車に驚き、立ち止まった。取り締まり中の警察官は自転車の男性を呼び止め、刑事手続きに入る「交通切符」(赤切符)の交付を適用した。男性は「この程度で検挙されるのか」と驚いた様子だったという。
赤信号なのにそのまま渡った自転車の女性は、やはり赤切符を交付され「このくらいのことは他の人もしている」と不満を漏らした。ブレーキのない競技用自転車に乗っていた男性は、警察官に「きちんと止まれる」と言い張った。
今月16日までの約4週間に所管の2警察署が道路交通法違反で赤切符を交付したのは18人。昨年1年間に交付した5人の3倍以上だ。内訳は信号無視10人、ブレーキ不良自転車の運転5人、歩道を走り歩行者を妨害するなどした通行区分違反3人。大半が20~30代の会社員だった。
違反者のほとんどは事故の危険性や罰則を説明されると素直に手続きに応じたというが、県警幹部は「違反は認識しているのに自転車ということで気軽に考えている。検挙されることもあると知って、安全な運転を心がけてほしい」と話す。
違反にとどまらず、事故を起こして重過失致死傷や過失致死傷の容疑で検察庁に送られた自転車利用者は09年、全国で4648人に上った。
とはいえ、取り締まりの前提となる自転車の原則車道走行などの交通ルールは広く認識されていない。
警察庁の自転車などの教則改定に関する懇談会で座長を務めた吉田章・筑波大大学院教授は「交通ルール通りに厳密に取り締まると、自転車利用者の8~9割が何らかの違反で罰則を適用されてしまう。まずは交通教育の徹底を優先すべきで、学校で義務化したり、社会人は職場で教えるなどの対応が望ましい」と指摘している。
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毎日新聞 2010年8月23日 東京朝刊