社説
あかつき失敗 教訓生かしてこそ科学(12月10日)
金星探査機「あかつき」は、金星を周回する軌道に乗ることに失敗した。
惑星軌道への投入失敗は7年前の火星探査機「のぞみ」に続く。期待されていただけに残念な結果である。
金星上空550キロで減速するためエンジンを逆噴射した際、機体に何らかの強い衝撃が加わったらしく、12分間続くはずの逆噴射が2分半で自動停止してしまった。
その結果、十分に減速できず金星の重力圏にとどまれなかった。
可能性として、独自開発したセラミック製エンジンに異常が起きたとの見方がある。高い燃焼効率に比べ強度に不安があったという。
宇宙航空研究開発機構は急ぎ「強い衝撃」を解明してほしい。
あかつきは6年後に金星に再接近する。宇宙機構は「かなりの確率」で周回軌道に乗せられるというが、そう簡単ではあるまい。
のぞみ同様、太陽のフレア(表面の爆発)による強烈な放射線に遭えば故障しかねない。通信機能や電池が劣化していく恐れも重なる。仮に噴射口が破損していれば、制御が難しくなるのではないか。
本体や搭載機器は本当に無事なのかの確認も急がれる。
あかつきは5月21日、鹿児島県種子島からH2Aロケットで打ち上げられた。金星の気象観測を目的に、北大の学者らも加わって開発した特殊カメラ5台を搭載している。
製作と発射には252億円が投じられた。資金不足のため、打ち上げは3年延期された上だった。
地球から5億2千万キロを飛んだ最終段階で通信も一時途絶した。通信に片道3分半かかることを含め技術的な難しさは分かっていた。
失敗をどうとらえるべきか。国民の間でも議論が予想される。
ここは悲観的になるよりも失敗を生かす方向で考えたい。
米国や旧ソ連、欧州は既に金星を含む惑星周回軌道への投入に成功している。日本は2014年の水星探査機という次の目標を持つ。
失敗に学び、成功を目指す挑戦をいとうべきではないだろう。
あきらめれば苦い記憶しか残らない。失敗克服の努力は必ず技術力を向上させ、宇宙開発での国際競争力を高めていくことにつながる。
政府は国際宇宙ステーション事業には毎年度400億円を投じているが、惑星探査は財政をにらみながら個別に判断してきた。
将来、独自の有人宇宙飛行を目指す可能性も消えてはいない。技術開発の空白は避けるべきだ。
目先の経済的利益だけが価値ではない。夢を追うロマンも人類を進化させてきたことを想起したい。