「チャンスは一度きり。失敗すれば金星を通り過ぎてしまう」。宇宙航空研究開発機構の担当責任者の言葉は予言だったのか。日本初の金星探査機「あかつき」は予定の軌道に入れなかった。
小惑星「イトカワ」から微粒子の持ち帰りに成功した探査機「はやぶさ」の頑張りに続けと、国民の期待も高まっていただけに残念と言わざるを得ない。
日本の宇宙科学にとって、惑星の周回軌道への探査機投入は長年の悲願だ。今回の失敗に萎縮する必要はない。宇宙機構は、あかつきが金星に再接近する6年後、軌道投入に挑戦するという。仕切り直して再度、挑んでもらいたい。
探査機は通常、惑星に近づいたらエンジンを逆噴射して減速し、惑星の重力に引っ張られて周回軌道に入る。
宇宙機構によると、金星に近づいたあかつきが逆噴射を始めた直後に突然、機体の姿勢が乱れ、その前後にエンジンが止まった。逆噴射が計画していた12分間より短く、金星の周回軌道に入るのに十分な減速ができなかったという。
もともと探査機を周回軌道に乗せるには極めて高度な技術が要る。惑星の重力と速度の兼ね合いなど、困難さが付きまとうからだ。1970―80年代に金星探査に成功した旧ソ連や米国も、軌道投入には苦労した。日本では98年、火星を目指した探査機「のぞみ」が今回同様、周回軌道投入の段階で失敗している。
あかつきは、のぞみの経験を教訓にしているはずだ。近年、2003年のはやぶさに続き、07年には月探査衛星「かぐや」が打ち上げられ、日本の探査技術の高さが国際的に認知されてきた。
それだけに、日本の技術になお乗り越えるべき壁があるということだろう。
今後、なすべきことは二つしかない。まず、今回の失敗の原因を徹底して究明することである。そのうえで、可能性があるならば諦めずに、これまでの蓄積を生かして再挑戦することだ。
いまのところ、電気系や通信系に異常は見つかっておらず、原因にはエンジンの故障が取り沙汰されている。エンジンに今回、世界で初めてセラミック材を使用している。ただ、ほかの要因も想定し多角的に検証すべきだろう。機器などハード面だけでなく、これまでの開発過程に問題はなかったか、徹底的に調べることが、次のステップにつながる。
宇宙飛行士の山崎直子さんや野口聡一さんの活躍、はやぶさの奇跡的な地球帰還など、今年は宇宙の話題に沸いた。しかし、日本の宇宙開発の大方針が定まっていない。わが国はどんな宇宙開発を進めていくのか。そこをはっきりさせないと、惑星探査の今後も揺らぐ。
惑星などの探査には、宇宙の謎の解明に寄与することはもちろん、社会に貢献する最先端技術を育む意義もある。これまでの挑戦で獲得してきた知識や技術を無にしないためにも、宇宙の探査計画をめぐる長期ビジョンが不可欠だ。
=2010/12/10付 西日本新聞朝刊=