余録

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余録:「あかつき」失敗と再挑戦

 18世紀の啓蒙(けいもう)思想家ボルテールはシリウス星人が土星人と一緒に地球を訪れるというSFのような物語を書いている。ただこのシリウス星人であるミクロメガスの身長は39キロ、その彼にとっては一寸法師である土星人は同じく2キロである▲土星人はミクロメガスに言う。「私たちの存在は点にすぎず、寿命は一瞬にすぎません」。ただし短命を嘆く土星人の寿命は地球年に換算すると1万5000年という。この物語でボルテールは宇宙における物の大小や、時間は相対的なものだと示したかったようだ▲だから「6年」などという時間は宇宙のスケールでは「一瞬」にも満たないと考えるべきなのかもしれない。国民の期待を集めた日本の金星探査機「あかつき」の金星周回軌道への投入失敗、そして6年後にやってくるという再挑戦のチャンスの話を聞いての感想だ▲「あかつき」はエンジンの逆噴射不足で減速できずに金星付近を通過し、周回軌道に入れなかったという。小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡の地球帰還で意気上がっていた日本の宇宙開発だけに、何とも残念な結果である▲ただ何度も通信途絶や機器のトラブルに見舞われた「はやぶさ」が7年がかりで果たしたミッション達成に感動した国民だ。いきおい「あかつき」でも、6年後にやってくる金星再接近の際の再投入にドラマの盛り上がりを期待してしまうのが人情というものである▲近づく太陽の熱を受ける機器の損耗や経年劣化で再挑戦は至難というのが実際だ。だが宇宙探査機のど根性物語に「国民の元気」を託す今の日本人である。「再起」こそ時代の合言葉にふさわしい。

毎日新聞 2010年12月9日 0時01分

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