それはある晴れた日、海鳴市全体が見渡せる丘の上で二人の少女が向かい合っていた。
どちらも茶髪だがツインテールとショートカットにしている、ツインテールの少女は白い服を基調として所々に青と黄の装飾が光り手には白い杖が握られていた。
ショートカットの少女は白と黒を基調した服、背には黒い翼のようなものが付いている。右手には先端が十字型となっている杖、左手には同じく表紙が十字型の本を持っていた。
そう、二人の少女達は正しくスタンバイレディしていた。
そんな二人を離れた場所で見守るのは、銀髪の女性。紅い瞳はショートカットの少女を見ている、自分の魔導の力を主に伝えられる時間は限られていたがそれでも彼女は幸せだった。永く辛い哀しみの夜はもう終わり、目の前に居る少女が全てを救ってくれたのだから。
彼女等が結界を張って対峙しているのは、
「えっと、この馬鹿弟子がぁぁっ! って何なのこれ、はやてちゃん!?」
「うんうん、やっぱ修行と聞いたらこの言葉を聞かんとあかん」
「え!? そ、そうなんだ」
「じゃあ是非、次はこれを頼むでなのはちゃん!」
「……答えよはやて! 古代ベルカの騎士道は!」
「祝福の風よ!」
修行のためである。具体的にはなのはが師で、はやてが弟子と言ったところか。この流れだとなのはがはやてに技を教えようとしているようだ、リインフォースはそんな二人を見て。
(主はやてがあんなに楽しそうに……)
感慨深く頷くのだった。
高町なのはと八神はやて、そしてリインフォース。これはそんな彼女等のある一日。
その後、気が済んだのか晴れ晴れとした表情のはやてと疲れたような表情のなのはがいた。ともあれ気を取り直しなのはは手にしたレイジングハートを構え、はやてに魔導を教えようとする。
その魔導とは〈マニューバACS〉、魔力を全身に纏いデバイスを突き出して突撃する技だ。
それを聞いたときリインフォースは、アレかと回想する。数日前、解決した闇の書事件。その終盤でなのはから自分へと繰り出された技、あの時はダメージ無しかのように平然としていたが。
(実はちょっぴり効いた、うぅ……アレを主はやてが習得するのか。頼もしいが複雑な気分だ)
お腹の部分を擦りリインフォースはあの痛みを思い出したかのように身を震わせる、冬の風が身に染みた。
「違うよはやてちゃん! もっと全身に魔力を込めて体当たりする勢いでやるの!」
「ちょっ、これ思ったよりキツ……」
「……だからオマエはアホ弟子なの!」
「いやなのはちゃん、私が悪かったから。今言わんといて、正直堪え……」
「それでも夜天の主!?」
「やったるわぁぁっ! はやてちゃんの意地見せたるでぇぇっ!」
ヒートアップする少女達である。この調子ならはやてがマニューバACSを習得するのは早そうだった、一方でとあるマンション。
室内である目標のために勉強する金髪の少女、それに付き合うのはクリーム色の髪の少年。彼らの傍らでは紅い子犬フォームの使い魔が丸まってリラックスしている。
「ごめんねユーノ、忙しそうなのに付き合わせちゃって……」
「気にしないでいいよフェイト、それより本気? 執務官試験は結構難しいよ、後聞いた話なんだけどハラオウン家に養子になるのは、もう決めた?」
「私みたいな子を探して守ってあげたいんだ、困ってる人達を救ってあげたい。だから頑張るよ……養子の件はまだ悩んでる、私なんかがお世話になっていいのかなって」
「フェイト……」
悩む表情のフェイトにユーノは掛ける言葉がうまく見つからない、なのはならうまく励ませるんだろうなと思いながらどう言葉を掛けようか思考する。その会話を聞いていたアルフは、
【男の子だろユーノ、こういう時には意地を見せるんだよ! フェイトもそんなユーノを期待しているんだから!】
初々しいカップルのような雰囲気を何故か出すフェイトとユーノにそう叱咤したらしい。念話で。
それを聞いた二人は慌てて真っ赤になり互いに否定したそうだ、何を? とは言わないが。
これは彼女達の日常、魔法少女達が駆け抜ける日々を記す物語。
闇のマテリアル達と運命の守護者と時の操手姉妹が巻き起こす嵐は、すぐそこまで迫っている。今は、
「これが私の全力全開やーっ!」
「よぉし、今こそオマエは夜天の主なの……」
「師匠ォォォッ!!」
平和な少女達の一日があった。