気持ちが一度、途切れても、高知の選手の体に染みついた意識と技術は生きていた。
5回無死一、二塁。
8番笹岡が、外角のボール気味の直球に、前のめりになりながらバットを当てた。フラフラと上がった打球が右前に弾み、好機は無死満塁に広がった。
カウント2―1。直前に送りバントを2度失敗したが、悲観的にならなかった。島田監督から言われ続けてきた「チャンスで打席に立つ選手が思いきりいけばいい」という言葉を思い出し、球に食らいついた。
続く二神も一、二塁間を破り1点。さらに中谷の二ゴロで2点差に迫る。それまで低めのスライダーに空を切らされていた日大三の好左腕、大越をひやりとさせた。
笹岡、二神の連打は、いずれも愚直に右を狙った当たりだった。笹岡は、「逆方向に打ち返す打撃はうちがずっとやってきたこと。精いっぱい力を出せた」と満足そうだった。
明徳義塾の出場辞退で、急きょ出場が決まってから6日。高知大会決勝で敗れ、3年生は、いったんは引退した。笹岡は、卒業後の進路相談で学校へ向かう途中、出場決定を知ったという。
先発メンバー全員が3年生。島田監督は、実戦感覚の不足を心配していたが、守っても無失策。選手たちが鍛え上げたものは、わずかなブランクでなくなるほどもろくはなかった。
島田監督は、「本当にいい試合を見せてくれた」。日大三の強打には屈したが、胸を張れる戦いだった。