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きょうの社説 2010年12月12日
◎「産業遺産」認定へ 地域に根ざした価値に光を
日本の近代化、産業化に貢献した工場や土木施設などを「近代化遺産」「産業遺産」と
して評価する動きが広がっている。だが、神社仏閣のような定まった尺度はなく、文化行政の中でも位置づけは決して高くはない。石川県が都道府県として初めて産業遺産の認定制度を設けることの意義も、産業遺産が貴重な文化財であるとの認識を地域で定着させることにあろう。経済産業省は2007年に「近代化産業遺産」制度を設け、県内でも禄剛埼灯台(珠洲 市)、織物事務所だった深田久弥・山の文化館(加賀市)が選ばれている。日本機械学会、土木学会も「機械遺産」「土木遺産」の選定を始めたが、産業遺産が地域発展の歩みを示す財産と考えれば、国や学会任せでなく、地域がその土地に根差した価値を主体的に評価する仕組みがあっていい。 県は文化庁の補助事業で2008年に県内の近代化遺産調査報告書をまとめた。工場や 商店、鉱山、発電所、橋など建造物、構築物については基礎データは整ってきた。新たな制度では、機械産業が盛んな土地柄を考慮し、繊維や工作機械なども視野に入れている。 産業構造の転換や技術の進歩で機械や設備は更新され、古くなれば廃棄される運命にあ る。だが、企業の成長、業界の発展に寄与したような設備は大事に保存されている例も多い。それらは先人の汗や努力、知恵の結晶といえ、一企業を超えた価値が見いだせる。産業遺産として積極的に評価すれば、技術者の仕事に敬意を表し、ものづくりの土壌を将来に向かって耕すことにもなる。 産業遺産の定義は多様であり、広くとらえれば、建造物や機械だけでなく、器具や図面 なども含まれる。地場産業なら温泉旅館や酒、醤油などの分野でも地域を支えたお宝が眠っているだろう。管理は企業に委ねられているだけに、行政としても認定と同時に、保存を後押しする手立てが必要である。 産業遺産を系統立ててデータ化すれば、石川の近代化、地場産業に理解を深める格好の 素材となる。教育や産業観光など幅広い活用を視野に入れ、官民一体で遺産の掘り起こしに努めたい。
◎国際協力銀を分離 機能の強化は必要だが
政府は、新成長戦略に掲げるインフラ輸出を官民一体で推進するため、日本政策金融公
庫から国際協力銀行(JBIC)を分離・独立させる方針を決めた。原発や高速鉄道などの国際受注競争を勝ち抜くには、オールジャパンの取り組みが重要であり、国際協力銀の融資・出資業務を拡充する必要がある。ただ、国際金融機能の強化と組織の分離・独立は必ずしもイコールとはいえない。いわゆる官製金融部門のスリム化という従来の行政改革の流れを変える国際協力銀の分離・独立については、さらに十分な議論と説明が求められる。日本輸出入銀行と海外経済協力基金を合わせて誕生した国際協力銀は2008年10月 、国民生活金融公庫や中小企業金融公庫などとともに日本政策金融公庫に再編、統合された。日本政策金融公庫の一部門ながら、国際的な信用を考慮して引き続き国際協力銀の名称で業務を行っている。 政府系金融機関の再編の形として、いささか変則的ではあるが、ちょうど世界的な金融 危機で民間金融機関が貸し出しに慎重な時期と重なったため、政策金融公庫の存在感は高まった。それまで年間1兆円程度で推移してきた国際協力銀の事業規模は08年度に1兆5千億円、09年度には3兆円に増大するという状況である。 一方、新興国などが発注する大型のインフラ事業では、受注側も事業資金の融資や出資 を求められるようになり、リスクを負いきれない民間金融機関をバックアップする国際協力銀の役割が増している。こうしたことから、早い意思決定で機動的に対応できるよう国際協力銀の機能を高め、融資の対象事業も拡大する必要に迫られていることは確かである。 その半面、分離・独立ということになれば、「民業補完」という国際協力銀の本来の立 場を踏み越えて、公的金融が肥大化する懸念も強まる。野党などからは、財務省の天下りポストを拡大、格上げするものといった手厳しい批判も出されており、機能強化と組織の在り方については十分な国会審議が必要であろう。
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