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多くの「なぜ」残したまま 裁判員裁判「無罪」傍聴記

2010年12月11日

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傍聴を希望する人たちが長い列をつくった=10日午前8時35分、鹿児島市の鹿児島地裁、長沢幹城撮影

 裁判員の選任から判決まで40日間という過去最長の裁判員裁判が10日、鹿児島地裁で終わった。強盗殺人などの罪に問われた男性への判決は無罪。この裁判を、毎回傍聴した記者はどう見たのか。

 裁判員たちが40日間にわたって考え、悩み、導き出した答えは「疑わしきは被告人の利益に」。無罪判決だった。閉廷後、被告だった白浜政広さん(71)は安堵(あんど)したような表情を浮かべ、弁護人に会釈し、会話した。対照的に、被害者の遺族は判決が言い渡される約1時間の間、うつむいたり涙目で宙を見つめたり、放心状態のようだった。

 遺族は初公判を前に「真実が明らかにされることを願う」とコメントした。法廷にも立ち、「なぜ両親が殺されなければならなかったのか」と涙ながらに訴えた。だが、遺族が求める真実が明らかになったとは言い難い。

 11月2日に始まった公判。死刑を求刑した検察側と無罪を訴えた弁護側の論戦は、日を追うごとに熱を帯びた。検察側から「(現場に残された)指紋が一致する人は被告しかいない」と聞けば、説得力を感じた。一方、弁護側から「DNA型鑑定試料は再鑑定できないほど使い切られ、信用性がない」と聞けば、捜査側の不十分さを感じた。

 法廷での10日間の審理で新しい証拠が出てくるたび、「自分が裁判員だったら」と考えた。だが、双方の主張を聞いても、納得できない部分は多く、どちらの言い分が正しいのか最後まで分からなかった。

 公判でほとんど表情を変えることのなかった被告が感情をあらわにした瞬間があった。5日目の証人尋問。被告の口内から細胞片を採取した状況を警察官が証言した。顔をしかめ、手と首を横に振り、弁護人に激しく何かを訴えた。だがそれ以外の表情は、公判を通してほとんど変わることがなかった。背筋を伸ばし、前を見つめたままだった。

 事件にかかわっていることを隠そうとしているのか。それとも自らの無罪を確信して動じないのか。表情からも真意をくみとることはできなかった。

 40日という長い時間をかけ、無罪という答えを出した裁判員をたたえたい。私が裁判員だったとしても、同じような判決を選んでいただろう。だが、事件は多くの「なぜ」を残したままだ。「なぜ現場に指紋があったのか」「真犯人は誰なのか」。事件発生から1年半。当時から取材にかかわった私としては、事件の真相を知りたかった。

■「判決気になる」1278人傍聴希望

 鹿児島地裁前は午前8時前から一般傍聴の52席を求める人であふれた。傍聴希望者数は1278人。地裁の裁判員裁判では最多となった。

 鹿児島市の前田崇さん(62)はこれまで2回、この公判を傍聴した。「何が本当で、どこまでがうそかわからない。裁判長がどう述べるか気になる」と話した。

 「判決がどうしても気になって」と話すのは鹿児島市の女性(66)。「死刑か無罪か。あまりにも極端なので、気になる」。傍聴しようと何度か裁判所を訪れたが、すべて抽選で漏れた。この日の結果もダメ。「すごい人(の数)ですね」と驚いていた。(城真弓)

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