1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 00:19:40.88 ID:sW2vF9r80
2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 00:22:35.63 ID:sW2vF9r80
女「すごく後悔してる。今になってみればさ、他に生きる
手段なんてたくさんあったのに。カラダ売ってでも
食べていけばよかったのに。
でもさ、また捨てられるのがこわくてさ――」
男「……ああ」
女「いやだって言えなかった。それが、わたしの罪」
男「……わかった」
女「ホントきたないの。くのいちのまねごとみたいなことまでして」
男「くのいち?」
女「バカな男を身体で誘惑して篭絡して、油断したところを
ズドン、って。サイテーだってわかってた。
だからもう――」
男「――もういい!」
女「…………!」
男「今日はもう寝ろ。俺も寝るから、それ以上しゃべっても
聞かねえぞ」
女「…………」
男「じゃあ、また明日な」
女「…………
ごめん。ありがとう……」
64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 05:39:46.17 ID:sW2vF9r80
女「!? ぐ、あぁ……!」
男(――――! この声、まさか殴られてる!?)
看守「自分の立場というものを理解しているのか?
きさまらはな、もう屠殺されるのを待つブタも
同然なんだよ!」
女「ぐふあっ……!」
男(このッ……許せねえ!)
女「アンタは、黙ってて!」
男(!!)
看守「な、何をォ――!」
女「うあ、く、がっ、ああああああ……!」
121 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 20:37:52.58 ID:sW2vF9r80
男「……悪いな。俺のために」
女「う、いたた……なんの、コトよ?」
男「メシ」
女「今日はなんか少なかったような気がしただけ」
男「俺に、黙ってろって言ったろ。騒ぎ立てたら、
俺も同じ目に遭うから。
あの馬鹿、自分が言われたと勘違いしやがって」
女「それも違う。あのバカの言い方が気に入らなかっただけ」
男「…………」
女「大丈夫だよ。犯されなかっただけマシだと思わないとねー」
男「そうか。痛くねえか?」
女「いたいけど、これくらいなら平気。
……なんかつかれた。寝ても、いい?」
男「ああ。おやすみ」
123 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 20:51:20.33 ID:sW2vF9r80
女「ねえ、今どこにいる?」
男「ん? 部屋にいるに決まってるだろ?」
女「そうじゃなくて。部屋のどこにいるの?」
男「当ててみな? 退屈しのぎにはなるかもしれんぜ」
女「わかるわけないじゃん」
男「お? 俺にはおまえがいる場所がわかるんだがな」
女「へ? ど、どうやって? まさか、こっち見てる?」
男「見てねえよ。でも、これだけ背中があったかけりゃ、
俺と背中合わせに座ってることくらいわかるさ」
女「う……それは、その」
男「あれ? もしかして、当たっちまった?
半分くらい冗談だったんだが……」
女「……へ?」
男「そーかそーか、女も俺のぬくもりが恋しいってのかー。
かわいー奴だな、はっは」
女「このっ……またアンタはそうやって調子に――」
男「そんで、おまえはまたそうやって照れ隠し、と。
はっは」
163 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 02:42:06.01 ID:LdzWVoMM0
女「……知ってる。わたしも似たようなものだったから」
男「本当、ろくなもんじゃなかったよ。こんなことをするためにここまで
生きてきたわけじゃ――」
女「――もう、いいよ」
男「…………っ」
女「わたし、今日はもう寝るね。夜も遅いし、眠くなっちゃった」
男「…………」
女「じゃ、また明日ね」
男「…………
悪い。でもその前に、聞いてくれよ」
女「……ん?」
男「俺な。隣にいるのがおまえで、本当によかったと思ってる」
女「あっそ。なにいきなり恥ずかしいコト言ってんの」
男「へへ」
女「……わたしもよ」
172 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 03:42:35.67 ID:LdzWVoMM0
男「おまえがそう思ってるなら、つまらねえ話になるぜ?」
女「どういうこと?」
男「極悪人だった、って言ってんだよ」
女「え……?」
男「金のために顔見知りだろうがそうでなかろうが
殺しまくった、弩級の犯罪者さ。死刑になろうが
同情する奴なんていやしねえ、むしろ喜んだ人間のほうが
多かったろう物欲の権化」
女「そんな……やめてよ、そんなシュミの悪い冗談」
男「冗談だとしたら、たしかに趣味が悪いな。
だがよ、いざ死ぬとなれば欲なんてのは意味がねえ。
奴も後悔してたさ。なんてことをしてしまったんだろう、
殺してしまった人たち、その家族、友人に申し訳ないってな。
そして、だからこそ……死をもって罪をつぐなうと決めた」
女「…………」
男「俺は、よ。もしかしたらおまえほど、人間ってモンに
絶望してねえのかもしれねえ。ガキだって言いたくなるのも、
まあわからねえでもねえってもんだ。はっは」
女「……そっ、か」
324 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:55:48.96 ID:LdzWVoMM0
女「でも、わたしが人間に絶望してるみたいな言いかたしないでよ」
男「お? ああ、すまねえな。俺の中でおまえは薄幸の美女だからよ、
人の世をはかなんで――」
女「あーもう。そんなシュミの悪い冗談はやめろって言ってるでしょ」
男「わり」
女「……わたしも、男に会うまではそうだったけどさ……」
男「んー? 声が小さくてよく聞こえねえぞ」
女「なんでもないわよ。ばか」
男「馬鹿とは失礼な」
女「うっさい」
329 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 00:21:28.87 ID:QyPCQbkC0
女「だれにも必要とされないくせに、生きていてほしいって
思ってくれる人もいないくせに、わたしなんで生きてるん
だろうって思いながら抜け殻みたいに生きるのが、怖い。
なによりも。死ぬよりも……」
男「……そう、か」
女「だから、おむかえが来るなら男よりわたしが先に。
そう、思ってる」
男「そう言われてもな。刑の執行の期日は俺が決めるわけじゃ
ねえ。判決を受けた順でもねえ、お上のだれかの気まぐれだ」
女「わかってる。でも、それでも」
男「それに、その言い方はこっちの都合を完全に無視してる」
女「……どういう意味?」
男「わかってるくせによ」
女「はっきり言ってほしいだけ」
男「やだよ。もしかしたら壁に書いてあるかもしれねえぜ」
女「何も書いてないの、知ってるくせに」
男「ぐー」
女「寝たふりすんな!」
334 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 01:13:40.51 ID:QyPCQbkC0
女「……あ!」
男「どうした?」
女「それ、やっぱダメ」
男「なんで?」
女「だってそれ、義兄弟の契りじゃない」
男「なにがいけねえんだよ」
女「……ダメなのっ」
男「じゃあどうしろてんだ」
女「……その、ええと」
男「夫婦の契り、か?」
女「! まあ……そうなる、かな」
男「はっは。俺、おまえの顔も知らねえんだぜ?」
女「三国志の時代なら、フツーのことだったはずでしょ」
男「政略結婚か? ま、それもそうだ」
女「でも、政略結婚なんかじゃない」
男「いいだろ。じゃあ、いくぜ?
我ら生まれた日は違えど――」
女「願わくば、同年同月同日に死なん」
男「酒もねえ花もねえ、シケた契りだがよ」
女「うん。十分だよ……ありがとう」
340 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 02:07:30.50 ID:QyPCQbkC0
男「なあ、頼みがあるんだけどよ」
女「え……?」
男「想像は自由とか言ってきたが……一目でいい。そっち、
のぞいていいか?」
女「え、う……今は――」
男「今しか、もうねえんだ」
女「……わかった。いいよ……」
男「おっしゃ。じゃあ、のぞくぜ?
お。おお。おお〜〜〜」
女「……なによ、その反応」
男「へへ。思った通り、大層な美人だ……けどよ、そんなに
泣いてちゃ台なしってもんだぜ?」
女「うっさい……だから今はイヤだって言ったのに……!」
男「笑ってくれよ。この眼に焼きつける」
女「……うん」
男「はっは。最高だ。もう思い残すこともねえ……ってか」
355 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 04:08:56.05 ID:QyPCQbkC0
女(結局返事がないまま朝になっちゃった……)
看守「おい、時間だ。出ろ……
なに!? いない!?」
女(!? まさか――)
看守「窓の格子が一本折れてる! まさか、脱獄か!?」
女「――――!!」
359 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 04:27:53.76 ID:QyPCQbkC0
女(そういえば……あいつ、言ってた)
男『世の中なにが起こせるかわかんねえ、ってな』
女(考えてみれば、壁に穴開けようって奴だもんね……
格子に同じような細工をしようとしたって、何も
不思議じゃない。でも、コンクリートの壁と
鋼鉄の格子じゃ、勝手が全然違うはず……)
看守「格子の根元がぼろぼろに錆びてる。なんでだ、
錆止めの塗装がしてあるってのに!」
女(それは、何も不思議じゃない。フォークの先で
毎日しつこくつつけば、塗装くらいならはがせる。
でも、錆びるまでが早すぎる……
錆びるために必要なのは……塩分? でもここは
潮のかおりもしないし、海からは遠そう。
あるとしたら、食事の汁物? ごはんが足りない
足りないってぼやいてたのは、そのせい?
あとは……まさか、血とか……?
ともあれ、さっきの『間に合った』ってのは、
刑の執行より手で折れるくらいまで格子が錆びる
ほうが早かったってこと)
364 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 04:41:30.81 ID:QyPCQbkC0
看守「とにかく、探せ! 急ぐんだ!」
女(おそらくは探しても無駄。
男が出ていってから、数時間は経ってる。わたしで
さえ、ここに連れられてくる間の道順は覚えてる。
男が覚えてないはずがない……
たぶん、もうこの刑務所の中にはいない。
問題は……たぶん、警察が動く。このあたり一帯を、
包囲することになるはず。
そこを突破できれば、男は逃げ切れる)
女(でも、納得できない。
男は仲間を大事にする性格のはず。約束を破るなんて、
考えられない。根拠はないけど、わたしはそう
信じてる。なのに……
夫婦の契り、どこに行っちゃったの……?)
369 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 04:58:33.46 ID:QyPCQbkC0
男『しばらくは、死ぬなってコトさ!』
女(意味がわからない。でも、あいつがそう言うなら……!)
374 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:19:11.78 ID:QyPCQbkC0
女(あれから、数日。男が捕まったっていう話は聞かない……)
看守「おい。手紙が届いてるぞ。父親からだそうだ」
女「! わかった。おつとめごくろうさま」
女(どういうこと? わたしに父親なんていないのに……
すごい当たりさわりのない文章。まあ、手紙のたぐいは
全部チェックされるから、あんまりやばい表現がないのは
当然だけど。にしても、だれがこんなのを……
あれ? 最後のこの文)
『つらいことがあっても、笑い飛ばすようにな。
はっは、と』
女「――――! まさか」
376 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:26:08.11 ID:QyPCQbkC0
女(あれ、男からの手紙だよね……
あれから一ヶ月経ったけど、なんの音沙汰もない。
どうしてるんだろう。捕まってないかな……)
看守「おい。出ろ」
女「え……?」
看守「そんな顔をするな。おむかえじゃない」
女「どういうこと?」
看守「詳しく話すと長くなる。とにかく、ここを出るんだ」
377 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:27:55.89 ID:QyPCQbkC0
女(詳しく説明してもらったけど、まだ状況が把握しきれない。
わたしに人を殺させた、あいつ。あの男がやってきたことが、
明るみに出た。拾った女の子たちを使って邪魔者を消し、
のしあがっていったことが……
わたしと同じように利用されてきた女の子が、何人か保護
されたらしい)
所長「――ということだ。
本当なら一事不再理といってな。一度確定した判決が
くつがえることはないんだが、事が事だけに世論が動いた」
女「……そうだったんですか……」
所長「刑事訴訟法第435条により、再審を待つことになる。
それまでは勾留させてもらうが、おそらくは情状酌量の
余地と心神の耗弱状態だったことが認められ、
大幅に減刑されるだろう」
女「…………」
男『おまえには、まだ目は残ってるかもな』
女(あれは、多分このことだったんだろう……)
379 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:30:13.32 ID:QyPCQbkC0
春が近づき、潮のかおりをたっぷりと含んだ風から
身を切るような厳しさがなくなりはじめた、ある夜。
女はひとり、波止場に立ちつくしていた。
小さな雲がまばらに浮かぶ夜空に皓々と輝く月が、
あたりを淡く照らし出す。水面に浮かぶもうひとつの
月は、女の心と同じようにゆらゆらとゆらめいている。
女「いい月だなあ……それに、あったかくなってきたね。
ねえ、いるんでしょ?」
虚空に声を投げかける。それが夜風に溶けて消え行ったころ。
「ああ……いい月だ。男と女の逢瀬を覗き見てるってのは、
なんとも趣味が悪いがな」
声が届く。ふり返ると、そこに。
380 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:31:02.72 ID:QyPCQbkC0
男「よう。奇遇だねえ……こんなところで会うとはよ」
女「これ」
女は答え、一枚の紙切れをポケットから引っ張り出す。
勾留されている間に、受け取った最後の手紙。
男「お。気づいたか? さすがだねえ。行の最後の文字を
つなげて……」
女「『よる、よこはまこうで、まつ』」
男「ご名答」
女「日時までは指定してなかったのにさ。ホント、ばかだよね」
男「どういう意味だこいつめ」
女「毎晩ここにいたんでしょ」
男「るっせ」
381 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:31:58.37 ID:QyPCQbkC0
女「あれから、再審してもらった」
男「知ってる」
女「わたしに人を殺させた、あの男。その悪事を暴いたのって、
あんたでしょ?」
男「さあなあ」
女「あんた以外に知ってる人なんてほとんどいないはずだしね。
まったく、警察から逃亡しながらそれだけのことを
やってのけるなんてね」
男「凶悪かつ危険この上ない無差別連続殺人犯ってのは、
ダテじゃねえさ。似たようなもんだった」
女「……ごめんね。二度とやりたくなかったはずなのに」
男「……いや。今度のは、人を救うためにやったことだ。
全然、違う」
女「うん……ありがとう」
男「はっは」
382 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:34:01.80 ID:QyPCQbkC0
女「結局、心神耗弱と酌量減軽が認められて。執行猶予って
ことになった」
男「それも知ってる。世論がうるさかったからな」
女「それも、あんたの差し金?」
男「そいつは過大評価ってもんさ。
言ったろ、俺はまだ人間ってもんに絶望してねえんだ」
女「楽観的だよね。もし猶予がつかなかったら、数年は
出てこられなかったのに」
男「はっは。ま、日本の司法は女に甘えからよ、こうなる
んじゃねえかって思ってた」
女「それにしたってさ」
男「……まあ、どうなろうが俺は、おまえがここに来るまで
待ってるつもりだった」
383 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:35:32.40 ID:QyPCQbkC0
男「ここで問題なのはよ。おまえは晴れてシャバに帰ってきた
わけだが」
女「あんたはまだ脱獄者、ってことだよね」
男「そういうことだ。で……もう目的は果たしたからな。
あそこに……独房に、戻ろうかと思ってる」
女「そんな……冗談でしょ?」
男「罪はつぐなわねえとさ。
だれかが俺を必要としてくれない限りは、
生きてる意味もねえしな」
384 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:39:12.29 ID:QyPCQbkC0
女「……あんた。怒るよ……?」
男「けど……おまえが引き止めてくれるなら――」
女「怒るよって言ってるの。答え、知ってるくせにさ」
男「いや、わかってる。きたねえ正当化をやってるってことは。
でも……俺は――」
女「わたしには、頼れる人が男しかいない。男がいないと、
わたし――」
男「……へへ。きたねえよな。俺……
よう。おまえ、英語はできるか?」
女「……へ? いや、全然。なんで?」
男「ほら、あの船」
女「え?」
男「貨物船だ。アメリカ行きのな」
女「……まさか、あんた」
男「密航しようと思ってる。この国じゃあ俺は生きてけねえ。
おまえも一生日陰者だ。だから……
戸籍もなにもねえ、自由の国アメリカで。
もう一度、やりなおそうと思うんだ」
女「…………」
男「……来るか?」
385 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 05:41:32.72 ID:QyPCQbkC0
女「『来るか?』だってさ。すっごいマジメな顔して」
男「本気で言ってる」
女「知ってるよ。なんでそんなこと聞くわけ?」
男「え……?」
女「答え、知ってるくせにさ」
男「……ああ。そうだな。いや悪かった。
おっしゃあ! んじゃあ、行くぜ!」
女「うん!」
そして、二人はアメリカへと旅立つ。
この元囚人二人がこれからどんな道を歩んでいくのかは
まだわからないが――
それはまた、別の話。
みんなおつかれさん ノシ
看守「今日からおまえにはここで暮らしてもらう」
背中をとん、と押され、女は独房に踏み込んだ。
直後、背後の扉が、重い音を立てて閉じた。
外界から、完全に隔絶。その扉を恨めしげににらみ
つけたところで、金属でできたその扉は開きも溶けも
砕け散りもしない。しかたなく、壁際に置いてあった
ベッドに腰かけた。
看守の足音が遠ざかってゆくのを聞くともなしに
聞きながら、考える。さあ、何もすることがない。
これからの退屈を、いったいどうやってしのげば
いいものやら――
男「お、新入りさんかい?」
女(……え?)
男「そこにいた奴が『連れて』いかれちまってよ。
退屈してたんだ」
女(どこから……壁? あ、こんなところに
小さな穴が開いてる……)
男「ま、これからよろしく頼むわ。短い間だが、な」
女(えらく慣れ慣れしい……でもまあ、一人で
ふさぎ込んでるよりは――)
男「……あれ? 聞こえてねえのか? おーい」
女「聞こえてるよ……これからよろしく、ね」
背中をとん、と押され、女は独房に踏み込んだ。
直後、背後の扉が、重い音を立てて閉じた。
外界から、完全に隔絶。その扉を恨めしげににらみ
つけたところで、金属でできたその扉は開きも溶けも
砕け散りもしない。しかたなく、壁際に置いてあった
ベッドに腰かけた。
看守の足音が遠ざかってゆくのを聞くともなしに
聞きながら、考える。さあ、何もすることがない。
これからの退屈を、いったいどうやってしのげば
いいものやら――
男「お、新入りさんかい?」
女(……え?)
男「そこにいた奴が『連れて』いかれちまってよ。
退屈してたんだ」
女(どこから……壁? あ、こんなところに
小さな穴が開いてる……)
男「ま、これからよろしく頼むわ。短い間だが、な」
女(えらく慣れ慣れしい……でもまあ、一人で
ふさぎ込んでるよりは――)
男「……あれ? 聞こえてねえのか? おーい」
女「聞こえてるよ……これからよろしく、ね」
男「よう。どうだい? ここでの寝ごこちは」
女「もうホント最高。どっかの五つ星ホテルかと
思っちゃったよ」
男「だろ? むやみやたらに広々としたこの部屋!
ホントは狭いのに、モノを置かないことで
広く見せる工夫のタマモノってワケよ」
女「置いてあるものといったらこの固いベッドだけ。
必要最低限なものだけを置く、機能美に特化した
すっばらしい部屋だよね」
男「よくわかってるじゃねえか。まったく、舌打ちの
ひとつもしたところでバチも当たりゃしねえ」
女「それに、これ以上バチの当たりようもない……よね?」
男「俺たちの場合はな。はっは」
9 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 00:30:03.40 ID:sW2vF9r80女「もうホント最高。どっかの五つ星ホテルかと
思っちゃったよ」
男「だろ? むやみやたらに広々としたこの部屋!
ホントは狭いのに、モノを置かないことで
広く見せる工夫のタマモノってワケよ」
女「置いてあるものといったらこの固いベッドだけ。
必要最低限なものだけを置く、機能美に特化した
すっばらしい部屋だよね」
男「よくわかってるじゃねえか。まったく、舌打ちの
ひとつもしたところでバチも当たりゃしねえ」
女「それに、これ以上バチの当たりようもない……よね?」
男「俺たちの場合はな。はっは」
男「よう、見てみろよ。いい月だぜ」
女「窓の外? んー、ここからだと建物に隠れて
よく見えないや」
男「お、そうか。そいつは残念だな……
鉄格子越しに見る月なんてオツなモンは、
ムショ以外じゃそうは見られねえぜ?」
女「乙な物、ねえ。あんたの趣味、よくわかんない」
10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 00:34:40.11 ID:sW2vF9r80女「窓の外? んー、ここからだと建物に隠れて
よく見えないや」
男「お、そうか。そいつは残念だな……
鉄格子越しに見る月なんてオツなモンは、
ムショ以外じゃそうは見られねえぜ?」
女「乙な物、ねえ。あんたの趣味、よくわかんない」
男「――――ってハナシがあってよ。おかしいだろ?」
女「あっはっは。おかしいおかしい」
男「! おい女、ちっと黙れや」
女「……はぁ? なにをいきなり――」
男「いいから!」
女「ちょっとあんたねえ」
……カツン。
女「!」
女(看守の足音!? 近づいてくる……
まさか、声が聞こえてた……?)
11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 00:35:47.39 ID:sW2vF9r80女「あっはっは。おかしいおかしい」
男「! おい女、ちっと黙れや」
女「……はぁ? なにをいきなり――」
男「いいから!」
女「ちょっとあんたねえ」
……カツン。
女「!」
女(看守の足音!? 近づいてくる……
まさか、声が聞こえてた……?)
>>10
……カツン、カツン、カツン……
女(通り過ぎた……)
男「……ふう。やっぱマズいんだよな、こうやって
話すのは。もし聴かれたら、この穴もふさがれ
ちまう」
女「……ごめん。これからはちょっと声を抑えるね」
男「かまいやしねえ。見回りの時間は決まってる。
その間だけ気をつければいいさ」
女「うん……」
男「しかし、アレだ。こういうの、ワクワクするだろ?」
女「え?」
男「昔よ、やっただろ。学校の授業中にさ、センコーの
目ぇ盗んで手紙の交換とかしてよ」
女「ああ……なつかしいね」
男「情報のやりとりが目的じゃなくてよォ。ただ、エラい
人に隠れてあれやこれやするのが楽しかったんだ」
女「ふふ。あんた、子供みたいなコト言うんだね」
男「大人の男ってのぁな、でっけえ少年なのさ」
女「で、やんちゃが過ぎてここにいるってわけ?」
男「それは言わねえ約束だぜ」
13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 00:42:31.47 ID:sW2vF9r80……カツン、カツン、カツン……
女(通り過ぎた……)
男「……ふう。やっぱマズいんだよな、こうやって
話すのは。もし聴かれたら、この穴もふさがれ
ちまう」
女「……ごめん。これからはちょっと声を抑えるね」
男「かまいやしねえ。見回りの時間は決まってる。
その間だけ気をつければいいさ」
女「うん……」
男「しかし、アレだ。こういうの、ワクワクするだろ?」
女「え?」
男「昔よ、やっただろ。学校の授業中にさ、センコーの
目ぇ盗んで手紙の交換とかしてよ」
女「ああ……なつかしいね」
男「情報のやりとりが目的じゃなくてよォ。ただ、エラい
人に隠れてあれやこれやするのが楽しかったんだ」
女「ふふ。あんた、子供みたいなコト言うんだね」
男「大人の男ってのぁな、でっけえ少年なのさ」
女「で、やんちゃが過ぎてここにいるってわけ?」
男「それは言わねえ約束だぜ」
男「よう。今日は空が高えなあ」
女「そうだねー……いい天気」
男「こんな日にゃあ、軽くそこいらをぶらぶらしてえもんだ」
女「またアンタは。無理だってわかってるくせにさ」
男「ないものねだりってのは、してみるもんだ。
もしかしたら、欲しいモンが手に入るかもしれねえぜ?」
女「だからあんたはコドモだってのよ」
男「うっせ。そういうてめえはいくつなんだよ」
女「レディに歳を訊くもんじゃないわ」
男「レディ、ねえ」
女「レディ、よ」
男「ふ〜〜〜ん」
女「…………」
男「ふ〜〜〜〜〜〜ん」
女「……21、よ」
男「ふは! 俺の方がみっつも上だ!
ガキはどっちだってんだよ、はっは!」
女「……だからあんたはコドモだってのよ……」
14 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 00:50:55.63 ID:sW2vF9r80女「そうだねー……いい天気」
男「こんな日にゃあ、軽くそこいらをぶらぶらしてえもんだ」
女「またアンタは。無理だってわかってるくせにさ」
男「ないものねだりってのは、してみるもんだ。
もしかしたら、欲しいモンが手に入るかもしれねえぜ?」
女「だからあんたはコドモだってのよ」
男「うっせ。そういうてめえはいくつなんだよ」
女「レディに歳を訊くもんじゃないわ」
男「レディ、ねえ」
女「レディ、よ」
男「ふ〜〜〜ん」
女「…………」
男「ふ〜〜〜〜〜〜ん」
女「……21、よ」
男「ふは! 俺の方がみっつも上だ!
ガキはどっちだってんだよ、はっは!」
女「……だからあんたはコドモだってのよ……」
男「よう。あんた、お里はどこだい?」
女「故郷、か。捨てたよ、そんなもの」
男「なんだ。帰る場所、ねえのか」
女「あったとしても、もう帰れないじゃない」
男「……そうだな。そうだったな」
女「そういうあんたは、どうなのさ」
男「俺かい? 俺も捨てたよ、そんなもん」
女「だろうねえ。じゃなきゃ、今ごろこんなところに
いたりはしない」
男「はっは。違いねえ」
15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 00:56:26.05 ID:sW2vF9r80女「故郷、か。捨てたよ、そんなもの」
男「なんだ。帰る場所、ねえのか」
女「あったとしても、もう帰れないじゃない」
男「……そうだな。そうだったな」
女「そういうあんたは、どうなのさ」
男「俺かい? 俺も捨てたよ、そんなもん」
女「だろうねえ。じゃなきゃ、今ごろこんなところに
いたりはしない」
男「はっは。違いねえ」
男「よう。起きてるかい?」
女「……いちお。なんか用?」
男「いいや、なんにも。ここでしなきゃならねえことなんて
なにもねえのに、用なんかあるわけねえだろ?」
女「ごもっとも。で? だったらなんで話しかけてくるわけ?」
男「冷たいねえ。することもなにもねえんだ、構ってほしいのさ」
女「子供みたいなコト言わないの。今は眠いからさ、明日にして
くんない?」
男「今がいい」
女「後がいい」
男「今がいい」
女「…………」
男「おーい。なんだよ寝ちまったのか?
おきろーおきろーおーきーろー」
女「ああもううるさい! 看守が来る!
ったくもーしょーがないなあっ」
男「へへ」
16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 01:05:28.51 ID:sW2vF9r80女「……いちお。なんか用?」
男「いいや、なんにも。ここでしなきゃならねえことなんて
なにもねえのに、用なんかあるわけねえだろ?」
女「ごもっとも。で? だったらなんで話しかけてくるわけ?」
男「冷たいねえ。することもなにもねえんだ、構ってほしいのさ」
女「子供みたいなコト言わないの。今は眠いからさ、明日にして
くんない?」
男「今がいい」
女「後がいい」
男「今がいい」
女「…………」
男「おーい。なんだよ寝ちまったのか?
おきろーおきろーおーきーろー」
女「ああもううるさい! 看守が来る!
ったくもーしょーがないなあっ」
男「へへ」
男「しかし驚いたぜ。隣に、女の子が入ってくるなんてな」
女「なによ。べつに珍しいもんじゃないでしょ。女が犯罪を
起こすなんて」
男「たしかに珍しくねえ。だが、『ここ』は違う」
女「どういう意味?」
男「わかってんだろ。ここがどこだか」
女「……危険度最高クラスの犯罪者が集まる刑務所。
極めて大きな罪を犯し、終身刑以上の罰が言い渡された
者を収容する」
男「そしてこのエリアの独房には――」
女「死刑判決を受けた者だけが収容される」
男「…………」
女「…………」
男「珍しいんだ。ここでは、な」
女「……それが、どうかしたの?」
男「いや。べつにどうもしねえさ。
ただ、なにをやってここに来たのかが、気になった」
女「話さないと、夜も眠れない?」
男「いいや。そういうわけじゃねえ」
女「だったら、いいじゃない。そんなこと、どうでも」
男「そうか……そうだな。
まあ、気が向いたら話してくれや。
傷をなめあうのも、悪かぁねえぜ」
女「……そ」
18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 01:13:20.31 ID:sW2vF9r80女「なによ。べつに珍しいもんじゃないでしょ。女が犯罪を
起こすなんて」
男「たしかに珍しくねえ。だが、『ここ』は違う」
女「どういう意味?」
男「わかってんだろ。ここがどこだか」
女「……危険度最高クラスの犯罪者が集まる刑務所。
極めて大きな罪を犯し、終身刑以上の罰が言い渡された
者を収容する」
男「そしてこのエリアの独房には――」
女「死刑判決を受けた者だけが収容される」
男「…………」
女「…………」
男「珍しいんだ。ここでは、な」
女「……それが、どうかしたの?」
男「いや。べつにどうもしねえさ。
ただ、なにをやってここに来たのかが、気になった」
女「話さないと、夜も眠れない?」
男「いいや。そういうわけじゃねえ」
女「だったら、いいじゃない。そんなこと、どうでも」
男「そうか……そうだな。
まあ、気が向いたら話してくれや。
傷をなめあうのも、悪かぁねえぜ」
女「……そ」
男「いやしかし腹が減った。ここの暮らしには
だいぶ慣れたが、メシの量が少ねえのだけはいただけねえな」
女「身体を動かすこともないし、十分じゃないの?」
男「てめえと一緒にすんじゃねえっての。こっちは大の男だぜ?」
女「あっそ。じゃあ――わたしの分、わけてあげようか?」
男「マジか!
と言いてえが、こんなに小さい穴じゃあな。水くらいしか通らねえ」
女「噛み砕いた後なら通るけど」
男「ペンギンじゃあるめえし。いらね」
女「あーあ。人の親切を無為にするなんてねー」
男「てめえ無理だってわかってて言ってるだろ」
25 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 01:31:08.41 ID:sW2vF9r80だいぶ慣れたが、メシの量が少ねえのだけはいただけねえな」
女「身体を動かすこともないし、十分じゃないの?」
男「てめえと一緒にすんじゃねえっての。こっちは大の男だぜ?」
女「あっそ。じゃあ――わたしの分、わけてあげようか?」
男「マジか!
と言いてえが、こんなに小さい穴じゃあな。水くらいしか通らねえ」
女「噛み砕いた後なら通るけど」
男「ペンギンじゃあるめえし。いらね」
女「あーあ。人の親切を無為にするなんてねー」
男「てめえ無理だってわかってて言ってるだろ」
男「しかしまあ顔も知らねえ男に対して
噛み砕いたモノをくれてやるたあ、な」
女「べつにいーじゃない。現にこうやって
壁で仕切られてるわけだし、襲われることは
ないでしょ」
男「いやまあそうなんだがな」
女「むしろ互いに顔が見えないからこそできることも
あるってもんでしょ」
男「それもそうだ。だがな女よ、その気になれば
俺はその穴からそっちを覗きこむこともできるんだぜ?」
女「あっそ。するの? あんたが?」
男「……いや。隣にいる女性がどんな容姿なのか、わからない
からこその楽しみもあるしな」
女「そう言うと思った。あんたはそーいうヤツよ」
男「想像は自由だと言ってくれ」
女「はいはい。ホント、子供みたいなんだから」
30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 01:58:22.40 ID:sW2vF9r80噛み砕いたモノをくれてやるたあ、な」
女「べつにいーじゃない。現にこうやって
壁で仕切られてるわけだし、襲われることは
ないでしょ」
男「いやまあそうなんだがな」
女「むしろ互いに顔が見えないからこそできることも
あるってもんでしょ」
男「それもそうだ。だがな女よ、その気になれば
俺はその穴からそっちを覗きこむこともできるんだぜ?」
女「あっそ。するの? あんたが?」
男「……いや。隣にいる女性がどんな容姿なのか、わからない
からこその楽しみもあるしな」
女「そう言うと思った。あんたはそーいうヤツよ」
男「想像は自由だと言ってくれ」
女「はいはい。ホント、子供みたいなんだから」
男「大体よお、何をやったのかって言うけどな」
女「なによ?」
男「世の中には冤罪というものがあってだ」
女「な――まさかあんた」
男「もしかしたら、俺はなにもやってねえのかも
しれないぜ?」
女「!」
男「とかいう夢を見ることもある」
女「…………
結局どっちなのさ」
男「どうだかなあ。はっは」
33 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 02:13:31.49 ID:sW2vF9r80女「なによ?」
男「世の中には冤罪というものがあってだ」
女「な――まさかあんた」
男「もしかしたら、俺はなにもやってねえのかも
しれないぜ?」
女「!」
男「とかいう夢を見ることもある」
女「…………
結局どっちなのさ」
男「どうだかなあ。はっは」
女「ヒマだね」
男「ああ。ヒマだ」
女「なんでこんなにヒマなの?」
男「することがねえからだ」
女「それってトートロジー」
男「わかってる」
女「なんですることがないの?」
男「それが今の俺たちの仕事だからだ」
女「待つことが仕事ってこと?」
男「ああそうだ。何を待つかって?
はっは」
女「笑うしかないのもわかるけどさ」
38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 02:42:12.54 ID:sW2vF9r80男「ああ。ヒマだ」
女「なんでこんなにヒマなの?」
男「することがねえからだ」
女「それってトートロジー」
男「わかってる」
女「なんですることがないの?」
男「それが今の俺たちの仕事だからだ」
女「待つことが仕事ってこと?」
男「ああそうだ。何を待つかって?
はっは」
女「笑うしかないのもわかるけどさ」
女「くしゅんっ」
男「お。カゼでも引いたか?
それとも……いい男でもいるのかい?」
女「心当たりはないね……もうシャバに
わたしのこと覚えてる人もいないんじゃないかな」
男「えらく寂しいこと言うなぁ」
女「事実だもの。わたしのことウワサしそうなのって……
この壁のむこうにしかいないよ」
男「おお。なんでおまえのこと考えてるってバレた」
女「くしゅんっ」
男「おおう」
39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 02:47:18.42 ID:sW2vF9r80男「お。カゼでも引いたか?
それとも……いい男でもいるのかい?」
女「心当たりはないね……もうシャバに
わたしのこと覚えてる人もいないんじゃないかな」
男「えらく寂しいこと言うなぁ」
女「事実だもの。わたしのことウワサしそうなのって……
この壁のむこうにしかいないよ」
男「おお。なんでおまえのこと考えてるってバレた」
女「くしゅんっ」
男「おおう」
男「へくし」
女「今あんた口で『へくし』って言ったでしょ」
男「へくし」
女「もっとそれっぽく聞こえるように言えばいいのに」
男「いやあ俺もウワサされてんのかねえ。
俺のことウワサしそうなの、この壁のむこうにしか
いねえんだけどなあ。あーへくし」
女「こら」
男「ああもしかして今女の頭の中は俺でいっぱい!?
いやー照れるぜー」
女「…………」
男「へくし」
女「コドモ……いや、もういいや」
40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 02:52:58.06 ID:sW2vF9r80女「今あんた口で『へくし』って言ったでしょ」
男「へくし」
女「もっとそれっぽく聞こえるように言えばいいのに」
男「いやあ俺もウワサされてんのかねえ。
俺のことウワサしそうなの、この壁のむこうにしか
いねえんだけどなあ。あーへくし」
女「こら」
男「ああもしかして今女の頭の中は俺でいっぱい!?
いやー照れるぜー」
女「…………」
男「へくし」
女「コドモ……いや、もういいや」
女「ねえ男ー」
男「…………」
女「男ー?」
男「…………」
女「あれ? 寝てんのかな……」
男「…………」
女「退屈だから構ってもらおうと思ったのに」
男「…………」
女「ねえ男ー?」
男「…………」
女「……つまんない」
男「そうかそうか。やっぱ女には俺がいねえとなあ」
女「なッ……もしかして今の全部聞いてた!?
殺す! ぶっ殺すッ!」
男「そんなに怒んなよ。はっは」
女「はっはー、じゃない!」
43 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 03:04:07.48 ID:sW2vF9r80男「…………」
女「男ー?」
男「…………」
女「あれ? 寝てんのかな……」
男「…………」
女「退屈だから構ってもらおうと思ったのに」
男「…………」
女「ねえ男ー?」
男「…………」
女「……つまんない」
男「そうかそうか。やっぱ女には俺がいねえとなあ」
女「なッ……もしかして今の全部聞いてた!?
殺す! ぶっ殺すッ!」
男「そんなに怒んなよ。はっは」
女「はっはー、じゃない!」
女「わたし今着替えてるけど」
男「おおうッ」
女「よかったらその穴から、どうぞ?」
男「てめッ……想像は自由だってーのに、
それを阻害しようってのか」
女「そうは言わないけど。
オンナのカラダを見る機会も、
もうないんじゃないかなって思ってさ」
男「……想像は自由だ。
だが妄想はもっと自由だ!」
女「覗かないってはっきり言えばいいのにさ。
純情だねー……もしかして童貞?」
男「ちがうわ!」
47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 03:31:42.71 ID:sW2vF9r80男「おおうッ」
女「よかったらその穴から、どうぞ?」
男「てめッ……想像は自由だってーのに、
それを阻害しようってのか」
女「そうは言わないけど。
オンナのカラダを見る機会も、
もうないんじゃないかなって思ってさ」
男「……想像は自由だ。
だが妄想はもっと自由だ!」
女「覗かないってはっきり言えばいいのにさ。
純情だねー……もしかして童貞?」
男「ちがうわ!」
男「狭い」
女「そうだね」
男「動かねえ」
女「必要ないし」
男「身体がなまってしょうがねえ」
女「しょうがなくないでしょ。もう、いらないじゃん」
男「……えらく達観してやがんなあ。
世の中なにが起こるかわかんねえぜ?」
女「そうだね。わかんないね」
男「なんだその反応……じゃあ言い方変えるか?
世の中なにが起こせるかわかんねえ、ってな」
女「……なにを考えてるの?」
男「さあな。秘密だ……はっは」
48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 03:43:45.35 ID:sW2vF9r80女「そうだね」
男「動かねえ」
女「必要ないし」
男「身体がなまってしょうがねえ」
女「しょうがなくないでしょ。もう、いらないじゃん」
男「……えらく達観してやがんなあ。
世の中なにが起こるかわかんねえぜ?」
女「そうだね。わかんないね」
男「なんだその反応……じゃあ言い方変えるか?
世の中なにが起こせるかわかんねえ、ってな」
女「……なにを考えてるの?」
男「さあな。秘密だ……はっは」
男「今夜は冷え込むな」
女「秋だしね。あんた、今からそんなコト言ってて、
これからの季節大丈夫なの?」
男「さあな。女がこっちに来てあっためてくれたら、
そんな悩みはねえんだが」
女「あんたがこっち来るなら考えてやってもいいけど」
男「うおマジか! おおりゃあがんばれ俺!
この穴をくぐれッ!」
女「あ。指が出てきた。
とうっ」
男「あだっ!? 爪を立てるな!」
52 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 04:15:38.19 ID:sW2vF9r80女「秋だしね。あんた、今からそんなコト言ってて、
これからの季節大丈夫なの?」
男「さあな。女がこっちに来てあっためてくれたら、
そんな悩みはねえんだが」
女「あんたがこっち来るなら考えてやってもいいけど」
男「うおマジか! おおりゃあがんばれ俺!
この穴をくぐれッ!」
女「あ。指が出てきた。
とうっ」
男「あだっ!? 爪を立てるな!」
男「冗談は横に置いとくとして……実際、寒いな」
女「この程度なら、まあ布団にくるまれば」
男「ハラが減って体温上がんねえんだよ」
女「しかたないね。コレもまた、罰ってコトさ」
男「暖房器具やあったけえメシが恋しいぜ」
女「なんだ。今さら後悔してるの? 自分のやったこと」
男「…………
後悔なら、腐るほどしてきたさ」
女「あ、そうなんだ。お気楽極楽野郎だと思ってたけど」
男「るせえ」
女「怒んないでよ。いーコト教えたげるからさ」
男「……なんだよ?」
女「実はわたしも、すごく後悔してる」
男「……そうか」
54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 04:25:00.72 ID:sW2vF9r80女「この程度なら、まあ布団にくるまれば」
男「ハラが減って体温上がんねえんだよ」
女「しかたないね。コレもまた、罰ってコトさ」
男「暖房器具やあったけえメシが恋しいぜ」
女「なんだ。今さら後悔してるの? 自分のやったこと」
男「…………
後悔なら、腐るほどしてきたさ」
女「あ、そうなんだ。お気楽極楽野郎だと思ってたけど」
男「るせえ」
女「怒んないでよ。いーコト教えたげるからさ」
男「……なんだよ?」
女「実はわたしも、すごく後悔してる」
男「……そうか」
女「たしかに、寒いけどさ」
男「ああ」
女「わたし今、壁の穴のすぐ隣にもたれて座ってる」
男「……そいつは奇遇だな。俺もだ」
女「だと思ったんだ。こうして背中合わせにしてるとさ、
なんか」
男「ん?」
女「壁越しなのに……せなか、あったかいよね。へへ」
男「……俺もだ」
56 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 04:50:13.86 ID:sW2vF9r80男「ああ」
女「わたし今、壁の穴のすぐ隣にもたれて座ってる」
男「……そいつは奇遇だな。俺もだ」
女「だと思ったんだ。こうして背中合わせにしてるとさ、
なんか」
男「ん?」
女「壁越しなのに……せなか、あったかいよね。へへ」
男「……俺もだ」
女「殺したよ」
男「……ん?」
女「たくさん殺した」
男「そうか。死刑の判決もらうくらいだもんな」
女「わたしの知らない人ばっかり」
男「……どういうことだ?」
女「知ってる人なら殺せなかったかもね」
男「違う。そうじゃない」
女「……暗殺」
男「……なんだと?」
女「えらい人がいてさ。その人が邪魔だと思った相手を、
あの世に送っちゃうの」
男「それを、やってたってのか?」
女「ちっちゃい頃に親に捨てられてね。拾ってくれた人が――」
男「いや、もういい。だいたいわかった」
女「他に生きる方法がなくてさ。
殺したよ。たくさん殺した」
男「……そうか」
57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 04:51:03.86 ID:sW2vF9r80男「……ん?」
女「たくさん殺した」
男「そうか。死刑の判決もらうくらいだもんな」
女「わたしの知らない人ばっかり」
男「……どういうことだ?」
女「知ってる人なら殺せなかったかもね」
男「違う。そうじゃない」
女「……暗殺」
男「……なんだと?」
女「えらい人がいてさ。その人が邪魔だと思った相手を、
あの世に送っちゃうの」
男「それを、やってたってのか?」
女「ちっちゃい頃に親に捨てられてね。拾ってくれた人が――」
男「いや、もういい。だいたいわかった」
女「他に生きる方法がなくてさ。
殺したよ。たくさん殺した」
男「……そうか」
女「すごく後悔してる。今になってみればさ、他に生きる
手段なんてたくさんあったのに。カラダ売ってでも
食べていけばよかったのに。
でもさ、また捨てられるのがこわくてさ――」
男「……ああ」
女「いやだって言えなかった。それが、わたしの罪」
男「……わかった」
女「ホントきたないの。くのいちのまねごとみたいなことまでして」
男「くのいち?」
女「バカな男を身体で誘惑して篭絡して、油断したところを
ズドン、って。サイテーだってわかってた。
だからもう――」
男「――もういい!」
女「…………!」
男「今日はもう寝ろ。俺も寝るから、それ以上しゃべっても
聞かねえぞ」
女「…………」
男「じゃあ、また明日な」
女「…………
ごめん。ありがとう……」
女「うー……退屈」
男「つ? 津波」
女「み……ミルク」
男「クック船長」
女「またそんなマニアックな……うさぎ」
男「義理チョコ」
女「……なんかイヤな思い出でもあんの?」
男「……若え頃の話さ」
女「あっそ。コスタリカ」
男「行ったことねえな。カシミール」
女「わたしも。ルンバ」
男「お。得意なのか? バスケットボール」
女「踊れないよ。ルールブック」
男「くすだま」
女「飽きてきた。まんじゅう」
男「そう言うなよ。牛」
女「だんだん単語のチョイスが適当になってるけど。鹿」
男「考えんのが面倒になっただけだ。カタコンベ」
女「あーもう無理すんな。ベラルーシ」
男「ふふん、負けてやるもんかよ。シックスセンス」
女(あーもう。こいつは……)
女「寸断」
男「ん? ンジャメナ」
女「続けんの!? せっかくわざと負けてやったのに!」
65 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 05:41:07.04 ID:sW2vF9r80男「つ? 津波」
女「み……ミルク」
男「クック船長」
女「またそんなマニアックな……うさぎ」
男「義理チョコ」
女「……なんかイヤな思い出でもあんの?」
男「……若え頃の話さ」
女「あっそ。コスタリカ」
男「行ったことねえな。カシミール」
女「わたしも。ルンバ」
男「お。得意なのか? バスケットボール」
女「踊れないよ。ルールブック」
男「くすだま」
女「飽きてきた。まんじゅう」
男「そう言うなよ。牛」
女「だんだん単語のチョイスが適当になってるけど。鹿」
男「考えんのが面倒になっただけだ。カタコンベ」
女「あーもう無理すんな。ベラルーシ」
男「ふふん、負けてやるもんかよ。シックスセンス」
女(あーもう。こいつは……)
女「寸断」
男「ん? ンジャメナ」
女「続けんの!? せっかくわざと負けてやったのに!」
男(しかし……男を次々に篭絡とは、な。
不謹慎だが、よっぽどの美女なんだろ)
女「っくしゅん!
あれ、また風邪ひいたかな」
男「ん? まあ、想像は自由だってコトさ」
女「……またアンタは」
111 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 19:09:09.73 ID:sW2vF9r80不謹慎だが、よっぽどの美女なんだろ)
女「っくしゅん!
あれ、また風邪ひいたかな」
男「ん? まあ、想像は自由だってコトさ」
女「……またアンタは」
女「あー。退屈」
男「退屈……といったら、授業」
女「なに? 今度は連想ゲーム?
授業といったら、しょーりゅーけん」
男「……しょーりゅーけん?」
女「わたしが行ってた学校の先生がさ、ゲーム大好きで。
授業中にしょーりゅーけんについてアツく語ってたの」
男「はっは! 知るか!
まあいいだろ、昇竜拳といえばストリートファイターだ」
女「ストリートファイターといえば、にんにく」
男「……にんにく?」
女「路上でケンカしてるのを見たことがあるんだけどさ。
殴り飛ばされて露店で売ってるにんにくの山に」
男「はっは! 知るか!
まあいいだろ、にんにくといえば吸血鬼」
女「……これ、ゲームとして成立してるの?」
男「はっは! 知るか!」
112 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 19:20:43.48 ID:sW2vF9r80男「退屈……といったら、授業」
女「なに? 今度は連想ゲーム?
授業といったら、しょーりゅーけん」
男「……しょーりゅーけん?」
女「わたしが行ってた学校の先生がさ、ゲーム大好きで。
授業中にしょーりゅーけんについてアツく語ってたの」
男「はっは! 知るか!
まあいいだろ、昇竜拳といえばストリートファイターだ」
女「ストリートファイターといえば、にんにく」
男「……にんにく?」
女「路上でケンカしてるのを見たことがあるんだけどさ。
殴り飛ばされて露店で売ってるにんにくの山に」
男「はっは! 知るか!
まあいいだろ、にんにくといえば吸血鬼」
女「……これ、ゲームとして成立してるの?」
男「はっは! 知るか!」
男「古今東西!」
女「唐突だね」
男「『ひさしぶりに外に出てみたらいきなり空から降ってきて
地面で大きくバウンドしたあげくにかわいい女の子に拾わて
幸せな一生を過ごすもの』〜!」
女「……で、どっちが先攻?」
男「いや、女で」
女「提案したアンタからでしょ。ふつー」
男「……いや、女で」
女「寝るよ。いいの?」
男「ごめんなさい思いつきません」
女「はいあんたの負けね」
115 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 19:40:12.07 ID:sW2vF9r80女「唐突だね」
男「『ひさしぶりに外に出てみたらいきなり空から降ってきて
地面で大きくバウンドしたあげくにかわいい女の子に拾わて
幸せな一生を過ごすもの』〜!」
女「……で、どっちが先攻?」
男「いや、女で」
女「提案したアンタからでしょ。ふつー」
男「……いや、女で」
女「寝るよ。いいの?」
男「ごめんなさい思いつきません」
女「はいあんたの負けね」
男「いやしかし退屈だ。こうなったらよ、
新しい遊びを考案すべきだな」
女「遊びって?」
男「ひまつぶし」
女「わかってる」
男「つまり、声だけでできるゲームだ」
女「例えば?」
男「さっきやったしりとりみたいなの」
女「そうは言うけどねー」
男「……お。いーコト思いついたぜ。
ジャジャーン! チキチキ音程当てゲーム〜」
女「……はぁ?」
男「つまりだ。あ〜♪ 今の音は『ソ』の音だがな、
互いに声出して音程を当てあうっていう――」
女「ちょっと待ってアンタ絶対音感まであんの?」
男「無理か?」
女「無理」
男「残念」
119 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 20:29:33.51 ID:sW2vF9r80新しい遊びを考案すべきだな」
女「遊びって?」
男「ひまつぶし」
女「わかってる」
男「つまり、声だけでできるゲームだ」
女「例えば?」
男「さっきやったしりとりみたいなの」
女「そうは言うけどねー」
男「……お。いーコト思いついたぜ。
ジャジャーン! チキチキ音程当てゲーム〜」
女「……はぁ?」
男「つまりだ。あ〜♪ 今の音は『ソ』の音だがな、
互いに声出して音程を当てあうっていう――」
女「ちょっと待ってアンタ絶対音感まであんの?」
男「無理か?」
女「無理」
男「残念」
看守「今日の夕食だ。ありがたくいただけよ」
女「……ねえ。これ、量が少ないんだけど。
もうちょっと増やせないの?」
男(――おい女!? 余計なコトを――)
看守「うるさい。おまえらみたいなのはな、生かして
おくだけで害になるんだ。食わせていただける
だけでありがたいと思え」
女「…………!」
看守「なんだその目は。いやに反抗的じゃないか。
『教育』が必要か?」
ガコン、と音を立て、看守が独房の扉を開いた。
そのまま女の前に立ち――
手にした警棒で、女の腹を殴りつけた。
120 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 20:36:41.15 ID:sW2vF9r80女「……ねえ。これ、量が少ないんだけど。
もうちょっと増やせないの?」
男(――おい女!? 余計なコトを――)
看守「うるさい。おまえらみたいなのはな、生かして
おくだけで害になるんだ。食わせていただける
だけでありがたいと思え」
女「…………!」
看守「なんだその目は。いやに反抗的じゃないか。
『教育』が必要か?」
ガコン、と音を立て、看守が独房の扉を開いた。
そのまま女の前に立ち――
手にした警棒で、女の腹を殴りつけた。
女「!? ぐ、あぁ……!」
男(――――! この声、まさか殴られてる!?)
看守「自分の立場というものを理解しているのか?
きさまらはな、もう屠殺されるのを待つブタも
同然なんだよ!」
女「ぐふあっ……!」
男(このッ……許せねえ!)
女「アンタは、黙ってて!」
男(!!)
看守「な、何をォ――!」
女「うあ、く、がっ、ああああああ……!」
男「……悪いな。俺のために」
女「う、いたた……なんの、コトよ?」
男「メシ」
女「今日はなんか少なかったような気がしただけ」
男「俺に、黙ってろって言ったろ。騒ぎ立てたら、
俺も同じ目に遭うから。
あの馬鹿、自分が言われたと勘違いしやがって」
女「それも違う。あのバカの言い方が気に入らなかっただけ」
男「…………」
女「大丈夫だよ。犯されなかっただけマシだと思わないとねー」
男「そうか。痛くねえか?」
女「いたいけど、これくらいなら平気。
……なんかつかれた。寝ても、いい?」
男「ああ。おやすみ」
女「……ん、うう」
男「お。起きたか?」
女「うー……なにこれ、カラダ中いたい……」
男「大丈夫か? 熱出たり、してねえか?」
女「んー。今のとこ大丈夫っぽいけど」
男「…………」
女「そんなに心配しなくても大丈夫だってば。
アザとかが残ったりしたら看守のバカも体罰がどうので
やばいから、顔とか頭は殴られてない」
男「……そうか」
女「カラダもきれいなまんまだしね。うん」
男「きれい……?」
女「あ。せっかく秘密にしてたのに」
男「てめえ俺のことをガキだガキだと言っておいてからに、
男の身体も知らねえのかよ」
女「怒んないでよ、もう」
124 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 20:53:27.96 ID:sW2vF9r80男「お。起きたか?」
女「うー……なにこれ、カラダ中いたい……」
男「大丈夫か? 熱出たり、してねえか?」
女「んー。今のとこ大丈夫っぽいけど」
男「…………」
女「そんなに心配しなくても大丈夫だってば。
アザとかが残ったりしたら看守のバカも体罰がどうので
やばいから、顔とか頭は殴られてない」
男「……そうか」
女「カラダもきれいなまんまだしね。うん」
男「きれい……?」
女「あ。せっかく秘密にしてたのに」
男「てめえ俺のことをガキだガキだと言っておいてからに、
男の身体も知らねえのかよ」
女「怒んないでよ、もう」
男「するってえと、バカな男を篭絡して
どうのこうのってのは」
女「んー? べつに最後までしなくても、
明かりを消してわたしを組み敷いた
時点で隙だらけだし」
男「……すげえな。おまえ」
女「処女ってだけで油断する男も多いしね。
ま、いろいろと好都合だったんだ。
この方が」
男「好都合、ね……」
女「それに最初はやっぱり……ああいや、
なんでもない」
男「お? そんな乙女チックな発言が
おまえの口から出るとはな。
初めてなんじゃねえ?」
女「あーもううるさいうるさいッ」
126 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 21:03:49.56 ID:sW2vF9r80どうのこうのってのは」
女「んー? べつに最後までしなくても、
明かりを消してわたしを組み敷いた
時点で隙だらけだし」
男「……すげえな。おまえ」
女「処女ってだけで油断する男も多いしね。
ま、いろいろと好都合だったんだ。
この方が」
男「好都合、ね……」
女「それに最初はやっぱり……ああいや、
なんでもない」
男「お? そんな乙女チックな発言が
おまえの口から出るとはな。
初めてなんじゃねえ?」
女「あーもううるさいうるさいッ」
男「……ぐー」
女「…………」(ぎゅ)
男「……ぐー」
女「…………!!」
女の拳が男の額を打ち抜く!
男「ぐおあ!? てめえなにしやがる!」
女「……えっちな夢見てた」
男「うお!? ばれてる!」
142 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/18(土) 23:03:08.81 ID:sW2vF9r80女「…………」(ぎゅ)
男「……ぐー」
女「…………!!」
女の拳が男の額を打ち抜く!
男「ぐおあ!? てめえなにしやがる!」
女「……えっちな夢見てた」
男「うお!? ばれてる!」
男「……うむ。一句できた」
女「なつくさや、つわものどもが、ゆめのあと」
男「どっかで聞いたような気がするなそれ。
だが残念ながら違う」
女「聞こうじゃない」
男「壁の外を照らす日の光を思うにつけ少年時代に
野山を駆け回ったことがしみじみと思い出される」
女「……なにそれ? 解釈?」
男「字あまり」
女「今のが句だったの……」
男「ああヒマだ」
女「そうだね。こんなくだらないボケをかますくらいには暇だね」
158 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 02:11:40.54 ID:LdzWVoMM0女「なつくさや、つわものどもが、ゆめのあと」
男「どっかで聞いたような気がするなそれ。
だが残念ながら違う」
女「聞こうじゃない」
男「壁の外を照らす日の光を思うにつけ少年時代に
野山を駆け回ったことがしみじみと思い出される」
女「……なにそれ? 解釈?」
男「字あまり」
女「今のが句だったの……」
男「ああヒマだ」
女「そうだね。こんなくだらないボケをかますくらいには暇だね」
女「ねえ、今どこにいる?」
男「ん? 部屋にいるに決まってるだろ?」
女「そうじゃなくて。部屋のどこにいるの?」
男「当ててみな? 退屈しのぎにはなるかもしれんぜ」
女「わかるわけないじゃん」
男「お? 俺にはおまえがいる場所がわかるんだがな」
女「へ? ど、どうやって? まさか、こっち見てる?」
男「見てねえよ。でも、これだけ背中があったかけりゃ、
俺と背中合わせに座ってることくらいわかるさ」
女「う……それは、その」
男「あれ? もしかして、当たっちまった?
半分くらい冗談だったんだが……」
女「……へ?」
男「そーかそーか、女も俺のぬくもりが恋しいってのかー。
かわいー奴だな、はっは」
女「このっ……またアンタはそうやって調子に――」
男「そんで、おまえはまたそうやって照れ隠し、と。
はっは」
男「殺したよ」
女「……え?」
男「たくさん殺した」
女「そっか。死刑の判決くらうぐらいだもんね」
男「どいつもこいつも、クズばっかりだった。俺も含めて」
女「……どういうこと?」
男「俺はおまえとは違う。殺したい奴を、殺す気で殺した」
女「ちがう。そうじゃない」
男「……復讐」
女「……なんて?」
男「やんちゃやってた頃の話さ。カラダばっかりでかくなって、
中身はガキとなんにも変わってなかった頃の話」
女「うん……」
男「大切な仲間たちがいたんだ。毎日毎日バカばっかりやってよ、
そりゃあ楽しかったもんさ……
よう。日本に今どれだけの裏社会があるか、知ってるか?」
女「まあ、ある程度はね。わたしもそこにいた」
男「非合法に、だが公然となされてる取り引きってのは、世界中にある。
クスリだとか人身売買だとか、そりゃあやべえ取り引きさ。人を
不幸にしかしないたぐいの、な。
それをさぐれば次の日には東京湾に浮くってことも珍しくはねえ」
女「それを、やってたっていうの?」
男「世界を変えられるんだって、本気で思ってた。バカだったよ、本当に。
だがある日、そのやんちゃが過ぎた。裏の組織に、俺たちがやってる
ことをかぎつけられて――」
女「……もういいよ。だいたい、わかった」
男「俺以外はみんな殺されたよ。なんで生き残れたのかが不思議なくらいだ。
……みんないい奴ばっかりだった。許せなかった。だから……
殺したよ。たくさん殺した」
167 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 03:07:36.45 ID:LdzWVoMM0女「……え?」
男「たくさん殺した」
女「そっか。死刑の判決くらうぐらいだもんね」
男「どいつもこいつも、クズばっかりだった。俺も含めて」
女「……どういうこと?」
男「俺はおまえとは違う。殺したい奴を、殺す気で殺した」
女「ちがう。そうじゃない」
男「……復讐」
女「……なんて?」
男「やんちゃやってた頃の話さ。カラダばっかりでかくなって、
中身はガキとなんにも変わってなかった頃の話」
女「うん……」
男「大切な仲間たちがいたんだ。毎日毎日バカばっかりやってよ、
そりゃあ楽しかったもんさ……
よう。日本に今どれだけの裏社会があるか、知ってるか?」
女「まあ、ある程度はね。わたしもそこにいた」
男「非合法に、だが公然となされてる取り引きってのは、世界中にある。
クスリだとか人身売買だとか、そりゃあやべえ取り引きさ。人を
不幸にしかしないたぐいの、な。
それをさぐれば次の日には東京湾に浮くってことも珍しくはねえ」
女「それを、やってたっていうの?」
男「世界を変えられるんだって、本気で思ってた。バカだったよ、本当に。
だがある日、そのやんちゃが過ぎた。裏の組織に、俺たちがやってる
ことをかぎつけられて――」
女「……もういいよ。だいたい、わかった」
男「俺以外はみんな殺されたよ。なんで生き残れたのかが不思議なくらいだ。
……みんないい奴ばっかりだった。許せなかった。だから……
殺したよ。たくさん殺した」
女「……そっか」
男「すげえ後悔してる。やんちゃやってた頃のこともそうだけどよ、
組織の奴らを皆殺しにしてやるって決めてから、本当に後悔した。
奴ら、すげえ数なんだよ。その中には普段から活動してるわけ
じゃない奴もいた。もしかしたら、無関係だった奴も殺しちまった
かもしれない。
それでも、どうしても許せなくて――」
女「……うん」
男「殺しまくったよ。組織が壊滅するまで。
だから、俺は今ここにいる」
女「わかった」
男「終わった後は、警察から逃げる気力も残ってなかった。
シリアルキラーってのもよ、楽じゃねえんだ……
何人も何人も殺さなきゃいけないのに、その間警察に捕まっちゃいけねえ、
相手に負けちゃいけねえ、人目に触れるわけにもいかねえから
食料の調達もままならねえ、おまけに俺はまだ罪の意識ってやつを
持ち合わせていてそれをおさえつけなきゃならねえとくる」
168 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 03:08:32.56 ID:LdzWVoMM0男「すげえ後悔してる。やんちゃやってた頃のこともそうだけどよ、
組織の奴らを皆殺しにしてやるって決めてから、本当に後悔した。
奴ら、すげえ数なんだよ。その中には普段から活動してるわけ
じゃない奴もいた。もしかしたら、無関係だった奴も殺しちまった
かもしれない。
それでも、どうしても許せなくて――」
女「……うん」
男「殺しまくったよ。組織が壊滅するまで。
だから、俺は今ここにいる」
女「わかった」
男「終わった後は、警察から逃げる気力も残ってなかった。
シリアルキラーってのもよ、楽じゃねえんだ……
何人も何人も殺さなきゃいけないのに、その間警察に捕まっちゃいけねえ、
相手に負けちゃいけねえ、人目に触れるわけにもいかねえから
食料の調達もままならねえ、おまけに俺はまだ罪の意識ってやつを
持ち合わせていてそれをおさえつけなきゃならねえとくる」
女「……知ってる。わたしも似たようなものだったから」
男「本当、ろくなもんじゃなかったよ。こんなことをするためにここまで
生きてきたわけじゃ――」
女「――もう、いいよ」
男「…………っ」
女「わたし、今日はもう寝るね。夜も遅いし、眠くなっちゃった」
男「…………」
女「じゃ、また明日ね」
男「…………
悪い。でもその前に、聞いてくれよ」
女「……ん?」
男「俺な。隣にいるのがおまえで、本当によかったと思ってる」
女「あっそ。なにいきなり恥ずかしいコト言ってんの」
男「へへ」
女「……わたしもよ」
女「もしも、さ」
男「ん?」
女「もしも、仮に、ありえないことなんだけど――」
男「えらくもったいぶるな。なんなんだよ」
女「独房にいる二人の囚人がさ。恋に落ちたら、
どうなるんだろう?」
男「……おおう。おまえ、とうとう――」
女「仮定の話だって言ってんでしょ!?」
男「うお!? てめ、声がでけえ!」
173 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 03:51:10.28 ID:LdzWVoMM0男「ん?」
女「もしも、仮に、ありえないことなんだけど――」
男「えらくもったいぶるな。なんなんだよ」
女「独房にいる二人の囚人がさ。恋に落ちたら、
どうなるんだろう?」
男「……おおう。おまえ、とうとう――」
女「仮定の話だって言ってんでしょ!?」
男「うお!? てめ、声がでけえ!」
>>172
女「で、どうなると思うわけ?」
男「どうって、言われてもな。そりゃあ、男が
奇跡の怪力でこの壁をぶち抜いて女を救い出し、
看守どもをちぎっては投げちぎっては投げて脱出、
ふたりは遠い島に逃れて幸せに暮らす。
ほら、ハッピーエンドだ」
女「……真剣に答えてほしいんだけど」
男「ありゃ? 仮定の話じゃなかったのか?」
女「……その、まあ、そうなんだけど……」
男「まあいいや。真剣に答えるとすりゃあこうだ。
べつに、どうにもならねえ。二人は顔を合わせる
ことすらねえ。
天国で――いや、地獄で仲良く暮らすしかねえな」
女「……そっか。そうだよね……」
178 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 04:24:08.46 ID:LdzWVoMM0女「で、どうなると思うわけ?」
男「どうって、言われてもな。そりゃあ、男が
奇跡の怪力でこの壁をぶち抜いて女を救い出し、
看守どもをちぎっては投げちぎっては投げて脱出、
ふたりは遠い島に逃れて幸せに暮らす。
ほら、ハッピーエンドだ」
女「……真剣に答えてほしいんだけど」
男「ありゃ? 仮定の話じゃなかったのか?」
女「……その、まあ、そうなんだけど……」
男「まあいいや。真剣に答えるとすりゃあこうだ。
べつに、どうにもならねえ。二人は顔を合わせる
ことすらねえ。
天国で――いや、地獄で仲良く暮らすしかねえな」
女「……そっか。そうだよね……」
女「男はさ。いいよね」
男「……なんでだ?」
女「仲間が、いたんでしょ」
男「まあ、な」
女「お互いに信頼しあってさ。よっぽど大切にしてたんだよね。
それをなくした時に、男が人生捨てるくらいに」
男「…………」
女「わたし、そういう人いないから。わたしのこと大切にして
くれてると思ってた人は、ただわたしを利用してただけ
だから。わたしも、ただ捨てられたくないだけ、ひとりに
なりたくなくて言いなりになってただけだから」
男「……なあ、女よ」
女「……ん?」
男「めったなことは言うもんじゃねえさ。おまえが知らないだけで、
おまえを必要としてる人ってのがいるのかもしれない」
女「……この壁の、むこうに?」
男「さあ、な」
女「…………」
男「…………」
女「……せなか、あったかいね」
男「……そうだな」
179 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 04:38:55.32 ID:LdzWVoMM0男「……なんでだ?」
女「仲間が、いたんでしょ」
男「まあ、な」
女「お互いに信頼しあってさ。よっぽど大切にしてたんだよね。
それをなくした時に、男が人生捨てるくらいに」
男「…………」
女「わたし、そういう人いないから。わたしのこと大切にして
くれてると思ってた人は、ただわたしを利用してただけ
だから。わたしも、ただ捨てられたくないだけ、ひとりに
なりたくなくて言いなりになってただけだから」
男「……なあ、女よ」
女「……ん?」
男「めったなことは言うもんじゃねえさ。おまえが知らないだけで、
おまえを必要としてる人ってのがいるのかもしれない」
女「……この壁の、むこうに?」
男「さあ、な」
女「…………」
男「…………」
女「……せなか、あったかいね」
男「……そうだな」
女「ねえ。こないだ、一回くらい抱かれてみたかったって
言ったじゃん」
男「ああ」
女「わたしね……その、ヘンなこと言うんだけどさ……」
男「んー? どうした?」
女「その一回が……あんただったらいいなって……
思ってたり、するんだ」
男「ぶッ。な、いきなり何言い出しやがるッ」
女「……べつにおかしくないでしょ」
男「おかしいって。だってそれ、おまえ、アレだそのさっきの」
女「何混乱してんの。みっともない」
男「うっせ。そりゃ驚くわ」
女「なんでよ」
男「なんでって……そりゃおまえ、これまでの態度とか――」
女「……だってさ。あんたと話してたら安心するし。
一人で裏の組織を壊滅させられるほど頭が切れて、仲間を
大切にして、そのくせ妙に子供っぽくてほっとけないし。
写真を見る限り顔だって悪くない、体格もそこそこいいし。
ずっとこうやって話してれば情も移るし」
男「……ううむ。そう言ってくれるのは嬉しいんだが、
唐突すぎてちょっと困るな」
女「実現しないってわかってたから、言えた。それだけが、
残念だよ。ホントにね」
男「俺もだ。気持ちだけ、ありがたくいただいておくさ」
322 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:48:51.58 ID:LdzWVoMM0言ったじゃん」
男「ああ」
女「わたしね……その、ヘンなこと言うんだけどさ……」
男「んー? どうした?」
女「その一回が……あんただったらいいなって……
思ってたり、するんだ」
男「ぶッ。な、いきなり何言い出しやがるッ」
女「……べつにおかしくないでしょ」
男「おかしいって。だってそれ、おまえ、アレだそのさっきの」
女「何混乱してんの。みっともない」
男「うっせ。そりゃ驚くわ」
女「なんでよ」
男「なんでって……そりゃおまえ、これまでの態度とか――」
女「……だってさ。あんたと話してたら安心するし。
一人で裏の組織を壊滅させられるほど頭が切れて、仲間を
大切にして、そのくせ妙に子供っぽくてほっとけないし。
写真を見る限り顔だって悪くない、体格もそこそこいいし。
ずっとこうやって話してれば情も移るし」
男「……ううむ。そう言ってくれるのは嬉しいんだが、
唐突すぎてちょっと困るな」
女「実現しないってわかってたから、言えた。それだけが、
残念だよ。ホントにね」
男「俺もだ。気持ちだけ、ありがたくいただいておくさ」
女「ねえ」
男「どうした?」
女「わたしの前にここにいた人ってさ」
男「ああ」
女「なにをしてここに来たの?」
男「……訊いてどうする?」
女「どうもしない。あんたと仲良くしてたくらいだしさ、
きっと極悪人ってわけでもないんだろうなって。
そう思うと、ちょっと興味が沸いた」
男「そうか。話してもいいんだが……死んだ人間の
うわさばなしってのも気が引けるな」
女「なによ。その人の怨霊を呼び寄せでもしちゃうの?」
男「いや、そういうわけでもねえが」
323 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:52:58.60 ID:LdzWVoMM0男「どうした?」
女「わたしの前にここにいた人ってさ」
男「ああ」
女「なにをしてここに来たの?」
男「……訊いてどうする?」
女「どうもしない。あんたと仲良くしてたくらいだしさ、
きっと極悪人ってわけでもないんだろうなって。
そう思うと、ちょっと興味が沸いた」
男「そうか。話してもいいんだが……死んだ人間の
うわさばなしってのも気が引けるな」
女「なによ。その人の怨霊を呼び寄せでもしちゃうの?」
男「いや、そういうわけでもねえが」
男「おまえがそう思ってるなら、つまらねえ話になるぜ?」
女「どういうこと?」
男「極悪人だった、って言ってんだよ」
女「え……?」
男「金のために顔見知りだろうがそうでなかろうが
殺しまくった、弩級の犯罪者さ。死刑になろうが
同情する奴なんていやしねえ、むしろ喜んだ人間のほうが
多かったろう物欲の権化」
女「そんな……やめてよ、そんなシュミの悪い冗談」
男「冗談だとしたら、たしかに趣味が悪いな。
だがよ、いざ死ぬとなれば欲なんてのは意味がねえ。
奴も後悔してたさ。なんてことをしてしまったんだろう、
殺してしまった人たち、その家族、友人に申し訳ないってな。
そして、だからこそ……死をもって罪をつぐなうと決めた」
女「…………」
男「俺は、よ。もしかしたらおまえほど、人間ってモンに
絶望してねえのかもしれねえ。ガキだって言いたくなるのも、
まあわからねえでもねえってもんだ。はっは」
女「……そっ、か」
女「でも、わたしが人間に絶望してるみたいな言いかたしないでよ」
男「お? ああ、すまねえな。俺の中でおまえは薄幸の美女だからよ、
人の世をはかなんで――」
女「あーもう。そんなシュミの悪い冗談はやめろって言ってるでしょ」
男「わり」
女「……わたしも、男に会うまではそうだったけどさ……」
男「んー? 声が小さくてよく聞こえねえぞ」
女「なんでもないわよ。ばか」
男「馬鹿とは失礼な」
女「うっさい」
女「ねえ、男」
男「ん?」
女「『おむかえ』が来るのって、いつかなあ」
男「なにをいきなり言い出すやら」
女「ここにいれば、いつかは来るもんだし。
覚悟のひとつも決めておきたいじゃない」
男「怖い、のか? そりゃしかたねえさ。罪には、
相応の罰。そうでなきゃ、社会ってのは動かねえ」
女「……怖くないわけじゃない。でも、わたしの命なんて
かる〜いもんだし?」
男「おまえなあ。そういう言いかたはやめろと――」
女「怖いのは……死ぬことじゃない」
男「……え?」
女「ひとりになっちゃうのが、なにより怖い。
男が『連れて』いかれちゃったらさ、わたしまた
ひとりになっちゃう。だれにも必要とされなかった、
あのころに戻っちゃう。
それが……怖いの」
330 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 00:22:52.34 ID:QyPCQbkC0男「ん?」
女「『おむかえ』が来るのって、いつかなあ」
男「なにをいきなり言い出すやら」
女「ここにいれば、いつかは来るもんだし。
覚悟のひとつも決めておきたいじゃない」
男「怖い、のか? そりゃしかたねえさ。罪には、
相応の罰。そうでなきゃ、社会ってのは動かねえ」
女「……怖くないわけじゃない。でも、わたしの命なんて
かる〜いもんだし?」
男「おまえなあ。そういう言いかたはやめろと――」
女「怖いのは……死ぬことじゃない」
男「……え?」
女「ひとりになっちゃうのが、なにより怖い。
男が『連れて』いかれちゃったらさ、わたしまた
ひとりになっちゃう。だれにも必要とされなかった、
あのころに戻っちゃう。
それが……怖いの」
女「だれにも必要とされないくせに、生きていてほしいって
思ってくれる人もいないくせに、わたしなんで生きてるん
だろうって思いながら抜け殻みたいに生きるのが、怖い。
なによりも。死ぬよりも……」
男「……そう、か」
女「だから、おむかえが来るなら男よりわたしが先に。
そう、思ってる」
男「そう言われてもな。刑の執行の期日は俺が決めるわけじゃ
ねえ。判決を受けた順でもねえ、お上のだれかの気まぐれだ」
女「わかってる。でも、それでも」
男「それに、その言い方はこっちの都合を完全に無視してる」
女「……どういう意味?」
男「わかってるくせによ」
女「はっきり言ってほしいだけ」
男「やだよ。もしかしたら壁に書いてあるかもしれねえぜ」
女「何も書いてないの、知ってるくせに」
男「ぐー」
女「寝たふりすんな!」
男「よう。ひとりになるのがいやだってんならよ」
女「んー?」
男「アレだ。三国志は知ってるか?」
女「ちょっとだけなら」
男「桃園の誓いってやつだ。我ら生まれた日は違えど」
女「願わくば、同年同月同日に死なん」
男「そう。ソレ」
女「どちらかが連れていかれたら――」
男「着てるものを格子かなんかに引っかけりゃ、
首くらい吊れるだろ」
女「死にかたも同じ、か。いいかもね、それ」
男「だろ。はっは」
336 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 01:21:51.65 ID:QyPCQbkC0女「んー?」
男「アレだ。三国志は知ってるか?」
女「ちょっとだけなら」
男「桃園の誓いってやつだ。我ら生まれた日は違えど」
女「願わくば、同年同月同日に死なん」
男「そう。ソレ」
女「どちらかが連れていかれたら――」
男「着てるものを格子かなんかに引っかけりゃ、
首くらい吊れるだろ」
女「死にかたも同じ、か。いいかもね、それ」
男「だろ。はっは」
女「……あ!」
男「どうした?」
女「それ、やっぱダメ」
男「なんで?」
女「だってそれ、義兄弟の契りじゃない」
男「なにがいけねえんだよ」
女「……ダメなのっ」
男「じゃあどうしろてんだ」
女「……その、ええと」
男「夫婦の契り、か?」
女「! まあ……そうなる、かな」
男「はっは。俺、おまえの顔も知らねえんだぜ?」
女「三国志の時代なら、フツーのことだったはずでしょ」
男「政略結婚か? ま、それもそうだ」
女「でも、政略結婚なんかじゃない」
男「いいだろ。じゃあ、いくぜ?
我ら生まれた日は違えど――」
女「願わくば、同年同月同日に死なん」
男「酒もねえ花もねえ、シケた契りだがよ」
女「うん。十分だよ……ありがとう」
男「よう。おまえってさ、判決もらうときに
情状酌量とか、あったか?」
女「……なかったよ」
男「なんでだよ? 事情が事情だし、ちょっとくらい
あってもいいような気がするんだが」
女「命じられてやったっていう証拠がなかったから。
もちろん、わたしを拾った人……わたしに人を
殺させた人は、わたしをかばうことなんてなかった」
男「……そうか。きたねえよな、世の中……そういう
奴らがのさばる一方で、おまえみたいな犠牲者がいる」
女「そういう、男は?」
男「ある程度は認められた。けど、それをもってしても……
俺は、殺しすぎた」
女「そっか……」
男「とすれば、もしかしたら……おまえには、まだ目は
残ってるかもな」
女「……え?」
男「いや。なんでもねえよ。どっちにしろ、ここからじゃ
なにもできやしねえ……忘れてくれ」
342 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 02:45:13.35 ID:QyPCQbkC0情状酌量とか、あったか?」
女「……なかったよ」
男「なんでだよ? 事情が事情だし、ちょっとくらい
あってもいいような気がするんだが」
女「命じられてやったっていう証拠がなかったから。
もちろん、わたしを拾った人……わたしに人を
殺させた人は、わたしをかばうことなんてなかった」
男「……そうか。きたねえよな、世の中……そういう
奴らがのさばる一方で、おまえみたいな犠牲者がいる」
女「そういう、男は?」
男「ある程度は認められた。けど、それをもってしても……
俺は、殺しすぎた」
女「そっか……」
男「とすれば、もしかしたら……おまえには、まだ目は
残ってるかもな」
女「……え?」
男「いや。なんでもねえよ。どっちにしろ、ここからじゃ
なにもできやしねえ……忘れてくれ」
男「よう。ちょっと聞いてくれや」
女「んー?」
男「メシと一緒によ。こんな紙がついてきやがった」
女「見えないよ。なんて書いてあんの?」
男「食いたいものを書け、なんでもいいから……だってよ」
女「…………!」
男「いやー。とうとう来ちまったか。おそらくは明日……だな」
女「な……なんでそんなに落ち着いてられるの……?」
男「さあ、なんでだろうな。隣にいい女がいるからかもしんね」
女「そんなっ……やだよわたし、男が――!」
男「いいからおまえは落ち着け。騒ぐと看守にかぎつけられる」
女「だけど……だけどっ!」
343 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 02:45:58.85 ID:QyPCQbkC0女「んー?」
男「メシと一緒によ。こんな紙がついてきやがった」
女「見えないよ。なんて書いてあんの?」
男「食いたいものを書け、なんでもいいから……だってよ」
女「…………!」
男「いやー。とうとう来ちまったか。おそらくは明日……だな」
女「な……なんでそんなに落ち着いてられるの……?」
男「さあ、なんでだろうな。隣にいい女がいるからかもしんね」
女「そんなっ……やだよわたし、男が――!」
男「いいからおまえは落ち着け。騒ぐと看守にかぎつけられる」
女「だけど……だけどっ!」
男「なあ、頼みがあるんだけどよ」
女「え……?」
男「想像は自由とか言ってきたが……一目でいい。そっち、
のぞいていいか?」
女「え、う……今は――」
男「今しか、もうねえんだ」
女「……わかった。いいよ……」
男「おっしゃ。じゃあ、のぞくぜ?
お。おお。おお〜〜〜」
女「……なによ、その反応」
男「へへ。思った通り、大層な美人だ……けどよ、そんなに
泣いてちゃ台なしってもんだぜ?」
女「うっさい……だから今はイヤだって言ったのに……!」
男「笑ってくれよ。この眼に焼きつける」
女「……うん」
男「はっは。最高だ。もう思い残すこともねえ……ってか」
男「お。空が明るくなってきやがった」
女「……うん」
男「夜が明けきったころに看守が来るはずだが……さて」
女「…………っ」
男「よっ、と」
男のかけ声とともに、ごきん、と鈍い音がする。
女(え……? 今の音は――)
男「うお!? なんだ、間に合ったってのか!」
女「え!? 一体どういう――」
男「はっは! 詳しく話してる暇はねえが、つまり――
しばらくは、死ぬなってコトさ!」
女「えっ――男? ねえ、男ー?
返事がないっ……何がどうなって――」
358 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 04:22:45.58 ID:QyPCQbkC0女「……うん」
男「夜が明けきったころに看守が来るはずだが……さて」
女「…………っ」
男「よっ、と」
男のかけ声とともに、ごきん、と鈍い音がする。
女(え……? 今の音は――)
男「うお!? なんだ、間に合ったってのか!」
女「え!? 一体どういう――」
男「はっは! 詳しく話してる暇はねえが、つまり――
しばらくは、死ぬなってコトさ!」
女「えっ――男? ねえ、男ー?
返事がないっ……何がどうなって――」
女(結局返事がないまま朝になっちゃった……)
看守「おい、時間だ。出ろ……
なに!? いない!?」
女(!? まさか――)
看守「窓の格子が一本折れてる! まさか、脱獄か!?」
女「――――!!」
女(そういえば……あいつ、言ってた)
男『世の中なにが起こせるかわかんねえ、ってな』
女(考えてみれば、壁に穴開けようって奴だもんね……
格子に同じような細工をしようとしたって、何も
不思議じゃない。でも、コンクリートの壁と
鋼鉄の格子じゃ、勝手が全然違うはず……)
看守「格子の根元がぼろぼろに錆びてる。なんでだ、
錆止めの塗装がしてあるってのに!」
女(それは、何も不思議じゃない。フォークの先で
毎日しつこくつつけば、塗装くらいならはがせる。
でも、錆びるまでが早すぎる……
錆びるために必要なのは……塩分? でもここは
潮のかおりもしないし、海からは遠そう。
あるとしたら、食事の汁物? ごはんが足りない
足りないってぼやいてたのは、そのせい?
あとは……まさか、血とか……?
ともあれ、さっきの『間に合った』ってのは、
刑の執行より手で折れるくらいまで格子が錆びる
ほうが早かったってこと)
看守「とにかく、探せ! 急ぐんだ!」
女(おそらくは探しても無駄。
男が出ていってから、数時間は経ってる。わたしで
さえ、ここに連れられてくる間の道順は覚えてる。
男が覚えてないはずがない……
たぶん、もうこの刑務所の中にはいない。
問題は……たぶん、警察が動く。このあたり一帯を、
包囲することになるはず。
そこを突破できれば、男は逃げ切れる)
女(でも、納得できない。
男は仲間を大事にする性格のはず。約束を破るなんて、
考えられない。根拠はないけど、わたしはそう
信じてる。なのに……
夫婦の契り、どこに行っちゃったの……?)
男『しばらくは、死ぬなってコトさ!』
女(意味がわからない。でも、あいつがそう言うなら……!)
女(あれから、数日。男が捕まったっていう話は聞かない……)
看守「おい。手紙が届いてるぞ。父親からだそうだ」
女「! わかった。おつとめごくろうさま」
女(どういうこと? わたしに父親なんていないのに……
すごい当たりさわりのない文章。まあ、手紙のたぐいは
全部チェックされるから、あんまりやばい表現がないのは
当然だけど。にしても、だれがこんなのを……
あれ? 最後のこの文)
『つらいことがあっても、笑い飛ばすようにな。
はっは、と』
女「――――! まさか」
女(あれ、男からの手紙だよね……
あれから一ヶ月経ったけど、なんの音沙汰もない。
どうしてるんだろう。捕まってないかな……)
看守「おい。出ろ」
女「え……?」
看守「そんな顔をするな。おむかえじゃない」
女「どういうこと?」
看守「詳しく話すと長くなる。とにかく、ここを出るんだ」
女(詳しく説明してもらったけど、まだ状況が把握しきれない。
わたしに人を殺させた、あいつ。あの男がやってきたことが、
明るみに出た。拾った女の子たちを使って邪魔者を消し、
のしあがっていったことが……
わたしと同じように利用されてきた女の子が、何人か保護
されたらしい)
所長「――ということだ。
本当なら一事不再理といってな。一度確定した判決が
くつがえることはないんだが、事が事だけに世論が動いた」
女「……そうだったんですか……」
所長「刑事訴訟法第435条により、再審を待つことになる。
それまでは勾留させてもらうが、おそらくは情状酌量の
余地と心神の耗弱状態だったことが認められ、
大幅に減刑されるだろう」
女「…………」
男『おまえには、まだ目は残ってるかもな』
女(あれは、多分このことだったんだろう……)
春が近づき、潮のかおりをたっぷりと含んだ風から
身を切るような厳しさがなくなりはじめた、ある夜。
女はひとり、波止場に立ちつくしていた。
小さな雲がまばらに浮かぶ夜空に皓々と輝く月が、
あたりを淡く照らし出す。水面に浮かぶもうひとつの
月は、女の心と同じようにゆらゆらとゆらめいている。
女「いい月だなあ……それに、あったかくなってきたね。
ねえ、いるんでしょ?」
虚空に声を投げかける。それが夜風に溶けて消え行ったころ。
「ああ……いい月だ。男と女の逢瀬を覗き見てるってのは、
なんとも趣味が悪いがな」
声が届く。ふり返ると、そこに。
男「よう。奇遇だねえ……こんなところで会うとはよ」
女「これ」
女は答え、一枚の紙切れをポケットから引っ張り出す。
勾留されている間に、受け取った最後の手紙。
男「お。気づいたか? さすがだねえ。行の最後の文字を
つなげて……」
女「『よる、よこはまこうで、まつ』」
男「ご名答」
女「日時までは指定してなかったのにさ。ホント、ばかだよね」
男「どういう意味だこいつめ」
女「毎晩ここにいたんでしょ」
男「るっせ」
女「あれから、再審してもらった」
男「知ってる」
女「わたしに人を殺させた、あの男。その悪事を暴いたのって、
あんたでしょ?」
男「さあなあ」
女「あんた以外に知ってる人なんてほとんどいないはずだしね。
まったく、警察から逃亡しながらそれだけのことを
やってのけるなんてね」
男「凶悪かつ危険この上ない無差別連続殺人犯ってのは、
ダテじゃねえさ。似たようなもんだった」
女「……ごめんね。二度とやりたくなかったはずなのに」
男「……いや。今度のは、人を救うためにやったことだ。
全然、違う」
女「うん……ありがとう」
男「はっは」
女「結局、心神耗弱と酌量減軽が認められて。執行猶予って
ことになった」
男「それも知ってる。世論がうるさかったからな」
女「それも、あんたの差し金?」
男「そいつは過大評価ってもんさ。
言ったろ、俺はまだ人間ってもんに絶望してねえんだ」
女「楽観的だよね。もし猶予がつかなかったら、数年は
出てこられなかったのに」
男「はっは。ま、日本の司法は女に甘えからよ、こうなる
んじゃねえかって思ってた」
女「それにしたってさ」
男「……まあ、どうなろうが俺は、おまえがここに来るまで
待ってるつもりだった」
男「ここで問題なのはよ。おまえは晴れてシャバに帰ってきた
わけだが」
女「あんたはまだ脱獄者、ってことだよね」
男「そういうことだ。で……もう目的は果たしたからな。
あそこに……独房に、戻ろうかと思ってる」
女「そんな……冗談でしょ?」
男「罪はつぐなわねえとさ。
だれかが俺を必要としてくれない限りは、
生きてる意味もねえしな」
女「……あんた。怒るよ……?」
男「けど……おまえが引き止めてくれるなら――」
女「怒るよって言ってるの。答え、知ってるくせにさ」
男「いや、わかってる。きたねえ正当化をやってるってことは。
でも……俺は――」
女「わたしには、頼れる人が男しかいない。男がいないと、
わたし――」
男「……へへ。きたねえよな。俺……
よう。おまえ、英語はできるか?」
女「……へ? いや、全然。なんで?」
男「ほら、あの船」
女「え?」
男「貨物船だ。アメリカ行きのな」
女「……まさか、あんた」
男「密航しようと思ってる。この国じゃあ俺は生きてけねえ。
おまえも一生日陰者だ。だから……
戸籍もなにもねえ、自由の国アメリカで。
もう一度、やりなおそうと思うんだ」
女「…………」
男「……来るか?」
女「『来るか?』だってさ。すっごいマジメな顔して」
男「本気で言ってる」
女「知ってるよ。なんでそんなこと聞くわけ?」
男「え……?」
女「答え、知ってるくせにさ」
男「……ああ。そうだな。いや悪かった。
おっしゃあ! んじゃあ、行くぜ!」
女「うん!」
そして、二人はアメリカへと旅立つ。
この元囚人二人がこれからどんな道を歩んでいくのかは
まだわからないが――
それはまた、別の話。
みんなおつかれさん ノシ
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