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[9874] 【習作・ネタ】世界は何時だって狙われている(多重クロス、オリ主)
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2010/12/11 01:09
あんまり自重しない作者とオリ主とご都合主義とgdgdと多重クロスオーバーが絡みます。
以下の条件に該当する方は、回れ右して拙作以外の他の方々が書いている良作を読む事をお勧めします。

※「小説家になろう(にじファン)」様でも掲載しています。
※一部に修正などが入ったりしていますが、大筋は変わらないのでコチラでも向こうでも差はありません。


1.主人公は基本的に強い部類に値する。
  場合によってはそれぞれの原作主人公やそれらの強キャラよりも強い場合がある
2.ハーレム要素は無いけど、そこそこモテる主人公はイヤ
3.あの人とコイツがくっつくのは認められん!という固い意思がある人
4.原作と性格が違うというのが認められない人
5.原作崩壊が認められない人
6.ご都合主義を認められない人
7.そもそも、ヘタクソな文章が認められない人

文法の誤りや誤字、話の矛盾、設定的な間違いが出ているなどの指摘は是非ともお願いしたいと思います。
指摘を見つけたら、可能な限り時間を作って修正を行いたいと思います。


更新履歴
2009/07/01
TOP更新 → 流石にタイトル悪すぎだろ、と思ったので改題
Test1改題
Test2投稿
Test3投稿
2009/07/02
Test4投稿
2009/07/03
Test5投稿→投稿ミスにつき削除
2009/07/04
板変更 TEST板→チラ裏板
板変更に伴い表記ミスの修正とタイトルの変更を実施しました。
表記ミスの指摘を受け、表記を訂正。
04.5話(短編)投稿
2009/07/05
タイトルを変更
EndingA投稿
Extra01投稿
2009/07/06
Extra01を修正。試験的にタグも導入。
2009/07/08
05話 仮投稿 修正予定
2009/07/09
05話 微修正
2009/07/20
06話 投稿
2009/07/30
06話 修正
07話 投稿
2009/08/02
08話 投稿
2009/08/06
09話 仮投稿
   一応修正しました。
   歴史知識が浅いのでもう少し勉強して必要があると判断した場合、再び修正します。
2009/08/18
10話 投稿
2009/08/19
11話 投稿
2009/08/20
10話 修正
2009/11/9
12話 Extra2話投稿
2010/01/31
Extra2話をやや修正
2010/03/07
【あくまでIFな嘘予告】を投稿。
2010/06/21
13話 投稿
2010/07/01
14話 投稿
2010/10/08
Extra03&15話 投稿
2010/10/11
こっそり(Sageで)注意書き変更。
HOMEから「小説家になろう」様での自分のページに飛べるようになりました。
感想板以外でメッセージを送りたい、或いは転生者案をこっそり伝えたい方はこちらから「メッセージを送信」でどうぞ。
※ただし「小説家になろう」様への登録が必要になります
2010/10/12
16話 投稿
学園長の名前から近右衛門の「右」の字が抜けてたのでこっそりと修正。
2010/10/18
17話 投稿
誤字報告を受け『紅き翼』の表記を修正しました。
な◆8cb2efd8さん
報告に感謝します!
2010/10/19
誤字修正
リザルトをこっそり追加
2010/10/20
18話 投稿
18話 誤字修正×2回
2010/10/23
EndingB 投稿
2010/11/11
Extra02 誤字修正 
2010/12/11
19話 投稿

一言:
なんだか、非常に時間がかかってしまいましたが、ようやく聖杯戦争編第一話を掲載できました。
これだけ時間をかけて1話だけというのも情けないですが、この聖杯戦争、思い返せば様々な要素を次ぎ込め易いのでそれだけに色々考え過ぎてしまった感がありました。
次回からは開き直ってもう少し本能に忠実に執筆しようかと思ったり。
思いっきり以前書いた事を反故にするような気さえしますが、余りに気にしすぎて書けなくなっても本末転倒だと今更思ったのでご容赦いただきたいと思います。


聖杯戦争に先立ち、軽く嘘予告しておきます。

青髭さんが「いあいあ」な感じで某混沌さんとか来ちゃう可能性があります。

雁夜が葵をNTRします。そしてその瞬間を家政婦が目撃しちゃうかもしれません。

そして凛がカレイド★ルビーとして大活躍し、対抗馬として某無限の剣製な少年が仮面ライダー刃(エッジ)として名乗りを挙げ、魔法少女対仮面ライダーのバトルをするかもしれません!

以上、嘘予告3本でした!


宣伝:
小説家になろう(にじファン)様にて石動この世界に来る前の前日譚的なお話を掲載しています。
タイトルは Elona で Fantasy life な日記 となっております。
興味を持たれたら是非ともどうぞ!

また、HOMEから小説家になろう様での自分のユーザーページに飛べるようになっています。
そこの『Comp 次元ネット-Wikipedia』では登場キャラや投稿キャラの情報を掲載しています。
こちらも興味がある方はぜひご覧ください。


※重要※
このSSではネタを随時募集してます。
縛りは2つだけ『現代系』で『なっつんが知ってる・興味を持ちそうなネタ』です。
ネタは知らなくてもググって調べて面白そうだったら採用する可能性があります。
また、『ぼくのかんがえたすごいしゅじんこう』もエキストラ転生者枠で募集しています。
扱いに関しては保証の限りではありませんが、それでも俺は構わないZE!という方、感想にて投稿をお願いします。



[9874] 01:トリップ
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2009/07/04 01:14
或る日の放課後の事だ。
俺は小学校時代からのダチと一緒に学校帰りに商店街を歩いていた。
何の変哲も無い、普通の商店街だ。
時々、顔見知りの八百屋のおっちゃんが偶にサービスしてくれるのでそれなりに愛用している。

「と、言う訳でおっちゃん、その蜜柑一つね」
「あいよ、何時も買ってくれるからちょいとサービスだ。
 浩太くんにもくれてやんな」
「と、言う訳でやるよ浩太」
「さんきゅー!」

浩太、というのは今俺の横に居るダチ。
沢崎浩太、17歳。
割りと女顔で背も160半ばぐらいで可愛い系の男だ。
何故かしょっちゅう女子と間違えられて、その間違えが突き抜けてガチな人々を生み出し、ケツを狙われる喜劇にして悲劇の人だ。
ちなみに、俺はコイツが男として『ご立派』なので時々拝む。

「ん? なぁ石動、あそこの露天商の売ってるの…なんか珍しくね?
 って、拝まないでよ」
「お前みたいに魔王マーラ様の恩恵を預かりたくてだな…。
 いや、ソレよりも露天商?んん?」

拝む俺に呆れつつも、浩太が露天商を指差す。
見てみると、確かに露天商の取り扱ってるものはなんだか変だった。

「杖になんか色々なアクセに、古臭い本に…パソコン?」

他にも幾つもあるが…なんというか、統一性が無いな。
売っているのは金髪でスタイルの良いお姉さんだ。
格好さえ気にしなければ是非ともお近づきになりたい。
そう、格好さえ気にしなければ。

「いらっしゃい、なんか気になる品でもあったかい?」
「気になるといえば、寧ろこの露天の商品の統一性の無さが気になりますねー」

浩太はお姉さんの容貌をスルーする事にしたのか、商品にのみ目を向ける。

「あぁ、ここにあるのは『趣味人』達を満足させる為の『魔法の道具』さ」
「ふぅん?どういう風に満足させるの?」

浩太が更に聞き入ろうとする。
なんだか深入りしそうだな…話半分で聞いておくか。

「そうだねぇ…時に、キミ達はゲームや漫画、小説やアニメで自分もその世界の登場人物になってみたいと思ったことはあるかい?」
「「はい?」」

突然変えられた話に俺たちは戸惑う。
明らかに脈絡が無いだろう。

「まぁ、聞くだけ聞いておくんな、とても短いから」
「はぁ、まぁ聞くだけなら」
「アタシが売るのは『とある夢を叶える道具』さ。
 ココに置いてある商品は全部『異世界』への鍵。
 例えば…これ」

そう言って女が手に取ったのはパソコンっぽい何か、だ。
腕に装着できるようになってるのか、ソレっぽいバンドや留め金がある。

「コレは『COMP』っていって、『真・女神転生シリーズ』のどれかの世界に入り込める道具さ。
 向こうの世界では勿論『COMP』として扱える」
「なんか、胡散臭さが一気に急上昇だな」
「ハハ、まぁ普通に考えりゃそうだろうねぇ。
 だけどね…アタシの姿が見えてるのはアンタ達二人だけ。
 周りを見てごらん、そもそも周囲がおかしいだろう?」

その言葉にはっとなって周囲を見渡すと、商店街に居たはずの人々が誰も居ない。
店先で声を掛けてくれた八百屋のおっちゃんもだ。
アレか、所謂結界でも張られて周囲と俺たちを隔絶した、みたいな感じ?
でも、オチが商店街の皆でグルでした、とかだったらイヤだなおい。

「アタシに話しかけたアンタ達には異世界を渡るチャンスが与えられたのさ。
 剣と魔法の世界で大活躍、なんてこともアンタ達が望めば不可能では無いんだよ」
「……へぇ、面白そうだね。
 お姉さんコレ、幾ら?」
そう言って浩太が古ぼけた本を指差し、問いかける。
「どれもタダで良いよ。好きな物を持って行くといい」

どうしよう、コイツスッゲー胡散クセぇ。
仮にだ、万が一コレが本物だったとしよう。
確かに魔法だの剣だのは俺も男だ、ぶっちゃけ興味もあるし憧れもある。
俺は厨ニの心を何時までも秘めているムッツリ厨であるからだ。
だが、同時に平穏を心から愛する小市民でもある。

「………」

故に沈黙する。
だが、浩太はそんな俺の思いを知らずに幾つかのモノを俺に押し付けてきた。

「石動、そんな難しく考えなくても良いんじゃない?
 どうせだから貰っちゃおうよ。
 大丈夫。
 こういうの二次創作だとオリ主TUEEEE!な展開への布石だよ、きっと!」
「いや待て浩太、なんだその如何にもそういうの熟知してますな台詞は」

俺は浩太の発言に思わず驚く。
俺もコイツも確かにオタクだ。
だが、コイツこの間まで『二次創作は邪道。絶対に認めないよ!』といっていた男なのか!?

「石動が何を言いたいのかはわかるよ。でもね、ボクにも憧れはあるんだ!」
「ソレは別に良いんだが、平然と俺を巻き込むなよ」
「いや~流石にボクだけだと寂しいし」

そこ、真っ赤になってテレるな。
お前のそれは俺にしたって破壊力があるんだ。
道を踏み外す気は無いが。

「ま、とにかくコレとコレとこれ持ってよ!」
そういって押し付けられる様々なガラクタ。
「うぅ、仕方ないな…持つだけだぞ!」
「うんうん♪」






「で、結局押し切られちまったな」

結局意味不明、使途不明のガラクタを押し付けられたまま、俺は家に帰り着いてしまった。
無論、浩太自身もガラクタを持っていたが、明らかに俺より量が少なかった。

「ま、明日にでもゴミにだしゃ良いか。
 とっとと飯食って風呂入って寝んべ」


そう思っていたことが、俺にもありました。








「こ、ここはどーこーだー!!!!」

気が付いたら見知らぬ森の中でした。

「おかしいぞ、俺はメシが出来るまで時間が掛かると母さんに言われて、
 仕方ないから部屋でゲームでもして時間を潰そうとしていたはずっ!」

それが何故か気付いたら森の中。
しかもご丁寧にガラクタだけ一緒に居る状態。

「あ、ありえん…何かに呪われたのか俺」

呪われた…で連想したのが放課後に商店街で遭遇したあの怪しい露天商の女だ。

「やはり路上で、KOS-MOSのコスプレしてる変態女になんて近付くべきじゃなかったんだ!」

今回の教訓:後悔後先たたず。




[9874] 02:帰還
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2009/07/04 17:38
イルヴァと言う世界のノースティリスの地に降り立った時、
彼を待っていたのは凶悪なまでの暴力、死への恐怖、そして生の渇望だった。
降り立った場所で満足に状態を確認する前に襲撃を受けて死に掛け、初めての殺し合いをした。
己が身に降りかかった理不尽に対する怒りと恐怖でぐちゃぐちゃになった顔で亜人の怪物を殺した。
泣き、喚き終わった彼は、固い誓いをする。
「日本に…日本に帰る。絶対に帰る!」
どうすれば良いかなんて、まるで分からなかった。
それでも、諦めずにひたすら情報を集めた。
その過程で様々な人々と出会い、事件に巻き込まれ、そして様々な知識と技術を見聞きするチャンスに恵まれた。

その世界で10年過ごして気付いた事、それはその世界で彼は人間ではなかったと言うこと。
否、生物学上容姿と能力は人間だが寿命と言う概念が失われていたのだ。
不老不死の人間…イルヴァで言うところの『神の化身』と呼ばれるものとなった事が最大のネックだった。
それを知ったその世界の人々は彼に様々な願いをした。
人々を苦しめる凶悪な魔物の殲滅、暗殺、護衛、国家を左右する事態への介入。
かと思えば調理や物資入手、物資運搬、畑の収穫手伝いなどの依頼。
その見返りとして多額の金銭と貴重な物資、魔導書、武具の提供。

彼は生きる為に…目的の為に人々の依頼を受け続け、気付けば30年余りが過ぎていた。
止まることなく駆け抜けた30余年は、
英雄と呼ばれるほどの力を与え、賢者と呼ばれるほどの知識と技術を与えていた。
だが、それは彼の望みの為の足がかりに過ぎなかった。
「耐え難きを耐え、何度も命を失いかけて、今ようやく願いが叶う」
その言葉は若い少年の口から漏れた、疲れきった男の悲願。
思い描くは故郷に残した数多の未練。
「今、今こそ戻る!」

ある程度、周囲からの自分への関心が落ち着いた頃に彼はノースティリスでも人里からかなり離れた地に居を構えた。
周りが静かになった事により心に余裕が出来始め、彼は遂にとある事に関する研究を始めた。
それは【日本】に帰還することだ。
一度はあらゆる願いを叶えると言われる願いの杖を入手し、日本への帰還を願ったがそれが叶えられることは無かった。
何度も失敗しては諦めかけ、しかし意地になって高価な機材、貴重な材料を消費し、耐え難い苦痛の果てにそれは完成した。
そして彼は万全の準備を整え実行する。
今から行うのは理論上では上手く行くはずの魔法儀式。
しかし、制御に失敗し魔力を身の丈以上に搾り取られる可能性もある。
もしそうなれば、帰ることも出来ずにその身は果ててしまうだろう。
「幸運の神エヘカトルよ、我に幸運の祝福を!
 知者よ…我に加護を! 空間歪曲開始。四次元ポケット、帰還の魔法。そして願いの魔法、同時発動!
 ………俺を、俺を日本に返してくれ!」
幸運の神が彼を祝福し、空間が歪み四次元への穴が開き固定させる。
そして彼を望む場所に帰還をさせようと周囲の空間が歪み始める。
更に魔法により彼の願いが現実に反映され始めと神の祝福により帰還の力はより強く『日本』への道を確立させる事になった。
彼の願いは叶えられた。

ただし、運命はどこまでも皮肉であった。
彼が跳んだ先は人と魔物が戦う戦場だったのだから。
「な…に!?」
刺すような気配に反応し、咄嗟に身をよじる。
同時に銃声が彼の耳に届く。
「ぐぅっ!?」
銃弾は彼の右肩を貫き、その衝撃で彼を平伏させる。

即座に逃げるなり戦うなりしようとしたが、体から力が急速に抜けていく。
そして喉に何か詰まったので吐き出そうとすると。
「ごふっ!」
大量の血が口から吐き出された。
コレは魔力の限界を超えて魔法行使したが為の反動だった。
急速に目の前が暗くなっていく。
ふと空に上っている月が目に映った。

(月は……ここもあそこも変わんなかったかぁ、結局……)

誰かが近付いて来た気がしたが、最早意識は残されてなかった。




[9874] 03:この世界は『GM:きく○け』的な世界の危機に見舞われているようです。
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2010/10/19 00:07
 進が目を覚ますと、そこは病院のようなところだった。
「……病院?」
かと思えば窓も無い部屋であり、怪我人が何人かベッドの上でうなされているだけの部屋だ。
強いて言うなら、日捲りカレンダーがあり、今日の日付が「3月21日土曜日」とあったぐらいだ。
次に自身は何時負ったかは知らないが、中々の重傷だったようだ。
と、いうのも両腕両脚をギプスで固定され、身動きが取れない状態でベッドの上で眠らされていたからだ。
もっとも、その怪我は既に治っている。
進が昨晩まで居たノースティリスでの命懸けの生活が基礎代謝能力を異常なまでに発達させ、
どんな重傷でも数時間寝ていれば回復できるだけの治癒能力を獲得させていたのだ。
「つくづく人間やめちゃってるよな、俺」
寝ているつもりもなかったので、ベッド脇にぶら下がっていたナースコールでナースを呼ぶ事にした。
「そういや、俺が並みの人間だったらナースコール使えなかったんじゃ?」
両手両脚を使えない状態だからどうあがいても無理っぽい気がした。

第一話:この世界は『きく○け』的な世界の危機に見舞われているようです

Side Konoemon
昨日、突如戦場に現れていきなり倒れ、致命傷を負ったという不審人物が礼を言いたい、という事だったので興味もあってワシの前まで通した。
見た目はピンピンしており、活力に溢れているようじゃの。
致命傷と言うのは報告ミスなのかのぅ?

それにしても、何故かワシの顔…のやや上のほう。
頭を凝視しておるようじゃの。
ゴミでもついておるのかのぅ?

「ふぉふぉふぉ、良く来てくれたの怪我はもう良いのかの?」
「もう問題ないです。
 あなた方が俺を保護してくれたお陰で命を失わずに済みました。
 深く感謝致します」

そう言って彼はお辞儀をした。
どうやらそこそこに礼儀は弁えてるようじゃな。

「そうかそうか。何、人として当然の事をしたまでじゃよ」

そうは言ったが彼が保護されたのは戦闘終了後じゃ。
それまでは完全に放置され、妖魔に踏み潰され、流れ弾や流れ矢、果ては流れ魔法に射抜かれ、
常人であれば確実に死んでいる致命傷ぶりだった…という報告を聞いたのじゃがのう。
まぁ、論より証拠とも言うじゃろ。
一つずつ聞いていけばよいかの。

「ワシはこの麻帆良学園の学園長、近衛近右衛門じゃ。お主の名は?」
「俺は石動進(いするぎ・すすむ)です。漢字では石が動いて進むと書きます」

彼は好意的な笑みを浮かべながら答えてくれた。
この様子ならばイケる…かのぅ?

「ところでお主どこから来たのじゃ?
 昨晩は何も無いところから、突然現れたと言う報告を受けたんだが」
「えーっと……予め言っておきます。
 俺にとって全部本当のことで、嘘はつきませんから」

そうして彼は異世界イルヴァに飛んだ日のこと、
30年以上の時を過ごしたノースティリスでの暮らしを掻い摘んで説明する。

「以上です。普通に考えれば信用できる話ではないので、一切信用していただかなくても結構です」
「ふぅむ…俄かには信じがたいのぅ」

そういうと彼はそうだろうな、と呟いた。
だがだからといって彼が嘘をついたとも思えなかった。

「ところで、お主何か目的はあるのかの?」

彼からは何やら良質な人材のニオイがするしのぅ…此処で上手くスカウトできんもんじゃろうか?

「いえ、まったく。
 俺の夢や目標は故郷である日本への帰還でした。
 それを達成した今やりたいことが思いつかないんです。
 色々な未練もあったはずなんですが、その辺り何故かぶっ飛んじゃってて」
不思議ですよね…と彼は苦笑しながら言った。

「君の住所を聞いても良いかの?」
「えぇっと、日本に住んでいた頃のですと結構うろ覚えですえで……神奈川県の伊勢原市、田中9-3-6です」
「君はこの後、どうするつもりじゃ?」
その言葉に石動君は腕を組んで考え始める。

「とりあえず、普通の人と同じように暮らし、普通に生きて普通に死ねれば幸せです。
 まぁ、そうはいっても不老不死…どこかに隠棲するのが一番でしょうね、きっと」
「それはまた何ともまぁ…」
夢がない、と思わず思った。
「欲を言えば、かわいい女性と結婚してそれなりに幸せで慎ましやかな家庭を築き上げたい」
その言葉は冗談なのか本気なのか、イマイチ判断がつかないところだ。
「まぁ、冗談はおいておくとして、可能であれば1日時間が欲しいです。
 後出来れば図書館に案内して欲しいですね。
 新しい目的は日本地図と歴史…概略で良いんですがね。それを知る為です」
「ほぅ、何故そんな事を知りたいのかね?」
「強いて言うなら、俺が生まれた世界とこの世界が同じかどうか調べる為ですよ。
 それを調べるのに手っ取り早い手段は地図と歴史を見ること。
 後は新聞のバックナンバーでも読めばいいかな?と」
なるほど、確かに異世界云々はおいておくとしても、調べるに当たっては言ってることは間違いではないな。
案内役には彼の行動の監視も頼まなければならぬのぅ。
ならば、魔法生徒の誰かに頼むかの。

「良かろう。ではこちらから案内役を出そう。
 石動君。君は玄関で案内役が車で待っておってくれ」
「わかりました。では失礼します」
彼はそう言って部屋を出ようとして。

「────」

一度立ち止まってから考えるような素振りを見せてから。

「やっぱいいか」
と、呟いて彼は再び動き出し、部屋を出て行った。
「さて、ワシも仕事をせにゃのぅ」


Side Susumu

俺は近衛さんのところを後にしてからずっと考えていた。
(やっぱ、あの後頭部が延びてる様子からして妖怪か仙人のどちらかだよなぁ…。
 あ、待てよ…エイリアンって線もあるか?映画で見たの、確かああいう形してた気がするし…)
でもまぁ、基本的に割合どうでも良いことだった。
ノースティリスじゃ目が4つ合ったり、背中に翼が生えていたり、頭がでかくて奇形だったり、足が蹄だったりする奴もいるのだから。

考えながら歩いていると、一つの事実に気付いた。
「玄関は……どっちだ?」
見事なまでに迷子になってしまった。
すると、近くを歩いていた茶髪で碧眼の外人さん…多分留学生?の女性が俺に近付いて来た。
「玄関はこっちです」
「……わぉ。助かるよ、ありがとう」
英語で話しかけられるかも、と思ってこっそり知者の加護を唱えて頭を良くしておこうと思っていたのだが、その必要は無かったようだ。
最近の留学生は日本語が流暢なんだなぁ。
「私はこの学園の生徒で中等部1年の宇津木紫苑と申します。
 アナタは?」
ありゃ、思いっきり日本名だ。まぁ、そういう事もあるか?
「俺は石動 進。一応17歳だ。
 学校には通っていないんだけど……ここの学園長、近衛氏に先日世話になり、今日は礼を言いにきたんだ」
玄関へと案内されながら談話を続ける。
「この学園には通っていないのですか?」
「家庭の都合でね。この辺りに来たのはつい最近なんだ。
 で、この街でのバイト口を探しながらふらついて居たら、ちょいと事故っちゃってね。
 危うい所を近衛氏の部下の人たちに発見されたんだ。
 で、その時は既に体力の限界だったからその場で気絶しちゃってね。
 いやぁ、お世話になってなかったら今頃墓の下だったよ……なぁんてね?」
「フフ、中々に大変だったのですね」
冗談交じりに会話していると、玄関までたどり着くのは直ぐだった。
少々名残惜しくも感じるけど、宇津木さんにお礼と別れを告げよう。
「さて、ありがとう。宇津木さん。
 俺は此処で人を待たなきゃいけないから」
「いえ、それには及びませんわよ」
「えっと?」
戸惑っている俺を他所に宇津木さんは直ぐに答えを言ってくれた。
「図書館までの案内を学園長から仰せつかっていますから」
「あ、そうだったの!?悪いね…それじゃあ引き続き案内を頼めるかい?」
「えぇ、喜んで」
こうして俺は麻帆良学園の図書館へと足を進める。
にしてもこの子…俺の事情を聞かされていないのか?
聞かされてさっきまでの会話をしているなら、結構なタヌキだな。


そして辿り付いたのは図書館島という湖に浮かぶそこそこの多きさの島だった。
「……日本にもこういうとこあったんだな。何だろう、俺の中の常識がガリゴリと書き換えられていきそうだ」
「この図書館島は世界有数の蔵書量を誇る島です。
 ありとあらゆる書物がここにある……という噂ですが、その真偽は今のところ不明です。
 図書館島の地上部は一般に開放されていますが、
 地下は関係者以外立ち入り禁止となっていますので気をつけてください」
まぁ、関係者以外立ち入り禁止って言うのはどこにでもよくある話だ。
今は特に気にする必要は無いだろう。
図書館に入り込み、目的の本棚を探しつつ会話を続ける。
「ふむふむ、なるほどね。
 俺が知りたいのは世界史や地理に関することだから、特に気にする必要はないか」
「世界史に地理、ですか?」
「あぁ、ちょっとした趣味でね。
 他にも歴史小説とか色々と読んだりすることがあるんだけど……。
 今回はちょっとした疑問点があるから調べに着たんだ」

歴史の趣味は嘘ではない。
ただそれが近年では異世界では名のある魔導書ばかりだった…という話しだ。

「それがね、恥ずかしい話なんだけどね…。
 こっちに越してくる前の学校の試験で歴史と地理が余りよろしくない成績だったんだよ。
 それの復習を兼ねて勉強をしにきたのさ」
「あら、そうだったんですか?」
俺の物言いに彼女はおかしそうに笑う。
「そうだったんです。っと、ここだな」
【社会科:歴史・地理コーナー】と書かれた看板が見えた。
「一応、俺の目的地にはついたけど……君はどうするんだい?」
「私は今日一日、学園長からアナタを学園を案内するようにと頼まれていますので」
「ありゃ、申し訳ないね…。折角の休日だろう?」
「いいえ、構いません。人助けですもの」
迷い無く言い切るその姿勢に俺は「ほぅ」と感心してしまう。
「なるほど。宇津木さん、君は良い人だなぁ」
「な、ほ、褒めたって何も出ませんよ?!」
褒められたのが嬉しいのか恥ずかしいのか、そういう返事を返す宇津木さん。
「んじゃ、1時間ほど調べモノするからその間は自由にしてて。
 で、1時間たったらこの建物の入り口で合流しよう。良いね?」
「えぇ、構いません」
そうして俺は本棚へ向き合い、宇津木さんはどこかへ行った。


そして1時間が経過して判ったことというのが、日本に見覚えの無い地名が幾つかあり、更にあったはずの土地が幾つかなくなっているということ。
他にも、社会的に大事件となったような日本の事件の一部が存在せず、それとは違うまったく知らない事件が起きていたという事がわかった。
一番重要なのは現在が1992年だという事だろう。
異世界トリップだけでなく時間旅行まで絡んでますか、自分。
まぁ、それだけならまだしも…。
「なるほどね……道理で俺自身、「まほら」って土地に覚えが無いはずだよ」
一番の違いは、この時代で既に汎用人型多足歩行特殊車両としてレイバーが開発され、
更に軍事特化したアームスレイブなるまったく別系統のロボットが存在することだろうか。
此処まできて俺は漸く悟った。
ここ、漫画や小説がごちゃ混ぜになった世界だ。
架空の学術機関…ジャスティス学園(その他の学校含む)が存在したり、城南大学が存在したり、
輝明学園が存在したり、架空の国際センターだったアザレア国際交流センターするって事は
高確率で世界の危機や悪の秘密結社、怪人、巨大怪獣、異世界からの侵略者、あと凶悪なゴーストと戦えってことですか、そうですか。
しかも、此処まで来ると物事が複雑に絡み合いすぎて原作なんて「ナニソレ」みたいなもんだろう。
ぶっちゃけよう。
俺はロボットモノが好きでそういう漫画や小説はよく読んでいた。
だけど、恋愛モノやラブコメものは苦手で羞恥で読み飛ばしていた。
TRPGなんて友達の話を聞くぐらいしかしたことがないのだ。
今じゃ名前も忘れた友人と話のネタにする為に名前ぐらいは覚えたが知識としては相当浅い。
で、考えていけばなんとなくこの麻帆良の事も思い出せる。
確か、どこぞの週刊誌で連載してた【ネギま】って漫画じゃなかったか?
でも、全然漫画もアニメも見てないから、ぶっちゃけ良く判らん!
それにどちらにせよ俺の知識そのものは30年前のものだ。
忘れてるものの方が多いし、漫画の知識を意識してもどうしようもないだろう。
うん、きっぱりとこの事は忘れよう。
どうせ覚えてないし!
考えが纏まった所でタイミングよく宇津木さんが来た。
「すみません、遅くなりました」
「いやいや、こっちもちょうど考えを纏める時間が取れたし問題ないよ」
「それでは、用事は済みましたか?」
「えぇ、それではこの学園の案内をお願いします」

Side Shion
「えぇ、それではこの学園の案内をお願いします」
丁寧な口調で彼が言う。
「わかりました。それでは行きましょうか」

今日、私は学園長から直々に魔法生徒としての仕事を依頼されました。
それは突如現れた不審人物の監視と学園の案内です。
監視をするのに、学園を案内すると言うのはどこか妙な感じもしましたが、
学園長には学園長の考えがあると思い直し私はその仕事を引き受けたのです。
道すがら幾つかの会話をしていると、そこから感じた印象は「普通の人」といった雰囲気でした。
もしかしたら擬態かもしれませんが、その判別は今のところつきません。
学園の生活の要所を幾つか案内し、最後に来たのは世界樹の麓にある広場だ。

「平和だよね~…まほらって」
「そうですね。この学園はあるいみ、楽園といっても差し支えないと私は思っています」
「だね。世の中、危険地帯じゃ何時どこから銃弾や爆弾が飛んでくるか判らない所だってあるんだ。
 それを考えれば本当に……可能であれば、俺も此処に腰を落ち着けたいモンだよ」

それが彼の本心からの言葉のように感じました。
だから、ついこんな言葉も出てきてしまう。

「石動さんがそれを願い、その為に行動するのならばそれもまた可能だと思います」
「そっか……そうだね。
 願いうのなら、それに見合った行動をするか……」

彼は緩い笑顔で…だけど強い意志を篭めてそう言いました。
その後、何かぶつぶつ呟いて手をポケットに突っ込み何かを取り出すと私に差し出しました。

「宇津木さん、コレ、今日のお礼。受け取ってくれないかな?」

そういって渡されたのは美しい装飾が施された魔力を帯びたダイヤモンドの指輪だった。
私はぎょっとして彼の顔を見る。

「キミ、こっち側の人間だろう?ならばこいつは役立つはずさ。
 ゲームっぽく言うと雷耐性効果があり、同時に魔力を底上げをしてくれる。
 他にも…というかこっちが本命なんだが。
 本から知識を取り込もうとする時に難しい本でも内容を理解できるようになる優れモンだ。
 学生にとっては便利な道具だろう?
 もっとも、それを理解しても覚えていれるかは本人次第だけどね」
その言葉に、彼がどこまで私と言う存在を
「よ、よろしいのですか?こんな凄いものを頂いても」
「うん、お礼だしね。それにこういうのはキミみたいに可愛い子が持った方が映えるでしょ」
彼が小声で続けて言う。
「一応説明すると、それは魔力を帯びた耐眠の『賢者の輝き』ってんだ。
 さっき言った通り、所有者の基礎魔力、知力を底上げし、眠気も和らげたりする。
 電撃に対して耐性はスタンガン程度じゃ痺れる事はなくなるよ」
中々に色々と効果があるようです。
本当にこんなもの貰っていいのかしら?
「ま、それはアーティファクトの中でも割と数あるモンだから気にしなくてもいいよ。
 寧ろ、アクセサリと考えてほしいぐらいかな」
「そうですか……でも、コレは普通に買うと凄く値が張りそうですよ?」
「だろうねぇ……日本円で50万~80万ぐらいすんじゃない?
 まぁ、俺にとっちゃ大したモンでもないけど………こう言うと俺の価値観完全に狂ってるなぁ」
「ふふ、確かに狂ってますね」
普通、そんな値が張るものをぽんぽんと人にあげる事は出来ないでしょう。
ですが、彼にとってはあげても構わないもの、なのでしょう。
「さて、悪いんだけど学園長のところにまた案内してもらってもいいかな?」
「わかりました。それではいきましょうか」



※補足情報※
クロスオーバーした設定の中で知らない情報もあると思いますので出展と
一部情報を掲載しておきます。

※レイバー 出展:機動警察パトレイバー
人型の特殊車両として存在する。
パトレイバーでは主人公達は警察組織用レイバー、パトレイバーに載って物語で活躍してます。
怪人との戦闘でオーバーキルもしています。

※アームスレイブ 出展:フルメタル・パニック!
軍用の人型機動兵器。
マスタースレイブ方式と言う操縦方法が採用されている。
こちらも、怪人との戦闘でオーバーキルもしています。
コレがあるという事は即ちウィスパードが居ると見ていいってことです。

※ジャスティス学園 出展:ジャスティス学園シリーズ
ある意味一番普通(?)の学園。
でも、生徒は手から気功を放ったり、刃物を持っていたり、
番長と言う絶滅危惧種が居たりとやっぱり普通じゃない。
ショッカーの怪人とも渡り合える学生達が存在するのでやっぱり普通じゃない。

※城南大学 出展:メインは特撮の仮面ライダーシリーズ及びウルトラマンシリーズ
本郷や風見なる名物教授が居るらしい大学。
何度か事件や騒動に巻き込まれている。
それらの事件は基本的に内々で片が付けられ、政府筋からも情報規制が掛かっている。
この世界の地球にはウルトラな兄弟や、彼らと戦った怪獣、宇宙人は訪れていない。
その代わり、仮面ライダーと怪人は存在する。

※輝明学園 出展:TRPG ナイトウィザード
世界の守る為に活躍する「ウィザード」と呼ばれる存在たちが集まる巨大学園。
異世界からの侵略者である、侵魔(エミュレイター)や冥魔と戦うのが使命。
しょっちゅう『世界滅亡の危機』と戦っている。
この世界においては同様の使命を持つ銀誓館学園と姉妹学園となっている。
戦闘能力に限って言えば断トツに恐ろしい少年少女(大人も)が揃っている。
その気になればウィザードは単体で大気圏突入をしても無事に済ませられるびっくり存在である。
能力の性質の違い上、『ゴースト』と戦って勝てても、滅ぼす事は出来ない。
また、メガリスは『能力者』ではないので扱えない。
ウィザードの力は覚醒が遅くても『見えざる狂気』には侵されない。
その代わり、人外の基礎身体能力を持つ事は出来ない。

※アザレア国際交流センター 出展:PBW シルバーレイン
最近事件や事故が頻発し、廃れてきた国際交流センター。
後にゴーストタウン化してしまい、シルバーレイン現象によるゴーストの巣窟となってしまう。
将来的に銀誓館学園という能力者育成機関に所属する能力者達の登竜門ともいえる最初期のゴーストタウン。
このGTのシナリオで遊ぶには現金千円
サブシナリオは1シナリオ五百円といううまい商売になっている。

※銀誓館学園
能力者とは身体能力だけで言うと、一番やばそうな規格の少年少女たちが集まっており、
根性さえあれば魂が肉体を凌駕し死をも乗り越えて戦うことが出来る。
ただし、まだ学園は作られていないので未来の話である。
所謂リアル・ドラゴンボール軍団とでも思っておけば正解。

また、メガリスを破壊した際に得られる恩恵により、一部では不死身の化け物集団と恐れられている。
現段階ではまだ殆どの能力者の育成、教育途上で一部の能力者以外は本格的な活動はできてない。
大人になってから能力者として目覚めると『見えざる狂気』とに侵され、正気を失ってしまう。

ゴーストを完全に倒せるのは詠唱兵器を扱える能力者のみ、と言う事になっている。

※世界観補足
表では1980年代から段々と台頭してきたASやレイバーがあり、更には仮面ライダーと呼ばれる正体不明のヒーロー達が一般に知られる世界。
裏では異世界からの侵攻を防ぐ二つの世界結界と『ウィザード』や『能力者』により、異世界からの来訪者達の侵略や、ゴーストを始めとする常識外の敵から護られて来た世界。
しかし1986年に起きたと『天使の喇叭事件』により、二つの世界結界は大ダメージを受け、
それによりエミュレイターやゴーストが出現し始め、それに呼応するようにウィザードや能力者が多く生まれ始める。
また、魔法世界と言うファンタジーの様な世界と繋がりがあり、その場合、地球側は旧世界、或いはファー・ジ・アースと呼ばれる。
なお、同時期に魔法世界にて戦争が勃発しており、英雄ナギ・スプリングフィールド率いる『紅き翼』によって戦争は決着を見る。
なお、この世界に於いて【日本】は強力なパワースポットとなっており、常識的ではないトラブルが良く起きる場所でもある。


※宇津木 紫苑(ウツギ・シオン)1977年 4月21日生まれ
 麻帆良学園に通う魔法生徒の1人。
学園長がきっかけで石動と縁が出来た麻帆良学園のガンナー。
若年ながらも腕は良く、麻帆良で1~2を争う銃の腕を持つスナイパー兼アサルトスカウト。
アサルトライフルをこよなく愛し、スナイパーライフルや自動拳銃も大好き。
でもリボルバーやグレネード、ショットガン、ロケット砲等は余り好きではない。
魔法に関しては素質が薄いが、ソレを補って余りある戦技で戦い抜ける事ができる生粋の戦士。
幼少期に裏の世界では英雄であった男が運営する伝説の傭兵部隊『天国の外』で育った事過去があり、
後に傭兵部隊の部隊長の意向で日本に送られ麻帆良にて防衛任務を行っていた。
その折に部隊がとある一人の潜入工作員の手によって壊滅し、行く当てもないのでそのまま麻帆良に定住する事となる。
後にミスリルからスカウトが来ていたが、軍人としての勘を忘れて久しいので辞退している。
実力はソリッドスネークには総合的に若干劣り、狙撃能力では歴代スネークを上回る。



[9874] 04:まほらに定住してみたら、世界の守護者に目を付けられた
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2010/10/14 18:27
「と、言うわけで近衛さん、質問がありますので全部答えてくれると嬉しいなと俺は思います」
感情の高ぶりに任せて近衛さんの喉下に突きつけてる剣は終焉を齎すモノ『ラグナロク』である。
下手に振るうと世界に終焉が訪れる。冗談ではなくマジで。
激しく厨二病兵器だと思う。

「話の脈絡はつかめんが、おぬしの質問には答えられる範囲で答えよう。
 じゃから、コレ退けてくれんかのぅ」

と言って近衛さんは頷いた。
あんまり動じてない…結構この爺さん凄い?

「んじゃ質問その一。この世界には能力者或いはウィザードと呼ばれる存在が居ますか?
 関連次項として銀誓館と輝明の名と世界結界という単語を上げておきます」
「……さてなぁ」

居るかもしれないし、居ないかもしれない、と取れる玉虫色の回答だ。
なら、自分の知識の範囲で分かる単語をもう少しだそう。

「更に関連次項として『ゴースト』と『来訪者』それと『エミュレイター』も」
「……お主、実は判っててやっておるか?」

その言葉に進は大きく溜息をついて頭を抱えた。

「判りたくないから、否定して欲しいから訊いたんですよ。
 それに、こうなってくると俺自身もこの世界から見て『来訪者』に当てはまっちまう……鬱だ。
 ウィザードにも銀誓館の能力者にも見つかりたくねぇ……。
 戻ってくる日本を間違えたッ!日本は日本でも俺の住んでた世界の日本じゃないなんてッ!!」

もし見つかれば下手をうちまくれば死亡フラグ。
下手をしなくても戦力として連れて行かれて『命懸けの青春』を歩む羽目になる。
彼らが悪いのではなく、多分俺にそういう強制力が働きかねないのだ。
恐るべし、運命の糸。
そう考えると自然とorzといった形に崩れ落ちてしまう。

「そうじゃな、確かにおぬしの言を鵜呑みにすればおぬしは『来訪者』と認定されるのぅ?
 じゃが…」
「じゃが?」
「ウチに所属すれば少なくとも簡単に彼らに引き抜かれなくなるかもしれんぞい?」
「……それって、もしかしてスカウト?」

俺の言葉にウムと頷く近衛さん。

「ちなみに、所属した場合にやることは?」
「主に学園の広域警備員じゃな。実質はこの学園に侵入してきた敵対組織の人間と戦い、学園を守るのが仕事になる」
その言葉に少し考えてみるが、自分のテリトリーを守ると置き換えればそれもまたありと判断。
「まぁ、そのぐらいなら良いかなー。でも、それ以外は動かないつもりだけど、OK?」
「んーむ……。まぢで動かんのか?」
「強いて言うなら、わずらわしいムシの巣を焼却処分するぐらいなら手伝ってもいいけど?」

詰まる所は敵対組織の完全殲滅。
敵対する相手は縁者を含めて全て殺すの意だ。

「ちょいと過激じゃのぅ」
「俺の居たところじゃ、そうでもしないとリベンジに燃える馬鹿な盗賊団が多かったんだよ。
 中途半端に叩いたせいで逆恨みされて、最大規模で炭鉱都市が一つ滅んだ事がある。
 あそこにはあの地域でも有数の美人が2人と将来の楽しみな子が住んでたのになぁ…」

主な理由は盗賊団との交戦中に、とある根暗な馬鹿がヤヴァ過ぎるアーティファクトをぶん回して神々の黄昏っぽい事態に陥ったせいなんだが。
更にその後、俺が『やってらんねー!』と叫んで『子猫の揺り篭』なるブツを幾つか起爆させたせいでもあるのだが。
まあ、俺が子猫ちゃんを起爆させた時点であの根暗は死んでたし、その他の住人達も問答無用で死滅してたので問題ない。
その後、二度とあの根暗の引き起こした悪夢が起きないように、奴のアーティファクトは俺が四次元にしまいこんだので二度と使われる事は無いだろう。
多分。
しかしこの辺りは言わぬが華である。
…今、この手についうっかり握っちまってるしね。

それにしても、酒場のお嬢と冒険者見習いのお嬢、あと愛犬家のお嬢がアレの巻き添えになったのは非常に残念だった。
まぁ、最終的に復活の書で全員蘇らせたけどね!根暗は愛剣(?)無くしたと凹んでたが。
あの馬鹿が持ち続けるより、俺が持っていた方が世界の為であると思う。
主に、世界の安全的な意味で。

「そうか…。お主も苦労しているのじゃな」
近衛さんの労いの言葉が何だかとても心に染みた。

その後、2、3話し合って俺が住む場所と職を手に入れた。
住む場所は学園都市にある森の中。
ご近所に個人宅のコテージがあり、生活環境としては静かで暮らしやすい、とのことだ。
一度、アパートなり寮なりを進められたのだが、そちらは俺の家財道具を設置するには少々不都合の為遠慮した。

俺は与えられた土地に辿り付くと、緑色と赤色の紙切れを懐から取り出す。
書かれているのは『祝福された※セレブ邸※の権利書』と『倉庫の権利書』の文字。
俺はこれから住む事になる家を明確に思い描く。
2階建てで1階には和室も忘れず、倉庫は地下に車庫も兼ねて設置。
電気や水道、ガスは欠かせないなとか、ネットも忘れちゃいけないなと思いながら。

「さぁ、出てきな!新しい俺の家!」

その言葉と共に手形を掲げると、一瞬だけ強い光が辺りを覆った直後、俺の目の前には割りと立派な洋風の館が佇んでいた。
この手形、ドラゴンボール(無印)時代に出てきたカプセルハウスみたいなものだと思ってもいいだろう。
ただし、アレみたいに好きに出し入れは出来ないし、他に新しく手形で住居を作ると消滅してしまったりする。
とはいえ、一瞬で家が建つのはとんでもなく便利だ。

「さて、これから家具の整理だなぁ」

この家の構造は2階建て西館と東間に分かれたシンメトリータイプの館で東館は客間や俺の部屋が1階2階であわせて6つ。
西館は1階に風呂と図書室、2階に遊戯室。
館の中央は1階がエントランスと食堂&厨房。2階がリビングになっている。
地下は倉庫兼車庫で雑多な道具や将来的に持ちたいと思ってる車は此処にしまう事になるだろう。
更に1階2階ともに男女兼用の洋式便所が東西のどちらもにも設置されている。
なお、生活のライフラインは実装されておらず、結局後日に業者との契約と工事や屋敷の手直し工事が行われた。
その時に必要なお金は向こうで入手した金塊を学園長経由で売り払って確保した。

「便利なようで、結構抜けてるよなー」

結局、ライフラインが確保されるまで1週間の時間が掛かった。

「さて、やって来たのは麻帆良の商店街です。色々店があって一日では回りきれませんわ」
学園都市だけあって学生向けの店舗が多く、中には学生が経営している店舗もあった。
その辺り、俺としてはかなりびっくりである。
飲食店の経営とかは特に面倒だと思う。
主に調理の免許や仕入れ関連が。
それに内装もそうだろうな。
と、思いつつ中華飯店に足を運んだ。
なんでも、此処の飯は美味いという噂だ。
カウンター席が空いていたのでそこに陣取りメニューを見る。

「いらっしゃいませ。メニューをお伺いいたします」

びみょーに訛りのある言葉でかなり可愛い少女がオーダーをとりに来た。

「んじゃ、この炒飯と餃子、後は烏龍茶で」
「炒飯一皿、餃子一皿、烏龍茶一つで良いでしょうか
「ん、よろしく」

美少女がウェイトレスが厨房に引込む。
(麻帆良って美少女率高いよなー)
というよりもこの世界の美男美女率が高いだけかもしれないが、まぁ気にしたら負けだろう。

 昼食をとり終え、再び街を散策していると銀髪の幼女に高圧的に話しかけられ、何時の間に用意されたかわからないテーブルと椅子に腰掛けていた。
「で、外の世界から来た来訪者。何が望みでこの世界に来たのかしら?」
「あー…簡単に言えば日本への帰還が目標でした。えぇ『日本』違いでしたが。
 所で、キミは誰なのさ?」
「あら、私の事をご存知でないのかしら?近衛には知っている様な素振りで話しかけていたようだけど」

「……」

何故か、嫌な予感がし始める。
そして、それはもう手遅れなんじゃないか、とも思い始める。
何故か相手に対し丁寧に尋ね始めてしまう。
「失礼、よろしければお名前を伺いたい」
「仕方がありませんわね。私はアンゼロット。
 世界魔術師教会の長であり『ウィザード』達の上に立つ世界の守護者を自認しているわ」

デター! ロ リ バ バ ア !
TRPGにおいてレベル∞とか言う化け物だよね?!ぶっちゃけ俺、足元にも及ばないよね?!
あれだよね、一部のキャラが彼女の手によって何度もピンチになってたよな。
記憶が偏ってるせいで多分間違ってるだろうケド!
そしてやっぱり見事なまでにコグ○エマVoice。

「えーっと、つかぬ事をお聞きしますが何でまた俺に会いにきたのですか?」
「簡単な話よ。世界の垣根を超えれるだけの実力。 
 そしてそれなりに豊富な戦闘経験とそれに基づく実力…。
 放っておくには惜しいと思わなくて?さて、手っ取り早くあなたの実力を試したいと思います。
 私のお願いに"はい"か"YES"でお願いします。
 富士の樹海にエミュレイターの雑魚が群れを成しているようなので倒してきてください。
 サボったり態と負けたら敵対とみなしますので覚悟しておくように」
気がつけば頭上にはフックを垂らしたヘリコプター。
「うわぁい、巻き込まれたくなかったのにー!!」
「フィーッシュ!ですわ」
こうして富士の樹海に強制連行される事になった。
「り、理不尽だーっ!つか、コレ俺のキャラじゃねーだろー!」

そして富士の樹海にて放り投げられる始末。
自力で飛行する魔法は習得しておらず、更に『月衣(かぐや)』というウィザードが所持する特殊技能も持たない。
その為、落下ダメージはもろに受ける。
そうなると、標高300m以上となるこの位置からでは……どうあがいても即死だ。
「ちょっ!?えぇっと、この指輪だッ!!指輪よ、我が身に加護を与えよ!」
キーワードを言う事で指輪が持つ所有者を浮遊させる能力が発動し、ゆっくりと地面に着地する。
「開け、四次元のポケット!」
詠唱をかなり省略して魔力で強引に目の前に四次元の穴を作り出し、手を突っ込んで取り出すは。
「偽善者の白銀、デイライト!」
オブシディアンという素材で作られた剣を、『名前の巻物』を使い、どんどんとんでもない魔剣に成長させたのが『デイライト』だ。
様々な追加効果を持つが、特に不死者殺しの能力に特化している。
何でコレを出したかと言うと・・・。
「テメェら纏めて成仏しろやー!」
地面一面にスケルトンを始めとするアンデッド系の敵が大量に存在した為だ。
「コレ、シルバーレインのゴーストだったら狩っても後で復活するぞおい」
せめて、エミュレイター系の敵でありますようにと願うばかりだ。


*※進が俺TUEEEEE!状態でエミュレイターを駆逐しています。少々お待ちください。※*


「ぶはー。つ、疲れたー」

かったるさで倒れた頃には付近に居た大量のエミュレイターはプラーナの輝きと共に消滅し、魔石のみ残していた。
「これで、一応は問題なしだろう……」
疲れた体に鞭をうち、魔石を回収する。
「これ、たしかプラーナの塊だったよな?なら、何かの役に立つか?」
ある程度強い力を感じるので、もしかしたらウィザードだけでなく、俺にも効果があるかもしれない。
そう思っていると、何故か懐から携帯着信音がした。
俺は携帯を持っていないのでおかしいと、いぶかしみつつも取り出してディスプレイ表示を確認する。
『アンゼロット』
一瞬で携帯を投げ捨てたくなった。
だが、投げ捨てたら死亡フラグと見た。
「もしもし、石動です」
『そのぐらいわかっていますわ。それよりも問題なくエミュレイターを全て倒したようですね』
「まぁ、数だけ多くてうんざりしましたが」
数だけで100超えてたんじゃないだろうか?
『声から察するに、大した怪我も無いようですね』
「そりゃ、異世界で闘争の日々を過ごしてましたから」
40年も激戦続けてりゃあ嫌でも強くなる。
『また、手が足りなくなったら依頼しますのでこの携帯で受けてください。
 報酬の方はそれなりに用意させていただきます。
 自発的に受けていただいても結構ですよ?』
「自発的に受けるかどうかはその時の気分次第って事でー。
 それよりも、コレ、私物として取り扱ってもいいのか?」
『構いませんわ。今よりその0-Phoneはアナタのものです。
 保証書や取説は今迎えに向かっているロンギヌスに持たせてありますので彼女から受け取ってください。』
……精鋭を下っ端扱いかよ。
それとも、それなりに警戒しているからロンギヌスを?
つか、彼女?
ロンギヌスって仮面の男ばかりかと思ってたよ。

1時間後。

迎えに現れたロンギヌスの女性は執事服ならぬメイド服で金髪ポニテの仮面美女でした。
ロンギヌス・フェミリンスさん。
ぶっちゃけエロゲの戦女神2のヒロイン、エクリア・フェミリンスさんにしか見えんのですが。
態度は戦女神版だけど、見た目は姫将軍だ。
とかなんとかを真っ赤なフェラーリの助手席に乗りながら考えていた。
つか、コレ彼女の私物だってさ…さっき、アンゼロットさんに貰ったとか言ってたけど。
「どうしました、石動さん」
「あー…いえ、なんで精鋭っぽそうなフェミリンスさんが迎えに寄越されたのかなーって思ってました。
 正直、迎えに寄越す、物を渡しに来る程度なら宅急便なりタクシーで十分ですし」
とりあえず、話をあわせておこう。
「そうですね、ただそれだけならば私が来る必要もなかったでしょう」
「詰まり、監視もかねて?」
「言ってしまえばそういう事です。
 アンゼロット様は貴方様と貴方様の所有物が、気紛れで世界に危機を齎しかねないと考えています。
 そうならないよう、監視を置く必要があるとの事です」
全部ぶっちゃけたよ、この人。
まぁ、判っちゃ居た事だけどねー。でも、そういうのぶっちゃけるのはどうだろうと俺は思うよ。
「そういえばフェミリンスさん、監視って言っても何処に住むつもり?」
「アンゼロット様からは石動邸で間借りするように、と仰せつかっています」
「うへっ、あの人は人に聞く前に決めちゃうんか?
 ……まぁ良いけどさ、部屋も空いてるし。
 生活用品とかは持ってきたんですか?」
「はい、元々最低限しか持たないので持って頂いてるカバンの中身のみですが」
……mjd?
「OK,帰ったらデパートに買い物に行こう。
 色々と用意するべきだな、コリャ」
「わかりました。麻帆良に帰還したらデパートですね」
フェミリンスさんの返事を聞いて若干溜息をつく。
「やれやれ、だ」

麻帆良に帰り着くと、既に午後6時になっていた。
「んじゃ、これからお互いの私生活に必要なものを買い揃えよう。
 主に下着と洋服。金はこの予算内でよろしく」
そう言って財布から5万円を抜き出して渡す。
「よろしいのですか?」
「いいよこの位。買い物が終わったらあそこのエレベーター前で合流しよう」
そう言って俺は男性用の下着コーナーに入り、肌着と靴下を適当に選んで購入しする。
次にシャツトとズボンを買おうとするが…。
「ふむ、良い組合せが思いつかん」

元々着こなしなど考える人間でもなかった俺なので、悩み続けて…最終的にマネキンが着てるのに似たような組合せの服を購入して終わりにした。
しかし、俺が終わってもフェミリンスさんはどういった物が良いのか判らず、
買い物は終わらなかった様で…結局服は俺が見繕い、下着は店員さんに丸投げしてみた。
お陰で渡した予算の5万を限界ギリギリまで使い込まれた。
おのれ店員め、やりおるわ。


────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※石動にコネクション:アンゼロット(取引)ができました※
※石動に女難(?)属性が付与されました※
※石動に『世界の危機』に関与するフラグが発生しました※
※石動にコネクション:近衛近右衛門(取引)ができました※
※石動が生活拠点を入手しました※
※石動に『魔法使い(ネギま)』に関連するイベントのフラグが発生しました※
※石動にコネクション:エクリア・フェミリンス(居候)ができました※

※ミッションの達成により資金(それなり)とEXP(極小)を入手しました!※
※ミッション達成によりアンゼロットから0-Phoneを報酬に渡されました!※

────────────────────────────────────────


※祝福された※セレブ邸※の権利書
正式には『祝福されたセレブ邸の権利書』となり、セレブ邸の前後に※が着くモノは無い…はず。
おおよそ18万Goldという大金を支払ってゲットできるElonaで3番目に高い家。
祝福が掛かっているのでおおよそ20万程度する。
ゲーム中ではこの祝福に大して意味はないが、作中では※着きでグレードが高い!という事にして2階建てという特典を付けてみた。
2階(第2層)への階段はキチンとした昇り階段です。
(詳しくはElonaをプレイして塔や砦タイプのダンジョンに行かれたし)

・石動邸
割と住み心地の良い邸宅。
建築後、業者に依頼してライフラインも完備し、ネット契約もしたのでとても快適。
お風呂はヒノキの風呂で入り心地が良い。
図書室には魔導師にとってはかなり貴重な魔導書や古書物。
かと思えば漫画やライトノベル、ハードカバーの小説や同人誌までと割りとカオス。
地下倉庫には日用雑貨から強力なアーティファクトをしまう倉庫
地上に繋がっている車庫があり更に『黄昏』を吹き飛ばした『子猫ちゃん』の爆発だってスルーできる小型シェルターを完備する。

学園長が色々と手を廻したので邸宅に関して行政機関に怒られる事は無い。
ただし消火設備が無いので消防署に怒られるのは間違いない。

※ロンギヌス・フェミリンス
 本名:エクリア・フェミリンス(見た目21)
 某エロゲで姫将軍だったり戦闘メイド長だったりする人…最もこの辺りは本編とはまるで関係ない。

 この世界では姫将軍ではないが戦うメイドと言う点では同じで、
 アンゼロットの使徒であり、不老不死になったので寿命という概念は特にない。
 普段の格好がメイドでもあるのは冗談ではなく本当にメイドとしての技能を備えている。
 家事全般は得意。
 割と完璧主義で掃除などは潔癖の領域に達している。
 戦闘能力も高いが、特にサポート面での能力が秀でている。
 
 性格は普段は冷静で計算高くもあるが、時々とんでもなく天然が入る不思議ちゃん。
 


※使徒の解釈について
 取り敢えず、カミサマの使徒なんだし、不老不死でよくね?
 と、言うわけでご都合主義的に不老不死にしました。
 不老不死だけど不死身ではないので殺されれば死にます。
 とりあえずこんだけ。



[9874] 04.5:怪奇!外道憑依魔術師と転生魔術師の戦い!……があったらしい。
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2009/07/04 20:15
それは、突然の出来事だった。
俺は学園長の依頼でとある街、そこで起きている怪奇事件の解決を依頼された。
それは関わっているであろう魔術師の調査と必要であれば捕縛、止むを得なければ抹殺の指令。
だが、その街で俺は予想外の事態に出くわした。

「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

 『魔力を感知して直ぐに民家に突撃したら全部終わってて、
  俺がしたのは何かヤな気配を放つ蚊をぷちっと潰しただけだった!』
 な…何を言ってるのか わからねーと思うが俺も何があったのかわからなかった…。
 子供の死体と重傷で気絶している子供、そして泣いている女と頭がどうにかなりそうだった…。

 これは催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
 もっと恐ろしい超展開って奴の片鱗を味わったぜ…」
「進さん、ポルナレフネタ乙です。
 どうやら当事者同士によって既に事件は収束した後のようですね。
 そこの少年の蘇生と、そこの女性に事情を聴取すれば今回のミッションは完了でしょう」

思わずポルナレフった俺と的確な突込みを入れるエクリアさん。
うん、やはり素晴らしい相方だ。ぜひとも俺の嫁に欲しい。
と、言う訳で…俺は先ず重傷で気絶している少年の蘇生を治癒の魔法を用いて行う。

「ちんからほい!」

口頭の詠唱はアレだが、バックヤード(思考)での詠唱はとても長くて煩雑なのだ。
だから、省略しなきゃいかんのです。
「明らかにやる気が感じられない詠唱……だめだ、この男早く何とかしないと」
「エクリアさん、何気にネタを良く知ってるなぁ…でも、時系列無視してね?」
少年の治療は俺の魔法で一瞬で完了し、少年の容態は安定したように見える。

さて、その間コチラを警戒していた女性は暴れかけたのでエクリアさんが拘束して猿轡もかませていた。
「しかし何故に亀甲縛り?エロイぞエクリアさんグッジョブ」
「アンゼロット様から、相手に屈辱と恥辱を与え、効率よく拘束できる縛り方として教授されました」

犯人はアンゼロット。良いぞ、もっとやれ。

「取り敢えず、ほどきましょうか。
 んで、治療も終わったしそっちのヒトの事情聴取といこうか」
「了解です」
その後、女性…柊 美柚から事情聴取を行う運びとなった。
そして聴かされる超展開の数々。

「つまり、変態ナルシストの外道憑依魔術師とアンタの恋人…である少年が命懸けの死闘をして、アンタの恋人は死亡。
 魔術師は……多分、さっき俺が潰した蚊だったんだろうなぁ」
ぷぅん、と煩かったのでつい手を伸ばして「ギュッ」と握りつぶしてしまったのさ!
嫌な気配もしたけど、ソレを上回った煩わしさがあいつの敗因だ!
「はい、そうです…。
 彼を助ける事が出来ませんでしたが、あの男との因縁を断ってくれた事に感謝をします」
余程嫌いだったのだろう、凄く嬉しそうだ。
「お礼にコレを差し上げます」
そう言って渡されたのは懐中時計だった。
「コレは?」
「そうですね……とても便利な懐中時計です。
 アナタも魔導を歩む者なら、自身で解析してみると良いでしょう。
 きっと損はさせませんよ」
美柚嬢はクスリと微笑んでから悪戯っぽくそう言った。
魔導を歩むものなら…って言うぐらいだから、コレは強力なアーティファクトなのか?
まぁ良いや、人の厚意はありがたく受け取っておこう。
「ありがとう、大事にするよ」


現場を離れてから暫くして、俺はふと思った事を聞いてみる事にした。
「……所で柊さん。アンタこれからどうするんだ?」
「少しこの街を離れようかと思います。私、この街しか知らないので…。
 10年後にでもまたこの街に戻ってこようと思います」
その言葉を聞いて俺はふむ、と頷き。
「なら、麻帆良に来て見ないか?
 アソコは世界有数の大樹や図書館島と呼ばれるとんでもない蔵書量を誇る図書館があるんだ。
 それに街や住人達も見てて飽きない事ばかりだ。退屈はしないと思うぞ?」
俺の言葉に柊美柚は倒れて寝たままの少年を一瞥してから。
「では、折角ですのでお誘いに乗ろうと思います」
と、彼女は綺麗な笑顔でそう言った。

────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※石動は『懐中時計(神器)』を入手しました!
※石動にコネクション:柊美柚(知人)ができました!
※エクリアにネタ突っ込み属性が付与されました!
※気絶している少年に強力な死亡フラグが立ちました!

※ミッションの達成により資金とEXP(超極小)を入手しました。

────────────────────────────────────────
※蚊
蚊の正体はヴァルター・ディートリッヒという3Daysにおける敵役です。


※少年の死亡フラグ
この少年、ぶっちゃければ18禁ゲーム3days-満ちてゆく刻の彼方で- の主人公高梨亮です。
彼の出番は多分ここだけで、しかも『カイロスの時計』が石動の手に渡ったので
後に起こるゲーム中で回想で起きる事故などで死亡する可能性が非常に高いです。
なにせ彼は『カイロスの時計』の効果の影響で体調崩してそれらを回避してましたから。
しかし、それさえ乗り切れば後の人生は割りと薔薇色です。

幼馴染さえエミュレイターに狙われなければ。

※カイロスの時計
カイロスの時計は石動の自然鑑定では(神器)と言う判定になりました。
美柚がカイロスの時計を渡したのは、
先ず、蚊(ヴァルター)が死んだので、流石にもうリョウが死ぬ事は無いんじゃ無いだろうか?と言う点と
次に、取りあえず目の前の2人と敵対するとヤバイよね?的な思考があったためです。
それ故に自分の持つ一番価値のある道具を渡して「私とても友好的です!」と言うのをアピールしたかった為です。

※そもそもの重要前提 3Daysのストーリー
実は作者、3Daysをやったのはもう数年前の話で大体こんな風なゲームだったなぁ…程度にしか覚えていません。
一度やり直そうかなーとも思ったのですが、ディスクを無くしていたのでうろ覚えのままやっちまいました。



[9874] Ending A:BAD END ~怠慢の代償~
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2009/07/05 16:23
 俺が麻帆良に住み着いて11年が経過し、もう2003年だ。
気がつけば、いつの間にかエクリアさんと結婚していて子供も2人出来ていた。
まぁ、アレだ…長く一緒に居ればその気が無くてもいつの間にか芽生える絆とか愛?
勿論、一悶着も二悶着もあったが。
その結果、今、俺は彼女を愛してると断言できるし、彼女も多分同じだろう。
子供達もすくすくと育ってくれているようで少し安心だ。
なにせ、俺とエクリアは不老不死だしなぁ…この辺り、遺伝しなくて良かったわ。

アンゼロットからの指令は初めの頃こそちょくちょく来ていたが、『きく○け』的な世界の危機に俺が関わる事はなかった。
何もしなかったわけでも無いが、基本的にやばそうな仕事は子どもが出来てから特に受けなくなってしまった。
ぶっちゃければ、怠けたとも言える。
それ以外では麻帆良の清掃員兼警備員として侵入者と戦って、
時々エヴァンジェリンと酒を飲んだりゲームの対戦で熱くなったり、
魔法先生達と宴会をしたり、魔法生徒達の模擬戦相手をしたり、
クウネルと名乗る変人とエヴァンジェリンを以下におちょくるかで作戦会議したりと割りと平和だった。
だが、平和もそこまでだった。
平和の終わりを告げるのは一本の電話だった。

『石動さん、今すぐ家族揃って私の城まで来て下さい』

子供達をロンギヌス達に任せ、俺とエクレアはアンゼロットの待つ応接間にやってきた。
「良く来てくれました。石動さん、そしてエクリア」
アンゼロットは紅茶を飲む手を止め、憂鬱げな表情で俺たちを見る。
「アンゼロット様、お久しぶりです」
「お久しぶり。今回は何があったんだ?
 俺達を直接呼び出すなんて…相当珍しいと思うんだが」
そう直接呼び出されたのなんて、大体4年振りだ。
「そう、ですね。
 アレは確か平崎市での事件デジタルデビル解決を依頼した時以来…ですね」
どこか懐かしむように彼女は言う。
無論俺としても若干懐かしい。
葛葉キョウジになってしまった青年(異世界転生者→憑依者)をフォローしつつ、
シド・デイビスを追い詰めて気付いたら背後にいたエミュレイターも追い払って世界の平和を護ったりもしたもんだ。
俺判定では、難易度Normalって所でソレほどヤバイとは思わなかったんだけどな。
まぁ、ソレはおいといてだ。

それにしても何故だろう。
「本題に入りましょう」
さっきから…










































嫌な予感が止まらない。


「今、世界は正に滅亡の危機に瀕しています」



Ending A:怠慢の代償




「……OK,状況の説明をお願いしますわ」
状況は簡単だった、
先ず、つい去年起きた異世界からの来訪者と来訪者の落し物…ロストロギアそれに纏わるロストロギア事件。
そして、その他にも存在したロストロギアが暴れまくった結果、世界結界に多大なダメージが与えられた事。
次に魔法世界における結社『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』の本格的活動により、
旧世界…こちら側にも影響が出、世界結界へのダメージが大きく、世界結界が綻びつつあり。
同時に世界各地で沈黙を保っていた来訪者が、世界結界の弱体化を機に一挙に台頭し各地で紛争が起きていること。
それによる世界結界へのダメージでゴーストまでも活性化し、世界は未曾有の大混乱状態にあること。
事の沈静化に育成途中であった日本の能力者が急遽活動を開始するも絶対数と経験の不足からかなり追い込まれている事。
ウィザードもまた戦っているが、倒して散らすことは出来ても、消滅させることが出来ないのでイタチゴッコになっている事。
他にもASにおけるラムダドライバなる装置の出現、未確認…否、仮面ライダーと怪人達の戦い。
その他にも何やら色々な怪異がたて続きに起きているらしい。
「……なんだろう、考えうる限り最悪の状態な気がする」
「その認識で間違いは無いです。
 更に厄介なのは世界結界に罅が入ると同時に去年から多次元世界から干渉者がやってきやがりました…!
 干渉者の名前は『時空管理局』という多次元世界を法と秩序の名目で管理下に置いている組織です。
 基本的に彼等自身は問題ないのですが、問題があるのは残念な事にこの世界なのです。
 この世界は世界結界で魔法を始めとする様々なチカラや存在を抑圧しています。
 ですが、彼等の干渉で去年の冬にとんでもない被害が出てしまい、世界結界に大きな歪みが出てしまいました。
 その影響でこの世界は今や崩壊の危機にあります…」
フラストレーションが溜まって居るのか、とんでもなくイラついている模様。
なんと言うか、口調だけは落ち着いて見えるけど、漏れ出るオーラが怒りを大きく滲ませているのがわかる。
「海鳴の辺りで暴れまわっている不届き者どもが居ます。
 殲滅してきなさい!これ以上世界結界にダメージが蓄積される前に!!
 メンバーは状況が状況なので追加できません!」



2003年11月、遂に恐れていた事がおきた。
世界結界の完全崩壊である。
「参ったね…ゴーストだらけな上にシルバーレインの影響で狂気に蝕まれた大人ばかり。
 更に…窮め付けがコレとは…!」
「流石に、今回ばかりは相手が悪かった…でしょうか」
周囲を見渡せばそこ屍山血河…。
その死体の殆どはシルバーレイン現象とエミュレイターの侵攻によるものだ。
中には見えざる狂気に蝕まれて暴走していたASを破壊した後も数多く見受けられる。
更に状況が悪い事に、この地にはエミュレイターの魔王も平然と降臨している。
先ほども2人は激闘の末に東方王国の王女を名乗る魔王を退けたばかりだったのだ。
(あっちもそうだけど、こっちも『全力』に近い力が使え始めてる…世界が落とされるのも時間の問題か…!)
「エクリア、体力と魔力、プラーナに余裕は?」
「ある…と言えれば良かったのですけど。そちらは如何です?」
「お互い無いもの強請りは出来ないか」
満身創痍の2人の目の前に絶望の具現が現れる。
ソレは去年、激闘の末に『凍結封印』を施され封じられた存在だった。
ソレと戦っていた幼くも強力な白と黒の魔導士たちは既に敗れ去り、取り込まれてしまった。
「せめて苦しまぬよう、一撃でお前たちも葬ってやろう」
「勝手な事を…!」
ソレの言葉に反応し、動こうとするも既にコチラは満身創痍…武器を振るうことも魔法を放つことも出来ない。
だが、護る為に敢えてアレを俺も最期の力で振るおう!
「エクリア、子供達を頼むな…アザーテレポート!」
「っ!すす─…‥」
エクリアが何かを言い切る前にエクリアは遠隔地まで送り出す。
俺は魔剣の柄を強く握る。
「もし、生まれ変わるなら、次はこんな結末にはなりたく無いもんだな。そうは思わないか!?」
魔力がカラッポで瀕死状態なのに、この大魔法を使うのだから、俺は間違いなく死ぬだろう。
だが、俺の命に代えてでもココでこいつを潰す!

「無駄な事を…」
キッとにらみ合う。
この一撃に全てを賭けるしか…無い!

「響け…終焉の鐘───」
「大いなる深遠の彼方より来たりて、今、我が前に在りし全てに滅びを齎せ──」

「ラグナロク!」「メテオ!」


 
全てを滅ぼす魔力の本流と宇宙の彼方より招聘された隕石が、一帯を消し飛ばし二人が居た場所をクレーターへと変貌させる。
全てが終わった時、その場所には誰も存在しなかった。


































────────────────────────────────────────


死んだと思っていたら気がついたら「徹●の部屋」っぽいところにたどり着いた。
ポルナレフネタはまだ1度だけだけど、自重しておく。
「ようこそ、世界の守護者こと私アンゼロットと…」
「闇の福音ことエヴァンジェリンの懺悔コーナーへ…この愚図が!」
「まったくですね、この役立たず♪」
「な、なんでそこまで悪し様に罵られなきゃならんのさ!?」
俺の言葉に二人は『え、マジでわかってないのコイツ』と言わんばかりの表情で俺を見る。
「つか、此処はアレか…『タイ●ー道場』とか『教えて知●●先生!』とかそんな感じなのか?」
「まぁ、そんなもんですわね」
エヴァはその言葉を補足する。
「ここは言ってみれば貴様の心象世界の一部のようなモノだ。
 最も、次に目覚めれば全て貴様は忘れているだろうがな」
「ソレって意味あるのか?」
「意味ならありますわ。
 本来、こういった事態になってしまえば記憶を引き継いでやり直しなど出来ないのですが
 こうする事によって『なんとなく、もっと頑張ろう!』とか次に目覚めた時に思えるようになるのです」
と、それとなく説明するアンゼロット。
「さて、今回のダメだしだが」
「言うまでもありませんわね」
なんというか、緊張する一瞬だ。
「「平穏に漬かり切ったブタは死ねってことだな」ですわ」
「ひ、酷い!俺は一般人になって平穏で慎ましく幸せに生活してただけなのに!」
その言葉にアンゼロットがヤレヤレと肩を竦める。
「そこがダメダメですね」
「まったくだ、力ある者が平穏に暮らせると思ってる時点でダメだろう」
「し、しどい!」
俺、超涙目である。
「この世界は常に世界の危機に見舞われています」
「一つの物語だけでも世界の危機は訪れると言うのに、
 複数の物語が絡み合えば相乗効果が出てしまうのは言うまでも無いだろう」
「と、言うわけでぶっちゃければ貴方には馬車馬の如く働く以外に選択肢はありません」
「ふん、ある意味当然だな」
このロリババアども、とんでもねぇよ。
「ひ、ひでぇ…選択肢が無いなんてひでぇ」
「そんなに選択肢が欲しいならくれてやろうではないか」
「それでは、私のお願いに""はい"か"Yes"で答えて下さい」
ある意味お約束の台詞ー!?
「うるさい、いい加減もう行け!」
「そう言う訳で…」

「「くたばれ!地獄で懺悔しろ!!」」
放たれる二つの魔法。
俺にソレを防ぐ手などあるはずも無く。
「あんぎゃー!?」

消え逝く意識の中、俺は思った。
何であんなにあの二人、仲がいいんだ?


────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※石動がEndingA(BADEND1)を達成しました
※石動がA&Eの懺悔スタンプAを獲得しました
※この世界にExtraUnitの参入フラグが成立しました
※石動が世界の危機の存在を魂に刻みました
※石動の持つ懐中時計が効果を発動し、時を遡りました

────────────────────────────────────────









「ぶはぁっ!?」
なにやら全身からシビレを感じる。
「あれ?俺死んだんじゃ…あれ?」
周囲を見渡せばそこは長年…いや、違う違う。
つい1ヶ月前に越してきたばかりの我が家だ。
んで、俺は昨日は学園長から依頼を受けて帰ってきて…
と、そんな事を思って居ると部屋のドアをノックする音がした。
「進さん、朝食の準備が出来ました。準備を整えて食堂にお越しください」
エクリアさんだ。
「りょーかい!直ぐに行くよ」
俺の返事を聞いてか、彼女の気配が遠ざかる。
「にしても、なんだか変な夢を見た気がするな…」
内容は既に覚えていないが、何となくもっと働かなきゃ行けない…そんな気にさせられる夢だったと思う。
「ま、ソレはさておき飯だ飯!」
ココ数週間で、エクリアさんの料理で完全に調教されてしまった感もあるが、そんなことはキニシナイ。
うまい飯が食える=超幸せだからだ。
割りと安い気もするが、美女の美味い飯なんてそう簡単に食えるもんでなし。
「もしかしたら、今が俺の人生でいっちゃん幸せな時期やもしれんなー♪」
先ほどまでの思考を放棄し、俺はエクリアさんが作ってくれた飯を食べる為にベッドから這い出した。

あぁ、今日も良い天気だ!





[9874] Extra01:その頃の沢崎君
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2009/07/06 07:59
1992年 3月21日
 僕はその日、久し振りにあの運命の日を思い出していた。
それはKOS-MOSのコスプレをしていた変なお姉さんとの出逢いだ。
あの日、お姉さんは僕に様々なものをくれた。
COMPにインテリジェントデバイス、某キンピカの宝物庫にアクセスする力に、カードの力を現実に反映するデュエルディスク。
他にも詠唱兵器にガンナーズブルーム、宝物庫にしまってあるレイバーやASだ!
…そしてそれらを僕が扱う為の溢れんばかりのこの魔力だ!
そう魔力である。
この魔力があればきっと僕は世界だって支配できる。

そう思っていた時期が、僕にもありました。

僕はこの世界にはトリップという形で来たわけじゃない。
実は石動と別れて暫くした頃に4tトラックに轢かれてしまったのだ。
そして、死んだと思った次の瞬間、目覚めれば今の僕、宇津木愛美として産まれた直後でした。
それが今から5年前の事。
アレだ、僕は転生者になったみたいだ。
なるほど、道理である。
順番は違うけど転生者のお約束、多分神様っぽい人と出会う、不幸な事故の二つが成立しているんだから。
でだ、何が言いたいかと言うとだ…。

どれだけ強力な道具や魔力を持っていても使えなけりゃ意味がない!
そう例えばCOMPだが、コレは起動も出来るし携行端末として普通に使える。
だが、一番大事な悪魔と交渉して仲魔を増やそうにも悪魔どこにもいないでやんの!
次にインテリジェントデバイス。コレ、AIとお喋りとか何とか色々できるけど…
祈祷型じゃないしインストールされてる術式も無いから魔法使えないよ!
次に宝具、コレはまだマシ?と見るべきか…アレだ…重過ぎて使えませんが、何か?
5歳児に持てる訳ねー!同様の理由で兵器関連、全く使えません。
最後にデュエルディスク……カードが未開封のスターターパック一つって酷くない!?
そして最後に…魔力がどれだけ強力でも、そもそも使い方が理解できなけりゃ意味が無い!

更に、話はコレだけじゃ終わらない。

何で僕、女の子なのさぁぁぁああああ!!!!

これで石動と問題無くラブラブになれるんですね!
神様、KOS-MOSモドキ様マジありがとう!



「おーい、マナちゃん。難しい顔をしてどうしたのかなー?」
「なんでもないよ、ジョニーお兄ちゃん」
「そっか、僕のコレを見てよ!どうだい?」
「すごく・・・おっきいです・・・」

彼が見せたのは黒光りする大型自動拳銃デザートイーグル.50AEだ。
ちなみに彼の名はジョニー佐々木、7歳。
日系アメリカ人らしく、日本語がぺらぺらで顔も良く金髪碧眼という、見た目だけならかっこいい男の子だ。
でも、下痢の持病を持つのでカッコよく決めても何時だって腹痛と言うオチがついて2枚目半だって言うのが僕の評価。
彼はお父さんが昔の職場でお世話になった小父さんの息子さんで、
今は外国にある本社で勤めてる小父さんなんだけど、どうにも忙しすぎると言う理由でジョニーお兄ちゃんを
弟分である私のお父さんの所に当分の間ホームステイさせて欲しい、と言う話で今はウチで居候をしているのだ。

「ジョニーお兄ちゃん、コレ、どうしたの?」
「この間、お父さんから送られてきた荷物に入ってたんだ。後コレも」

そう言って見せられたのは明らかに実弾です。本当に(ry

「わぁ、本物みたい~♪」
「でしょでしょ!ちょっと撃って見るから見ててよ!」

そう言って銃を構えるジョニーお兄ちゃん。

「え?!ちょっ?!」
「えぇーい!」

次の瞬間聞こえた音は、爆発音…否、発砲音であり、
驚いて目をつぶった僕が再び目を開けたときに目に入ったのは、
反動を殺しきれずに両肩の骨が外れてしまった涙目のジョニーお兄ちゃんの情けない姿だった。

その後、僕達2人がお父さんとお母さんにしこたま怒られたのは言うまでもない。

お母さんに怒られ、凹んだ僕は気分転換に家のベランダから夜空を眺めていた。
海鳴は割合都会的である反面、少し市街から外れれば途端に長閑な田舎的な場所もいまだ多く、我が家はそういった田舎的な位置にある。
夜空は満面の星空が広がり、沈み込んでいた気持ちが僅かに浮上する気がした。
「・・・?」
不意に、何か懐かしい感じがした。
それが僕にはなんだったのかわからないけれどきっと楽しくなる。
そんな気がした。

「とりあえずは、明日久し振りにジョンおじさんが来るんだよね、楽しみだなぁ♪」
海外で傭兵部隊の司令官をしているらしいジョンおじさん。
顔は厳ついけど、何時もいろんな国のお土産を持ってきてくれる、ちょっと不思議で実は愛嬌のあるお爺ちゃんなのだ。
お爺ちゃんと呼ぶと凹むから普段はおじちゃん、おじさんって呼ぶけどねー。

偶にBIGBOSSとかそういう名前でお父さんがジョンおじちゃんの事を呼ぶけど、どっかで聞き覚えあるんだよなぁ…。
石動と再会したら聞いてみようかな?


────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※ExtraUnit 沢崎浩太が宇津木愛美として生まれ変わりました!※
※宇津木愛美の参入フラグが発生しました!※
※石動と愛美の間にコネクション:腐れ縁が成立しました!※
※愛美にMGS介入フラグが成立しました!※


────────────────────────────────────────



[9874] 05:運命?この世界で原作通りの運命なんてある筈が無い
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2009/07/09 08:01
気がつけば、俺は冬木の魔術師に関わってしまった。

と、いうか遠坂家そのものに関わってしまったというべきか。
ニュースで暴力団とヤクザの抗争が冬木市であったと知って、
冬木市があるという事は聖杯戦争があるって事だろう。
なら、遠くから観戦でもすんべよーと思ったのが運のつきだった。
オマケであの爺さんがアンゼロットに目を付けられてたというのも運のつきだ。
Fateの歴史、思いっきり変わっちゃったZE★
アンゼロットの仕業ですね、本当に(ry

「進さま、アンゼロット様に責任を擦り付けるのは如何なものかと」
「うぃよー」

まぁ、この仕事は俺からも仕事をねだったんだけどさ。



1992年 4月19日

俺とエクリアさんは今回、アンゼロットからの依頼で揃って冬木市と呼ばれる場所に来ていた。
そう、冬木市……Fate/Stay Nightやその前日譚であるFate/ZEROの舞台となった街だ。
しかし、第四次聖杯戦争前のこの時期は小都市と言った感じの港町だ。

「うーん、此処も此処で中々過ごしやすそうだねぇエクリアさん」
「そうですね、気候は元より、港があるので海産物なども美味しく戴けそうですね」

別に引っ越したわけじゃないんだけどね。
でも海産物を買って帰るのも悪くはないだろう。
あ、そうそう、エクリアさんなんだけど家事が得意って事もあってか家事全般が趣味ともいえるらしい。
お陰で我が家の台所事情は既に彼女のものです。
つか俺自身この人が居ないと既に生活できないのは如何なものだろうか。
本気で嫁に来てもらいたい人ナンバーワンだわ。
俺と同じく不老不死(殺されない限り)だし。
いや、ソレは置いておこう。

「んで、今回の依頼ってエミュレイターじゃないけど厄介なのが居るから確実に潰せって話だっけ?
 確か、抹殺して良いとか言ってたけど」
「はい、なんでも数百年の時を生きるド外道の魔術師で一般人への被害もここ数年は多いらしいです。
 『何故だか生理的嫌悪を強く催すのでそんな蛇蝎どもは悉く抹殺してください♪多少は周囲への被害も認めますんで』とのお言葉を賜っています。
 現地のセカンドオーナーは倫敦の魔術協会…ぶっちゃければ我々の下部組織に当たるので好きにやってかまわないとの事です」

相手が簡単に想像できるのって、ある意味やだよねー。
にしても、さっきのエクリアさんの言葉で改めて思うよ…ロリババアすげー!

伊達に『世界魔術師協会』の長は名乗っちゃいないという事か。と一人納得した。
多分Lv∞だから設定的には宝石翁にも勝てるだろうし。
この世界の『魔法使い』も『真祖』も目じゃないんだろうな、本来は。
ついでにさっきの俺の内心が読まれたら確実に扱い悪くなりそうだな。

「んー、相手に関しては俺が心当たりあるし、先ずは住所調べようか」

程なくして調べ物はあっさりと終わった。
と、いうよりも調べるまでも無く車(中古の軽自動車)で移動していたら見つけたのだ……間桐さんちを。
Fateは学生時代にのめり込む様に遊んで背景もキチンと覚えてしまえるほどだったのだ。
今更間違える事も……多分ないかな?
にしても、此処、近付いただけでヤな気が漂いまくりだ。
ぶっちゃけ、悪霊が憑いてると言ってもいい。

「あ、ここだね、ココ。
 悪臭がプンプン漂うよ」
「そうですか?私は感じないのですが…」

エクリアさんが車を止めて言う。
車が止まり、俺は窓を開け外の空気を吸う。
それで更に感じる。

「そりゃ、経験の差でしょう。
 悪霊亡霊地縛霊に、ゾンビにグールにリッチとその辺り相手しまくればその内判る様になるよ。
 後、水気が多いのかな?澱んでるのか腐ったのか…嫌な水のニオイがする…なるほど、マトモじゃねーわ」
感じ取った情報を全てエクリアさんに教えてみる。
「なるほど、世界という壁を越えただけあって、魔法や魔術を感じ取るのは一級品のようですね。
 これで普段が学園都市の清掃員だというのだから冗談にしか聞こえません」

褒めているのか貶しているのか…微妙な所である。
両方だろうと思いつつ、今日泊まるホテルに向かわせた。

「それで、どうするのですか?」
「手っ取り早く済ませよう。俺は突撃、君はバックアップ。
 間桐邸に突撃して容疑者と関係者は問答無用で抹殺。被害者が居ればその場で確保して、エクリアさんと合流。
 エクリアさんの方は結界を張って蟲一匹逃さない、入らせない感じでヨロシク。
 戦闘終了後はこの屋敷諸共『滅菌』という事で」
「わかりました」


侵入を行ったのは午後7時を回った頃だ。
エクリアさんが結界…月衣を展開したのを確認してから俺はマキリ邸のインターフォンを押した。
押した、というか連打した。
『誰だ!こんな時間に何の用だ!!』
聞こえてくるのは壮年の怒声。
まぁ、こんな時間に悪戯とも思える事をされれば気分のいい人間は居ないだろう。
「掃除屋でぇす。世界の敵(と、アンゼロット)に認定された哀れなバカどもを抹殺に来ましたー!
 覚悟しろよ?」
最初は軽く、最後は多少ドスを聞かせて俺は宣言する。
「罠があると嫌だからねー。扉と周囲諸共吹き飛べ♪轟音の波動!」
ネヴァンで習得した轟音の波動という、文字通り轟音で全てを吹き飛ばす魔法を使用した直後、
周囲をやはり文字通りとんでもな轟音が襲いかかり吹き飛ばす。
扉が、窓ガラスが、周囲に居た蟲や虫や鳥が強烈な波動で吹き飛ばされる。
『相変わらず、派手ですね』
耳に装備していた骨伝導の無線機がエクリアさんからの言葉を伝える。
「まぁね、でも意外と環境への影響は少ないよ。
 燃やしたり凍らせたり、雷使うよりは」
以前に学園の警備で軽く襲撃者を殲滅した時は、周囲を燃やし、凍らせ、雷を降らせたりして周囲がとんでもない事になって
近衛さん…学園長に減俸されてしまったのだ。
それどころか修理費をポケットマネーから持っていかれたので、先月はエクリアさんのヒモになったのは記憶に新しい。
フフ、なんだか本当に自分がどんどんダメ人間になってる気がするぜ。

『そうですか。では引き続きお願いします』
「言われるまでもない」

間桐邸に入った俺は、先ず1階の制圧から始める。
と、言っても先ずやったのは手榴弾で廊下を爆破だが。
続いて廊下に面した部屋も扉を開けてぽいっと手榴弾を投げ込んで爆破。
どうせ敵陣だし、家具とか被害とか考えなくて良いよね!
爆破し続けたお陰で1階に潜んでいたチ●コ蟲は強烈な爆発で全て駆除できた。

「素晴らしいね、現代兵器!」
『なんというか、貴方のやり方はトコトン魔術師舐めてる気がしますね。
 こういった拠点制圧ではとんでもなく効果的ですが』

舐めていようがいまいが、勝てば官軍、負ければ賊軍です。
勝者には栄光を、敗者には死を。厳しいけどコレ、命懸けなのよね。
魔術師殺しのMrセイギこと衛宮キリツグ(字忘れた)に比べれば、俺なんてまだ環境に優しいし手段も選んでいる…多分な!

『……ふぅ』
「んじゃ、次は2階やねー」

二階はどうやら住人達の寝室があるようだ。

「ふはははは!わりぃごはいねがー!」

態とドスンドスンと足音を立てて階段を上る。

『何故、ナマハゲなんですか?』
「相手をおちょくる為に決まってるじゃん」

果てさて、ソレが功を奏したのかは知らないが奥の部屋から少女が一人飛び出してきた。

「た、たすけてください!」

多分、5~6歳ぐらい?の少女だ。
黒髪で髪は肩ぐらいだろうか?
服が乱れている。
でも、俺はロリでもペドでもないので特に嬉しいとも思いませんがな。

「OK、もう大丈夫だお嬢ちゃん。
 痛い事とかされなかったかい?」
「されそうでしたー」

女の子は泣きながらもキチンと俺の質問に答える。
意外とツヨイ子なのかもしれないな。
そう思いながらエクリアさんと連絡を取る。

「要救助者っぽい子供を一人発見、手伝って」
『了解、そちらに向かい私が少女を確保するまで現場を確保してください』
「了解」

2分と掛からずにエクリアさんがやってきた。

「この子を連れて車で待機。手早く全てに片をつけてくるわ」
「わかりました、車で待機しています。
 さぁ、いきましょう。安全な所まで連れて行ってあげるわ」

エクリアさんが少女に対し優しく言葉を掛ける。
俺はソレをその場で見送ると、少女が出てきた部屋を見やる。

「さぁて、爆破するか」

その後の事は押して知るべし。

間桐の親父さんも全ての部屋も問答無用、容赦無用、情け無用で全て爆★砕。
一般人じゃないのかって?冗談、蟲爺の配下なら寄生先って可能性もある。
なら、逃さずに問答無用で爆破だろ。
更に地下室への隠し通路を見つけたので、これまた問答無用でバルサン(発煙中)を3個も放り投げてあげた。
自分はその間にガスマスクを装備。
そして中に入り俺が見たモノは……。

「 ぎ に ゃ ぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ !!!」

「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」
死に損なっている蟲と蟲爺を纏めて焼却した。

ち、チ●コ蟲の群に襲われて錯乱したわけじゃないんだからね!

この時の魔法が原因で間桐邸を含む近所が火事で焼けたのは俺じゃない、爺のせいだ!
爺が存在したからいけないんだ!と、言い訳しておく。

「でも、一番悪いのはやはり実行犯かと」
「えー」

そんな事を言い合いながら俺たちは今日止まる予定のホテルに戻るために車を走らせていた。
もう、何も置き無いだろうと言う楽観から気も緩んでいたのもあった。

だからこそ思う。突発的な事故と言うのは思いがけない時に起きる。
なんと、突如車の前にダンディなオジさんが現れたのだ。

「そこの車!止まりたま」

標語:車は急に 止まれない
結果:キキー!どぐぢゃ。

「「………」」

目の前の光景に青褪める俺とエクリアさん。
ちなみにさっき救助した少女、桜ちゃんは疲れているのか後部座席で寝ている。
かなり嫌な音を立てていたが、コレは高確率で死んだのではないだろうか?

「エクリアさん、俺、貴方の事を忘れないよ。
 週一で必ず面会に行くね!」
「ま、待ってください!見捨てるのですか!?」

しかし、見捨てるも何も法律的にコレはもう庇いきれない状況だ。
幾ら相手が飛び出したからとはいえ、轢いてしまえばドライバーの責任となるのは常識だ。

「ぐぅっ、待ちたまえ…というかどいてくれたまえ。流石にこのままでは本当に死にかねんのでね」
「うわ、生きてるよ…人間かコイツ」
「もしかしたら人外の化生でしょうか?ならばいっそ殺せなかったのが無念です」

さっきまでの動揺もなんのその、いきなり黒い発言をかますエクリアさん。

「くっ、これだから外部の魔術師はッ!」

吐き捨てるように言うダンディ。

「なるほど、その物言い、セカンドオーナーの遠坂氏ですか」
「そうだとも、私が宝石翁の系譜にしてこの地のセカンドオーナー、遠坂時臣だ!だから早くどけ!」
「了解、ちょっと待っててくださいよっと」

エクリアさんに車を下がらせてもらっているときに俺は彼女に告げる。

「あの男にはあの娘の事、言わないでおいてください」

その後、車を退かせて改めて俺達は車外で会話をする。

「さて、はじめましてセカンドオーナ・遠坂 時臣さん。
 俺は『世界魔術師協会』の執行者…とだけ告げておこうか」
「私も同じく『世界魔術師協会』の者です。ロンギヌスと言えば貴方もご存知でしょう?」

名前は伏せる。それは言うつもりもないからだ。
一応、執行者と言うのはアンゼロットから正式にそう名乗っても良いと言われた称号だ。

「何故…何故、世界魔術管理協会の人間が我が管理地にてこのような振る舞いをしたのか述べていただきたい!」

それは間違いなく今回のマキリ潰しの件だろう。
その言葉に俺は思わず噴出しそうになった。

「っ!その態度は何だ!?」

俺の態度が癪に障ったのか遠坂氏は怒声を上げた。

「アンタが管理者と言うのが片腹痛かっただけかなー。
 アンタが管理者を名乗るなら、自分の管理地に湧いてる害虫ぐらい、キチンと潰しておけよ」
「害虫…マキリのことか!?」

元々苦く思っていたのかスグに名前が出てくる。
その言葉に俺は「あったりー」と返す。

「彼の者はこの地で行われている儀式の立役者なのだぞ!?」
「だからと言って、それが『世界にとっての害悪』に繋がるなら『世界魔術師協会』は見逃す事は出来ない」
「どういう事だ!」
「簡単な話だよ、根源を目指す魔術師。
 俺達はこの世界に神秘を漏らすもの、この世界の害、この世界の敵…。
 そう判断した者は悉く葬り去らなければ気がすまないんだよ。
 そしてマキリという存在は『世界の常識』を侵食し『世界に害する者』であると
 『世界の守護者』が判断し『世界の敵』と断じた。
 だから執行者である俺と精鋭である彼女がこの地に送られたのさ」
「そん・・・な・・・長い歴史を持つ魔道の家が・・・」
遠坂氏は眩暈を起したかの様によろめく。
「別に良いではないですか、あなた方の殺し合いから厄介な妖物が一つ減ったのですよ?
 更に、イノセントを襲われ、神秘が外部に漏れる可能性も減りました。
 喜びなさい、魔術師。貴方の家の悲願、魔術師の本懐は叶えられます」

エクリアさんもこの土地で行われる儀式・・・そして桜の事を知ってか、どこか軽蔑した眼差しで彼を見ていた。
そしてそれを皮肉った形で告げる。
彼女には彼のあり方は受け入れられない。そういう事なのだろう。

「今回の一件で間桐邸に住んでいた住人の死亡は確認した。
 間桐邸は浄化の為に完全に燃やし尽くしたので住人の死体は通常の死体鑑定では判別不可、魔導の痕跡も全て灰、だな」
嘘は言って無い。少なくとも桜ちゃんは今日から養子になると言う話だったらしく、まだ『住んだ』訳では無いだろう?と言うのが俺の屁理屈以下の屁理屈。

「遠坂時臣、今回の件に関しては後々世界魔術師協会から時計塔経由で何らかの通達があるはずだ。
 それじゃあな。精々奥さんと子供は大事にしな。
 んじゃ、いこうか相棒」
「はい」

車のバックミラーから見える遠坂 時臣と言う稀代の魔術師は、今の俺達にはどこか小さく見えた。
この時の事が、後に影響を及ぼすとは当時の俺は欠片も思っていなかった。


後日談…冬木から戻って翌日

なんだかんだで冬木の実家には戻りたくないと言い、更に一緒に居たいと言う桜ちゃん。
さり気なく懐かれているエクリアさんも困った表情だった。
しょうがないので任務達成報告と同時に桜ちゃんの事をアンゼロットに報告。
すると
「そうですわね。…こちらで根回しをします。麻帆良の貴方の家で預かってあげてください。
 後で書類を送るからソレで状況を確認してください。
 ふふ、結果が楽しみですわ」
最後の台詞にとても嫌な予感を感じたが、俺は「はぁ」と気の抜けた返事しか返せなかった。

「そういや桜ちゃん、キミ…なんで遠坂の家には帰りたくなかったの?」
「私…お父さんにもお母さんにもとってもイラナイ子なんです。
 だから、お父さんはあんなに嬉々として私を捨てたんだと思います…。
 お母さんは優しかったけど、きっと心の中じゃ…」

何だかとても重いなぁ…。
つか、桜ちゃんの目が死んだ魚の目だー!?
ま、まぁ、この反応が普通なんだろうな。俺ドンびきだけど。
ある程度小説の原作読んでるからうろ覚えだけど、あの遠坂時臣も自分なりに娘の幸せを願っていたんだったか?
ただ、そのベクトルが余りに彼女にとって方向性が違いすぎるのが不幸と言える。
誰も彼もが超常の力を求めるわけでも、根源…『』を目指すわけでもない。
時々忘れそうになるが、普通が一番なのだ、普通が。
普通に家族と暮らせる、と言う事は実は凄く幸せなことなのだ…と言うのは向こうの世界に居た時から常々思うことだ。

「まぁ気持ちが落ち着くまではウチに居ると良い。
 幸い、部屋も余ってるしそれに広い家に俺とエクリアさんだけじゃ少し寂しいんでね」

そう言って頭を優しく撫でてあげる。
…これは別にナデポ期待ではなく、子供とはこうやって触れ合うのが大事だと思ったからだ!か、勘違いしないでよね!

「は、はい。ありがとうございます!」

なのに、なぁんでこの子顔まで赤くして喜んでくれちゃうんだろう。
くっ、良い笑顔過ぎてオジサン萌死にしそうだよ…!

────────────────────────────────────────

*Result!*

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※石動家に桜(コネクション:居候)が加わりました!
※石動の幼女萌属性が明らかになりました!
※桜の不幸属性が解除されました!

※間桐が事実上壊滅しました
※Fate/stay nightの原作フラグが崩壊しました
※Fate/ZEROのマキリフラグが崩壊しました

※石動との接触で遠坂時臣に何らかの影響が起きた模様です

※ミッションの達成により資金(それなり)とEXPを入手しました!

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おまけ
Extra Unit's

「桜ー!どこだー!!」
「くそぅ、一体何があったってんだ!何で間桐の家がこんな事に!」
「あぁ、結局リアル桜にあえなかった!!どうして…!」
「世界は、世界は何時だってこんなはずじゃなかった事ばかりだよ!」

間桐邸周辺にいるのは4人の子供。
いずれも高名な日本の魔術師の子供であったり、突然変異で異能を得た子供であった。
知る人が彼らを見ればこういうだろう。
『オリ主』或いは『転生者』または『憑依者』と…。
彼等は知らなかった…世界魔術師協会とアンゼロットの存在を…まぁ知っていてもどうにかできる者ではないが…。
彼女がマキリに干渉し、石動・エクリアの2人に潰させた事を。
そして彼らのお目当てである桜は彼らが来る3時間も前に救助され、既に麻帆良の地で安心と安全を確保していた事を。
更に、彼等は気付いていなかった…彼ら自身と石動・エクリアの2人の存在と行動によって、既に原作なんか崩壊していること。
そして自分達のも持つ原作知識なんか僅かにしか役に立たないと言う事実を。

そして彼等は遠からず知ってか知らずか巻き込まれるのだ……聖杯戦争のみならず、この世界が抱える狂気に。

────────────────────────────────────────

*Result!*

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※Extra Unit's 介入者グループ(4人)の参戦フラグが立ちました!※

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[9874] 06:てすと!
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2010/10/19 00:09
 桜ちゃんがウチに住むようになってから1週間たったある日、俺は学園長に唐突に呼び出されていきなり怒鳴られた。
「このばっかもんが!桜ちゃんみたいなあんな幼い子供が居るのになぁぜ学校に通わせないんじゃ!」
「……え?」
一瞬、何の事を言われたのか判らなかったので、学校と桜ちゃん、通わせるで連想して何とか思い出せた言葉がある。
「あぁ、義務教育ッ!」
ど忘れしてた。
こっちじゃ常識なのに、あっちじゃ義務教育なんてモノは見当たらない世界だったので完全に忘れていた。
この分では忘れている常識、かなり多いんじゃないか?と一瞬怖くなる。
気付いたら犯罪者になってましたとか恐ろしすぎる。

「思い出せたようで幸いじゃな。実は此処にこういう書類があるんじゃが」
俺が思い出したのを理解して学園長が何枚かの書類を出す。
戸籍と編入手続きと書いてあった。
「戸籍って言うとアレか…役所に出すような奴だっけ?正直良く覚えてないけど」
と、いうかこの手のを学生時代に俺がどうこうした事があるか?と言えば勿論あるわけない。
でも、意味はなんとなくわかるので良しとする。
その戸籍には俺の妹として『石動 桜』と言う名前が登録されていた。
「これは?」
「世界魔術師協会から送られてきたお主と桜ちゃんの戸籍じゃよ。
 コレでお主はキチンと戸籍の存在するこの国の住人となったわけじゃ。
 桜ちゃんの方は向こうさんからの好意じゃろ。受け取っておくといい」
そう言う意味じゃなくて、何で俺の妹よ?って意味だったのだけど…まぁいいや。
多分、コレも何かの意図があってのことかもしれないし?
次に見たのは編入手続きの書類だ。
「これは…麻帆良の小等部のか…俺自身は別に構わないかな。学校に通うのは良い事だと思うし。一応本人に確認を取りたいのだけど?」
「んむ、その辺りは任せるわい。一教育者としては出来れば通って欲しいがのぅ」
その言葉にキチンと教育者もやってるんだなぁと内心で関心する。
だって俺、学園長とは警備か依頼の話しか普段しないし。
「それじゃ、また来ますわ」
と言って帰ろうとした所で学園長から待ったが掛かった。
「ちょいと聞きたいことがあるんじゃが良いかの?」
「なんすか?」
「おぬしも学園の高等部に通ってみんか?最終学歴は高2で中退同然じゃろ?」
その言葉に俺はふぅむ、と唸ってしまう。
学生生活を再び送れるのは良い事だ。
俺の望みは一般人としての生活もあるんだしな。
「では、お言葉に甘えようかと」
こうして俺も麻帆良学園高等部に編入…試験を受ける事が決まった。


「あの、テスト免除ってダメですか?」
「そこまで特例を出しても、学力が釣り合わない学校では意味があるまい」
全くを以ってその通りだった。



家に帰り着いてから、リビングで桜に事のあらましを説明。
桜は割りと真面目っこなのか学校に通えるというと嬉しそうに頷いてくれた。
「と、言うわけで俺と桜は5月の編入試験に向けてただ今より勉強期間に入ります!
 麻帆良は私立なので小学生でも編入試験があります、頑張れ桜!」
ちなみに、こんな形とはいえ妹…家族になるので桜ちゃんの事は呼び捨てで呼ぶ事にした。
同様に桜ちゃ…もとい、桜にも俺の事は兄貴扱いするように言い含めてある。
「はい!頑張ります!でも、進むさ…うぅん、兄さんも頑張ってね」
そう、桜に試験があるように俺にも試験があるのだ…めんどくせぇー。
「ぼちぼちな」
こうして約二週間と言う時間制限の中での受験勉強が始まった。

そして1週間勉強していてふと気付いたのだが。
「なんか、思ってたより勉強するのが苦にならないな」
特に学生時代散々苦手だった暗記系の科目が非常に楽だった。
なんでだろうね?と休憩時間にエクリアさんに尋ねると。
「進さまが異世界で様々な魔法の知識を収められたと伺っています。
 きっと、その時の経験が今回の受験勉強でプラスの方向で働いているのでしょう」
「あぁ、なるほど。向こうに居た時は必死だったからアレだけど、確かにアレも勉強だわな。
 古書物の解読なんて殆ど考古学の作業だし。
 魔法書の殆どは著者のフィーリングで書かれてて理解するのに気が何度狂うかと思ったやら」

初歩的な魔法はまだ良いんだ。
例えば氷結範囲魔法であるアイスボールの魔法書。うだうだぐたぐた厨二病臭い事が書いてあった挙句、最後に書いてあった効果の部分が。
『一瞬で自分の周囲の大気ごと氷結させる
 相手は死ぬ』
舐めてるのかと、高レベルの魔法を使うには厨房じゃなきゃダメなのか!と暴れた記憶がある。
もっとも、暴れてたらその時近くに居たビック・ダディに『ウチノコガメェサマスダロガ、コノダボガッ!』とぶん殴られて土下座したのは今でも忘れられない。だって、ビッグ・ダディって無口だと思ってたんだもん。
なんて考えていると肩を揺さぶられた。

「兄さん、寝ちゃダメ」
「っと、ごめん」
どうやら回想と同時に意識が落ちてたらしく、桜はご立腹の模様。
リビングを見渡すとエクリアさんは既に部屋に居なかった。
この時間なら、洗濯物を取り込んでるところだろうか?
まぁ、それはおいといて。
「桜、そっちの勉強の調子はどうだ?」
「うー、算数が苦手。足し算引き算いっぱいあるとわかんなくなっちゃうよ」
そう言って問題集を見せてきた。
「んとね、コレが難しいの」
「どれどれ」

『1+3-4+2-1+5-3=』

少し長めの計算式だった。
最近の小学1年生の算数ってコレなのか?俺の時はもうちょい簡単な問題だったけどなぁ。私立だから?

「ふむ、コレがどういう風に判らないんだ?」
「えっと・・・」
桜が計算式を解こうとして、頭の中だけでやっているのか途中式を書いていない事に気づく。
それを指摘し、途中式も書いてやる様に言うと、少し面倒くさいと表情で語っていたが、うんと頷いた。
そんな風に俺が時々桜に勉強を教えると言う形で俺達は勉強を続けた。

かく言う俺の方はだが…全国の学生さんに非常に申し訳ない気分になるんだが、1時間に時間と反復して勉強する程度で問題集の小テストを満点取れる程度に勉強は捗っていた。
これ絶対イルヴァでの生活が影響してるよな、そういえば何時だったか変な声が聞こえたっけ。

『あなたの脳は完璧な機械だ』とか。

当時、気になってヒーラーの所に駆け寄ったけど、普通の人間のままだと言われたっけ。
でも、その後魔法書を読み解く効率が上がってたっけ。
それはともかく、勉強効率が驚くほどいいのは俺にとってとんでもない利点だ。
今回みたいに時間が無い時は特にだ。
イルヴァで使う事の無かった一般教養を覚えなおす、またとないチャンスなのだから。

そして、俺は自身の最大の敵を知る事となる。

それは…古文と国語の存在だった。
「くそっ、何で母国語が英語よりも点数悪いんだ!」
ガッデム!と叫ばんばかりに頭を抱えてしまう。
ちなみにイルヴァの言語は言葉こそ何故か日本語で通じたが、文字等は英語に近い何かで始めの頃はまともに読むことすら出来なかった。
唯一の救いが、最初期の内に偶々拾ったプラチナコインと引き換えにイルヴァの文字の読み書きを教えてもらえた事だろうか?
それが無かったら、とっくの昔にあっちで死んでる気がする。
まぁそれはともかく、一番重要なのは文法の違いが俺にとって最大の難点だという事だろう。
学生時代は国語じゃなくて英語の方が赤点だったはずなんだけどなぁ…。

───石動はどの教科も赤点だったよね★

何だろう、今懐かしい声にバカにされた気がする。

環境音楽のカセットテープをBGMにカリカリと問題集を解いていき、ふと時計を見るともう夜の8時だった。
「ふぅ、そろそろ良い時間だし今日は終わりにしようか。
 桜、先にお風呂入っちゃって。俺はちょいと散歩してから風呂入るわ。
 エクリアさんも適当に仕事切り上げてやすんじゃっといて」
「あ、うん。それじゃあ先にお風呂に入っちゃうね」
「わかりました。それでは桜様、一緒にお風呂に入りましょうか」
……一瞬、混じりたいなーとか思ったが、そういう邪念は放っておいて俺は家を出て散歩を楽しむ事にした。



近所の森を散歩してたら、ご近所さんのエヴァンジェリンと無精ひげの男のコンビと遭遇しました。
エヴァンジェリンの姿はシャツにスカートそしてマント、腰には幾つかの液体入り試験管を備えている。
気配はどこか剣呑な物を感じだ。
一方、無精ひげの男の方はどこか少年時見た気配を感じるのだが、容姿そのものは成人のそれだ。
他に言えるとすれば、スーツ姿で無手。そしてヤる気満々、という事だろうか?


「良い夜だと思わないか、石動」
エヴァンジェリンが一歩前に出て話しかけてくる。
「こんばんは。月も綺麗だし散歩をするには良い夜だよ…。
 所で、そちらの不精ヒゲのナイスガイはどちら様で?あぁ、一応自己紹介を。
 俺は石動進、この先にある洋館の主で麻帆良の清掃員です。今度学園の高等部に編入予定、よろしく」
「どうも、タカミチ・T・高畑だ、よろしく」
男──タカミチが手を動かそうとした瞬間、気配が戦闘準備態勢から戦闘態勢に切り替わった。
同時に、こちらも相手が無手のまま攻撃してくると仮定し、予測されうる攻撃の中で一番可能性が大きい拳の一撃を警戒して軽くサイドステップを踏む。
距離も遠いので軽く避けれる、と思っていたが。

「甘いな」

男の言葉、ほぼ同時に高速の拳が俺の右腕を砕いた。
まるで見えないという事はないのだが、コチラの想定を大きく上回る一撃だった。
更に問題なのは距離だ。明らかに相手のアウトレンジだったはずなのだ。
「づぁ!」
ダメージに驚きながらも、距離をとり即座に軽傷治癒の(とは名ばかりになった)魔法で治療を行い回復する。
正直に言うと油断していた。距離が開いていて相手が徒手空拳であった事から近接格闘メインの相手だと思っていた。
初見の相手だというのに油断しすぎていたと言える。
お陰でスイッチが入った。イルヴァの地で得た、常在戦場という感覚のスイッチが。
「いきなりご挨拶だな。一応聞いておく、どういうつもりだお前達!」
俺が睨みつけながら言うと、エヴァンジェリンが応じるように口を開いた。
「何、ただのテストさ」
エヴァがなんでもない風に言う。
テストか…どうやら最近の俺はテストとかそういう単語と縁があるらしい。
全くを以って嬉しくないが。
このテストが俺に対してなのか、相手側のものなのかはイマイチ判らないが…。
「訳がわからん、全く何の因果で…。まぁ良い、この喧嘩、高く買い取ってやる!後悔すんなよ!」
主にヒゲ男の方をな!
エヴァを後悔させる良い方法はあまり思いつかないので今は保留だ!
「風の女神ルルウィよ、風の加護を我に与え給え…『加速』
 大地の神オパートスよ、その雄雄しき大地の力の加護を我に与え給え…『英雄』あーんど『光の盾』
 元素の神イツパロトルよ、元素より齎される力の加護を我に与え給え…『元素の加護』!」
パパっと素早く詠唱し、戦闘態勢を整え終わる。
ちなみに、詠唱に関しては殆どノリのようなものだ。
別口の詠唱でもキチンと発動するし、態々口に出さなくても無詠唱でもいける……が、この辺りはやはり雰囲気の問題だ。

「本気でやらせてもらうぞ」
「なら、コチラも…右手に魔力、左手に…」
男がなにやら構えて魔力と何かをわからない気配を出し始めた所で嫌な予感がした。
「実戦でこの隙を逃す阿呆はいない!」
無詠唱で魔法の矢を放つ。
イルヴァ式の魔法の矢は速射性にやたら優れており、錬度と保有魔力次第ではマシンガンのように連射する事も可能だ。
勿論、相応に魔力消費が激しいが。

「やったか?」



Side Evangeline


「やったか?」

奴の呟きが聞こえた、だが甘い、とだけ心の中で呟く。
タカミチはこの魔法の矢の嵐が着弾の寸前、本当にギリギリのタイミングでソレを発現する事で防ぐ。
ソレに阻まれ消えたり弾けたりした魔弾やそれ以外にも狙いが大雑把だった為に地面にも当たって弾けもうもうと土煙を上げている。
その土煙の向こうからタカミチの声がする。

「いいや、まだやられていないさ」

その言葉に一瞬だけ驚く奴の顔があった。
私はソレを見て少しだけいい気味だと思った。
何せ奴はコチラに越してきて出会った時から常に私を子ども扱いし続けてきたのだ。
それに…あろう事か私はあのバカに勝てた覚えが無いのだ。
封印状態であるとは言え、別荘での魔法の撃ちあい、格闘戦、そして…何より悔しいのがTVゲームで連敗続きだという事だ!
魔法の撃ちあい、格闘戦は封印の力による影響で全力は出せないが、それでも納得の良く勝負が出来た。
だが、ゲームとなると話は別だ。あのバカは嬉々として私のチュンリーをブランカでハメ殺ししやがったのだからなぁ!
「石動、特別に貴様に教えてやろう…咸卦法の威力という物をな」
「エヴァ、実際に戦うのは僕なんだが?」
「えぇい、細かい所は気にするな!それよりも来るぞタカミチ!」

私が言うのとほぼ同じ程度のタイミングで奴が動き出した。
驚くほど俊敏な身のこなしだが、まだ本気ではないのが透けて見える。

「小手調べだ、耐えて見せろ青年!」

奴が腕を掲げタカミチに向けるのと同時に冷凍光線、とでもいうべき光線がタカミチに襲い掛かる。

「その程度では効きやしない!」

咸卦の力を纏った状態のタカミチは腕でそれを払いのける。
若干の霜が着いたようだがダメージになどなりはしない。

「なに!?手加減してるとはいえ、それは無いだろ!?」
「くく、驚いている場合ではないぞ?」
私が言っている間にタカミチが無音拳で石動を攻撃している。
どうみても射程距離の合わない一撃に戸惑ったようだが。
「ちっ、遠当ての一種と思っておくか!」

次第に奴も直撃し続けていた状態から防御し、そしてかわし始める。
奴が自分の攻撃になれ始めた事、そしてダメージを与えても即座に回復する事に動揺と焦りを感じ始めるタカミチ。
普通の相手であればもう既に100も200も吹き飛ばせる攻撃をしている、それでも吹き飛ぶ所か倒れもしない。

「くっ、予想以上に手強い!」
「気をつけろ、そろそろ来るぞ!」

私の警告が終わるか終わらないかの所で奴が動き出した。
瞬動では無いにしても妙に早すぎる踏み込みだ。
「ちっ!」
タカミチが無音拳で真正面から頭を狙って殴ろうとするが。
「甘いんだよ!」
その一撃は更に踏み込み、姿勢をぐんと下げは這う様に走る事で回避している。
「おぉぉ!」
奴がタカミチの懐にもぐりこんだとき、奴が武器を取り出す瞬間が見えた。
やはり、奴は『何も無い所』から剣を呼び出し手いる。
そしてそのまま剣で攻撃するかと思いきや、それは剣に意識をそらす為のフェイントで本命は下段蹴り、受けて僅かに怯んだタカミチに対し即座に立ち上がり逆手に持った剣で素早く一撃。
続いてショートアッパーをタカミチの腹に決め、2度ほど豪快に斬り付け、2度目は勢いで剣が地面に突き刺さる。
「その隙も─」
今までの攻撃を喰らいながらも、貪欲にその隙を突こうとしたタカミチだが、甘かった、と言うか私も予想していなかった。
剣は突き刺さった状態から豪快かつ鋭く地面から抜き放たれ、火炎を撒き散らしながら切り上げられる。
「おぉらぁっ!」
「ぐぁ!?」
咸卦法のお陰で防御力が以上に上昇しているとはいえ、奴の一撃は見た目に反して以上に重い。
それこそ、今の状態の私の障壁を楽にぶち抜けるぐらいにだ。
切り上げられた勢いでかなりの勢いで空中に浮いたタカミチ、同時に石動が飛び上がる。
「寝てろっ!」
追いつくのと同時に今度は蹴りで叩き落す。見事な連続攻撃だ。中々ありえない動きだと思うが、その辺りは奴が魔法で動きに補正を入れてるのだと言うのを傍から見ていて納得できた。

そしてタカミチが地面に叩きつけられた時、何故か私の頭に「SLASH」という言葉が聞こえた気がした。

「第一ラウンドは終了だ、青年。続けるかね?」
何の苦も無くまるで決まりきった台詞を言うかのように石動が服のほこりを払う。
「と、当然…だ!」
肩で息をしながらも、何とか立ち上がるタカミチ。やはり加減はされているようだ、ギリギリで闘志を失わない程度のダメージ。狙ってやっているとしたらとんでもないものだな。
「OK、OK。オジさんは元気な若モンは好きだぜ」
いいながら奴はどこかから取り出した薬瓶をタカミチに放り投げる。
「俺の愛用してるクスリだ。便利な事に一瞬で致命傷でも回復する。
 第一ラウンドはお互いに手札の見せ合いだ、本番は第二ラウンドから…そうだろう?」
そう言いながら奴もまた同じ薬瓶を取り出して飲む。
すると、奴がダメージをおった部分の痣や腫れがあっという間に消え失せる。
なるほど、かなり効果の高い霊薬のようだな。
タカミチも奴の言葉を信じて薬を飲み込む。
「ぐぁ、不味過ぎる…!」
「良薬は口に苦いものだよ、青年」
情けないほどに眉をしかめそれでも飲みきった。
すると奴に殴られ斬られた傷跡が全て瞬く間に消えていく。
その回復速度は魔力が封じられる前の私と同程度の速度と言えよう。
その効果を実感してタカミチも思わず。
「これは…凄いな」
と、もらした。

「さぁ、第二ラウンドといこうか!」
そうして始まる第二ラウンド。
2人は最早私の存在などを忘れ、ただただ自らの技巧、能力、意地、闘争本能に従い殴り合いを続けた。
第二ラウンドは石動がタカミチに近付く前に居合拳の連射で石動の動きを封殺し、僅かに魔法がいくつかタカミチに通ったようだったが気がつけばタカミチは豪殺居合拳を乱打し勝利。
タカミチの最大威力の攻撃を受けても石動は薬を飲んで立ち上がり、第三ラウンドを宣言。そして第三ラウンドはお互いに負傷こそ霊薬で回復したようだがスタミナまで回復しきらず、二人は技も何も無くただの殴り合い、最後はお互いの顔を同時に殴って倒れた。

「バカか、こいつ等は?」

けしかけたのは私だが、ここまで馬鹿のように殴り合いをするというのは予想外だ。これではまるでどこぞの青春熱血漫画ではないか。
と、いうか……だ。
『石動、貴様は見た目はボロボロだがまだ余力を残しているな?』
以前軽くやりあったからわかるのだが、この男はどれだけの怪我でも殆どスグに治ってしまう特異体質みたいなものだ。
本人曰く、何度も重症になってりゃ体が勝手に直す速度を速めてくれるだとか…バカの窮みのような台詞を言っていた。
『当然、で、コレ一体なんだったのさ?』
私が念話で問いかけると、奴も念話で応じてきた。
『そこに寝転がってる、お前とやりあったタカミチのテストだよ』
『テスト?』
『そうだ。こいつが「悠久の風」にそしてかつて「紅き翼」に所属していたのは知っているな?』
私が言うと奴は少し唸った後。
『あぁ、思い出した。紅き翼ってのは魔法世界で英雄と謳われる「ナギ・スプリングフィールド」率いる最強の軍団だろ?
 んで、確か悠久の風ってのが現魔法使いグループでもそれなりに大手の結社だったか?
 そういやそこに籍を置いてるメンバーが麻帆良に居るって話を噂で聞いたことがあったっけ。それが、彼か?』
『まぁ、そういう事だ。そしてついさっきまで私がコイツの修行の相手をしていたのさ。その仕上げとして麻帆良でもそれなりに実力があるお前に相手をさせようとしたのだが…』
そう思った所で溜息をつく。
『まったく、何故貴様は本気を出さなかったんだ』
『はっはっは、悪いな。ただの喧嘩っぽくなっちまってよ』
全く悪いとは思ってない思念が届くがまぁ良い、強くなる為には様々な条件がある。
今回のコイツはタカミチと腕を競い合う『良きライバル』または『越えるべき壁』になったのだろう。
タカミチ自身も私が散々こいつの実力を教えておいたからコレが本気だとは思っていないはずだ。
なんせ、本気だったのなら近接格闘ではなく、もっと凶悪な魔法を連打していただろうからな。
咸卦法など無視できるぐらいの威力の魔法の連射だ。
そんな事が出来るような奴は、この世界にも数えられる程度にしかいまい。
そういった面をコイツには叩き込んで欲しかったのだがな。
咸卦法とて無敵ではない、とな。
まぁ、格闘とはいえ咸卦法を使用した状態のタカミチにダメージを与えて昏倒させたのだから十分だろう。
『まったくだ。まぁ全てが自分の思う様に行かないのが世の常、仕方あるまい。とはいえ何も収穫が無かったわけでもない。お前の実力の一端は見えた』
そう、少なくとも近接格闘であの程度は軽く動けるという事がわかった。
今の私とやりあった時よりも、少し本気を出していると感じる程度だった。
『おぉ怖い怖い。俺なんて才能がある化け物みたいな奴らから見れば本当に雑魚だよ。なんせ、前の世界じゃ始めの頃は色んな奴に「成長の見込み無し」って言われ続けたからな。だからお手柔らかに頼みたいなぁ』
『それでもその強さを得たのだから貴様も十分化け物だろうに』
そう言って私はおもむろに奴に近付く。
「あ?何だエヴァ」
奴はあの喧嘩で疲れたようで動く気配は無い、コレはチャンスだな。いい加減奴を待つのも飽きたしな。
「何すぐに済むさ、ちょっと『献血』に付き合ってもらおうか」
「え?あ、ちょっと?」
奴も気付いたようで必死に動こうとするが甘い、貴様は既に、詰んでいる。
「う、うごけぬぇー!?」
そう、既に鋼糸でふんじばった後だからなぁ!


「なぁに痛いのは一瞬だけだ、スグによくなる…」

「ちょ、なんかすっごい良い笑顔だけどそれが怖い!?アッ─────────!」


喉越しの切れは良く、さっぱりとした味わい、それでいて香りがあり味もどこかフルーティに感じた。
それに血に篭っている魔力も中々に上質だ。
「フム…一般人やただの魔法使いどもとは違った味わいだな。
 普通ならばワインに例えるのだが、何故かお前の場合は米焼酎と言う言葉が良く似合う」
米焼酎の中でも多分、かなり良い分類に入るだろうと思いつつ、これがナギだったなら果たしてどんな味なのか……とても興味深い所だ。

「それ、褒めてるのか良く分からんから。つーか、み、水ー…せめて水をくれー。流石に干からびるぞ」
先ほどよりも精気が薄く、顔色も青く一般人であれば気絶するかショック症状を起して死んでいるか、と言った所だ。
「少々調子に乗って吸い過ぎたか…しかしそれで死ぬような貴様ではあるまい」
「いや、そうだけどさー」
そう言いながら奴は魔法で何も無い所からペットボトルを取り出し、一気飲みをし始める。
「ぶはぁー蘇るなぁ。やっぱ激しく動いた後はスポーツ飲料水だな」
渇きを満たし、更に回復を続けていく。飲めば飲むほど顔色が一気に良くなっていく。飲んでいるのは市販のスポーツ飲料だと言うのにだ。
「しかしお前のその回復速度、本当に人間か?既に人間やめているだろう、それは」
「あはは…人間の範疇だ、絶対、多分、きっと、だと良いなぁ~…」
段々と自信が無くなっていくその言葉に思わず笑いが出てしまう。
私がひとしきり笑った所でタカミチが気がついたようだ。
「…む、ぅ…?そうか、気を失っていたか」
「よぅ、気分はどうだ~青年」


Side out

「…む、ぅ…?そうか、気を失っていたか」
「よぅ、気分はどうだ~青年」
気絶していた青年に俺は軽い気分で声をかける。
「!」
青年は一瞬で戦闘態勢を取るが。
「やめんかバカたれテストはもう終わっている」
と、エヴァに頭を叩かれて構えを解く。
「さて、石動。お前のタカミチと戦った感想を聞きたいのだが?」
「感想か…強いて言うならまだまだ伸びそうな良い原石だな。正直、非才の身としては羨ましい限りだ。
 戦闘に関してだがスタイルとしてはほぼ完成していると見て良いと思う。ただぶっちゃければまだまだフェイントとか少ない感じだよね。雑魚を相手にするならそれでも良いけど、俺やエヴァみたいなそれなり以上…というかぶっちゃけ強い相手?それを相手にするにはまだまだ技巧が足りないな。もう少し上手かったら正直俺も防ぎきれ無かったな。初見で戸惑ったってのもあるけど、そんなのは言い訳にもならんか。まぁそんな感じで。
 後はあの魔貫光殺砲だっけ?」
「咸卦法だ。カンとホウしかあってないし長すぎだぞ」
俺の言葉にエヴァがすぐに訂正の手を入れる。
「まぁ、気にするな。ま、とにかくそれの出力を如何に高めるか。それと発動のロスタイムと継続時間の延長、更にスタミナを今以上に高める。コレが重要じゃね?そのぐらいして置けば並大抵の魔王じゃ勝ち目が無いね」
「魔王……あぁ、侵魔の事か?」
「そ、エミュレイターの魔王のことです。下位魔王なら現状でも倒せるけど、それ以上の実力になると途端に厳しくなるんじゃない?奴ら階位が一つ上がる度に段違いの強さを発揮するしね。まぁその辺りの事は俺が言うまでもないか」
なんせ、この麻帆良には毎日の様にエミュレイター、或いは麻帆良を落とそうとする魔術師達が襲撃をかけているのだから。
もっとも、基本スペックの高い麻帆良の警備員達が悉く撃退しているのは言うまでもない。
流石は組織の拠点と言った所である。拠点防衛戦闘には一日以上の長がある。
「さて、用も済んだ。私は帰るぞ」
「それじゃあ僕もそろそろ行くか。石動君、また機会があれば手合わせを頼むよ」
「あぁわかった。若者に胸を貸すのは先達の役目だからな。また会おう、タカミチ」
「? あぁ、それじゃあ、また」
俺の言葉に何故か首をかしげてタカミチはエヴァと共に去って行った。
「さて、俺も帰るか」


この後、先ほどのバトルのせいで家に帰り着いたのが既に深夜であり、エクリアさんがキッチリと戸締りをしてしまい俺は鍵(運の悪い事にキーピックは四次元にしまってなかった)も持たずに家を出たので野外で寝る事となった。


翌週


「さて桜、準備は良いか?」
「うん、ばっちりエクリアさんに手伝ってもらったもん」
その言葉を聞きエクリアさんを見る。
「────」
ぺこりとお辞儀された。
俺も小さく頭を下げる。
「んじゃ、行くぞ桜!」
「はいっ!」
俺達の努力がテストに打ち勝つと信じて!


























「まぁ、殆どデキレースなんじゃがの」
と、学園長が呟いていたのを俺や桜達は知る由もなかった。

────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※石動と桜のコネクションが義兄妹に変化しました!
※石動にコネクション:タカミチ(ライバル?)、エヴァンジェリン(友人?)ができました。
※エクリアと桜にもコネクション:エヴァンジェリン(友人)ができました。

※石動と桜はミッションの達成により麻帆良学園の学生になりました!

────────────────────────────────────────



※ 石動のカルマ事情
 この世界にやってきた時点でのカルマは+40の状態でしたが、マキリ潰しの際に鶴夜殺害のみならず隣家にも被害が出たのでイルヴァの時よりも大きくカルマをマイナスされました。日本では罰則が強いのです。
 それ以前までは奇跡的にカルマをマイナスされる事はありませんでした。

 そして本人は意識から除外していまが、一応は一般人だった間桐鶴野を殺害してるのでカルマが下がってます。
 現カルマ:+5

 なお間桐邸の件はガス爆発事件として世間一般では処理され、運良く海外に出ていた慎二は生存し、
 唯一の親族である雁夜の被保護者となり拠点も冬木の隣の街に変わりました。仲は余り良くないみたいです。
 慎二の母方の親族は不明です。確定事項としてこの世界ではこの時点で母親は既に死亡しています。それだけです。

 追伸
 石動はペットに時間をかけるのを面倒くさ…もとい、そんな物にかける時間は無いと断じて、ペット合成などの倫理観を疑うようなことはやっていません。なので、遺伝子学に限っては書物とギルドトレーナーから受けた授業の知識のみです。
 窃盗スキルに関しては大いに有効活用していた、とだけ言います。しかも徹底して薬や魔法を多用してからのチキンプレイなのでばれた事は一度もないとか。

※ 詠唱
オリジナル設定です。Elonaでは詠唱と言う技能はありますが、どんな詠唱が行われているかは全くの不明です。
石動は「ノリ」と言っていますが、実際にはイルヴァの神々と魔法を関連付けたりする事で(石動の気分的に)威力が若干上がっている(のかもしれない程度)

※ クスリ・霊薬
聖なる癒し手ジュアのポーションだと思ってくれれば良いかと。
絶対値回復(FF/DQ方式)ではなく、割合回復(テイルズ/SO方式)で最高位薬品なのでHP全快だと思ってくれれば納得してもらえるかなーと思いつつ。
細かい突っ込みは無粋ってもんです。

※ タカミチ・T・高畑
エヴァンジェリンの別荘で修行したので、何歳か老け込んでしまってる青年。
1992年時点ではエヴァと同級という事もあるので多分この時点で二十歳程度と思われる。(多分)
最初のうちは咸卦法と無音拳で石動を圧倒したが、途中からはただの殴り合いに成り果てる。
現状の能力は単騎でエミュレーターの下位魔王を軽くぶちのめせる程度。


※ 「成長の見込み無し」
石動のステータスの成長度合いが全て「hopeles」状態である事を示す。
これは神の化身(もどき)であり、ジョブが「観光客」であることから出てきた言葉である。
今更ですが石動の初期ステなど
筋力 5 耐久 7 器用 3 感覚 8 習得 6 意思 13 魔力 4 魅力 5
初期成長度は全てhopeless
初期技能は多少変形していて以下の具合。
格闘+2 銃器+3 投擲+4 戦術+3 交渉+3 二刀流+4 両手持ち+3 治癒+4
釣り+2 旅歩き+3
種族特性:
・不老:どれだけ時が経過しても老いる事は無く、老衰で死ぬ事もない。
・混沌の坩堝:日本人としての特性。様々な存在を良い方向に受け入れ馴染ませる事ができる。[習得+5][良質の変異]
       何でこんな風に定義されているかと言うと元ネタとしてWikipediaさんの
「日本人 - Y染色体による系統分析」を見て日本人って結構色々混ざってるのね?
       と素人ながらに思ったから。
       ソレだけが理由なので細かい突っ込みは無用。
初期フィート:
・回避に長けている[回避+2]
・あなたは幸運の持ち主だ
・あなたは速く走ることができる[速度+5]

※ デキレース
本人達には知らせていないが、学園長は元々合格させるつもりがあった。
何故なら石動兄妹は「訳アリだけど優秀な戦闘能力持ち」と「潤沢な魔力を持ち将来に見込みアリ」の二人なのでキープしておいて損は無いと思っていたから。 
仮に不合格だったとしても面接試験の時にでも無理矢理合格にしようとも思っていたとか。



[9874] 07:そうだ、京都に行こう。
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2010/10/14 18:28
無事に編入試験に合格し、桜は小学1年生に、俺は高校1年生になった。
本当ならば高校2年からだったはずなのだが。

『すまんのぅ、書類の手違いで高校1年に編入となってしもうたわい』

と、あのジジイは言いやがった。
何故にこんな目に遭わなければならないのだろうか?俺の日頃の行いが悪いと言うのだろうか?

───やったね石動!順調にこの世界の初代『下がる男』の道を歩んでるよ!

何か電波が聞こえた。とりあえず、もしも名前も忘れたアイツと遭遇する事があればウメボシ確定だ。
名前は覚えてないが雰囲気は覚えている。
馴れ馴れしくて厚かましくて、だけど憎めない奴だ。
ついでに言えばそばにいると時々悪寒がする。
理由はわからなかったが。

さて、学校に関してなんだがぶっちゃけよう……。
編入試験合格直後にゴールデンウィークが重なり、1日も通わないうちに連休になってしまうのだ。
正式な編入はゴールデンウィーク明けとなる。
ちなみに今日はゴールデンウィーク二日前だ。
「まぁ、それはそれだな。桜、エクリアさん、2人ともゴールデンウィークの間にどっか行ってみたい場所はあるか?」
「私は特に希望はございません」
「あ、それじゃあ私はここに行ってみたいです!」

そう言って桜が持ってきたチラシには『 京 都 』とでかでかと書かれていた。

俺はこのチラシに桜以外の何ものかの意思をヒシヒシと感じていた。






「……と、言うわけでおぬしに観光旅行ついでで関東魔術師協会の使者になってもらおうと思うんじゃ」
「ちょっと待て、ソレは流石に筋が通らないんじゃ?俺、関東魔術師協会に所属した覚えが…」
旅行に出る事をつげにきた俺に、学園長は用事…というか割りと無茶な事を告げる。
幾らなんでもコレを俺に頼むのは筋が通らないだろう。
隣に立つエクリアさんも目でソレは無理があると騙っている。
「ところがどっこい筋は通るんじゃなぁ。ホレこれ」
そう言って学園長が見せたのは一枚の書類だった。

『 辞令 世界魔術協会所属 執行者 石動・進 並びに 世界魔術協会所属 ロンギヌス エクリア・フェミリンス 

 本日付で関東魔術師協会への出向を命じる。
 以降は新しい辞令が出るまで 関東魔術師協会 近衛近右衛門 の 指揮下に入り ウィザードとして恥じぬ行動に期待する。
 1992年4月29日 真昼の月 アンゼロット』

詰まる所は事実上の人事異動である。

「な、なんですとぉっ!?」
「……了解しました」
断ろうとしていた俺は驚愕し、クールなエクリアさんは淡々と了承するに留まった。
驚いている俺を他所に、学園長は話を進める。
「でじゃ。流石にコチラの事情を把握していない人間だけを送るのはワシとしても心許ないでな。宇津木くん、入りたまえ」
「失礼します」
新たに部屋に入ってきたのは石動にも見覚えのある少女だった。
茶髪のロングヘアー、碧眼、そしてやや日本人離れした面持ち。
「宇津木・紫苑くんじゃ。今回のキミ達のフォローに回ってもらうこととなる。石動くんは一度面識があろう?」
なるほど、もしかして初めて会った時に彼女を俺に付けたのはこの為の布石だったのか?と、勘繰らなくもない。
「ん。お久し振り、宇津木さん」
俺は片手を上げて挨拶する。
「えぇ、お久し振りです石動さん。そちらはエクリア・フェミリンスさんですね?名高いロンギヌスのメンバーとお会いできて光栄です!」
俺への挨拶はそこそこに、エクリアさんに向き直る宇津木さん。
ロンギヌスは実力者揃いだしなぁ…知る人ぞ知る名高い戦士ってか?
まぁ名高いと言っても、ロンギヌスのメンバーで今現在……少なくともここで面が割れてるのはエクリアぐらいなモノだろう。

……もっとも、今現在は「学園長元に行く=仕事で動いている」…と言う事らしく仮面を付けっぱなしだが。
それを言ったら、俺と一緒にいるのも仕事じゃないのか?と突っ込みたいが薮蛇になりそうだから辞めておこう。
幾ら美人でも四六時中仮面をつけた人が傍にいるのは正直イヤだ。

「ヤ、ヤッパリロンギヌスのメンバーの方は不思議とオーラが漂っている感じがありますね」
そのオーラの原因はやっぱり仮面だろうか?
宇津木さんは何だかそわそわした感じでエクリアさんに話しかける。
「あの、なんとお呼びすればいいですか?」
「そうですね……では、エクリアとお呼びください。シオン様」
そういえば、エクリアさんはメイドでもあるから基本的に人の事を様付けで呼ぶんだよね。
様付けで呼ばれた宇津木さんはエクリアさんの返答に「あ~」とか「う~」と唸った後にきまりの悪い顔をして。
「あ、その……目上の人に「様」って呼ばれるのなんだか居心地悪いですエクリアさん。出来れば、シオンって呼び捨てでお願いできませんか?勿論、石動さんもですよ!」
気負う事無くそう言ってのける宇津木さん…もといシオン。
「判りました、これからよろしくお願いします、シオンさん」
「了解、シオン。それじゃあ俺も呼びやすいように呼んでくれて良いぞ。今度から高等部に通うって事もあるし先輩…なんてのもありかもな」
「フフ、改めてお願いします。エクリアさん、石動先輩!」
俺達の遣り取りを見ていた学園長は。
「いやぁ若者同士は仲が良くなるのが早くて良いのぅ」



その後、軽く今回の使者としての任務を打ち合わせる。
先ず今回の主な任務は関西呪術協会の長に新書を渡す事にある。
何故そんな事をする必要があるかというと、数年前までさかのぼる必要がある。
ソレは魔法世界で起こった「大分烈戦争」と言うモノが影響するらしい。
それ以外にも、日本において西洋の魔法使いが大きい顔をするのが許せない!という輩が多いことにも影響するらしい。
特に仲が険悪なのが関西呪術協会なのだそうだ。

まぁ、それはともかく。

一段落した所で学園長が咳払いして話を元に戻される。
「今回お主達に頼みたいのは、京都のとある場所に居るワシの知り合いの魔法使いに伝言を頼みたいのじゃよ。
 本当ならワシや魔法教師の誰かが行きたい所なのじゃが……ここ数年、此方も向こうも様々な怪異に襲われ続けておって中々手が空かないのが現状じゃ。
 そこで、降って沸いたピンチヒッターであり、それなり以上の実力者でもある石動君に動いて貰おうと言うわけじゃよ」
「ふぅん?まぁそっちの都合はわかったよ。
 んで、頼みたい事ってのの詳細は?
 一応言っておくけど無茶だと判断したら絶対断るからな。
 俺も死にたくないし」
滅多な事では死ぬ事は無いけど、仮に死んだとしてイルヴァと違い日本では砕け散った人間を蘇らせる様なトンデモな魔法は存在しない…はずだ、多分。
だから、コチラで死ねばソレまでだ。
俺も向こうよりも多少は慎重にならないとまずい。
「まぁ、そこまで警戒せんでもお主が向こうの怪異に巻き込まれない限り問題はなかろうて」
「つか、その怪異って何さ?エミュレイターとかその辺?」
「あぁ、言ってなかったのう。それがな正直な所イマイチわからんのじゃよ。
 みょうちくりんな動物に襲われたと言う目撃証言や体に蛇を這わせた女の目撃証言。死体が動いている等と言う物もある。
 だがの、目撃証言がある割りに該当する動物や女性、死者が一向に見つからんのじゃよ。
 しかも見付からぬ癖に被害者が増え続けているのが厄介でなぁ…。
 まぁ、似たような事件は京都のみならず日本の各地で起こっておるんじゃがな……」
「うん…?何か引っ掛かるな」
俺は首を傾げつつ学園長を改めて見る。
知識の中のどこかにそれに関する知識があった気がするが……中途半端に思い出せない。
やだなぁ、体は若いんだけどボケが始まってる?
「……まぁ良いや、そういうのに遭遇しても俺達なら寧ろ過剰戦力ってぐらいだろう」
「そうじゃの。
 で、依頼ジャゃが簡単明快での。
 この手紙をお主等の手で直接この住所に住んでいる魔法使いに渡して欲しいんじゃ。
 渡したら直ぐに中を見るように言ってくれるとなおグッドじゃ」
「で、その渡す相手の名前は?」



「彼女は今、こう名乗っている筈じゃ。
 春野・真希(はるの・まき)とな」



土曜日の早朝、俺と桜はエクリアさんに起こされ、東京駅でシオンと合流し京都に向かう新幹線に乗り込んだ。
「おはようございます、石動さん、エクリアさんそれと…」
「麻帆良学園小等部1年B組の石動・桜です!宜しくお願いします!」
「えぇ、よろしくね桜ちゃん。私は麻帆良の女史中等部2年の宇津木・紫苑よ」
ウチに来て、更に麻帆良で暮らし始めてからとても良い勢いで明るく元気になっていく桜。
正直、Fateの時の性格の面影全く無いね。まぁ、名字からして既に別なんだし気にしてもしょうがない。
何となく、健気でややきょぬーなヤンデレ属性?って印象があった様な無かった様な。
気にするだけ無駄ってもんだよね。

電車に乗り始めて1時間くらいした頃。
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「ん~、なんだぁ桜?」
ぼーっとうつらうつらと外の景色を眺めている所を桜に話しかけられて意識が覚醒に向かっていく。

「お兄ちゃんのほんめーってだぁれ?」

「ぶはっ!?な、なんだそりゃ!?」
一瞬で目が覚めた。
「んとね。この間エヴァちゃんがね、言ってたの。

『あー言ういい加減な奴には恋人は愚か本命も居ないに違いない!
 私が言うんだから間違いない!』
 だって。

 恋人はわかるんだけど、ほんめーってよくわかんない。
 多分似たような意味かなぁって思うけど…」
俺は多少ウンザリしながらも桜の疑問に答える事にした。
「本命ってのは、例えば一番大好きな人だったりする場合や、賭け事…競馬とかで一番勝つ確立の高い馬の事とかを指して言うんだ。
 にしてもエヴァの奴、本当に良く人を見ているよ。
 大当たりだ……。
 今までが忙し過ぎて恋とかなんとか脇目を振る余裕も無かったよ」
依頼を受けて各地を巡り、盗賊倒してうっはうは、ダンジョン潜ってお宝と魔導書を探して…を繰り返すような生活だったしな。
どうしてもって時はその道のお嬢さん達にお世話になったし。
「へぇ、そうなんですか?意外ですね」
話を聞いていたシオンがそう声を上げる。
「そんなに意外か?」
「えぇ、石動先輩ってなんかこう時々人を惹きつける魅力…多分カリスマって奴ですね、それを感じるんです。だから恋人居るんじゃないかなーって思ってました」
「おいおい、お世辞でもあからさまなのは勘弁してくれよ。
 俺の恋人になるなんて言う物好きは早々居ないだろう」
言いながら苦笑する。
俺にカリスマ(笑)とかありえないだろう。
俺の言葉を聞いて一瞬、シオンが目の前の金髪さんを見たが俺はそれを気にしないことにする。
きっと変な想像をしてただけだろうから、と思って。

※ 本人は気付いていませんが、魅力が関係する交渉・投資・楽器演奏スキルが異様に高く、変異フィートで声も良い為、理不尽な魅力の高さを持ちます。それでも本人がコレなので有効活用は出来ていない模様。普通の人(エキストラ)が相手なら適当なことを言っても口説き落とせるぐらい魅力があります。Fateのステータス的にはカリスマDぐらいで一部隊(大体15人程度)を率いるのに相応しい能力。ただし、本人が人を率いる気が無いので今の所は死にスキル。

苦笑する石動を見て
「そうでしょうか……私の恩師でもあるジョンおじさんと同じ空気を感じるんですけど……」
「ジョンおじさん?」
「あ、ジョンおじさんって言うのは私の両親の上司で、南アフリカに拠点を持つ傭兵会社の社長さんで司令官なんです。
 戦士として一流の技術をもち、敵であった人を味方にする度量を持つ、凄いおじさんです。
 かつては英雄って呼ばれたらしくて、過去に2度も核ミサイルの発射を阻止したらしいですよ。
 もっとも、公には発表されませんでしたけど…。
 そうそう私の武器の扱いのほぼ全てはジョンおじさん直伝なんですよ!刃物の扱いやCQCはジョンおじさんの部下のフランクさん直伝ですけど」
「ジョンおじさん、なんか凄いな……」
今思い出したけど、まるでMGS3のスネーク……いや、ビッグボスだな。
って事はさっき言ってた南アフリカの拠点って……『OUTER HEVEN』か?
それに、両親が部下って事は宇津木の両親は『OUTER HEVEN』の関係者…?
つか、良く考えるとシオンって実はすごく強い?

───っていうか、ゼノサーガのシオンとかけ離れすぎだよね!ウチのお姉ちゃん。

電波、お前は変なところで突っ込みを入れるな。
てかゼノサーガって何だっけ?聞き覚えはあるんだけどなぁ。
思考が多少脱線しつつも、軌道修正を行って話を進める。
「機会が有れば是非ともそのジョンおじさんにあって話をしてみたいな」
「それじゃあ、機会があれば誘いますね♪ ジョンおじさん、偶に部下の人達と一緒に日本に着てウチ…私の実家に寄って行ったり、秋葉原に行って電子部品を購入したりしているんで、夏休み頃にでも会おうと思えば会えますよ」
昔に聞いた覚えがあったが、秋葉原って本当にその手の人が来るんだねぇ。
俺が居た時代でも秋葉原も電気街って呼ばれてたけど、俺が初めて行った時には既に『萌の最先端』を走る街だったな、あそこ。
この世界でもそうなってしまうんだろうか?
でもこの世界だと、下手に二次元萌文化に走るよりもアイドルの方が人気でそうだよな……矢鱈滅多に美男美女が多いし。
居なくても出てくるだろう、これからイッパイ。

少なくとも、1990年を皮切りにイッパイ生まれてる筈だ……能力者の候補者がなっ!

やばい思考が脱線し過ぎた。
「そういえば、シオンの両親は何をしている人なんだ?親の上司は南アフリカの傭兵会社の社長だって言ってたけど…」
「あ、そうでしたね。私の父は日本支店…日本で傭兵は出来ないんで警備なんですけど、警備派遣会社の日本支社の社長なんです。
 警備の他にも護身用の道具とかの開発もしているんですよ。
 私も時々護身道具の開発を手伝っているんです」
まぁ日本人はなんだかんだで結構金持ちだしな、市場拡大を狙うなら日本を選ぶのもありだな。
それにしても、この娘13歳だろう?なのに大人に混じって働いてるのか?
「へぇ、凄いな。手伝うって言うのはテスターとして?」
「いえ、設計開発としてですよ。メインはファームウェア開発ですね。他にも普通に戦えますし、シギントでも活躍できますよ」
シギント…シグナルインテリジェンスの略で主に電子情報における諜報活動を示し、現代における情報戦の軸とも言える存在だ。
情報化社会として動き始めた現代では既になくてはなら無い存在、だろう。
「マジですか」
「マジです。
 こう見えても結構多才ですよ。
 会話だって日常レベルのものならば日本語と英語は当然としてロシア語やドイツ語、中国語もイケます」
えへん、とシオンが慎ましい胸を張る。
確かに中学2年生でコレとなると結構…いや、かなり多才である。
今の俺なら学べば確実に身に付くだろうけど、中二の頃の俺じゃ絶対に無理、真似できない。
コレが『才能』って奴なんだろうなぁ。
本当に才能があるやつ、特に才能を使いこなせる奴は怖い。
そして、更に努力できる奴はもっと怖い。
そして更に怖いのは原作主人公補正持ちの奴等だよね、成長率が半端ないし。
「わぁ、シオンさんすごぉい!」
「その年齢でそこまでできるのは才能の一言では済みませんね」
「んだな、シオンと同じ年代でそこまで出来る奴ってのは世界でもそう何人も居ないだろうな……」
多分、と心の中だけで付けたした。
何せこの世界は様々な物語がごちゃ混ぜになった世界だ。
同じような事が出来る人間が他にいてもおかしくない。
そして、同様に俺と同じような時空の放浪者が居てもおかしくはない。

特に、名前を忘れた俺のダチとかな。

あ、そろそろ京都に着きそうだ。

────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※石動・エクリア・桜の3人にコネクション:宇津木・紫苑(友人)ができました。
※石動に『鋼鉄の歯車・英雄との出会い』フラグが立ちました。

────────────────────────────────────────



───その頃の宇津木・愛美(元 沢崎・浩太)
「むむっ、今誰かに呼ばれた気がする!」
「愛美ちゃん、急にどーしたの?また電波?さっきも何か言ってたよね?」
「ジョニー、細かいことは気にしちゃダメだよ。乙女は秘密がいっぱいなんだから!」

「……(乙女って柄じゃないよなー……どっちかというと電波系だよ)」



[9874] 08:魔法使いの”英雄” VS 転”世”者
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2010/10/19 00:10
新幹線での長時間の移動を終え、ようやく京都に着いた一行。
駅から出て直ぐでは京の町並みを堪能するのは難しいが、それでも独特の気配を感じ取る事が出来る。
それが歴史を思わせるものであったり……なにか妙な物の気配であったり、だ。

「此処が京都ですか……なるほど、退屈はしそうにありませんね」

と、一人エクリアがシリアスをしていたが。

「あ、あれ京都タワーだよね!」
「おぉー、アレが京都タワーか!……そのうちゴジラにぶっ壊されれんだよな、たしか」
「ちょっと写真に撮ってみましょうかっ!」

桜を筆頭に石動、シオンの三人は完全に観光気分だった。
それを見て頭痛を感じるエクリア。

(シオンさんは、まぁ良いとしましょう。ですが進さま、貴方はせめてもう少しシリアスして下さい。
 貴方だってこの異様な気配には気付いているでしょうにっ!)

勿論、石動も気配そのものには気付いている。
だが一行はこの気配を探る仕事で来た訳ではない。
それに、積極的に動くわけにも行かないのだ。
京都は石動達が所属する関東魔法協会の縄張りではなく、関西呪術協会の縄張りだからだ。
それに、一般人(桜)も居るので下手に戦うわけにも行かないと言う理由もある。

「それじゃ、やる事とっととやっちまおう!」

この場に居ると何故か面倒に巻き込まれる。
そう直感した石動の発言によりとっととタクシーに乗って移動する事となった。

「おや、兄さん別嬪さんに囲まれて旅行かい?羨ましいねぇ!」
「旅行もあるけど、人に会いに来たんすよ。このメモに書いてある住所までお願いできますか?」
「あぁ、ここね。そういや4年前に郊外に出来た家ってのが此処だったかねぇ」
「おや、有名なんすか?」

石動の問いかけに親父さんは「あぁ」と頷いてから。

「此処だけの話ね、あそこには余り係わり合いにならん方が良いよ。
 この辺りを縄張りにしているヤの付く自由業の人が良く出入りしているって話だからねぇ」
「うげげ、マジですか?」

厄介な事になりそうだ、と呻く石動に親父さんは笑って宥めかける。

「ははは、脅かしちまったねぇ。まぁあくまでも噂だよ噂!そこまでびびる必要はねぇですよ」
「そうですよ、石動先輩やエクリアさんの腕ならそこいらのヤの付く自由業の人たちなんて指先一つでダウンですよ!」
「いや、それ実際にできるけど頭がぱぁ~ん!と破裂するぞ、マジで……なんてな!」

最後にオチをつけることで冗談めかせたが、石動が言ってる事は割と本当だった。
本人は強くなる過程ではそこまで意識していなかったが、改めて振り返ると実力が既に通常の人間から大きく逸脱している。

「(………アレ?俺、北斗神拳(偽)とか使えるようになってたりするのか、そういえば。
  ……………俺、本当に人間やめてるなぁorz)」

なんて感じで凹んでいたりするのだ。



それから数十分タクシーで京都の街を進んでいくと、郊外のとある屋敷の前で停車した。
その屋敷は和風部分も多いが所々で洋風っぽさも見て取れる。

「なんというか、落ち着きのない家だなぁ」
「下手に混ぜるよりは、別棟で建てた方が良いと思えますね」

そう言ったのは石動とエクリアの2人だ。
シオンと桜はと言うと。

「なんだか、テーマパークみたいですね。中がどういう風になってるのか楽しみです」
「面白そうだよね!」

そういう見方もあるか、と石動とエクリアは思いつつ、エクリアが門の横に付いていた呼び鈴を鳴らした。

『はーい、どなた?』

家人からの声に最初に反応した石動が応える。

「麻帆良学園からきた石動と言います。春野・真紀さん宛に近衛近衛門からお手紙を預かっています」
『はいはーい、直ぐに行くわ』

その言葉の直後、とんでもない勢いで目の前の門の所まで何者かの気配がやってきた。
気配の移動速度は、例えるのならばDQのはぐれメタル、スクライドのクーガー、Elonaのルルウィってなもんである。
次の瞬間、ギギィ……という音を上げて門が開いた。

「はぁい、ようこそ石動君♪私が春野・真紀よ。近衛さんから話は聞いてるわよ~」

声の主は見た目年齢二十歳程度の間違っても日本人には見えない赤毛の外国人だった。

「……日本人?」

声に出して疑問を直接言ったのは桜だった。

「今は日本人よ。ほんの数年前まではイギリス人やってたわ」
「驚くぐらい流暢な日本語だな……相当練習したんで?」

桜の次に石動が問いかける。

「そうねぇ、日本語は少し練習した程度よ」

真紀はそう言って笑いかける。

「さ、何時までも此処に立っていてもしょうがないわよ。中に入りましょ?」
そういうと真紀は颯爽と屋敷の中に戻っていった。


一行は屋敷に入って少し歩いた所にある「応接室」と達筆で表札が掲げられた部屋に通された。
応接室は若干散らかっており、一角に本の山があり、その上にデカイ布切れが被さっていた。
それを除けば応接室は普通のソファーとテーブルがあるただの応接室だ。

「さて、それじゃあ先ずはこっちの仕事を完了させてもらいますわ」

そう言って石動は封筒を四次元から取り出し、真紀に渡す。

「学園長にはその場で読むように、と言われてますので、内容をこの場で確認してください」
「ふぅん、まぁ良いわ」

そういって真紀は封筒の封を切り、中から取り出した3枚の手紙を読み始める。

「ありゃ、あぁあぁなるほどね。まったく、だから電話で全部言わなかったのかあの人は。
 それと、あぁコッチは兄貴の方の問題じゃない。全く、兄貴ドワスレしてるわね、これは絶対に…。
 あ、石動君。キミ宛の分もあるから、はい」

そう言って真紀が手紙の一枚を渡す。

「俺に?」

疑問符を浮かべながらも手紙を受け取り内容を改める。

『石動君へ
 この手紙を読んでいるという事は、マキと無事に出会えたという事じゃと思っておる。
 さて、キミに新しい依頼じゃ。
 何、する事は簡単じゃ。
 春野・真紀ことマキ・スプリングフィールド、或いはその屋敷に居るマキの兄、ナギ・スプリングフィールドと模擬戦を行うこと』

石動はこの手紙を読んだあと、数秒停止し、その後手紙と真紀ことマキへと視線を行き来させ…。

「な、なんだってー!」

絶叫した。
その絶叫に反応して、本の山に被さっていた布切れが動いた。

「「「「!?」」」」

驚きの表情を表す石動たち。
そして布切れが立ち上がった。

「ったく、ウルセーな。人が寝てんだから静かにしろよ」

起き上がった布切れは赤髪のイケメン青年だった。
その青年の名前は…。

「何言ってんのよナギ兄ぃ。応接室で寝るなって何時も言ってるじゃない」

そう、その青年の名前はナギ・スプリングフィールド。
英雄と呼ばれる男である。

「良いじゃねぇかよ。別に減るわけで無し」
「片づけをする私の自由時間が減るじゃない!」
「っち、わぁったわぁった、今度からちゃんとするって」

その光景を見て、まるで子供と母親の遣り取りだな…なんて石動は思った。

「それじゃナギ兄ぃ近衛さんからの手紙ちゃんと読んでおいてよね。私は準備があるから少し引っ込んでるから」

そう言ってマキはとっとと応接室を出て行った。

「え?あぁ判った……ん?」

ナギは改めて周囲を見渡し、見知らぬ4人組が居る事にようやく気づいた。

「誰だ、お前ら?」
「気付くのおそっ!?」

その後、ナギと4人が自己紹介をしあう。
その際に桜が「魔法使い」と言う単語を耳にしてしまい怯えてしまうが…。

「桜、世の中には良い奴と悪い奴とどっちとも取れない奴らが居る。
 魔法使いだってそうだ。
 お前をいじめようとした間桐の奴らは俺判定で『悪い奴ら』だ。桜にとってもそうだろ?」

その言葉に桜は無言で頷く。

「さて、それじゃあ俺はどうだ?一応、俺も分類的にゃ魔法使い…と、言えない事もない」
「お兄ちゃんは『悪い魔法使い』じゃないよ!桜の事助けてくれたもん!」

石動の言葉に桜は即座にそう言って返す。

「ありがとうな。
 まあ、俺が言いたかったのは『魔法使い』も悪い奴らばかりって訳じゃないって事だ。
 魔法使いも以外にも、悪い奴も居れば良い奴も居る。
 それだけは絶対に忘れるなよ」
「うん…」

話がひと段落したところで手紙を読み終えたナギが話しかけてきた。

「大体のそっち……というかじーさんの依頼は判ったぜ。お前の実力を測るのと後はエヴァに掛けた術をどうにかする…か。
 やれやれ、コッチも忙しいんだけどな……まぁ、約束だったんだし仕方ねぇか」

ナギはそう言って肩を竦める。

「それって、エヴァちゃんが学園から出れない呪いのこと?」

意外な事にナギの言葉に反応したのは桜だった。
実は石動達に見えていない所で桜はご近所さんでもあり、見た目年齢の近いエヴァに意外となついていたのだ。
なので、2人の関係はご近所のお姉ちゃん、近所に住む妙になついてくる子供といった認識で、傍から見ると中のいいお友達、といった所だったとか。

「あぁ、本当なら2年前だったかな?それぐらいになんとかしてやる予定だったんだがすっかり忘れてた」
「アンタ、中々酷いやつだなぁ」

石動は思わず半眼になって突っ込みを入れる。

「って、そういえばさっきから黙ってるけど、どうしたんだシオン」

そう言って石動はシオンに話を振った。

「え!?あ、いやだってあの『ナギ・スプリングフィールド』が目の前に居るんですよ!?」
「いや、それが一体どうしたってのさ」

石動は本当に『理解できない』と言わんばかりに肩を竦める。

「えぇ!?だって魔法世界では『若き英雄』として名を馳せ、こっちでも世界魔術師協会に一度は完全に敵対し手世界中を敵にしたのに最後は結局は世界を救って見せてこちらでも『英雄』として祭り上げられてる凄い人なんですよ!?」
「へぇー、確かに凄いな。
あぁ、ついでに俺の直感だとこの世界、表向きで21世紀まであと3~4回は軽く世界滅亡の危機に陥るぞ。
 21世紀になってからはコチラ側向けの世界滅亡の危機が年に何回も置きかねないからな」

うろ覚えだが、この世界ならあながち間違いではない。

「おいおい、マジかよ」

うげぇって顔をしているナギ。
それに対して石動は淡々と口を動かす。

「勘だけどね、10年以内にWW3の可能性だって無きにしも非ずさね。
 ASとレイバーなんて『如何にも』なモノまであるんだぞ?
 どこかのトチ狂ったバカが本当にバカな事を始めるとしたら、大体そのぐらいの時期が相応だってこと。
 TVニュースじゃ石油危機もしょっちゅう声高に叫ばれてるしね……資源独占を狙う奴らだって出るだろうさ」

それを肯定するようにシオンも口を開く。

「そうですね……ソ連と米国の冷戦も未だに続き中東も騒がしいまま。中国や韓国の国内も同様。
 そ知らぬ顔を出来ているのは極一部の国…それこそ日本ぐらいなものですね」

日本はWW2においての敗戦により国連…もっと具体的には米国の影響下にある。
そして同時に『戦争を放棄した国』と言う状態を維持しているからこそ経済と技術に特化した国としての地位を築いてこられたのだ。
だからこそ、外国人の出入りは比較的に自由であり、日本警察や自衛隊がそれなり以上の優秀さを誇るからこそ治安レベルも相当に高い。
もっとも同時に外国のマフィア達も『日本においては戦闘行動を自粛する』と言う暗黙のルールもあってこそだ、と言うのはここに居るメンバーではナギとエクリアそしてシオンの3人しか知らない事だ。

「後は、コチラ側の件だけど……世界結界に関する知識は持っているか?」
「俺は勿論だ」
「あ、私はその……すいません」

ナギは知っていて当然と言う表情で答えるが、シオンは申し訳無さそうな表情で答える。

「それでは、私から簡単に説明致しましょう」

エクリアがシオンに対して簡単な説明を始める。
一つ、世界結界とは常識と超常の力を隔てる結界である。その効果は程度にも寄るが一般人に対して超常の力を別の何かと摩り替えて認識させる効果がある。
二つ、世界結界は異形の魔物たちの出現を抑制し、同時にが異世界からの侵入者を防ぐファイアーウォールの様な物である。
三つ、それらは人々の『常識』により成り立ち、常識を侵す存在を多く認識される事で結界は破られてしまう。
四つ、世界の防衛機構を生み出す、或いは呼び出す能力。

「世界の防衛機構…ですか?」
「はい。これに関して確定的な情報は我々も掴んでいる訳では有りません。
 あくまで状況の重なり具合からそうである、と推測しているに過ぎないのですが…。 
 世界は時に『障害』に対を為す『対存在』……続に言うヒーロー、勇者、救世主、等の物語の主人公としか思えないような存在を生み出すのです」
「そう……なんですか?」
「推測の範囲を出ませんが、世界魔術師協会はその様な認識も持っています」

エクリアは言葉には出さなかったが、嘗て現れた『造物主』を名乗ったエミュレイターの魔王の対存在にナギ・スプリングフィールド。
そして自分の隣に居る石動・進もまた何がしかの対存在であるのでは?と考えていた。

「さて、そんな世界結界だが年々弱体化しているね…麻帆良にエミュレイターからの進行が多くなったのが良い例だ。
 この事態はまだ表沙汰にされちゃいないが、間違いないだろうな……学園長も時々愚痴ってたし。
 切欠は1986年に起きた天使の喇叭事件っていう事件が影響しているそうだよ。
 んで、俺の勘では21世紀の頭が最大の転換期だと見ているよ」

彼の『勘』の根拠は殆ど記憶が薄れてしまった所謂『原作知識』と言う奴だ。
それ以外にも警備員として多少働き、周囲と情報交換を行い、学園長から愚痴られる事がある事でこの様に情報を得る事が出来たのだ。

「転換期か……どうなっちまうんだろうな、世界は」
「さぁ?なる様にしかならないっしょ。
 どうにかならない様に俺達みたいなのがいる訳だしな」

その為に人知れず夜闇に舞う魔法使い…ナイトウィザードだ。
"魔法使いの英雄"ナギ・スプリングフィールドは勿論、"転世者"として石動もまたその一人として認められつつある。


石動達がそんな話をしていると、準備をする為に席を外していたマキが戻ってきて、準備が完了した事を告げる。
戻ってきたマキが持っていたのはガラス玉の様な物だった。





古代ローマのコロッセウムを思わせる武舞台にて、ナギと石動の2人は立っていた。
観客席には女性陣が固唾を飲んで2人の様子を眺めている。

「さて、簡単なルール説明だ。どちらかが気絶するか戦闘不能になったら負け。いいな?」
「OK、OK。今回は最初から全力でやらせてもらうぜ」
2人は互いに戦闘態勢を整える。
ナギは無手格闘だが、その手…否、全身に膨大な魔力を纏い、得意属性であるのか雷が迸っている。
一方の石動は無骨な鉄板の様な剣を逆手に握り、全身に魔力を纏った上でとてつもない熱気を放っている。
「(なんだか、どこかで見そうな構図だよな。炎と雷のぶつかり合いなんてさっ!)」
「(見た目はガキだけど実力は結構ありそうだな!最初から飛ばすぜ!)」

HEVEN or HELL

「覚悟は出来てるか?」
「先に言っておくが、俺はパーフェクトだぜ?」

DUEL

「「いくぞっ!」」


Let's Rock



「小手調べだ!」

先手を打ったのは石動だ。
ナギが動こうとする前に「鈍足」の魔法で相手の行動を鈍らせようとする。

「無駄ぁっ!」

パァンッ!と何も無い所で魔力がはじける。
魔法がレジストされたのだが、2人の篭めた魔力が強力であったが故に大きな物音を耐えて弾けたのだ。

「雷の魔法の射手、連弾45矢!」

ナギも小手調べだと言わんばかりに雷属性の魔法の矢を様々な軌道を描かせて石動に殺到させる。
石動はそれをあわてる事無く睨み付け───。

「魔法の矢・フルオート!」

手を掲げてそれらを全てをナギの魔法の射手よりも弾速が鬼の様に早い魔法の矢で迎撃する。
しかし、そこで出来た隙を逃さないナギではない。
瞬動で一気にクロスレンジまで距離を詰め、魔力を篭めた右の拳で全力の一撃を振舞う。

「っ!?」

それに気付く事はできても反応しきれず、石動はボディに鋭い一撃を受け吹き飛ばされる。
だが吹き飛ばされるついでに手榴弾をその場に置き去りにし、ナギを爆発に巻き込ませる。
勿論、魔力で防御力が上昇しているナギはこの程度では倒れない。

「ちっ、やっぱり見た目以上に戦い慣れてやがるな!」
「アンタも、英雄ってのは伊達じゃないな!」

言いながらもお互いに魔法を放つ。
ナギは白き雷を放ち、石動はそれを元素の加護を使用し防ぐ。
反撃とばかりに石動もファイアボルトを連射してナギに攻撃を行うが、瞬動と虚空瞬動を巧みに使用され全て回避される。

現状では最初の一撃のダメージそのものは石動が大きいが、両者共に大したダメージではない。
そして二人はこの相手と戦うに至って最善の方法を見つけ出す。

「(ちっ、瞬動術って奴か……間合いを詰めるのが速すぎて対処がし辛い!)」
「(アイツ、かなり打たれ強いな……手応えはあったのにあんな平気な顔しやがって。ラカン並み…は言いすぎだろうがかなりタフじゃねぇの?)」
「(やりあうならクロスレンジで……離れられたら追いつけない!)」
「(なら、遠距離でチマチマやんのはダメだな)」

「「徹底的にボコッてやんよ!!」」

烈迫の気合と共に2人は宣言し、石動はショートテレポートで相手の移動予測地点へ、ナギは直感に従って瞬動で移動してお互いの拳を振るう。

「燃えろぉっ!」
「ぶっ飛びやがれ!」

炎を纏った右ストレートと雷を纏った右ストレートがお互いの拳に衝突する。
衝突は同時に強い魔力の嵐を吹き起こし、二人にわずかな距離を作らせる。

「おぉっ!!」

石動が間髪の間をおかずに咆哮と共に剣を地面に激突させると火柱が巻き起こりナギに迫るが。

「邪魔癖えっ!」

その一言と共に腕を振るうと至近距離で雷が放たれ、噴出した炎を打ち消す。
その直後に先手を取ったのは石動だ。
炎を纏った足で浴びせ蹴りを放ってきたのだ。

「おぉっらっ!」
「甘ぇっ!」

それに対してナギが行ったのは愚直にもジャンピングアッパーだ。
しかし、ただ放ったわけではない、相手の軌道を見切った上での攻撃だ。

「ぬぁぁあ!」
「もういっちょう!」

飛び上がり、攻撃があたったときには既にナギは次の攻撃準備を終えていた。
空いた手で今度は拳を打ち下ろす。

既にダメージを受けて態勢を崩した石動には防御は不可能だった。

「これでも喰らって置け!」
「ぐぁっ!?」

石動は打ち下ろされた拳の一撃で地面に叩きつけられるも、即座に立ち上がりナギに迫る。
着地した瞬間でまだ態勢が整わない内に距離が詰められ、炎に包まれた手で頭を掴みぶっきらぼうに叩きつけるように地面にぶん投げる。

「おらっ!」
「ぐぁ!?」

ナギは受身も取れずにぶん投げられ、地面をバウンドし、何とか立ち上がるもその隙に石動は距離をつめて全力で斬り付け。
更に態勢が崩された所で石動は更に下段から全力で斬り付ける。

「ぐぅっ!!」

類稀な魔力を惜しげもなく使用した防御により、肉体的損傷こそ無い物の完全にペースを乱されるナギ。

「(くそっ、予想以上に頑丈な!一気に決めるしかっ!)」
「(ちぃっ!コイツ普通に強ぇーな!!)」

劣勢に追い詰められつつあるように見えるが、その反面でナギの闘志という名のギアが更に上昇していく。
同時に石動の魔力が更に高まり、腕に纏う炎が更に強まる。

「こいつでっ!」

若干よろけた状態のナギの脇腹に石動のショートアッパーが決まり。
それで下がった頭に向けて超高熱を纏った拳の一撃が叩き込まれる。

「もらったぁっっ!!」

拳がナギの顔面に突き刺さるのと同時に爆炎が巻き起こる。
同時に吹き飛ばされるナギ。
普通ならばこれで勝ち……どころか明らかなオーバーキルだ。
先ほどの爆発そのものにはファイアーボール以上の威力が篭められた攻撃だ。
まともに当てれば戦車の装甲だってぶち抜き吹き飛ばすような一撃だ。
至近距離で受ければ大抵の敵はこれでお陀仏だっただろう。
だがしかし、相手はナギ・スプリングフィールド……現時点での人類最強を謳われる男だ。

「はっ、良い技だったぜ?キツイ目覚ましだがお陰でギアが入ってきたぜ!」
「ちっ、アレだけ受けて立ち上がるのかっ!」

それなりのダメージ痕を窺わせるが、その目に宿る闘志は此処からが本番であると物語っていた。

「次は俺の番だっ!」

その宣言と共にナギは今まで以上の速度で虚空瞬動を用いて石動との間合いを詰める。

「──くっ!?」
「見えてんだよっ!先ずはコイツだぁっ!」

飛び上がったまま腕に紫電を纏い、それがビームサーベルを思わせるような輝きを纏いながら石動を焼き切らんとする。
この時点で石動はナギの動きに反応し切れなかった。
辛うじて防ごうとするも、本気になったナギの動きは石動が捉えられる速度を僅かに上回り、防御を抜いて攻撃を仕掛けた。

「がぁっ!?」

紫電の一撃のあと、ナギは即座に紫電を纏った拳でジャブを放ち、石動の体が若干折れた所で紫電を纏ったままの腕で顔面狙いのストレート。
更にふらついた所でジャンピングアッパーを繰り出し石動を宙に浮かせる。
自らの足が地面に付いた所で落ちてきた石動をショートジャブで更に浮かせ、高まりきった魔力を開放し最大の一撃を見舞う!

「これで───終わりだぁっ!」

魔力を最大まで高め、その全てを雷に変換し全身に雷を纏い、自らを弾丸にした瞬動込みの連続体当たり。
言葉にすると単純であるが、制御は想像以上に遥かに難しく、類稀なセンスをもつなぎだからこそ使える攻撃だ。
これこそがナギにとって最大最強の攻撃である。

「ぐあぁあああああああああ!!!!」

その直撃を受けた石動は絶叫と共に何度も何度もナギに弾き飛ばさる。
電撃と強烈な打撃に何度も意識が飛びそうになるが石動はそれでも未だ耐えていた。

「(マズ、目が霞む…)」

衝突の度にナギの速度に順応しつつあったが、ソレは遅すぎると言うものだった。

「こいつでぇっ────トドメだっ!!」

ナギの放つ全力のアッパーカット。
それを防ぐ事も出来ず綺麗に決まり、天高く吹き飛ばされ、そしてコロッセウムの地面に叩きつけられる。

「ぐぅぅっ、ゲホッゲホッ!」

体の痺れ以外にも、ナギの攻撃力が高すぎて既に石動の体力は瀕死の一歩手前ぐらいの状態だ。
だが、その辺りは言わなくてもナギにも判る事なので敢えて言わない。

「それなりに良い線行ってたけど、俺にゃまだまだ敵わねーな!
 ま、『紅き翼』の仲間たちとやりあっても十分以上に渡り合えそうな実力をしてるよ、お前は」
「それは…光栄、だな」

言いながらよろよろと立ち上がる石動。
彼の肉体が持つ異常な回復力が先ほどの最後の一撃で焼き切れそうだった身体の至る部分を修復し、更に本人もリジェネーション(再生強化)と治癒魔法を使用していたので大分回復してきていた。

「おいおい、もう立ち上がれんのかよ?」
「これでも、回復力は高い方でね。頭が無事なら再生可能な自信がある。特定条件下なら一度消滅しても蘇るぞ」

そう言って石動はえっへんと胸を張る。

「………お前、ある意味造物主よりも化け物じゃねーか?」

とナギは呆れたように言う。

「ま、悪い奴じゃ無さそうだし特に問題ねぇけどさ。
 けど、短い時間とはいえ全力を出してケンカしたのは久し振りだな!
 最近けっこー煮詰まってたからスッキリしたぜ!また機会があれば頼むわ!」

その言葉で俺は今回学園長に何故ここに寄越されたのか理解した気がした。

「……すっげぇヘヴィだ」

とりあえず、麻帆良に帰ったら学園長をとっちめる。

────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※石動にコネクション:ナギ(ケンカ友達)と真紀(知人)ができました。
※エクリア、桜、シオンにコネクション:ナギ(知人)とマキ(知人)ができました。

※石動達はミッションの達成によりEXPと資金を入手しました!
※石動の治癒能力が上昇しました!

────────────────────────────────────────

※石動のウィザードクラスに関して
字面だけ変更して転生者です。
時を越え、世界を越えて、生まれ変わるのがNWの転生者です。
石動の場合、元々の体が滅んでないので転生者というよりも転"世"者と言うのが適当かな?と言う所です。
向こうの冒険者としては高レベルで能力も高いのですが、こちらでのウィザードとしてのレベルは多少低いです。
習得済み特殊能力:デジャヴュ、転生知識、古代魔法(イルヴァ式魔法&スキル)、遺産所持(神器)



[9874] 09:転世者と転生者の接触
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:e4f8d3d1
Date: 2010/10/19 00:10
石動とナギの模擬戦…というお題目のガチバトルが終了した直ぐ後、石動とマキを除いた一行が『箱庭』と言う名の特殊空間から出てきた。

『箱庭』と言うのは知る人ぞ知るエヴァンジェリンが所有する『別荘』と同様のアーティファクトで、中での1日は1時間である、と言うアレであリ、マキの個人所有物である。
『箱庭』は別荘で不便だった1日その中に居ないと出ることが出来ない、と言う点をマキが改良し、好きなタイミングで外に出られるものだ。

箱庭の中に残った石動とマキの2人は『マキの部屋』と表札が掛けられた部屋の中に居た。
部屋の中には化粧台と漫画やラノベ、更には魔導書が詰まった本棚、勉強机、ガラスのテーブル、TVとビデオそしてベッドに可愛らしい毛玉っぽい人形がある事を石動はざっと見て確認する。

「さて、態々残ってもらって悪いね。
 ナギ兄ぃ達には1時間位したら戻るって伝えてあるから」
「ん。それよりも態々俺を指名で……何の用だってんだ?」

石動は若干の警戒を臭わせながら問いかける。

「ちょっとした『確認』かな。ねぇ、石動君って『ロシア』って国がどこにあるか知ってる?」

その質問の意味を測り兼ねながらも、石動は『自分の中の常識』で答えを出した。

「当然だ。そんなの、子供だって「知ってるわけが無いんだなぁ、これが」はい?」

石動の答えを遮って知る訳が無いと言うマキ。

「どういうことだ?ロシアがどこにあるか知らないってのは訳がわからないぞ」
「どうもこうもないよ、この世界にはASがある。それがほぼ答えなんだ。
 この世界ではゴルバチョフのペネストレイカは失敗に終わり、ソ連は残っている。ロシアと言う国はこの世界には無いんだよ。
 冷戦は、続いているんだよ。
 コレはラノベの『フルメタル・パニック!』の設定の通り」
「───」

マキの言葉に石動はポカーンとした間の抜けた表情をする。
その頭の中では「まさか、いや、そんな」なんて言葉が繰り返されている。

「さてここで問題です。こんな事を知っている私はナニモノでしょう?」
「まさか───まさか同郷なのか?」

信じられない物を見るような目で石動はマキを見た。
それもそうだろう、石動は何十年と元居た世界の事を思い続けることは会っても、元居た世界の住人と遭遇する事は少なくともイルヴァでは終ぞ無かったのだ。
喜びと驚き…どちらかといえば驚きが大きい。
この世界に流れ着き、この世界でもう良いか、と妥協し、元の世界に戻る事は諦めていた所でコレであるのだから。

「ご名答、そして私の前世の名前は春野・真紀。
 多少ゲームやラノベ、アニメをそれなりに好きな元女子高生ってトコよ。
 好きなゲームはスパロボとFFってとこね。
 ま、基本的にSF好きだったんだけどね…運命ってどうなるかわかんないもんだわ。
 そうそう、私見たいなのを俗に『転生者』って呼ぶわ。
 世界を越え、時を越え、生まれ変わった存在、ソレが私達。
 石動君も似たようなモンだと思うわ……生まれ変わったか、生まれ変わっていないか、の差があるけどね」

マキはフフっと微笑んで石動を見る。

「そうか……状況と経緯が違うとは言え、同郷の人間が居る、と思えるのはなんだか嬉しいな」

そう言って石動も笑う。

「私もよ。
 まさか向こうで有名だったBL対象コンビの片割れに会えるなんて思っても……あ」
「……ヲイ、なんだそのBL対象って。
 いやそもそもマキ、お前向こうの俺を知っている人間だったのか?」

ウッカリと口を滑らすマキ。
石動は半眼になって問い詰める。

「え~っとね、周囲で凄く噂だったのよ、沢崎君×石動君のカップリング」
「………勘弁してくれよ。つか、沢崎って誰だっけ?」

多少凹みつつも、余り覚えに無い名前に疑問符を浮かべる石動。

「え?!覚えてないの?
 何時も一緒に居たじゃない、沢崎・浩太君。
 背は大体160少しぐらいで女の子でも羨ましいくらいの肌理の細かい白い肌と細身で、女の子と間違いかねないくらい可愛い顔した子よ?」

その言葉を手掛りに記憶を掘り起こそうとする石動。

「……あぁ、思い出した!
 何時も俺の直ぐ隣にいて微妙に押しが強くて困らされてたアイツか!
 普段は浩太としか呼んでなかったからすっかり苗字なんて忘れてた!」
「え、何?実は迷惑してたとか?」

多少苦々しい顔をしながら石動は言う。
石動の言葉と表情に心底驚いた、と言う風にマキが言う。

「いや、本当に困ってたのは俺が断ろうとすると、そこいらの女の子よりも破壊力の高い泣きそうな顔をするから困ってたんだ……。
 アレで何度道を踏み外しかけそうになった事か」

修道は勘弁です、と呟く石動。

「あぁ、それ納得。
 彼、本当に生まれてくる性別間違えてたよね。
 私の後輩、彼の方が1つ上なのに妹(スール)にしたいって言ってたもの」

二人揃って納得顔でうんうんと頷く。

「で、結局だ…マキは向こうで俺とどういう関係の人だっけ?」
「あぁ、そうだったわね。
 ぶっちゃければ高校の時の図書委員会の1学年上の仲間よ。
 私が高3で貴方が高2だったわね。
 余り話した事は無いし……あの頃はメガネで俯き系の超地味っ娘で、今とはかけ離れてるけどね。」

そう言ってアハハと笑うマキ。

「あぁ、なるほど……こう言っちゃなんだが、マキ……。
 いや、春野先輩はコチラに生まれ変わって良い方向に成長する事が出来たんだな」
「まぁね。後、マキでいいわよ。
 私はナギ兄ぃが居てくれたから、以前よりも人として強くなれたわ。
 本当、こう言っちゃなんだけどウチのお兄ちゃんは本物の英雄よ。
 私にとっても、多くの人々にとっても。
 誰に対しても踏み込む事を躊躇わず、自分のペースに巻き込んで引っ張っていくことが出来る…物語の主人公のような人よ」

しみじみと語るマキ。
そこにはこの世界で歩んできた年月に相応しいだけの想いが込められているのだろう。

「そうだ、石動君はまだこの世界についてそれほど詳しいわけじゃないでしょ?
 特に、この世界が内包する『物語』がどれだけあるか、とかね?」

その言葉に石動は「そういえば…」と呟く。
石動が知るだけでも既に幾つか関わっている。

「そうだな、説明を頼めるか?」
「えぇ……というか、本題はコッチなのよね。
 んじゃ、先ずは大きな歴史の流れに関してからなんだけど…」

歴史の流れは基本的に世界大戦が終る頃までは同じだった。
だが、世界大戦後の米ソの冷戦期から分岐が始まった。
先ほどマキが言った様にコレは『フルメタル・パニック!』の歴史に沿った流れらしいのだが、そこに少し小石が挟まった程度に違いがある、と語る。
それは1970年辺りから目に見えてきたらしい。
と、言うのも石動も気付いていた事だが『メタルギアソリッド』の物語が介入していると言うことである。
それが、今中南米に存在する武装要塞国家アウターヘブン……抑止力を目指した男と、その仲間達の楽園……そうなる筈だった場所。

「ちょっと待て、筈ってどういうことだ!?
 いや、そもそも……」

多少混乱した調子で問い掛ける石動。

「詳しい事情は私にも判んないわ。
 ただ、実際に会った彼…ビッグボスは表側……目に見える人々の争いの抑止になろうとしている。
 いえ、正しくはそうしたかった。
 けど、その目論見はASの出現を機に利用されてしまった……私はそう見ているわ」
「AS……つまり、戦争は変わってしまった、と?
 人同士の戦いから、ロボット物になったって?」
「そう、石動君が知ってるかは知らないけど、メタルギアシリーズの流れ、多分変わってるわ。
 私からしたってMGS3を遊んでたらいきなりMGS4をやってた気にさせられたもの」

もっとも、第一世代は機動性も最悪でパンツァーファウストやグレネードで的確に狙えば十分に歩兵でも打倒できる。とマキは言う。

「後、ナギ兄ぃは勿論として石動君も実力的に真正面から挑んでも勝てると思うわ。
 なんせ、あの攻撃力だしね……」
「そ、そうか」

マキはそういうと少し遠い目をする。

「まさか、2人の本気の余波で自慢のコロッセウムがズタボロ。
 武舞台が完全に粉微塵でクレーターまで出来ちゃうんだモンね……。
 アレで正面から装甲ぶち抜けない、なんてことはないと思うな、うん」
「は、はは……そ、それより話の続きをよろしく」

石動は空笑いしつつ話の続きを促す。

その他に世界の表に見える異変はそれだけではない。
それは仮面ライダー達と怪人たちの存在だ。
少なくともマキは生で仮面ライダー1号、2号とアマゾンに会った事がある、と告げる。
報道や噂に寄れば、少なくとも昭和の仮面ライダーは勢ぞろいしている可能性がある、と。

「彼等はいずれも凶悪な怪人、それを有する組織と1人、或いは2人という極々少人数であたっていたわ。
 その理由はとても簡単で他の組織を一緒に相手取るだけの手が足りない。
 そしてそもそも他のライダーと縁が無かったって理由があったわ。
 今ではとある場所を集合場所にしているみたいだけど、そこまでは知らないわ。
 あ、でも他に有名なヒーローが関わっていないのは確認済みよ。ウルトラな人々とか戦隊モノとか…。
 彼等はこの世界においてもフィクションのままよ。
 ある意味、助かったって気がするわ」

マキがそういうのも無理の無い事だ。
ウルトラな人々もその敵の巨大怪獣も、戦隊モノの巨大怪人も、一般人は元より、ウィザード、その他の異能持ちでも、サイズ差からして相当な反則手段や反則的に強いメンバーでも揃えない限り勝利は難しいだろう。
もしかすればASやレイバーを用いれば、通常戦力でもどうにかなる可能性もあるだろうが、手強い事に違いはないだろう。
それを考えれば、彼らが存在しないのは石動やマキにとって安堵すべき事柄だ。

「っと、そういえば言い忘れていたけど…この世界、どうもフルメタのウィスパードっぽいのが原作以上に多そうな感じなのよ。
 もしかすれば、私たちが気付かない所で一気に科学技術が進んでしまう可能性もあるわ。
 そうなれば、まぁ便利な技術も増えるでしょうけど、戦争の火種も増えるわ。
 理由は、察しがつくでしょう?」
「死の商人たち、か?」

商人と言うのは利益を優先する。
それが当然である。
そして、死の商人は人の生死を商売に扱う。
戦術兵器や薬物、奴隷売買は勿論の事、時に戦略兵器もその中に含まれる。

「戦略兵器とはまた……話がでかいな」

石動にしたって死の商人と…と呼ぶのはアレだが武器商人や危険な薬品を売る商人、奴隷商人の存在も知っているし、彼らの商品を利用した事がある身だ。
彼らの存在を真っ向から否定するつもりは無い。
だが、戦略兵器ともなれば話は変わってくるだろう。

「まさか、核ミサイル?」
「それだけじゃないのよ、ASや戦闘用レイバー、更にはバイオハザードの引き金になりかねないウィルスの類を始めとした生体兵器。
 それにとんでもない力を秘めたオーパーツ、人を兵器に改造してしまう良くわからないウィルスっぽいもの。
 とにかく中々に洒落にならない物が出回っているのよ」

余りにもヤバイモノは世界魔術師協会や各地に存在するその手の企業や秘密結社や特殊任務機関等が相手取っているそうだ。
で、世界中ヤバイけど、異能系では特に日本とEU及び米国。
人間同士でヤバイのは特に米国、ソ連、中国、中東諸国となっているらしい。
しかしこれだけヤバイとわかっていても、全てを片付ける事が出来ないのは人材不足に始まり、相手の方が何枚か上手であると言うことでもある。

「予想以上だな、この世界。それにしても…どちらもアメリカの名前が挙がってるな」
「あの国は……色々あるのよ、色々。
 それでもスーパーマンやデモンベインや宇宙人が出てこないだけマシだと思ってるわ」

それはそうだろう、地球を逆回転させて時間を巻き戻した超人、クトゥルーやかの物語の魔導師はともかくデウスエクスマキナや次元ごとどうこうできるヤヴァイ兵装を持てる存在なんて悪夢以外のなんでもない。
その辺りは2人の共通認識だった。

「他に何か絡んでるのってありそう?」
「そうねぇ……正直に言うと私もそう多く判るわけじゃないわ。
 ただ、傾向としては日本発のフィクションだらけなのよ、この世界」
「そういえば……」

石動はマキの指摘に今まで気が付かなかった、とばかりに洩らす。

「後、もうとっくに気付いてると思うけどこの世界では『ナイトウィザード』の組織が事実上、魔術組織のトップよ。
 倫敦の『時計塔』もそれなりに規模も勢力も大きいのだけど、真昼の月 アンゼロットの実力と名声は伊達ではないってことね。
 魔術組織は世界各国に存在し、正直、私でもどれだけあるのか把握しきれないわ。
 ただまぁ、世界魔術師協会の影響下にある有名所だけで言うと…」

倫敦の時計塔(魔術協会)
ウェールズのムンドゥス・マギクス(魔法世界)
エジプトの巨人の穴倉(アトラス院)
アメリカのミスカトニック大学
日本では関東魔術協会及び輝明学園

「って所ね。
 必ずしも絶対服従って訳でもなく、其々の組織で其々に思う所はあるみたいだけど基本的に逆らう事は無いわ。
 だって、末路を考えたら恐ろしいもの」
「まぁ、確かにそうだよな……ほかに『物語』の情報はないのか?」
「そうね……コレはまだ確定した事じゃないんだけど、基本的に関わってくる物語は現代や近代の現実に程近い社会設定のものばかりなのよ。
 あ、ASヤレイバーが現実に程近いか?ってのは無しよ?
 私にだって全部が全部把握できるわけじゃないんだから」

そこまで言ってからマキは溜息をつく。

「それと…コチラ側の異常であれば嫌でも情報が入るんだけどね。
 裏社会が関連するような事柄になると、途端に情報規制が厳しいのよ。
 探れば幾らでも出そうだけど『紅き翼』のメンバーって良くも悪くも有名だからね…。
 狙われる理由を増やしたくないから下手に探れないのよ」
「つまり、俺やそちらが気付いていないだけで他にも『混じっている』可能性がある、と?」
「そういう事よ。
 そうそう、そちらでも何か判明したら私にも情報が欲しいわ」
「連絡はどうする?」

石動の言葉にマキは溜息をつく。

「何の為に日本国籍と日本人名に変えたと思ってるのよ。
 別に前世が恋しくなっただけじゃないわよ?
 他と比較して日本の方がやりやすいのよ、色々と。
 ともかく、普通に電話なり手紙なりで連絡してくれればいいわ。
 住所と連絡先はコレ」
「あいよ、コチラの連絡先はコレだ」

手渡されたカードをチラリと見てから四次元にしまい、入れ替わりにペンと紙を取り出してサラサラっと住所と電話番号を書いて渡す。

「あら、エヴァの家の近所じゃない」
「……知ってたのか?」
「一応ね。とはいえ、私自身も研究や情報収集しながらの生活が長いからうっかり連絡を忘れていたけど」

やっちゃったなぁ、と頭をガシガシと掻いてからまぁいっかとマキは結論付ける。
やってしまった事はもうどうしようもないのだ。

「んじゃ、そろそろ戻るか?」
「まぁ待ちなよ。久し振りの御同郷なんだ…昔話に華を咲かせるのも良いんじゃないかな?
 それに、お互いの昔話も話し合いたいしね。石動君、君ももちろん呑めるよね?」

そう言ってマキはウィンクしながら『美少年』と言うラベルが貼られた酒瓶とコップを二つ取り出していた。
その後、2人は酒を酌み交わしながらお互いの20年、30年からなる苦労話から爆笑エピソードまで余す事無く酒の肴として語り合い。
そして石動がふと思い出した元の世界でのネタ台詞を言った時、二人の間で更に強固な絆の様な物が生まれたのだった。





まぁ、結論から言えば2人とも完璧に酒に呑まれていた、若かった、という事である。





箱庭の外に出ていたメンバーが結局2時間待たされ、ようやっと戻ってきた二人の様子を見たナギが取り敢えず石動を模擬戦の時以上の力でしばき倒したのは……まぁ、当然の結果だった。
石動にとって、桜、エクリア、シオンの3人がキチンと状況を把握できていなかったのは幸いだった……あらゆる意味で。


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*Result!*

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※石動のコネクション:真紀が(知人)→(魂の友)に変化しました

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本日の電波少女・まなまな

「ねぇ、愛美ちゃん…2時間ぐらい前からずっとorzってなってるけどどうしたの?」
「うぅっ、ジョニーお兄ちゃん……私の一番大事なモノがどっかの雌狐に掠め取られた気がするの。
 初めては絶対私がって思ってたのに!」
「相変わらず意味不明だね。後ボクの電波じゃとっくに手遅れって気が…」
「しゃらっぷ」
「そ、それはビッグボス仕込みのCQ…痛いギブギブ!」



[9874] 10:ディスティニークリックな瞬間…あぁ、そういえばコレもクロスしてたんだ
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:20ee5328
Date: 2010/10/19 00:10
あの後、春野邸で一泊した石動達はナギとマキの勧めで関西呪術協会の本山に訪れていた。
移動する際にタクシーを呼び、運転手に住所を告げると…。

「お、お客さん…本当にそこに逝くんで…?」
「え?えぇ、そうですが…」

運転手のおじさんは可哀想なほどに怯えていた。
そういえば、と一同は思う。
春野邸に行く時も似た様な遣り取りを見た覚えがある。
曰く、ヤの付く自由業の人々が出入りしている……とか。
まさかまさかと思いつつも、石動が代表して運転手のおじさんに問いかけた。

「もしかして、そこの人達……おっかないですか?」
「あぁ、兄さん達が何しに行くのかしらねぇが辞めて置いた方が良いぞ!
 あそこには素でポン刀を引っさげた奴がぶらついてるんだ!
 一般人が行くような場所じゃぁねぇよ」

運転手の言葉に石動は眩暈を感じた。
そして同時にそういえば、とも思う。
日本は割りと治安が良い方だが、その治安の全てが警察や自衛隊などの司法の手による物ではない。
中には『特殊な自治体』による司法以上の『力』を持ってしまった団体による統治、と言うケースも極めて稀にある。
一応は彼らの存在は国に認められているが、正直に言えば住民的には割りと恐ろしい存在だったりするのだ。
銃刀法違反等を盾に突いても返ってくるのは『上』からの『関与するべからず』の一言のみだ。
まぁ、その『特殊な自治体』が関西呪術協会だったりその他の特殊な組織立ったりするわけだが…。

「(あー…きっと関西呪術協会の人がうっかり武器携行してるの見られたんだろうなぁ)」
「(えぇい、呪術教会の奴等自重しろよ自重!日常に非日常を平然と持ち込むなバカ野郎め)」

だが、事情を知っているシオンからすればなんとなく苦笑モノでだった。
それらの事をさりげなく石動やエクリアや桜にも伝えてあるので、今更心配はない。
石動が「ふぅ」と溜息をついてから親父さんの目を確りと見て言う。

「大丈夫。あーいう人たちはキチンと堅気は狙わないってのは守ってくれるから」

一応はそういう建前がある。
もっとも美女、美少女が居るとなると一般的なヤクザがどうでるかは非常に不透明だが。
まぁ少なくともこの面子なら一般人(ヤクザ)に襲われても普通に軽くのすぐらいはできる。

「俺は空手や合気道に自信あるし、後ろの2人も同じだよ。
 鉄砲が出てこない限りは大丈夫っすよ!」

運転手はその後もう一度念を押して行くのか?と尋ね、石動の意思が変わらないのを見ると諦めて指定の場所まで運転を始める。
そして、タクシーを降りて関西呪術師協会の本山へと歩みを進めていく。
どこまでも続く様な気さえする長い長い鳥居と階段の道のり。
余りにも長かったので途中で桜は力尽きて今は石動に背負われ眠っている。
桜を背負ってから10分ほど歩いてから石動が溜息交じりでエクリアに問いかける。

「……なぁエクリアさん。そろそろ俺、引っ掛かった振りやめて良い?」
「お好きにどうぞ」

引っ掛かった振り、と言うのは今石動達を捕らえている『無限回廊』の結界に関してである。
正式名称は流派等によって異なるのだが、そこはおいておく。
コレに関し、早い段階でエクリア、石動の順で気がついていた。
残念な事にシオンは魔力探知は苦手な為これに気づけなかった。

「んじゃ──ここはシオンに出張ってもらおうか」
「へ?!私ですか!?
 い、一体何をすればいいんですか?」

急に話を振られたシオンは戸惑いながらも問い返す。

「それじゃ説明をしよう。
 今、俺達は『無限回廊』の結界に囚われている。
 脱出するのに一番シンプルな手段は基点の破壊だ。
 基点となっているのは此処から3つ先の鳥居の右上の…あの角っこだ。わかるか?
 あそこを狙撃してみてくれ」
「え、あそこをですか?」

石動が示した鳥居のその角には何も無い…様にシオンは思えた。

「あそこには僅かながら偽装が施されてる。
 至近距離でなら判ると思うけど…まぁとにかくやってみてよ」
「はぁ、それでは…」

そういうとシオンは持って来ていた大型のドラムバックの中から平然とAKS-47自動小銃を取り出し、すっと片手で構えたかと思うとそのまま撃つ。
放たれた弾丸は石動が指示した場所を狙い違わず撃ち抜き、そこに隠蔽されていた結界の呪符が破壊され効果を失う。

「わっ、本当になにかあった!あ、いやその前に・・・」

シオンは驚きつつも素早くバッグの中にAKS-47をしまう。
その間にも結界が消えて行き、無限を思わせた道のりはゴールの姿を顕にした。

そして登りきるとそこには1人の男と男に付き従う従者達。
男は友好的な笑みを浮かべつつ言う。

「ようこそ関西呪術協会へ。
 私が長の近衛詠春です、あなた方の話は我が友と義父から聞いています。
 大した持て成しは出来ませんが、歓迎いたしましょう」

近衛詠春、かつては『紅き翼』の主要メンバーであり、現在は日本を二分する協会の一つ関西呪術協会の長であった。
詠春の名はその肩書きによるものだけでなく、その実力も讃えられ『サムライマスター』とも呼ばれたことがあるほどの人物だ。
もっとも、本人曰く『紅き翼』が解散して以来ずっと事務仕事続きであり、組織の長となり荒事に関わる機会が減ってしまったために腕が鈍くなっていくと嘆いているが。

4人が応接室に通されると、そこにはほんの1時間ほど前に別れたばかりのナギとマキが居た。
関西呪術協会のメンバーは長である詠春しかこの場には居ない。

「あれ?どうしてナギさんとマキさんがここに?」

シオンが疑問の声を上げるが…。

「やっぱり、お前さんの仕業か」

と、石動が言い、エクリアも同意するように頷く。

「おぉ、気付いていやがったか!」
「ま、こういうのって詠春さんはやらないしね」

2人も自分達が張本人であるとあっさりと認める。

「何でまたこんな事を?」
「詠春にお前さんたちの事を説明し忘れてたんでな。説明ついでに時間稼ぎというわけさ」

詰まる所、ナギが詠春に説明をする為の時間稼ぎだったようだ。

「あ、そういえば学園長から西洋魔術師と折り合いが悪いって聞いていたけど?」

そういって何時の間にかナギ達の側で座っている詠春に目で説明を要求する。
西洋魔術師のナギとマキが堂々とこの場に入れる理由を。

「この2人がこの場にいられるのは、この京都においても『英雄』だからですよ。
 詳しい話は省きますが、8年前にエミュレイターの魔王の手に寄って鬼神の封印が解けてしまい、京都が滅びかけるという大事件がありました。
 その際に魔王を退け鬼神を再封印した際の要となったのが私と私の妻、そしてナギとマキの4人でした。
 この事件は表向きではテロリストによる連続同時多発テロ事件として処理されました」

詠春は至極簡潔に纏めて言う。

「ま、そう言う訳で一部複雑な感情を抱いてる奴もいるみてぇだけど俺達は特に問題なく此処にこれるわけだ」
「なるほど、ナギは色々な所で活躍しているんだな」
「貴方の噂も聞いてますよ。世界魔術師協会の『執行者』石動君、そして『ロンギヌス』のフェミリンス嬢。
 なんでも、冬木の地に永く居座っていたあの『害虫』を退治したとか何とか」

詠春はそういってニヤリと笑う。
その表情に一瞬寒気を感じる石動とエクリア。

「え、えぇそう言った事もありましたね」
「実はアレには我々も永く悩まされ続けていたのですよ。感謝いたします」
「へ?あ、いえコチラも任務でしたから」

嫌な予感を感じていた石動はてっきり何か無茶な事を言われるのでは、と思っていただけに謝辞を述べられて少し呆気に取られる。

「特に、あの地の管理者にも一泡食わせたと聞いています。その報告を聞いた時は西洋嫌いでは無い私も流石にスカっと致しました。
 かの人物はそこそこに優秀であるのですが、頑固で融通が利かないのでイタズラに一般人への被害が広がりつつありましたしね」

どうやら、詠春にしても時臣は扱い辛い存在であったようだ。
そして『害虫』によってもたらされた被害はそれなりに大きいのだろう、という事が詠春の言葉から推測できる。
もしかすれば、アンゼロットから石動にあの依頼が廻されたのは、関西呪術協会の依頼あってこそだったのかもしれない。

「で、ですね。あなた達に一つ依頼があります」
「……なんだろう、凄く嫌な予感がする」
「その依頼は、関西呪術協会からの物と言う事で?」

渋い表情をする石動、冷静に問い掛けるエクリア、割りと空気な扱いで若干涙目のシオン。
ココでの決断は何故か後に大きく響く。
石動の直感はそう訴えていた。

「えぇ、我々呪術協会からの正式な依頼となります。
 主な任務内容は冬木市での調査がメインとなると思います。
 かの地で半年から一年以内に大規模な魔術儀式が行われるという情報を掴みました。
 その儀式が行われるまでに儀式の危険度の確認をお願いしたいと思います。
 もしも一般市民にまで影響が出かねない危険な儀式であるのならば、介入もしていただきたいと思います」
「冬木市で行われる大規模な儀式か……」

聞いていて自分の手に負える範囲なのであろうか?と言う疑念も沸き立つ。
此処で詠春が言っているのは、石動の錆びれた知識で照らし合わせると間違いなく聖杯戦争のことだろうと推測できる。
そうなれば…いや、それが違ったとしても調査する際に必然的に土地の管理者、遠坂と接触する事になるだろう。
前回の接触でああいった別れ方をしただけに非常に遣り辛くなると石動は考える。
それに、7人の英霊達と7人の魔術師の存在もある。
その中でも特大の問題児、某セイギノミカタが非常に面倒な敵である事は間違いない。
彼の奥の手に関する知識は既に石動の記憶には残されていないが、どこぞのサイボーグみたいに『加速』できたような気がする、と石動は思い出す。
もしも単純に『加速』が奥の手なら力づくで鎮圧できない事もないだろう。
だが、それ以上に英霊達との宝具合戦担った際に勝てるのか?と言う疑問が浮かぶ。
覚えているだけで二つ。

山をもぶっ飛ばせそうなビーム砲モドキの宝具。
神器を無数に乱射する宝具。

正直自分の防御能力じゃ消し炭にされるかもな、とも思う。
まぁ、きちんと武装すれば生き残れる自身はあるのだけども、とも石動は考える。

「ナギはこの事件には関わらないのか?」
「わりぃけど、俺はあんま下手に動けねぇんだよ。
 本来後ろ盾があるわけでもねぇし、あんまりにも有名になりすぎちまったんで方々から、な」
「……私達が後ろ盾になれればソレが一番なんですが、ね」

有名人はツライネーなどとナギは茶化すように言う。
なるほど、ただでさえ『英雄』として名高いナギはその反面で方々から盛大に恨みもかっている。
これで今以上に恨みを買えば後ろ盾の無いナギは執拗に狙われることになる。
詠春が後ろ盾になろうにも、関西呪術協会と西洋魔術師の間にある確執が問題となり、イザと言うときに役立てない恐れがある。

「それに俺自身その時期はちょいと用事があってな、動けないってのもあるんだ」
「そっか、ナギが居てくれれば心強いんだが、しかたないな」

いっその事断ろうか、と石動が思考した所で脳裏で何かを後悔した自分と荒野と化した街並みがフラッシュバックする。

倒れ伏す仲間達、自分よりも幼く才気溢れ…しかし無惨にも敗北した子供達、信じていたモノに裏切られ、断末魔を上げるモノ達。

ソレがフラッシュバックした瞬間、石動はこの場で『関わる』以外の選択肢が唐突に浮かばなくなってしまったのだ。
今さっきフラッシュバックした何かの影響だと言うのは明白だ。
そして自分はそれに対し後悔していると感じた。
それらに対し、自分が後悔し無い選択をしたい。

「ごちゃごちゃ考えるのはやめだ、その依頼引き受ける」
「それは良かった。あなた方に引き受けて貰えない場合は態々世界魔術師協会に依頼するところでした」
「(あれ?その場合って俺、結局は強制参加になるんじゃね?)」

そう感じ取った石動だが、それはまさしく正解である。
世界魔術師協会は優秀な人材が多いが、その分扱う事件も多く常に人手不足状態である。
下部組織にまわしても良いのだが、そうすれば成功確率の計算が難しくなるのである。
無論、どうしようもない時は止むを得ずまわす事があるのは言うまでもない。
だが、使い勝手が良くそれなりの実力を持つ人材…例えば石動のような人間がいれば?
答えは簡単、こいつに任せよう、となるわけである。

「ありがとうね、石動君!詠春さんに率先して紹介した手前引き受けてくれて助かったわぁ♪」
「って、俺のこと紹介したのマキだったのか!?」

てっきりナギかと思ってた石動は驚きを隠せない。

「いや、俺なんてマキが言い出すまでそもそもこの件の事忘れてたからなぁ」
「「おいおい」」

思わず突っ込む詠春と石動。
ナギ・スプリングフィールドは実力は桁外れだが、かなり忘れっぽいと石動を始め、エクリア、シオンの3人の共通認識が出来上がった瞬間だった。

「ゴホン……依頼内容を説明させていただきます」

詠春が咳払いして説明を始める。

その内容は掻い摘んで言えば儀式の名前が「聖杯戦争」であり、冬木の地と繋がった聖杯の魔力のバックアップを利用して「英霊」を召喚し、7組の魔術師と英霊のコンビが聖杯を目指して戦う戦争である、と。
その戦いは尋常ならざる物であると予想され、確実に出るであろう一般人への被害、神秘の漏洩の阻止。

その辺りに関しては石動の予想通りであった。

「問題なのは、これが50年に一度行われる、と言う事実ですね。
 我々には細かい情報が回ってきていませんが、どこかにこの儀式の基点が存在し、50年の竜脈を用いた魔力充電期間。
 そしてその魔力を呼び水に英霊を召喚し戦い、聖杯を召喚する…。
 何故戦う必要があるのかはイマイチ確証が持てませんのでなんとも言えませんが……正直な所真っ当な儀式とも言い難いです」

真っ当な儀式の代表例はぶっちゃければ一般的な…それこそそこいらの街で行われる様な『お祭り』等だ。
アレも過去の偉人や神様を敬い、鎮魂や作物の実り等を願うものだ。
他に魔術師的にするなら生贄や霊薬、魔法陣等を用いた典型的な儀式も含まれる。
だが、聖杯戦争ではそれらとはプロセスが明らかに異なる様に見える為、詠春もなんと言って良いか困っているようだ。

「聖杯戦争を勝ち抜けた組には『あらゆる願いが叶えられる聖杯』が与えられるらしいですが……その話もどこまで信用できたものか判ったものではありません」
「ルールを破り、何の関係の無い普通の人を巻き込んで、自分の願いを叶えようとするなんて……」

シオンが嫌悪感を顕にして呟く。

「だが、それもまた人の業…って奴だな。
 何かを犠牲にしてでも叶えたい願い、そういう物を持っちまう奴も時には存在する」

例えば、俺のように…と心の中だけで石動は呟く。
石動もまた、自分の願いを叶える為に異世界であらゆる物を犠牲にして自分の願いを叶え、その結果としてこの場に存在するのだ。
聖杯で願いを叶えようとするものを否定する気は余り無い。
勿論、それが『ルール』の範囲内である限り、だ。
神秘を漏洩し、世界結界を弱め、そしてなにより聖杯戦争の結果もたらされる惨劇を知る以上、黙って見過ごすのも後味の悪いものだ。

「(それに、世界結界に悪影響が出れば俺の生活も脅かされるしな)」
「さて、今日の所は小難しい話はこのぐらいにして、是非とも我らの開く宴に参加していって欲しいのですが、よろしいですかな?」
「宴…?」

詠春の言葉に疑問符を浮かべる石動。
それに答えたのはマキだった。

「さっきも言ったリョウメンスクナの件に絡むんだけどね。
 リョウメンスクナの封印のメンテ…儀式とソレのお疲れ様パーティがあるのよ。
 儀式の方は表向きはローカルなお祭りみたいなもんだから一般人も来るし屋台とか色々出てるのよ。
 良かったら見て行かない?
 シオンちゃんや桜ちゃんも十分に楽しめると思うわよ」

その言葉に俺達は迷う事無く頷き参加表明をした。


そして夕方。


ナギ、マキの兄妹に連れられてリョウメンスクナを封じた祭壇へと通じる広場に一行は訪れていた。
広場まで来た一行はそこで二手に分かれる事にした。
ナギと石動の男組とマキとエクリアとシオンと桜の女子組みだ。
男組みは封印の祭壇までこっそりと近付き、祭りを背景に雑談をしている。

「へぇ、縁日みたいな光景だな」
「ま、表向きはそんなモンだ。
 細かい仕組みはしらねぇんだが、祭りを通じて陽の気を集め、それを封印の維持に当てているってことらしい。
 この封印を解こうとするならとんでもなく馬鹿でかい魔力が必要になるのさ。
 俺とか、お前とか……みたいな、な」
「なるほどな。そういえば、気になってたことがあるんだけど良いか?」
「ん?」
「なんで、マキは日本に帰化したんだ…?」
「あぁ、その事か。
 一つあげるとアイツはとんでもなく日本フリークでなぁ。
 イギリス人の癖に洋食よりも和食が大好きで、特に味噌スープとか里芋の煮っ転がしっつったか?
 アレが大好きなんだよ。
 一応、俺達の故郷でも作れなくはねーんだけど、材料費とか調味料が高く尽くし味もコッチの方が良いらしいんだわ。
 先ずはそれが一つ。
 もう一つは俺達の状況が、な」
「状況…というと名前が売れすぎちまった、って件か?」

ナギはゆっくりと頷く。

「本当上手くいかねーもんだよな。
 一応、マキは紅の翼のなかでも余り目立たない方だったっつーのもあるけど、それでも、な。
 今は詠春や近衛のジーサンのコネと後ろ盾で日本国籍の入手と偽装工作でここにいる間はそれなりに安心なんだけどな……アイツはそうもいかねぇんだよ」
「アイツ…?」
「あー…まぁあれだ。俺の女だ。
 アリカっつーんだけどよ…。
 ちょいとヤバイ事になっちまっててな……今はマキんちの離れに住んでんだ。
 俺も一応、今はそこに住んでる。
 お前達に会わせなかったのは悪かったと思ってるけど、色々とコッチも立て込んでてな」

ナギは少し照れくさそうに、そして少しだけ申し訳無さそうに言う。

「うんにゃ、構わないよ。
 そっちにも都合があるのは理解できるつもりだ。
 それに、人間、縁があれば偶然でアレ必然でアレ出合うもんだ。
 それが今じゃなかった、それだけの話だろう?」
「……そうだな」


一方の女子組み。
4人は男達のような身内話よりも純粋に祭りを楽しんでいた。

「……っ!コレ、なるほど、こういう射線になるわけね。
 なら、後はこうするだけよ!」

シオンは射的で見事な狙撃を披露しクマやネコ、ウサギにハムスターのぬいぐるみを打ち落とす。

「うわぁ、シオンお姉ちゃんすごーい!」
「本当、まるでゴルゴ並ね」
「流石、と言う所ですね」

3人が其々にシオンを評価する。
シオン自身もその言葉にまんざらでは無さそうに鼻を鳴らす。

人形はシオンから其々1人1個ずつプレゼントされ、ウサギが桜、ネコがマキ、クマがエクリア、余ったウサギがシオン自身にだ。
どれも愛らしくデフォルメされており、4人はそれなりに満足しつつ次の屋台へと向かう。

「あ、あんず飴だ!コレ、食べた事なかったのよね皆も食べる?」

マキの言葉に全員が頷く。
あんず飴は基本的に東日本で普及しているが、それよりもりんご飴等のほうが人気があったりする場合もある。
運が悪い人は東日本に住んでいても祭りで一度も見たことがない、という事もザラである。
ちなみに、桜は西日本出身であんず飴を食べた事がなく、シオンは東日本に住んではいるが運が悪かったのか見た事もなかった。
エクリアはそもそも外国や次元の狭間にあるアンゼロット宮殿で過ごしてきたので存在すら知らなかった。
ではマキは、と言うと前世では大好物であったが現世ではイギリス生れで世界各国を旅し、そして日本に来ても運悪く祭りの時期と噛み合う事がなかったのだ。
それ故に喜びも一塩、と言った所だろうか。

その後も4人はヤキソバを食べたり、綿飴を食べたり、型抜きでエクリアのみ見事にやり遂げたり、
金魚掬いでマキが大活躍したり、桜がおみくじで大吉を引いたりとにぎやかに過ごす。

「やぁ、楽しんでいる様ですね」
「あ、詠春さん…それに木葉さん、このちゃんにせっちゃんも」

一番初めに気付いて応じたのはマキだった。
マキが話しかけた先には詠春と妙齢の京美人、そして幼い少女が2人居た。

「こんばんわぁ、マキちゃん、それにお客はん達も。
 詠春の妻の木葉と申します。
 父の近右衛門がお世話になっとります。
 木乃香、刹那ちゃん、みなさんにごあいさつよし」
「は、はい!近衛家の皆様の所でお世話になっている桜咲刹那です!よろしくお願いします」
「ウチは近衛木乃香ともうしますぇ。よろしゅうに」

「うわぁ、私京都弁って初めて聞きました。
 何だか新鮮ですねー」
「独特な響きが美しいと感じますね…」

なんだかんだで関西弁や京都弁になじみのない二人は少し感激したようであった。
一方の桜は桜自身が標準語を扱うとはいえ、元々西日本出身なので関西弁や京都弁とは縁があったため特にそういう風には思わなかったようだ。
エクリアたちも自己紹介を返し、お祭りを今度は8人で楽しむ事となった。
そして日が沈んでくる頃には太鼓や笛、三味線などの和楽器を中心とした祭囃子が響き始める。
独特かつ不思議な旋律はその実、リョウメンスクナの魂を鎮め、祭りで高まった陽の気を封印の足しにする為の儀式でもある。

「凄い…ですね。祭囃子が聞こえ始めた頃からこの辺り一帯にあった異様な気配がどんどんと消えていく…」
「本来『祭り』とは『祀り』…神や英霊を崇め奉り、その魂の鎮魂を始め招福祈願、厄除祈念様々な意味合いを持っているのです。
 今でこそ、そういった意味合いがある事を意識される事は少なくなりましたがね…。
 このお祭りでは主にリョウメンスクナの鎮魂と封印強化、後はオマケ程度ですが招福祈願って所ですね」
「オマケ程度やなんてけち臭い事言い張るなぁ…。
 ウチはそっちの方が大切なんやけどなぁ」

詠春の隣に居た木葉はそう言って微笑む。

「父様の方とウチらがはよ仲良ぅやれるよぅ、祈っとるんや」
「そうですね、世界魔術師協会の一員としても、個人としても、両組織が早く手を取り合えるよう願っています」
「あー…はは、コレは責任重大だねぇ」

木葉とエクリアの言葉に、詠春は思わず苦笑しながらも自身も今まで以上に最大限の努力をしようという気が湧いてくる。
そして、この気持ちは義理の父、近衛門も同じであろう、と思いながら。

一方、子供達はというと監督を任されていたシオンを振り回しながら桜が率先してお姉さんぶりつつ屋台巡りを敢行していた。
要所要所でキチンとシオンを待っていたりするが、その理由はお財布係を待っていただけという悲しい理由だったりする。

その後、祭壇の方から戻ってきたナギと石動と合流し、2人の奢りで屋台全種制覇を目指して巡り続けるが、手に負えなくなったシオンによりマキとエクリアへ報告が行き2人はこってりと絞られた後、詠春らと別れ、一行は春野邸に向かう事となる。

「あはは、悪いね本当…今日も宿借りる事になるなんて」
「気にすんなって。困った時はお互い様って奴だろ」
「とりあえず、その台詞はナギ兄ぃじゃなくて私の台詞だと思うんだけどなぁ」
「「お世話をかけます、マキさん」」
「Zzz……」

────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※石動のコネクション:詠春が(知人)が追加されました。
※石動に聖杯戦争参加フラグが確立されました。
※石動にExtraUnit's:Type-moonのフラグが立ちました。

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[9874] 11:とある英雄の憂鬱
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:20ee5328
Date: 2009/08/19 21:55
再び春野邸で一晩過ごした次の日、一行は麻帆良に戻ってきていた。
とても豪華なお土産つきで。
なお、シオンは麻帆良に着いた時点で自分の住む寮に戻っている。

「と、言う訳で長らく待たせちまったな、エヴァ!」
「な、き、貴様!ナギ?!何故此処に!?」

余りにも唐突でしかも前置きもなく現れたナギに心底驚いているエヴァ。

「いやー、ゴメンねエヴァちゃん。
 ナギ兄ぃってば本気で忘れてたみたいで……まぁ、かく言う私も忘れてたんだけどね。
 うん、ホントゴメン」
「き、貴様ら兄妹はほんっとーにどうしようもないな!
 それにしても、忘れていたと言う割りに良く来たな」

エヴァが尋ねると2人はあっさりと口を割った。

「石動君が教えてくれたのよ。
 エヴァが中学生を繰り返しっぱなしで困っている…ってね」
「いやぁ、咄嗟に適当にかけちまったせいでなんか変になっちまったみたいですまねーな。
 今直すからジットしてろよ」

言うが早いかナギは早速杖を構えて集中し始める。

「へ?ちょっ、待てナギ!?」

「~~~~~」

既にメモを見ながら詠唱にはいっているナギはエヴァの言葉を無視して進めていく。
そして…。

「登校地獄・解除!!」

その言葉と共にエヴァの体に一瞬光が走る。
そしてソレが収まるとそこには…。

「くっ、相変わらず強引な男だ」

何時も通りのエヴァが居た。

「流石に、見た目じゃわかんないわねー」
「当たり前だろうマキ。取り敢えず麻帆良を出れるか試してみるか」
「そうだな、そうしてみようぜ」

「それでは、私は桜を連れて屋敷に戻ります。後で結果を教えてください」
「ほいほい、りょうーかいだ。家のほう、頼んだぜー」

すっかり外野と化していた石動達は各々で動き始める。


エヴァが先頭に立ち、やってきたのは麻帆良と外界を隔てる大橋だった。

「此処を越えれれば……私は5年ぶりに外界に出られるのか……!」
「あぁ、そうだ。さぁ、記念すべきその一歩だ!」

エヴァは記念すべきその一歩を踏み……出す所だったのだがガン!と盛大に顔面を空中にぶつけると言う器用すぎるまねを遣って見せた。

「ぶべっ!?」

麻帆良の外側の方から見ていたナギと石動はその瞬間の笑劇の表情を見てしまい大爆笑。
しかし次の瞬間にはマキの手により咸卦の気を纏った拳で拳骨を叩き込まれ、本気で痛そうにしてうずくまる2人だった。
人を呪わば…と言うか笑わば何とやら…といった感じである。

「もう、そんなに笑うなんて紳士として最悪よ!」
「しっかしおかしいな、キチンとカンペ通りにやったんだがなぁ」

そう言って頭をバリボリと掻くナギ。

「えぇい、そのカンペを寄越せ!」

ナギの持っていたカンペを奪い、目を通すエヴァ。

「お前!コレ解除じゃなくて掛ける方じゃないか!!」
「な、なにぃっ!?どういう事だマキ!!」

どうやらこの騒動の原因はマキにあるらしかった。
怒り心頭のエヴァとナギ。
マキは2人をどーどーと落ち着かせつつ説明を始める。

「まず、前提、基本的な所なんだけどね…そもそも登校地獄って解除できるような代物じゃないのよ、コレが」
「な、なんだと!?」

そして説明を始めるマキ。
そもそも、登校地獄とは不登校児を学校に通わせる為の魔法であり、定められた期間通い続けなければならないのが基本である。
つまり、その期間が終われば自然と解けるから解除など存在しないのだ。
学校を破壊してでも解除しようものなら、今度は別の学区の学校に『転校』という事になってしまう。
詰まりは下手に逆らわずに通い続ければ良いだけの魔法だ。
だが、ここで一つ疑問が出てくる。何故、エヴァンジェリンは中学校に通い続ける事になってしまったか、だ。
答えは至極簡単で、ナギが適当に遣ってしまったせいで呪いが半端なものになり、永久ループになってしまったのだ。
そして、強烈なナギの魔力で掛けられた呪いは学園長や様々な良識ある人物の手では修正できないと判断し、本人に直接上書きで修正させる、と言う手を使う事になたのだ。

「つまり、この件はジジイとマキは最初からわかっていたんだな」
「んーまぁ、ありていに言えばそうなるかなー。
 とはいえ、もしかしたら累積分あるから解除されるかも!と思ってたのも事実だしねー」

存外に軽く言うのは元からダメ元という部分があったからだろう。

「んじゃ、軽く術式の走査するから大人しくしててね」
「ちっ、しょうがない…早く済ませろよ」

舌打ちするエヴァの額にマキは手を当てて呟く。

「走査…開始(トレース・オン)」

その言葉を聞いた瞬間、思わず吹きそうになる石動。

「ん?」

どうしたよ?とナギが石動に視線で問いかける。

「いや、なんでもない」

と石動は答えたが、その実何でもあった。
此処に来て、ネタかよ!と突っ込みたかったのだ。

「うん、術式に問題はないけど……ナギ兄ぃ魔力強過ぎだよ。
 コレ、麻帆良大学の大学院卒業まで呪いが延長されてるよ……。
 今中2で麻帆良の大学院は最短で4年だから卒業まで12年ぐらいかな…?
 それぐらいかかっちゃうよ、コレ。
 しかも、今回のは前回の魔力が残っている上での上書きだから……。
 例えばナギ兄ぃや私や石動君みたいな高魔力持ちの血を吸って強引に解除しようとしても正直どれだけ血が要るかもわかんないってレベルだよ」

「「な、なにぃぃぃぃ!?」」

絶叫した後、ナギは苦り切った表情を浮かべ、エヴァは真っ白に燃え尽きていた。
この事件により、エヴァの綺麗な金髪は当分の間真っ白に燃え尽きた状態の白髪だったのは此処だけの話である。

「唯一の救いは学園長の許可さえ下りれば、書類に判子一つで麻帆良の外に出れるようになった…って所かな?
 魔力はそれだけじゃ戻らないみたいだけど」

この事が後にどう響くかは現状では誰にもわからなかった。
少なくともマキは…。

「(ネギまのエヴァ関連イベントは変わっちゃいそうねぇ)」

と、だけ考えていた。
ちなみに石動は途中でマキに断りを入れてエヴァとナギが固まっている間に帰ってしまっている。

数分後に表面上は復活を果たした二人は場所を変えて旧交を温める事にした。
まぁ、ぶっちゃければエヴァの自宅であるが。

「さて、お前の事だどうせ私のコレはついでだったのだろう?」
「……次いでって訳じゃないがよ、他に用事があるのも確かだ。
 少し相談に乗ってくれ」

ナギは指摘された事を認めつつ、今自分が…自分達が抱える問題を始めて全部エヴァに告げて相談する事にした。
その内容は余りにも知名度が高くなりすぎて自分自身が狙われるのは勿論の事、自分の妻となったアリカの事だ。
嘗ての大分烈戦争でアリカが自国を犠牲にしてまで掴んだ平和だが、その事が大きく響いてしまっている事を。
そして自分や周囲の取り巻く環境のせいで上手く身動きが取れない事。
なんとかできないだろうか?と。

「ふむ、ナギ、こっちを向け」
「あ──ぶべらっ!?」

エヴァはナギが顔を向けた瞬間、容赦無しにその顔面を殴りつけた。

「貴様の話しだから話しだけは聞いてやったが、何だその気の抜け様は!
 貴様は何時からその様な腑抜けになった!
 嘗て世界を敵に回し、そして世界を救ったあの時の覇気はどこへ消えた!!」
「なっ…!」
「今の貴様を見ていると虫唾が走る!ただの『英雄』でありたいのであればそのまま流されてしまえ!
 本当に護るべきモノを見失うような貴様の事などもう知らん!出てゆけ!!」

エヴァは子供が癇癪を起したかの様にナギに物を投げつけ非難する。
ナギはエヴァに此処まで強く否定されるとは思っていなかったが為にほうほうの体でエヴァのログハウスから逃げ出す事となる。

「エヴァちゃん、辛い役目を任せちゃってごめんなさい」
「ふん、全くだ……大体あの男も見る目がないし度量も狭い!
 私が居ると言うのに別の女と…結ばれるなど…!」
「エヴァちゃん…」

エヴァは僅かに目じりに光るものを浮かべながら愚痴る。
その表情は僅かな怒りと失恋の悲しみであろうか?とマキは思う。

「と、言うかマキ!貴様には前々から『エヴァちゃん』等と子供扱いで呼ぶなと言っているだろうが!」
「うわっ、今度はコッチ!?」

エヴァの立ち直りはマキが思っていたよりも表面的には早かった。
それはきっと、5年間の麻帆良での生活である程度こうなる事も予想していたと言うのもあるのだろう。


一方のナギははアソコまで痛烈に否定されたのが堪えたのか肩をしょんぼりと落としながらログハウスのある林の奥へと脚を進めていた。

「本当に護るべきもの…か」

何となくではあるが、ナギ自身自分が本当に選びたい道は見えていた様に思う。
だが、その道を選ぶ事を不安に思ってしまったのも事実だ。
嘗ての仲間に進退極まりない迷惑を掛けてしまう、そう言う思いもあったが故に。

「まったく、どうしたら良いんだよ」

軽く溜息をつきながらナギは歩く。
すると、そこで懐かしい顔と再開した。

「ナギさん!こんな所で会えるなんて…お久し振りです!」
「お前は…タカミチ!?何だ久し振りじゃねぇか!元気でやってたか?」
「えぇ、当然ですよ。ソレよりも何だか元気がありませんね?」

タカミチは嘗てのナギを知るからこそ、今のナギが空元気で自分にあわせていると気付く。
だからこそ、自分達らしいヤリ方で行こうと思った。

「そうだ、此処は一つボクと手合わせを願えませんか?アレからボクも結構鍛えたんですよ」
「いや俺はそんな気分じゃ───」
「ほぅ、ナギさんともあろう方がボク如きに恐れをなして引く、と?
 なるほど、確かに今の貴方じゃボクの相手じゃありませんね。
 そんな気の抜けたコーラみたいなナギさんなんて、そこいらのチンピラよりも殴り応えが無さそうだ」

そう言って皮肉げに鼻で笑うタカミチ。
明らかな挑発であると判っていても…ナギはカチンと怒りを感じる。

「いいぜ、相手になってやる!テメェのその鼻っ柱ぶち折ってやるから覚悟しやがれ!!」
「ソレでこそです」

2人は其々に戦闘態勢を取る。
ナギは杖を片手に拳を握り締め、タカミチはほぼ一瞬で咸卦の気を纏って全力をいつでも出せる状態だ。

「(以前よりも咸卦を纏うの掛かる時間が遥かに少ない!?)」

ナギは知らない事だが、タカミチに新たなライバルである石動が現れた事により、向上心と対抗心が刺激され今まで以上に鍛錬に力を入れた。
特に、咸卦を身に纏う為のタイムラグを無くす為の特訓が最重要課題であったのは言うまでもない。
ナギはタカミチの成長に驚きつつ攻撃手段を模索する。
咸卦を纏った状態のタカミチには生半可な魔法では効果が薄い。

「雷の射手・収束50矢!小手調べだ!喰らって置け!」
「その程度…!」

タカミチは矢に対して即座に無音拳を放つ事で迎撃する。
だがそれはナギの狙い通りでもある。

「脇が甘ぇ!」
「だが、ソレぐらいこちらとて!」

瞬動で接近し、雷を纏った拳で殴りかかろうとするナギをタカミチは地を滑らすかの様な動作を含めた上段回し蹴りを放つ。
ナギは当たる直前でソレに気づき、素早くガードを行うがその威力は咸卦の力もあってとてつもなく重く、そして鋭い。

「ぐっ!?」

重い一撃は体重の軽いナギを防御の上からあっさりと弾き飛ばすに至る。

「ボクはコレで長く貴方の戦い方を見続けてきたと言う自負があります。
 勿論貴方もボクの戦い方など十分ご存知でしょうが……貴方の動き、既に見切っています!」
「ちっ!吼えていやがれ!ぜってぇ俺が勝つ!!」


そんな2人を見守る4対の視線があった。

「男って単純だなぁ……でも、こういう単純さが時々羨ましいかも」
「そういう物でしょうか?私としてはせめて事前に一言有れば、と思いますが」

マキの言葉にエクリアが返す。
彼女は内心で溜息をつきつつ小規模の月匣を展開し維持している。
これにより、内部と外部を隔離し一般人が紛れ込まないようにしているのだ。

「……へぇ、タカミチも短い期間でまた腕を上げたなぁ」
「奴はまだまだ成長期みたいなモノだからな、今の内にどんどん強くなるに越した事はなかろう」

タカミチの面倒を見ただけあって、タカミチが褒められるのがなんとなく嬉しいエヴァはそういう。

「だけどナギの調子、本当に悪いな。俺とやった時よりも動きの切れが悪い」
「何だ、お前ナギと戦ったのか?」
「あぁ、良い所までいったと思ったんだけど逆転負け。最初から全力でやりあってたら判らないけどね」

一応ではあるが、石動の全力は完全武装状態の事を示すのであって、ただ単に私服の状態で剣を持つだけが本来の戦闘スタイルではない。
様々な装備や道具、魔法を状況に応じて使い分けるのが石動本来の戦闘スタイルだ。
閑話休題、今語り合うべきは別に石動の事では無いだろう。

「ま、難しいよなぁ…護るべきモノがあるってのは」

思い悩み、それが動きの切れの悪さにダイレクトに出ている。
ソレはこの場にいる誰の目から見ても明らかだ。
タカミチには悪いが、ナギの本来の実力と比べると難敵と言うほどでもない。

「そうだな……だが、私はナギには何時でも小僧の様な自由奔放さと誰をも照らす光で居て欲しいんだ。
 だから、あの様な私の我侭だがな」
「きっと、だからこそタカミチもナギに挑んだんじゃないかな?」

遠目に見て、ナギとタカミチの勝負は拮抗していた。
いや、テンションの差もあってかタカミチの方が押しているようにも見える。
2人は大声を上げて叫びながら拳を交える。

「やれやれ、人のこたぁ言えないがとっても『昭和』な雰囲気だねぇー」
「実際に彼等の世代の風潮的にこの展開が自然、ですね」
「まぁ、私が言うのもアレだけど2人とも見事な昭和世代だからねー」
「いや、お前はそもそも英国人だから昭和は関係無いだろう」

そんな感じで4人が会話したりしていると……。

「俺は…
 俺はアリカと添い遂げる!!
 邪魔する奴は全部、この拳で殴り飛ばしてでもアイツと…うおぉぉお!!


ナギは魂の咆哮と共に石動と戦った時以上の雷を纏ったアッパーをタカミチに食らわせる。
その雷はインパクトの瞬間に拳より放たれ、大地から雷が天に放たれるかの様に遡る。
そして、叫ばれた台詞はその場に居る全員の魂に響く、決意と覚悟を纏った物だった。
まぁ、一部はソレに加えて…

「「(ちょ、一部だけだけどガンダムネタキタ──!?)」」

などと無駄にネタに喜んでいたが。

「ふぅ、ナギの無様な姿を見てやろうと思っていたが、ヤレヤレ…トンでもない惚気だ。
 マキ、後でナギに私の所に顔を出すように言っておけ、ついでにタカミチにもだ。
 後は…石動、エクリア二人にも当分の間手伝ってもらうぞ。
 返事は『ハイ』か『YES』以外聞くつもりは無い」

エヴァは少し呆れた様子を見せながらも、どこか満足げな表情で次々に指示を出す。
最後のセイフ等は次元の狭間で仕事で苦労している某女神様の様でもある。

「はいはーい、お任せあれ」

マキはそう言ってボロボロになっている2人の元へ行く。

「しゃーない、俺もダチの為なら一肌脱ぐのはやぶさかじゃねーしな」
「進さま、アンゼロット様から依頼がある際や、今お受けしている依頼と今回の依頼の折り合いはきちんと付ける様、お願いいたします。
 それさえ護って頂けるのであれば私も協力しましょう」
「ウゲッ…了解だ。
 何はともあれ準備が必要だな。
 エクリアさん、俺たちは一度家に戻って必要になりそうな資料とか持ってこよう。
 俺は書斎にある魔導書や倉庫にしまってある薬剤やその他資材を用意する。
 エクリアさんは俺名義で世界魔術師協会から必要と思われる物資を適当に見繕ってくれると嬉しい」
「はい、わかりました」

石動とエクリアも「それじゃあまた後で」という台詞を残してその場を去る。

「ふっ、くくく!
 こういう風な事をするのは本来私の柄ではないし性分でもないが…。
 ナギ、あれだけ大見得を切ったのだ、キサマの覚悟を見せてもらうぞ!」

エヴァはどこか楽しそうにニヤリと笑うのだった。

「さて、そうと決まればジジイの奴は勿論、最終的には狭間に引っ込んでいるあの女もキッチリと巻き込んでやらなければな!」

こうして原作など何処吹く風と言わんばかりに物語は進み始める。
それはきっと転生者であり、ナギの妹にしてアリカの義妹であるマキだけでは為し得ることは出来なかった事だ。
石動という、一人の人間が偶々その運命の糸をエヴァの元に手繰り寄せたから起きた新たな道筋だ。

無論、まだどうなるかなど誰にもわからない。
もしかすれば全てが御破産になるかもしれないし、まるっとうまくいくかも知れない。

「くくく、楽しくなってきた。
 これだから、人と関わるのは楽しい」


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*Result!*

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※ナギとアリカの2人に生存フラグ1が成立いたしました。
※エヴァのコネクション:ナギ(片想い)→(守護)アリカ(恋敵)→(守護)に変化しました。
※マキ、エヴァ、タカミチ、石動、エクリアの5人に
 『ナギ&アリカを必ず守り通す』という共通の誓いが生まれました。

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[9874] 12:果報は寝て待て。
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:20ee5328
Date: 2010/10/19 00:13
ゴールデンウィークが開けて早数日。
石動は学生生活と麻帆良の広域警備員のバイトの傍らにマキや世界魔術師教会の情報網を通じて『聖杯戦争』の為の情報収集を行ったり、エヴァ、タカミチ、学園長、マキを筆頭としたメンバーで極秘裏に『ナギ&アリカの生存フラグ確立委員会』を結成して会議と方策を練っていた。
ちなみにマキの独自の情報網を使って元・紅き翼メンバーの一部やその他にも頼れる人々とも連絡を取り、マキが個人的に絶対の信頼を置くメンバーの協力を取り付けてある。

「で、それは良いんだけど何でマキがウチに居座るんで?」
「え~、良いじゃないのよ。
 向こうにいても辛いのよ、あのバカップルのせいで」

そう言ってのけたマキ。
春野邸は現在、ナギ・アリカ夫妻がバカップルを演じていて避難してきたということだ。
屋敷の警護には常時神鳴流の剣士が付いているから安心だ、と言う。

「そもそも、京都から埼玉まで逃げてくるってどうよ?」
「逃げてくるって言うのはタテマエで、本当はエヴァ達との作戦会議兼研究の為って言うのが本音よ」
「……そうか。
 で、俺は何をしたら良い?
 正直な所、協力をしようにもそちらさんの背景を詳しく知らないから迂闊に手を出せない」

石動がマキに尋ねると、マキはうぅんと唸る。

「正直、今必要なのは政治的な能力や策謀って所なのよね。
 しかも、個人じゃなくて…世界が一つ動くようなレベルだし」
「そりゃ残念。俺の得意は斬った張ったのゴリ押しとかだ。
 流石にそっちの分野じゃ役に立てないな。
 魔法関連なら、任せろって言いたいぐらいだけど…」

そう、幾ら戦闘能力が高い石動でも、政治的な能力と言われると非常に低いと言わざるをえない。
剣を振るい、魔法を研究するのとは全く違うことなのだ。

「まぁ、当分はこちらからの要求は無いかな?」
「そうか、わかった……それじゃあ、詠春さんの依頼の方に専念するか」

そう言って石動がリビングを出ようとした所で、リビングの扉が開きその扉の向こうに居たエクリアが口を開いた。

「依頼されていたキリツグ・エミヤとその従者に関する情報が入りました」
「んじゃ、話を聞こうか」


キリツグ・エミヤ…もとい衛宮切嗣。
「魔術士殺し(メイジマッシャー)」と名高く、近代兵器(銃器、重火器)で武装した戦闘能力が非常に高い魔術使い。
数多の戦場を駆け巡り、最小限の犠牲で勝利を得る事で有名。
どこまでも冷徹にして怜悧であり、彼に狙われて生き延びた物は居ないと噂される。
属性は火と土と目されており、その素早い動きは忍者様でもあり、近接先頭は勿論、銃を用いた狙撃術、様々な暗殺術にも長けている。
時間制御と類される魔術を用いる為、その行動速度は常人を遥かに上回り対処は困難である。

現在は魔術師の名門、アインツベルンの婿養子としてアインツベルン領に滞在している。

従者…久宇舞弥。
衛宮切嗣のサポートを行う低位の魔術師。
戦闘技能そのものは「それなり」だが、何よりも特筆すべきはサポートとしての腕前が高いこと。
情報収集から物資調達を一人で出来る事以上に成し遂げている節があるとか無いとか。

現在は冬木市に滞在し、情報収集を行っている事を確認された。

同時に、アインツベルンが冬木市郊外の森の奥に所有する城についても情報が入ってきた。
コレに関しては関西呪術師協会の監視に引っかかったから気付いたらしい。

「なるほど…ね。
 この程度なら勝てない相手でも無いな」

石動は頷いてそして先ず間違いないと判断する。
衛宮切嗣の固有時制御に関しては石動自身も把握している。
自分の時の流れを倍速から3倍速、4倍速まで加速できる能力。
だが、それだけなら別段恐れるほどの物ではない。
早く動かれるのならそれを封殺できる環境、手段を整えれば良いだけの話だ。
それに人間の俊敏さの倍以上の速度で普通に動き回る敵とだって戦って勝った事がある石動からすれば、かつて憧れた物語の登場人物といえど今では勝てる相手だ。
唯一気を付けるべき項目は衛宮切嗣が保有する起源弾という銃弾だ。

「ま、使われる前に潰せば問題にならないか」

そもそも、常人の倍速だの3倍速だのは、ぶっちゃけソレがどうしたって話である。
石動にしたってやろうと思えば常に常人の倍速や3倍速で動けるし『加速』すれば更に早いのだ。

「やるなら時間停止とかやって見せろっつーの」

笑いながら言う。
流石に時間停止されれば勝ち目は無いのだから。

「そんな俺に勝てるんだから、やっぱナギの奴はバケモンだよなぁ…」

完全武装ではなかったとはいえ、それでもあの時点での全力で戦い、そして負けたのは事実だ。

戦闘はやはり、スピードとパワー。

そんな事を考えながら、石動はエクリアに問いかける。

「聖杯戦争の……大元となっている場所はまだ特定が?」
「はい、そちらの方は地元の協力者も動いているのですが、未だに特定が出来ません。
 あの街は元々龍脈の力でそれをカモフラージュしていた所もあるのでしょうが、
 現在は聖杯戦争前という事もあり魔力密度が高まっており気配を霍乱。
 更にカモフラージュ効果が高くなっているようです」
「マジか……魔力探知とか苦手だから全部任せたかったんだけど……。
 アンゼロットからもこの『儀式』を確実に潰すように言われちまってるしどうしたもんかな」

いっそ、メテオで円蔵山ごと吹き飛ばすか?と石動は呟くがそれで確実かと言えばそうでもない。
どのぐらいの深さの位置にあるか、とか龍脈への影響をどうするか?とかそもそもメテオで吹き飛ばしきれるのか?という疑問がある。

さらにもう一つ大きな問題がある。
そんな大魔法を使えば敵に回す相手が多すぎるのだ。
並大抵の相手を敵に回しても問題は無いが、極普通の生活っぽいことが出来なくなるのである。
これは石動にとってはとても大事な事だ。
なにせ、元々そういう生活環境に戻りたくて異世界で何十年も冒険をしていたのだから。

「地道が一番ですよ。どういう手段を使うにしろ、進さまの能力をフルに活用出来れば特に問題は無いと思われます」
「むぅ……まぁいいや、わかった。
 取りあえず地道に参加者を説得するなりOHANASHIするなりするか」
「うわっ、いきなり真っ黒発言だね。
 なんか悪役っぽいよ、ソレ」

さり気なく会話に参加するマキ。

「てか、相手はあのエミヤ・キリツグ?
 うっわー…あたしあの人スンゴイ苦手なのよねー」
「……もしかして、知り合いか?」
「一度ガチで殺しあった仲、かな?
 紅き翼が指名手配を喰らって、偶々単独行動で情報収集している時にね~。
 ナギ兄ぃの救援が間に合わなかったらアパートの天井に潰されて死ぬ所だったわ」

とても厭そうな顔をして語るマキ。
ちなみにアパートはアパートでも外国で言う所のアパートなのでマンションの事である。

「エミヤって戦闘技術だけじゃなくて、もっと厄介なのがトラップよトラップ!
 地雷にクレイモアは当然として、時限爆弾にビル爆破、コレでどれだけ無関係の人が巻き添えを食ったか…。
 それに必要とあれば一般人が居ようと関係無しに飛行機にロケットランチャーも打ち込むしね…。
 あの悲観主義の似非正義男はとっととくたばった方が世の為人の為よ!
 アイツのせいで助かるはずの人間が助からなかった、なんてザラなんだから!」

マキが感情的になってそう言い放つ。
その姿にエクリアもそう言えば…と思い出したかのように口を開く。

「エミヤの独断行動、並びに勧告無視によりロンドンの時計塔や現地組織を始めとした協力組織との連携が寸断され
 幾つかの侵魔やゴースト、その他陣外からの救出作戦が失敗に終ったと言う報告を聞いた事があります」
「……なんつーか、とんでもねぇ疫病神だな、オイ」
「彼がもう少し、他者と協力する姿勢を取れれば防げた悲劇も多いでしょう…」

それらの言葉を聞いて、石動は思わず溜息をつく。
かつて憧れた物語の主人公は、この世界に於いてはどうしようもなく疫病神だと言う事実。
まぁ、元々の世界でも疫病神っぽく思われてた気がしないでも無い、とも思っていると不意に家の電子チャイムの音がした。

「客か…?誰かが来る予定はなかったんだけどな。
 ちょっと出てくる」

石動は断ってから玄関まで移動しようとすると…。

「あら、どこへ行こうと言うのかしら?」

「「「!?」」」

一瞬だけその場に居た三人…石動、エクリア、マキの三人が劇画調に驚愕して固まった。
その少女の姿をしたそれは、誰に悟られる事もなくその場に居た。
白銀のセミショートのヘアー、金色の瞳、身長はおおよそ160ぐらいだろうか?スタイルは均整の取れた黄金比を維持しており、その姿は一つの理想系。
着ている物は最近流行らしい赤と黒のチェック柄のミニスカートとヘソだしのシャツ、後ルーズソックス。
そんな美少女という形容しか似合わない少女がいつの間にか石動が座っていた場所の横に座り、石動が使っていたティーカップを手にとって紅茶を飲んでいた。

「ふむ、意外と良い味を出しているわね」

驚愕からいち早く脱した石動はある程度の緊張を残したまま、それでも努めてリラックスして彼女に問い掛ける。

「まさかたぁ思うが裏界の大公、『蠅の女王』ベール・ゼファー?」
「少し意外ね、『イレギュラー』…アンタが私の名前を知っているとは思わなかったわ。
 その通り、私は裏界大公『蠅の女王』ベール・ゼファーよ」

2人の遣り取りにエクリアが月衣から武装を取り出そうとするが…。

「やめておけ、今ここで遣り合っても勝てるヴィジョンが浮かばない。
 負けるつもりも無いがな」
「あら、強気ね。オトコはソレぐらい活きが良い方が遊び甲斐があるわ」

クスクスと笑う姿は愛らしいのだが、いかんせん強力すぎるプレッシャーが僅かに焦りを呼ぶ。
だが、ソレを押し隠して石動はこんな状況だからこそ普段道理にエクリアに話しかける。

「エクリアさん、茶菓子の追加を宜しく」
「……はい」

エクリアは石動の指示に従いその場を後にした。

「さて、では早速交渉と行きましょうか」
「交渉?」
「難しい話じゃないわ、アンタ、私の部下になら無い?」
「……わからないな、何故俺だ?
 一応、俺よりも強い英雄様も世の中に入るわけだが?」
「あぁ、売約済みの男(既婚者)には興味ないのよ。
 私にだけ愛と忠誠を誓える存在が好ましいわ」
「なるほど、そういうこと。
 確かに売約済みじゃあ面白く無いってのはわかるね」

納得、と言わんばかりに石動は頷く。
この男も異世界で主従契約を結ぶ時は基本的にその辺りには気を使っていた。
後々不満が爆発しました、とか、過酷な場所に連れまわした事で相手の身内の怒りが爆発しましたって言うのは面倒くさいからだ。
ならば、いっその事孤児とか奴隷とか、モンスターと主従契約を結ぶ方が遥かに気が楽なのだ。
ちなみに石動自身も異世界では妻子のある身だったが、妻はこの世界に来る前の年に風邪を拗らせて病死、子供の方も既に成人して自分の手を離れている…と言ったぐあいだ。

「それに、貴方…不老不死でしょう?
 強力で尚且つ目減りしない駒って魅力的よ」
「あらま、何でそんな風に思われたかな?」

石動は敢えて否定しないで問い返す。

「簡単な話よ。
 貴方がこの世界に来た時、私はその現場に居たのよ。
 突然現れてぶっ倒れたもんだから、念のために攻撃して死なせたと思ったんだけど…。
 まさかあの状態から復活するなんて思って無かったわ」
「………」

石動はほんの数ヶ月前の事を思い返す。
月と、強力な魔力反動による吐血、その後の気絶までしか記憶に無い。
詰まり、死んだのはその後だろう。

「ま、そんな事はさておき…。
 どうかしら?こちらに付けば好きな事をやりたい放題よ」
「ふぅむ、やりたい放題っつわれてもなぁ…。
 そもそも、現状で既にやりたい事はやりたい放題やってるよ。
 戦う事、食べる事、知る事、後ついでに良い女とヤる事もね」

その言葉を聞いた瞬間、ボッと顔が赤くなるマキだが、基本的にスルーされていた。

「でも、ヒトのルールのせいで満足できていない部分もあるでしょう?
 そんな煩わしさから逃れられるわよ?」

悠然と笑みを浮かべながら問い掛けるベル。
だが、石動は気にせずに返す。

「その煩わしさすら俺が求めたものだ。
 過ぎた力ばかりだからなぁ、人として生きるには」
「まるで仙人の様な物言いね、見かけは若い癖に」
「その辺りはお互い様って事で」
「あら、私は永遠に美少女であり美女よ」
「俺だって今ん所は永遠に少年だ」

そこまで言ってお互いもうこれ以上言う事は無いか、と判断して最後に石動が口を開く。

「そうだな…俺のポリシーを一つだけお教えしよう。
 『白』でもなく、『黒』でもなく、『灰色』であれだ」
「まるで蝙蝠のような男ね。
 どっちつかずはいずれ身を滅ぼす、とだけ言っておいて上げるわ」

石動の言葉に、ベルにしては珍しく忠告めいた事を言う。

「ソレは…どうも。
 ところで、俺はてっきり魔王…というか侵魔ってやつはプラーナを付け狙うもんだと思っていたが、何もしないでいくのかい?」
「藪を突付いて殺しても死なない面倒な敵を作るよりは、放置しておいた方がマシでしょう。
 私はね、このおもちゃ箱の様な箱庭の世界をもっと玩びたいのよ。
 態々時計の針を無用に進める気は無いわ」

それだけ言うとベルは来た時同様にふっと消えてしまった。

「おもちゃ箱…ね。魔王だけあって言う事違うわねー」

ベルのプレッシャーから解放されたマキが溜息混じりに言う。

「まったくだな。でも、大分まとを得て居ると俺は思うよ…。
 幾つモノ本来バッティングする事の無い要素を内包して居る世界。
 そのごちゃ混ぜ具合はまさしくおもちゃ箱と言うにふさわしいんじゃ無いかな?」
「まぁ、言われてみりゃそうよね。
 ネギまにフルメタにとらハにメタルギアに仮面ライダーに後は…型月関係にTRPGにその他諸々。
 うん、見事にごちゃ混ぜだわ。
 でも意外ね、石動君だったらネタ的に『実験室のフラスコ』とか言うかと思ったよ」

その言葉に石動はう~んと唸ってから返す。

「まぁ、なんと表現しても良かったんだけどね。
 それにそもそもこの世界は『 』だからな」

石動が言おうとした言葉は何かに遮られたかのように誰にも認識されなかった。
それに気付いた石動とマキ。

「ねぇ、石動君…今なんていおうとしたの?」
「いやだから『 』…ってあれ?
 ……ふむ、どうやら禁則事項の様だな!
 俺はこの世界の存在じゃないから強制は出来ないが阻止は出来るといった所か。
 まぁ、この程度の事は正直どうだって良いんだけど」

石動が口にしようとしたのはこの世界の核心に触れる部分だが、どうやらこの世界の神様は石動の口からネタバレされるのを嫌った様であった。
まぁ、何にしてもネタバレするには時期が早いのは確かだった。

「ま、俺から言えるのは精々満足の行く人生を過ごそうぜって所か」
「何それ?ワケわかんないわよ」

ブーっと膨れるマキに思わず苦笑しながら石動はなだめながら言う。

「まぁ、キニシナイキニシナイ。
 気にしたって仕方がない問題ってーのは何時だってあるもんさ。
 いずれ時期が来たらイヤでも思い知ってしまうんだからさ」

石動はそう言いながら、茶菓子として用意されていたクッキーを手にとってモグモグと食べることに意識を傾けるのだった。


戦争の時期は、まだ遠い。





[9874] Extra02:その頃の冬木市在住の転生者
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:20ee5328
Date: 2010/11/11 22:22
冬木市のとある公民館を借り切って、年若い青年と少年少女達が何も知らない人達からすると謎の会合を開いていた。
その名も『Fate攻略会議!』であった。
公民館の管理人も「なんじゃそりゃ?」とは思った物の、特に突っ込み入れずに事なかれ主義を徹して通常通りの手順で彼等に場所を提供した。

「さてさて諸君、この会議も既に何度か行ってきて、お互いにやるべき事、するべき事は見えてきた事だろう。
 司会進行は私、新庄・歩(16歳・女)がいつも通り勤めさせてもらっている」

どこか硬い調子で司会を行う紺のセーラー服を着た少女。
その容姿はキリリと整いどこか日本刀の様な鋭い凛々しさと美しさを併せ持つ少女で髪は黒髪で長いポニーテールといった感じである。
知る人が見れば『とある魔術の~』の神裂・火織だ、等と言いそうなモノであり、実際に同じ転生者に言われた事がある。

なお、本人申告では前世はデブ・オタ・ニートを窮めた40代の中年だったらしく素敵にダメなニオイしかしない。

もっとも、そんな前世(暗黒ニート時代)と違い今世では『超』が付くほど厳しい家柄に産まれ、両親の教育方針により

『泣き言を言おうものなら即精神修養(滝に打たれるアレ)』

日常的にも

『銃弾が飛び交い目の前で脳漿が飛び散る場所でサバイバル』

をやらされ随分と精神的に太くなったらしい美少女だ。
魔力を扱えないので魔法や魔術などは使用不可能だが、気を扱えるので肉弾戦に非常に強い。
特に刀を持てば神鳴流の師範代とだって互角に渡り合える猛者だ。

「はいはい、いつも通りご苦労さんだな歩」
「相変わらず龍斗は目上の者への口の使い方がなっていませんね」

歩に言われた陸堂・龍斗(8歳・男)は「うっせぇ」と言ってそっぽを向く。
彼は茶髪でスポーツ刈りで短パンが良く似合う元気ないたずらっ子と言う印象を持たせる少年だ。
この中で最年少一歩手前かつ最弱……ではあるが、将来的には一番伸び代があるだろうと思われるメンバーだ。
両親は一般人であるが突然変異的に異能に目覚め、ついには魔術回路まで自力で生成した男だ。
異能の名前は『サイコキネシス』で、『自分の認識野にあるものを動かす事ができる程度の能力』である。
龍斗が認識できる物なら、物を動かしたり防いだり、認識できる範囲で治療を行ったりと以外に万能な能力である。
更に言うとこの能力は魔力や神秘とはなんら関係ない力による『強制力』が掛かる力であり、防御不能の非常に強力でもある。
欠点と言えば使用する際は常に相当に集中する必要があるのだが、本人の集中力が散漫で効果範囲が狭い為半ば宝の持ち腐れ状態と言うことだろう。
龍斗の転生前は4流大学の2年生で成績は下の中程度、ちょっとオタクかな?程度だったそうだ。


「龍斗は凄く桜にあいたがってたからねぇ…今でも忘れられないんだよ」
「な?!光也テキトウ言ってんじゃねーぞ!?っていうか俺の頭を撫でるな!」

鉄・光也(15歳・男)は龍斗の頭をナデナデして文字通り小さい子を可愛がっている状態だ。
彼の前世は29歳独身女性で所謂ロリショタ萌えの腐女子と言う名の淑女であったとか。
彼は龍斗と同じく異能の持ち主で『無限の火薬庫』と呼んでおり、ぶっちゃければ武器の弾数制限が無限になると言うチートスキルである。
最も実際は無限になるのではなく、世界中のどこかから装備中の武器に使用可能な弾薬等を転移、装填できる能力である。
だが消耗も割りと大きい上にそもそも剣也は銃の扱いが苦手なので本人曰く微妙な能力である。
容姿の方は『涼宮ハルヒの~』で出てくる『古泉』と言えば全てが伝わるだろうか?
つまりはそういうことである。

「でもしょうがないよね、りゅーくんが桜ちゃんラブだったのはみんな十分知ってるし」
「あーもう!悠里まで言うかぁ!」

うがー!と吼える龍斗を眺めて笑うのは新庄・悠里(7歳・女)で、転生者ではないがこの場に居る3人の素性を知って尚一緒に居る少女だ。
彼女もまた異能持ちでその異能は単純に『回復魔法(ホイミ或いはケアル)』と呼ばれ、このメンバーで唯一の回復係をしている。
ちなみに『回復魔法』とは呼ばれるが、見るものが見れば『僅かたりとも魔力の変動が無い』事に気付くだろう。

悠里は歩の妹で、お姉ちゃんっ子でもあるが剣を扱うよりも弓等を扱うのが得意で、家のほうで特注した悠里用の小さな和弓で戦う事もある。
近接格闘に於いても合気道を扱い遠近共に現状では龍斗に勝るので上から3番目と言った強さである。
なお、戦闘の際に消費する矢は光也の『無限の火薬庫』から提供される。
容姿の方だが姉に似て美しい黒髪だが、姉と違い緩やかなウェーブを描くロングヘアーを持ち、衣装はゴスロリチックである。
なお、姉と違いもともと度胸が据わっている子と周囲に認識されている為、度胸をつけるための精神修養もサバイバルも体験はしていない。

「話が進まないのでそこで一旦ストップだ。
 先ずはFate関連の報告から行わせてもらう」

歩が一同の雑談を手を叩いて遮りながら宣言する。

「先ず、遠坂家だが…何やら家庭内に不和が生まれつつあるようだ」
「え、ソレってどういう事だよ?凛の奴、何時も通りに見えたんだけど?」

と、遠坂・凛と同級の龍斗が問い掛ける。

「それは表面上のものだろうな。
 私の仕掛けた盗聴器やその他から集めた音声データや盗撮写真から得た情報によると、
 間桐事件の後から夫婦間での亀裂が入り、不和が広がりつつある様だ」

淡々と述べる新庄・歩(16歳・犯罪者)。
実の所、3人にしてみれば今更突っ込む所でもない程に慣れてしまった事なので突っ込む事でもなかった。
何せこの女、海外では親に激戦区で武器だけ持たされて放置され、
生き残る為に何人もの悪漢暴漢卑劣漢に傭兵テロリスト正規兵を斬り殺してきているのだ。
今更その程度で驚けない。

「よくそんなの設置できたね」

光也が感心した様に言うと歩は嘆息して応える。

「遠坂家、魔力感知結界や人間対象の侵入者感知結界、魔力を検知して発動するトラップは多いんだけど、
 機械とかの侵入を感知するトラップも監視カメラも設置されて無いんだ。
 更に、一家揃って機械音痴集団なもんだからそういうのを置く発想も無いみたいだ。
 そしてぶっちゃければリモコン操縦の機材を使って設置すると驚くほどに気付かれなかった。
 流石に室内には設置できなかったが」
「なんと言うセキュリティホール……ぶっちゃけダメダメじゃね?」
「そうだな、間桐の家などあの卑猥な害虫が出るからその様な工作は微塵も出来なかったぐらいだと言うのに…本当、セキュリティが甘かった」

歩の報告を聞き、他人の家の事ながら3人は思わず遠坂家の心配をしてしまった。

「そういや、エミヤシロウの候補って、いるのか?」
「あぁ、ソレなんだけどそっちは歩に変わって僕が調べたんだけど……該当する候補が全然居ないんだよ、これが」
「「えー?」」

光也の言葉に年少組み2人が不満そうに声を上げる。

「でも、その代わりに面白い情報がある。なんでも冬木に仮面ライダーV3…っぽい名前の壮年の男性が居るんだ。
 風見・志郎(41歳)……おおよそ7年前に冬木に越してきた男性で、赤毛の少年と河川敷を散歩したりしている姿を目撃している。
 彼らは親戚かそれに準ずる間柄の様で、妹の子供、とか甥っ子、志郎伯父さんとか言う言葉が聞こえた。
 で、更に彼等の近辺調査をしている時に偶然聞こえたのが『仮面ライダーV3』って単語だ」
「……それ、本当か?
 ライダーまでいんの?この世界」

歩の疑いの言葉に光也は憮然とした調子で返す。

「嘘を言ってどうする。
 ソレに他にも裏づけはある、この新聞のコピーを見てくれ」

その新聞には『仮面ライダー』と言う単語や『ショッカー』から始まる悪の秘密組織の名前や怪人の出現情報が記されていた。
その始まりは1971年であり、最期の出現者はBlackRXの1988年となり、3年経過した今では新しいライダーは出現していないようだった。
更に先ほどの妹の~と言うあたりが気になった光也の調査で、風見志郎は両親を殺され妹も致命傷を負わされたものの即死には至らず、顔に縫い後がある黒マントの凄腕の闇医者によって問答無用で救われたと言う噂がある。
ちなみにこの闇医者に関する噂は都市伝説的なものであると言われているが、その割には様々な場所でそのうわさがあるという。

「この世界って、何なんだろうな、本当に……ありえないくらい混ざりまくりじゃね?」
「全くだ……この状況でよく、この世界はこの状況で落ち着いていられるものだ…。
 この状況だってワケがわからないというのに更にコレだから、な」
「案外この世界は、誰かが見ている夢、だったりしてね~」
「ははは、ソレは幾らなんでも無いでしょー悠里ちゃん」

声を上げて笑う転生者3人とその光景を見てにこりと微笑んでいる一人の少女。
自身が夢の産物だと普通は認めるはずもなくあっさりと否定される。

「さて、引き続き報告だが……先日、私が京都に行った際に奇妙なグループと遭遇した。
 高校生ぐらいの男と大学生ぐらいの金髪の美女、中学生ぐらいの茶髪青目の美少女。
 最後に小学校低学年ぐらいの黒髪少女という世にも珍しい組み合わせの集団だ」
「なにそれ?その男、ハーレムですか!?」
「全員美女美少女でしかも上は大学生、下は小学校低学年ってドンだけだよ!?
 えぇい、なんと妬ましい…もげてしまえば良いのに…!」

龍斗の嫉妬溢れる言葉を聞いてうんうんと頷く光也。
だが、此処で思わぬ声が上がる。

「私も見た瞬間は龍斗と似たり寄ったりの事を思ったのだがな……奴を見ていると不思議な事に嫌な感じはしなかったんだよ。
 寧ろそれが当たり前と言うか……何かこう、胸が締め付けられるような…こう切ない感じが、だな」

そんな告白をしてくる歩に3人は驚愕の表情を浮かべる。

「(おいおいおい!『鉄壁の処女』がアレどう見ても恋する乙女だぞ!?)」
「(恐ろしいですね……アレですか、オリ主の絶技『ニコぽ』でも喰らったんじゃないですか!?)」
「(お姉ちゃんには浮いた話もないから、コレが切欠で恋ができるようになるなら私応援するの!)」
「(でも、相手はハーレム男だぜ?)」
「(そうですね……僕も叔母風呂の悪夢を忘れたわけではありませんし……その男次第では…)」

そう呟いた光也は首を掻っ切るジェスチャーをする。

「そういえば、叔母風呂で思い出した。何十年か前にとんでもない殺人事件があったって聞いたな。
 大富豪の伊能家の親類縁者に関係者が皆殺しにあったって。
 犯人は若い女性で『コイツさえいなければ』と叫んでいたとか…。
 んでもって、殺害方法は不透明で全員が全員、心臓が停止していただけで手段が皆目検討着かないとか。
 ミステリー好きには今でも噂が残っているんだよね、コレ。この間、この事件を題材に『伊能家殺人事件~般若~』って本が出たくらいだし」

そんな事を言う8歳のミステリー大好き男児。

「って事は…叔母風呂恐怖の近親相姦の家系図は存在しないって?」
「そうなるわね…。前世でもそうだけど、今は女性だから余計にあの血族は嫌悪感しかしないし丁度いい情報だわ」
「その殺人犯さん、お姉ちゃん達と同じ転生者だったんだろうねぇ…」

ちなみにその殺人犯は殺人は全て自分の犯行であると認め、既に死刑にされ、血族的にも全て断絶状態になっている。

「っと話が逸れたな。
 問題はその集団の男じゃなくて、女の子達だ。
 女の子達の其々がどうもゲームのキャラっぽいんだよな。
 金髪美女でしかもメイド服…名前がエクリアでどう見ても戦女神のエクリアだし。
 女子中学生は名前がシオンでこっちもゼノサーガのシオン・ウヅキの女子中学生バージョン。
 そして最後の小学生低学年なんだが髪形も服装も全然違ったが……アレ、多分桜だ。間桐・桜」

「「な、なにー!!!!!」」

死んだと思われていた桜の生存報告に龍斗と光也が驚きの声を上げる。

「桜、生きてたのか!?でも、その男と一緒ってどういう事だ??」

歓喜と驚愕の余り思わず詰め寄る龍斗。
歩はまぁ落ち着けと言って龍斗を落ち着かせてから続きを口にする。

「何故一緒にいたのか…ソレに関しては不明だ。
 後をつけようにも見つけた場所が関西呪術協会で、見つけた直後に奥に入り込まれ、しかも相手は協会の長の客人。
 調査しようにも下手をすれば後の仕事にも響くし要らぬ警戒を与えかねない…よって情報は殆ど無いな。
 噂程度では世界魔術師協会に所属する凄腕で、関西と関東の協会の中を取り持つ為に来たのではないか、と噂されていた」
「なんというオリ主的行動……美女美少女美幼女を囲い、凄腕とかもうどんだけだよ」

嘆くように言う龍斗、だがその一方で光也はいい事を思いついたとばかりに声を上げた。

「3人に提案があります。
 彼が真実オリ主であるなら…そして何より桜を連れているならほぼ確実に転生者の類で聖杯戦争に関与すると思います。
 そこで彼を見極めてみては如何でしょうか?
 幸か不幸か正直な話、私達には聖杯戦争への参加は非常に重いものですしね」

そういう光也。
転生者3人は前世でプレイしていたFate/Stay nightを良く知り、またFate/Zeroも知っている。
4人は聖杯戦争で巻き起こる悲劇も知っている。
可能な限り聖杯戦争に横槍を入れ、悲劇を防ぎたいと言う思いがあり。
そして自分たちが住む街を守りたいと言う願いがあった。
それだけに3人の持つ知識を交換し、4人で思考し、鍛錬し、自分達の能力で勝てる相手、勝てない相手が良く分かるようになって来た。

超遠距離からの狙撃銃を用いればマスター達は一部を除いて倒せるだろうが、近距離~中距離ともなれば誰一人として倒せないだろう。
上手くすればアサシン主従は倒せる可能性もあるが、ソレとて英霊が向こうにいる時点で難易度は非常に高いだろう。
否、コチラが一人でも戦闘不能になれば即座に全滅は間違いない。
特に、歩はこの中で唯一の…そしてある程度のレベルを保持する近接戦闘技能の保有者(衛宮キリツグとかは超天敵)である。
後衛が光也チートな弾幕(英霊と熟練の戦士相手には殆ど意味なし)で援護となり、補助を悠里(とはいえ前に出ると速攻でやられる)
有望株の遊撃が龍斗となる。
この場合、龍斗が有望株と評され遊撃になるのは『サイコキネシス』の力がそれなり以上に有効だからである。
何せ防御不能の強制力である。上手く決められれば一撃で相手をノックダウンできる。
勿論、発動して命中すれば…であるが。

そんな不安材料も多い彼等にできることといえば、一つでも多く策を練るか、或いは外部戦力を招き入れるか、それとも諦めて逃げ出すかの3つである。
無論、3つ目は最悪の事態の最終手段であり、最も安易で最も取りたく無い選択肢であるのは言うまでも無いだろう。
外部戦力を招き入れる、と言う件は既に歩が関西呪術協会に依頼しており、なんと協会の長直々に事情聴取を受け「わかりました。この件、我々にもメリットはあります、お任せください」と言う言葉を受けた。
そして、先日関西呪術協会から電話で連絡があり、世界魔術師協会の『執行者』と『ロンギヌス』。
関西呪術協会の腕利きが2名の計4名が援軍として派遣されることとなっている。

「なぁ、そういえば世界魔術協会ってなんだ?」
「そのことに関しては私自身も詳しい訳ではない。
 だが、関東ではなく世界とくるのだから……
 もしかすれば一国に止まる組織ではなく、国連の様な世界を股にかけるような組織なのかもしれないな」

龍斗の質問に歩が応えるが殆ど不明。
無論、光也にもわからないし悠里は首を傾げて一同を見ているだけだ。

「とりあえず、それまでに私たちが現地戦力として行うべき事は冬までに『大聖杯の位置を突き止める事』
 そして『足手纏いにならない程度の戦力になる事』の二つだな」
「せめて、もう少し時期や場所が絞れれば心強いんだけどね」
「しょうがねーだろ。そこら辺は冬ってぐらい、洞窟に関してはそもそも細かい行き方は文章で表現されていなかったしな」

大聖杯の位置を突き止める事、コレは簡単なようでいて実は意外と難易度が高い。
大聖杯に至る為の洞窟なのだが、これのある山は既に判明している。
円蔵山と呼ばれる柳洞寺のある山の中腹辺りである。
それが見つからない理由は認識阻害の結界により、辿り付く事が出来ないのだ。

「それでは、方針も決まった所で探索と修練を積み、後で後悔しないようにしよう」
「「「おー!」」」




[9874] 13:お仕事は唐突に。(前編)仮面の英雄と兵士と…
Name: なっつん◆59f82f50 ID:27560a42
Date: 2010/06/21 08:29

「と、言うわけで石動さんには魔王が興したテロ組織の壊滅に向かってもらいます」
「ちょっと待て!何が『と、言うわけで』なんだ、何も説明受けてないぞ?!」

石動が目を覚ますと、そこはアンゼロット城のバルコニーの椅子の上。
ちょうどうまい具合に背にもたれて眠っていたようだった。
そんな石動の寝顔を起きるまで紅茶を飲みながら待っていたアンゼロットは割りと暇人なのか?と悩むところである。
実際はそれほど暇でもないのだが、わざわざ時間を作ってこうしていたりするのだが。

「なんだって俺はここに……いや、いうな。なんとなく判った。エクリアか」

アンゼロットの後ろに控えていたエクリアの方がピクリと震えた。
正解のようである。
ちなみに、エクリアを呼ぶ際に"さん"の敬称が外れたのは一種の抗議でもあるのだろう。

「あ~…ようやく頭が回ってきた。仕事か」
「ハイ、仕事です」
「テロ組織の壊滅か」
「はい、その通りです。後魔王の殲滅もお願いします」
「つか、そういうのに向いたウィザードっていないのかよ」

思わずげんなりして問いかける石動。そんなに人数が居ないのだろうかと思い、思わずたずねてみた。

「テロ組織の人員自体はイノセント……つまり普通の人間です。そして今回相手取るエミュレイターは、そちらに通常手段で対応しつつ更に魔王も倒す事が可能な人員となるとかなり難しいんです。
 そもそも、ウィザードの人材自体が希少。更に要求を満たすとなれば、後は言わずもがな、ですよ」

詰まる所『今の時点』ではウィザードの数も大した事が無い上に腕利きが少ないと言う事だ。
将来的には今を遥かに凌ぐ数のウィザードが居るだろう、石動が思うように、この世界にプレイヤー……というか転生者として生れ落ちているだろう。
更に下手をすれば、隣人は異能者だらけという将来もありうる。しかもみんながみんな異能を隠している世界。
一般人は今現在のティーンエイジまでだとすれば……もしそうなればギャグでしかないだろう。
ちなみにエクリアを含め、現在アンゼロット城に居るロンギュヌス達は全員後方支援のプロフェッショナルであり、直接戦闘向けではない、とアンゼロットが後から付け加えたのは割りとどうでも良い話だ。

そんな思考を振り払い、会話は進んでいく。

「テロ組織の相手だけ通常戦力に任せて、魔王だけこっちが、というわけには?それに月匣は?」
「それでは余計な被害が広がるだけです。通常戦力、つまりイノセント達への被害や手当てを考えると多少危険があっても優秀なウィザードをごく少数派遣するほうが成功率が高いというものです。それに石動さんは不死ですし」

ちなみに石動が不死という情報は、以前の魔王の言葉を報告したエクリア経由でアンゼロットは知り得ていたのだ。

「うわっ、こんな時に人の体質をっ!後、不死でも変動するものはあるんすよ!?主にSAN値っぽいなにかとか!」
「攻撃魔法や目に見えて判る様な魔法の使用は禁じますが、それ以外はどんな手段を使ってもらっても構いません。
 魔法の使用は魔王と直接対決する時のみ許可します。
 次に月匣に関しては少々問題が発生していまして……。
 どういう意図かは理解できませんが、月匣を展開しないし展開させないという方針を採っているようなのです」

石動のリアクションを華麗にスルーしつつアンゼロットは要件を述べていく。
ちなみに、石動の言うSAN値変動は割りと本当のことだ。
誰だって死に続けていれば嫌でも正気じゃなくなってしまうものだ。
とはいえ、アンゼロットはそこもスルーする。
石動自身も言っても聞いて貰えないだろうという諦めがあるのでそれ以上は言わずに思考を切り替える。

「世界結界の保護を前提に行動するこちらとしてはやり辛い相手、というわけか」
「えぇ、唯一つ安心材料があるとすれば、相手も目に見えて魔法や超常の能力と判る力を使おうとした形跡が無い事でしょう」
「エミュレイターにしては珍しすぎるな、それ」

余りにも『らしくない』エミュレイターの魔王の行動に石動は眉間に皺を作ってたずねる。
しかし、アンゼロットとてエミュレイターの心がわかるわけでもないので軽く頭を振ってから話を続ける。

「えぇ……そして揃えてる戦力がこちらも異常で、ロボット……ASや戦闘用に改修されたレイバーが多い様です。
 それこそ、小国ぐらいには余裕で勝てそうな戦力です。アナタが下手を打てば、それらに周辺が襲われ、近隣国家が被害を受ける可能性も考慮しておいてください」
「なるほど、責任は重大だな」

石動はそう言いながらいつの間にか自分の前にも用意されていた紅茶に口をつける。

「……ん?」

紅茶を口に含んだ瞬間、体に何か違和感が走った。
それが何か、は流石にわからない。
石動はついっとアンゼロットの方を見る。
アンゼロットは凄くイイ笑顔をしていた。

「……まさか、何か盛ったか?」
「魔法封印の紅茶です♪貴方の体質なら今回のミッションの間中ぐらいはずっと魔法が使えないだけで済みますよ♪」

アンゼロットが可愛くお茶目にそういうが、流石の石動もコレは許容できない。
何せこの男、魔法が無くなれば戦闘力6割ダウンなのだから。

「『済みますよ♪』じゃなぁああい!」
「あ、武器はこちらで支給する麻酔銃をメインに使ってください。後、今回の任務は可能な限り人的被害が出ないように考慮しつつ施設破壊と敵エミュレイターの撃破。出来るだけ痕跡を残さない様にお願いします」

石動の発言をまるっとスルーしてアンゼロットはトランクを一つ、ロンギュヌスの一人に石動に手渡させる。

「それでは、手早く素早くお願いしますね」

それだけ言うとアンゼロットは彼女の脇に何時の間にか垂れていた紐をグイっと引っ張る。

「ま、まさかっ!?」
「それではいってらっしゃい」

パカっとひらく石動の足許。
即座に魔法で対応するか魔導具を引っ張り出そうとするも魔法封印の効果で魔導具までもが無効化される。
一瞬の滞空の瞬間に必死の形相を浮かべる石動と本当にイイ笑顔をしているアンゼロットの視線が交わる。
してやったりと薄く笑みを浮かべる少女の貌としてやられたと絶望する男の貌。

「先に地獄で待ってるぞぉぉぉぉぉぉぉ……」





1時間後。
石動は中東の森の中で目を覚ました。

「……ここは?」

呟くのと同時にPrr Prrと0-Phoneから通信が届く。
通信を開くとなぜか雰囲気が変わった気がした。ついでに0-Phoneを耳にあてたときに変なノイズもした。
石動はもうなんだかなぁ……と考えながら相手の言葉を待つ。

『石動さん、お目覚めですね?』
「あぁ、それよりココはどこだアンゼ─」

『 石動さん、いえ今の貴方はコードネーム・バックスタブです 』

「バックスタブ……後ろから刺す?まるきり暗殺か通り魔だな」
『その通り、標的と施設を気付かれずに近付いて滅多刺し、詰まり再起不能にするのが貴方の仕事です』
「そりゃ了解してるが、でアンゼ─」

『 今の私の呼び名は形式美に従い『大佐』です。いいですねバックスタブ 』

「どこの形式美だよ……いや、了解した大佐」
『この通信は普段の通信と違い強力な呪術暗号通信という独自技術を用いて行っています。なので会話の傍受に心配はありませんよ』
「いや、そんなことは気にしてないんだけど」
『さて、今貴方がいるのは目標地点……敵拠点から南5キロほどの地点にある山林です。隠密性を気にしなくていいなら直接現場に墜としても良かったのですが、それをするといきなりゲームオーバーですので諦めてくださいね?』
「いや、ゲームオーバーって……まぁいいけどさ」

その心はこの世界はゲームの設定も多々混じってるからだったりするのだが……この世界はこの世界で石動にとっても、この世界の住人にとっても『現実』なのだ。


『とはいえ、その辺りもギリギリ相手の哨戒範囲内。敵兵士のイノセントの目を掻い潜り、極力戦闘を回避しつつ先ずは敵拠点まで移動してください。バレれば相手の警戒レベルが上がってしまい潜入も破壊工作も暗殺も困難になるでしょう』
「……それだったら、本職の忍者にでも頼んだ方が良かったんじゃないか?」
『石動さん、いえバックスタブ……始めにも言いましたが、我々ウィザードは人手不足なのです。
 忍者を雇ったとして、施設破壊までは何とかできたとしてもエミュレイター相手では確実に負けますよ?
 私は残念ながらそういった無用な犠牲者は可能な限り控えたいのです』
「………俺は?」
『貴方なら大丈夫でしょう?授業で当てられると面倒だからと学校生活でも無意味に隠行を駆使し、極力目立たず程々に無難に学生生活をエンジョイしている貴方なら』
「なぁんかトゲあるなぁ。アレは殆ど習慣なんだって。気付いたらやっちまってるからどうしようもない」
『隠行するのは良いとしても、それを悪用して家に帰って恋人と淫行している様では流石の私も怒りますよ?
 相手がニート寸前のややダメ女でも』
「いや、でもマキ先輩のアーティファクトって結構面白いし……。一応引き篭もってるのは研究してるからで、ニートではないような?あ、後淫行とか言わないで欲しいな。なんか犯罪っぽいし」
『黙りなさい馬鹿ップル。実年齢の差はジジイと子供でしょうに……。 くたばれ、地獄で懺悔しろ』

静かに、だけど迫力の篭った声音でアンゼロットはそれだけ言うと通信をきった。
石動はやれやれと呟いてから自分の脇に転がっていた、アンゼロットから渡されたトランクを開けてみることにした。

その中に入っていたのは、サイレンサーが一体化したやや形の変わったコック式の拳銃と麻酔弾と書かれた8発の弾が入ったカートリッジが5つだった。
それ以外には特に何もなし。

「いや、幾らなんでも明らかにブツが足りなさ過ぎだろう」

単独での潜入任務、魔法使用不可、武器はサイレンサー付き麻酔銃。

「なんという無理ゲー……家に帰ってゼルダがやりたいよ、マジで」

この時点で石動は気付いていなかった。
自分の立場がかの有名な蛇の名を持つ潜入工作員と同じようなことをしている事実に。
そして、こういう事態には『戦場』が『英雄』を招きこむと言うこの世界のお約束を。




所変わって石動とは敵拠点を挟んで90度違う方向から同じようなアプローチを試みる一人の男がいた。

「ここが人々が連れ去られ、洗脳されて兵士にされていると言う施設か」
『分かっていると思うが、今回の任務はその施設で極秘に開発されていると言う機動兵器の破壊だ。できれば洗脳されている人々は殺さない様にして欲しい……できるな?』
「何度目ですか、ボス。任せてください。もっとも、敵兵士に関しては努力するとしかいえませんが」
『構わん、だが…期待しているぞ、ジョニー佐々木』
「当然だ」

そう言われて『J』のワッペンが額に輝くマスクを被った迷彩服のMSFのスタメン戦闘員、ジョニー佐々木は不敵に笑う。

『あぁ、それと……以前の様に腹痛で戦闘不能になんてなるんじゃないぞ?フルトン回収中に地上では惨劇が起こったそうだからな』
「っ!!耳に痛いな」

彼の名はジョニー。ジョニー佐々木だ。父の名前もジョニー、息子の名前もジョニー。3代揃ってジョニーであり、更に前の先祖もジョニーであった。
彼の一族は軍人の一族で、男ならば代々ジョニーと名づける慣例があった。
勿論、他の名前に変えようとした事も有ったらしい。
だが他の名前にしようとするといきなり違和感のある名前しかでなくなるそうだ。
だから、男が生まれればそいつはジョニーなのだ。

更に言えば、代々胃腸が弱いのもジョニーなのだが。

『最後に……未確認の情報ではあるが機動兵器がメタルギア…ZEEKやピースウォーカーの複製かそれを元に作られたと思われる大型兵器であると疑われている。
 もしもそれと遭遇すればタダでは済まない』

 余談となるが、通常のレイバーは5m~8mの小型中型であり、戦闘用レイバーが8m~9mの中型、アームスレイブも軍事用レイバー同様に8m~9mの中型、そして大型は全高もしくは全長、全幅のいずれかが10m以上で誰が見ても巨大であると認識した機動兵器が該当する。
これには現状ではとある特定の国家に所属しない傭兵達の所持するメタルギアシリーズやAI兵器郡、非人型レイバーやアームスレイブが含まれる。


「だが、ボスはそのタダでは済まない相手を倒し続けてきた」
『昔の話だ。それに仲間の協力もあった』
「だが、要になったのは何時だって……いや、これ以上はいう必要も無いな」
『そうだな、今は昔を語るよりも前に片付けなければいけない事もある』
「あぁ、わかっているさ。それにしても、コレに関与したのがアメリカやソ連ではないっていうのが今でも眉唾物だが……」
『どちらも理解しているのさ、先に攻撃すれば、そのまま世界を破滅に導く報復戦争の連鎖へと繋がると。
 だからアメリカもソ連もこちらの行動を裏で支援している……手柄を横取りする気は大いにあるようだがな』
「手柄なんてくれてやれば良いさ。泥を被る気も無いけどな」
『そうだな……。作戦開始1分前……30……20……10』

ボスがカウントを続ける。ジョニーは黙ってカウントを聞く。

『…0。単独奇襲作戦、状況を開始せよ!』




「ふぅ、案外気づかないもんだな……やっぱり普通の人ってこの程度なんだなぁ」

隠行を駆使して物陰や景色、環境音にまで紛れ込んで進む石動。
途中、何度か近くを巡回中の歩哨が通り過ぎたが特に問題なく行動できていた。

「途中で拾った枝葉とか、キチンと活用できてよかったよかった……っと」

密林とも言える山中を越えていくと少し広い場所に出た。
そこには一般の兵士と比べると存在感がやけに強い他とは違った衣装の男が居た。

「………そこか!」
「っ!?」

投擲されたナイフを寸でのところでキャッチする。

「素晴らしい陰行だが、やるのなら体臭も消すべきだったな侵入者!」
「ちっ、テメェは犬かっ!?」

苛立ちを隠さず悪態をつく石動。自信を持っていた陰行を見破られた上に肝を冷やされるというのは彼にとっては屈辱でしかなかった。それだけの自信を持って行動していたのだ。

「くく、オレは貴様を冥府に誘う地獄の番犬…ケルベロスだ!」

男が宣言すると同時に、男がしょっていたリュックの様な物から機械音と同時に男の顔の左右にひとつずつ、犬の頭を模した機械の頭が出現する。
その姿に軽く感心しつつも、名乗りに少し子供っぽさを感じてしまう。

「まぁ、アンタが誰であろうと何であろうと関係ない。ココで一晩ぐっすり寝てもらおうか!」
「ほざけ小僧が!」




一方、その頃ジョニーはとんでもない危機を迎えていた。

「な、なんでマスクドライダーがココに!?」
「ほう、俺たちを知っているか」

巨大な赤い目を持つマスク強固な防御力を持つ全身スーツを身に纏い、赤いマフラーと銀の手袋が特徴的なサイボーグ。

「マスクドライダー・ファースト(1号)か!」
『いかん、彼らと敵対するのはまずい!なんとかして交戦を回避しろ!』
「いわれなくとも…!」

何とか交渉で戦闘を回避しようとした瞬間、ジョニーはゾワリと下腹部を鷲掴みにされる痛み……腹痛を味わい、その激痛に思わずかがんでしまう。
そして、その直後、ジョニーの頭があった場所に銀色の塊が通過した。

ライダーの拳だった。

交渉は無理ぽ。逃げた方が良くないか?よし逃げよう。

「─────!」
「待て!逃がさん!!」

ジョニーの逃げ足はライダーが思っていたよりも断然速かった。
そして何より場所が密林の山地。兵士の家系に生まれ、才能に恵まれたジョニー一族にとって、そこは自分の庭といっても過言ではないのだ。
闇に紛れ、森に紛れ、そして駆け抜けた末にライダーはジョニーを見失ってしまった。

「くそっ、捕らえて情報を得ようと思ったが、失敗か!」

ライダーは様々なレーダーや通信能力を持っていたのだが、この森や山に入ってからそれらが一切機能しなくなっていた。
ライダーに残されたのは持ち前の頭脳と身体能力だけという状態だった。
それ故に情報は貴重だったのだが……。

ジョニーが敵兵と似た様な格好をしていたせいで完全に警戒させてしまったのであった。
ただ、これはジョニーが悪いと言うわけでもない。兵士が迷彩服を着るのも、素顔を隠すためにあるいは顔を環境から護る為にマスクを被るのは普通の事なのだ。
どちらかといえば、ココに仮面ライダーが介入しているという事実の方が異常だったのだ。


「さて、なんだか色々とすっ飛ばした感じだけど……超人兵士って言ってもやっぱり"ヒト"だなぁ」
「ぐかぁ~……」

石動とケルベロスの戦いは、当たり前といえば当たり前だが石動の勝利だった。
たとえ魔法が封じられていようとも持ち前の身体能力や戦闘技術まで失われるわけではない。
相手が"イノセント"であれば勝つのは難しいことではなかったのだ。
故に、ケルベロスの頭だけを狙って5本の麻酔弾を撃ち込むのも不可能な話ではなかった。
とはいえ、相手のラッキーヒットで機械の頭から火炎放射を浴びてしまい、そこそこ服が焦げてしまったのは残念だった、と石動は思う。
撃ち込んだ麻酔弾を回収し、石動は一つ息をついてから、今度は油断しないぞ、と心に決めて基地のある場所へと体を向けた。

「さて、さっさと先に進むか」







石動がその場を後にして1時間ほど経った頃一人の兵士がケルベロスの眠りこけている場所に立ち寄った。
それは仮面ライダーと言う脅威から辛くも逃れたジョニーだった。

「アレ…?こいつは……ボスッ!」
『どうしたジョニー』
「ブリーフィングででてた『ケルベロス』を発見したんだが…」
『なんだとっ!それでどうだ、どういう状況なんだ?』
「ケルベロス以外の姿はなく、ケルベロス自身も眠っています」

状況自体は不明だ。サボっているのかそれとも何者かとの交戦の末こうなったかは不明だ。

『ふむ、目覚めて敵対しても面倒だ。今のうちにフルトン回収だな』
「了解、お空の旅を経験させてやりましょう!」

そしてケルベロスは空の住人となったのだった。



To Be Next...




[9874] 【本編ではなく】リリなの速攻クリア編【あくまでIFな嘘予告】
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:27560a42
Date: 2010/03/07 22:33
※本話は本筋のストーリーや各参加タイトルのキャラの出番に煮詰まったなっつんがストレス解消に書いた【IFな嘘予告】です。
 本筋でリリなの編をやる際はこういうオチではなく、もっとまじめなオチのつけ方をすると思われます。



2002年
紆余曲折を経て何時もの如くアンゼロットの依頼で海鳴市…隣町に仕事やってきた俺とエクリア。
今回の事件に関する情報は、トリッパーの後輩からたっぷりと教えてもらっているので大体の筋道は理解している状態。完璧である。

そして引っ越してきたマンションで、いきなり敵候補に出会った。

「と、言うわけでフェイトちゃん、キミのお母さんに会わせてもらえないかな?」
「え、えっと・・・母に何の用でしょうか?」

何のかんのでうまく誤魔化し、いざ時の庭園へ。
交渉スキルの高い俺を舐めちゃあかんよお嬢さん。


「と、いうわけで、娘さん復活させれるけどどうすんよ?」
「やれるもんならやってみせなさい!」

プレシアを相手にブラフとはったりと本音を交えてどうにかこうにか言い負かし、必要な情報を揃えた。
そしてプレシアに「やってみせろ」と言われたので石動は四次元ポケットの魔法で復活の書を取り出し、復活の呪文を読み上げる。

「ゆうて いみや おうきむ

 こうほ りいゆ うじとり

 やまあ きらぺ ぺぺぺぺ

 ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ

 ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺ」

ふざけた詠唱を唱え終わると同時にアリシアが光に包まれ、そして復活の書は塵となって消える。

「もょもと乙…と、言いますか本当にそれが呪文なのですか、進さま」

突っ込みを入れてから問いかけるエクリア。
当然の突込みだった。

「あぁ、本当にコレが復活の呪文だ。
 具体的にはレベル48になってドラゴンすら2回殴るだけで殺せる猛者になっちまう復活の呪文だが」
「って、本当に『もょもと』化するんですか?!」
「うん、イルヴァで試したから間違いないよ。
 この間まで貧弱なぼーやだった冒険者も拳のみでドラゴンにかつる!」

ガッとガッツポーズを見せる石動、しかし誰も見ていない。
そして蘇るもょもと(アリシア)。

「もょもと(アリシア)ー!」
「おかあさーん!」

がっつりと抱き合うもょもと(アリシア)とプレシア。
本当なら感動のシーンかもしれないが、復活の書の呪いで名前が『もょもと』となっておりぶっちゃけギャグとかコメディに成り果てている。

俺とエクリアはフェイトに上手い具合にカバーストーリーを騙り、精神的ダメージが少しでも少なくなるように調整を行う。
勿論、俺とエクリアの説明でも十分精神的ダメージを受けるだろうが……その辺りはプレシアのフォローに期待である。
折角復活したアリシアに嫌われたくなければ精々上手くフォローして見せろ、という話だ。

「なにやら呼称がおかしくなっている気がしますが…?」
「世の中、何の代償もなく願いが叶う訳じゃぁないんだよ」
「『もょもと』化させなければよかっただけでは…?」
「いや、マジごめん。『もょもとの復活の書』しかなかったんだ」

なんだかんだで何か起きる前に大団円。
もょもと(アリシア)の名前は『もょもとの復活の書』の強制力は中々強烈な強制力が働いてる模様。

「んじゃ、あとはジュエルシード回収して後は終わりだな」

その後、見覚えのないガキんちょ達に邪魔されたが『沈黙の霧(何故かAMFと言われたがなんだそりゃ)』で魔法使用不可にし、ひっとらえて御用にした。
中でも一番凶悪だったのがツーサイドテール?の少女と小動物のコンビで、砲撃魔法が恐ろしくやばかった。
けど、反応速度が遅かったので沈黙の霧→手加減攻撃コンボであっさり御用。
全員見事に保護者に雷を食らわされてガックリしていたのは良い気味だった。

はっはっは、おにーさんを舐めちゃいかんよ?
体も心も永遠の高校二年生なんだぜっ!

あっさりとジュエルシードを全部ゲット&強奪し、オマケでガキんちょから取り上げた赤い玉っころと小動物に偽装した変態少年を世界魔術協会に預けてお仕事終了である。

「そういや、テスタロッサ一家の事は遭遇したお陰でギリギリ思い出せたけど…主人公って誰だったかなぁ」
「何の話です?」

後に願いの杖をもょもと…もといアリシアが使用して改名を願い、元の名前に戻して一件落着。
ちなみにその時にプレシアも若返りを願って若返った。
俺はコレクションの願いの杖の魔力が尽きた事に絶望した。

がっでーむ。


無印編、終了のお知らせ
そしてそのままA's編


あの後、地球にそのままいついて麻帆良にご案内となったテスタロッサ母子のマンションの部屋に向かい、俺は唐突に用件を切り出した。

「と、言うわけで…ウチの上司の命令でなんかヤバ気なロストロギア回収があるらしいのでプレシアさんヘルプ」
「しょうがないわね、アリシアの恩人であるススムの願いだし手伝うわ」

とのたまうのは見た目年齢20歳のプレシアさん。
土気色だった肌が健康的な色艶に……
ご近所の青年達にモテモテでお困りだとか。
なんだか男運とか悪そうだから変な男に捕まらないように気をつけてもらいたいものである。

「と、言うわけでサクっと借りて参りました。コレが闇の書です」
「わたしの家族ゲットの為にもあんじょうよろしゅう頼みますわ!」

闇の書を見せる俺と、車椅子の上から頼み込む八神はやて嬢。
俺の部下に偶々転生者が何人か居て、その一人に情報をもらったお陰でかなりスムーズにはやてを説得できた。
交渉レベル100以上を舐めてはいけない。

「ふぅん、これが悪名高い闇の書ねぇ…思っていたよりも見かけは普通……とは言い切れないのが微妙ねぇ」
「で、なんで私が別荘を提供せねばならんのだ」
「そこはほら、異界の魔法や異界の古代技術を知れるチャンスって事で目を瞑ってくれよ」

と、其々の返事を返す次元世界でも有数の頭脳と魔力を持つ天才プレシア・テスタロッサと
600年の長き時を生きた不死の魔法使いエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
今回はこの2人と俺の3人で協力して闇の書を攻略するのが目的だ。
本当ならマキも巻き込もうかと思ったが、

で、エヴァンジェリンの別荘にて過ごす事(外の時間の流れで)1週間。
割とあっさりと異常部分の修復と転生システム、防御システムと強制蒐集システムを沈黙、破棄させた。
超天才大魔導師と600年の時をいきた真祖の吸血鬼、そして俺。コレだけ豪華なメンバーがそろっていてダメなら誰がやってもダメだろう。

「ま、所詮は黴の生えた旧式ってことね。セキュリティホールだらけで笑えたわ。
 この程度の仕事ならスカリエッティでも十分だったんじゃないかしら」
「まったくだな。カウンターだけは強烈だが、穴をつつけばこれほど脆いとは。
 所でスカリエッティとは?」
「でも、中々面白い術式だったねぇ……勉強になったよ。
 まぁ、3人も揃えば楽勝どころの話じゃないねー。
 スカリエッティっつーのは管理局の黒い所担当のマッドサイエンティストだよ。
 お尋ね者になってたはず」

「「「はっはっはっはっは」」」

「んじゃ、セキュリティホールを埋めつつ」
「システムの単純化と」
「余分な機能を別の媒体に移す作業をするか」

更に(外の時間の流れで)7時間後、出来上がったのは闇の書改め夜天の魔導書。
分化したシステムからは烈火の書、湖畔の書、鉄槌の書、鋼盾の書の4つである。
分化してはいるがこれらは夜天の魔導書と其々の書の間には魔力的なリンクがあり其々につながりがある。
夜天の魔導書は魔法を蒐集し登録する事と、人の姿に変身したり、所有者に憑依して所有者の能力にブーストを掛けたりできる。
分化した4つの書は人に変身し、夜店の書の所有者を守る守護騎士、ヴォルケンリッターとなる。

「って事だけどはやてちゃん、わかったか?」
「とりあえず、家族が増えるんやろ?」

全然分かっていなかった。

「……ごほん!はやて。体の具合はどうかしら?
 以前よりも良くなっている筈なのだけど」
「あ、そういえばなんか何時もよりこー…動きやすい感じがするんやけど。
 流石に足は動かれへんな」
「なら、成功とみて良いかしら?」
「そうだな、とはいえ弱っていた体の機能が全て戻るわけでもあるまい。
 当分はリハビリが必要となるだろう」

と、プレシアとエヴァが言う。

「んじゃ、俺は次の処置してきますわー」
「「次の処置?」」
「むふふー、下手な干渉者が現れる前に、色々と処置をして置かないと世界結界がやばいんで」

そう、例えば管理局とか管理局とか管理局が干渉する前に何とかしろというのがアンゼロットからのお達しだったのだ。
と、言う訳で俺はエクリアさんを引き連れて海鳴に戻って。
駅から出た瞬間。

「むぁたてめえかー!」
「此処であったが百年目ー!」
「俺達の嫁との輝かしい未来の為にー!」
「「「テメェは此処で死ネ!」」」


強烈な魔力の斬撃が、強力な魔力からなる魔力弾が、とどめは全てを吹き飛ばしかねない魔力砲が石動に襲い掛かる。
が、石動も慣れたもので。

「はっはっはー、その程度で俺を打ち負かそうなんて片腹痛いわー」

と、魔力斬撃で血を滴らせ、魔力弾でぼこぼこにされ、魔力砲で焼け焦げた姿のまま言った…と思ったら消滅してしまう。

「「「なっ!?」」」

驚く少年達の後頭部にゴリッと硬質の物が押し当てられる。

「チェックメイトだ、小僧ども」
「大人しく武装を解除し、お縄に着きなさい」

種を明かせば簡単で、式神を先行させて攻撃を受けさせ、後ろを取ってチェックメイトである。
超至近距離なので防御系の魔法を発動しても最早効果はない。
ちなみに、彼らが動き出した時点でエクリアの手によって月匣を展開し、一般人達との隔絶を行っているのは言うまでもない。

「さよ~なら~」
「「「お、おぼえてろよー!」」」

介入者を今度は世界魔術協会に売り渡し、紹介料という事で石動の懐が暖まり、アンゼロットの戦力が増える。
損(?)をするのは襲撃者の少年達だけである。
ガンバレ少年達、次に会うときはアンゼロットに忠実なロンギヌスメンバーとなっているだろう!

改めて八神家に向かう。
駅から更に進んで待ち受けていたのは…。

「あ、石動さんお待ちしてましたよ~」
「石動か……遅かったな」

なにやら硝煙の匂いを燻らせている妙齢の美女と右目に眼帯をつけた、いぶし銀な初老の男性……ぶっちゃければ俺の友人である宇津木紫苑とビッグボスだった。
ちなみに、2人の足元には麻酔弾をこれでもかというほど打ち込まれて首から上が笑える事になってるネコ耳のコスプレ美女が2人。

「あっるぇー?何でシオンがここにいんのさ?それにビッグボス……もといジョンさんまで」
「ここにいる理由ですが…久し振りに実家に顔を出したら、ジョン小父さんが丁度ウチに来ていたので、 世間話とお散歩を兼ねて此処を通りかかったんです」
「アマルガムやエグリゴリ、アンブレラと色々と暗躍している奴等の活動が小休止状態でな。
 数年ぶりの長期休暇が取れたんで、久し振りにこの地に寄ったのだよ」

ジョンが旧交を温めようと握手を求め石動はソレに応じる。
交わした握手から、お互いの手にある肉刺の痕や皮の状態から相変わらずお互いに日常ではなく戦場を常とする存在であると把握する。

「ここにいる理由はわかったけど、二人して麻酔銃片手に暴れまわってた理由に関しては?」
「それなんですけど、通りがかったら変な感じがしたんで小父さんと調査してたら突然襲われたんですよ」
「あぁ、最初は攻撃手段に驚かされたが……まぁ、あの手のは初めてという訳でもない。
 奴らの持つ障壁には苦労したが我が社で開発した特殊チャフグレネードのお陰で直ぐに無効化して勝つことが出来た。
 これを持たせてくれたドクターには感謝の念が尽きないよ」

ちなみにそのドクターの名前はジェイルで、通称はやっぱりドクター。
この世界のロボット工学に興味を示し偶々ジョンとドクターが出会い、ジョンの会社に彼が加わる事となった。
そしてジョンの会社では運送の都合上と警備の都合上、『激戦区』が多いので下手をしないでもASや戦闘用レイバーとの遭遇数は多く、鹵獲する事も儘ある。
そういったものをドクターに預けては解析と修繕を依頼し自社の資材にしているのである。
更にジョンの会社の特殊重機動車両(メタルギア)も改造されている。
ジョンも美味しければドクターも自身の欲望を満たせて美味しい。
正に一石二鳥、三鳥である。
そのドクターにジョンが持たされたのが特殊チャフだ。
ちなみに、戦闘中に無線機でジョンがドクターに助言を求めた時にキッチリとある台詞が言われた。

『こんなこともあろうかと!』

もっとも、持たせたのは偶然だったらしいが…。


「んじゃ、取り敢えずこの2人はウチの方で処理するよ。
 あ、後ジョンさん、よろしければ今度お酒でもどうです?
 良い日本酒が入ったんですよ」
「そうだな……世話になろう。
 日本の酒はなんだかんだで呑む機会が少ないから楽しみにしておこう」

ジョンはニッと笑って応える。

「それじゃあ、私たちは散歩の途中なんで帰りますね」
「じゃあな、ススム」

二人はそう言って去っていく。
華やかな美女と連れそういぶし銀の初老の戦士…良くも悪くも対照的である。


「予想外だ、順調過ぎて笑えそう」
「世界魔術協会への連絡は行っておきました。この2人を回収した後はアンゼロット様と管理局の交渉ですね。
 そこまで来るともう私達の出る幕ではないでしょう」

こうして大した苦労をする事もなく、割と速攻で『リリカル』なフラグを完全にへし折ったのであった。
なお、高町なのはと八神はやていう超天才ウィザードが数年後に誕生し、テスタロッサ家の姉妹とバーニングなお嬢様や吸血鬼チックなお嬢様と縁を持って一緒に世界の危機を何度も救うこととなるのはここだけの話である。

「戦争は変わったな」
「玄人と熟年男だらけの戦場が駆逐されつつあるって言うならまさにその通りで」




[9874] 14:お仕事は唐突に。(後編)魔王と俺と正義の仮面
Name: なっつん◆59f82f50 ID:27560a42
Date: 2010/07/01 01:48

山奥の施設で軍服を来たピンクブロンドで釘宮ボイスの美少女が苛立たしげに口を開く。
「侵入者がもう直ぐそこまで来ているの!?」
「ハッ!南の方向から何者かが……ケルベロス中尉以下数名が連絡途絶です!」
「同じく、東の方向から……マスクドライダー・ファーストと思われる仮面を被った敵が接近中です!」
石動とその後を追うような形になっているジョニーの事は詳しくは悟られていない。
だが、その反面で仮面ライダー1号の存在は派手にバレていた。
それも仕方の無いことだろう、彼は逃げも隠れもせずに堂々とバイクを乗り回して中央突破を図っているのだから。
「マスクドライダー…ってもしかして仮面ライダーッ!?!何でそんなのが存在するのよ!!」
司令官である美少女はムキーッと悔しげに通信兵を問い詰める。
「わ、わかりません、マム!奴等は常に神出鬼没で把握できている人間が世界にどれだけ居るかすら不明です!!」
通信兵の言葉は非常に正しいものだった。
仮面ライダーはその能力故に協力して戦うよりも個別に戦い各地で別組織をつぶして動く、というような事が多い。
彼ら自身の仲が悪い訳ではない。あくまで効率なのだ。
ともあれ、彼女が聞きたいのはそんなことではなく『この世界に何故仮面ライダーがいるのか』であった。
勿論、通信兵にはそんなことは分かりはしない。
「仕方ないわね、ライダーには機動兵器小隊を完全武装でぶつけなさい!見的必殺!相手は小さいけど機動兵器以上の脅威だと心得なさい!!」
機動兵器部隊、詰まりは軍事レイバーやASの部隊であった。
「仮面ライダーとはいえ、やりすぎでは……」
「良い?重要な事を教えてあげる。仮面ライダー相手にはコレだって少なすぎるかもしれないわ。本音を言えば広域爆撃でやっとかもしれないと思っているんだからね!!」


その頃、仮面ライダーは大量の一般兵相手に『手加減』をしながら戦っていた。
とはいえ、彼の能力は洒落にならないもので手足が折れるのならまだ良い方で手足がぶっ飛んでいたり、運悪く死ぬ者も居た。
時にはバイクで跳ね飛ばされるものも居た。まぁバイクは急に止まれないのに飛び出すほうが悪いといえば悪い。でも道路交通法的には運転者が悪いというのが常識なのでそこは忘れてはいけないだろう。
その状況に仮面ライダー1号である本郷は焦りと罪悪感を感じても居た。
彼は改造人間、仮面ライダーであるが、その心は人間としての心、正義感を失っていない。
故に現状を良しとできない。
「くそっ!なんとか洗脳された人々を回避せねば!」
バイクを巧みに操り何とか回避を試みつつも進んでいくと、次に現れたのは機動兵器郡と戦闘ヘリの群れだった。
「っ!?」
『侵入者発見!マスクドライダーだ!!総員一斉射撃!!』
その言葉と共に大口径の機銃の一斉射撃が行われ更にはミサイルまで打ち込まれる。
「くっ!?」
何とか銃弾を回避させながらアクセルを全開にして駆け抜けようとするも戦闘ヘリのミサイル爆撃で進路をふさがれてしまう。
「仕方ない……おぉぉぉぉおおおおお!トゥ!」
バイクを上手く跳躍させ、レイバーを足場に駆け上り、そこから跳躍して高所に。更にバイクを足場に大跳躍を行い一機の戦闘ヘリに向かって必殺の一撃を見舞う。


「ライダァァァァアアアアアアアキィィィック!!!」


ヘリのローターを正確無比に狙った怪人たちを何人も爆散させてきた蹴りがローターを破壊し、そのヘリは周囲のヘリを巻き込んで次々とクラッシュ、爆発、さらにそれに巻き込まれたレイバーとASが3機ほど爆散する。
運がどうこうとかいう問題ではない。その全てが仮面ライダーによって計算されつくした上での行動であった。
一瞬で戦闘ヘリ部隊が壊滅しASとレイバーが倒された、その事実に機動兵器乗り達は戦慄する。
『くっ、化け物め!』
「化け物? 違うな、仮面ライダーだ!」
仮面ライダーの後ろで、ヘリが轟々と燃えていた。
その姿は正に戦鬼だった。



その頃、石動は0-Phone越しにアンゼロットと通信をしていた。
「大佐、さっきから遠くから派手な爆発音が聞こえるんだが、何が起こってるんだ?」
『どうも貴方以外の侵入者がいるみたいですね。衛星からの監視では先ほど戦闘ヘリと思われる影が3機全て爆散、余波でASとレイバーも沈んだようです』
「なんとも派手な侵入者だなぁ。大佐、あれじゃ絶対死者が出るけど……いいのか?」
『良いか悪いかで言えば、なんとも言えません。どうしようもない、としか。ですが、あちらが派手に動いている間はこちら側は多少手薄になるでしょう。この機に一気に敵施設へと潜入し敵の総大将を討ち取ってください』
「了解……といっても実はもう司令室についてたり」
『……相変わらず仕事が速いですね。良い報告を期待してますOVER』
「あいよ、OVER」

扉を開けた先に居たのはピンクブロンドの軍服を着た美少女……エミュレイターの魔王だった。

「アンタが南側からの侵入者ね!」
「そのとおり」
「ここまで良くこれたものだわ」
「あいにく、こそこそ動くのは得意でね。それでなくても派手に動いてくれてる見知らぬ誰かもいたし、簡単なものだったよ」
「……ココの警戒網は多少薄くなっていたとはいえ厳重なはずよ、アンタ何者?」
美しい顔に険しい表情を乗せて魔王が問う。
「元・どこにでも居る平凡な日本人男子高校生、現在は世界と世界を渡り歩く観光者という名前の迷子、かな?
 アルバイトで地域の『清掃員』とか『世界の守護』をやってたりもする」
「高校生?観光者で迷子?さっぱりわかんないわね。それに清掃員とか世界の守護って……中二病にも程があるわよ。アンタ頭大丈夫?」
石動が正直に答えると、少女は物凄く気持ち悪いものを見る目で石動を見た。
「テメェ………。まぁいい、お前、何が目的だ?何故ASやレイバーを集め、軍を組織したんだ?」
「そんなの決まってるじゃない。荒廃して殺伐とした妙な魔界っぽい世界から逃げ出してきて、私の大好きな軍事兵器やSFや漫画アニメでしかみないようなロボットをコレクションする為よ!まさかフルメタやパトレイバーが実在する世界だなんて思わなかったわ。それ以外のロボットもあるみたいだしロボヲタクとしてはコレクションするしかないわ!」
石動はそれを聞きながらズボンのポケットに手をやりつつ問う。
「コレクション?まさかその為だけに人々を洗脳したのか?」
石動が問うと少女は呆れた表情で言い返す。
「洗脳だなんて人聞きが悪いわね。彼らは『自主的に』協力しているのよ。ここは元々米軍が駐留していた基地なの。私はこの世界に逃げ込んだとき、偶々ココに転移して保護と言われて危うく強姦されるところだったのを返り討ちにして、気が付いたら解放軍の指揮官だなんて呼ばれてこの立場に居たわ。洗脳だなんて悪者臭い上に面倒なこと、何で私がしなけりゃならないのよ」
その言葉に石動はおいおいと思う。
これが嘘か本当かは置いておいても、一つだけ気に掛かることがあった。
「おまえ、もしかして転生者か?」
「……アンタなにもの?」
その言葉と共に少女の気配が鋭いものとなった。
だが、逆に石動ははぁっと全力でため息をつく。
「平成ガンダムと言えば?」
「VガンにウィングにGガンにXに∀に種と種死、00とユニコーンでしょ常識だわ」
少女は何を当たり前のことをといわんばかりに豊満な胸を張る。
ちなみに、これ等が言えることは別に常識でもなんでもないのであしからず。
「全問正解だな。俺はユニコーン見た事無いけど。ちなみに今はまだ平成ガンダムの出発点、Vガンは来年放送であって、更に言えばGガン含めて移行のガンダムはまだ情報すら出回ってないし下手すると原案もない。これらを転生者以外が知るはずもない」
「……アレ?もしかしてわたし今、嵌められた?」
「(によによ)」
もしかしなくても嵌められていた。
「む、むきー!!!」
「どうどう、落ち着けよ同郷者。でだ、改めて言おうか……俺は世界の守護者の執行人、雇われだけどな。
 『世界の敵』と認定されたエミュレイター……裏界の魔王を俺は倒しに着たんだよ」
「……つまり、私の敵?」
「降伏するなら温情を申し出てやってもいいけど?」
その言葉に魔王は逡巡の様子を見せてから問う。
「…私のコレクションと部下は?」
「部下たちは解放しても良い。こちらは元々それが目的だ。だがコレクションは難しいな。
 だが、こちらに付けば交渉次第ではそれも回収できる可能性はある、その辺はこの電話でウチの上司と交渉しておくんな」
「え?」
そういって石動が通話状態の携帯電話0-Phoneを少女に投げる。
『お話は聞かせてもらいました。本来であればエミュレイターで魔王など言語道断と言いたいところですが、交渉の余地は十分に有るようですね。
 そちらが全面降伏し、兵士たちの武装を完全に解除することを条件にそちらの兵士の無事とコレクションは……設計図からの再現という条件で応じましょう。市場に出ているものであれば再現は更に簡単ですが、いかがです?ちなみに我々独自で開発している機動兵器もあるのでそちらに関してもいかがでしょう?』
等とアンゼロットが勧誘交渉をしているのを尻目に俺は違和感を感じていた。
「(うーん、アンゼロットって魔王を相手にここまでする奴だっけ?なんというか寛容過ぎると言うか……)」
世界の為ならば味方であろうと涙を飲んで切り捨てる鋼のロリババア、それがアンゼロットだ。
だと言うのに今回は敵であった魔王を勧誘している。
「(謎だ……まぁ、なるようにしかならんか)」

暫くして途中で魔王がハイテンションで語っていたりもしたがアンゼロットと魔王の勧誘交渉はまとまり、魔王はアンゼロットの部下となる事になった。
報酬はプラーナの塊(食事)+ロボットコレクションの確保だそうだ。
『と、言うわけで石動さん。任務内容変更です。至急破壊活動を行っている仮面ライダーを止めてください』
その言葉に石動は完全に思考が停止、数秒してようやく再起動を果たす。
「……カメンライダーデスト?」
石動の中で古き良き変身ヒーローのそれが脳裏に浮かぶ。
せまる~(中略)正義の仮面~の仮面ライダーである。
「なんでさ」
『大方、我々と同じ勘違いをしたのでしょう。彼女の持つ『カリスマ』が強烈であるが故に洗脳に近いほど人々を魅了し兵団を築き上げた。
 ただ、何も知らなければ人々を洗脳して兵士にする『悪者』でしかありません』
「……『カリスマ』?」
石動はアンゼロットの告げた言葉に疑問符を挟む。
『単純に言えば強い魔力、強い気、強い霊力といった強い力を持つ人間は同時にそれに見合った強い意志、信念を持って居ることが多いんです。強い力や信念は時に多くの人を魅了します。
 彼女の場合は『兵器・ロボットヲタク』であり同時に物は使って何ぼであるという信念を強く抱いていました。
 そしてその信念に触れて同じく実用重視のヲタクたちが増えて集まってこの兵団が出来上がり、実用の場所としてこの地にいたそうです』
その言葉に石動は頭痛を感じてしまう。
『扱いを間違えなければ彼女はこちらにかなり有利に働くでしょう。特に技術面での発破をかけるのにはかなり良い人材でしょう。なので仮面ライダーを止めて彼女を連れて戻ってきてください。返事は『ハイ』か『yes』でお願いします』
「……はい」
『あ、それと封印の中和剤をエクリアに持たせましたのでもう少ししたら付くはずですよ』



「むぅ、話の内容がさっぱりワカラン」
石動と魔王が居る部屋の外でジョニーは盗聴をしていたのだが、素早い日本語で会話をされていて理解するよりも早く話が進んでまったく理解が出来ない状態であった。
『カズが居ればなんとかなったかもしれんが……タイミングが悪いとはこのことだな』
ちなみに、ジョニーも日本語は理解できるほうだ。実は彼の嫁さんは日本人であり、彼はなんと婿入りしている。
その為、彼の名前は日本では佐々木ジョニー。息子の名前も佐々木ジョニー。日本以外では当然ジョニー・ササキである。
そんな彼であるからして日本語はなれたほうであったが、少しペースが速くなると途端にダメになってしまうのだ。
息子相手の会話も、息子と妻が日本在住の為日本語ベース。故に会話のときは少しゆっくりと話してもらうのが常だった。
「さて、そこの扉に張り付いてるアンタ、出てきたらどうだ?大人しく出てくれば殺しはしない」
今度聞こえたのは流暢な英語だった。
明らかにジョニーの存在に気づいている様子だ。
『ジョニー、逃げられる自信は?』
「ヤヴァイですね、グレイフォックスがガチでキレた時よりもヤバイ感じです」
「3,2,1,ごかいちょー!そして捕縛!」
「へっ?ぬぉあ!!いつの間にか縛られてる!?」

その後、魔王とアンゼロットによる尋問が始まるのだが石動は我関せずと外に出る。
そして外に出たところで石動は彼と遭遇した。

「仮面ライダー……まさか本物と出会えるとはね」
石動は道中で得たナイフとメリケンを装備して呟く。
「……通してもらおう」
仮面ライダーは静かにそれだけ言う。
「本来であればハイどうぞ、というところだけど……俺の上司の指示でね、ここの司令官を無事に連れ帰らなきゃならんのさ」
「……ということは、君も敵、か」
仮面ライダーはそれだけ言うと構えを取る。
「まぁ、そうなるね。出来ればここで退いて欲しいのだけど?」
「話にならない!俺にはココの人たちを解放するために来たのだから!」
「……こりゃ一度頭冷やしてもらうまで話にならないな」

「かかってきな、俺はそんじょそこいらの怪人とは訳が違うぜ?」
石動が戦闘体勢を取り、同時に仮面ライダーもTVで見たようなあのポーズをとる。
お互いに視線でけん制死合いながらもじりじりと距離を詰めて行く…。
「ふん!」
最初に仕掛けたのはライダーだ。
岩をも砕きかねないその拳は石動のボディを正確に狙っているが、それを石動は難なく避ける。
「手加減はありがたいが、無用の長物だ。遠慮なく来ていい」
「……ハッ!トゥリャ!!」
続けざまに鋭い突きと蹴りを放つがどちらも両の腕でいなす。
「(うげっ!?なんて馬鹿力だよ!俺以外だったらいなすだけで腕が千切れ飛ぶぞおい!!)」
今の一撃で両腕に軽くひびが入りそうになっている事実に石動は文句をたれながら全力で間合いを取る。

「むぅ、流石仮面ライダーっつーべきかなぁ。普通より遥かに早い筈の俺にあっさり対応する上にここまでダメージ与えてくるなんて」
「……この程度、かつて戦った怪人達と比べればどうということはない」

なるほど、基本スペックの差か。まぁ、それでもこっちはまだ全力全開というわけじゃない。
言葉を交わしながら更に攻防が続く。
とはいえ、現在のコンバットナイフと麻酔銃なんて仮面ライダーに聞くはずもなく、ナイフはぼろぼろ、銃はスクラップという現実。
「まいったなぁ、天才相手に戦うのは凡才には荷が重い」
「よく回る舌だ。貴様、やる気はあるのか?」
幾度目かの間合い取りと仕切りなおし。
正直、再生能力が高くなかったら今頃腕はミンチだったに違いない。
「俺が依頼されたのはあんたを止めるってことだけさ。倒す必要は特にない……が」
戦闘が膠着したところで凄く都合の良いタイミングでエクリアさんがやってきた。もしかして出待ちか?
「ススムさま、封印の中和剤をお持ちしました」
そういって渡されたのは水筒だった。中身は匂い的にお茶のようだ。
「……またお茶かよ」
ぐいっと一気に飲み干すと、自分の中で突っかかっていた何かが無くなり体中に魔力が浸透するのを感じる。
「っ!?急にプレッシャーが増しただと!?何をしたんだ!!」
「何って……諸都合で一般人を殺さないようにリミッターかけてたんだけど、それを解除しただけだよ」
そういって石動が指を横に真一文字に払うと、その軌跡をなぞる様に空間が歪み、何かの取っ手と思わしきものがその空間から出てくる。
「着装!」
その言葉はぶっちゃけただのカッコつけ、ライダーの「変身!」に対抗してみただけであった。
言葉とともに一瞬だけ魔力放出して強い光を出して姿を見えなくし、更にこういう日(ライダーとであった日)のために3時間ぐらいかけて継ぎ接ぎして改造した新品のアダマンタイトの鎧と合成皮のアンダーを四次元ポケットの魔法の応用で一瞬で装着。最後に某宇宙刑事とか某重甲っぽい派手兜の眼の部分の電飾をONにして被って準備完了。
この間実に1秒以内である。まさに技能の無駄遣い。
しかしイルヴァの名工の手によって鍛えられた鎧本体の方はかなり高性能であり、趣味の産物は残念な事にかなり優秀な魔道具でもあった。
「貴様……何者だ?!」
「ココは敢えてこう言おうか」
気取った風にポーズを突けながら石動は言う。
「通りすがりの観光者だ。覚えておかなくても良いぞ」
ちなみに石動の言う観光者というのは彼の本質を表す天職らしい。イルヴァでは様々な職業があるが本人の資質を的確に表す職業は生まれたころより決まっているらしい。石動の観光者というのはあらゆる意味で本質を得ていた。異世界からの観光者であり、本人自身も旅をするのは嫌いではないという事もあってだ。
「フザケタ奴だ……!」
ライダーが言い終わるや否や急に後ろに跳んで距離をとる。
同時に石動も後ろに跳ぶ。
『ふざけているのはどっちだああああ!』
ライダーが飛ぶ前の位置に巨大な物体が落下してくる。
ズゥンとそれは地面を窪ませ、更に機体を持ち上げて行き同時に姿勢制御を行う際にまるで恐竜の咆哮のような駆動音を鳴り響かせる。
それはこの基地の最終兵器。大軍用制圧機動兵器メタルギアZaWLs、通称ザウルス。
メタルギアジークのデータを基に独自の技術で機動性と防御能力を高めたマシンだ。
武装は機銃からショートバレルレールガン、垂直発射式低速誘導ミサイルに火炎放射に対人空爆クレイモアと結構過激である。また、自重が400トン近くあるので近接格闘だけでも壊滅的なダメージを与えることが出来る。
『よくも私の部下とコレクションを破壊し尽くしてくれやがったわねっ!!部下とコレクションの仇、とらせてもらうわ!!』
そうして始まる巨大ロボットVS正義の仮面。
せっかく変身した石動もなんだか置いてけぼりの状態だ。
流石に今飛び込んでいくとへまをしなくても魔王に巻き添え上等で攻撃されるだろう。
「なにやら正義の味方が完全に悪者扱いされているなぁ。ついでに俺空気扱い?」
「それでもアンゼロット様からの依頼は有効です。彼女とコレクションの確保をお願いします」
「……努力義務って感じでがんばってみる」

さて、この後の展開であるが驚いた事にメタルギアがライダーを圧倒し続けていた。この辺りはメタルギアの性能というよりも純粋に魔王の操縦技能と射撃技能、戦術の高さが起因するだろう。
ミサイルの弾幕で距離をとり、機銃の弾幕で逃げ道を塞ぎ、火炎放射と対人空爆クレイモアで動きを締め付けてからレールガンで大ダメージを確実に与えるという手法である。更には基地内の部下に命令し援護射撃までさせているのだ。指揮能力も高い事が伺える。
そうして雨霰とそれを食らえば回避すら諦めたくなるだろう。
遂に膝を突いたところで改めてライダーに止めを刺さんと銃口を向けた魔王を石動が静止に掛かる。
「取り敢えずそこまで。これ以上はダメだ。仮面ライダー、これ以上戦うのであれば命の保障は無い。
 魔王、これ以上の行動は今後こちらに付くのならやるべきではない」
『だけどっ!!』
「まぁ問答無用なのさ。セイギノミカタって人種にはこれからもがんばってもらわにゃならん。お前の部下たちに関しては……俺が手を打とう」
「くっ…!」
話についていけず、ただただこちらに戦意を篭めた感じで顔を向けるライダー。マスクのせいで表情が丸で見えない。
「さて、それじゃ久しぶりに故郷にかえんな!アザーテレポート!」
「な、何を───」
アナザーテレポート(他者転移)の魔法をライダーにかけてライダーを強制的に日本に送り返す。日本のどこに出るかはランダムだが。少なくともライダーにとって縁のある地に送られることだろう。
本当であれば仮面ライダーと本気の俺で力比べをしたかったけど、残念だけどお仕事中なのよね!
「問答無用で転送したのは決して無視されてた腹いせなんかじゃありません」
「……子供のような逆恨みですね」
「いた!いたたたた!?言葉という刃が俺の豆腐並みの心をすっぱり切り裂くぞ!?」

そんなギャグ空間になり掛けた所を魔王がメタルギアから降りてきて石動に近づいて問い詰める。
「で、アンタはどうやってアタシの部下たちの敵を討つって言うのかしら!?」
いうまでもなくとても怒っている。そりゃそうだ、大事な部下であり同士だった人間が次々に死んだのだからそうなるのも仕方ない。
「まぁ、少し時間が掛かるがそれはカンベンしてくれよ」

死んだ筈の彼女の部下たちは肉片となったり轢殺されたり炭になっていたりしたが全員綺麗に復活した。
この世界には存在しない死者を完全に復活させる『復活』の魔法で。
こうしてこの戦いの死者事態が居なかった事になった。
ただ一人の観光者の手によって。

「ところで、自己紹介がまだだったわね。私は裏界の元魔王、現LMA団の指揮官のマルファス=ハルファスよ」
「……なんだか、どこぞの82柱に名前が載ってそうな感じなんだが?」
「ススムさま、ソロモンの72柱です」
間違いを即座に訂正するエクリア。石動はコホンと咳払いをして話を続ける。
「とりあえず、この『復活』の魔法は割りとレアでな、他の魔法のようにバスガス使えないから次は無いと思っておいてくれ」
「……なんか副作用でもあるの?こんだけ綺麗に死者蘇生させたんだし、寧ろ無いほうがありえないわ」
「……あー、強いて言うなら俺の時間が盛大に無駄になるな」
そもそも石動の使うイルヴァの魔法は基本的にストック制とでも言うべき扱いだ。
魔法を使う為に魔法書を読む。魔法のストックが使用者の魂か何かにたまる。魔力と詠唱を呼び水にストックを使用して魔法を放つ。
この流れが必須なのだ。
こちらの世界の魔法や魔術のように覚えれば魔力のある限り使えるような類ではない。
……とはいっても『復活』の魔法や『願い』の魔法、更には『隕石招聘(メテオ)』といった一部の究極魔法を除けばその大半が魔法書で習得が可能であり、そういった類の魔法は幾ら使っても尽きない位のストックの蓄えがある状態であったりする。
では、魔法書で覚える事ができない魔法はどう覚えればいいか?といえば、かなりの運任せ。寝ている時に赤毛の魔法使いの老人と遭遇し、運良く教えて貰えれば覚えられるといった具合だ。
今回、ライダーが殺しまわったせいで残り使用回数は大体5回程度だ。おのれライダーめ…!
ちなみに赤毛のジー様は今でもたまに夢に出てきて最近では魔法よりも愚痴を聞かされることの方が多いおだが、それはどうでも良い事でもある。

「まぁ、俺もコレクターではあるけど……使い切らない程度に使うのは問題ないな。使ってた方が運用効率がよくなるし。……あ、このコーヒー意外と良いな」
一仕事終えた後、石動は休憩室に案内されてコーヒーとサンドイッチを振舞われていた。
食後は一眠りするかな?と考えていると休憩室に居たもう一人の金髪の男性(20代後半から30代前半)が石動に声を掛けた。
「あ、あんのー……さっき、もしかして普通にマスクドライダーと戦ってたりしました?」
どうやら仮面ライダーとの顛末が気になるようだ。
「へ、あぁ……戦っていましたけど、何か?」
素直に答える石動。
「……よく、五体無事ですんだね」
「んー、修行の成果ってヤツ?どちらにしろ後半の美味しい所は全部メタルギア・ザウルスってのに乗ったマルファス任せだったし」
その言葉を聞いてジョニーは引き攣った笑みを浮かべる。
メタルギア、それは強大な力の象徴である。
そんなのとタイマンで戦って生き残るのは世界中を探しても一人ぐらいだろうと思っていた。
そう、彼の父の代から縁が有るビッグボスだ。
今でこそ老齢を理由に前線を退き後方での指揮が主となっているが、それでも未だに『英雄』としての威光も実力も衰えを知らない。
マスクドライダーも情報の限りではトンでもなさはビッグボスと並ぶかそれ以上の筈だ。
「(それを相手にして生き残り、こうやってリラックスしてコーヒーを安穏と飲んでるこの少年は……化け物か?)」
「健康的な体、スタミナ、技量、生き残るための運。これらがあればライダーを相手にしたって生き残る時は生き残るし、死ぬ時は死ぬ。そうは思わないか、マスクドライダーを相手に逃げ切ったMrササキ?」
「……違いない」
ジョニーは石動に指摘されて自分も仮面ライダーと遭遇し、一方的に戦う羽目になって逃げ延びたのをようやく思い出した。
なるほど、彼に言わせれば自分もまたそうなのかもしれないと言うことだろう。

「さて、向こうさんの準備も終わったようだ。Mrササキ、アンタこれからどうする?ミッションは失敗に近い筈だが?」
「あぁ、そういやそうだった……なんで俺はこんなに和んだ状態になってるんだ、ミッションの最中だっていうのに」

途端に現実に帰されて、頭を抱えるジョニー。彼は仕方なく、上司に報告を入れる事にした。
その間、石動は我関せずと気に入ったコーヒーのおかわりをエクリアに注文していた。

「あー、イスルギくん?この基地とこの基地に居た軍勢ってこの後どうなるか分かるかい?」
「この基地はマルファスノコレクションを除いて放棄。マルファス及びマルファス指揮下の軍勢は解散。マルファスは俺の雇い主の組織に、一部の部下も付いていくんじゃないかな、多分」
推測だけど、というのは忘れない石動。
それを聞いていたジョニーの顔は微妙なものになる。
「……その組織はどういった組織なんだい?」
「簡単に言えば『世界を護る女神様のファンクラブ』?」
 ある意味間違いではない、と石動は思いつつも他に言いようがなかったもんかとも頭を悩ませる。
だってイノセントに世界結界が云々、エミュレイターが云々、おまけにゴースト(未遭遇)云々と言っても伝わるはずがないじゃん?
アンゼロットからも成人してる奴らがそれを知ると頭が残念な事になるから気をつけなさいといわれたし。
今回のマルファスはまだセーフだ。寧ろ俺とか仮面ライダーの方が非常識だった気がするぐらいだし。
「なるほど、流石に情報は洩らせない、か?」
「いや、まぁー……雇われとはいえ守秘義務も有るし、な?」
誤魔化しきれていないし、情報を洩らしているがそもそもその情報さえも誤魔化されたと思われているのどうしようもない状態だ。
「ま、アンタの所属する組織が『世界の敵』に認定されない限りは俺とあんたが戦う必要はない。それに、もう会う事もないだろう、多分」
「そうだな、もしも会うにしても次は戦場以外のどこかである事を願うよ」

こうして一つの事件は幕を閉じた。
様々な人間の出遭いだけを残して。

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*Result!*

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※鋼鉄の歯車フラグが確立しました。
※ジョニー一族に更なる非日常への扉が開かれましたが、戦争という非日常に浸かってるのが普通の一族なので見えざる狂気の影響は出ていない模様です。
※石動は仮面ライダー1号に敵と認識され、他のライダーにも警戒されるようになりました。
※石動のコネクション:マルファス・ハルファス(知人)ジョニー・ササキ(知人)
           仮面ライダー1号(消極的敵対)が追加されました。

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[9874] Extra03:魔法少女 育てましょう?
Name: なつや◆59f82f50 ID:6a52139e
Date: 2010/10/08 19:01
6月の中ごろ、梅雨に真っ盛りの時期。
石動 桜は義理の兄にひとつ、爆弾を投げかけた。

「お兄ちゃん、わたしに魔法を教えてください!」

「……まじっすか」

石動の思考は桜の発言で真っ白になってフリーズした。
復帰したのはそれから数分してエクリアが全員の分のお茶を用意し、マキが石動の額にでこピンをしてからだった。


「でだ。桜はなんで魔法を教えてほしいんだ?
 ぶっちゃけ覚えるのよりも使える様になるまでが命がけで大変だし、戦闘力アリとみなされると学園長やアンゼロットに戦力として扱き使われる事間違い無しだぞ。
 そもそも実入りは良いけど、命が幾つあっても足りないぞ。実際、俺が麻帆良に来てからもウィザードが重軽傷を負ったり、死んだりって話は良く聞いている。
 つい先月ぐらいには子供が生まれたばかりの父親だって奥さんや子供残して死んじまうっていうご都合主義がまかり通らない世界だぞ?
 女だとか子供だとか関係ない。弱い奴は基本的に蹂躙される。強い奴だけが生き残る。まさしく弱肉強食。
 戦場に立てば基本は殺すか殺されるかだ。そんな所に桜、お前は立ちたいのか?」

石動としてはまだまだ警告してし足りないぐらいだが、それでも出来るだけ威圧するつもりで睨み付けて言う。

「それでも、わたしはお兄ちゃんやお姉ちゃん達の役に立ちたいの!」

その言葉を受け止め、石動は考え込む。
魔法であろうと魔術であろうと、根本的に危険で取り扱い注意の必要な技能だ。
そして、石動の知るイルヴァ式は勿論の事、この世界の魔術と魔法は特に幼い頃からの基礎の修行が肝心だ。
例外でウィザード達の取り扱う魔装等も有るが、アレは通常の魔道具と比較して非常に高価すぎて仕入れるのに苦労するしどのみち基礎も出来ていないような人間が扱うには過ぎたものでもある。
石動の資産でも入手は可能だが、果たしてそこまでの価値はあるだろうか?
思考を切り替え桜自身の能力を鑑みる。
桜自身の能力は魔力に関しては類稀な位良い方だ。身体能力に関して言えば同年代の子供たちと比較して平均よりもやや良い程度だろうか。

それに「お兄ちゃんの役に立ちたい」……その言葉は強烈なインパクトを以って石動の心を大きく揺さぶった。
ぶっちゃけていえば、歓喜と萌えで鼻から情熱があふれ出しそうなぐらいに。


しかし、だ。それでも石動はコレでも桜の保護者である、兄である。危ない事をして欲しくないという兄心兼親心を持ち合せているのだ。
うんうん唸る石動に対し、桜は最後の爆弾を放った。

「お兄ちゃん、だめなの?」

上目遣い+涙目の懇願。
そして石動は自分はロリコンじゃないと心に言い聞かせながらも結局首を縦に振ってしまうのだった。
そうと決まればまずは色々と行動を起こす必要があった。

「ススムさま、近衛学園長への報告は済ませておきました」
「ちょ!?手際良過ぎじゃないか!?」

石動が行動を起こすと決めてから、まだ3分も立っていない状態でエクリアの報告だった。

「そしてコチラの準備も整っているぞ、石動。桜を立派な『悪の魔法使い』に仕立ててやろうじゃないか!」

今にもフハハハハーと笑い出しそうなエヴァ。その手には教材と思われる魔道書『はじめてのせいれいまほう』と練習用と思われるタクト状の杖を持っていた。
準備が良すぎると言える。

「……なるほど、外堀は完全に埋められていたのか」

下手をすればある程度の訓練あるいは訓練とまで言わなくても基礎学習を二人が見た上で、本格的な訓練を受ける前の最後の手続きをしにきたのではないか、とまで石動は思った。
そしてそれは正解であった。

桜は以前から自分を助けてくれたヒーローであり家族になった石動とエクリアを尊敬して自分も同じ様に二人と同じ道を歩みたいと思ったのだ。
その事に関して一番初めに相談したのは実はこの家に入り浸っているマキだ。
彼女は気さくで相談しやすいお姉さんであり、同時にそちらの方面でも優れた術者であると石動たちの会話を聞いて知っていたからだ。
エクリアでも良かったのだが彼女は家事のほかにも色々と動き回っていて中々話しかけるチャンスが無かった。だから京都の家を兄夫婦に占領されて居候と化したマキに相談したのだ。
相談をすると彼女は少し考えてから「それじゃあ、エクリアとエヴァも巻き込んじゃおうか」と言い出したのだ。
その後はマキが石動を体を張って引いている間にエクリアとエヴァに魔術や精霊魔法の知識、技術の基礎の手ほどきを受け、それぞれ合格ラインに乗った所で、本格的な練習をすれば隠し切れないという事になったのでようやく蚊帳の外であった石動に話が行ったのだ。
そこまでネタバレされて石動は軽くため息を突く。

結局、『桜』という少女は魔法や魔術の世界からは逃れられないのか、と。
とはいえ強制されるのと自主的に望むのでは大きな差がある。そこは評価しなくてはいけない。
それに桜が学ぶからといって、必ずしも戦闘系になるわけじゃない。

「まぁ学ぶ分には構わないか。どんな技能であってもそれは桜の将来に役に立つ可能性もあるだろうし。
 ただ、やるからには半端にはしない事。キチンと二人の言う事を聞いてモノにするように!」
「お兄ちゃんは教えてくれないの?」
「俺のは下手すると覚える時に死ぬ様な魔法ばっかだからちょっと……」

石動の言葉はかなり事実である。
魔法を覚えようとして魔法書を読む時、下手をすれば魔力を吸い尽くされて死ぬ。狂気に犯されて死ぬ。魔物を呼び込んでしまって魔物に殺されて死ぬ。全て実体験に基づくものだ。
魔法を使う際にも消費魔力が大きすぎてその反動で死ぬ事だってありうる。
そう考えると石動はよくもまぁこんな魔法を自分は使っているものだと我が事ながら呆れてしまう。
桜もそう言われて少し表情が青い。

「と、言うわけで『いのち だいじに』で先ずは精霊魔法や日本に存在する色んな術のどれかを学んでみると良い。幸いその辺りは覚えるだけで命懸けな魔法はないしな」
「う、うん!」
そして桜の魔法少女化改造計画がスタートした。
プロデュースはマキ・スプリングフィールドとエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
協賛はエクリア・フェミリンス。
スポンサーは石動進でお贈りさせられました。


改めて桜を指導する面々を見て石動は「必ずしも戦闘系には」という前言を撤回したくなった。
バリバリの戦闘系になりそうだ、と。

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*Result!*

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※石動桜が修行を開始しクラス:ウィザード/キャスター 属性:冥/虚のユニットとして確定しました。
※石動桜のコネクションが変動しました。
 石動桜→エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(師匠兼友人)

※石動桜の実年齢が修行状況によって加速するようになりました。
 
────────────────────────────────────────





おまけ

夏休み明けのある日の事。
桜は毎日の様にエヴァの家で修行をしていた。
友人には遊びに行くから夏休みが終わるまでかえって来れない、と言い訳をして。
そして石動は細々としたウィザードの仕事でしょっちゅう家を空けていて気づくことができなかった。

「おにいちゃん!」

夏休みがあける直前、家に帰ってきて久しぶりに桜を目にした石動は思わず叫んだ。

「で、でかくなっとる?!」

その後、桜は石動が秘蔵していた祝福された鈍足の薬と言ういわゆる若返りが出来る薬で夏休み前の状態まで戻されることになる。
しかし、戻った後何故か桜は機嫌が悪そうだったとか。



[9874] 15:学園祭1日目=転生者と痴女の化け物~Encount~
Name: なつや◆59f82f50 ID:6a52139e
Date: 2010/10/08 19:13
麻帆良学園を語る上で、絶対に外せない話題は幾つかあるが、その中でも必ず口にされる話題がある。
それは学園都市全体を用いて実施される麻帆良祭である。
起源については諸所語られている。村祭り、神社の祭り、鎮魂、ただ騒ぎたいだけ等、他にもあるがこの祭りは大方の人間に受け入れられているのは間違いないだろう。

そんな賑やかな光景の中、石動はクラスの催し者のビラを配りながら眺めていた。

「平和だ。どこぞの雇い主に呼び出しもされず、警備も深夜のシフトだけ、日中はこうやってビラ配ってるだけでいいんだから……平和だ」

石動がそう言っていると、鬱屈した空気を抱えた男が口元をヒクリと引き攣らせてから口を開いた。

「ほ~ぅ。さっきから人が必死こいて働いている間なんでテメェはそんなに余裕ぶってやがんだ畜生!」

男の容姿は一言で言えばイケメンだ。若者には珍しく総白髪(しらが)……ではなく銀髪。日本人にはあるまじき青目、けど肌の色はキチンと黄色人種。まぁ容姿をぶっちゃけるなら銀髪蒼瞳の草薙京(学ラン版)となる。当然衣装は詰襟の学ランだ、石動や彼が通う高校はブレザーとかではないからだ。もっとも、多少の改造は認められており、白かったり丈が短かったりは驚く事に許容されている。ただし、男子でも女子でも下着(パンツ)が見えかねないのは流石に教育指導室行きだがそれはさておくとしよう。

「ふむ、俺はキチンと仕事をこなしているぞ四季。オマエさんこそあの遠巻きに見ている女子に配ってやったらどうだ?」

そう良いながら石動は背中の方向に居る四季と呼ばれたクラスメイト、四季(しき)神人(かみと)のファンクラブの女性たちを親指でビッと示して言う。ココで簡単に説明しよう。四季神人は前述の草薙京に似たイケメンであり、身体能力が高くスポーツも出来るうえに成績も中~中の上といった具合に悪くは無い上にぶっきらぼうではあるが多分に照れ隠しなどであり基本的に善良で面倒見も悪いわけじゃない。そして古くより伝わる武術の名家の生まれだ。ちなみに現在15歳だ…高校一年だしな。

「はぁ?何で態々……近くに居る奴に配るだけで良いだろう?」
「……これだから鈍感くんは。良いから行ってやれ、仕事が速く片付くぞ」
「訳がワカラン……まぁ仕事が速く済むならそれでいいんだが」
そう言いながらも言われた通りに動くのは効率を考えてその通りならばソレでよりと彼が考えたからだろう、彼はなんだかんだで人の意見を素直に聞いて動いてくれる所がある、勿論理に適うのならだが。

石動はその背を見ながら再び思考する。

気付かない人間も多いが石動が感知した所で神人には4属性(火・水・大地・風)のそれなりに強い精霊の類から直接の加護を受けている。その為一般に人間と比べればかなり強い力を持つと言える。正直に言えば異世界で生活を始めたばかりのころの石動と比較すれば化け物級だろう……麻帆良では少しスゴイ人ぐらいでしかないのはご愛嬌だが。
現在の石動からすれば彼の力は現状では『宝の持ち腐れ』と言った状態だ。彼は現在、あくまで一般人の側に居るからである。鍛え上げれば自分をも超える実力を持つことが出来るだろう。勿論超えられたら必ず抜き返す……と、石動は思う。

さて、件の考察対象はというと普通に女子に囲まれて四苦八苦していた。
助けを請う視線が石動に向かってきた。

(そういう事をすると馬に蹴られるんだけどな……まぁここは生暖かい気持ちで言葉を送ろうか)

「四季、タイムリミットは午後四時半まで。キチンとビラは配り終わっておく事。それまでは四季が何をしていても俺は関与しないよ。なんだったら彼女たちにも手伝って貰うと良い。んじゃ、また後で教室で会おう」
「ちょ、待て石動ーっ!」

一瞬、神人の持つ属性のうち、炎の属性がちょっとした敵意を向けてきたが石動はソレをスルーする。

この様な事態が積もり重なって後に四季から石動限定で八つ当たりっぽい格闘技の野良試合をする事になるのだが、今は関係が無いので捨て置くとしよう。

そうして石動は数時間かけてビラを配り終えて教室に戻り、教室で翌日の準備をしつつ日が暮れ始めてから神人の事を思い出した。

「委員長、四季は戻ってきたのか?」
「四季くん?戻ってないわよ。大方ファンの子に足止めされて四苦八苦してるんじゃないかしら?」

石動の問いかけにお下げにメガネという分かりやすい委員長ルックなクラスメイト、飯田智子が答えた。

「というか、貴方たち一緒に出たんじゃなかったかしら?」
「馬に蹴られる前にアドバイスだけして別行動してた」

この辺りの空気はイルヴァでの長い生活を含めて少しは読める様になった石動だ。
もしもタダの学生だった頃の自分だったら空気なんてまるで読めなかっただろうとは思った。

「仕方ないわね……石動くん、彼を探してきて頂戴。明日の出し物は石動くんの班と彼の班で演奏でしょう」

石動のクラスでは麻帆良祭の期間中、5人1組の班に分かれて演奏を行うのがクラスの出し物だ。
最初はそれなりにブーイングも出たのだが、バンド形式と合唱形式を許可する事でナントカ丸く収まっている。
クラスのメンバーが35人でバンド形式が3班、合唱形式が4班となっている。
合唱形式が多いのは楽譜を読めて演奏まで持っていけるメンバーがそれほど居なかった事に起因するだろう。
石動の場合は彼が異世界で過ごしていた初めの頃、一番使っていたのが弦楽器の演奏と弾き語りという手段で、最初の頃は下手すぎて聴衆に石を投げられて死ぬかけるということもあったぐらいだが、現在ではプロ顔負けであったのは過去の話で……そう言えるほどではないがアマチュアとしては良いレベルの演奏家と言える程度だ。
もう一方でこのクラスで注目を集める神人だが、彼は家の教育で三味線は弾けるがそれ以外は苦手ということだったので、ボーカルを担当している。
ボーカルとしての腕前は良い線をいっているが本人がああいう性格なので、そう何度も人前に出る事は無いだろう。
そして、もしファンの娘達に捕まって脱出できていないのならそれは多少は石動の責任でもある。
後々四季は勿論他のクラスメイトの不評を買うのはよろしくない。

「……仕方ない、行って来るよ」


そうして石動が辿り着いたのは人気の少ない路地裏だった。

「……四季に憑いてる精霊の気配を追ってきたんだけど、何でこんな所に……」

その答えは即座に判明した。
神人が壮麗な槍を振り回しながら女を攻撃していたのだ。

「……どうしたらこうなるんだ?」

様子を見ていると分かるのだが、神人が必死に槍で攻撃しようとしているのだが相手の女はソレをたやすく避けている。単純に実力差が出ていると言える。腕自体は神人の能力は一般人としてはかなりのものなのだから。
だとすれば後は経験の差だろう、多分。

見たところ、異常な力(精霊の力)を振るっているのが神人で何か違和感があるが一般人に見える女が戦っている姿。
コレは一体どういうことだろうか?石動は何度か考えはしてみても答えが出ない。ならば当事者に聞くのが一番だろう。

「そこまでだ!ここ麻帆良でガチの殺し合いとは随分とキナ臭いじゃないの、ご両人!」

少し離れた所から二人に大声を上げて静止の声をかける。

「「!」」

一瞬二人揃って反応するが、女の方はニマァと笑みを浮かべただけだった。

「さて、四季。状況を説明してもらおうか。何でまた女性相手に得物をブンまわしてんだ?」
「そこの化け物に襲われたからだよ!」

神人は油断なく女を睨み付けながら石動に言う。

「どこら辺が化け物?」
「髪の毛の代わりとばかり蛇生やして、爪がホラー映画の化け物みたいに伸びてる奴が化け物じゃないなんていわせねーぞ!」
「あぁら、シツレイねぇ……力をそれだけ蓄えている貴方に言われるのは心外よぅ?」
「そうだな、確かにその通り」

そういわれても石動には少々見た目の良い女が彼と対峙している様にしか見えなかった。
そして女の言葉にも一理あるので同意した。
石動が女に付いたと見て四季は愕然としながらも警戒を強める。

そんな姿を見て石動はおもわず苦笑し。

「燃えなっ!!ヴォォルカニックバイパァア!」
「きゃぁ!?」

一瞬で鉄板の様な剣を召喚して次の瞬間には炎を纏った剣で女を斬り上げていた。
その衝撃と炎で燃えながら女は吹き飛ぶが、その直後には体勢を整えた上で炎も消して見事に着地を決めていた。

「なるほど、俺の目には姿は化け物に見えなかったが確かにああいう風に出来るのは人外だな」
「石動!!お前、今のは!?」
「御託は後回しだ。今はあいつを処理する。見ていろ」

Side Kamito
 石動と分かれ、なんだかんだでビラ配りを女子達3人に手伝って貰い、その礼として喫茶店で紅茶とケーキを一緒に飲み食いして、そろそろ戻る時間になったからと言って彼女たちと別れて戻る途中で俺はソレと出遭った。
四神達も奴に対して警戒を……否、危険だと俺に促している。
だが、本能とでも言うべき何かがアレを逃してはいけないと叫んでいた。
それに俺は転生者だ、しかも厳しい修練を経て更に四神の加護も得ているんだ、負けるはずが無い!
だから、追いかけて人気の無い路地裏にまで行き……女がようやく本性を現した。
髪の毛は途中から纏まって蛇になり、さらに体に何匹も蛇を纏わり憑かせている痴女めいた姿。
その姿を見て何故かやっぱりと思った。
そして俺は槍状の武器、白虎器(ビャッコキ)・嵐星(ランセイ)を構えて攻撃していたのだが。

「くそっ!何で当たらない!?」
「フフフ……」

俺の攻撃は一向に当たらず、女は笑みを崩さぬまま避け続けていた。

(おかしい、どうなってやがる!?)

俺の心の焦りに反応して俺の家族とも言える存在の一人、玄武の西袁が答えた。

(こりゃぁ、経験の差じゃな。向こうさんはどうやら能力や技術はお前さんと同程度のようじゃが戦闘経験あるようじゃ)

経験、それがここまで重く響くものだとは思いもしなかった。
確かに俺は武術に関して厳しい修行を積んできた。だが、本当の意味での戦いはコレが初めてだった。

(せめてもう半歩、踏み込めば変わるかも知れぬが……)

その半歩が俺には途轍もなく遠い様に感じた。
言いようの無い疲れを感じ始めた中、突如としてそいつは現れた。

「そこまでだ!ここ麻帆良でガチの殺し合いとは随分とキナ臭いじゃないの、ご両人!」

現れたソイツは石動進。
四神達から警戒され、クラスメイト達からは頼られている、どこか不思議な奴。
そいつがこの場に現れたのだ。
俺が奴に警告すると、奴は逡巡を見せ、女の言葉に同調して見せた。
警戒する俺に苦笑を見せると、何時の間にかその片手に携えていた分厚い鉄の板に取っ手を付けたかのような剣に炎を纏わせて蛇女に斬りかかっていた。

「燃えろっ!!ヴォオルカニックバイパァア!」
「きゃぁ!?」


一瞬の動作で相手の懐深くまで潜り込み、地面に擦り付けるかのように剣を走らせ自身が飛び上がる勢いもつけた強烈な切り上げ。

「なるほど、俺の目には姿は化け物に見えなかったが確かにああいう風に出来るのは人外だな」
「石動、お前、今のは!?」

驚愕という言葉以外になにがあるだろうか。
どこからとも無く剣を取り出した事。炎を纏った一撃の事。そして何より俺でさえ当てる事の出来なかった相手に当たり前の様に攻撃を当てれる事。

(見事な踏み込みだ。それにあの一撃……あやつの流派は不明だが戦闘に対して迷いも無い。奴は戦闘者としては一流のようだな、それだけに今は敵対を避けたい所だが……)
見事な一撃だ、と思った。青竜の東哈(トウハ)をして唸らせる一撃だったようだ。
(だけど、神人ならアレと同じくとも……うぅん、それ以上の事だって出来るよ!ぼく達のご主人様なんだしね!)
その期待が若干重く感じてしまうが、ソレに答えられるようにありたいとも思う。

「御託は後回しだ。今はあいつを処理する。見ていろ」

何時もよりも迫力がある低い声でアイツは言った。
言外に俺は足手纏いだと。
なるほど、納得だ……少なくとも『今の俺』じゃ相手にならないだろう、だが……。

(神人なら直ぐに何だってできるようになるわ!)

朱雀の南姫(ナンキ)が励ますように言ってくれる。
そうだ、俺だってやれば出来るんだ!

石動が拳と剣に炎を纏わせたショートアッパーと強烈な剣戟で相手を燃やし尽くす様を見ながら、俺は静かに至るべき『目標』を一つ定めた。

Side Out

『敵』をタイランレイヴで消し飛ばした後、石動は改めて四季神人をみた。
警戒状態は解除しているようだが依然、槍は出しっぱなしだ。

「見事な槍だな、ソレが精霊憑きでなければ是非とも買い取りたくなるところだよ」

石動は神人の持つ白虎器・嵐星を一瞥してそう言ってから本題を述べる。

「さて、今回の件は後回しだ。今はクラスのみんなが俺とお前が戻るのを待ってる。明日の準備、しなけりゃならないし」

そう言って石動は剣を魔法で四次元に戻してから伝える事は伝えたとばかりに背を向けて歩き出す。
だが、未だに動かない神人に気付いて声をかける。

「聞きたい事があれば放課後、どこぞのファーストフードでもつつきながら答えるよ。今は早く戻らないとクラスに迷惑が掛かる」
「ちっ、わぁったよ。その代わり洗い浚い全部話してもらうぜ」



そして諸々の準備が終了し日が沈み始めた頃に解散となり麻帆良の学園祭は夜の部へと移行する。
夜の部は大学生や一般人や企業の参加者達が主催する企画が多い。
そして麻帆良の大学や一般人や企業となればその規模は昼と同じかそれ以上に派手で賑やかである。

なお、住宅街に近いエリアでは自重するように実行委員から通達されているのでソレは厳しく護られている。

そんな学園祭の喧騒あふれるBGMを聞きながら石動と神人は大通りの広場に程近い場所にある少し洒落たカフェにいた。
「あ、オネーサン。俺はこのサンドイッチとアイスコーヒー砂糖とミルク付きで!」
「あー、じゃあ俺も同じので頼む」
「はい、承りました!BLTサンド二つ、アメリカンのアイス砂糖ミルク付きが二つですね!」
「「うぃ」」

注文が終わり、さて本題という訳で石動は先ずは神人に先手をとらせる事にした。

「それじゃあ、色々聞きたい事もあるだろう?一つずつ頼むな」

石動は他のクラスメイトを相手している時と変わらない、リラックスした様子で。神人は少し期限が悪そうな表情でお互いを見ていた。

「あぁ、わぁったよ。……単刀直入に言う、お前はなにモンだ?」
「んむ、哲学的には中々難しいな。だから簡単に言おうか。『人間』だよ。それも異なる世界の日本から来た、かつては極々平凡な日本人の高校生だった存在さ。何の因果か剣と魔法のファンタジーな世界に迷い込んで不老不死の神の化身として冒険者生活数十年。ナントカ帰還したと思ったら今度は日本は日本でも俺の出身世界とは異なる日本だった、というのがオチ。特殊能力としては不老不死と魔法が使える程度の能力かな。不老不死つっても死んだら別の場所で蘇るって感じだけど」
「な、なんだそりゃ?」
「ちなみに初期の実力としてはDQのスライムにも辛勝というレベルだったんだが、今ではFFの神龍やオメガにもソロで勝てるんじゃない?ってぐらいだ。
 一般人が相手ならどこぞの一子相伝の暗殺拳を使うまでも無く指先一つでダウンさせることも可能だ」

異世界(イルヴァ)の神々に酒の席に呼ばれてそこで絡まれてその延長戦でガチバトルの乱戦という名のリンチで勝利者に輝いた石動なら、あながち神龍やオメガにソロで勝利というのも不可能ではなかったりする。非常に時間が掛かる恐れはあるのだが……魔法が使えなければ石動は仮面ライダー1号並み(実証済み)と言った所か。
それでも十分人の範疇を超えているのだが気にするだけ無駄だろう。

「何つー化け物だよ……お前本当に人間か?」
「一応人間?だけど、四季も同格だろう。お前さんも鍛えりゃ似た様な事は出来る。まぁ、絶対に勝てない相手がいるがな」
「……それ、もしかして自分の事を言ってるのか?」

ふぅっと溜息混じりに絶対に勝てない相手が居ると告げた石動に対してやや睨む様な目で神人が問う。
石動は違うと言って例を挙げることにした。

「おまえ、レベルが無限とかいうチート相手にケンカ売って勝てると思うか?
 イコールで生命力も魔力も攻撃力も防御力もどれもこれもがチート確定の相手だぞ」
「……ありえねぇだろ。そんなのが居たら地球は今頃滅んでるかソイツのものだろ」
「まぁ、俺の雇い主なんだがな!ぶっちゃけ職業・女神です、勝つとか無理ですゴメンナサイって感じだ。この世界で本人が直接行動しないようにとのこの世界の神、女神様の上司の指示で動かないけど、最強というのは間違いない。ちなみに女神様とその部下と雇われの俺の仕事は、すっごく簡単に言えば主にこの世界を侵略しようとする『魔王とその配下』の侵略行為を阻止する事。ちなみにこの世界には世界結界というのがあって魔法や超常の力の類は基本的に極一般的な何かに誤魔化されやすい環境下にある。これは魔王とその配下を含む様々な敵対的存在の地球への侵入を防いだり一般人に誤魔化しをしたりする結界だ。ちなみに直接統治しないのは先ほどの神様の命令と本人の意向ってやつだな、きっと」

だだーっと駆け抜けるように一方的に告げる石動にやや呆然とした様子の神人。

「そもそも、神様云々、魔王云々のファンタジー要素はお前さんが連れてる精霊達で十分把握しているだろう?」
「アー……まぁ言われてみりゃそうなんだがな。つか俺の連れているのは精霊じゃなくて四神だ。東西南北の守護を司る青龍、朱雀、玄武、白虎の」
「上位精霊だろ?俺が過ごした異世界にも同程度のはよくいたぞ……主に敵で。末路は気にするな、美味かったとだけ言っておく」

美味かった=食べた、である。それを理解した神人は咄嗟に石動を非難した。

「おまえ、本当に人間か!?」
「餓死寸前まで追い詰められた時にイキの良い生物がいたら掻っ捌いて食うしかないだろ?餓死って本当に辛いし。所詮この世は弱肉強食、みたいな? うん、まぁそういうことだ。人間が強い、或いは賢しいから家畜とかの弱者が居てその肉を食う。豚とか牛とか、その他にも狩りとかで獲物を仕留めて食うのと同じだよ」

そう告げると頭痛を堪えるような仕草を見せる神人。言っている事は分からなくもないが、自身の家族のように大事な四神と同格の存在たちを食うというこの男に、もうなんと言って良いか判らなくなっていた。
石動は敢えて告げなかったが人間を食べる事さえあった。これは向こうの世界での影響で精神が変異してしまい、人であろうが生きる為ならば食料を選ばなくなってしまったが故だ。今はその変異も向こうの世界で入手できる薬で治療できたので治療済みだ。
イルヴァの薬は肉体にも精神にも半端じゃない威力を誇るのは何時まで経っても石動にとって代わらぬ不思議だ。

「だけど、お前は不老不死なんだろう?」
「死んだら別の場所で蘇るって言ったろ。つまり死ぬときゃ死ぬ。戦闘で死ぬ事もあれば事故で死ぬ事もあり、餓死したり、干物になって死んだり、色々な死に方を体験してきた。腹上死だけは体験した事ないけど」

それを体験するのは非常にまれ過ぎるだろう。例え異世界でも。
というか、大抵の人はこう思うはずだ。そんなリア充は爆発してしまえ、とか。

「さぁて、コチラもコレだけ喋ったんだ。次は四季の番だぜぃ。日本人なのに総銀髪で目の色も黒じゃない上に上位精霊4種も従えるキミは一体何者かな?」
「……名前とか出身はお前も知っているだろう?」
「あぁ、一応公文として記載されてるあたりはね。四季神人、15歳。生年月日は1976年12月24日。鎌倉時代から続く名のあった武家の生まれ。家は四季流古武術を代々継承しており武器を選ばずあらゆる局面に対応できるオールマイティな武術を伝承している。家族は本人を含め4人で両親と祖父が高校で入寮するまで同居していた。更に祖先を紐解くとお前のご先祖に銀髪青目の武人が居る事から先祖返りの一種であると目され、どういった理由かは不明だが精霊との親和性が高く4種類の上位精霊を従えている。また潜在能力も一般の人間を遥かに上回るものと推測。また勉学においてはクラスの平均から平均より頭一つ抜き出る程度の成績を持つ。性格はぶっきらぼうだが大抵が照れ隠しであり基本は善人で時々お説教臭くなるのが珠に瑕。整った顔立ちと容姿の神秘さ、そしてぶっきらぼうでありながらも誠実な性格から女子生徒から人気が高く、また一部の男子生徒を除いて基本的に友好的な人間関係を築き上げている。現在、彼女の類はおらず独身」

ペラペラと石動は口を動かして最後に「以上」と言ってから喋っている間に運ばれてきたコーヒーに砂糖とミルクをいれて飲む。

「……なんつーか、俺もしらねぇ様な事までなんで知ってるんだ、お前は」
「まぁ、普通じゃない人間で敵か味方かわからなかったら調査するのが基本だろ。
 丁度学園側からも素行調査の依頼が出てたし」
「……なぁ、俺って本当にどういう目で見られてるんだ?」

神人の言葉に石動はなんでもないように答える。

「強力な精霊を従える武術に通じた一般人以上、英雄未満の青少年。危険度ランクは異世界の依頼っぽく言えば4つ分って所だな。中級者向けって所だ」
「お、俺は中級者並み、なのか」

若干、いや割と凹んでいる神人。なんだかんだで彼は自分の能力に自信を持っていただけにダメージがあったようだ。

「まぁ、対人戦を繰り返すことだね。出来るのなら『死合い』が一番なんだけど、今の世の中でそれやると社会的に不味いからねぇ」
「というか、何でお前はそんな物騒な言葉がぽんぽんと……」
「そりゃ、俺は冒険者だし。名も無きランク外冒険者の嫉妬や盗賊退治に戦争に、となりゃ今更ヒトゴロシ程度に感慨を覚えるはずも無いだろ。寧ろそこを今更気にする俺だったら今、この場には居ないな。とっくの昔に廃人になってるよ」

あくまで軽い風に言う石動に神人は思わず食いかかる。

「お前は……!何でそんな風に……!」

「決まってる、護る為だ」

静かに、だけど落ち着いて言うその言葉は揺ぎ無い物だった。

「最初の頃はな、ただの憂さ晴らしだった。あの世界に訳も分からないまま飛ばされて、帰る方法だって見つからない。そういう状況だったからな、八つ当たりをして憂さ晴らしでもしなきゃやってられなかったよ。でもな、そういう風にしてると悪評も立つんでな。俺は仲間を護るために戦う必要も出てきたのさ」

それじゃあ、今回はここまでだ。
そう言って石動は席を立った。

四季は去って行く石動を呼びかけようとして、だけどそれは途中でやめた。

「絶対に認めねぇ」

それは若さでもあるだろう。
ヒトゴロシをなんでもないように語る石動は、四季からすれば性根の曲がった奴だった。
確かに彼の言う事も彼が居た環境の中では正しいのだろう。だが、だからと言ってヒトゴロシをなんでもないようにやれるようになってしまうのは絶対に良い事ではない、と四季は断じる。

「あの性根、絶対ぶったたいて直してやる!」

それはこの世界で新たな石動をライバルとする存在が生まれた瞬間だった。


────────────────────────────────────────

*Result!*

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※ExtraUnit 転生者:四神使いの四季神人が参戦しました!
※石動のコネクションに四季神人(クラスメイト)が追加されました!
※神人のコネクションに石動進(クラスメイト・ライバル)が追加されました!
※シルバーレインにより発生したゴースト・リリスの存在が麻帆良で確認されました!
 
────────────────────────────────────────



[9874] 16:学園祭2日目=色々と集まった日。
Name: なつや◆b9bc6b18 ID:6a52139e
Date: 2010/10/19 00:14
 麻帆良祭、二日目。
麻帆良はどこぞの都市並みの人口を誇り、更には学生も多く、他所では見れない独自の技術や文化もあり、更には世界有数の図書館こと図書館島を保有していることで様々な面で色々な人々に有名なのだ。そんな学園の見世物はピンからキリまで有るのは言うまでも無く、初等部の演劇、演奏会から大学院生達の自主制作のレイバーまで、更にはどこが資金を出したのか世界の武器展覧会や重機EXPOと題して昨今の農業用、建設用、救助用、更には戦闘用ロボットまでもが運び込まれていた。
上空には飛行船も飛んでおり、飛行船からもスポンサーや目玉イベント、注意事項などの放送を行っている。

さて、そんな麻帆良祭のなかで石動は何をやっていたかというと…。

「~~♪」

ジャンジャジャジャン♪

しっとりとしたテンポの曲をギターで演奏し、歌っていた。
高校の体育館でクラスメイトとギターやドラム、エレクトーンなどを弾きながらライブを行っていた。
この演奏会は学園の大型演奏コンテスト『まほライブ』とは別にクラスが独自に行う演奏会だ。
演奏や歌がどうしても苦手な者はチケット販売、演奏会参加者の曲が収録されたCD・カセットテープや飲み物の販売、或いはビラ配りなどに従事している。
ただし、この場合麻帆良祭の間7割近く雑事に従事することが義務付けられているのだが、この際は置いておく。

「次はアップテンポな曲、行くぜー!」

先ほどまでの曲と変わり、今度は明るい曲調の歌が始まる。

それは何時だったか石動が元の世界で聞いた曲をアレンジして歌詞も大なり小なり変更した歌だった。
元が良かったせいか、曲のアレンジは余り大きくなく歌詞アレンジの方がわりと大きい。
こういうことが出来たのも、石動のイルヴァでの冒険者黎明時代に金を稼ぐための手段として必死になって演奏や歌で頑張っていた時期があるが故だ。
まぁ、本音は印象的なサビを雰囲気程度でしか覚えてなかったというのが正解だったりするが。

演奏が終わり、石動がマイクを手に感謝を告げると良かったぞー!まほライブもがんばってねー!等という声援が飛ぶ。

「みんな、応援本当にありがとー!1-Dの演奏会はまだまだ続くから引き続き聴いていってくれよ!」

という宣伝をすると、おー!!!という返事が返ってくる。石動達は心地よい気分のまま舞台を後にした。


石動の番が終わり、クラスメイトに『環境美化委員の仕事してくるわー』と告げて体育館の外に出ると、即座に補足された。
ちなみに石動の『環境美化委員』というのは『清掃員』の仕事と兼ね合わせている為自動的にそちらに所属となったのだ。

「あ、石動センパーイ!」
「んぁ?おぉうシオンじゃないか、久しぶり。元気してた?」
「はい、最近は進路も決めて色々とやる気が出てきたところです!」

ぐぐっと気合が入ってますといわんばかりに胸元で拳を固めるシオン。

「へぇ、中学生なのにもう決めたのか……で、なにをするんだ?」
「良くぞ訊いてくれました!ズバリ、人間と同じサイズで人と同じ様に物を考え、感情を持ち、行動するロボットです!今の時代、悲しい事にロボット産業は軍需への傾きが多いです。しかし、これからの時代に必要なのは寧ろ医療用や介護用のロボットであると私は確信したのです!そして、そういった方面ならばゴツイロボットよりも人の様に行動するロボットの方が良い、とも思いました。そしてゆくゆくは全世界に医療介護用ロボットを広める、それが私の夢です!」

シオンの宣言に、石動も周囲に居た人々も思わず「おぉ~」っと感動し、拍手をする。

「実は知り合いのおじさんにロボット工学やAIプログラミングに強い人が居るんです。その人達が今の所を引退してどこかで講師をしたいって話で……それで麻帆良に誘ってみたらOKを出してくれたんです♪」
「へぇ、なるほどねぇ……その人の名前は??」
「えぇっと、言って良いのかな……まぁいっか。ヒューイ・エメリッヒっていって、向こうの家族も一緒に来るって言ってました」
「家族と一緒に?」
「えぇ、ジュリーおばさんとハルとエマ。ハルとエマは私の年下の幼馴染で二人とも分野はハード系、ソフト系に別れてるけど親に似て結構すごいの。正に天才一家って感じです」

大絶賛するシオン。それもそうだろう、そのエメリッヒ一家は知る人ぞ知る、更には一部転生者もゲーム知識で知る天才一家なのだから。
もっとも、石動はエメリッヒと言われてもぱっと理解できない。もしもハルのことを『オタコン』と呼べば一瞬で理解しただろう。
あぁMGSのオタコンか、と。
そんな話をしていると、シオンの後ろに何時の間にか妙にガタイの良い初老の男性が居る事に気付く石動。

「(見事な気殺だ……もしかしたら、俺よりもコソコソ動くのはすごいかも?)」

白髪交じりの頭髪と深い皺の刻まれた顔、そして何より特徴的なのは左目を覆う眼帯だった。
石動が気付いた事に気付いた老人は「しーっ」っと黙っておくジェスチャーをする。石動は悪意を特に感じなかったのでまぁ良いかと思って見逃して事態を生還することを選択する。すると老人は両手をシオンの両肩に乗っけてガシッとホールドする。

「こぉらシオン!案内役が一人で勝手にうろつくってのはどういう了見だ?」
「う、うわぁっ!ごめんなさいジョンおじさん!!」

慌てて謝罪するシオン。その光景に石動は思わず噴出して笑う。

「ほら、謝罪はいいから紹介を頼めないか?」
「あ、はい!先輩、こちらの方は私のお父さんとお母さんの上司で海外で運送業や警備会社を経営しているジョン・ドゥさんです。私はちっちゃい頃からお世話になっているんでジョンおじさんって呼んでます。ジョンおじさん、こちらは石動進さんです。麻帆良での警備任務の際にパートナーをして貰っています。苦手な古典の勉強なども教えてもらってたりするんです」
「MSFのジョン・ドゥだ。宜しく頼む」
「麻帆良の高校生兼『清掃員』のススム・イスルギです。よろしくMrドゥ」

二人は笑顔で挨拶を交わし、ガッチリと硬い握手を交わす。

「いや、俺の事は『スネーク』で良い。身内にはそう呼ばせるようにしている。シオンが世話になっているなら、身内扱いでも構うまい?」
「じょ、ジョンおじさん!!それにその名前って……(おじさんがそう呼んで欲しいだけで他のみんなはビッグボスって呼んでるじゃない)」

悪戯小僧のような陽気な表情で言うジョン…もといスネーク。
シオンは茶化された事に慌て、更に『スネーク』という彼の嘗ての暗号名(コードネーム)は既に呼ばれなくなって久しい事をつっこみたかったが、なんとなく言いそびれる。

「わかったよMrスネーク」
「"ミスター"は不要だススム。ふむ、良かったらシオンと俺、それともう二人ツレが来ている。シオンの妹と俺の部下達の孫兼息子なんだが、よかったら一緒に周らんか?」

そういって誘うスネークに石動は少しだけ考える。

「(そういや、桜やマキさん、それにエクリアさんもほったらかしじゃ不味いよな)」

意外かもしれないが、この男は家族サービスならぬ身内サービスは頻繁に行っているタイプだ。
と言っても何をして良いか分からないので月一で季節に合う観光名所を回るといった具合だが。

「んじゃ、俺の身内も呼んでいいですか?俺の彼女と相棒と妹です」
「あ、先輩それってマキさんとエクリアさんと桜ちゃんですか?」

石動はシオンの言葉に「うむ」と頷き、0-Phoneで3人に連絡を取ると直ぐ近くに居た……というか、先ほどまで石動のクラスのライブを見ていたので直ぐに合流し、スネークのツレの少年少女もキチンと合流できた。

さて、皆さんお気づきであろうか?今のメンバー構成はとても美味しい状況にあるという事実を。
女性陣は見た目高校生~大学生の美女でスレンダーな赤毛美女(マキ)と金髪美乳メイド(エクリア)。中等部のメガネで茶髪ロングな理知的美少女(シオン)と小等部の愛らしい美少女(桜)と更に幼い幼女(愛美)。
男性陣は燻し銀が光る謎の初老の男性(スネーク)と何もしなくても存在感を放つ見た目は普通な青年(石動)と将来が非常に楽しみな紅顔のショタ少年(ジョニー(将来のアダナはアキバ))だ。
そんな一団を見れば周囲も色めき立つというものだ。あるものは美女コンビに、あるものは小中の美少女達に、あるものは存在感のある燻し銀に男女問わずに惹かれ、あるものはショタ少年にショタ心を揺さぶられ、あるものは何であの青年は普通に見えるのにあの中に居るのが普通に思えるのだろうと頭を悩ませる。

「……まぁ良いんだけどね」

石動は自身への評価を苦笑して受け止める。
石動も自分の容貌が良いと言うほど良い訳でも悪いというほど悪いと言う訳でもない事は理解していた。
容姿に関しては良くも悪くも普通、それ以外は上々でカリスマもある学級委員にして学園美化委員。それが石動及び周囲の人物の評価である。

「ここにいるとなんだか若返った気がするな」
「ジョンおじさん、それ少し年寄り臭いよ。ところでおじさん、そこのお兄さんとお姉さん達はどこのどちら様?」

ジョニーが初めて見る顔ぶれに少し驚きながら尋ねる。同じ様なやり取りを桜が石動にしていたので。

老蛇+エタチャンを体現してる男、みんなに説明中...

そして説明が終わった所で突如愛美が石動に対しタックル→ホールドというコンボをかます。

「ひさしぶり?ううん、はじめましてかな!石動」
「な、なんだよこの娘!?」
「宇津木愛美!アナタの存在に心奪われた少女だ!!」

思わずたじろぐ石動に電波的な言葉を吐く愛美。
電波少女まなまな、参上とでも言うべきであろうか……等と常日頃愛美に付き合わされているジョニーは思う。
誰もその愛美の正体……というか前世が石動の元親友・沢崎浩太だとは思わないしそもそも連想すら出来ないし、そもそも浩太を知らない人間の方が圧倒的に多い。

「な、なにをいってるんだ?」
「マナミ今日であったばかりの人にしつれぶげらっぷぁ!?」

戸惑う石動。振り払いたいが幼女相手にそれをするのは躊躇われるのだが、迷っている間に愛美を引き剥がそうとしたジョニーは見事な裏拳で横っ面を殴打され無様に倒れる。その姿に石動はギャグなのか真剣なのかと一瞬ばかり悩んでしまう。

「よもやアナタに生まれ変わってまた出会えようとは……。乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない。それとも今日は普段よりも大人しくしていたから出会えたのか……おそらくは後者かな?」
「……」

石動は良い様にされた状態のままシオンを見るがシオンのほうも呆気に取られている。
ちなみに大人しくしていたと言うのは「大人しくしていたら姉さんの居る学園の文化祭にジョンおじさん達といって来ても良い」という風に父親に言われたからだ。

「(妹が1,2年会わなかっただけであそこまでおかしくなるなんて……お父さんとお母さんはなにをやっていたの!?)」

敢えて答えを言うならば「愛美は潜在的にはこういう子供だった」としか言いようがない。
そして他の人よりも早く行動を取った人物が居た。(ジョニーは員数外)

「はいはい、お嬢ちゃん大人しくしようね~」

強烈なホールドを背後から完全に引き剥がすマリー。錬金術で精製した魔法のブレスレットで膂力強化しているのでどれだけ駄々っ子だろうが容赦なく引き剥がせる。

「うわっ、なにこの怪力怖い」
「ま、愛美!失礼でしょっ!」
「えー、お姉ちゃんこれは仕方ないんだよ。恋です!愛です!衝動なんです!」

ズバっと言ってのける幼稚園児(愛美)。
オマエは本当に幼稚園児なのか、とその場に居た一般観衆すらも思った。

「あ~ははは……シオン、中々個性的な妹だな」
「ごめんなさい、先輩。まさかこんな事になろうとは」
「いや、構わないよ。なんで好かれるのかハッキリ言ってよくわからなけど、まぁ取り敢えず今は祭りを楽しもうか」

その後は時々愛美が暴走したりもしたが、麻帆良らしいハプニングに満ちたお祭りなので誰もが「あぁ、麻帆良だなぁ」と生ぬるく見ていたぐらいである。
ちなみに、このとき騒いで目立ったのが原因で麻帆良に「しっと団」なるものが発足し、石動を敵認定し始めたのだが本編とは関わりないので割愛する。
夕方を少し越えた頃になると子供たちも体力を使いきってダウンしていた。勿論愛美もだ。
仕方ないので今日のお祭りはココまでとして解散しようとしてまた明日としようとした所で実はスネーク達は宿の予約をしていなかったことが発覚。
なんでも「愛美はシオンの所に預けてジョニーと二人で野営するつもりだった」とのことだ。もっとも、愛美が暴走するのでそれは見送る事にしたようだが。それだと今度は泊まる場所をどこにしようという話だ。

「だったらウチに着たら良い。ウチは結構広いからな、3人4人と人が増えたところで部屋の方は特に困るほどじゃない」

と気軽に言い放つ石動。余談ではあるが全室それなりの広さを誇る上に『幸せのベッド』とそれなりに質の良いインテリア、暇つぶしの本(漫画・小説)が入った本棚、TVとビデオ、更にはAV機器まで完備だ。ココまでなったのは石動が~……という訳ではなく、エクリアが『余った客室を何もせずに放置するのはメイドとして見過ごせない』というメイド魂の現れである。ちなみに、客室の一角にはスプリングフィールド夫妻の専用客室があったり石動の部屋の近くにマキの部屋があったりと割りとスプリングフィールド兄妹の侵食率は高い。おまけ程度だがタカミチが良く泊まる(模擬戦で気絶して放り込まれる)部屋もあったりするのはご愛嬌。

そうして石動の家……というか邸宅に行くと、そこは既にリビングでバカ(ナギ)が勝手に仲間と酒盛りをしていた。

「おぉーうススム!勝手にやらせてもらってるぜ~!!」

ケラケラと笑いながら酒瓶片手にデカマッチョと呑んでるナギ。
それと対照的に無念そうな表情で頭をたれる常識人組み(衛春とタカミチ)。

「すみません、石動くん。一応止めたのですが止め切れませんでした」
「同じく、すまない進」

他にも何人か居たが、見たことのない顔もいたのでタカミチに紹介を頼むと……。

「ここにいるのが全員が現存する『紅き翼』のメンバーだよ。あそこでナギさんと呑み比べしているのが『千の刃』ジャック・ラカン。あっちで木葉(このは)さんと一緒に木乃香ちゃんの相手をしているのが一、二を争う魔道知識を持つアルビレオ・イマ。窓際でタバコを吸っているのが僕の師匠のガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ 。ガトウさんの近くに居る子供はアスナちゃんだ。んで、TVゲームで対戦しているのがナギさんの奥さんであるアリカ様と魔法世界に存在する帝国の第三皇女のテオドラ様だよ。正直どうしてこうなったと僕は思っている」
「寧ろそれは俺の台詞だ。ウチが俺の与り知らぬ内に宴会場になってるのは予想外だったぞ」

その言葉に反応したマキが口を開く。

「けど、エクリアの許可はキチンと貰ったわよ?」

見れば見るほど異様に豪勢な面子であった。テオドラの頭の角とか長い耳とか普通に目立つんだが良いのか、とか思ったがタカミチに聞くと認識阻害魔法で誤魔化してきたらしい。

「申し訳ありませんススムさま。尚この後、アンゼロット様と魔王マルファス=ハルファスと『とある人物』が此方に赴く予定です。客室の方はあらかじめ準備してありますのでご安心を」

石動は思わず「絶対にノゥ!」と叫びたくなったが自制する。どうせ足掻いた所で既に決定事項なのだ。
最早野となれ山となれである。

「ところで、俺の目が確かならアリカさんなんかお腹が目立つけどもしかして?」
「その通りです。言うまでもなくおめでたで今月で6ヶ月らしいですよ。名目はマキさんの行状調査と木乃香ちゃんの学校見学。本音は『紅き翼』で遠慮なく集まりたかった、といったところですね。後から学園長も来るらしいですよ」

タカミチの言葉に思わず天を仰ぐ石動。

「どうしてこうなった……」

その後、気付いたら大人組み(ガトウ&スネーク)は政治情勢や軍事状況、何故かダンボールの話をしながら二人揃ってスコッチやウィスキーをロックで飲んでおり非常にダンディで渋い空気を放っている。若者組みはナギとラカン、石動とタカミチのコンビに分かれてマキの『箱庭』で頂上決戦をしており、近衛夫妻はようやく少し静かになったと息をついてまったり。子供たちは子供たちで意気投合して屋敷の中でかくれんぼを実施し、女性陣は恋バナや最近の流行の衣装やアクセ、後はゲームなどの話題で盛り上がる。

「いい加減、寝てろぉぉぉおおお!!」
「テメェが寝てやがれぇぇえええ!」

ラカンの渾身の一撃と石動の爆炎の一撃が交差して大爆発を起こして両者ともにダウン寸前だが即座に石動が追撃のタイランレイブを放って辛くも勝利。周囲は真っ赤に燃え、クレーターだらけだ。

「今日こそ!」
「はっ、俺に勝つにはまだはえーよタカミチ!『白き雷』!!」

拳の弾幕と雷がぶつかり合い、雷が押し切る。だが、押し切られた所を自慢の抵抗力で防ぎきり距離を詰めて拳打のラッシュに加え足技も交えた攻撃で押すもナギの障壁を完全に削りきるには至らない。
だが、ナギの方とて余裕があるわけでもない。威力のありすぎるラッシュに障壁維持に力を割いていて反撃どころではないのだ。

「チッ、本当に短い時間で化けやがったな!」
「戦時のアナタほどじゃない!」

だが、ナギは自身の持つ膨大な魔力で耐え切ることが出来ていたが、タカミチは次第に息が切れ始めていた。
残念な話であるが、全力を用いた持続時間がもう尽き始めていたのだ。

「ま、今回も俺の勝ち、だな!!『千の雷』!!!!」

ナギの無詠唱の魔力に任せたトンでも魔法が吹き荒び、タカミチごとその後方に居たラカンを吹き飛ばした。
ラカン、ナギの魔法により重傷確定。石動は緊急回避ことショートテレポートで射線から退避していたので特に被害なしと言うのはまったくの余談だった。

一方の女性陣だが、此方は酒とジュースを交えた恋バナで盛り上がっていた。
ジュースを飲むのはアリカとシオンでマキとテオドラはカクテルを飲んでいるエクリアはバーテンダーに徹しているようだ。

「で、結局マキはあの男のどのような所が気に入ったのじゃ?」
「うぅ~ん、どこと言われても……強いて言うなら空気、かなぁ?兄さん達みたいに押しが強いかと思えば結構包容力があるし、最後までキチンと面倒見てくれるし、錬金術や魔道知識にも造詣が深いしなにより趣味が合うのが大きいかも。それにね、それにね」

そこから始まる惚気のマシンガントーク。アリカはほうほうと余裕を持って、シオンは未だに恋愛経験が薄いので興味津々に、テオドラは仲間内の女性で自分だけが遅れているという事(種族的な観点からすれば別に遅れていない)に少し焦りを感じて聞き入っていた。

「そういえば、結局石動先輩とお付き合いするようになった切欠ってなんだったんですか?」

その言葉に一瞬、時が止まった。
『恋した切欠』これは人にも拠るだろうが中々に理解が難しいモノである。

「そうねぇ、ぶっちゃけて言えば勘かしら?はじめてあった時、ビビッと来たのよ。ちょっと頼りなさげだけどイザって時は体を張って受け止めてくれそうな人だって。実際に色々と話をして確信したわ。私の人生を預けるに足る人物だって」

恋は盲目と言うべきか、或いは愛が深いのか酔いが深いのか。普段ならば中々口に出せない事もキッチリ口に出して言うマキに周囲はおぉーと感嘆の嵐であった。
本当の所は『前世』の時から想いを引きずっていたが正解なのだが、そんなことを態々言う必要は無い。
マキとしては前は前、今は今で改めて石動に惚れたのだから問題なしだ。

そんな中、手合わせを終えた石動は『箱庭』から応接室に移動して今日の『賓客』と会っていた。

「ようこそ、アンゼロット。我が家に来るのは初めてだったかな?」
「どうも、石動さん。初めてですが……意外ですね。思っていたよりもこの館においてある調度品等のセンスはよろしい様で」
「ん、ありがとう。屋敷を含めて7割ぐらいは俺の趣味だが、3割程度……細々としたモンはエクリアさんやマキ先輩の趣味だ」
「そう、それと紅茶を勝手に頂いています」

そういって手馴れた動作で紅茶を飲むアンゼロット。
確かにアンゼロットが使っている茶器や紅茶の葉は石動が用意しておいた茶葉の様だ。
傍らに立つロンギヌスの男性が淹れたのだろう。

「へぇ、んじゃ、この屋敷の1割2割はマキのモンって感じだな」
「なるほど、ススムは若く見えるが趣味はなるほど……それなりに渋い様だな」

何時の間にか同じ部屋に居たナギとスネークがこれまた何時の間にかソファに腰掛けてそう言っている。
本当に何時の間に?と石動は驚きの表情を隠さなかった。

「なに、スニーキングは俺の特技だ。驚くほどじゃない」
「俺はオッサンの真似してただけだけどな」
「……なんだか俺、自分の実力に疑問を持ち始めてきたわ」

イルヴァの神様も打倒出来る実力を持つ筈の石動なのだが、普通に彼らに気づけなかったのはショックだったようだ。
ちなみに、神は倒しても復活する……というか死なない。それがイルヴァのクォリティ。
この世界にやってくる魔王達と同じように自身の写し身を現界させているだけなのである意味当然だ。
もっとも世界結界があちらには存在しないので、コチラに現れる魔王よりも遥かに強いのは言うまでもない。

「で、アンゼロット。私たちがこの場に集まった意義は何?ただ単にコチラとアチラの英雄、侵魔と守護者と異邦人が集まったわけでもないでしょ?」

マルファスが優雅に紅茶を飲んでいるアンゼロットに問いかける。
ちなみに、この場での異邦人とはすなわち石動だ。この世界、FTAどころか、この次元世界の人間でも無い。それ故に異邦人。
では、石動と同郷の転生者はどうか?といえば生まれ変わった時点でもう転生した先の世界の住人と言える。例え前世の記憶が有ろうと無かろうとだ。


「もちろん、それだけの為に場を設けたわけでは有りません。目的は常に一つ。この世界の維持にあります」

この中で誰よりも幼い容貌をした少女の姿の老獪な手腕を持つ元女神はキッパリと言い放った。
即座に反応したのはスネークだった。

「ちょっと待って貰おう。俺はそもそも前提の情報も持ってないし、キミがどういう立場の人間なのかも理解していないんだが?」

スネークはこの場においては残念ながら明らかに「一般」に近い人間だ。だが、その英雄としての力量は言うまでもなく高いことはこの場に居る誰もが認めている。ナギもまた今までまったく知らなかったスネークに何かしら感じ入るものがあると判断しているのだ。

「これは失礼しました。私の名前はアンゼロット。石動さんの雇用主であり、この世界を侵魔(エミュレイター)と我々が呼んでいる異世界からの侵略者からこの世界の守護を担う存在です。ビッグボス……いえ、スネークさんも『魔法』という存在は既にご存知かと思います。私はその『魔法』や『魔術』と言った類の技術を監視し、先ほども言った敵と戦う者達の代表格だと思ってください」
「……ふぅ、確かに『魔法』に関してはコチラも知っている。ウチの隊員にも秘匿はしているようだが……だからと言ってキミの言葉を鵜呑みにするほど呆けたつもりは無い」

スネークは確かに魔法というものを知っていた。それが何故かと言えば『魔法使い』の部下が居るからだ。勿論魔法は秘匿するべき能力であると言う事をスネークも認識していた。なので自分の仲間内でもこの事実は極秘事項だ。その部下と言うのがシオンの両親である宇津木夫妻だ。魔法世界出身で人助けのためにコチラに来て活動していた所をテロリストに襲われ、偶然にも保護したシオンの母。同時にスネークと同じタイミングでシオンの母を助けようと動いた関西呪術師協会の重鎮の家系出身で出奔して世界を巡っていたシオンの父だ。
彼らはそれが縁でスネークが運営するMSFに所属し、そして今ではMSFが起業した警備と運送業と重機開発を行う日本支社(アームズテック)の社長で結構有名だ。
そう考えるとシオンは結構良い所のお嬢さんとなるのだが、それは完璧に余談であろう。

「それもそうでしょう。そうでなければ私もこの場にスネークさんをお通しするつもりはありませんでした。
 長い前置きは冗長でしょうから単刀直入に行きましょう」

アンゼロットは紅茶を置き、正面に並ぶ3人の男達を見る。

「スネークさん、ナギさん、そして石動さん」

3人の名前を呼び、僅かに目を瞑ってから改めて強い意思を秘めた瞳で3人を見る。

「世界は今、確実に滅びへの道を歩んでいます」

「「な、なんだとっ!?」」

驚愕する二人の英雄。しかし一人だけ平静を保っている男が居た。
石動だ。

「……なるほど」

別に平静を装っているわけではなく『想定の内』だっただけなのだ。
そもそも、現在のFTAの人間達の『歩み』そのものが既に『滅びへの道』を歩んでいる言える。
少なくとも石動は常々そう感じていた。

「人間ならば暗躍している魔法使いや魔術師、死の商人達や欲に目が眩んだ権力者。人間以外なら侵魔や敵対的来訪者やゴースト等々って感じか?まぁ権力者とか死の商人ってのは俺の先入観だけど」

この先入観はイルヴァでの生活や『日本』に帰還してから暇なときに時々読んでいたライトノベルの影響が多いだろうなぁと内心苦笑しながら石動は言う。が、時として事実は小説より奇なり。

「ほぼ正解ですね。1981年のヤムスクでのソ連が起こした事故。1986年の同じくソ連で起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故…という事になっている魔道実験の事故を切欠に本来では存在し得ない様なテクノロジーの急速発達、そして加速度的に悪化する世界の敵たる存在を弾く世界結界の弱体化。悪化する宗教戦争や某国で加速する民族浄化、大国間の利権争いからなる戦争。世界や人間を狙い跳梁跋扈する人外。正に世紀末、ですね」

「……まさか、チェルノブイリの真相がそれだと?」
「我々ウィザードの側でも極秘にしている事項の一つです。詳細はコチラの書類をご覧ください」

そういってアンゼロットは何時の間にか持っていた厚い書類をスネークに手渡す。

「……この場で読みきれと?」

受け取り、その厚さを見て顔をしかめる。
横に座っているナギが書類を興味深そうに見ているので『今だけ』という条件付で彼に渡して読ませている。

「お持ち帰りならばこちらのCDにデータが入っていますのでお持ち帰りください。公表さえ避けていただければ後は構いませんわ。広めたところで世界結界の影響で人々はその認識をやはり核施設の実験の失敗、としか認識できないでしょう。貴方の様に世界の真実に受け入れることの出来る人間以外には意味の無い情報です」

その言葉は100%が真実と言うわけではないが、間違いでもない言葉だった。世界結界は人々の認識を歪める。
見える非常識を見える常識の範囲に変えて認識させる。
その影響を受けないのがウィザードであり、能力者、異能者といわれる超人たちだ。

「そして、ウィザードといっても魔法使い、魔術師と言った人間全てがウィザードと分類されるわけではありません」

人類の仲で一握りの、一定レベル以上に達した人間がウィザードとして覚醒する、とだけアンゼロットは語る。
力だけではなく、見えざる何かに導かれるのがウィザードであり能力者たちだと。

「では、俺も……そして彼もウィザードだと?」

スネークは自身とナギを指して尋ねる。

「んだな、一定レベル以上の実力を持つ魔法使いや超人的な能力を持つ様々な人間を一括りにして『ウィザード』と呼んでる。この超人的なってのは魔法使いに限らず剣士だったり格闘家だったり色々とあるみたいだけどな」

余談ではあるが、かつて『紅の翼』に所属していたメンバーは全員が『ウィザード』でもあったのは言うまでもない。

「それで、重要なのは『何故』オレ達にコレを『今』知らせたのかってことだ」
「それは……そうですね、石動さん。何でだと思いますか?ヒントは石動さん自身と世界結界です」
「俺が答えるのか!?まぁ良い、クイズだと思ってやってみるか……ちょっと待ってくれよ」

ナギの問いかけにアンゼロットが無茶振りし僅かに困惑しつつも石動は即座にヒントを脳裏に浮かべ、更にこの世界に含まれている『設定』を思い返しながら思考する。

「(俺自身は……イルヴァから『日本』を目指してやってきた人間だよな?んで、世界結界は超常や異能を常識的な何かに置き換える結界。……何か忘れてるな。世界結界の単語から連想できる単語は何だ?ウィザードと能力者?彼らから連想するのは?魔法と超能力。これだけじゃない、そうだゴーストとエミュレイター、後は魔王と来訪者!基本的にこの『世界の外』からやってくる奴等で世界結界はそもそも奴等に対するファイアーウォール。ん?世界の外から……?って事は本来は俺も弾かれている筈?……なるほど、詰まりは俺自身が世界結界弱体化の証明なのか)」

そこから段々と理解していき、なんとか纏まった所で自分自身と世界結界に関して2人に説明する。
更に来訪者とエミュレイターに関しても触りだけ伝える。

「……と言う訳で、既に世界結界はだいぶ弱くなってるってワケだな」
「その通りです。それによって銀の雨が降り注ぎ、地上に数多存在する人々や動植物たちの残留思念が異形の怪物(ゴースト)と化し、更に一部の生命体にも変質を与えていると言う報告が届いています」

アンゼロットの言葉にナギとスネークの両者は驚きを隠せない。
今までとは違う敵、ゴースト。
更に現れると宣言された敵も居る。

「ヘッ!面白いじゃねぇか!どんな敵だろうとぶっ飛ばしてやるぜ!」

というナギに対し、スネークは自身に出来る事は限られていると実感していた。
なぜならば、彼自身の年齢に起因する。

「ならば、コチラは人材を育てよう。どの様な事態になるかは見当もつかんが、それでも後進を育てるの必要があることは代わらん」
「えぇ、ビッグボスはそのようにお願いします。貴方の所の兵たちはみな優秀であるという話は聞いています。なにせ、弱っていたとはいえ、そこの魔王の領域にあそこまで入り込んで無傷ですんでいたという話を聞いていますし」
「私自身が弱っても私の知る技術が弱るわけでは無いからな。それを考えるとあの包囲網を突破してあそこまで悟られることなく接近できたお前の部下は誇っていい」

と、誰よりも偉そうにいうマルファス。
一般人よりもオーラは出ているのだが、ここに居るのは並みの一般人をはるかに超える逸般人と女神の居る場所だ。
よく言っても普通だな、程度にしか見られない。
そして、中学生から高校生ぐらいに見える美少女然とした様子から「まぁ、こういうのも居るよな」程度に見られてしまった。主にスネークに。

「さて、こちらのマルファス・ハルファスですが技術力、学習能力は一級品。戦闘能力は……現時点では並、ですけど。彼女を地上で研究が行える部署に配置したいと思っています」
「……それって麻帆良に?」
「もう一つ候補が出来ました。それは……」

そういってアンゼロットが見たのはスネークだった。

「ウチか。確かにMSFではASに加え独自の機動兵器(メタルギア)を開発しているしな。部署的には問題はないだろう」
「むむ、それならば私はそちらを──」
「麻帆良でも大学で色々と研究をしていたな。特にアンブラ社のブルームっていうウィザード向けの新兵器だったか、それに対抗したケインって武器」

なんでも魔女の『箒』では魔女狩りを強く思い出して縁起が悪いと騒ぐ魔法使い、特に魔法世界関係者たちがそう騒いだのだ。
そして、対応しようとしないアンブラ社に業を煮やした地球側の組織は麻帆良にその開発を委託。
魔法使いなら杖だろ!という意見からケインシリーズの開発を開始。
今までの魔法発動媒体よりも効率化と武器としての側面を強くすると言う設計思想で開発中である。

という情報をナギはマキ経由で齎されていた。

「というか何でマキさんがそれを知ってるんだ?」
「そりゃ、ケインの第一開発者がマキだし。もっとも、原型となってるコレ、俺の杖を作り終えたら作るの大変だったからもう勘弁って言って完全に投げちまってるけど」

と、ネタばらしをするナギ。
一見すると普通の樫の木で作った様に見える杖だが……。

「例えばこうするとだな…ハッ!」

天辺の部分から魔力の刃が出現し、即席の槍となった。

「他にも、発動媒体としちゃ優秀だしおまけに消費効率がよくなるから大分烈戦争の時もこれには世話になりっぱなしだったぜ」
「へぇ、結構長いこと使ってるんだ」
「まぁな」

自慢げに語るナギ。

「ついでに、マキが働かなくて済むのはコレを始めとした色々な作品のライセンスを売りに出したからだ。俺の場合はそれ以前の戦いとか賞金首狩りで金稼いだから余裕があるって話しなんだけどな」
「ただ、その稼ぐ時ももう少し周囲を気にしていただければ後始末も情報操作も楽だ、と言うのがこちら側にいる方々の方達の思いらしいですが」

といって自慢げなナギに釘を刺すアンゼロット。
魔法世界ではなく地球で起きたことならばアンゼロットの耳に入っていてもおかしくはないだろう。

「まぁまぁ、そういうなよ。オレがいなけりゃもっと最悪の事態になってた事だっていっぱいあんだろ?」
「……とにかく、自重は忘れないようにお願いします」

そういって、何時の間にか新しく淹れ直されていた紅茶を飲むアンゼロット。

「(やべぇ、何時の間に茶を淹れなおしたのか全く理解できなかった!)」

と、石動はさり気無くアンゼロットの給仕をこなしていた、影の薄いロンギヌスに戦慄したのだった。
その執事スキル、まさにパーフェクト。

石動の視線に気付いたのか、フッと笑みを浮かべ軽くお辞儀をしあくまで控えめな態度を取るのだった。

そんな事をしている間にマルファスの処遇が決まった。
マルファスは麻帆良とMSFの日本支部の技術部に週毎、或いは月毎に行き来し研究に参加する事になるそうだ。
麻帆良での研究に関してはナギ経由で近右衛門に話を持っていくようだ。魔法世界の英雄が認めた人物ともなればそれだけで麻帆良では信頼されるだろう。
MSFの方はスネークがCEOなので、スネークから声をかければそれだけで人事は通るようだ。
まさに職権乱用である。だが、勿論最初はペーペーの研究員からスタートと言うことらしい。

「で、麻帆良に滞在する時と、どこにあるかは知らんけど、その日本支部に滞在する時の滞在先はどうするんだ?」
「そういえば、まだ決まってないわね」

どうしようかしらと言うマルファスにナギが口を開く。

「麻帆良でならここの部屋を貸してやりゃいーじゃねーか。余らせてんだろ?」
「まぁな。でもMSF日本支部の方は?」

と言って石動が頷きつつスネークに話を振ると。

「一応、コチラでも寮を貸しとるが基本は男性寮のようなものだ。女性が住むには少し厳しいな」

と、残念な報告が。

「別に私は構わないわよ。不埒なことをする奴がいてもプラーナ吸ってお仕置きすれば良いだけだし。あぁ、勿論加減はするわよ?こんな事で討伐対象にされたくないもの」

とマルファスは言う。
アンゼロットが口を挟んで釘を刺そうとしたところで。

「ふははは!そうだな、ウチの奴らは活力が余ってるからそれぐらいで良いかもしれん!まぁ、勿論死なせられたらコチラも対処せねばならん。そこだけは肝に銘じておいて貰おう」

とスネークは笑いながら言う。
その時の顔は口許は笑っているが目が全く笑っておらず、歴戦の戦士のみが持ちうる凄みの利いたものだった。



「さて、もう一つお話せねばならない事があります」

アンゼロットが今までよりも真剣な表情で告げる。


「この世界は、とある広域次元犯罪者組織によって狙われています」


それは今後十数年以上に渡る長い戦いの始まりを告げる言葉だった。
現時点でそれを正しく認識しているのはアンゼロットとロンギヌスの男以外はいなかった。

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*Result!*

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※石動のコネクションに以下の人物が追加されました。
 宇津木愛美(腐れ縁・電波)、BIGBOSS(知人・興味がある)、紅の翼の面々(知人・友人)

※ExtraUnit 転生者の魔王マルファス・ハルファス(クラス:転生者/アタッカー 属性:火/風)が参戦しました!
      麻帆良とMSF日本支部(海鳴)での活動がメインとなります。
※マルファスのコネクションに以下の人物が追加されました!
 石動進(知人)、ナギ・スプリングフィールド(知人)、BIGBOSS(雇用主)

※ExtraUnit 伝説の傭兵BIGBOSS(クラス:忍者/ディフェンダー 属性:虚/地)が参戦しました!
      世界各地を依頼を受けて飛び回ります。
※BIGBOSSのコネクションに以下の人物が追加されました!
 石動進(知人・興味がある)、ナギ・スプリングフィールド(知人・興味がある)、アンゼロット(知人)
 マルファス・ハルファス(部下)

※ExtraUnit 千の呪文の男ナギ・スプリングフィールド(クラス:?/アタッカー 属性:冥/風)が参戦しました!
      家庭の都合で京都に滞在・居住してます。
※ナギのコネクションに以下の人物が追加されました。
 BIGBOSS(知人・興味がある)、マルファス・ハルファス(知人)、アンゼロット(知人)
 
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[9874] 17:学園祭最終日=麻帆良絶対防衛戦線
Name: なつや◆b9bc6b18 ID:6a52139e
Date: 2010/10/19 13:52
 麻帆良祭最終日の朝。
石動の予定は昨日の晩までは完全フリーであり、マキとデートしたり桜とエクリアを連れ回したりする予定だったのだがそれが完全におじゃんになっていた。

と、言うのも麻帆良学園に対し外敵からの攻撃がある、という情報が回ってきたのだ。

「……田中さん、でしたっけ」
「うん、どうしたかな石動君」

石動の邸宅の応接室。
彼の今現在目の前に居る人物の名前を田中雄大という。
元はとある学校の教師だったらしいのだが、世界の真実、その一端を垣間見てしまった人間だ。
今は日本中を巡って『活動』をしている人物だ。

「ゴーストが来るのは麻帆良大橋と線路沿いのコース後、北の森と山の方面、だけで良いんですか?」

彼は困った様に眉根を寄せる。

「少なくとも、コチラの運命予報ではそうだね」

情報、理不尽な運命を予知する、運命予報士。
この世界でゴースト事件と出くわす方法は3つ。
綿密な調査の末に遭遇するか、偶然遭遇するか、運命予報士の予報で遭遇するかだ。
彼らの能力はゴーストのみならず、その他の事象……来訪者や、時にはエミュレイターもその網に引っかかるらしい。
彼らが『発生』したのはここ数年の話だと田中雄大自身が語っている。

「コチラからも聴きたいのだけど、君たちは本当にゴーストと戦えるのか?」
「戦う事それ事態は問題ないんですがね……。詠唱兵器ってご存知で?」
「……いや、知らないね」

首を横に振る彼の姿を見て、石動はまだこの時期には情報が回っていないのか、と考える。

「ゴーストを倒す事は魔法や気を用いた攻撃、ウィザードであればそれこそ通常兵器でも打倒は可能でしょう」
「そうなのかい?」

彼もゴーストと遭遇して戦闘……というにはおこがましいが、命を狙われ逃げ延びた事がある。
その時のゴーストは大して力もないゴーストだから車で轢き、吹き飛ばして逃げる事が出来たが倒すにはいたれなかったのだ。
それを察して石動はやや苦笑して言う。

「コチラもプロですから」
「それもそうか。それで、詠唱兵器というのは?」

それを語るべきだろうかと悩んだ石動だが、どうせ自身も大した情報は持っていない。
断片情報程度、早めに彼に掴んで貰うのも問題ではないだろう。

「能力者、と呼ばれるこの世界に降り注ぐ銀の雨に適応したモノ達が扱える強力な対ゴースト兵器です。武器にエンジンかモーターのようなものがついていて、詠唱銀が多分動力源だと思うんですが……すみません。こちらも実態はつかんでいないんです。ただ、アレがあればゴーストを『倒す』ではなく、『滅ぼす』事が出来る」
「倒すではなく、滅ぼす?」

その違いを理解しきれず問い返す田中に石動は頷いて答える。

「ゴーストは通常兵器、通常手段で倒して消滅しても、残留思念や何やかんやがその場に停滞すると聞いています。それはまた何かあればゴーストが発生する原因となる。どうにかしたければそれこそ能力者や嘗て『退魔』を生業とした人間達に協力を願う他無いでしょう。彼らは一種の超人、或いはそれ専門の技術を培った存在です。特に超人の方はこの世界が生み出した抗体と言っても良い」
「……あんまり言いたくないが、マンガみたいな話だね」

冗談のつもりで言う田中に「溜まったもんじゃない」と言って石動は吐き出す。

「この世界そのものがマンガみたいだ。考えてみてください、ASやレイバーをはじめ急激過ぎる技術的成長を続ける軍需産業。馬鹿みたいに世界を狙って現れる魔王と侵魔(エミュレイター)、そして世界結界の綻びから発生する銀の雨が原因で現れるゴースト、そしてそれに対抗するかの様に様々なウィザードに能力者たちが今、目覚めそして生まれつつあるんです───本当、コレなんてマンガだよ」
「はは……ごめん、ちょっと不謹慎だった。キミにもボクにも他人事ではないんだからね」
「……いえ、かまいません。ただ、俺も身内と今日こそ祭り楽しむつもりだったんで、ちょっと……申し訳ない」

石動はそう言って少し恥じる。

石動は実年齢でいえば既に近右衛門に近い年齢なのだが、見た目は17歳であり、長い年月により多少の落ち着き等を見せ、その年の少年と比べれば多少マシではある。だがやはりどこまでも少年の頃のままといった部分があるのだ。
或いは見た目と同じく精神的なものの成長が止まっている、と見てもいいのかもしれないが本人に直接問えば必ず否定するだろう。
そういう事を多少の事情を教えられた田中は察した。

「そういえば、この麻帆良には能力者は居るのですか?」
「それっぽいのが一人。ですが彼を戦闘に出すにはまだ不安が残る……いや、出してしまうのも手か?」

石動は一人の青年の姿を頭に映し出しながら呟く。
頭に描いたのは四季神人。
大仰な名前を持つ、如何にも能力者ですという力を持ち、そして実際に振るった人間だ。
彼はゴーストとの対戦で相手にダメージを負わせることは出来なかったが、決して負けてはいなかった。
この機会に命の危機を以って『地獄』を知るのも良い機会だろう。
彼は既にこの世界の『一部』を知ったのだ、一つを知れば後は連鎖で厄介ごとに巻き込まれるだろう。

世界は……運命は、決してヒトに優しくない。

ポツリと呟いた石動の言葉は田中の胸に染み渡るように吸い込まれた。
だが、だからこそそれに反発したくなった。

「優しくない運命なら、それに打ち勝てる様になれば良い、違うかい?」
「……そうですね」

 その後、学園長や魔法教師たちを交えて作戦会議に入る事となる。
まず、この時点での主戦力は4つ。
麻帆良が保持する魔法教師および魔法生徒たちの陣営。
次にタカミチを筆頭とする麻帆良に駐留している『悠久の風』の陣営。
更に主戦力と目されるナギ達を筆頭とした元『紅き翼』の面々。
そしてナギに比肩する力を持つ石動一家こと『執行者』だ。

ちなみに、石動一家には今回から石動を筆頭に『執行者』という組織がアンゼロットと近衛近右衛門、そして近衛詠春の後ろ盾で編成された。
その面子にはさり気無くマキと、ご近所という事でエヴァが組み込まれ。
エヴァは学園の所属から執行者へと所属が移された。勿論、本人は承諾済みだ。
この組織の主な活動は一般ウィザードには手が余り、かつロンギヌスが動くには微妙という任務を請け負うのが主となる。
そしてもう一つ、重要な任務がある。


それは『誘蛾灯』となる事だ。


敵と味方の目を引き付けるのが役割だ。
石動の能力と石動の居た上位世界からの『転生者』は、石動が何らかの任務に関わればイヤでも意識せざるを得ない状況が予測される。
それは石動をはじめ、転生者であるマキやその他の転生者はこの世界に存在する数多の事象に関して多少なりとも前世の知識を用いて知る事が出来るからだ。

『原作に関わっている自分以外のオリ主が居る』という認識でだ。

コレを言い出したのは実はアンゼロットではなく、何時の間にか廊下で聞き耳を立てていたマキだった。
曰く過去に何度も『オリ主で最強の俺がナギに負けるはずがねー!』と言って嘗て突っかかってきた馬鹿が何人も居たらしい。

他にも『オリ主ハーレムヌッハー』とか欲望丸出しの馬鹿台詞まで吐く奴もいたとか。

彼らの目当ては英雄の座であったり、アリカであったりテオドラであったりマキであったり、意味不明な『正義』であったりした。
だが、そういう奴らはこの世界最大のバグキャラと名高いナギとその仲間たちにあっさり撃退されたらしい。
曰く『無限の剣製を使ったり王の財宝を使うのも居たけど、ナギ兄ぃの千の雷で宝具が当たる前に本人が消し飛んでたわ』だとか。

でも、一番撃退率が高いのは実は詠春だとマキは言っていた。

曰く『タイマンになれば幾ら転生者でも神鳴流最強に早々勝てる訳が無いわよ。そもそも気概も才能も経験も何もかもが浅いんですもの、彼ら』と。


ここまででもう判ると思われるが、上位世界からの転生者はえてして『調子に乗ってる奴ら』が多いのだ。
勿論、調子に乗れるだけの能力を与えられている、と言うのもあるだろうが。
だからと言っても『コレは酷い』と言うレベルの調子の乗り方である。
彼らは基本的に『原作』に登場する『キャラ』を自分のモノにしたいと考える傾向がある。
非常に判り安い思考だ。寧ろ、そういったモノ達の相手ならば石動も遠慮はしないで済むだろう。
そう思っていたのだが、アンゼロットから待ったが掛かる。

『彼らを捕縛し、コチラに送ってください』

ニコリと花開くような美しい笑顔で言うが、その笑みから感じたのは紛れも無く恐怖だった。
この台詞を聞いた時、一同揃って『転生者の未来、終わったな』と思ったのは言うまでもない。


午後、作戦会議が終わり大まかな作戦が決まった。
まず、敵の精鋭揃いが来るであろう大橋の防衛を『紅き翼』が担当。
線路沿いに来るであろうゴーストの群れはタカミチを筆頭とした『悠久の風』メンバーが担当。
山岳森林方面は麻帆良の魔法教師と魔法生徒が担当だ。
残る石動達『執行者』は遊撃となる。
近右衛門をはじめとした学園の面々は、本音を言えばアンゼロットの世界魔術協会、或いはロンギヌスの力を借りたい所だったのだが他の地域でも色々と事件が起こっており、どこも手が空いていないのが現実だ。

「ま、そこまで考えなくてもいーんじゃねぇの?オレがいて、お前がいて、それにあいつ等も居るんだ。コレで負けるって言うのはねぇだろ」

ナギがそう言って笑うが、詠春は難しい顔をしている。
彼は仲間と会うためにお忍びで立場的には敵地である麻帆良に来ているのだ。
ここで彼が動くとまたいらぬ諍いが産まれるだろう。
それに気づいた近右衛門が助け舟をだす。

「婿殿、婿殿には立場もある……ワシと共にここで待機して貰うがよろしいかの?」
「……えぇ、それが、最善でしょう」

決して本意では無いだろう。
叶うならば戦友と共に戦いたかった。
詠春の目はそれを物語っていた。

「ボクも成長したんです。詠春さんの分も別の戦場で戦いきって見せますよ」
「はは、君も言うようになったねタカミチ」

最近メキメキと才覚を表し始めたタカミチが言うと詠春はそう言いながらも頼もしいものを感じた。
詠春の呪術協会とは立場的にはやはりやや敵対よりなのだが、個人としてはやはり変えがたい戦友の一人であるのは言うまでもなかった。

「やれやれ、世代交代の時期、なのでしょうか?」
「かもしれんの。最近では型破りな若者も多いがそれだけに才気にあふれると聞くわい。期待したいものじゃ」
「ふふ、そうですね」

そして、願わくば自分達の様な煩わしさに捕らわれる事のない未来を作りたい、組織の長である二人はそう思いながら、久しく行われる事のなかった孫と娘婿夫婦と祖父の団欒へとゆっくりと移ろっていった。


そして場所は変わって石動の邸宅。
こちらにはいつもの石動家のメンバーが揃っていた。
『紅き翼』のほかの面々はどうやら祭りを楽しみに行ったらしい。

「ススムさま、お客様が一人お見えですがいかがいたしますか?」
「客?誰だろう……まぁいいや、会おう」



夜、祭は最高潮となり終わりに向かい最期の炎を燃やしていた。

「なんだろうな、イヤーな予感が止まらない」

石動は世界中の枝の上で祭りを見下ろしながらポツリとそう零す。

「フン、貴様でもそういう事を言うのだな」
「そりゃ、寧ろ俺だからこそだよ」

執行者組みの戦闘員は今回は石動とエヴァのみだ。
エクリアとマキはゴーストや混乱に乗じて乗り込んでくる輩を学園結界の魔力を流用して作る月匣で取り込む係りに回っている。本来であればロンギヌスであるエクリアや錬金術師のマキの戦力に頼りたい所だが、学園の結界だけでは防ぎ切れず被害者が出てしまうのだからこれは仕方のないことだ。

『こちら執行者のロンギヌス・フェミリンスです。これより月匣を展開します』

言葉と共に世界が赤に染まる。
赤い世界に紅い月。

「ふん、気に食わんな。この色、この世界。早く終わらせるぞ石動」
「言われずとも」

エヴァが魔法で飛翔し、石動もまた神器の力で飛翔する。

「さぁ、5年振りの全力だ!最強の悪の魔法使いの力、目に焼き付けるが良い!」
「執行者石動進、問答無用で行くぞ!」

夜の魔法使い達(ナイトウィザード)の時間が始まった。


麻帆良大橋。
月匣が展開される直前までは人通りの大きな場所であったが、月匣が展開されてから一般人は完全に弾かれ、そこにいるのは紅の翼の直接戦闘メンバーたちだった。

「……といっても、私とナギとラカン、それにガトウしかいないんですけどね」
「何言ってんだアル」

虚空に向かってなにやらつぶやくアルビレオに問いかけるナギ。
だがアルビレオは肩をすくめて言う。

「いえいえ、何でもありませんよ。それよりも来たみたいですよ、ナギ」
「おう。───なるほどな、確かに今までの相手と感じが違うな!」

そこにいるのは全てが亡者と妄念の集合体。それが銀の雨(シルバーレイン)により実体化したゴーストと言う存在だ。
その中でも特に強いと目される相手をナギ達が相手する事になったのだ。

「数だけ揃えちゃって。まぁ……」

言いながらナギは杖を槍の様に構え、魔力を通して魔力の刃を展開した。

「だが、数だけの相手じゃあな」

ラカンも言いながらどこからともなく巨大な剣を取り出して手に取る。

「その通りだが、油断は禁物だな」

ガトウは気を高めつつ居合い拳を何時でも発動できる状態にする。

「では、コチラの先制で始めてしまいましょう!この重力波をどこまで耐えれるのでしょうね?」

アルビレオは重力を波のようにゴーストに襲い掛からせ、それに捉われたゴーストたちは重力に束縛され行動不能となる。
だが、ダメージ自体は底まで重いものではないようだ。

「あ、テメェ抜け駆けすんなよ!魔法の射手・雷の66矢!」

ナギが続いて魔法の射手を散弾のように放ち、動きを止めたゴーストたちへの追撃を行う。
それによって前衛のゴーストの1割が銀の粒子になって消えた。

「へっ、ナギ!洩らし過ぎだぜ?!おらぁ!」

ラカンが突撃し、気を纏った大剣の一撃がゴースト数匹を纏めた圧殺して地面にクレーターを作り上げる。

「とはいえ、相手も矢張り弱いのばかりではないようだな。見ろ、ボス級が来るぞ!」

ガトウの警告と同時に戦場の向こうから異様に強い気配を振りまく者達が顕れる。
大型の武者鎧兜姿と西洋騎士姿のゴースト、大き過ぎる大蛇に乗った妖艶な美女、3階建てのビルぐらいはありそうな巨大な骨の化け物、女帝のごとき威風を放つ巨大な美女、イチゴのような頭を持つ小太りで不気味な化け物。

それらを確認した所で西洋騎士が巨大なランスを振り抜くと強烈な衝撃波となって一行に襲い掛かる。

「ハッ!上等!!」

ナギとラカンは正面からそれを防ぎ、ガトウとアルビレオは余裕のステップで回避する。

「俺を殺りたいなら500倍は持ってきやがれ!」

ナギの咆哮と同時に戦いは更に激しいものへとなっていく。
この光景を見る人物が居ればこういうだろう『妖怪VS人外の大決戦』とでも。


山岳森林方面においても戦闘は開始されていた。
麻帆良の魔法教師と魔法生徒が担当する区域であり、彼らにとっても戦いなれた場所である。
だが、相手にとっても山であり森である場所は自分たちのフィールドだった。

妖獣と呼ばれる異形の化け物たちの群れが自身への攻撃など気にせず突撃を繰り返していたからだ。

「戦線の維持を優先しろ!魔法の射手で弾幕を作るんだ!上位、中位の魔法が放てる者は相手の集団を狙うんだ!!」
「「「はい!!」」」

魔法教師1人につき魔法生徒3人のフォーマンセルを幾つも組み、言葉にした通り弾幕を絶やさず、時に爆撃のような魔法を放ち一進一退の戦闘を繰り広げていた。
中にはその弾幕すら潜り抜けるゴーストが居た。

「い……ぎぃやぁああああああああ!!!」

一撃で吹き飛ばされ、右半身がミンチにされてしまう。

「佐久間?!うぶぁ?!」

仲間の悲鳴に気をとられた魔法生徒が一人、二人と倒れていく。
彼らは能力者ではなく魔法使い。常識外の回復能力も生命力も持たない、魔法と言う異能だけを持つ人間。
英雄である『紅い翼』の面々であればまた違っただろうが、彼は普通から多少それた程度の人間だった。

故に、一撃を受けてしまえば、脆い。

「くっ、執行者に救援要請!」
「もうやってます!!」

魔法教師、魔法生徒は新たな異形に対し苦戦を強いられていた。



同時刻、麻帆良駅を中心とした『悠久の風』の面々も激戦を繰り広げていた。

こちらは麻帆良の魔法教師や魔法生徒以上に『世界』を知っている人間たちが多く、それゆえにためらい無く行動していた。
だが、戦力的には五分五分であり、負傷者は直ぐに下がって治療、復帰と言うルーチンを繰り返している。
更に結界が展開されても電車の往来と言う現象はコチラでも反映されており、それに伴い時間ごとに電車がゴーストを轢き潰していっていた。

「通常の物理攻撃は効果が薄いと聞いていたけど、あそこまで質量のあるものだとそうでもないみたいだね」

特に、時々通りがかる新幹線が一番強烈だろう。
容赦なく吹き飛ばしリビングデッドを五体ばらばらにして吹き飛ばしていたのだから。

「高畑さん!敵、大型が着ます!」
「───コレはナギさん向けだろう?!みんな、コイツはボクが相手する!絶対に近づくな!!」

大型と表現された敵は実に巨大な敵だった。
電車とムカデがサイコホラー張りに合成されればこうなる、と言うような姿だった。
フロントライトから広域に対し衝撃波染みた光線を放って怯ませ、更に轢き潰そうとする。
おまけに……。

「冗談だろう?!敵大型から敵増援が?!」

電車型ゴーストはゴーストの輸送機でもあったのだ。
電車型の中からゾロゾロとサラリーマンやOLのリビングデッドがあふれ出てくる。

「っ!!執行者組みに連絡をお願いします!」

タカミチは早々に札を切る判断を下した。


世界中広場前の上空にて待機していた石動とエヴァは、悠然と報告を聞いていた。

『ススムさま、エヴァンジェリンさま、山岳森林方面と駅前から救援要請!敵多数につき裁き切れないとの事です!』
『ススムくん、キミは駅前に!エヴァちゃんは山岳森林方面!』

エクリアとマキからの報告に軽く驚く石動。
まさかコレほど早く救援要請が来るとは、と言うものだ。

「驚いたな、こうもやられるとはなぁ」
「そうか、私としては予想の範疇内だ」

二人が言葉を交わし、行動に移ろうとした時、彼らの足元から石動を呼ぶ声がした。
そこにいたのは……何故か月匣に巻き込まれた四季神人だった。
石動はまたもや驚かされたが、気を取り直して彼の元へ向かう。

「なんでここにいるんだ、四季」
「お前こそ、コレはどういう事態なんだ?!四神達は何か知っているようだが教えてくれねーし、お前なら何か知っているだろう?!」

どうやら、神人は四神立ちにやや過保護気味に扱われて居るようだった。

「今、麻帆良学園をゴーストと総称される異形に襲われているんだ。麻帆良大橋は『紅い翼』の面々が抑えているから無事だろうけど、森と駅前の方面に敵の大群が来ていて捌ききれて居ない」
「おい、石動!そんな奴にかまっている時間は無いぞ!」

エヴァの言葉を多少留意しつつ、簡単に説明を続ける。

「敵の狙いは良質なプラーナを持つ麻帆良の住人。そして世界樹だ。悪いが四季はあんぜ──チッ!どけぇ!」

安全な所に逃げろ、と言おうとして神人を突き飛ばし、咄嗟に召喚した剣でそれを防いだ。

『ススムくん!広場内に反応が無数にっ!!そんな、地下からも来てるの?!』
「チッ、面倒な!エヴァ、行ってくれ!ココは俺一人でどうにかする!!」
「わかった、この程度の雑魚で負傷などするなよ?」
「ハッ、誰にものを言ってる!」

それを聞いてエヴァは飛翔して去っていく。

「四季と四神!ココから先お前らに構ってる暇は無い!駅か大橋、どっちかに行け!!」
「っ?!お前はどうするんだよ?!」
「こいつらを殲滅するに決まってるだろう!久しぶりの大群だ、暴れさせて貰う!!」

その言葉と共にブワッと魔力の波動が熱波となって神人に襲い掛かった。

「(神人、ここはアイツの言う通り下がったほうが良い。ここにいると───足手纏いにしかならん)」
「くそっ!!」

四神の一人、青龍である東哈(トウハ)に言われ、自身と石動の実力差、そして目の前の敵の強大さを否が応でも知らされる。

「絶対に負けるんじゃねーぞ、石動!」
「俺は、不死身だ!」

背を向け走る神人の背後で大爆発と幾つモノ雷が落ちる音が響き渡った。
神人は納得できなかった。
自分は前世と違い圧倒的な力を手に入れた。
転生して、スペックの高い肉体を手に入れ、四神と縁を持ち家族のようになり、そして圧倒的な力を得た上で努力もした。

なのに、この情け無さはなんだと。

それに、自分はこんな展開を知らない。
今はネギま原作の10年前の筈で、こんな事件が起きるだなんて聞いていない。
この世界は、本当に、なんなんだ?!


もしも神人が前世でシルバーレインというゲームを知っていればまた前提知識を得る事も出来ただろう。
だが、残念な事にTRPG及びPBWというジャンルは一般に対しては少々マイナーなジャンルだった。


だが、ココで一つ救いの糸があった。
四神たちである。
彼らは古くから存在し、そして神人と契約し彼と共にある存在だ。
故にゴーストたちの事も知識に残っていた。

「(神人よ、奴らは銀の雨が生み出した亡霊だ。思えば依然出会ったあの女の化生もそうであったのかもしれん。石動にはあの化生が人間に見えたようだが……それこそがその証拠じゃろう。銀の雨で生み出された化け物は適性の無い人間にはそれ以外の何かに見えるのだ。奴等は生きとし生けるものの生み出した思念や妄念によって生まれる存在だ)」
「って事は何か?!妖怪や幽霊だとでも言うのか?!」
「(若干違うが、大体そのようなものだ。奴等は強いチカラを持つ存在を糧として更に強くなる。そう、嘗てこの世界を滅ぼそうとした侵魔たち同様にだ)」
「侵魔?それって、ナイトウィザードの?」

シルバーレインに関しては知識が無かったモノの、ナイトウィザードに関しては僅かに知識があった。
そのあたりは規模とTVアニメ化、エロゲー等と言ったメディアでの広がり方の差による認知度の差だろう。

「(ナイトウィザード……夜闇の魔導師達か。彼らは能力者たちと同様に世界を守る存在だったか。だが、彼らだけでは足りぬのだ。あの亡霊を狩れるのは神人、お前の様な適性を持った人間たちだけなのだ……)」
「じゃあ、俺の力が普通の人間と違うのは」
「(能力者として、亡霊たちを狩る、その為のチカラなのだ)」

出来れば其れを知る事なく平穏な人生を歩んで欲しかった、と東哈を始め他の四神たちも言う。

「じゃあ、俺は逃げるわけには───」
「そこのキミ!危ない!!」

警告が聞こえた瞬間、神人は双刀の武器、青龍器・海覇を手に回避行動を取っていた。
直後にトラックが地面に叩きつけられたかの様な轟音と衝撃が神人の居た場所に発生していた。

「キミは?!」

神人の姿に驚愕するタカミチ。
神人はいつの間にか駅の、タカミチが戦っている場所の直ぐそばまで来ていたのだ。

『高畑さま、彼は異能者でありますが一般人寄りの人物です!』
「そんな、月匣に巻き込まれたのか?!」
『申し訳ありません。こちらの力が足りませんでした。なんとか凌いで下さい!』
「彼を庇いながら戦うほどボクにだって余裕は無いぞ?!」


エクリアの言葉に高畑は思わず噛み付く。
だが、その言葉で神人も吹っ切れた。
誰も彼もが超常のチカラを持っていて、こんな化け物と戦っている。
なのに自分は力が合っても足手纏い扱いしかされないと言うのは屈辱だった。

「くっそ、何時までも足手纏い扱いはごめんだ!!やって見せるぞ!四神拳士の四季神人、参る!」

雄々しく咆哮し刃を振りかざす。
一人の戦士の闘いの運命が始まった瞬間だった。


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*Result!*

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※ExtraUnit 四神拳士の四季神人(四神拳士×ゾンビハンター Lv10)が参戦しました!
 神人のコネクションに以下のコネクションが追加されました!
 ゴースト(狙われている)、石動(ライバル)

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[9874] 18:学園祭最終日=叩き潰してやるさ!
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:6a52139e
Date: 2010/10/20 22:55
 麻帆良大橋にて、『紅き翼』の戦闘は佳境に差し掛かっていた。
ナギとラカンが大型を含めたボス格のゴーストを二人で一挙に相手をし、ガトウは周囲の取り巻きゴーストを倒して回り、アルビレオがその討ち洩らしを重力魔法で圧殺していく。

「おぉぉお!」
「コチラにもいますか、しつこいですね」

アルビレオは戦況を見て段々不味い状況になってきたと言う事を悟り始めていた。
まず、ゴースト達が想定よりもタフで更に回復までこなす物が現れているのだ。
更に厄介なのがその回復が能力強化の効果まで持っている事だ。
単純に攻撃力が上がるのはまだ良い。だが、防御能力の上昇は厄介だ。
しかも、その対象が単体ではなく使用者を中心とした直径30メートルの範囲内に居るものに恩恵が出ているようで、ボスも雑魚も一纏めに回復と強化が行われてしまっている。
だがそれよりもボスたちの能力の高さが一番の想定外だろう。

「チッ、無駄にすばしっこい!!」
「ラカン!手ぇ抜いてんじゃねーぞ!」

ボス達から致命打を受ける事は無い様子だが、同時にボスゴーストの意外な俊敏性と頑健さにラカンが舌打ちし、ナギが叱咤する。
そして雷撃が幾つも飛び交い、強力な衝撃波が幾つも飛び出してゴーストたちを押し始める。

「まったく、普通じゃないですね。ナギもラカンも」
「まったくだ。……こうなってくると大分裂戦争の時を思い出すな」

ガトウの言葉に「あぁ」とアルビレオは思い出す。

「そういえば、『転生者』を名乗るバグキャラ達が居ましたっけ。殆ど詠春とナギとラカンが相手してたので忘れていましたが……なるほど、無駄に早かったり硬かったり火力が強かったりと言う意味では彼らや鬼神兵に通じるものがありますね」
「だな。で、あればヤれない相手ではない」
「えぇ、当然です」

二人も攻勢を強めようとした時、突如マキからの通信が二人に届く。

『ガトウさん!アル!他の方面が押されてるわ!ナギ兄ぃとラカンのペースを上げさせて!』
「どういうことです?執行者組みはどうなったんですか?」
『山岳森林方面は戦線崩壊気味!エヴァちゃんが援護に向かったけど、この状況だとどう転ぶか不明よ!ススムくんは世界樹広場に突如現れた侵魔を迎え撃ってるわ!』

そう、石動の元に現れたのは何故かゴーストではなくエミュレイター。
しかも意表を突く様に地下から現れたのだ。

「侵魔だと?!何故、このタイミングで!?」
『判らないわ、ススムくんはそこで足止めされてるから、駅の方に現れた大型ゴーストとゴーストの増援を今タカミチくんと悠久の風メンバーがススムくんの知り合いと一緒に抑えてるけど、ジリ貧よ!』

その声が聞こえていたナギはふぅっと息を吐き出す。

「ラカン!アル!ガトウ!こっからは全力全開で飛ばすぞ!余力残そうなんてセコイ事考えんじゃねぇぞ!」

一際大きな爆音と光が麻帆良大橋一帯で響き渡った。



所変わって山岳森林方面。
エヴァが現場に着いた時には既に戦線が崩れた状態だった。

「やれやれ、普段アレだけ息巻いて置いて情けないものだ」

エヴァは言いながら石動から吸血して得た魔力を惜しげなく開放する。

「全力には程遠いが、真祖の吸血鬼にして最強の悪の魔法使いの実力(チカラ)を見せてやろう」

何せ、こんなにも月が紅いのだから。

エヴァは宣言と共に普段、麻帆良の防衛で見せるよりも遥かに桁の違う畏怖を纏って宣言した。
魔法教師と魔法生徒はその姿に何故彼女が『闇の福音』そして『最強の悪の魔法使い』と呼ばれるのか理解した。
存在としての位階が余りにも自分達と違い過ぎるのだ。
エヴァがここまでの実力を発揮できる理由はただ一つ。
今回の襲撃に対して学園長がエヴァの封印を一時的に解除しているからだ。
更に月匣によって世界結界からの圧力まで解き放たれているのだ。
そういう状況を整えられれば真祖であり、数々の異名を以って畏怖を振りまいたエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルであればこの程度は。

「この程度であれば楽勝だな」

余裕をあらわにするエヴァ、だが森の奥から今まで気配すら感じさせなかったものが現れる。
如何にも悪の女幹部然とした格好をした見てて痛々しい女だった。

「ふむ。こちらにもやはり出てくるか、侵魔」
「私を下等な奴らと一緒くたにして貰うのはやめて貰おうか!私は裏界魔王の」

名乗りを挙げようとする裏界魔王に対し、エヴァは無言で魔法の射手で攻撃する。

「な!?人の名乗りぐらい」
「興味ない、早々に散れ。お前は見ていて痛々しい。語りたければせめてもう少しまともな格好をして出直せ」

凄く嫌そうに言う容赦なく言い捨てるエヴァ。
何しろ相手は食い込みのキツイビキニ姿でヒールの高いブーツ、その上ごてごてしたアクセサリや髑髏のショルダーアーマーとマントなど、本当に見ていて痛々しい。
これなら日曜の朝にやっている戦隊モノの女幹部の格好の方が幾分かマシと言う格好だ。

「なめるなよ吸血鬼!我が名はテ」
「氷爆(ニウィス・カースス)!」
「ひゃぁ?!口上の途中で攻撃するとはなんて奴!!」

やはり名乗る途中で攻撃するエヴァ。
魔王と真祖の吸血鬼の戦いが、やや一方的に展開されていた。
魔王ごとゴースト達も狙い、氷結させて粉砕していた。

『皆さん、今のうちに体勢を立て直してください。ゴースト達も向こうに気を取られています』
「はっ!救護班は怪我人を急いで下げろ!余力のあるものは弾幕展開!」
「「はい!」」

ただ一人の真祖によって形勢が変わった。コレを良しとするかどうかは麻帆良の魔法使い達の器量次第だろう。

「『闇の福音』……今は味方だけど」

『悪』として語り継がれた彼女をどこまで信頼して良いのか、若き魔法生徒にはまだ判断がつかなかった。
彼の名前は瀬流彦。
この後も長く麻帆良で活動を続ける人物の一人だった。
ただ、今だけは信じたかった。
『闇の福音』のその実力を。

「さぁ、私に何かを言いたければお前の力を見せてみろ!はぁははははー!」
「ひゃー?!たかだか吸血鬼の癖になんでこんなに強いのよー?!」

なんだか魔王がかわいそうな気もしたが、瀬流彦は怪我人に肩を貸してその場を後にした。



 駅を中心とした一帯には既にゴーストで溢れ返っていた。

「ち、適当に振るうだけでもぶった切れる状況だけど!!数が多過ぎやしないか?!」
「口を動かすよりも手と足を動かし続けろ!!」

最前線で電車型ゴーストから吐き出されるゴーストを切り飛ばし、殴り飛ばす神人とタカミチ。
二人は背中合わせに戦い、機会を探っていた。

「くそ、石動に会ってからコッチ碌な事がない!!」
「彼のせいにしても仕方ないだろう?!コイツらは今、ボクたちを完全に狙っているぞ!」

能力者として類まれな潜在能力を秘める神人と今英雄に一番近い若手のタカミチは、ゴースト達からすれば強力な敵であり、同時に上等過ぎる糧であった。
彼らを喰えば間違いなく強くなり、力を増すことができる。快楽を得られる。痛みを癒せる。
故に、ゴーストたちは他の魔法使いよりも優先して二人を狙った。

だが、それがゴーストたちの失敗でもある。

『こちらMSF所属。コードネーム・スネークだ。これより麻帆良学園長からの依頼で砲撃支援を行う!』

通信機越しに届いた声にタカミチは即座に先日、石動の家であった人物を思い浮かべ、神人はゲームに出てきた登場人物を思い浮かべて多少の混乱をしつつもゴーストを捌き続けた。

『あの電車型までの道を拓く!速攻でしとめて見せろ!』

その言葉が終わるかどうかと言うところで後方からロケット弾が2発、飛翔してきた。
それは丁度二人が電車型へと到るための最短経路と、そしてその電車型の本体に直撃していた。
強烈な爆風がゴースト達を吹き飛ばす。
倒す事は出来ないようだったが、道を拓くには十分なものだった。

「一気に行くぞ!」
「言われずとも!」

即座に咸卦法を発動するタカミチと駆け出す神人。

「おらぁ!龍尾旋風脚!」

龍が尾を振り乱すかの様な連続した旋風脚を浴びせ、サイズ差を物ともせずに蹴り上げていく神人。

「ハ!上を取ってしまえば怖くない!!豪殺・居合い拳!!」

電車型の屋根に乗った上で強烈な拳のラッシュを叩きつけるタカミチ。

『お二人とも、離れてください!魔法一斉射いきます!』

二人がひきつけている間に上位魔法を唱えていた魔法使い達の魔法が発動する。




『ススムさま、各所で行われている戦闘はそれぞれ持ち直しつつあります。また、『紅き翼』の方々の所に現れた強力なゴーストは既に消滅、掃討戦に移っています』
「おぉ、よく持ち直せたもんだな。っと、ショートテレポート!轟音の波動!!」

エミュレイターたちの群れの中心に瞬間移動し、強烈な衝撃波でなぎ倒す。

それぞれの戦場が戦線を持ち直し、或いは優勢に傾きつつある中、世界樹広場前のエミュレイターはまだまだ増援が次々と現れて底が見えなかった。

「エクリアさん、今回のコレ……なんか変じゃないか?」
『……どういうことでしょう?』
「ゴーストとエミュレイター、示し合わせたかの様に侵攻してくるのはオカシイって事」
『まさか、エミュレイター……それも上級の魔王の手によるものという事でしょうか?』
「そりゃ、わからないけどな……。或いは来訪者の類かもしれないな、ライトニングボルト!」

太くて短い矢(ボルト)と呼ぶには既にオカシイレベルの電撃の光の束が直線状のエミュレイターを感電死させる。
それが二発三発と放たれて射線上のエミュレイターが次々と倒れ付す。

「んじゃ、オーラスといこうか!」

光の盾を発動させ、粗末な指輪を指に嵌めて、指輪の魔力で飛翔した石動は終わりを宣言してエミュレイターを見下ろした。

「コレはマキさんとエクリアさんがネタをくれた魔法だ!『絢爛・魔法花火』……なんてな!」

その宣言と共に空中から放たれた様々な属性の魔力の塊を幾つも打ち出し、ある程度の地点まで行くとまるで花火の様に爆発する魔法だった。
基本はイルヴァで使われるボール系の範囲魔法だが、コレを術者を中心とした魔法ではなく、放った魔力の塊を中心とした魔法だ。
石動自身は今までの自分を中心としたボール系でも十分に使えていたので文句はなかったが、マキとエクリアに自身の使える魔法を説明した時「凄く面倒な魔法」呼ばわりされてしまったのだ。
そう言われると途端に見返したくなってしまった石動はついつい魔法の改良に乗り出した、と言うわけだ。

爆発の直撃から免れたエミュレイターは、爆発から更に飛び出してくる炎や雷、氷刃や波動の余波でぼろぼろにされていく。
今回は月匣が展開されているから麻帆良の施設に影響がないが、月匣が展開されていなければクレーターだらけであっただろう。

「……コレで終わりか?つまらないな。エクリアさん、他の戦場は?」
『他の戦場も戦闘終了した模様です。『紅き翼』の面々が最も早く戦闘を終わらせ、他二つの戦場の援護に向かい掃討完了です。……高畑様と共闘したあの少年、あの強さは意外でした。ですが今回はその意外さに助けられたと思います』

その言葉に神人を向かわせた張本人である石動も少し驚いた。
オリ主補正?などと冗談交じりで考えて、寧ろ熱血補正か等と少し笑いながら考える。

「被害は?」
『施設的には特に無し、ね。ただ魔法教師と魔法生徒、悠久の風のメンバーに重傷者多数。死者は居ないけど、後遺症が残りそうなほどの重傷よ』
「しょうがない、そっちの治療は俺も手伝うか。マキさんどこで合流すれば良い?」

エクリアに替わってマキが被害報告を行う。
麻帆良の魔法教師や魔法生徒も、実際は弱い訳ではないのだが勝手の違い過ぎる相手と戦うには少々力不足だったようだ。
寧ろ、あの攻勢を少数、或いは単独で凌ぎきれた者達が異常なのだ。
まさにバグキャラ、チートキャラ、と言うわけである。

『ススムくん、回復魔法も扱えるの?助かるわ。麻帆良大学病院の3号棟が魔法関係の病棟になってるからそこに向かって』
「了解っと。そういえば回復魔法の使い手っていないの?」
『ナギ兄ぃも使えるけど重傷は治せないし、アルさんだけだと手が足りなかったの。私の作り置きの薬も少し数が足りなかったのよね』

その言葉を聴いて、そういえば自分も薬だけなら無駄にいっぱい持ってたな、と思い出す石動。
後で学園長にうっぱらおうと思ったとか。

「んじゃ、そっちに向かうよ。テレポート!」

その言葉と共に石動は広場から去っていった。
石動が去っていった後の広場に、一人の男が現れる。
男は周囲を見渡し舌打ちする。

「くそ、今回の襲撃で麻帆良の戦力を一気に削り切るつもりだったが……まさかあの様な転生者が居るとはな」

転生者、その言葉を実在のモノとして認識しているのは様々な組織のトップやそして転生者自身である。

「まあ良い、今回の威力偵察で麻帆良の教師と生徒の実力、それに英雄たちの実力も把握できた。だが……殲滅されたのは少々よろしくないか」

男は石動が居た場所を睨んでつぶやく。

「これは借りにしておくぞ!英雄共、そして転生者たちよ!」

その言葉と共に、男も転移してその場を去った。





 麻帆良大学病院にて、今回の戦闘に参戦した魔法教師、魔法生徒、悠久の風のメンバー達の怪我は魔法を用いて完全回復されたが、それ以上に深い、戦闘によるトラウマは魔法でも治しきる事が出来なかった。

「とはいえ、死者が出なくて良かったわい」
「まったくですね。しかし、ここまでの事態に動けない立場という枷が、ここまでもどかしいとは……」

近右衛門の言葉に、詠春は剣士として戦えない自分の立場を悔いる。
近右衛門はまだまだ若さが余っている娘婿の苦悩する姿を成長の証としてみて好感を抱きつつも口を開く。

「ワシらが動くのは本当に最後の最後と言った時ぐらいじゃ。今回はナギ達がおったから出番は無かったが、彼らがおらん時は前に出て指揮を執らねばならん」
「……」
「じゃが、妙なものじゃ。麻帆良には学園結界がある。これはあらゆる外敵の侵入を防ぐ効果があるのじゃがなぁ……」
「まさか、獅子身中の虫が?」
「さぁの。だが婿殿。コチラでこれじゃ、そちらも気に掛けておく方が良いかも知れんぞ?」
「肝に銘じましょう」

二人の東西の長の会話が終わった所で、一人の男が案内されて二人の前に現れた。
今回のゴースト事件を予知した運命予報士、その一人であり代表の田中雄大だ。

「これで、ご理解はいただけましたか?」
「うむ……流石に最初は『運命予報』というものも少々信じがたかったが、こうまでなるとのう、婿殿?」
「そうですね。ゴースト、それに能力者でしたか?」
「えぇ、コチラに所属している石動君がの言っていたゴーストを滅ぼす対ゴースト兵器。詠唱兵器を扱える人間たち、ですね」

田中の言葉に二人がうなずく。

「能力者ならば数名ほど、知人が居ます。そして、私の娘もまたそうです」
「なんと!そうであったか……娘さんは?」

近右衛門の問いに少し考えてから田中は答える。

「娘は嘗て娘を救ってくれた別の能力者たちと共に、日本中を回ってゴースト退治と能力者との接触を計っています」
「彼女達は一般の人間を遥かに超える能力を以ってゴーストと戦っています」
「一つ良いだろうか?娘さん、それに娘さんの仲間たちの……年齢は?」
「彼らはまだ、年齢的には学生に過ぎません。私の娘に至ってはまだ小学生です……ですが戦えてしまうのです、彼等は、あの子は」

田中自身はあくまで身体能力は一般人に過ぎない。
そして彼の娘は両親を巻き込む事が出来ないと判断して幼いながらも仲間たちと旅暮らしをしているのだ。
彼が麻帆良に来たのは、運命予報のほかにももう一つ事情があった。
それは……。

「対ゴースト専門組織。能力者を育成するための組織ですね」
「確かに、この様な現実を見せられればソレが必要と言うのも納得じゃ。婿殿、コレはワシらにとっても意味がある、そうじゃな?」
「えぇ、田中さんには悪いですが我々の思惑にも付き合っていただきます」
「お二人の思惑、ですか?」

この時点で田中はまだ関東と関西の確執について理解していなかった。
ただ組織が二つある、程度の認識だ。
それに気づいて二人は苦笑する。

「なに、仲の悪い二つの組織が一つの目標の為に協力しましょう、そういう企みですよ」

詠春の言葉にそういうことか、と田中は納得した。

「お子さん、学校にも行けずに旅をして人助けをしておるんじゃろう?ワシとて教育者の端くれじゃ、そういう状況を良しと見れる性質ではないしのぅ」
「ならば、麻帆良と同じような学園を隠れ蓑とした組織が良いでしょうか?ただ魔法世界、メガロメセンブリアには内密で話を進めた方が良さそうではありますが」
「……そうじゃな。あくまで能力者の独立した組織として立ち上げた方が良いじゃろう。こちらもそちらも、しがらみが多いからの。個人的に出資者となるのが限度じゃな」

二人が話を進めていく。

「と、なると責任者ですが」
「それはもう決まっているようなものじゃろう?」

そう言って二人は田中を見た。

「私、ですか?」
「そうじゃ。お主は元々教師だったのじゃろ?ならば出世が早くなったと思えば良いだけじゃ」
「……ですね。無論、資金以外の援助も可能な限り配慮します。ご安心ください」

こうしてポンポンと話が進んでいく。
能力者を育成する教育機関の発足。
それは本来の姿とはまた異なるのだろうが、この世界でも同様に計画されていった。
後に銀誓館学園と呼ばれる学園の発足計画が。



「よ、お疲れ様二人とも!」

麻帆良大学病院の3号棟の屋上に二人の若者の姿があった。
タカミチと神人だ。
二人を見つけた石動は軽く声をかける。

「おまえ、今降って沸かなかったか?」
「……俺は虫か何かか?まぁテレポートしてきたのは確かだけど」

神人の言葉に少し頬をヒクつかせながら石動は応える。

「二人の活躍は聞いたぞ。タカミチは勿論、四季もやるじゃないか。つい一昨日まで命懸けの戦いを知らなかった人間とは思えない戦いぶりじゃないか」
「そ、そうなのかい?!」

凄く驚いた表情をするタカミチ。
それはそうだろう、実戦経験の薄い人間があの戦いぶりなのだから。

「俺は……四神達の協力が無けりゃ、とっくにやられていた」
「四神?」
「コイツに憑いてる4種の大精霊の類だな。詳細は知らんけど」
「ソレよりも石動、お前、本当によく無事だったな」
「アレで護衛までさせられたら流石にやばかったけど、殲滅なら楽勝だ。俺は最強……って訳でもないがそれなりに強いんだぜ?」

自慢気に言う石動。だが、あの状況を一人で乗り越えたのならば神人からしても石動の実力を疑うことは出来なかった。

「まぁススムなら幾ら雑魚が出たところで楽に勝てるだろうね。チートバグ級だし」
「なんだよソレ、酷くないか?……ごほん。さて、それよりもだ。四季神人。お前もついにこの世界の裏っかわに関わった訳だが……どうする?このまま関わるか?それとも見なかった振りをして日常を満喫するか?」

和やかな空気がまだ多少残ったままだが、それでも石動は無理やり真面目にならざるを得ない問いかけを行った。

「どちらを選ぼうと、誰も文句は言わないし言わせない。お前の人生にも関わる選択だ。直ぐに応えなくても良いからゆっくりと考えろよ。それと、一つ忠告だ。お前自身も奴らに狙われている、ソレを忘れるなよ」

石動はソレを告げて「んじゃ、俺は見回り行ってくるわ」と言って去っていった。

「ボクとしては君のように能力がある人間が仲間になってくれると非常に助かるが……まぁ悔いの無い選択をして欲しい。あの時あぁしていれば何て事が無い様に、な」

タカミチは先輩として彼に声を掛けつつ、自身も屋上から去っていった。

「悔いのない選択、か」

ただ一人残された神人はそう呟いて祭りの灯が消えた麻帆良を見る。

「選択肢なんて、最初から在って無い様な物じゃないか」

「こんな理不尽、叩き潰してやるさ!」



────────────────────────────────────────

*Result!*

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※ExtraUnit 田中雄大が『運命予報士』として活動しています!
 田中雄大のコネクションに以下の人物が追加されました!
 近衛近右衛門(大先輩・出資者)近衛詠春(友情・出資者)
 石動進(知人)アンゼロット(知人?)

※銀誓館学園の発足フラグが発生しました!
 
※四季神人に以下のコネクションが追加されました!
 タカミチ・T・高畑(先輩・戦友)
※タカミチ・T・高畑に以下のコネクションが追加されました!
 四季神人(後輩・戦友)
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おまけ

「ねぇエクリア。ススムくんって強いのは良いけど、ナギ兄ぃ達やエヴァちゃんと同じぐらい強いから正直、心配するまでも無いって言うか……気がついたら終わってるって感じだよね」
「ですが、それぐらいの実力が無ければあのエミュレイターの大群を殲滅できず、これからの任務にも支障が出ると思われます」
「そうよねぇ……そういえば、あのエミュレイターの発生源は特定できたの?」
「そうと思わしい地点はあったのですが……痕跡は消し飛ばされていたそうです」
「あれま、それじゃあ本格的に何者かの介入って訳かぁ」




[9874] Ending B:鮮血な結末
Name: なっつん◆b9bc6b18 ID:6a52139e
Date: 2010/10/23 21:39
 麻帆良学園が夏休みに入った頃、私はススムくんから一つの懐中時計を受け取った。

「ススムくん、これは?」
「うーん、俺にも実は良くわからないんだけど……とりあえずなんか凄いアーティファクト。俺の勘だと神器級なんだけどねー」

渡された懐中時計は不思議な力を感じるが、見た目は雰囲気の良い、普通の懐中時計だった。

「以前、エクリアさんととある依頼で助けた……って言うとちょいと微妙なんだけど、まぁ依頼で縁のあった人から貰ったんだ。ただ、俺だと幾ら調べてもどういったもんかわからないからマキさんにあげる」
「えー、なんかついでに調べてくれって意思が透けて見えるんだけどー」
「ハハハ、バレバレ?まぁ気が向いたらで良いから頼むよ」

冗談じみたセリフだけど、彼の事だから興味津々なのは間違いない。

「もう、しょうがないなー。気が向いた時に調べるって事で、良いわよね?」
「お、本当?!それじゃあそれで頼むよ!」
「ん、任せて。錬金術師としてもこういう凄そうなアーティファクトは興味あるもの」

そうして私はその懐中時計を調べ始めたのだけど、はっきり言うわ、コレ半月フルに調べても大した事がわからなかったわ。
機械的な部分は相当バラして一つ一つ丁重に解析したけどその結果わかったのは馬鹿げた事実だけ。
ナノサイズ、或いはそれ以下の精度でびっしりと魔法文字が刻まれているのは理解できたのだけど、内容が緻密かつ解読不能箇所多数、それ以前に量が膨大過ぎて全てを視る事がそもそも不可能に近い。
コレを作るのなら一般の錬金術師や魔術師なら100年近い年月は普通に必要なのじゃないだろうかと思わせる。
少なくとも、現代の錬金術師が作るとしたらそれぐらいの研鑽と製造時間、両方が必要。
この懐中時計は『時』に関わる何らかのアーティファクトである、だけど細かいことは不明。

そう結論付けて私は懐中時計をしまう事にした。
まぁ、私にくれるということだったので仕舞うと言っても愛用のローブのポケットに常に入れておくぐらいだけれど。


さて、それから暫くしない内に、なのだけど私の妊娠が発覚した。


いや、なんとなく生理が来てないなーと思ってついそのままにしてたのだけど、妊娠してたとは。
病院で調べたらなんと妊娠3ヶ月。
どうして気付かなかった、私。

でも、子供本当に大丈夫なのかな。
ススムくん、アレで不老不死だし、不老属性持ちとかないよね?
てか、それよりももっと重要な問題がある。
ススムくんへの報告?
あぁ、彼は間違いなく受け入れるからそこは気にしてないの。


それよりも問題は『エクリア』だ。


彼女の事は良い友達、ううん、親友だと最近では思っていた。
だけど、この半月で何故か挙動不審なのだ。

何せ、半月前のある日、大呆けして「あの、どなたでしょうか?」等とのたまって私と桜ちゃんのことを完全に忘れたのだから。
ススムくんが「おいおいエクリアさん朝だからってその呆け方キツイよ、疲れてるんだったら少し休んでて貰っても良いけど?」などと言って休ませて、その後部屋に戻ってから何時もの調子に戻ったけど……。


あの時の『知らない人物へ向ける目』はかなり本物だった。


ススムくんもその後少し気にして問いかけていたが、何でも無いと言っていた。
私と桜ちゃんも気にかけて病院を進めたが、彼女はそこまで気にする事じゃ無いと言って固辞した。
私達もそこまで気にするのも悪いと思ってそれ以上は言わない事にした。

だけど、ここ半月彼女を観察していて気付いたのだけど、どうにもエクリアが急にススムくんを意識し始めたかの様な表情を見せている。
今まであくまで仕事のパートナーという側面を見せていた彼女の替わり様に私とススムくんが驚いたのは言うまでも無い。
桜ちゃんは良くわかってなかったみたいだけど。

うーん、考え過ぎじゃなければ良いんだけど……。

胸の奥にしこりが出来た感じがあってか、なんとなくみんなへの妊娠報告が私には出来なかった。
リビングで一人、自分で入れた玉露を飲んでいると、ススムくんがやってきた。

「マキさん。面白い映画のビデオが手に入ったんだ。今晩一緒にドウ?」
「いいわね。今回はどんなの?」
「今回は──」

これは私たちなりの合図。
まー、いわゆる『夜のお誘い』って奴なのだけど。
本当に映画見る場合もあるから今一判り辛かったり、大抵面白い映画だから文句は無いんだけどね。


で、今日のお誘いは夜のお誘いでした。


ここ最近、私の方で懐中時計の解析にのめり込んでたからお互い半月お預けだったし、そのせいか物凄く燃え上がっちゃった。
他のヒトがどうか知らないけど、ススムくんすっごく上手だから本番前で私の方は結構キツキツ、さすが実年齢50歳以上。
ちょっと悔しい話だけど、間違いなく前の世界に女が居たわね、それも間違いなく私と同じくらい愛されてた女が。
でも、今は間違いなく私を見てる、私を愛してくれている。私はそう感じているし私も愛している、それで今幸せだから問題は無い。
結局のところ、私という女は彼に愛されている、という実感を得られれば多分許容できちゃうんだ。

でも、正直な話興味はあるのよね。

「で、ススムくん。前の世界ではどれだけ女の子を泣かせてきたのかなー?」
「なな?!何を突然言い出すかなこの人は?!」

滅茶苦茶焦ってるわね。本当、判りやすいなー。
でも、こういう風に焦ってくれてるのって私やエクリア、それに桜ちゃんと一緒に居る時ぐらいなのよね。
まぁ所謂身内認定された人間にしか見せない姿って言うか。

「ほらほら、怒らないから言ってごらんよ。私とおんなじぐらい愛した子、いたんじゃない?」
「あー……それは、そのですね?」

あーもう、往生際が悪い!バレバレなんだから早く言っちゃえばいいのに!

「言ってくれないと、当分『夜のお誘い』は断らせていただきます」
「っ!!……なんかとても言い辛いんだけどな、しょうがない」

彼はそう言って語り始めた。
以前も触りだけ聞いた事がある彼の冒険。
その詳細と、彼の傍にあり続けた女性の事を。
出合った頃は死んだ魚の目と鉄面皮、戦闘時は二重人格を思わせる豹変振りを披露し自分よりも勇敢に戦い、そして凹んで酒に逃げていた時期に体当たりで励まされて、気付けば相当惚れ込んでいた事に気付いたという事や、その女性との間に子供が居たという事。

「それで、その人やその人との子供はどうしたの?」
「アイツは……死んだよ、懐刀だったアイツの部下も同じ頃にな。寿命って言うとちょっとアレだけど、色々と無茶やらかしててね……普通の人間よりも短命になっちまったんだ。娘の方は15年前に家を飛び出したっきりだな。一応、俺の懐刀とも言える男を護衛につけたから最悪の事態だけはないと思うけどな。娘は、まー誰に似たんだか冒険好きで一つ所に閉じ篭るような事が出来ない奴で、気が付いたら海外に行きやがった。うちの資産の2割近くパチってな」

お陰で税金払い切れなくなりそうだったり経営が傾きかけたり大変だった、今と同じかそれ以上に馬車馬の如く働いたなぁととススムくんは笑いながら愚痴る。

「こっちに『日本』に帰ろうとした動機はアイツや娘に俺の故郷を見せてやりたかったからだったんだ。勿論、一番最初の頃は異世界に骨を埋めるんじゃなくて、日本に帰って、あの日常に帰りたいって気持ちがあったんだけどね。子供が生まれた頃にそう思う様になった。で、アイツが死んで、娘が飛び出した後はせめて俺はやり遂げたって言い切りたかった。……まー結果的にちょっと失敗だけど、そのお陰でマキさんと再会できて、今の関係になれたし、ね」

「むぅー、なんか聞いてると私が間女みたい?そ・れ・と・も!ススムくんが浮気性なのかしら?」
「あー……それはなんとも難しい。一応俺、バツイチって感じ?」

なんだか、他にもまだ隠してる事がありそうねぇ……。
まぁ良いわ。

「それじゃあススムくん。キミは今度私たちを連れてその世界に行く事!」
「えぇ?!ちょ、俺の世界移動魔法(ワールドゲイト)はまだ未完成だから安全性が……」
「そこはほら、アンゼロットにヒント貰ったり、自分で研究するしかないわよね?」
「う、ぐぅ……まぁいいや。俺だって未完成魔法ってのは気に食わなかったし、時間作って研究しておくよ」
「はい、けってー!それじゃあ、期待してるわね。パパ」
「あぁ任せ……ってパパって何さ?!」
「あぁうん、私どうも妊娠したみたいなの。今月で3ヶ月ちょいね」
「な、なんだってー!!」

そこからススムくんが慌てる事慌てる事。
いきなり病院の予約しようとしたり、詠春さんに電話して乳幼児の育児用品の相談をしようとしたりしたけど、全部未遂で止めたわ。
だって、こんな丑三つ時に電話されたら溜まったものじゃないでしょう?


それから数ヶ月後にススムくんは冬木市に向かった。
依頼で聖杯戦争を阻止する為に。
私はその間、この家で桜ちゃんと待機。
桜ちゃんの実家が絡む事だけど、置いて行って良いのかと彼に問うたけど、彼は置いていくと言った。
単純な話で、英霊達とマスター含めて14人前後。
それぞれがそれなり以上の使い手故に、自分も何回か死ぬかもしれないから下手に連れて行けない、との事だった。
無論、ススムくんにも現地の支援があるらしいので、そこは助かる話なのだけど。

そして、2週間後に彼は帰ってきた。
割りと無事っぽそうだけど大分凹んでいるようだ。
どうやら思うように行かない事があったみたい。
エクリアに問うがエウリアは機密ですので、と教えてくれなかった。

なんか、最近エクリアの当たりが辛いのは気のせいかしら?


そしてあれよあれよと言う間に時が過ぎ、訳が判らないままエクリアと私の間に溝ができ、そして私はススムくんの子供を出産した。
髪の毛は私譲りの赤だけど、目や口元とかはなんとなくススムくんに似てる。そんな感じの男の子だった。
ちなみに、ススムくん曰く「転生者っぽい雰囲気も無い普通の子供だ」とか。

私が言うのもなんだけど、それ、すっごく安心した。

だって幾ら自分の生んだ子とはいえ、中身が大人っていう存在が自分の胸をしゃぶりつくのよ?
これで中身が元中年のデブキモオタだったとか言う落ちがあってごらんなさいよ……すっごく気味悪いわ。
私も、転生者だから本当にこう言うのはアレなんだけど、普通の子供でよかったわ。

さて、そこから更に時間が飛ぶのだけど私は今、赤に染まる屋敷の中を子供を腕に抱いて逃げていた。
ただ逃げているわけじゃない、殺しに掛かっているアイツから逃げているのだ。
ススムくんが個人的な用事と言って東京に行っている間にこうなるとは正直思ってもいなかった。

「さあ、ここまでです。その子と一緒に一瞬で殺して差し上げます」
「エクリア、あんた自分が何してるかわかってるの!?」

そう、エクリアだ。

「あなたにはわからない。私とあの子達の居場所を横取りしたあなたには!!」
「な、何言ってるのよ!?あの子達って誰よ?!」

「バイオ・オーガン、グライディングランサーセットアップ」

私の問いに答えず、エクリアの腕が異形へと変貌する。
異形は脈打つ長大な槍の形となり、そして私と子供を狙いに定めた。

「っ!!本気、なのね」
「死になさい、イレギュラー!」

エクリアが怒りの形相をみせて背中からメイド服を破って何かを出現させ、ドンっという爆発音と共に恐るべき速度で私に迫る。
だけど、早いだけならっ!

「あたらないわ!」
「ちぃっ!アームドシェル展開!」

更にメイド服が破れてより戦闘に適した姿へと変貌していくエクリア。

「ハハ、読者サービスのつもりかしら?おっぱいまるみえよ」
「死になさい!」

二度目の突撃は先ほどよりも更に的確。
私は切り札その一を切ることにした。

「やっちゃいなさい!生きている縄!エクリアを縛り上げて!」
「!」

私のローブの裾から長い縄がエクリアへと向かって飛び掛る。

「バイオ・オーガン、アームブレイド!」

その言葉と共に、片腕が剣の姿に変貌し、縄を引き裂いた。

「うそっ?!ずるい!!」
「これでおわりです!」

しかし、それでもまだ私を殺すには届かない!

「私だって元々は紅き翼の一員よ!なめないで!」

気を用いる瞬動でバックステップ、更に発動させて外に逃れ、空中でもう一度発動させて庭に即座に逃れる。

「馬鹿なヒト、貴方は既に私の手の内です」
「っ?!」

その言葉と共にエクリアの背にあった魔力を噴出させて加速するロケットブースターが変形して翼のようになる。

「バイオ・オーガン、グラビトンランチャー」
「切り札その二!シュバルキューブ!」

私が三角錐のそれを投げると同時に瞬動で逃げる。
シュバルクーヘンは直後に空中で一気に煙を噴出し周囲を暗黒で包んだ。
まぁようするに煙幕ね。
この煙幕は私特性で魔力や熱、その他諸々の感知を遮る効果をつけてあるから僅かな時間は稼げるはずだ。

「はぁ、とりあえず行動不能にさせないと意味ないわよね」

私は一つの爆弾を取り出す。
改良型のメガフラムで爆煙と同時に強烈な睡眠ガスを撒き散らす、そんな爆弾だ。
攻撃力は最低まで落とし込んでいるから、エクリアが死ぬ事も無いだろう。

「それにしても、どうしてこうなったのかしら?」

呟いて、とにかくエクリアを眠らせようと行動しようとした時、強烈な風が巻き起こった。

「っ?!煙幕が!!」
「みつけました。そして、さようなら」

赤い月を背に、完全に異形の姿と化したエクリアが長大な砲身をコチラに向ける。
気付けば何時の間にか足元に捕縛結界まで展開されている。
詰みね、これは。

「こまったな、未練だらけだわ」

私は我が子を強く抱いて、その光景を見た。

「──ファイエル」

全てが黒に潰されていく中、私の思考は目の前の親友だった女に向けられていた。

「エクリア、あなたの事嫌いじゃなかったわ」

不思議と恨み言は漏れなかった。
























────────────────────────────────────────

 死んだと思っていたら気がついたら「徹●の部屋」っぽいところにたどり着いた。
ポルナレフネタはススムくんが使っていそうなので自重する。

「ようこそ、世界の守護者こと私アンゼロットと…」
「闇の福音ことエヴァンジェリンの懺悔コーナーへ……災難だったな、お前も」

何故かその部屋にはアンゼロットとエヴァちゃんが居た。
なんだか非常に気の毒そうに視られている。

「ごめん、状況が理解できないんだけど……私死んだのよね?」
「えぇ、お亡くなりになられました」
「エクリアの放った重力波砲でグシャッと潰れたな」

二人はすんなりと答えてくれた。

「じゃあ、ここは死後の世界?前世で生まれ変わる時もこんな所路経由した覚えないんだけどなぁ。それに私は良くある「テンプレの神様」とも出会ったことなかったし」

私の呟きにアンゼロットが反応した。

「何を言ってるか存じませんが、神様は居るじゃないですか、ここに」
「まー、コイツも曲がりなりにも神だから間違いじゃないが……私からすればトラブルの神様だな、貴様は」
「あらまぁ、恩人に対して酷い言い草。あの暗黒時代を言い残れたのが誰のお陰かまるで理解できていない様子ですね」
「恩人であっても、私を狙わせたのも貴様だろうが!」

二人が何か因縁があるのは理解したけど、もう少し私の疑問に答えて欲しい。

「とりあえず、ここどこ?」
「行ってみれば時間と空間の狭間、三途の川一歩手前のあやふやな所ですよマキさん」
「ゲームで言うなら『タイ●ー道場』とか『教えて知●●先生!』とかそんな感じだな」
「いや、それってこの世界じゃまず出てこない単語なんじゃ」
「まぁ、気にするな。色々と繋がっているからなココは」
「それにそもそも私達は私達であって私達ではない仮初の存在ですので」

混乱するけど、要はココ…

「反省部屋、見たいな所?」
「「その通り」」

その言葉の直後、アンゼロットが解説を始めた。

「まず、今回の事件の原因ですが、ぶっちゃけていえば不幸な偶然の積み重なりと悪意ある第三者からの介入でしょう」
「ちなみに、不幸な偶然というのはお前にも原因があり、そして大部分が石動のせいでもある」

何か色々原因があって私とススムくんにも責任があるのがわかったけど。

「えーっと、どういうこと?」
「まず、カイロスの時計を弄ったのがNGでしたね。しかも中途半端に知恵と技術がある貴女が弄ったのでカイロスの時計による影響がとある人物に発生しました」
「具体的にはエクリアだな」
「この世界は一度、時間逆行した世界だ。つまりEndingAの後カイロスの時計の影響で10年ほど時間が巻き戻ったというわけだ」

その言葉と同時にダイジェスト版のEndingAの世界の動画が流れる。

「全てが巻き戻しになった影響で全ての存在がやり直し状態に戻ったわけですが、一部の人間には前の世界での影響が残っているケースがありました」
「具体的にはEndingAの後の石動だな。アイツが行動を起こすようになったから10年後の危機は無くなる筈だったわけだ」

エヴァちゃんの言葉の後、場面が切り替わって私がススムくんに用意して貰った研究室で懐中時計を調べている場面だ。

「それで、影響が残っていたのが彼だけかと思っていたら、貴女が解析しようとした結果極僅かな範囲でカイロスの時計から特殊な波動が飛び出しました」
「特殊な波動?何にも気付けなかったけど、そんなのが?」
「時間に関わる何らかの波動だな。普通は気付こうと思っても気付けるものじゃない。で、それを直接浴びたのはお前と当時屋敷に居たエクリアだ。桜と石動は外出してたから影響を受けなかったようだな」
「そして、エクリアに前の世界での記憶が、今の世界の記憶の上に上書きされた」
「だから、エクリアが呆けて私と桜ちゃんのことを忘れた?」
「そういう事だ」

「ちなみに、あの後世界が続くとどうなったの?」

「「……」」

二人とも非常に気まずそうに目で会話していた。

「エクリアは死にます。より正確には塵も残さず消滅です」
「え」
「石動の手による魔法攻撃だな。一瞬で葬られて魂は冥府に落ちるようだ。石動は身内に対して結構甘いが、敵対すれば容赦など無い。ある意味妥当だが……」
「その後、石動さんは私や学園との契約を一方的に全て破棄。桜ちゃんを連れてイルヴァへと帰ってしまう、というのが世界が続いた場合ですね。貴女とお子さんの蘇生は遺体すらも残らぬほどエクリアに砲撃されたので蘇生も不可能だった様です」

そういって二人が立つ。
何故か私にも立つように促し、背中を向けろという。

「それでは、お約束を」
「あぁ……」

「「くたばれ、地獄で懺悔しろ!」」

「え、ちょ、えぇー?!」

振り返ると強烈な魔法を私に向かって放たれ、そして私の意識は今度は白に塗りつぶされて消えた。

────────────────────────────────────────

*Result!*

────────────────────────────────────────

※マキがEndingB(BADEND2:マキエンド)を達成しました。
※マキがA&Eの懺悔スタンプBを獲得しました。
※ルートフラグCが発生しました。
※マキは「エクリアはヤンデレでススムが好き」と言う事実を魂に刻みました。
※マキはEndingAのダイジェストを魂に刻みました。
※マキの持つカイロスの時計が効果を発動し、時を遡りました。

────────────────────────────────────────

目を覚ますとそこはススムくんの屋敷の研究室だった。

「んーっと、アレ?私何してたんだっけ?」

机の上を見ると懐中時計と工具がたくさん。
正に今から調べようと工具がぶちまけられた状態で、私はどうやらうたた寝してたようだ。

「これ、難しそうよねぇ……」

改めて懐中時計を見る。
みていると、異様にいやな予感がしてくる。

「……コレ、バラすのだけはやめておこうかしら。ススムくんも神器級っていってたし、下手に何かしてトンデモ事態になっても困るものね」

私はそう呟いてそれを懐にしまった。

「さて、それじゃあ新しいケーンの設計図でも考えてみようかなぁ♪」

私はそのまま懐中時計の解析の事を忘れていく。
二度と意識しないようにケーンの開発に没頭していく。
嫌な感覚から逃げようとするように。



[9874] 19:とある男の探求記~幼女を探して~
Name: なっつん◆59f82f50 ID:6a52139e
Date: 2010/12/11 01:06
1992年 4月24日

 時は戻り4月、とある男と女、そして女の子供がそこにいた。
女はどこか疲れきった様子であり、男もソレを察してはいたが問わずにじゃれ付く女の子供の相手をしていた。
そして男は気になっていたことを娘に問いかけた。

「なぁ、桜ちゃんはどうしたんだい?」
「桜は、もう、いないの」

子供特有の思考を停止した、困り果てた表情。
今にも泣きそうでもあり、困惑も悲しみも無理やり我慢しているかの表情。
何故、この子がそんな表情をするのかと男は理解できない。
判断する為の情報が足りない。

「……どういうことだ」

男は疑問を掲げる。
男はつい数日前因縁深い実家が消滅したと喜んでいたばかりだったのでその事実を知らない。
彼は仕事の出張で帰ってきたばかりでもあるのだ、大した情報を得ていなかったとしてもおかしくはない。


「桜は……死んだわ」
「……え」


男にとってその言葉は寝耳に水だった。

「な、なにがあったんだ?」
「桜は、間桐の家の養子になって、その日に間桐の家は大火事を起こして生存者無し……遺体も何もかもを燃やし尽くす業火で死体の確認は不可能。大火事は事故。それが公式の見解」

女の言葉に男はようやく理解が追いついた。

「そんな!?なんで桜ちゃんが間桐の家なんかに!!」
「あなたが!雁夜くんがそれをいうの!?桜は…桜は…!」

男の名前は間桐(まとう)雁夜(かりや)。
かつては間桐の次男であり間桐(マキリ)の後継者の有力候補。家を飛び出して間桐の魔術から逃げた存在であった。
そして、桜は彼の身代わり、間桐の魔術……否、間桐臓硯という怪老を生かすための贄として差し出されたのだ。
ソレを知るのは雁夜であり、僅かながらも間桐がどういうものかを知る女、桜の母親だった遠坂(とうさか)葵(あおい)は桜が最早全うに扱われないと悟っていた。
だが、まさか殺されるとは思っていなかったのだ。

「桜は殺されたの。犯人は間桐を葬りに来た世界魔術師協会の魔術師たちよ……」
「そん……な……」

桜はただ、巻き添えで殺された。
間桐という妖怪を殺す為の巻き添えで。
その事実に先ほどまで間桐が滅んだ事実に喜んでいた雁夜は一気に先程まで晴れやかな気持ちで居た自分を殺したくなった。

「旦那さんは……なんて?」
「何も……」
「何も?!」

 それは最早雁夜には認めがたい事実だった。
雁夜にとって葵は年上の幼馴染であり姉のような存在であり敬愛すべき人だった。
彼女の娘二人は自分にとって姪の様に可愛い存在だった。
雁夜にとって、彼女の夫時臣は理解しがたい存在であったが、それでも娘に対する愛は持ち合わせている、家族愛は持っている、そう思いたかったのだが……。
だが、同時にはっとする。
遠坂時臣は魔術師であり……自分はその道から背を向けた人間だ。
理解できるものではないのかもしれない。
それに、雁夜も葵の顔を見ればコレでも激情を堪えながら伝えていることぐらいは理解できた。
一番辛いのは彼女とその娘であり、自身は間接的には加害者なのだとも理解できた。
だが、間桐は既に滅んだ。
それだけは確実だ。

そして、雁夜には一つ引っかかっている事があった。

「……悪かった、葵さん。俺が何かを思った所で、今更、だよな……ゴメン。ただ、何かあったら力になりたい。そう思ってる。最低でも愚痴や恨み言ぐらいなら、引き受けられるから」
「……」
「葵さん、桜ちゃんは死んでいない可能性がある」
「……え?」
「現場にさ、子供の遺体もあったらしいんだけど……桜ちゃんぐらいの子供の遺体は見つからなかったんだ」
「それは、どういう……」
「ジジイが何かしてたんだと思う。ソレの被害者で断片的な遺骨から推測すると小学校中高学年ぐらいの子供らしいんだ。他にも色々な遺骨が出てきた。一応、警察は事件性が高い事とか色々あってまだ公表は避けてる。俺自身は8年も前に家を飛び出た事は向こうも把握してたから直ぐに開放された。多分、泳がせるって意味もあるんだと思うけど」

雁夜は背を向け歩き出し、ソレを確かめるために動き出した。

「それじゃ、俺行くよ……確かめたい事もあるし」

こうして彼は動き出した。
彼の目標はただ一つ「桜ちゃんの行方を探る」それだけだった。

それから彼は仕事の合間を縫って地道に調査を行った。
間桐の家が火事に見舞われた日、訪問者を見なかったか、何かおかしいことはなかったか、等だ。
ご近所の聞き込みに始まり、今まで頼った事の無かった興信所、探偵も頼った。
警察の方では間桐の家にあった骨の事件性は認めているが、少なくとも火事は事件ではなく事故であると認識していた為に、家事の犯人に関してはにべも無く扱われた。

そうして調査を続けていくと、彼の調査で不振な少年少女の姿が浮かび上がってきた。
事件直後の間桐の家のあった場所に行ったり、それ以前にも時折姿がその近辺で目撃されている。
それは間桐の家だけではなく遠坂の家の近辺でもだ。
更には円蔵山の辺りでも頻繁に見かけると言う。

「もしかしたら、この四人なら何か知っているかもしれない」

可能性だけで、何も知らないことも十分にありうる。
だが、雁夜には僅かな可能性でも小指一本掛かる程度の情報でも十分だと判断した。
例え違うにしてもソレはソレで情報なのだから。

モデルの様な若い男女と小学生ぐらいの元気な男の子と大人しい女の子。
見れば多分一目でわかる、らしい。


そしてそれは情報の通り確かに雁夜はそのグループを見つけることが出来た。

竹刀袋を持ったグラマラスで艶やかな黒髪を持つ美女とギターケースを持つ優男風の知的な美男、元気が有り余ってそうな男の子とどこかのお嬢様善とした格好をした大人しそうな女の子だった。
なるほど、この四人組を一目で判ると言うのは納得だ。
特に男女のペアが目立ち過ぎる。
対照的に子供たちはどこにでもいそう、と言ってはおかしいが普通に見える。

雁夜が彼らを追いかけて、先ずはどう話掛けようかと後を追いながら考えていると美女が立ち止まり、振り返った。

「───誰か、後をつけているな。こそこそせずに出てこい」

その言葉、その視線は雁夜に向けられていた。
強く、真っ直ぐな視線に貫かれ、一瞬呼吸を忘れる。
雁夜は嘗て、臓硯に睨まれた時の事を思い出す。
何時か浴びた、殺意の視線を。
彼女は間違いなく自分を殺せる、ソレも呆気なく、簡単に……雁夜はそれを理解して行動が軽率だったか、と考えてしまう。

「おや、彼は……」

男の方が雁夜を見て呟く。

「知ってんのか?」
「えぇ、確か間桐の……間桐雁夜さん……ですね」

その言葉に雁夜はあぁ、と思った。

「……なるほど、こっちのことは既に知られているのか」
「申し訳ありませんが、調べさせて頂きました」

雁夜の言葉に男が応対する。

「とりあえず立ち話は難ですし、喫茶店にでも行きませんか?」

これがFate対策会議の面々と間桐雁夜の出会いだった。

「さて、色々と聞きたい事もあるでしょう。そちらの質問に答える代わりに、コチラの質問に答えて貰いますが、よろしいですね?」
「構わない」
「それでは、先ずは……自己紹介からしましょうか」

そうしてお互いに名乗る。

「既に知っていると思うが、間桐雁夜……一応一般人だ。俺は、知人の娘の消息を追っている」

雁夜に続いて順に挨拶を始める。

「私は新庄(シンジョウ)歩(アユミ)。見ればわかるでしょうが剣を嗜んでいます。よろしく」
「ボクは鉄(クロガネ)光也(コウヤ)です。このグループの参謀とかそういうものだと思ってください」
「オレは陸堂(リクドウ)龍斗(リュウト)だ!よろしくな、ニーちゃん」
「初めまして新庄(シンジョウ)悠里(ユウリ)です。よろしくお願いします」

それぞれが名乗ったところで再び光也が話を進める。

「さて、貴方が我々の後を追っていたのは……我々の調査に起因してるんでしょうね」
「あ、あぁ。キミ達が何かを探ってウチと遠坂の家、そして円蔵山の周辺で見かけたと言う噂を聞いてね」

雁夜の言葉に歩が口を開く。

「私たちは『とある事』を探る為に間桐、遠坂、そして円蔵山を探っていた。だが、間桐さん……貴方が数年前に出奔していることは私達も知ってる。出奔して普通を得た貴方は我々にこれ以上関わらずに、この地を再び離れる事をお勧めします」
「どうしてそんな事をいうんだ?」
「……すみませんが、貴方には知る資格がありません。非日常から目を背けた貴方には」

 その言葉に、またかと言う思いが雁夜に過ぎった。
詰まりこの少年少女達も魔術師……そうでなかったとしてもソレを知りソレに準ずる存在なのだろう。

「そうそう、悪い事は言わないからせめて来年の春ぐらいまでは離れてた方が良いぜー。聖杯戦争で殺されかねないし」
「聖杯戦争……まさか!」
「龍斗!」
「あ…」

うっかり口を滑らせた龍斗、雁夜はその単語を知っていた。

「まさか、お前たちもあの爺と同じ事を考えているのか?!」
「冗談じゃない!あんな卑猥な妖怪一緒にしないでください!」

雁夜の言葉に光也が言い返す。
卑猥な、というのは臓硯が扱う芋虫の様な分身とも使い間とも取れるマキリの蟲の事だ。


「……失礼。とにかく、我々の目的は……マキリとも遠坂とも異なります。対角線上にあるといっても良い」
「対角線?」

そこから連想できる事ソレは、聖杯の入手の反対、それは聖杯の破棄……つまり手に入らないようにすると言う事だ。
だから間桐を、そして遠坂を調べていた、その確信を雁夜は得た。

「詰まり、君達は遠坂の邪魔をする、ということか?」
「……結果論的にはそうなりますね。彼自身は問題ではありませんが、現在は厄介なボディガードが付いてしまって本当、困ったものです」

厄介なボディガード、と言うのは英霊を召喚したと言うわけではない。
教会と密約を交わして代行者と縁を結んだ事を示して言っている。

このお陰で暴力的手段……英霊を召喚される前に暗殺してしまえ、というやや外道染みた手段が封じられたのだ。

「まぁ、ソレはさておいて……我々の目的は察していただけたと思いますが、如何ですか?」
「……そうだな、君達の考えが現実的かどうかはおいとくとして、何を考えているかは理解したよ」

雁夜の認識から言えば、この少年少女達がやろうとしている事は余りに無謀だ。
どこで聖杯戦争のことを知ったか、それは彼の理解の及ぶ所ではないが魔術師等と言う……あまつさえ過去に名を馳せた英霊という反則級人外のバケモノ相手にケンカを売るというのは核地雷の山の上で縄跳びしようとしているのと同じぐらいの危険さだ。

「だが、コチラが知りたいのは君達の目的でもなんでも無い、人の行方が知りたいだけだ」
「人の行方、ですか?」

問い返した光也に、雁夜はようやく一番口にしたかった言葉を口にした。

「遠坂桜の行方だ。知っていることはないか?」
「……残念ながら、彼女の事に関しては我々はさほど知っているわけではありませんが……それでも構いませんか?」
「構わない。頼む、教えてくれ!」

そう言って深々と頭を下げる雁夜を直ぐに光也と歩が頭を上げるようにいう。
光也に代わって歩が自分が見たものを口にする。

「彼女の事も、間桐が滅ぶ前までは一応コチラで確認はしていました。彼女が間桐の家に連れ込まれたと言うのを聞いて我々が動いた頃には既に家は燃え尽きた後でした。……だけど後日、時期的にはゴールデンウィークに京都にあるとある組織に助力を依頼しに行った際に1人の男性と複数の女性のグループを見かけた時、桜ちゃんに似た女の子がそのグループの中に居たんです」
「本当か?!様子は!?」
「落ち着いてください。……少なくとも悪い様に扱われている様子はありませんでした。仲が良さそうな雰囲気だったとは思います」
「仲が良さそう?」

怪訝そうに返す雁夜。歩もその気持ちはわからなくもない。
だが、見たままに雁夜に話すことにした。

「非常に懐いてる様に見えました。何も知らなければ、普通の兄妹にも見えたと思います」
「洗脳とか、そういうものの可能性は?」
「不明です。ですが、私が居た場所で、その様な不逞の輩がいたのならば間違いなく斬って捨てられる、敵対関係に移ってしまうことは間違いないでしょう」

 こう言っては難だが、現代の関西呪術協会や麻帆良の魔法協会は多少汚い手は使うものの洗脳の類は原則としては禁止している。
勿論、その技術自体は残っているし使用される事もあるがソレはあくまで魔法や呪術、その他を秘匿をする為に使用が許可されているだけであって少なくとも『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』を目指す魔法使い達や近衛詠春がトップに立つ呪術協会では、年端も行かない少女に洗脳をかけて連れ回す等、良しとされる事はないだろう、という事を組織や個人名に関してはぼかしながら歩は語った。
勿論、表向きにはではある。裏ではどうであるか等は知る由もない。

「……そうか。少なくとも桜ちゃんは無事。そう見て良いんだな?」
「少なくとも、ゴールデンウィークの時点ではそうでしょう」
「桜ちゃんを連れている連中と連絡をとることは出来ないのか?」
「それは非常に難しいと思います。私達は彼らの名前も知らない。それに強い伝手がある訳でもない。弱小の異能力者グループに過ぎないのです」
「……そう、か」

ようやく、僅かながらの情報を得たおんい、桜へと繋がる糸が切れかけている、そう雁夜は感じてつい気落ちしてしまう。


「ですが、貴方がマキリの直系である、というのは向こうの関心を引く事柄ではあるでしょう」
「え?」
「あ!わかった!詰まり、マキリの魔術師として向こうに出向くって事だな!どうなるかはわかんねーけど、向こうだって完全には無視出来ない筈だぜ。なんせ、マキリは聖杯戦争をおっぱじめた御三家の一つだしな!マスターになる優先権も持ってるかもしれないし!」

龍斗がそう言って指をぱっちんと鳴らす。
龍斗の言った事は歩みが言おうとした事を見事に言い当てていた。
そして光也が言葉を引き継ぐ。

「そう、最悪でもこちらの陣営に英霊とそのマスターを一人ずつ迎える可能性が出来る、と言うわけです。我々も、彼の組織も聖杯戦争を止める、或いはソコで生じる被害を最小限にし、聖杯戦争を二度と実行できないようにするのが目的です。もっとも、それを前面に出したところでマキリの評判が付きまとうと最悪のケースも予想されますが……その辺りは雁夜さん次第でしょう」
「……最悪のケースと言うのは、やっぱり」
「マキリは妖怪や何かと同じ扱いですからね、基本的に。……故にその場で切り捨てられる事もありうるでしょう」
「……わかった。それでも俺は葵さんや凛ちゃんの為だけじゃない。俺の為にも桜ちゃんを探したいんだ」

それは贖罪でもあった。
自身のマキリの魔術からの逃避が桜をこの様な目に合わせたという贖罪。
葵に、凛に、何より桜に対する贖罪。

「……わかりました。向こうの組織に連絡を取ってみます。ですが、期待はしないでください」
「あぁ」

その後、雁夜は彼らに自身の連絡先を伝えその場を後にした。

Side Isurugi

詠春からマキに連絡が来たのは丁度夕飯時だった。
マキが持つ幾つかの小さな宝石の着いたブレスレットが微妙に振動し、マキがそれを指で撫でると念話が通じる。
マキが着けているブレスレットは念話ブレスレットというまんまな名前であり、装着者同士での念話を距離に関係なく行える反則的な代物だ。
これにはブレスレット同士でのレイラインが結んであり、所有者が微量の魔力を流すだけでどこからでも念話が出来るのだ。
もっとも、月匣等の強力な結界などで阻害されるとアッサリと通話不能に陥ってしまう欠点がある。

『こんばんはー、詠春さんお久しぶりです。どうかしたんですか?コレで連絡をつけるだなんて』
『こんばんは、マキ。夕食時にすまないね。石動くんはいるかい?』

言われてマキは石動を見た。
石動は何してんだ?という目でご飯を食べながらマキを一瞬見て、今度はおかずに手を伸ばした。

『今目の前でご飯食べてますよ』
『じゃあ、後でも構わないから話がしたいと伝えてくれないか?』
『わかりましたー。このブレスレットで連絡ですか?それとも普通の電話で?』
『できればブレスレットでお願いしたいんだが』
『了解です。伝えておきますね』

食後、マキが石動に詠春からの伝言を伝えると石動はふむ、とうなずいて。

「念話はなんだか面倒。直接顔をあわせてくるわー」
「え、えぇ!?」
「『帰還』先にマキさんの家を登録しておいてよかった。旅費も馬鹿にならないし、これがあれば一瞬だしね」

ただ旅費をケチる為に転移魔法を使う。そこいらの魔法使いや魔術師が聞いたら噴飯しそうな内容である。
転移魔法はこの世界ではかなりの高難易度魔法・魔術として認識されているのだから。

「ススム様、お帰りは何時ごろになられますか?」
「んー、ちょっと判らんね」
「と、いうかそれなら私も一緒に行って良い?久しぶりに家に戻らないとナギ兄ぃとアリカさんだけってのは今更だけど不安なのよね、家の掃除的な意味で」

そう言って懸念と同道を表明するマキ。

「あ、お兄ちゃん。詠春さんちに行くんならこのちゃん達にも会えるよね?」
「ん?あぁ、まぁ会えるんじゃないか?」
「じゃあ、わたしもいきたーい」

と、マキに続く桜。

「エクリアさんはどうする?」
「私は……」

特に用事もなく、付いていく理由のないエクリア。
だが、なんとなく答えに詰まってしまう。
この辺りは以前に受けたカイロスの時計による影響で嘗てあった筈の、石動との未来の感情ですんなりと残ると言えなくなっているのだ。
マキはエクリアの感情の動きを察して背を押す事にした。

「エクリアも一緒に来ればいいじゃない。別に泊まる場所なら私んちがあるから迷惑をかけるのは向こうに着いて数時間程度よ」
「そうだな。みんな来るのにエクリアさんだけ置いてけぼりってのは俺もちょっと嫌だ。それに俺のパートナーだろ、一緒に来て貰う。はいけってー!」
「ススム様……わかりました。言い出したらススム様は曲げませんから折れるとします」

やや不服そうに言うが、若干嬉しそうなのは本人も自覚していない。
自覚できるはずもない、覚えのない感情に振り回されるなどという事はそう簡単に自覚できるものでもない。
特に、元より良いと思ってるものを更に良いと思う様なプラス方向での増幅は余計に判り辛いものだ。

「それじゃ、10分後にマキさんちで、その後関西呪術協会に向かうって詠春さんに連絡よろしく!」

その後、完全にくつろぎモードだった石動家の面々は外出着を身に纏い、石動と桜は服を着替え、マキは愛用のローブを纏い、エクリアは僅かな武装と仮面を用意し、そしてパっと京都に跳んだ。

そして、跳んだ先のマキの家のリビングでは……。

「あ、やっべ……庭にして置けばよかったな」
「……またこの場面なのね。何時もの事だけど」
「……お邪魔致しました。直ぐに立ち去りますのでどうぞお気になさらず」
「わー、これがアツアツの新婚カップルさんかぁ」

「「~~~!!」」

ナギとアリカが情熱的なキスをしていて、それを邪魔してしまったのだった。
それぞれがそれぞれの反応をして、二人を見て立ち去った。
その後、直ぐにタクシーで関西呪術協会に向かい詠春達と対面する事になる。

「念話ですむと思ったのですが、本当に来るとは思いませんでしたよ」
「悪いね、詠春さん。話は面と面をつき合わせてするの以外はあんま好きじゃないんだ」
「そうか……そういえば、ナギも似たような事を言ってたな」
「……変な所で似てるわね、ナギ兄ぃとススムくんは」

そう言って詠春とマキは苦笑する。

「ま、ススムくんはナギ兄ぃ程手間の掛かる人じゃないけどね。キチンと整理整頓するし」
「ナギは片付けとか苦手だったなぁ、そういえば」
「……二人とも、俺とナギの比較は良いから早く話し進めようぜ?」

そうして石動とマキとエクリアが応接室で詠春と話し合い、桜は木乃香と刹那の二人と会って遊ぶ事となった。

「さて、今回お話したかったのは他でもない冬木で行われる儀式の件です」
「あぁ、アレか……アレは実行段階での見極め、って風に以前取り決めたと思ったけど?」

現状では石動もアンゼロットから回されて抱えている案件も多く、また待った時間で都合がつくのが3ヵ月後、来年の年明け以降なのだ。

「えぇ、ソコに変更はないのですが地元で調査を行っている依頼者のグループから連絡がありまして、ね」
「現地のグループから?」
「……どうやら、マキリの直系と接触したようです」
「直系!?あの家は既に魔術師はいない筈じゃ」

思わず驚いて声を上げる石動。
さもありなんと詠春もうなずく。

「彼等からの報告では、マキリを出奔した後継者だそうです。彼は彼らの目的に同調して彼の魔術儀式『聖杯戦争』の情報提供を行い、儀式の開祖の直系故にもつ聖杯戦争の参加件所持者として参加者の側に立って協力する事が出来る、と言っているそうです」

詠春が伝えられた言葉を出来るだけ噛み砕いて石動に伝える。

「……信頼度は薄いな。そのマキリの直系の名前は?」
「間桐雁夜、8年前に家を出てその期間、魔術とは関係ない生活をしていたそうです」

石動はその名前から少しずつ思い出していく。
間桐雁夜、第四時聖杯戦争の英霊とマスターの組み合わせを。
セイバーが衛宮、アーチャーが遠坂、ランサーが時計塔のエリート、ライダーが時計塔の学生、キャスターが殺人鬼、アサシンが言峰、そして、バーサーカーが間桐雁夜。

間桐雁夜、桜……間桐桜、助けようとした、桜の母と知己、間桐を疎んで出奔。

「…………なるほど、状況は理解した」
「そうなのか、もしかして知っている人物か?」
「……書類に書いてあった程度は。とはいえ、彼に危険は無いと判断して放って置いたんだけど、まさかここで出張ってくるとはなぁ」

書類に書いてあった、というのは事実だ。
アンゼロットから仕事を回された際に、その時までに自らが作り上げた伝手を使って間桐の血縁者は一通り調べてあった。
それは麻帆良の魔法使い関係がメインとなるが、そこから伝手を更に広げていき、金銭にモノを言わせて強引に情報の伝手を作り上げたのだ。
現在は関東を始め、中部、関西に手を伸ばし、次に東北に情報収集の伝手を作ろうとしている。

「それで、向こうから要望が出ているんです」
「……もしかして、詠春さん、そっちがメインだったりしない?」
「まぁ、そうだな。向こうは間桐を滅ぼしてくれた世界魔術師協会の人間に礼を言いたいそうだ」
「……普通に考えると、罠だよなぁ」

石動はそう呟いて考える。
だが、相手は間桐の家系とはいえ一般人……の筈である。
少なくとも原作を基準に考えれば彼は聖杯戦争に関わらない限りは、桜を救おうとしなければ一般人として生きる可能性があった筈だ。
知己の娘の為に、自らを投げ捨てでも救おうとする姿勢……そこは石動にとって好感が高い。
今回の件も、なんだかんだと言って桜を探す手段なのかもしれない、と考え始めてもいた。
最終的に、罠なら力ずくで突破すればいいか、と脳筋染みた感想に至り、その路線で決定した。

「判りました、会いましょう。どちらにしても俺もエクリアさんも、それから詠春さんの所の人達も、一度は冬木の人たちと会わなければいけないでしょう?」
「……良いんだな?」
「勿論。相手の目的が何であれ、早いか遅いか、その差でしかないでしょ」

相手は既に向こうの人間に接触している。
『執行者』は近い未来で冬木に赴き聖杯戦争に関わらざるを得ない状況にある。
なら、後々面倒になりそうな出来事は早めにどうにかしてしまおう、というのが石動の考えだ。

「判った、向こうにはコチラから話を通しておこう。時期は何時にする?」
「こっちは何時でも。そちらに任せます」
「そうか……では此方から派遣する人間の都合も聞かねばならないから少し待ってくれ」
「それじゃあ、待たせてもらうよ」

そうして詠春が連絡を取り、その一時間後に冬木市魔法儀式対策会議が呪術協会の一室で翌日に行われることが決定した。



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*Result!*

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※間桐雁夜が『Fate攻略会議!』のメンバーと接触・合流を果たしました。
※間桐雁夜のコネクションが追加・修正されました。
 遠坂時臣(好きじゃない)→遠坂時臣(理解不能・嫌悪)
 遠坂葵(敬愛・気になる)→遠坂葵(敬愛・心配)
 遠坂凛(可愛い)→遠坂凛(可愛い・心配)
 遠坂桜(可愛い)→遠坂桜(可愛い・心配・探している)
 『Fate攻略会議!』(協力関係)
 『世界魔術師協会』(感謝・警戒)
 『関西呪術協会』(名前だけ知っている)
※間桐雁夜にフラグ『運命への挑戦権』が与えられました。
※雁夜は桜探索と仕事が両立しきれず、職場での評価がダウンし、冬のボーナスが減少する模様です!
 
※桜と木乃香の友情が少し深まりました。

※特殊イベント『お邪魔虫』が発生しました!
 ナギ&アリカと石動一家の間に今まで以上に『遠慮』という文字が消滅しました。
 
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