今年、生誕80年を迎えた芥川賞作家、開高健さん(1930~89)が少年期から青年期を過ごした大阪市東住吉区の旧宅で10日夜、「一夜限りのトリスバー」と銘打った偲(しの)ぶ会が開かれる。開高さんの初期作品の執筆場所だったこの建物が今月中旬に売却されるのを知ったまちづくりボランティアや地元住民らが計画。開高さんが愛したウイスキーなどを傾け、「若い頃の作家の息づかいの残る場所で語り合いたい」としている。【矢島弓枝】
開高さんは大阪市立大卒業後、寿屋(現・サントリーホールディングス)で宣伝部などに所属し、ウイスキー「トリス」PRのため「トリスを飲んで『人間』らしくやりたいナ」などのキャッチコピーを生み出した。
旧宅は木造2階建て。1930年代に建てられ、開高さんは7歳から約15年間、ここで暮らし、大学時代に2階の居室で長編「あかでみあ めらんこりあ」などを執筆した。現在は親族が所有しているが約2年前から空き家となり、今月中旬には売却されるという。
これを知ったまちづくりボランティアで開高さんの母校・旧制天王寺中学校(現・大阪府立天王寺高校)卒業生の松本恵実さん(47)=大阪市西成区=らが会を計画、親族も快諾した。地元住民や開高ファンら10~20人が集まる予定だ。「トリス」やビールを飲みながら「行動する作家」の在りし日を語り合う。
近くに住む吉村直樹さん(64)は「愛着を持ってきた建物。故人も喜んでいると思う」と話した。親族の女性は「今でも開高のことを大切にしてくれるのはうれしい」と話した。一般参加も可能。事前の申し込みが必要で、参加費3000円(飲食費込み)。問い合わせは松本さん(080・4020・1631)。
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■ことば
大阪市天王寺区生まれ。大阪市立大生の時代から小説の執筆を始め、1957年発表の「裸の王様」で芥川賞を受賞。著作に「日本三文オペラ」「ロビンソンの末裔(まつえい)」など。趣味の釣りをテーマにしたルポルタージュも多い。64年には新聞社の臨時特派員として戦時下のベトナムを訪れた後、「ベトナムに平和を! 市民・文化団体連合」(ベ平連)の呼びかけ人の一人にもなった。
毎日新聞 2010年12月7日 大阪夕刊