インド北部ダラムサラは、5千メートル近い山々をのぞむ標高1800メートル付近にある小さな町だ。1800年代には英国人の避暑地でもあったという。現在は、1959年に亡命したチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の住居があり、チベット亡命政府が拠点を置く。町には約8千人のチベット人が住み、うち約1200人は僧侶という。
チベット人は輪廻転生を信じ、生きものを大切にするせいかなのか、町ではウシやサル、イヌなど野良の動物と人間が調和を保って生活している。
昼間は集団で空き地で昼寝をしたり、のんびりと町中を歩きまわったりするイヌは、どこでご飯を食べさせてもらっているのか、みんな丸々と太り、吠えることもない。
インドでは神聖な動物で、食べられる心配はないウシは、これまた悩みのなさそうな気ままな日々を送っている。
角が短い、小柄な黒ウシのうち一頭は、どうやら頭をなでられるのが好きらしい。観光客に近づき頭を差し出せば、たいてい頭をなでてもらえる。観光客がなでるのに飽きてきたな、と感じるころ、ゆっくりと別の観光客のところに歩いていく。するとまたなでてもらえる。これを満足するまで繰り返しているようだった。
野良のウシはたいていオス。乳が取れるわけでもなく肉にもならないので、飼い主から放り出され野良になるのだという。
僧院に属する茶色の大型のウシは毎朝、ダライ・ラマ14世の住居と僧院の周囲の巡礼路の同じ場所に立つ。人が通ると、念仏にも似た、低い「ムー」と「モー」の中間の音を発する。
町中のカフェの近くで、子ザルをお腹にしがみつかせた10匹ほどのサルが次々と電線を渡っていた。たわむ電線から「あ、落ちた」と思ったら、はっしと電線を両手でつかんで渡る。それを眺めて大笑いする私たちを、地元の人たちが不思議そうに見ていた。
町の中心から40分ほど歩いたところにある「チベット子供村」には、幼稚園から高校まで約2千人が学んでいる。
寄宿生活を送る子たちの多くは、よりよい教育をと願う親たちにより大人に託されここに来た。飛行機で来たわけではない。主食のツァンパ(大麦粉の一種)を背負い、雪深い5千㍍級の山々を越えながら数週間歩いてたどりついた。チベットの子供以外は不可能ではないかと思える、信じ難い体力、忍耐力である。途中で死んだり、凍傷で手足を失う子も少なくなかったといういう。
今はもっと安全な別ルートを取る場合が多いが、それでも何日もかけて国境を越えるという。
子供たちは、親に会うことは滅多にないが、年の割には「大人」だ。
幼稚舎では、幼い子がさらに幼い子の靴をはかせ面倒をみている。ある宿舎の長の男の子は「けんかの仲裁をする時に殴られることが大変かな」
運動場には「自分よりもまず他人のことを」という言葉が掲げられている。
争いが続くアフガニスタンのカブールから来た安井浩美さんが「仏教徒の社会は穏やかねえ」とため息をついていた。(2010年12月6日 47NEWS編集部 舟越美夏)