日本中を揺るがした北朝鮮の韓国砲撃事件について、菅直人首相が「報道で知った」と発言するなど、情報が首相のところに適切に上がっているのか、多くの国民は不安に思っただろう。
官邸内の組織体制について先日、「チーム仙谷」という新聞記事が出ていた。官房長官秘書官が通常は5人程度のところ10人も抱えているというものだ。
首相秘書官は通常5人で、内訳は政務として首相側近、事務として財務、経産、外務の各省と警察庁からの出向者だ。それでは足りないので、小泉政権の時には、飯島勲秘書官が、厚労、総務省などから5人の「裏秘書官」を入れた。
安倍政権になると裏秘書官は10人。私は直接安倍晋三首相(当時)から官邸に来てくれと要請されたが、官邸内のポストはその裏秘書官だった。ただ、これらのスタッフはすべて首相の下にいた。
一方、官房長官の下には政治家2、官僚OB1の3人の副長官がいて、その下に財務、外務、警察出身の次官級ポストである副長官補がいる。副長官補の下には各省からの課長ポストがある。
官房長官は副長官補を使えば、霞が関との連絡は可能であるので、官邸内にスタッフは要らないはずだ。この意味で、チーム仙谷はかなり異例だ。
また、これだけのスタッフをそろえるのは、仙谷官房長官がかなり実権を持っている証拠だ。官僚は権力の存在に敏感であり、権力者も官僚から情報を取りたいので、仙谷官房長官の周りの状況は両者の意向が一致した結果だ。
実は、官僚の情報収集能力はあまり期待できない。国内ならいざ知らず、海外ではしばしばCNNなどの海外メディアに遅れる。国内でも官邸の情報調査部門は、マスコミから情報を得るなど自前の調査機関を持っていない。官邸から「話を聞かせてくれ」といわれて協力費をもらったことがあるマスコミの人も少なくないだろう。
危機管理室が官房長官の下にあることからも分かるように、これらの情報はすべて官房長官のところに集まる。具体的には官房長官秘書官のところに連絡がいくが、重大情報なら同時に首相秘書官へも連絡する。そして秘書官はそれぞれ直ちに官房長官、首相に伝える。夜中の場合には電話を使うし、日中は直接話す。話せないときには、メモを入れるという具合だ。
各省からの秘書官はそのような情報を出向元の省庁にも連絡する。各省庁にとって、出向秘書官による官邸発の情報はとても貴重だ。そのため、出向秘書官と出向元省庁にはホットラインがある。
出向秘書官は出向元省庁の意向から外れない範囲で秘書業務を行う。あくまで雇い主は親元の省庁であり、官邸の政治家ではない。政権末期になると、それらの秘書のやりたい放題になるだろう。
(嘉悦大教授、元内閣参事官・高橋洋一)