ここから本文エリア 差別と向き合い、アイヌ語で賛美歌 ジャズ歌手熊谷さん2010年9月1日
首都圏に暮らすアイヌの人たちを追った記録映画「TOKYOアイヌ」が完成した。5日から横浜市で試写会がある。映画の最後を飾るのは、同市在住のジャズ歌手、熊谷たみ子さんがアイヌ語で歌う賛美歌「アメイジング・グレイス」。50代を迎え、自身がアイヌ民族であることを活動の場で初めて宣言し、歌を通して生い立ちと病気に向き合っている。3日には赤坂でライブがある。 ♪カムイ レン カイネ ソンノ ピリカ フミ ネ(アメイジング・グレイス=すばらしき神の恵み とても美しい音だ)。 有名な歌い出しに、アイヌ語のカムイ(神)という言葉を入れた。 熊谷さんは北海道本別町生まれ。アイヌ民族は同化政策で言葉や文化が奪われ、差別や偏見が根強く残った。熊谷さんも小学生になると、いじめられた。中学卒業後、東京で就職したのは、東京ではアイヌ民族かどうか誰も気にしないと思ったからだ。 渋谷でスカウトされ、70年代に20歳で立木(たちき)マリの芸名で歌手としてデビュー。しかし公演で札幌市に来たとき、プロデューサーの言動から相手がアイヌ民族を意識していると気づいた。「日本ではまたつらい思いをする」と思い、米国に渡り1カ月過ごした。 米国では黒人音楽を源流の一つとするジャズの哀調にひかれた。黒人が差別された歴史がアイヌ民族の歩みと重なって思えた。帰国してジャズ歌手として再出発した。 首都圏でアイヌ民族の集まりにも参加するようになり、昨年末、求めに応じてカラオケで「アメイジング・グレイス」を歌った。歌声に感動した仲間から「アイヌ語で歌ったら?」と提案され、歌詞をアイヌ語に訳してもらった。これを知った「TOKYOアイヌ」の関係者が、映画に使いたいと申し出た。 映画は、首都圏で暮らし、アイヌ民族としての生き方を模索する人たちへのインタビューを軸に構成。6月に横浜市であったアイヌ民族のイベントで曲を初披露した熊谷さんの歌声が、最後を飾る。 アメイジング・グレイスは18世紀、米国で奴隷商人としての生き方を悔いて牧師になった英国人ジョン・ニュートンが作った。〈かつて迷えし者が今見出(みいだ)され、闇を出(い)でて光の中にいる〉という意味の歌詞を、熊谷さんはアイヌ語で〈カムイがいるおかげで今は先祖の生き方、アイヌの生き方が好きだ〉と歌う。 3年前に大腸がんが見つかり、昨年4月に余命1年と宣告された。「アイヌ民族として生きる自信を教わったこの曲に、私の命を吹き込みたい」と語る。 熊谷さんのライブは3日午後7時半から、赤坂のバードランド(03・3583・3456)で。映画の完成試写会は5〜12日、横浜市港北区のスペース・オルタ(045・472・6349)である。(木村英昭)
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