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きょうの社説 2010年12月10日
◎珠洲で電波利用実験 地域振興策でも先行したい
地上放送デジタル化の大きな目的は、アナログ放送終了で空く電波帯の有効活用である
。総務省は放送・通信サービスの多様化で、地域振興や新産業創出を図るとしているが、テレビの買い替えに関心が集中し、地デジ後の姿は来年7月に完全移行が迫る今も明確とは言い難い。全国に先駆け、今夏に全面移行した珠洲市で始まる電波利用実験は、それを探る一つのきっかけになる。実証実験では一足早く生じた電波の空白帯で、携帯電話向けの観光情報提供などに取り 組む。大きな可能性があるとはいえ、住民の多くは何が変わるのか、よく分からないのが実情だろう。北陸総合通信局は、電波の有効活用で地域がどのように活性化するのか、その道筋を分かりやすく示してほしい。珠洲市が地デジ対応で先行したからには、メリットも他地域に先駆けて取り込みたい。 地デジの完全移行後は、アナログ放送時に使用していた周波数が大幅に縮小し、空白域 をいかに活用するかが国家プロジェクトとしての成否のかぎを握る。災害時の移動通信システムや事故を防止する安全運転支援システムなどとともに期待されているのが、珠洲市で取り組む携帯電話サービス「エリアワンセグ」である。 これは微弱な電波でエリアを限定して情報を送る仕組みで、観光分野なら、旬の観光ス ポットや交通、土産物、イベント情報などをリアルタイムで配信し、施設や店舗などへ誘導する。北陸総合通信局は来年1月から、珠洲市の道の駅に電波発信装置を設け、奥能登地域の情報などを提供する。医療や福祉分野でも導入の可能性を探る。 全国では、野球場で試合やベンチの映像、打率、防御率など選手の成績、他球場の経過 などが受信できる実験も行われている。地域の特性、住民のニーズで電波活用の方法は異なってくるだろう。 電波による情報発信は、発信できる素材が多いほど可能性が広がっている。金沢なら商 店のタイムセールス、美術館や映画館、大学の情報など、にぎわい創出の武器にもなる。奥能登での実験の意義を県内全体で共有し、ITを駆使した取り組みを加速させたい。
◎法人税減税 税収中立の発想やめたら
法人税率の引き下げをめぐる論議で、財務省サイドから聞こえてくる「税収中立」の要
求は、あまり意味があるとは思えない。法人税減税は円高に苦しむ企業の国際競争力を強化し、海外移転を防ぐ狙いがあり、将来の税収増に期待する先行投資である。せっかく税率を下げても、欠損金の繰り越し制度の縮小や設備取得費を非課税にできる減価償却制度を見直すなどの実質的な増税策との抱き合わせでは、効果は薄い。単年度の税収中立にこだわらず、5%程度の実質減税をぜひ実現してほしい。エコカー補助金の廃止や家電エコポイントの半減で、景気の先行きは不透明感を増して いる。法人税率の引き下げは、経済活性化が期待できる数少ない施策であり、心理的な効果も無視できない。無い袖は振れぬと言って、政府の新成長戦略の柱となる法人税減税を骨抜きにされては困る。 ▽法人税を多少引き下げたとしても、設備投資や雇用はそれほど増えない▽法人税を納 めていない赤字企業には恩恵が及ばない、などの理由で法人税減税の効果を疑問視する声がある。日本経団連の企業調査で、法人税減税で生じる余力の使い道は「内部留保に回す」がトップとなり、次いで「借金返済」だったことが、こうした見方を後押しした。 しかし、経団連は同時に大胆な減税が進めば、10年後の民間設備投資を現在の6割増 、104兆円まで拡大できるとの試算を明らかにしている。閉塞状況にある日本の再生は、国際競争力のある企業をけん引役にして、強い経済をつくり直すほかに道はない。費用対効果に疑問のある高速道路の無料化社会実験や子ども手当の上積み分を削ってでも経済活性化のための財源を確保してもらいたい。 歯止めのかからぬデフレと円高で、企業は将来展望が開けない。国内では利益が出ない から、アジアなどの成長市場に打って出ようとしている。そうなれば国内産業は空洞化し、雇用はますます減る。雇用を確保していくためにも、主要国で最高水準にある法人税率を引き下げる必要がある。
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