きょうのコラム「時鐘」 2010年12月10日

 雷鳴と窓をたたくあられの音に起こされた。寝床から抜け出るのに、いささかの根性がいる。ユウウツな冬の目覚めである

イヤになるほど雪と付き合った信州の俳人・小林一茶の句を幾つか見つけた。「はつ雪が降るとや腹の虫が鳴る」「はつ雪をいまいましいと夕(ゆうべ)かな」。雪を待つ人もいるから、八つ当たりが過ぎるようだが、そんな気分が分からぬでもない。「はつ雪やそれは世にある人の事」。世の人は、初雪をもてはやす。が、そうでない暮らしもあるぞ。一茶の言う通りである

雷や雪で騒いでいる場合ではない。野々市町で身代金目当ての連れ去り事件が起きた。凶悪事件は、殺伐とした大都会だからこそ起きる。そうでない暮らしもあるぞ、と私たちは思い込んでいた

目撃者の素早い通報が、被害者の無事と容疑者の逮捕につながった。異変を見逃さぬ目と耳は、まだ地域に根付いている。心強いが、それで気が晴れるわけではない

雪はめったに列島の向こうまでは行かない。粗暴で卑劣な悪巧みは、やすやすと県境を越えてくる。いまいましいが、そう覚悟しなければならないのだろう。