探査機「あかつき」が予定の周回軌道に入れず失敗に終わった。金星の謎を探る野心的な探査に国民の多くが期待していただけに残念な結果だが、失敗の原因を究明し、次の機会に生かしてほしい。
「あかつき」は金星に接近後、周回軌道に入るためにエンジンを逆噴射させたが、その直後から通信が途絶えるなどトラブルに見舞われた。その後、回復することなく、八日には逆噴射の時間が短すぎて、金星を素通りしていたことがわかった。
ただ、「あかつき」は依然、太陽周回軌道にいて、六年後には金星に再接近する。金星周回軌道への投入を再び試みるチャンスがわずかだが残されている。宇宙航空研究開発機構は一縷(いちる)の望みをかけている。それまでにトラブルの原因を突き止め、機能を復旧させなければならない。全力で取り組んでもらいたい。
惑星周回軌道への探査機投入はわが国としては二回目だった。一九九八年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」は投入に失敗した。惑星ではないが、その後「かぐや」による月探査、「はやぶさ」による小惑星「イトカワ」の探査が相次いで成功し、探査技術の国際的な評価が高まっていた。
それだけに「あかつき」の成功も期待されたが、惑星探査には乗り越える必要のある技術的課題が多いことが示されたともいえる。
金星探査には宇宙開発大国の米国、旧ソ連も苦労した。旧ソ連が探査機を軟着陸させたのは十回以上の失敗の末の七〇年。米国が周回軌道への探査機投入に成功したのは四回目の七八年だ。
それだけ難しい金星探査にわが国も挑むのは、地球と兄弟星といわれながらなぜ金星が過酷な環境になったかを知ることが地球の未来を知ることにつながるからだ。
金星探査を続けるなら、その意義について政府は国民の理解を得る努力を惜しんではならない。
宇宙機構にはこの間、一般国民から「がんばれ」「成功を祈っている」などと「あかつき」の成功を願うメッセージが連日、届いた。文面からすると多くは子供たちからだ。こうしたメッセージは六月の「はやぶさ」の奇跡的な地球帰還の際から急増した。
従来の宇宙開発と違うのは、一部専門家に限らず子供たちを中心とした幅広い国民の間で自然発生的に応援団ができることだ。「はやぶさ」成功のように本来の科学が持つ魅力を示すことが子供たちの夢にこたえることになる。
この記事を印刷する