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まもなく正念場をむかえる政治の動きのひとつに地域主権改革がある。関連法案さえ成立させられない菅直人内閣のふがいなさに、首相が議長の地域主権戦略会議のメンバーからも「もは[記事全文]
金星は地球とほとんど同じ大きさで双子の惑星ともいわれる。これまで何度も米ソの探査機を阻んできた冷たいビーナスの顔も持つ。日本からの使者を待っていたのも、そんな冷たい女神だったようだ。[記事全文]
まもなく正念場をむかえる政治の動きのひとつに地域主権改革がある。
関連法案さえ成立させられない菅直人内閣のふがいなさに、首相が議長の地域主権戦略会議のメンバーからも「もはや改革は風前のともしびだ」という嘆きがもれている。そんななか、同会議は年内に二つの答えを出さなければならない。
ひとつは、ひも付き補助金を廃止して、一括交付金化する制度づくりだ。
これは民主党の目玉政策である。国と地方の省庁縦割りの上下関係を築いてきた補助金をやめて、自治体がもっと自由に使える交付金にするものだ。
だが、各省がその対象としたのは、3兆円を超す投資的な補助金の0.1%に満たなかった。それを地域主権戦略会議が「来年度は都道府県分で約5千億円、再来年度は市町村も含めて1兆円強」と押し返している。この規模拡大は前向きに評価する。
しかし、まだまだ懸念が残る。対象事業とその規模を国が決める点だ。各省のさじ加減で、ひも付き補助金のひもは切れず、縛りが緩くなるだけに終わりかねない。
できるだけ対象事業を広げ、自治体の自由度を増す。この原点を生かしつつ、金額も膨らませていく。そして、将来的には地方税などの自治体の自主財源に衣替えしていくような明確な制度設計を望む。
ふたつめは、国の出先機関改革の具体案づくりだ。これは自民党政権時代から続く課題である。
各省はいまも組織の現状維持を図っている。民主党が「原則廃止」を公約し、菅内閣が「ひとつの都道府県内でおおむね完結する事務・権限は当該都道府県に移管する」と決めたことなど、どこ吹く風だ。
民主党内の議論も解せない。自治体が強く求めるハローワークの移管を当初は容認しようとしながら、最後は国に残す方針に転換した。根っこには、まだ自治体には覚悟も能力も足りないという判断もあるのだろう。
だが、大阪府などが初の広域行政組織「関西広域連合」を設けて、産業振興分野などで国の受け皿づくりをすすめている。こうした権限移管を求める自治体には幅広く任せていくべきだ。それが原則廃止への第一歩になる。
私たちは3月の社説で、地域主権改革について「大風呂敷を歓迎する」と書いた。「民主主義そのものの改革」と位置づけ、中央集権型の「分配と依存の政治」から抜けだそうとする姿勢を応援する意味を込めていた。
菅首相は10月、各省の抵抗に対して「最後は人事権を発動することもあるいは必要になるかもしれない」とみえを切った。いま首相がなすべきは、この有言実行だ。大風呂敷をすごすごとたたむことでは、決してない。
金星は地球とほとんど同じ大きさで双子の惑星ともいわれる。これまで何度も米ソの探査機を阻んできた冷たいビーナスの顔も持つ。日本からの使者を待っていたのも、そんな冷たい女神だったようだ。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」が、金星を回る軌道に入るのに失敗した。
あかつきは、二酸化炭素による温室効果が暴走して灼熱(しゃくねつ)地獄になったこの惑星の素顔を探るのが目的だった。小惑星探査機「はやぶさ」は、壮絶な旅の末に小惑星イトカワの砂を持ち帰った。あかつきも、大きな期待を背負っていた。
何とも残念な結果である。
逆噴射して急ブレーキをかけ、金星の引力圏に入る計画だったが、噴射が途中で止まった。国産技術によるセラミック製のエンジン噴射口が壊れた可能性もあるというが、まずは、徹底的な原因究明が重要だ。
あかつきは金星を通り過ぎ、太陽の周りを約半年かけて回る軌道に乗っている。6年後に再び金星に近づく。そのときに再度、軌道投入を試みる。エンジンや機器の状態により、可能性は決して高くないかもしれないが、最大限の努力をしてほしい。
1998年に打ち上げた火星探査機「のぞみ」も、燃料系統や機器の故障が重なって、火星の軌道に入れなかった。惑星をめざした探査は、2回連続の黒星となった。
はやぶさが訪ねた小惑星イトカワは重力が小さく、何度も接近することができた。だが、金星のように重力が大きい惑星の引力圏に入るエンジン操作は、やり直しがきかない。一発勝負の難しさがある。
日本の惑星探査は歴史が浅い。未熟な面があることは否めない。今回の失敗をとことん研究して学び、今後に生かすことが大切だ。燃料が少なくなったのぞみを4年遅れで火星に到達させる飛行計画を作り直した経験が、はやぶさの3年遅れの帰還に役立った。良い前例である。
宇宙という未知の空間への挑戦は、長い目で支えていくことが大切だ。
最近、ヒ素を食べる細菌が米国で見つかった。生物学の常識を覆す発見だった。どこにどんな生命体がいるか、わからない。生命の存在を宇宙に探るのは惑星探査の大きな目的の一つだ。
惑星探査は巨額の費用を要する。各国が関心や技術力に応じて探査機を飛ばし、世界の研究者が参加する形が増えている。たとえば、金星は当面、日本と欧州が主役のはずだった。水星でも、日欧が1機ずつ飛ばす本格的な協力計画が進む。
国際的な責任を果たすためにも、問題を洗い出して信頼性を高め、次のはるかな旅路に飛び立ってほしい。