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「弁解は不自然」 タンク殺人判決

<裁判員 法廷から>懲役17年 動機特定せず

証言台に立ち、判決を聞く森田被告(地裁で)=イラスト・岡地浩

 米原市で昨年6月、長浜市今川町の会社員小川典子さん(当時28歳)が殺害された事件の裁判員裁判。2日、殺人罪に問われた会社員森田繁成被告(41)(米原市坂口)に、坪井祐子裁判長は「弁解は不自然で不合理」などとして、懲役17年(求刑・無期懲役)の実刑判決を言い渡した。その間、裁判員らは被告の顔をじっと見つめ、判決後の記者会見では「判決には納得している」などと話した。

 黒いスーツに青いネクタイ姿で出廷した森田被告は坪井裁判長に「被告人は証言台の前へ」と促され、裁判員らの前にゆっくりと立った。判決の主文を聞いた後、再びゆっくりと椅子に座り、終始、うつむきがちになって耳を傾けた。

■殺害態様

 被害者の腕などに殴打を防ごうとした際にできたとみられる傷が多数あったことなどから、被害者が失神するまで逃げようとしたと認定し、犯人には強い確定的殺意があったとした。しかし、汚泥タンクへ投げ込んだことについては、「被告が被害者の生死を認識していたかどうかは判然としない」と述べ、「殺意に基づく行為と認める証拠がなく、悪質な事後行為」とした。凶器については「丸金づちの可能性が高い」とした。

■被告車両の血

 被告の車のブレーキドラムにあった血痕について、「約1か月前、被害者の足の傷から付いたのではないか」とする弁護側の説明は「不自然で信用できない」と否定し、「後輪の近くで被害者が頭部を殴打され、血が飛び散ったとみるのが相当だ」とした。

■事件の夜の被告の行動

 被告はJR高月駅近くの神社で放置された車を見つけたと証言したが、「神社が犯行現場なら、近隣住民が気付くはず。弁護側の主張は抽象的で、可能性が著しく低い」と退けた。

■動機

 2人が互いの“浮気”を疑って責め合っている、という検察側の主張は「メールから明らか」と認め、2人の関係は不安定で、被告の感情が突発的に暴発する可能性はあった、と推認。しかし、検察側の「事件当日に被害者から激しい内容のメールが送られ、強い殺意を抱く状況にあった」とする主張は認めず、動機は特定しなかった。

■事件後の言動

 事件後に被告から被害者への連絡が激減したことなどに加え、知人に被害者との交際関係を否定したり、被害者のメールなどを削除したりした点を挙げ、「言動は不自然だ」とした。

■第三者の犯行の可能性

 現場に「性犯罪や窃盗の形跡がなく、(犯人の)強固な殺意が見てとれる」ことから、第三者による犯行の可能性は低いと判断し、被告以外に犯人がいるという弁護側の主張について「抽象的」と退けた。

■量刑理由

 判決で、交際相手によって殺害された被害者が、絶望感を深めたとし、「汚泥タンクに投下する行為は、被害者の尊厳を無視した非道な行為だ」と厳しく非難。公判における被告の言動についても「被害者の名誉を損なう発言を繰り返し、遺族の神経を逆なでする弁解に終始した」と述べた。

 一方、「凶器は小型で危険なものとは言えない」ことから、「犯行は突発的なもの」と認定。交際中に繰り返された激しいやり取りで、被告が「やり場のないいら立ちを募らせた」ことを考慮し、「身勝手極まりない、と言うにはためらわれ、家庭環境も考えると矯正困難とはいえない」として有期刑を選択した。

<識者談話>

 中川武隆・早稲田大法科大学院教授(刑事法)の話「長期日程や状況証拠での認定という負担の中でも裁判員裁判が運営できるという実績を作った。裁判員が理解しやすいよう証拠の整理が適切に行われたのだろう。一方、動機を不明とした点などから量刑が減らされたとみられ、検察側には不満が残る結果になった」

 土本武司・筑波大名誉教授(刑事訴訟法)の話「多くの事実が争われ、量刑にも幅がある裁判員裁判の難しさが集約されたケースだ。否認事件は増加傾向にあり、今後の裁判員制度のあり方を考えるためにも、判決で、有罪とした心証形成の過程や評議での議論について、守秘義務に反しない程度に触れても良かった」

2010年12月3日  読売新聞)
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