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米原タンク殺人公判 傍聴記 11日間 裁判員裁判の光景 滋賀
■被害者家族尋問で涙の裁判員/聞き取りやすい口調の検察官
米原市の汚水タンクで昨年、交際相手の会社員、小川典子さん=当時(28)=を窒息死させたとして殺人罪に問われた森田繁成被告(41)に対する大津地裁の裁判員裁判は、今月2日、懲役17年の判決を出し、日程を終えた。11日間の裁判は時間にすると約40時間。すべての公判で傍聴席に座り、取材した。涙を見せる裁判員や、聞き取りやすい口調で語る検察官、淡々と答える被告の姿があった。法廷を振り返った。(●田慎太郎)
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公判は先月4日に始まり、審理は裁判員裁判として最長の10日間。6人の裁判員は当初、男性4人、女性2人で始まったが、初公判後、理由は明らかにされていないが男性裁判員1人が解任され、新たに女性裁判員が入り、男女3人ずつとなった。スーツの人のほか、長袖Tシャツや丸首シャツなどカジュアルな服装が多かったが、毎回表情は真剣だった。
5日間にわたり行われた被告人質問で裁判員が行った被告への質問は単刀直入だった。
「なぜもっと取り調べの時に話さなかったのか」「小川さんに対してどう思うか」
普通の人たちが気になる内容。質問をした50代の会社員の男性が真っすぐ森田被告を見つめていたのが印象に残った。
裁判員の表情に最も動きがあったのは、被害者家族の証人尋問だ。被害者の母が、生前の小川さんの言動や事件後の遺族の苦しみなどを語ると、女性裁判員がハンカチで涙をぬぐった。遺族の姿は、傍聴席からはついたてで仕切られ、見ることはできなかったが、すすり泣く声が聞こえた。ついたてがなく、直接遺族と対面した裁判員は胸を打たれたのだろう。
これまで見た刑事裁判では、出廷した人たちの表情は淡々としており、感情の現れに少し驚いた。
一方、検察側と弁護側は、いかに裁判員に訴えかけるか苦心していたように見えた。検察側は、担当の検察官2人が公判に臨み、場面に応じて抑揚をつけ、はっきりとした口調で語った。同じ検察官はほかの刑事裁判でも見たことがあるが、今回の法廷での言葉ははるかに聞き取りやすかった。
弁護側は、男性2人、女性1人が裁判に臨み、証人尋問では、3人が交互に尋問。3人とも落ち着いた話しぶりで、証人に話しかけたが、裁判長が証人尋問を迅速にするよう求めると「肝心なことを聞いています」と声を荒らげる場面もあった。
一貫して無罪を主張した森田被告は、初公判から判決まで、黒のスーツ、紺のネクタイの同じ服装で通した。視線を下方に落とし、被害者家族の証人尋問でも、検察側の証拠調べでも、一切表情を変えることはなかったが、判決を不服として判決当日に大阪高裁に控訴した。
裁判員制度開始以来、最長審理となった今回の裁判。裁判員たちは、判決後の会見で「終わってみれば短かった」と一様に語ったが、その紅潮した表情が強く記憶に残っている。
●=さんずいにウかんむりに眉の目が貝