裁判員法の規定では、無罪主張の裁判員も量刑を判断する。有罪・無罪認定と量刑判断を抱えるから起こる制度上の問題だ。途中で良心的拒否・辞退ができるよう改善すべきだ。一方、今回のような職業裁判官でも難しい否認事件に市民が入っていくのは重要なことだ。無罪推定の原則に基づき、市民が「本当にこの人が犯人か、疑いを差し挟む余地はないか」を考えることに大きな意味がある。そのためにも裁判所は十分原則を説明したか、どう説明したかを公開すべきだ。
典型的な否認事件だが、裁判員が状況証拠だけで有罪を認定した意義は大きい。車に残された血痕や似た車の目撃情報など一つでも欠ければ無罪になった可能性もある。欧米のように否認事件が増えると、初めて裁判に参加する裁判員が事実認定をするのは大変難しい。捜査機関が自白依存から脱却し、今まで以上に客観的証拠の収集に努める必要がある。
毎日新聞 2010年12月3日 地方版