沖縄県の尖閣諸島近くの日本の海で、中国の漁船が海上保安庁の船に衝突した映像が、インターネットに流されました。
政府が秘密と決めたこの映像を流したと申し出たのは、兵庫県神戸市にある海上保安部の保安官。
15日、警察などは、この保安官を逮捕しないことを決めました。
なぜ、そうなったのでしょう?
事件が起きたのは9月7日。
尖閣諸島近くの日本の海で魚をとっていた中国の漁船に対し、海の警察・海上保安庁の船が、日本の海だから魚を捕るのをやめるよう警告しました。
しかし、漁船はそのまま逃げたので追いかけたところ、ぶつかってきたのです。
翌日、海上保安庁は中国人の船長を逮捕しました。
これに対して、中国政府は強く抗議してきました。
船長を裁判にかけるかどうかを決める沖縄地方検察庁は、「日本と中国の関係を考えると、これ以上、取り調べを続けることはよくない」として、9月25日、船長は中国に帰されたのです。
海上保安庁は事件をビデオで撮影していました。
船長を中国に帰した後、その映像を国民に公開、つまり広く見せるよう求める声が強くなりました。
なぜなら、政府は「裁判になれば、このビデオ映像が重要な証拠になるので公開できない」としていたからです。
でも、政府は結局、国民に公開することを認めませんでした。
海上保安庁は10月18日に、この映像を厳しく管理することを決めました。
ところが、11月4日になって突然、インターネットでビデオの映像が流れたのです。
警察などが調べたところ、映像は、兵庫県神戸市のインターネットカフェから流されたことがわかりました。
海上保安庁は、流されたのと同じビデオは沖縄県の石垣島にある海上保安部など限られたところにしかないと言ってきました。
それが1500キロ離れた神戸から流されたのです。
さらに捜査を進めていたところ、神戸の海上保安部に勤める43歳の保安官が「自分が映像を流した」と名乗り出たのです。
保安官は自分の乗っている船のパソコンからUSBメモリーという小さな記憶装置に入れて映像を持ち出しました。
そして、近くにあるインターネットカフェから、流したのです。
流すためのやり方はとても簡単です。
でも、そうやって流された映像は世界中に広まります。
そして、そのすべてを消してしまうことはできないのです。
警察や検察も秘密を漏らした罪に問えるかどうか捜査を進めていますが、15日、逮捕はしないことを決めました。
その理由は「証拠を隠したり逃げたりするおそれがない」というものでした。
もう一つ、映像は逮捕して調べるほどの秘密ではない、ということも理由だと見られています。
どういうことかというと、中国人の船長を帰した25日から、海上保安庁が管理を厳しくした10月18日までの間は、秘密かどうかがあいまいでした。
さらに、9月の中旬にも4〜5日間、映像を多くの保安官を見ることができたこともわかりました。
海上保安庁のミスだったということですが、管理がきちんとできていなかったので
す。
結果として、多くの保安官が見られたのだから、逮捕するほどの秘密ではなかったというのです。
保安官は「1人でも多くの人に、遠く離れた日本の海でおこっていることを知ってほしかった」と言っています。
そして、「自分がやったことは正しいと信じているけれど、映像を流したことは公務員として許されないことだったと反省している」とコメントしています。
これに対して、国民の中からは「見たかった映像をよく流してくれた」という意見がある一方で、「国のために働く公務員が、国の秘密を漏らすことは許されない」という意見もあります。
保安官は逮捕されなかったものの、裁判にかけられるかどうかは、これから決まります。
国民からいろいろな意見が寄せられる中、警察や検察がどう判断するかが注目されているのです。
【 2010/11/21 放送(内容は放送時点でのものです) 】